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  • 平成13年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第9 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

外国漁船被害対策特別基金造成事業を廃止し、滞留している国庫補助金に係る残余財産を国に返還するよう改善させたもの


(5) 外国漁船被害対策特別基金造成事業を廃止し、滞留している国庫補助金に係る残余財産を国に返還するよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)水産庁 (項)漁業調査取締費
部局等の名称 水産庁
補助の根拠 予算補助
補助事業者
(事業主体)
社団法人大日本水産会
補助事業 外国漁船被害対策特別基金造成事業
補助事業の概要 基金を造成し、我が国の沿岸海域において外国漁船による漁具被害を受けた漁業者に漁業経営に必要な資金を低利で貸し付ける融資機関に対して利子補給を行うもの
国庫補助金交付額 1億5436万余円 (昭和54年度)
国に返還させた国庫補助金に係る残余財産 2億8852万円 (平成14年度)

 

1 事業の概要

(外国漁船被害対策特別基金造成事業)

 水産庁では、我が国の沿岸海域において外国漁船による漁網切断などの漁具被害を受けた漁業者の漁業経営の安定を図ることを目的として、昭和54年に外国漁船被害対策特別基金造成事業実施要領(昭和54年54水振第2269号農林水産事務次官依命通達。以下「実施要領」という。)を制定し、これに基づき社団法人大日本水産会(以下「水産会」という。)に外国漁船被害対策特別基金造成事業(以下「基金事業」という。)を実施させている。
 基金事業は、被害漁業者に対して漁具の復旧、再取得その他漁業経営に必要な資金を低利で貸し付ける融資機関に対して利子補給の措置を講じるための外国漁船被害対策特別基金(以下「基金」という。)を造成し、その運用により生じた果実をもって利子補給を行うものである。

(基金の造成と利子補給等の内容)

 実施要領により、基金は、利子補給を行うために運用する基本財産と利子補給業務の運営のための資金(以下「運営資金」という。)から成り、国からの補助金、都道府県からの助成金、各種団体からの拠出金等によって55年3月31日までに造成することとされた。
 そして、利子補給の対象となる貸付けを受けることができる者は、拠出金を拠出した漁業者団体若しくはその構成団体に所属する漁業者又は助成金を拠出した都道府県の区域内に居住する漁業者となっている。また、その貸付額は被害を受けた漁具ごとに300万円又は漁具価額の80%のいずれか低い額を限度とし、貸付期間は3年(据置期間1年)で、利子補給額は貸付残高に水産庁が定める制度融資の年利率と同率の基準金利と年利率3%との差に相当する利率(利子補給率)を乗じた額となっている。

(基金の管理及び処分等)

 基金の基本財産の運用果実に剰余金が生じた場合は、利子補給準備金(以下「準備金」という。)として積み立てることとされている。
 また、水産会は、基金造成時の基本財産を処分してはならず、事業が終了した場合において残余財産があるときは、国は、国が補助した基本財産造成費の全部又は一部に相当する金額を国に納付させることとなっている。

(基金への拠出)

 水産庁では、基金に充てるため、54年度に水産会に対して、基本財産分として1億5000万円、運営資金分として436万余円、計1億5436万余円の国庫補助金を交付している。また、同年度に、北海道内の各漁業協同組合で構成する北海道外国漁船対策特別委員会(以下「北海道委員会」という。)から、基本財産分として1億2000万円、運営資金分として225万円、計1億2225万円の拠出が行われ、これにより基本財産計2億7000万円をもって基金事業が開始されている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 基金の造成当時と比べて、近年、我が国の沿岸における外国漁船の操業活動の状況は、我が国における海洋法に関する国際連合条約の発効(平成8年7月)、同条約を実効あるものとするための大韓民国(以下「韓国」という。)との新漁業協定の発効(11年1月)等によって、外国漁船が入漁できる海域が変更されるなど大きく変化してきている。また、景気の低迷等に伴い、市中の金利は著しい低金利となっている。このような状況の下で、基金事業がその目的に沿って実績を上げ、国庫補助金を交付して造成した基金が有効に活用されているかに着眼して検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、基金の設立当初こそ、設立前と同様、北海道沿岸において外国漁船により我が国の漁業者が漁具被害を受ける事態が多数発生していたことから、基金事業に係る貸付け及び融資機関への利子補給の実績が相当程度あったが、数年経過後は、その実績が大幅に減少して現在に至っている。
 特に、4年度から13年度までの最近の10年間は、貸付件数及び貸付金額が最高でも8年度の10件及び993万円、平均では4.6件及び347万余円にとどまっており、うち5年度から7年度までと13年度は貸付実績がない状況である。また、これに係る利子補給の実績については、低金利の影響を受け、利子補給率が4年度は4.4%であったものが漸次低下し13年度末には0.05%にまでなっており、利子補給額も最高でも4年度の33万余円、平均では11万余円で、直近の12、13両年度はそれぞれ約3万円、約2万円と極めて少ないものとなっている。そして、このように事業実績が非常に低調であることから、準備金が毎年増加し、14年3月時点では2億4498万余円に達しており、基金が有効に活用されず滞留する事態となっている。
 このような状況の中で、近年の韓国等との新漁業協定の発効に伴い、水産庁において協定国の漁船による漁具被害に対して拠出金の拠出や漁業者の範囲を問わない新たな利子助成制度を発足させたことなどから、基金の意義は更に著しく低くなった。そして、この状況を受けて、北海道委員会は、水産会に対して拠出金の返還を求め、水産会は、水産庁と協議の上、14年3月29日に同委員会に対して、拠出金1億2000万円と準備金2億4498万余円(全額を基本財産に繰入れ)のうち拠出割合によりあん分した額1億0888万余円、計2億2888万余円を返還した。
 これにより、基金事業の対象となる漁業者がいなくなる事態を受けて、水産庁は、同年2月に実施要領を改めて昭和55年3月31日までとされていた基金の造成期限を撤廃し、新たな拠出者を募ったものの、上記の事情から、他の漁業団体や都府県が基金事業に参加する見込みはない状況である。
 このような状況にもかかわらず、基金事業を従来どおり継続することとし、交付した国庫補助金等をそのまま水産会に留め置くことは適切でなく、基金事業の廃止を含めた抜本的な処置を講じる必要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、水産庁において、基金事業を取り巻く状況の変化を踏まえた事業の見直しの検討や、財政資金からなる基金を有効に活用することへの配慮が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、水産庁では、基金事業を終了することとし、平成14年9月に水産会から事業終了に伴う国庫補助金の返還申請を提出させ、同年10月に国庫補助金に係る残余財産計2億8852万余円(基本財産2億8610万余円、準備金3万余円及び運営資金238万余円)を水産会から国に返還させた。