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  • 平成13年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第2節 団体別の検査結果|
  • 第6 日本私立学校振興・共済事業団|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

私立大学において実施される共同研究等の実施体制を整備させることにより、研究成果がより一層社会へ還元されるよう改善させたもの


 私立大学において実施される共同研究等の実施体制を整備させることにより、研究成果がより一層社会へ還元されるよう改善させたもの

科目 (助成勘定) 補助金経理 (項)交付補助金
部局等の名称 日本私立学校振興・共済事業団
補助の根拠 私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)
事業主体 学校法人岩手医科大学ほか30学校法人
補助の対象 大学又は大学院研究科において、特定の研究課題に関しプロジェクト・チームを編成して行う産業界及び国内外の大学等との共同研究
平成10年度から12年度までの間に研究が終了した共同研究等に係る事業費の合計 45億1077万余円 (平成8年度〜12年度)
上記に対する国庫補助金相当額の合計 21億2172万円  

1 事業の概要

(私立大学等経常費補助金の概要)

 日本私立学校振興・共済事業団(以下「事業団」という。)では、私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)に基づき、国の補助金を財源として、私立大学等を設置する学校法人に私立大学等経常費補助金を交付している。この補助金は、私立大学等における専任教職員の給与等教育又は研究に要する経常的経費に充てるために交付されるものである。そして、補助の対象となる経常的経費は、私立大学等経常費補助金・政府開発援助私立大学等経常費補助金交付要綱(昭和52年文部大臣裁定)等において、専任教員等給与費、専任職員給与費、教育研究経常費等とされている。
 上記のうち教育研究経常費については、私立大学における学術の振興等のため特に必要があると認められるときは、特別補助として補助金を増額して交付することができることとされている。そして、私立大学等経常費補助金配分基準(平成10年事業団理事長裁定)において、特別補助の対象となる事項として、大学等において実施される共同研究及び研究科共同研究が定められている。

(特別補助の対象となる共同研究等)

 上記の基準では、特別補助の対象となる共同研究及び研究科共同研究について、次のように定めている。

ア 共同研究

 特定の研究課題について、大学等の自主性の下にプロジェクト・チームを編成して行う産業界及び国内外の大学等との共同研究並びに学内における共同研究(学部・学科間等にまたがるもの)で、次に掲げる要件(以下「交付要件」という。)をすべて満たすものを実施し、その所要経費が300万円以上となっている大学等を対象とする。
(ア) 共同研究に関する規程が整備されていること
(イ) 学内の委員会等の審査を経て大学等が決定する共同研究であること
(ウ) 研究成果を集録した紀要等を作成しなければならないこと

イ 研究科共同研究

 特定の研究課題について、大学院研究科(修士課程の大学院研究科を含む。)においてプロジェクト・チームを編成して行う産業界及び国内外の大学院等の教員等との共同研究で、その所要経費が300万円以上となっているものを対象とする。そして、共同研究と異なり交付要件は示されていない。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 近年、学術研究の一層の活性化等の視点から、国の研究開発全般を通じる評価の基本方針である「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成13年内閣総理大臣決定)等において、研究開発について適切な評価を実施すること、研究成果を積極的に社会へ還元することなどが要請されている。
 そして、研究成果は、研究に直接携わった者が自ら直接情報を発信したり、研究の実施基盤である大学が情報を発信したりすることなどにより、社会へ還元されるものである。
 そこで、特別補助の対象となっている共同研究等が実施された大学において、研究者の情報発信を促すなど、研究成果を社会へ還元するための仕組みが整備されているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 学校法人岩手医科大学ほか30学校法人(注) (31大学)において、平成10年度から12年度までの間に研究が終了した共同研究27大学535研究課題、研究科共同研究24大学156研究課題、計691研究課題(事業費45億1077万余円(国庫補助金相当額21億2172万余円))について検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、研究成果に係る情報は、研究者や大学がおおむね次のような方法により発信等することにより社会へ還元されるものと認められた。
〔1〕 研究成果の報告(研究期間終了後、研究者から大学に提出される研究成果の報告。以下「成果報告」という。)
〔2〕 紀要等への集録(研究成果を集録した紀要等の作成。以下「紀要集録」という。)
〔3〕 研究成果の発表(研究者による学会、学術誌等への研究論文の発表。以下「発表」という。)
〔4〕 研究成果の公開(大学が紀要等を国立国会図書館に納本することなど。以下「公開」という。)
〔5〕 研究の評価(学内外の有識者で構成する評価委員会等が行う研究の評価。以下「評価」という。)
 しかし、検査した大学においては、次のとおり、研究者や大学の情報発信等を促すことになる仕組みが十分に整備されていない状況にあると認められた。

(1) 規程の整備状況について

ア 共同研究については、前記のとおり、大学において共同研究に関する規程の整備が交付要件の一つとされていることから、検査した27大学すべてにおいて規程が整備されていた。しかし、その規定内容についてみると、前記〔1〕から〔5〕までの情報発信等の方法のうち、紀要集録及び発表についてはそれぞれ16大学(59.2%)、公開については24大学(88.8%)、評価については25大学(92.5%)の規程において定められていなかった。
イ 研究科共同研究については、規程の整備が交付要件とされていないこともあり、24大学のうち14大学(58.3%)において規程が整備されていなかった。また、規程を整備していた10大学の規定内容についてみると、紀要集録については5大学(50%)、公開については10大学(100%)、評価については9大学(90%)の規程において定められていなかった。
 以上のとおり、検査した大学においては、共同研究に関する規程において研究者や大学が研究成果に関する情報を社会に発信する方法に関する規定を定めていなかったり、研究科共同研究については規程を整備していなかったりしていた。

(2) 情報発信等の状況について

 前記〔1〕から〔5〕の区分により、研究成果を社会へ還元するための情報発信等の状況について検査したところ、次表のとおりとなっていた。

区分

情報発信等の方法
共同研究
(535研究課題)
研究科共同研究
(156研究課題)
研究課題数 実施率 研究課題数 実施率

〔1〕成果報告

504
%
94.2

105
%
67.3
〔2〕紀要集録 368 68.7 94 60.2
〔3〕発表 451 84.2 149 95.5
〔4〕公開 131 24.4 44 28.2
〔5〕評価 97 18.1 3 1.9

ア 共同研究について

 共同研究においては、前記のとおり紀要等を作成することが交付要件の一つとされているのに、167件の研究課題(31.2%)において紀要等が作成されていなかった。
 また、前記のとおりほとんどの大学において、共同研究に関する規程の中に公開、評価に関する規定が定められていないこともあり、これらの実施率は表のとおり極めて低く、大学において、研究成果を社会へ還元するという認識に欠けているものと認められた。
 なお、検査した535件の研究課題の中には、交付要件の一つとされている学内の委員会等における審査が実施されていないものが16件見受けられた。

イ 研究科共同研究について

(ア) 情報発信等の実施率について

 研究科共同研究においては、交付要件が示されていないことなどもあり、表のとおり、共同研究と比較して成果報告、紀要収録の実施率が低くなっていた。
 また、公開、評価についても、共同研究と同様に、実施率は極めて低く、大学において、研究成果を社会へ還元するという認識に欠けているものと認められた。

(イ) 交付要件の有無と情報発信等の実施について

 研究科共同研究においては、共同研究と同様の交付要件は示されていないが、「規程の整備」及び「学内委員会等による審査・採択」については研究者及び大学による情報発信等を促すのに有用と思料されたので、156件の研究課題について、大学における情報発信等の実施状況との関係を分析したところ、次のとおりとなっていた。

a 規程の整備と情報発信等

 図1のとおり、規程が整備されていない場合には成果報告、紀要収録の実施率が極めて低くなっていた。

図1

図1

b 学内委員会等による審査・採択と情報発信等

 図2のとおり、規程が整備されていないなどのため学内委員会等による審査・採択が行われていない場合には、成果報告、紀要収録及び公開の実施率が極めて低くなっていた。

図2

図2

 これらの分析結果によれば、研究科共同研究に関する規程の有無及び学内委員会等による審査・採択の有無は、研究科共同研究における研究者又は大学による情報発信等の実施率に差が生じる一因になっていると認められた。
 以上のとおり、特別補助の対象として実施される共同研究及び研究科共同研究については、研究者や大学に研究成果に係る情報発信等を促すことになる仕組みが十分に整備されていない状況にあり、研究成果を社会へ還元するための体制が整備されていないと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
(ア) 研究科共同研究について、研究者又は大学による情報発信を促すのに有用な交付要件を示していなかったこと
(イ) 共同研究及び研究科共同研究について、大学には公開、評価などを行い研究成果を社会へ還元するという認識が欠け、研究者又は大学による情報発信を促す仕組みが十分整備されていなかったのに、事業団において大学に対する適切な指導を行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、事業団では13年度までに採択された両研究について14年9月に、また、14年度からは両研究については国が直接私立大学に補助することから、文部科学省では14年度から採択される両研究について同年10月に、それぞれ各学校法人に対して通知を発し、次のような処置を講じた。
(ア) 研究科共同研究について、14年度以降、共同研究と同様の要件を交付要件とすることとした。
(イ) 大学に対し、両研究の実施体制を整備させるため共同研究に関する規程例を示すとともに、研究成果の社会への還元に努めるよう周知徹底した。

学校法人岩手医科大学ほか30学校法人 岩手医科大学、東北工業大学、香川栄養学園、共立薬科大学、杏林学園、芝浦工業大学、昭和大学、多摩美術大学、東京女子医科大学、東京農業大学、東京理科大学、東京薬科大学、明治大学、聖マリアンナ医科大学、愛知学院、栗本学園、藤田学園、名城大学、京都薬科大学、立命館、大阪電気通信大学、関西大学、関西医科大学、谷岡学園、関西学院、甲南学園、神戸薬科大学、久留米大学、中村産業学園、福岡大学、西南女学院