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  • 平成13年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況|
  • 第1 金融システムの安定化のための緊急対策等の実施状況について

本院の所見


4 本院の所見

 我が国の金融環境は、長期化する景気の低迷等の影響を受け、14年度においても、株価の下落等により、金融機関の財務状況の悪化が懸念される状況となっており、今後も金融システムの安定化のために、より一層の適切な対応が望まれるが、前項「3 検査の状況」に記述した13年度末までの金融システムの安定化のための緊急対策等の実施状況に対する所見は、以下のとおりである。

(1) 金融システムの安定化のための各種施策における公的資金の投入とその評価

 国は、金融システムに対するセーフティー・ネットが十分整備されていなかったときから13年度末までの間、多数の金融機関が破綻し、金融機能の内外の信頼が大きく低下するなどの事態に対して、各種法律を制定し、また、金融システムの抱える課題や、それまでの施策の実施に伴い判明した問題点等に応じて逐次法改正等を行いながら、日本銀行とともに34兆円を超える公的資金を投入して各種法律に基づく措置を講じてきた。

ア 資金援助の効果

 国は、金融機関の破綻に際し、資金援助を実施し破綻金融機関の営業を救済金融機関へ譲渡するなどしてきた。この結果、資金援助に係る公的資金投入額を大きく上回る預金等が保護され、また、破綻金融機関に係る多額の貸出しが維持されるなど、資金援助は金融仲介機能の維持に寄与してきた。

イ 資本増強等の効果

(ア) ジャパン・プレミアム及び金融機関の融資態度の状況について
 大型の金融機関の破綻が相次ぎ金融不安が生じていた9年、10年と現在の状況を比較すると、当時発生していたジャパン・プレミアムはほぼ解消した状況となっている。また、金融機関の融資態度の状況については、中小企業等に対する融資態度の傾向は依然として流動的な側面があるものの、12年までは回復傾向も見受けられた。このことから、資本増強等は、これらの問題の解決に一定の機能を果たしてきたと考えられる。
(イ) 資本増強等を受けた金融機関の財務状況、経営健全化計画の達成状況について
 7年当時、金融システムの抱える諸問題のひとつであった金融機関の不良債権問題については、5年以内のできる限り早期にその処理の目処をつけることとされていた。しかし、不良債権が新規に発生していることなどから、金融機関では、依然として多額の不良債権を抱え、その処理額等の負担がその財務状況に悪影響を与えている状況である。そして、資本増強等を受けた金融機関では、不良債権処理損失額の実績が経営健全化計画の計画値を大きく上回るなどしており、13年度においては、当期利益、剰余金の実績が計画値を達成できないものが多数見受けられた。中には、資本増強等を受けた金融機関のうち、国に対する優先株式が無配となり、国に議決権が発生したものもある状況となっている。
 国においては、預金保険機構等が一般金融機関から資産の買取りを行う期間を15年度末まで延長したり、買取価格を「時価」としたりなどして、金融機関が抱える不良債権問題の解決に向けた施策を実施しているところであるが、できるだけ早期に不良債権問題が解決されることが望まれる。そして、前記の国に対する優先株式が無配となった金融機関を始め当期利益等の実績が経営健全化計画の計画値より3割以上下回るなどした金融機関については、収益力の改善状況、剰余金の蓄積状況等を監視するとともに、これらの経営健全化計画の見直しを行う際には、不良債権処理損失額の計画値等、金融機関の財務内容に大きな影響を与える可能性のある項目について十分配慮していくことが肝要である。

(2) 各種施策を実施した預金保険機構の財務状況

 金融システムの安定化を図るため、預金保険機構は、各種法律に基づく業務を19兆円規模の借入金等により実施しており、資金援助等により多額の欠損金を出している状況である。
 こうした状況の中で、金融再生勘定は、13年度末の欠損金が7698億余円となっている。そして、一般金融機関からの資産の買取り等今後更に損失が発生する可能性のある業務が実施されている中で、損失に対する国からの補てんの規定はない。したがって、同勘定で経理している10年3月の資本注入により引き受けている株式等を市場に売却するなどして公的資金の回収を図る際には、国民負担の回避という観点から、適正な価格で処分するなどの措置が執られる必要がある。また、金融再生勘定では、買取資産処分の多様化、回収業務の迅速化等が求められる中で、一般金融機関からの資産の買取りが15年度末まで、瑕疵担保条項に基づく新銀行からの貸出関連資産の買戻しが15年まで引き続き実施されるなどしている。そこで、金融庁、預金保険機構等においては、不良債権や担保不動産の証券化、債務者の経営再建による回収等、回収方法を適切に選択することなどにより、回収益の極大化、回収費用の最小化を図っていく必要がある。
 また、整理回収機構の特定住専に係る譲受債権等の回収については、譲受債権等を承継してから既に5年以上が経過して近年回収額が減少し、同機構の13年度決算(住専勘定)は当期損失を計上している状況である。整理回収機構の譲受債権等の回収等の業務に対しては、制度上、二次損失の2分の1に相当する額が回収益を上回る場合に、預金保険機構の住専勘定を通じて追加の財政資金が投入できるようになっているが、譲受債権等の回収に当たっては、担保不動産等に関連する市場動向、経済状況の変動に伴う債務者の財務・経営状況等を的確に把握し、適時に回収方針を見直すなど今後も適切な回収業務を行う要がある。