検査対象 | 国の機関 | 総務省(平成13年1月5日以前は自治省) | |
都道府県 | 16道府県 | ||
市町村 | 365市町村 | ||
会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)総務本省 | (項)自治本省 |
交付金 | 情報通信技術講習推進特例交付金 |
交付金の概要 | 交付金により造成された基金を原資として地方公共団体が講習を実施することにより、情報通信技術の基礎技能をできる限り早期に住民に普及するもの |
交付年月 | 平成12年12月 |
交付金交付額 | 47都道府県 545億3200万円 | |
検査の対象とした16道府県への交付金交付額 | 220億4400万円 | |
上記の交付金交付額に係る13年度末までの運用益 | 5711万余円 | |
計 | 221億0111万余円 |
1 検査の背景
(1) 情報通信技術に関する施策の概要
我が国は、世界規模で生じている情報通信技術(以下「IT」という。)による産業・社会構造の変革(以下「IT革命」という。)に対し、国際的に競争力ある「IT立国」の形成を目指したIT関連施策を政策の重要な柱の一つとして位置付け、総合的に推進している。
IT関連施策を推進するため、平成12年7月、内閣に情報通信技術戦略本部が設置され、同本部では、同年11月に「IT基本戦略」を決定した。IT基本戦略においては、我が国のIT革命への取組の遅れを取り戻し、世界最先端のIT国家となることを目指すための施策を、当面の5年間に緊急かつ集中的に実行すること、国民の情報リテラシー(注1)
の向上を図るなどの人材育成の強化等4つの重点政策分野に集中的に取り組むことなどが掲げられている。
その後、内閣には、13年1月に高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年法律第144号)に基づき、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が設置された。同本部では、「IT基本戦略」に基づき「e−Japan戦略」を決定しており、13年3月、上記の重点政策分野に沿った施策を実施するための具体的な行動計画となるe−Japan重点計画を作成している。
一方、12年10月に閣議決定された「日本新生のための新発展政策」においては、日本新生プラン具体化等のための重点4分野が定められ、その第1として「IT革命の飛躍的推進のための施策」が掲げられている。同施策において、国は、IT普及国民運動の展開を通じたIT利用技能の向上策(以下「向上策」という。)等を講じることとされており、具体的には、IT基礎技能(パソコンの基本操作、文書の作成、インターネットの利用及び電子メールの送受信)のできる限り早期の普及を図る観点から、地域の実情に応じて、学校、公民館、その他民間施設等を利用して地方公共団体が開催するIT講習を、約550万人の住民が受講することができるよう特例的に国が支援するとされている。
内閣では、上記の向上策を緊急に実施することとし、自治省(13年1月6日以降は総務省)において、12年度補正予算に、IT基礎技能講習(以下「IT講習」という。)の事業(以下「IT講習事業」という。)を実施する地方公共団体に対する情報通信技術講習推進特例交付金(以下「特例交付金」という。)が計上された。
そして、「情報通信技術講習推進特例交付金交付要綱」(平成12年自治画第188号。以下「交付要綱」という。)に基づき、12年12月に総額545億3200万円が47都道府県に交付されている。
これにより、13年度末までに開設された講座は、287,864講座(開設予定262,911講座)、受講者数は4,670,223人(募集定員5,193,787人)となっている。
IT講習は、交付要綱によれば、前記のIT基礎技能を1回12時間程度で習得させる内容のものとされ、満20歳以上の者を対象とするものとされている。内容を基礎技能に限定しているのは、住民がIT講習を受ける機会を飛躍的に拡大させるという特例交付金交付の趣旨によるもので、できるだけ多くの住民に公平に受講機会を与えるために、原則として1人1回の受講とし、また、特定の企業・団体等を対象とするような募集方法を採るIT講習は認めない方針としている。
(2) 特例交付金の概要と仕組み
特例交付金の目的は、交付要綱によれば、地方公共団体が開催するIT講習をできるだけ多く実施することにより、IT基礎技能の住民へのできる限り早期の普及を図ることとされている。また、交付金を充てることができる事業として、都道府県が行うIT講習事業、市町村が行うIT講習に対し補助金を交付する事業及びこれらの事業を実施するために12年度中に設置する基金の造成事業(以下「基金造成事業」という。)の3事業が掲げられている。また、特例交付金を充てることができる経費は、IT講習を開催するのに必要な講師の謝金、旅費等の講習事業費とIT講習の実施準備のための講習事務費等とされている。
特例交付金は、国として緊急に行うこととした事業を対象とするものであることから、次のような仕組みが採られている。
ア 特例交付金の算定方法
国においては、IT講習の講師料、民間施設の利用料、回線使用料等について全国一律の単価を用いた上で、全国のIT講習が可能と思われる施設数とそれらの利用可能回数等から総講習事業費と総講習事務費等を積算し、その合計額を全国の交付総額としている。そして、都道府県の講習事業費は、国において積算した総講習事業費に、全国の小・中・高等学校数の合計に対する当該都道府県における学校数の割合等を乗じて算定している。
このようにして事業に要する経費(以下「事業費」という。)を算定しているのは、特例交付金により行うIT講習事業が補助事業者等からの発意によるものではないこと、国として緊急に実施することとしたため補助事業者等が必要な事業量を把握して事業費を積算し交付申請する余裕がないことなどによるものである。
そして、これらの事情から、基金造成事業を交付対象事業とし、造成された基金を原資にIT講習事業を実施するという仕組みが採られることとなる。
イ 事業の実施及び期間
基金を造成し、これを原資にIT講習事業を実施するという仕組みは、主に事業の緊急性から設けられたもので、このことから事業主体となる都道府県及び市町村の実情に応じて実施ができるよう、事業量や講師の資格等の条件はあらかじめ定められていない。
そして、造成した基金は13年度末までに清算し、基金の残額は国に納付することとされている。このことから、IT講習事業は12年12月の特例交付金の交付から13年度末までの15箇月間という限られた期間に適切に実施され、当初の目的を達成することが要請されている。
2 検査の着眼点及び対象
上記のように、特例交付金によるIT講習事業は、世界規模で生じているIT革命に対応するため緊急かつ集中的に行われる国の重要施策として実施されている。国は、IT講習事業を含め、多くの省庁にわたる広範囲な施策を講じているが、5年以内に世界最先端のIT国家を目指すという目標は極めて高いものである一方、IT革命へ取り組むための環境は刻々と変化している状況にある。我が国におけるインターネットの普及率は、12年の21.4%から13年には37.1%へと15ポイント以上の上昇(注2)
をみせているものの、世界各国の状況と比較した場合には、12年の13位から13年には14位に後退する結果となっている。
このような状況において、国は今後も引き続きIT革命に対応するための広範囲な施策を講じることが求められており、施策の推進に要する事業費も多額に上ることが予想されることから、国民の関心も非常に高いものとなっている。
そこで、本院では、前記のように、緊急に行うとして、基金を造成し、事業主体の地域の実情に応じて事業を実施できることとする一方、13年度末までの15箇月間という限られた期間に適切に実施するという仕組みが特例交付金において採られているという趣旨にかんがみ、次のような点に着眼して検査した。
(ア) 講習事業費の状況について、全国一律の単価によって総事業費が積算されていることから、実際の講座の開設に当たってはどの程度の講習事業費を要しているか。
(イ) 事業の実施状況について、準備期間が比較的短期間であったことから、〔1〕13年度末までという限られた事業期間でどの程度の事業の進ちょく状況となっているか、〔2〕地域におけるIT講習の需要等の地域の実情に配意した事業実施となっているか、〔3〕事業が効率的な実施となっているか。
(ウ) 特例交付金により造成された基金の使用状況はどのようになっているか。
北海道ほか15府県(注3) において、国が12年度に交付した特例交付金220億4400万円、造成された基金の運用益5711万余円、計221億0111万余円の使用状況等について検査した。また、16道府県のうちIT講習事業を実施していない北海道を除く15府県並びに16道府県管内の365市町村(以下「380事業主体」という。)において、特例交付金により造成された基金を原資として実施されたIT講習事業の実施状況について検査した。
(注2) | 平成12年は「通信に関する現状報告」(郵政省)、13年は「情報通信に関する現状報告」(総務省)による。 |
(注3) | 北海道ほか15府県 北海道、大阪府、秋田、栃木、埼玉、富山、長野、岐阜、静岡、愛知、兵庫、和歌山、岡山、香川、佐賀、熊本各県 |
3 検査の状況
(1) 講習事業費の状況について
ア IT講習の実施形態
交付要綱では、事業実施の目安とするため、講習会場を当該地方公共団体の施設とする場合とそれ以外の場合に分類して、1講座当たり定員20人の標準的な講習事業費(以下「標準的講習事業費」という。)を定めている。本院では、このような施設による分類と併せて講師等の確保の方法に着眼し、講座の実施形態を次の4類型に分類して講習事業費の分布状況等を検査した。
〔1〕 当該地方公共団体の施設を利用し、事業主体が直接講師等を雇用する方法(以下「〔1〕公共施設・直接雇用型」という。)
〔2〕 民間施設を利用し、事業主体が直接講師等を雇用する方法(以下「〔2〕民間施設・直接雇用型」という。)
〔3〕 当該地方公共団体の施設を利用し、講師の派遣等を委託する方法(以下「〔3〕公共施設・委託型」という。)
〔4〕 講師の確保を含め民間施設を利用する方法(以下「〔4〕民間施設・委託型」という。)
検査したところ、380事業主体で13年度末までに実施された82,227講座のうち、313事業主体における49,277講座が、1講座当たり定員20人の標準的な講座となっていた。これを上記の4類型に分類すると、〔1〕公共施設・直接雇用型は5,281講座、〔2〕民間施設・直接雇用型は575講座、〔3〕公共施設・委託型は33,217講座、〔4〕民間施設・委託型は10,204講座となっている。
〔1〕 公共施設・直接雇用型と〔3〕公共施設・委託型を合わせた当該地方公共団体の施設における講座数は、全体の78%となっているが、これはIT講習事業を実施するに当たり、割高な実施が予想された民間施設におけるIT講習の講座数を少なくし、公民館等当該地方公共団体の施設を主な講習会場としたことによるものである。
イ 講習事業費の分布状況
1講座当たり定員20人の標準的な講座49,277講座について、前記の4類型ごとに1講座当たりの講習事業費(注4)
(以下「講座事業費」という。)の分布状況を示すと図のとおりである。
図 4類型の講座事業費の分布状況
交付要綱では、標準的講習事業費を、当該地方公共団体の施設で行う場合は171,000円、民間施設で行う場合は285,000円と定めているが、前記の4類型に即して標準的講習事業費を想定すると、〔1〕公共施設・直接雇用型及び〔3〕公共施設・委託型のほか、〔2〕民間施設・直接雇用型についても事業主体が講師等と直接契約を結ぶなどしていることから、標準的講習事業費は171,000円になり、〔4〕民間施設・委託型についてのみ285,000円になると考えられる。
そこで、1講座当たりの講習事業費を標準的講習事業費と比較したところ、各類型ともに標準的講習事業費より低額となっている講座数が多くなっており、〔1〕公共施設・直接雇用型では、4,681講座(88%)、〔2〕民間施設・直接雇用型では397講座(69%)、〔3〕公共施設・委託型では25,609講座(77%)、〔4〕民間施設・委託型では9,457講座(92%)となっていた。この結果、標準的な49,277講座のうち40,144講座において、講座事業費は標準的講習事業費より低額となっていた。
このような状況となっているのは、多数の講座が実施された都市部においてIT講習事業がパソコンスクールや人材派遣会社等の業界において注目を集め、IT講習事業の受注のための競争が行われたことなどによるものと認められる。
(2) 事業の実施状況について
ア 事業実施計画の作成方法
道府県においては、12年12月の国への交付申請時にIT講習の開設予定講座数、募集定員数を内容とした事業実施計画を作成して提出している。事業実施計画を作成するに当たっては、県内地域におけるIT講習の需要等によるのではなく、全国での特例交付金の交付総額と国への交付申請額の割合等から開設予定講座数や募集定員数を算出している。
そして、道府県においては、国へ交付申請をする一方、基本的には上記の事業実施計画に基づいて算出した開設予定講座数と募集定員数の実施を管内市町村に要請しており、また、市町村に対し、交付予定額を示している。そのため、事業の必要性等地域の実情に配意することなく、要請された内容の事業計画及び交付申請額に基づいて交付申請を行っている市町村が多数見受けられる状況となっていた。
イ 開設講座数及び受講者数
上記の事業実施計画に基づいて380事業主体において定めた計画によれば、開設予定講座数は71,409講座、募集定員数は1,440,424人となっている。
これに対し、13年度末までに開設された講座数は82,227講座、募集定員数は1,655,009人であり、受講者数は1,320,435人となっている。
このように開設講座数が予定数を上回っているのは、講習事業費が標準的講習事業費を下回り道府県において基金に余裕が生じたことなどから、計画以外にも講座の開設を推進したことによるものである。
なお、四半期ごとに区分したIT講習の実施状況は表1のとおりである。
実施時期 | 全講座数
(A)
|
募集定員数 | 受講者数 | 各期に事業を開始した事業主体数 | 再受講講座数
(B)
|
比率
(B)/(A)
|
再受講者数 | |
年度 | 四半期 | |||||||
12年度 |
第4四半期 |
1,341 |
人 30,604 |
人 28,474 |
101 |
16 |
% 1.1 |
人 16 |
13年度 | 第1四半期 | 14,170 | 289,378 | 247,314 | 257 | 605 | 4.2 | 1,079 |
第2四半期 | 32,510 | 665,947 | 494,294 | 19 | 5,148 | 15.8 | 12,651 | |
第3四半期 | 21,589 | 423,989 | 338,013 | 2 | 9,231 | 42.7 | 40,310 | |
第4四半期 | 12,617 | 245,091 | 212,340 | 1 | 6,019 | 47.7 | 36,398 | |
計 | 82,227 | 1,655,009 | 1,320,435 | 380 | 21,019 | 25.5 | 90,454 |
ウ 講座及び受講者の状況
検査を実施した380事業主体では、開設された講座ごとの受講者数は、事業主体において応募者数が少ない場合には他の講座に振り替えるなどの開設に当たっての基準を設定していないなどのため、募集定員数に対して受講者数が2分の1以下のまま開設している講座が開設講座数82,227講座のうち11,954講座(14%)となっていた。そして、このうち受講者が5人以下で開設している講座が4,849講座となっていた。
また、住民が公平に受講することができるよう、受講者の要件については成人(満20歳以上の者)とする以外特に定めがない。そこで、受講者の男女比、年齢層(10歳ごとに区分)に偏りがないか、資料が未整備の10事業主体を除いた370事業主体においてみたところ、男女の別では女性の受講者数が67%を占めていた。そして、女性受講者の場合は、40歳代及び50歳代の合計で57%を占め、70歳以上の年齢層は3%程度であるのに対し、男性受講者の場合は、50歳代及び60歳代で60%を占め、これに70歳以上を加えた3年齢層で78%を占めていた。このような状況となっているのは、受講意欲のほか、平日に講座が開設されることが多いなど女性や高齢者が受講機会に恵まれたことも一因と思料される。
エ IT講習事業に係る新方針等
前記のとおり、IT講習事業については、当初、13年度末までの限られた期間において、講習内容を基礎技能とし、原則として1人1回の受講で、できる限り早期に、多くの住民が受講できるようにすることとされていた。
総務省では、都道府県に対し、上記に沿った指導を行っていたが、IT講習事業の事業費が計画額を下回る事例が多くなり、特例交付金に執行残額が生じることが予想されるなどとして、13年7月に事業実施に当たっての新たな方針を示している。その内容は次のとおりである。
〔1〕 受講意欲のある住民の受講機会をなくすことなく、地域住民の理解の上で、定員に満たない講座に限り、再受講を認める(以下、再受講が認められる講座を「再受講講座」という。)。
〔2〕 IT基礎技能の習得がなされ、かつ、講習時間が12時間程度以内である場合に限り、表計算、ホームページ作成等の講習を認める(以下、表計算等の講習が認められる講座を「ステップアップ講座」という。)。
再受講講座の実施状況は表1のとおりであり、13年度末までに開設された再受講講座は21,019講座、再受講者は計90,454人となっていた。各四半期ごとの開設講座数に占める再受講講座数の割合は、13年度第2四半期15%、第3四半期42%、第4四半期47%と増加する状況となっていた(表1参照)
。
そして、これらの再受講講座における受講者の決定方法についてみると、新方針では定員に満たない講座に限り再受講を認めるとされているのに、再受講講座を開設している293事業主体のうち65事業主体において、新規受講者を優先的に受講させるような配慮をすることなく受講者を決定していた。
ステップアップ講座の実施状況は表2のとおりとなっている。
表2 ステップアップ講座の実施状況
実施時期 | 全講座数
(A)
|
各期に事業を開始した事業主体数 | ステップアップ講座数
(B)
|
各期にステップアップ講座を開始した事業主体数 | 比率
(B)/(A)
|
|
年度 | 四半期 | |||||
12年度 |
第4四半期 |
1,341 |
101 |
8 |
1 |
% 0.5 |
13年度 | 第1四半期 | 14,170 | 257 | 48 | 7 | 0.3 |
第2四半期 | 32,510 | 19 | 160 | 16 | 0.4 | |
第3四半期 | 21,589 | 2 | 1,932 | 84 | 8.9 | |
第4四半期 | 12,617 | 1 | 3,267 | 37 | 25.8 | |
計 | 82,227 | 380 | 5,415 | 145 | 6.5 |
これをみると、13年度末までのステップアップ講座の開設数は5,415講座と全体の82,227講座に対して6%程度となっているが、13年度第4四半期では、12,617講座のうち3,267講座(25%)となっており、事業期間終了近くに集中的に実施されていた。また、ステップアップ講座の受講者数は95,667人であるが、このうち再受講者は31,998人となっている。
そして、これらステップアップ講座の内容についてみると、新方針ではIT基礎技能の習得がなされる場合に限りステップアップ講座を認めるとされているのに、ステップアップ講座を開設している145事業主体のうち18事業主体において、IT基礎技能を講習内容に全く含まない講座を計632講座開設していた。
事業主体からみて受講者の確保が容易な団体単位の講座(以下「団体向け講座」という。)は、41事業主体において633講座開設していた。この中には、できるだけ多くの住民に公平に受講機会を与えることができるよう広く一般に募集を行い、特定の企業・団体等を対象に募集するIT講習は認めないという特例交付金事業の方針にもかかわらず、市町村職員、企業等を対象とした団体向け講座において、一般住民が参加する機会がない職場研修として実施されているものも見受けられた。このような一般住民が参加する機会がない団体向け講座は、20事業主体において200講座見受けられた。
(3) 特例交付金により造成された基金の使用状況について
検査を実施した16道府県において、特例交付金により造成された基金の状況は、次のとおりとなっていた。
16道府県では、交付された特例交付金220億4400万円及び特例交付金により造成した基金の運用益5711万余円を合わせた221億0111万余円を原資としてIT講習事業を実施したが、講習事業費等の事業費が低額で済んだことなどにより、13年度末までのIT講習事業に充てられた金額は198億7620万余円となっており、22億2491万余円の使用残額が生じていた。
16道府県のうち岐阜、兵庫、和歌山の3県では、13年度末における基金の残額計487万余円を国に納付するなどして、13年度末でIT講習事業は終了していた。
これに対し、上記の3県を除く13道府県では、使用残額が22億2003万余円となっていたが、IT講習事業については潜在的な需要があるなどとして総務大臣に事業期間の延長を申請し、特例的に14年度も引き続きIT講習事業を実施している。
4 本院の所見
特例交付金は、世界最先端のIT国家となることを目指すため国が5年間に緊急かつ集中的に行うIT関連施策の一環として、12年度補正予算により交付したものである。
特例交付金によるIT講習事業は、講習事業費等の事業費が予定より低額で済んだこともあり、基金に余裕が生じたことなどから、開設講座数は計画を上回っている。
しかし、これらの開設講座の中には、募集定員数に対する受講者数が2分の1以下のまま開設されるなど事業実施が効率的となっていないものが見受けられた。また、一部の事業主体において、新規受講者を優先的に受講させるような配慮をすることなく受講者を決定している講座、IT基礎技能を講習内容に全く含まない講座、一般住民が参加する機会がない講座等を開設している例が見受けられた。
このような状況の下、国においては、IT講習事業にはまだ潜在的な需要が見込まれるとして、特例的に、14年度も引き続きIT講習事業を実施することを認めているところである。
これらの状況については、前項「3 検査の状況」で記述したとおりであるが、総務省では、上記のような、本院の検査結果を踏まえて、14年9月、都道府県に通知を発し、特例交付金交付の趣旨に沿った効率的な事業実施に努めるよう指導を行っており、14年度も引き続き事業を実施している多くの道府県においては、これに沿った事業実施に努めることが望まれる。
また、IT革命に対応することは我が国にとって喫緊の課題とされており、国においては、今後も引き続きIT革命の飛躍的推進のための広範囲な施策を講じることが求められている。こうした施策を講じる上で、社会経済情勢の変化等に対応するためには今後とも本事業のような緊急かつ柔軟な施策の展開が必要となる場合も考えられる。
したがって、今後、この種の交付金を交付する場合には、事業の必要性等地域の実情を反映した計画の作成及び効率的な事業実施等について適切な指導を行うことにより、交付金交付の趣旨に沿った事業の実施がなされるように努めることが望まれる。