検査対象 | 独立行政法人物質・材料研究機構、独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人農業生物資源研究所、独立行政法人農業工学研究所、独立行政法人農業技術研究機構、独立行政法人農業環境技術研究所、独立行政法人食品総合研究所 |
財務諸表作成の根拠 | 独立行政法人通則法(平成11年法律第103号) |
政府受託事業の概要 | 国及び政府出資法人から委託を受けて各種の研究等を行うもの |
政府受託事業に係る収入の額 | 158億1859万円 |
1 独立行政法人の経理の概要
平成8年11月に設置された行政改革会議において、中央省庁再編の一環として、国民のニーズに即応した効率的な行政サービスの提供等を実現するという、行政改革の基本理念を実現するため、政策の企画立案機能と実施機能とを分離し、事務・事業の内容・性質に応じて最も適切な組織・運営の形態を追求するとともに、実施部門のうち一定の事務・事業について、事務・事業の垂直的減量を推進しつつ、効率性の向上、質の向上及び透明性の確保を図るため、独立の法人格を有する「独立行政法人」の設置が提唱された。
その後、10年6月に中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)が成立し、政府は、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務・事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要はないが、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるか、又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものについて、これを効率的かつ効果的に行わせるにふさわしい自律性、自発性及び透明性を備えた独立行政法人の制度を設けるものとされた。これを受けて、独立行政法人の運営の基本その他の制度の基本となる共通の事項を定めた独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)と各独立行政法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律が制定され、これらに基づき、13年4月に国が有する権利及び義務を承継して57の独立行政法人が設立された。そして、独立行政法人の設立の際に国から承継された権利及び義務は、〔1〕 国の部局又は機関の所属に属する土地、建物等のうち主務大臣が財務大臣に協議して指定するものに関する権利及び義務(国有財産関係)、〔2〕 独立行政法人の設立の際現に国の部局又は機関に使用されている物品に関する権利及び義務(物品関係)、〔3〕 独立行政法人の業務に関し国が有する権利及び義務のうち〔1〕 及び〔2〕 以外のものであって、主務大臣が指定するもの(国有財産及び物品以外のもの)などとなっている。
また、独立行政法人は、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としないこととなっていることから、国の予算において、所要の財源措置が講じられ、運営費交付金等が交付されている。
独立行政法人の会計は、主務省令で定めるところにより、原則として企業会計原則によるものとされている。
一方、独立行政法人は、〔1〕 公共的な性格を有し、利益の獲得を目的とせず、独立採算制を前提としないこと、〔2〕 政策の実施主体であり、政策の企画立案の主体である国と密接不可分の関係にあることから、独立行政法人独自の判断では意思決定が完結し得ない場合が存すること、〔3〕 毎事業年度における損益計算書上の利益(剰余金)の獲得を目的として出資する資本主を制度上予定していないことなどの特殊性を有している。
そして、独立行政法人が有するこれらの特殊性を踏まえて、12年2月16日、政府の中央省庁等改革推進本部決定に基づき行われた独立行政法人の会計に関する研究の成果として、独立行政法人会計基準研究会により、企業会計原則に必要な修正を加えた独立行政法人会計基準(以下「会計基準」という。)及び独立行政法人会計基準注解が公表された。この会計基準設定の趣旨として、独立行政法人により作成される財務報告は、その利用者である国民その他の利害関係者に対して利用目的に適合した有用な内容を提供するものでなければならないとされている。
そして、会計基準は、各独立行政法人の業務運営並びに財務及び会計に関する事項を定めた個別の府省令により、当該府省令に準ずるものとして、独立行政法人がその会計を処理するに当たって従わなければならない基準であるとともに、会計監査人が独立行政法人の財務諸表等の監査をする場合において依拠しなければならない基準であって、独立行政法人の会計に関する認識、測定、表示及び開示の基準を定めるものであるとされている。また、そこに定められていない事項については一般に公正妥当と認められている企業会計原則に従うものとされている。
独立行政法人は、毎事業年度、財務諸表として、貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類、キャッシュ・フロー計算書、行政サービス実施コスト計算書及びこれらの附属明細書を作成し、当該事業年度の終了後3箇月以内に主務大臣に提出し、その承認を受けなければならないとされている。また、主務大臣の承認を受けたときは、財務諸表を官報に公告し、かつ、財務諸表並びに通則法で規定されている事業報告書、決算報告書及び監事等の意見を記載した書面を、各事務所に備えて置き、一般の閲覧に供しなければならないとされている。
そして、財務諸表のうち貸借対照表は、会計基準「第36 貸借対照表の作成目的」により、独立行政法人の財政状態を明らかにするため、貸借対照表日におけるすべての資産、負債及び資本を記載し、国民その他の利害関係者にこれを正しく表示するものでなければならないとされている。また、損益計算書は、同基準「第37 損益計算書の作成目的」により、独立行政法人の運営状況を明らかにするため、一会計期間に属する独立行政法人のすべての費用とこれに対応するすべての収益とを記載して当期純利益を表示しなければならないなどとされている。
独立行政法人のうち、研究を主な目的として設立された独立行政法人は、国、政府出資法人、民間企業等から委託を受けて各種の研究等の事業を実施しており、これらの研究等の事業(以下「受託事業」という。)による収入は、国の予算における財源措置以外の独立行政法人の自己収入として取り扱うことになっている。
2 検査の着眼点
独立行政法人の制度については、国による事前関与・統制を極力排し、事後チェックへの重点の移行を図るため、主務大臣の監督、関与その他の国の関与を必要最小限のものとすることとされた。この事後チェックのためには業績評価が正しく行われるための情報が提供されなければならないとされており、このような目的に資するため正確な財務報告が求められているところである。
そして、独立行政法人は、14年3月31日に最初の決算期を迎え、初めて会計基準及び企業会計原則に従って作成された財務諸表、事業報告書等が一般の閲覧に供されることとなった。
そこで、独立行政法人の事業に係る13事業年度の会計処理は会計基準等に従って適正に行われているかなどに着眼して検査した。
3 検査の状況
文部科学省所管の独立行政法人15法人及び農林水産省所管の独立行政法人17法人の会計処理について検査したところ、「第3章 個別の検査結果」に意見を表示し又は処置を要求した事項として掲記したもの(「独立行政法人の会計経理について、資産及び費用等の認識・計上処理を適切に行い、正確な財務諸表等の作成を期するよう是正改善の処置を要求したもの」参照)
のほか、7法人において次のとおり、受託事業に係る会計処理に差異が生じている事態が見受けられた。
すなわち、独立行政法人物質・材料研究機構ほか6法人では、各種の受託事業を実施しており、そのうち国及び政府出資法人から受託したもの(以下「政府受託事業」という。)については、いずれも研究期間は複数年度にまたがっているものの、年度ごとに受託契約を締結しており、当期末に当期分の研究の成果を国又は政府出資法人に引き渡している。そして、13事業年度における政府受託事業に係る収入(以下「政府受託収入」という。)は、表1のとおり、15,818,590千円となっており、いずれも契約額を上限とした実費精算方式で受けることとなっているため、政府受託収入が同事業に係る支出(以下「政府受託支出」という。)を上回ることはなく、上記7法人の13事業年度における収支では、差額は発生していない。
表1 政府受託事業に係る収入支出 | (単位:千円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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一方、損益計算書においては、法人の会計処理の相違により、次のように政府受託事業から利益が計上されているものと、利益が計上されていないものとがあり、その取扱いに大きな差異が生じていた。
(ア) 損益計算上、利益が生じているもの
独立行政法人物質・材料研究機構ほか3独立行政法人では、政府受託事業に係る損益計算上の当期の費用として、事業を実施するために取得した設備等に係る当期の減価償却費及び人件費その他の経費の合計額を計上し、収益として政府受託収入の全額を計上していた。このため、当期の収益には、設備等の取得価額相当額が全額含まれることになり、その結果、表2のとおり、次期以降の減価償却費に相当する額が当期の利益として計上されていた。
表2 政府受託事業に係る損益計算 | (単位:千円) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(イ) 損益計算上、利益が生じていないもの
独立行政法人農業技術研究機構ほか2独立行政法人では、政府受託事業に係る損益計算上の当期の費用として、事業を実施するために取得した設備等に係る当期の減価償却費及び人件費その他の経費の合計額を計上し、収益として、政府受託収入のうち当期の費用に相当する額を計上していた。そして、事業を実施するために取得した設備等に係る次期以降の減価償却費に相当する額を、資産見返負債として固定負債に計上していた。このため、表3のとおり、政府受託事業に係る費用及び収益が均衡し、当期の利益として計上されていなかった。
表3 政府受託事業に係る損益計算等 | (単位:千円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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4 本院の所見
独立行政法人は、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務・事業について、これを効率的かつ効果的に行うことにより、国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的として設立されたものであり、その目的に資するため、正確な財務情報を開示することが求められている。
前記のように、政府受託事業に係る会計処理について、法人間でその取扱いに差異が生じている事態は、法人相互間の財務諸表の比較可能性を損なうなど、国民その他の利害関係者が財務諸表を利用する上で不都合を生じるものと認められる。
したがって、政府受託事業に係る会計処理に関し、独立行政法人の運営状況と財政状態が適切に財務諸表に反映されるような独立行政法人における統一的な取扱いが望まれる。