検査対象 | 日本放送協会 |
非現用不動産の概要 | 老朽化や移転等により事業用として使用されなくなった転勤者用住宅及び放送所等の跡地 |
非現用不動産の件数、面積 | 186件、136,242m2 (平成13年度末現在) |
1 検査の背景
日本放送協会(以下「協会」という。)は、放送法(昭和25年法律第132号)に基づき、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務などを行うための法人として設立され、公共放送である協会の運営財源は受信契約者が公平に負担する受信料によって賄われており、平成13年度末の受信契約件数は約3767万件、受信料収入は約6573億円となっている。
協会では、放送事業を実施するため必要な放送会館、放送所等の不動産を受信料等により取得して保有しており、このうち土地は13年度末現在で約522万2千m2
(取得価額330億7843万余円)となっている。
情報通信技術が急速に進展している状況下で、高度情報通信ネットワーク社会を形成することは、我が国の重要施策の一つとなっている。
そして、「放送普及基本計画」(昭和63年郵政省告示第660号)によれば、協会のテレビジョン放送については、伝達情報量の多いデジタル放送へ早期かつ円滑に全面移行することとされており、現在の基幹放送である地上テレビジョン放送に関しては、関東、中京、近畿の三大広域圏では15年末までに、その他の地域では18年末までにデジタル放送化し、23年にはアナログ波による放送が停止されることとなっている。
協会では、これを受けて、全国の放送局の制作設備及び送出設備並びに放送所などの送信設備をデジタル放送用に変更する必要があり、これに多額の費用を要するため、設備整備等の準備を段階的に進めることとしている。そして、当面、協会としてはデジタル化に伴う経費について、現行の受信料で対応していくこととしている。
協会では、保有する不動産のうち、建物の老朽化や事業地の移転等により事業用として使用されなくなった転勤者用住宅(以下「舎宅」という。)や放送所等の跡地を「非現用不動産」と位置付けて管理している。この非現用不動産は13年度末現在で186件、約13万6千m2
(取得価額5億2104万余円)となっている。これらの多くは昭和20年代から40年代にかけて取得したもので、大きな含み益を期待できるものであり、協会では、転活用の見込みがない非現用不動産については原則として処分することとしており、毎年度の収支均衡予算を策定する上で重要な財源と位置付けている。
平成11年度から13年度までの3箇年度において、売却処分された非現用不動産は表1のとおりであり、計27件、18億5405万余円となっている。
<表1> 非現用不動産の売却状況 | |||||||||||||||||||||||||
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そして、今後、前記のデジタル放送化の進展に応じて、アナログ放送のテレビ放送所が廃止されるなどして非現用不動産が増加することが見込まれている。
協会では、非現用不動産の処分に当たり、翌事業年度から5年間のうちに、管理している非現用不動産の処分年度を予定した長期計画と処分実施年度における計画を策定しており、計画の策定及び処分方法については、「非現用不動産処分の実施要領」(平成8年6月経理局建設・管理事務局制定)等に基づき、次のように行うこととしている。
ア 計画の策定
(ア) 各放送局長等において、土地が事業用として使用されなくなった場合には、その旨の決定を行い、非現用不動産管理台帳に登載し、本部担当部局に報告する。
(イ) 本部担当部局において、放送局、区分、処分年度別に整理して集計処理を行う。
(ウ) 本部担当部局及び各放送局において、翌年度に処分する非現用不動産の計画を策定する。
(エ) 上記に基づき、特別収入の予算を確定させる。
イ 処分方法
(ア) 本部担当部局及び各放送局において、境界確認、測量、権利関係の整理等の条件整備を行うとともに、処分が実現するまでの間は、経緯を管理台帳に記載して管理を行う。
(イ) 各放送局は本部担当部局と処分方法及び時期を調整し、信頼できる評価機関から鑑定評価書を徴し、原則として競争契約により売却処分を行う。ただし、競争に付することが不利又は困難であると認められる場合には、随意契約により売却処分を行う。
2 検査の着眼点及び対象
協会では、前記のとおり、テレビジョン放送のデジタル化に伴う費用については、当面、現行の受信料で対応することとし、また、非現用不動産の処分については、予算政策上これを計画的に進め、安定的な収入の確保に努めることとしている。
そして、今後のデジタル放送化の進展に応じて、アナログ放送のテレビ放送所が廃止されるなどして非現用不動産が増加することが見込まれていることから、非現用不動産の管理体制が整備されているか、また、処分が適切に行われ、収入の確保が図られているかなどについて検査した。
本部ほか15放送局(注) における68件の非現用不動産(面積62,233m2 、取得価額計270,424千円)のうち、14年4月から7月末までの間に売却された4件(うち1件は一部売却)、計1,074m2 (売却価額計223,192千円)を除いた残りの65件(一部売却を含む。)について検査した。
3 検査の状況
(1) 非現用不動産の資産価値別及び経過年数別の内訳
上記の非現用不動産65件について、資産価値別にみた内訳は表2のとおりで、舎宅、ラジオ放送所等の跡地で住宅地等に所在して比較的資産価値が高い土地が58件(面積計58,213m2
、取得価額計260,618千円)と大半を占めている。
また、非現用決定時点から14年3月末までの経過年数別にみた内訳は表2のとおりで、10年未満の土地が48件、面積計47,913m2
(取得価額計146,758千円)と大半を占めている。
<表2> 経過年数別、資産価値別件数等 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(2) 非現用不動産の現状
前記65件の非現用不動産について、売却のための条件整備等の状況、処分可能性等により区分すると次のとおりである。
〔1〕 売却のための条件整備が済んでいないもの
{ | 24件 面積計10,611m2 | } |
(取得価額計145,022千円、処分見込額計2,556,477千円) |
このうち、当面処分を予定していないなどの理由により市街地にありながら、境界確定が行われていないものが20件、隣地の所有者に境界確定を求めているものの、遠隔地に居住しているなどのため応諾を得られないものが4件となっている。
<事例1>
塚口6号舎宅跡地(所在地:兵庫県尼崎市)
(面積167m2
取得価額243千円)
この土地は、舎宅用地として昭和28年に取得した土地であるが、建物の老朽化のため、62年に非現用不動産となったものである(近隣地の平成14年公示地価292千円/m2
)。
現在は建物を取り壊し更地となっており、周辺は戸建住宅の多い閑静な住宅地域であるため売却についての問い合わせがあるものの、当面処分を予定していないため境界確定を行っていない。
〔2〕 売却のための条件整備はなされているが、売却に至っていないもの
{ | 29件 面積計40,451m2 | } |
(取得価額計107,328千円、処分見込額計4,510,989千円) |
これらの土地は、入札のための説明会を行ったものの入札に至らなかったもの(2件)、入札を行ったものの予定価格に達しないため売却に至らなかったもの(6件)、入札を行うための手続を進めているもの(2件)、売却のための公告や説明会の開催など所要の手続を開始していないもの(19件)である。
<事例2>
桶狭間ラジオ放送所跡地(所在地:愛知県名古屋市)
(面積21,421m2
取得価額2,789千円)
この土地は、名古屋市緑区に所在し、名古屋ラジオ放送所用地として昭和4年及び7年に取得した土地であるが、ラジオ第1放送の出力増強に伴い狭あいとなったことから、58年に放送所が移転新設されたため、大規模な面積の非現用不動産となったものである(近隣地の平成14年公示地価100千円/m2
)。
平成10年10月に入札のための説明会を開催し11社が参加したが、市街化区域で周辺は住宅が建ち並ぶ地域ではあるものの、土地面積が大き過ぎるなどの理由により購入申込みは1社のみで、入札に至らなかった。
〔3〕 現状では売却の可能性が低いと思料されるもの
{ | 12件 面積計10,096m2 | } |
(取得価額計13,175千円、処分見込額計340,059千円) |
これらの土地は、テレビ放送所の跡地等で山林等に所在していたり、市街化調整区域等に所在していたりしていて、現状では売却の可能性が低く、資産価値も低いと思料される。
4 本院の所見
協会では、各年度予算の収支均衡を考慮しながら計画的に非現用不動産を売却することとしており、毎年度、相当額の売却収入を得ているところである。
今後、協会においては、地上デジタル放送の進展に応じて、非現用不動産が増加することが見込まれることなどもあり、全国の各放送局において不動産管理の徹底を図るため管理システムの開発を進めている。また、非現用不動産の売却を促進するため、プロジェクト体制により、外部の専門機関から提案を募るなど多様な売却方法の検討を行っている。
上記のように、非現用不動産の管理及び処分に当たっては、協会において様々な取組を行っているところであるが、なお一層、売却のための条件整備等の促進に努めることが望まれる。
したがって、本院としても、非現用不動産の管理が適切に行われ、効率的な売却が進められているかなどについて、引き続き注視していくこととする。