会計検査院は、平成15年次の検査に当たって、会計検査の基本方針を次のとおり定めた。
平成15年次会計検査の基本方針
(平成14年10月29日策定)
会計検査院には、内閣から独立した憲法上の機関として、国の収入支出の決算の検査を行うほか、法律に定める会計の検査を行い、これを常時実施することにより、会計経理を監督し、その適正を期し、かつ、是正を図るとともに、検査の結果により、国の収入支出の決算を確認し、検査報告を作成して内閣を通じて国会に報告するという使命が課せられている。
(1)我が国の社会経済の動向と財政の現状
近年、我が国の社会経済は、少子・高齢化の進展、グローバル化、情報通信技術の革新とその普及、環境問題による制約などにより大きく変容してきている。そして、今まで我が国の社会経済を支えてきたシステムがこうした変化に適切に対応できず、その見直しや再構築が求められている。
我が国の財政をみると、連年の公債発行により公債残高は年々増加の一途をたどり、平成14年度末には約414兆円に達すると見込まれており、公債償還等に要する国債費は14年度予算で約16兆6千億円と、一般会計歳出の約2割を占めていて、財政の健全化が課題となっている。
また、政府は、経済・財政、行政等の各分野における構造改革を推進することとしている。
(2)会計検査院をめぐる状況
13年6月に、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が制定され、同年12月には、同法に基づき「政策評価に関する基本方針」が閣議決定された。そして、14年4月からは、これらに従い、国の行政機関は政策評価を実施することとなった。また、13年4月には「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」が施行された。さらに、特殊法人等の一部について行政コスト計算書が作成・公表されるなど、行政のアカウンタビリティが一層重視されている。
政策評価の導入の発端となった行政改革会議の最終報告においては、評価は政府部内のそれとともに政府の部外からもなされることが重要であるとして、会計検査院による評価に対して期待が表明されている。また、会計検査院法においては、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性その他会計検査上必要な観点から検査を行うこと、国会から検査の要請があった事項について検査を行いその結果を国会に報告できることが規定された。
このように会計検査院の役割及び機能はますます重要となり、国民の期待も増大している。
会計検査院は、従来から社会経済の動向などを踏まえて国民の期待に応える検査に努めてきたところであるが、以上のような状況の下で今後ともその使命を的確に果たすため、国民の関心の所在や国会における審議の状況に常に注意を払い、厳正かつ公正な職務の執行に努めるとともに、次のような姿勢で検査に取り組む。
ア 我が国の社会経済の動向や財政の現状を十分踏まえ、主として次に掲げる施策の分野に重点を置いて検査を行う。
〔1〕 社会保障
〔2〕 公共事業
〔3〕 防衛
〔4〕 教育及び科学技術
〔5〕 環境保全
〔6〕 経済協力
〔7〕 農林水産業
〔8〕 中小企業
〔9〕 情報通信(IT)
イ 不正不当な事態に対する検査を行うことはもとより、業績評価を指向した検査を行っていく。そして、必要な場合には、制度そのものの存否も視野に入れて検査を行っていく。
すなわち、これまで会計検査院は、主として次のような観点から検査を行ってきた。
(ア)検査対象機関の決算の表示が予算執行の状況を正確に表現しているかという正確性の観点
(イ)検査対象機関の会計経理が予算や法律、政令等に従って適正に処理されているかという合規性の観点
(ウ)検査対象機関における事務・事業の遂行及び予算の執行が、より少ない費用で実施できないか、あるいは同じ費用でより大きな成果が得られないかという経済性・効率性の観点
(エ)検査対象機関における事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の観点
今後も、上記の正確性や合規性の観点からの検査を十分行い、その際には、会計事務処理について重点的に検査を行うとともに、検査対象機関の内部牽制や内部監査の状況についても検査を行う。さらに、近年の厳しい経済財政状況にもかんがみ、経済性・効率性及び有効性の観点からの検査を重視し、特に有効性の観点から、事務・事業及び予算執行の効果について積極的に取り上げるよう努める。そして、事務・事業の遂行及び予算の執行に問題がある場合には、原因の究明を徹底して行い、その改善の方策について検討する。
また、行政の透明性やアカウンタビリティの向上に資するため、検査対象機関に係る決算の分析やその評価を指向した検査を行っていくとともに、特別会計、独立行政法人及び特殊法人等についてはその財務状況の検査の充実を図る。さらに、検査対象機関が自ら行う政策評価などの状況についても留意して検査を行う。
ウ 社会経済の複雑化とそれに対応した行政活動の拡大に伴い、新しい検査手法の開拓を行うなどして検査を行っていく。
すなわち、検査手法や検査領域を多様化するための調査研究、専門分野の検査に対応できる人材の育成や拡充、コンピュータ等の情報機器や検査用機器の活用などを行い、会計経理はもとよりそれに関連するあらゆる事務・事業について検査を行う。
上記の基本方針に従い、限られた人員、予算、時間などを効率的に活用して、会計検査院として課せられた使命を達成するため、検査実施部局においては、国その他の検査対象機関の事務・事業の動向などを的確に把握した上で、多種多様な検査の領域の中から本年次の検査に当たって重点的に取り組むべき事項を検査上の重要項目として設定することにより、的確な検査計画を策定する。