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  • 平成14年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第6 財務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

清酒製造業の経営基盤の安定等のために補助金等により造成した信用保証基金について、代位弁済違約金等の債権を適切に管理するなど、保証事業に係る会計処理等を適正に行うよう改善させたもの


清酒製造業の経営基盤の安定等のために補助金等により造成した信用保証基金について、代位弁済違約金等の債権を適切に管理するなど、保証事業に係る会計処理等を適正に行うよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)国税庁 (項)清酒製造業等安定対策費
〔昭和57年度以前は、(項)清酒製造業安定対策費〕
部局等の名称 国税庁
補助の根拠 清酒製造業等の安定に関する特別措置法(昭和45年法律第77号)
補助事業者
(事業主体)
日本酒造組合中央会
補助事業 清酒製造業安定事業
補助事業の概要 中央会が被保証者の金融機関からの借入に対する保証事業を行うために造成する信用保証基金に必要な資金の一部を補助するもの
信用保証基金を造成するために交付した補助金 52億6000万円(昭和45年度〜平成6年度)

1 事業の概要

(信用保証基金)

 国税庁では、清酒製造業等の安定に関する特別措置法(昭和45年法律第77号。以下「安定法」という。)等に基づき、清酒製造業の経営基盤の安定及び酒税の確保のため、日本酒造組合中央会(注1) (以下「中央会」という。)に対し、昭和45年度から平成6年度までの間に計52億6000万円の補助金を交付している。
 中央会では、この補助金と清酒製造業者等(注2) が拠出した金額計26億3000万円とを合わせた総額78億9000万円により、清酒製造業者等が清酒の製造のために必要とする原材料、機械等の購入資金及び賃金の支払に必要な資金を金融機関から借り入れる際に中央会がその債務保証を行う事業(以下「保証事業」といい、債務保証を受ける清酒製造業者等を「被保証者」という。)のための信用保証基金を造成している。

(保証事業)

 中央会では、安定法に基づき、「清酒製造業等の安定に関する特別措置法に基づく清酒に係る日本酒造組合中央会業務方法書」(以下「業務方法書」という。)を作成し、財務大臣の認可を受けて保証事業を実施している。
 保証事業の主な事務の流れは、次のとおりである。
〔1〕 被保証者は、債務保証付借入れの申込みを金融機関に対し行うとともに、債務保証依頼書を酒造組合等を経由して中央会に提出する。
〔2〕 中央会は、金融機関及び被保証者が加入する酒造組合の調査意見書などを参考にして諾否を決定し、債務保証を承諾したときは債務保証書を金融機関に、債務保証承諾書を被保証者に交付する。
〔3〕 金融機関は、中央会の債務保証に係る貸付けを行ったときは債務保証付貸付実行報告書を、また、被保証者から償還を受けたときなどは債務保証付貸付金償還状況報告書(以下「償還報告書」という。)を遅滞なく酒造組合等を経由して中央会に提出する。
 そして、債務保証期間を1年(機械等の購入資金は6年)以内とし、債務保証を行った場合には、被保証者から所定の保証料を徴収している。

(代位弁済)

 中央会は、信用保証基金の運用収入等で得た収益により、被保証者が借入債務を金融機関に弁済できなかったときには、その借入債務を被保証者に代わって金融機関に弁済(以下「代位弁済」という。)することとしている。
 そして、業務方法書によると、中央会の債務保証に係る債務の弁済期限到来の日などの翌日から60日を経過してなお被保証者による借入債務の全部又は一部の履行がない場合には、金融機関は中央会に対して代位弁済の請求をすることができることとされ、中央会は、金融機関から代位弁済の請求を受けた場合には、遅滞なくこれを審査し、その請求を受けた日から30日以内に代位弁済することとなっている。

(代位弁済違約金及び延滞保証料)

 中央会では、代位弁済後、被保証者からその代位弁済額の全部又は一部が返済された場合、代位弁済額の残高を基に、その代位弁済の日の翌日から返済の日までの日数に応じて、所定の割合で計算した額を代位弁済に係る違約金(以下「代位弁済違約金」という。)として、被保証者から徴収することとなっている。
 また、被保証者が金融機関からの借入債務の最終弁済期限までに弁済しないときは、中央会は、債務保証期問内の保証料に相当するものとして、借入債務の残高を基に、その最終弁済期限の翌日からその借入債務の弁済があった日又は中央会が代位弁済を行った日までの日数に応じて、所定の割合で計算した額を延滞保証料として、被保証者から徴収することとなっている。
 ただし、被保証者にやむを得ない事情がある場合には、理事会の承認を得ることによって、それぞれ全部又は一部を免除できることとなっている。

(信用保証事業等特別会計及び会計規約)

 中央会では、保証事業等に係る経理をその他の経理と区分するため、信用保証事業等特別会計を設置している。
 そして、業務の適正かつ能率的な運営を図るとともに、財政状態及び経営成績を明らかにするために、保証事業等に係る財務及び会計の処理に関する基準として、「清酒製造業等の安定に関する特別措置法に基づく清酒に係る日本酒造組合中央会会計規約」(以下「会計規約」という。)を定めている。
 この会計規約によれば、代位弁済違約金、延滞保証料等の債権は、その発生原因及び内容に応じて、同特別会計の利益に適合するように管理しなければならないこととされている。

(事業報告書等の承認等)

 国税庁では、安定法等に基づき、毎事業年度、中央会が作成した保証事業等に係る事業計画、収支予算及び資金計画を認可し、また、中央会から提出された保証事業等に係る事業報告書、財産目録及び収支計算書を承認している。
 そして、中央会に対し、保証事業等に関して監督上必要な命令をすることができるとともに、報告を求め、又は職員に質問させ、若しくは検査させることができることとなっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 国税庁では、前記のとおり、昭和45年度以降、中央会に対し補助金を交付して信用保証基金を造成させており、中央会では、この信用保証基金の運用収入等により保証事業を行っている。
 そこで、中央会について、補助金等により造成した信用保証基金が清酒製造業の経営基盤の安定などの目的を達成し、効果を上げるために保証事業が業務方法書等に基づき適切に行われているかなどに着眼して検査を実施した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のとおり適切でないと認められる事態が見受けられた。

(1)債権管理について

 中央会が代位弁済した被保証者数及び金額は、次表のとおり、平成14年度7者分、3億7576万余円、昭和47年度からの累計104者分、43億9383万余円となっており、代位弁済により取得した求償権に基づき回収した金額は平成14年度6362万余円、昭和47年度からの累計額13億2313万余円となっていた。また、被保証者の破産等の理由により弁済の見込みがないなどとして求償権を消却した金額の累計は7億4244万余円、平成14年度末現在で中央会が保有する求償権は51者分、23億2825万余円となっていた。

代位弁済等の実績
(単位:千円)

 
14年度実績
累計
被保証者数
金額
被保証者数
金額
代位弁済 7 375,767 104 4,393,830
求償権に基づく債権を回収したもの
22

63,628
(23)
90
(629,703)
1,323,133
求償権を消却したもの 30 742,442
14年度末現在の求償権
51 2,328,254
(注)
 ( )書きは、求償権に基づき債権額を回収したもののうち、債権額を全部回収したものの被保証者数及びその金額である。

 そこで、中央会が14年度末現在で保有している求償権51者分及び元年度から14年度までに求償権に基づく債権額を全部回収しているもの6者分、計57者分の代位弁済違約金及び延滞保証料(以下「代位弁済違約金等」という。)の債権の管理状況についてみたところ、次のとおりであった。
 57者分のうち44者分については、求償権に基づく債権額の全部又は一部が回収されているため、その回収された日までの代位弁済違約金の額が938,420,550円と確定していた。
 また、57者分のうち40者分については、中央会が最終弁済期限を越えた日に代位弁済を行ったため、延滞保証料の額が24,004,011円と確定していた。
 しかし、これらの代位弁済違約金等については、理事会の承認を得て免除されていないにもかかわらず全く徴収されていなかったり、2者分の延滞保証料333,736円以外は決算上未収金に計上されていなかったりしており、債権として管理されていなかった。
 上記については、会計規約上、当該事業年度に発生した代位弁済違約金等は収入に計上し、その収納未済のものについては、未収金としてすべて決算に計上すべきであるのに、そのような会計処理をしていないのは適切ではないと認められた。
 そして、前記のとおり14年度の代位弁済額3億7576万余円に対し、求償権に基づく債権の回収額が6362万余円と代位弁済額に比べて大幅に少なく、また、14年度末現在、当期利益金を含めた積立金は23億1368万余円であり、求償権の金額23億2825万余円を下回っている状況となっていた。
 したがって、このような財政状況において、補助金等で造成された信用保証基金の財政の健全性を保持し、今後も保証事業を継続していくためには、保証料等の経常収入ばかりではなく、代位弁済違約金等の随時発生する収入についても適切に債権として管理していくことが必要であり、会計規約等に基づいた適切な会計処理を行う要があると認められた。

(2)保証債務額の把握について

 信用保証事業等特別会計の14年度の事業報告書等によると、14年度末現在の保証債務額は321億0388万余円となっていた。これは、前年度末現在の保証債務額360億6905万余円に、中央会が債務保証を承諾したもののうち14年度に金融機関が被保証者に貸し付けた金額275億8850万余円を加えた金額から、14年度における被保証者の償還額315億5366万余円を控除して算出した金額であり、中央会が代位弁済という偶発債務の責を負う可能性のある金額を表示したものである。
 この保証債務額の算出の基礎となった償還額についてみると、14年度の償還額315億5366万余円の中に金融機関が酒造組合等を経由して中央会に提出する償還報告書の提出が遅れていたことなどのため、13年度以前に償還された88億9705万余円を含めていた。
 このことは、中央会がこれまで事業報告書等に計上していた保証債務額に、前年度以前に償還されたものを多数含めていたことを示すものであり、正確性を欠くものとなっていた。
 したがって、中央会は、被保証者の償還状況を速やかに把握することにより、保証債務額の事業報告書等への計上を正確なものとし、これを保証事業に係る事業計画、資金計画等に的確に反映させる要があると認められた。
 上記のような事態はいずれも業務方法書、会計規約等に基づいておらず、適切とは認められない。したがって、今後、補助金等で造成した基金の財政の健全性を保持し、基金の造成目的である清酒製造業の経営基盤の安定のための保証事業を継続していくために、上記のような事態を改善する要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。
ア 国税庁において、中央会から毎事業年度提出される事業報告書等の審査及び中央会に対する保証事業に関する指導・監督が十分でなかったこと
イ 中央会において、保証事業に係る会計処理等に当たり、業務方法書、会計規約等を遵守すること、代位弁済違約金等を債権として管理すること及び保証債務に関し被保証者の償還状況を速やかに把握することについての認識が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国税庁では、15年10月、保証事業に係る会計処理等を適正なものとするよう、次のような処置を講じた。
ア 国税庁において、中央会から毎事業年度提出される事業報告書等についての審査を十分行うとともに、随時、中央会に対する検査を実施するなどして指導・監督を強化することとした。
イ 中央会に対して文書を発し、保証事業に係る会計処理等を次のようにして適正に行わせることとした。
(ア)業務方法書、会計規約等を遵守することを徹底するとともに、内部監査の充実、強化を図る。
(イ)代位弁済違約金等について債権として適切に管理する。
(ウ)中央会から金融機関に対して文書を発するなどして遅滞なく中央会への償還報告書の提出を徹底させることにより、速やかに被保証者ごとの償還状況を把握する。

(注1) 日本酒造組合中央会 都道府県単位の酒造組合及び酒造組合連合会が会員の組織である。都道府県単位の酒造組合は清酒製造業者が直接組合員であり、都道府県単位の酒造組合連合会は清酒製造業者が組合員である税務署単位の酒造組合で組織されている。
(注2) 清酒製造業者等 清酒製造業者、都道府県単位の酒造組合、都道府県単位の酒造組合連合会、税務署単位の酒造組合、清酒製造業者が直接又は間接の構成員である事業協同組合又は協同組合連合会をいう。