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  • 平成14年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 文部科学省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

公立の中学校において初任者研修が円滑かつ効果的に実施されるよう改善させたもの


(2)公立の中学校において初任者研修が円滑かつ効果的に実施されるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)文部科学本省  (項)義務教育費国庫負担金
     (項)学校教育振興費
部局等の名称 文部科学本省
補助の根拠 義務教育費国庫負担法(昭和27年法律第303号)
予算補助
補助事業 初任者研修を実施するために行う教職員定数の加配事業、非常勤講師の配置事業
補助事業の概要 新任教員が配属された公立の小学校、中学校等に指導教員等を措置できるよう、教員を加配したり非常勤講師を配置したりするための経費を補助するもの
検査した府県市 福島県ほか25府県市
検査の対象とした中学校の数 1,963校
上記に対する国庫負担金等相当額 37億3936万余円 (教員の加配に係る国庫負担金 平成13、14両年度)
10億9393万余円 (非常勤講師の配置に係る国庫補助金 平成13、14両年度)
初任者研修を円滑かつ効果的に実施する体制が十分に整えられていないと認められる中学校の数
196校

上記に対する国庫負担金等相当額 2億3243万円 (教員の加配に係る国庫負担金)
1億2371万円 (非常勤講師の配置に係る国庫補助金)

1 制度の概要

(初任者研修制度)

 初任者研修は、教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)に基づき、公立の小学校、中学校等の新任教員(以下「初任者」という。)に対して、採用後1年間にわたって実施しなければならないとされているものであり、実践的指導力と使命感を養うとともに、幅広い知見を得させることを目的としている。
 この初任者研修は、都道府県、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項に規定する指定都市等(以下「都道府県等」という。)の教育委員会が行うこととされており、初任者が、配属された学校において授業を担任しながら、学習指導、学級経営等について指導教員、教科指導員等から指導及び助言を受ける校内研修(週2日程度、少なくとも年間60日程度)と都道府県等が研修機関として設置している教育センター等において指導を受ける校外研修(週1日程度、少なくとも年間30日程度)から成っている。

(指導教員及び教科指導員)

 初任者が配属された学校では、当該学校を所管する教育委員会により、校内の教員のうちから、初任者に対して学習指導、学級経営等の教員の職務の遂行に必要な事項について指導及び助言を行う指導教員が任命され、校内研修に当たることとされている。
 また、中学校においては、教育職員免許法(昭和24年法律第147号)に基づき、教員の免許状は国語、社会、数学等の各教科について授与されるものとされていて、それぞれの教科ごとに当該免許状を有する教員による教育が行われている。このため、初任者と指導教員の免許教科が異なる場合には、教科内容について指導及び助言を行うことができないことから、指導教員とは別に、初任者と同じ免許教科の教員が教科指導員として任命され、教科内容について年間を通して責任をもって系統的に指導及び助言を行うものとされている。
 そして、教科指導員は校内の教員に限らず、他校の教員が任命されることもあるが、その指導及び助言は、実際の授業に即して反復して行われる必要があることから、初任者に教科指導員の授業を参観させる示範授業や初任者が教科指導員の下に行う研究授業等により年間を通して行うものとされている。

(国の助成措置)

 文部科学省では、初任者研修を円滑かつ効果的に実施するため、初任者が配属された公立の小学校、中学校等に指導教員又は教科指導員を配置できるよう、義務教育費国庫負担金等に所要の額を加算したり、教員研修事業費等補助金(初任者研修)を交付したりしている。

(義務教育費国庫負担金等による助成)

 文部科学省では、義務教育費国庫負担法(昭和27年法律第303号)等に基づき、教育の機会均等とその水準の維持向上とを図るため、公立の小学校、中学校等に要する経費のうち各都道府県の負担する教職員給与費等の経費について、原則としてその実支出額の2分の1を負担することとしており、義務教育費国庫負担金等を毎年度各都道府県に交付している。
 そして、義務教育費国庫負担金等の算定の基礎となる各都道府県ごとの教職員の定数は、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号)等に基づき、学校の種類及び学級数等を基礎として算定した数に、教員が初任者研修を受けているなどの特別な事情がある場合に、文部科学大臣が定める数を加えること(以下「加配」という。)により算定することとされている。
 上記の初任者研修に係る教員定数の加配措置は、初任者が2人又は3人配属された学校に教員1人を加配するものであり、平成13年度では2,248人(教員の加配に係る国庫負担金相当額96億9576万余円)、14年度では3,086人(同132億4070万余円)となっている。

(教員研修事業費等補助金による助成)

 文部科学省では、初任者研修を円滑かつ効果的に実施するため、教員研修事業費等補助金(初任者研修)交付要綱(昭和62年文部事務次官裁定)に基づき、都道府県及び指定都市が非常勤講師を配置した場合に教員研修事業費等補助金を交付している。
 上記の補助金は、〔1〕初任者が1人配属された学校(初任者が2人又は3人配属された学校であっても教員が加配されていない学校を含む。)に指導教員を措置できるよう非常勤講師を1人配置した場合、〔2〕初任者が2人又は3人配属された中学校等に教科指導員を措置できるよう非常勤講師を1人又は2人配置した場合に、それに要する経費(報酬及び交通費)の2分の1を補助するために交付されるもので、その額は13年度31億2678万余円、14年度42億8994万円となっている(概念図1参照)。

公立の中学校において初任者研修が円滑かつ効果的に実施されるよう改善させたものの図1

 上記の非常勤講師には、指導教員又は教科指導員に任命されている者と任命されていない者とがあり、指導教員等に任命されている非常勤講師は、初任者に対して必要な指導及び助言を行うとともに、校外研修で初任者が不在の時には当該初任者が担任している授業の代行を行うこととされている。また、指導教員等に任命されていない非常勤講師は、校内研修時に初任者又は指導教員等の担任している授業の代行を行ったり、初任者又は指導教員等の負担の軽減を図るため本来これらの者が担任すべき授業を担任したりすることとされている(概念図2参照)。

公立の中学校において初任者研修が円滑かつ効果的に実施されるよう改善させたものの図2

(初任者研修実施上の留意点)

 文部科学省では、各都道府県等の初任者研修等の担当者を対象として開催した会議において、初任者を小規模校やへき地校に配属したため生じる不適切な事例を示すなどして、初任者研修実施上の注意を促してきている。

2 検査の結果

(検査の着眼点及び対象)

 前記のとおり、初任者研修は法律の規定に基づいて実施されるものであり、文部科学省では、初任者が配属された学校において初任者研修を円滑かつ効果的に実施するため、義務教育費国庫負担金に所要の額を加算したり、補助金を交付したりしている。
 そして、中学校の教員の免許状は各教科について授与されるものとされていることから、中学校で実施される初任者研修においては、初任者と同じ免許教科の教員を教科指導員に任命して必要な指導及び助言を行わせたり、初任者又は指導教員等と同じ免許教科の非常勤講師を配置して授業の代行等を行わせたりする必要がある。
 そこで、福島県ほか25府県市(注1) に所在する公立の中学校において、13、14両年度に教員の加配又は非常勤講師の配置を受けて初任者研修を実施した1,963校(教員の加配に係る国庫負担金相当額37億3936万余円、非常勤講師の配置に係る国庫補助金相当額10億9393万余円)を対象として、初任者研修を円滑かつ効果的に実施する体制が十分に整えられているかに着眼して検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、福島県ほか15府県市(注2) に所在する196校(教員の加配に係る国庫負担金相当額2億3243万余円、非常勤講師の配置に係る国庫補助金相当額1億2371万余円)において、初任者研修を円滑かつ効果的に実施する体制が十分に整えられていないと認められる事態が次のとおり見受けられた。((1)、(2)及び(3)の中には事態が重複しているものがある。)

(1)教員の加配又は非常勤講師の配置を受けた学校において、初任者の免許教科と異なる免許教科の教員を教科指導員に任命するなどしていたもの
 府県市において、初任者と同じ免許教科の教員がいない中学校に初任者を配属したなどのため、〔1〕初任者の免許教科と異なる免許教科の教員を教科指導員に任命していたり(47校)、〔2〕授業を通した指導及び助言の時間が十分には確保できない他校の教員を教科指導員に任命していたり(27校)、〔3〕初任者と指導教員の免許教科が異なっているのに教科指導員を任命していなかったり(14校)していたものが、13府県市の88校(教員の加配40人に係る国庫負担金相当額1億7222万余円、非常勤講師68人の配置に係る国庫補助金相当額4811万余円)について見受けられた。
<事例1>
 A中学校(11学級)では、免許教科が音楽である初任者の負担軽減を図るため、免許教科が音楽である非常勤講師の配置を受けて音楽の授業の一部を担任させていた。そして、初任者の免許教科と指導教員の免許教科(数学)が異なっていることから、免許教科が音楽である教員を教科指導員として措置する必要があるのに同中学校には該当する教員がおらず、配置を受けた非常勤講師(音楽)も教員経験が少ないとして、免許教科が美術である教員が教科指導員に任命されていた。このため、初任者は、音楽の教科内容について指導及び助言を受けられなかった。

 一方、初任者の免許教科と同じ免許教科の教員が校内にいない場合でも、経験のある退職教員のうちから初任者と同じ免許教科の非常勤講師の配置を受けて指導教員に任命することによって、初任者が、その教科内容について指導及び助言を受けられたものも相当数見受けられた。

(2)教員の加配又は非常勤講師の配置を受けた学校において、初任者に免許外の教科を担任させていて、研修に専念できる体制を採っていなかったもの
 初任者が配属された中学校においては、初任者研修を円滑かつ効果的に実施するため教員の加配又は非常勤講師の配置を受け、初任者が研修に専念できるよう配慮することが求められている。しかし、校内にその教科を担任できる教員がいるのに、教科によって教員数が不足していることなどを理由として、初任者に免許外の教科を担任させていて、初任者が研修に専念できる体制を採っていなかったものが、11県市の70校(教員の加配25人に係る国庫負担金相当額1億0760万余円、非常勤講師72人の配置に係る国庫補助金相当額4787万余円)について見受けられた。

(3)初任者又は指導教員等の授業の代行や負担の軽減を行うため非常勤講師の配置を受けた学校において、初任者等の授業の代行や負担の軽減が行われていなかったもの
 県市において、学校の時間割の編成上必要となる教科に非常勤講師を配置したなどのため、初任者又は指導教員等が本来担任する教科とは異なる教科の授業を非常勤講師に行わせるなどしていて、初任者又は指導教員等の授業の代行や負担の軽減が行われていなかったものが、6県市の69校(非常勤講師70人の配置に係る国庫補助金相当額4642万余円)について見受けられた。
<事例2>
 B中学校(26学級)では、免許教科が数学である初任者を指導及び助言するため、免許教科が数学である校内の教員が指導教員に任命されていたが、非常勤講師については、学校の時間割の編成上必要であるとして免許教科が技術である非常勤講師の配置を受けていた。このため、初任者又は指導教員の授業の代行や負担の軽減は行われていなかった。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、文部科学省が初任者研修実施上の注意を促しているにもかかわらず、府県市において、初任者研修を円滑かつ効果的に実施するため義務教育費国庫負担金による教員の加配又は教員研修事業費等補助金による非常勤講師の配置が行われているという制度の趣旨に対する認識が不足していたことのほか、次のようなことによると認められた。
(ア)府県市において、〔1〕初任者研修への配慮が十分でないまま初任者を配属する学校を決めたこと、〔2〕非常勤講師を教科指導員に任命することも含めて教科指導員を適切に任命することについての認識が不足していたこと、〔3〕他校の教員を教科指導員に任命した場合、初任者との日程調整を十分行い、授業を通した指導及び助言を行う時間を確保するよう学校に対して指導していなかったこと
(イ)県市において、初任者が研修に専念できる体制を採るため、初任者に免許外の教科を担任させないよう学校に対して指導していなかったこと
(ウ)県市において、初任者又は指導教員等と同じ免許教科の非常勤講師を配置することへの認識が不足していたこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、文部科学省では、都道府県等において初任者研修が円滑かつ効果的に実施されるよう、15年9月に同省主催の会議を開催するとともに、同年10月に都道府県等に対し通知を発するなどして、次のような処置を講じた。
(ア)都道府県等に対し、初任者研修を円滑かつ効果的に実施するため義務教育費国庫負担金等による教員の加配又は教員研修事業費等補助金による非常勤講師の配置が行われているという制度の趣旨を周知徹底した。
(イ)都道府県等に対し、初任者研修へ十分配慮して初任者を配属する学校を決めるよう周知徹底するとともに、初任者の免許教科と同じ免許教科の教員や非常勤講師を教科指導員に任命することなどの指導を行った。

(注1) 福島県ほか25府県市 京都、大阪両府、福島、神奈川、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、島根、福岡、佐賀、鹿児島、沖縄各県、川崎、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、北九州、福岡各市
(注2) 福島県ほか15府県市 大阪府、福島、神奈川、長野、岐阜、静岡、愛知、兵庫、奈良、和歌山、鹿児島、沖縄各県、川崎、横浜、名古屋、大阪各市