1 本院が表示した改善の意見
厚生労働省(平成13年1月5日以前は厚生省)では、介護保険制度導入前の平成11年度以前においては、市町村が、身体上又は精神上の理由により居宅において必要な介護を受けることが困難な老人を特別養護老人ホーム(以下「特養ホーム」という。)に入所させ養護する場合に、その養護に係る費用(以下「措置費」という。)の一部を老人福祉施設保護費負担金として負担していた。
措置費は、市町村から特養ホームに交付され、特養ホームでは当該年度の措置費は原則として当該年度中に使用することとされていた。ただし、入所した老人の処遇及び職員の給与水準が適正に維持され、かつ、施設運営等が適正に確保されていて、なお当該年度の措置費に残余が生じた場合は、これを人件費引当金等に繰り入れ、残余の措置費は繰越金として整理することが認められていた。
その後、12年度の介護保険制度の導入に伴い、11年度末時点において特養ホームに生じている繰越金及び引当金は特別積立預金として管理することとされ、これが措置費の残余であることから、その使途に制限が設けられ、当該特養ホームに係る公的補助事業として行う大規模修繕など特定の場合に限定された。
そこで、特別積立預金の使途並びに今後の使用目的及び使用予定額について検査したところ、多くの特養ホームにおいて、多額の特別積立預金が現行の使途制限の中で具体的な使用予定がない状況となっていて、今後もこの特別積立預金が長期にわたり滞留し続けることになると認められた。
このような事態が生じているのは、厚生労働省において、特別積立預金が有効に活用されるための適切な措置を講じていないことによると認められた。
特別積立預金について、特養ホームを経営する社会福祉法人の経営基盤の強化と高齢者福祉サービスの質の向上に資するものとなるよう、より有効な活用を図るための措置を講ずる要があるとして、厚生労働大臣に対し14年11月に、会計検査院法第36条の規定により改善の意見を表示した。
2 当局が講じた改善の処置
厚生労働省では本院指摘の趣旨に沿い、15年7月に都道府県等に対し「特別養護老人ホームにおける繰越金等の取扱い等について」(平成12年3月老発第188号厚生省老人保健福祉局長通知)を一部改正する通知を発し、特別積立預金のより有効な活用を図るよう、特別積立預金の使途が当該特養ホームに係る公的補助事業として行う大規模修繕等に限定されていたのを緩和し、特養ホームを経営する社会福祉法人が老人福祉に関する事業を経営するために必要な施設・設備の整備や用地の取得に要する経費及び当該事業の運営に要する費用に充てることができることとするなどの処置を講じた。