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  • 平成14年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第12 環境省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

廃棄物処理施設整備事業における施設建設工事請負契約の入札に当たり、原則として最低制限価格を設定しないこととして、競争の利益を阻害することのないよう改善させたもの


(2)廃棄物処理施設整備事業における施設建設工事請負契約の入札に当たり、原則として最低制限価格を設定しないこととして、競争の利益を阻害することのないよう改善させたもの

所管、会計名及び科目 環境省所管  一般会計  (組織)環境省  (項)廃棄物処理施設整備費
(項)離島振興事業費
  平成11年度以前は、
厚生省所管  一般会計  (組織)厚生本省
    (項)環境衛生施設整備費
    (項)離島振興事業費
  財務省所管 産業投資特別会計(社会資本整備勘定)
    (項) 改革推進公共投資廃棄物処理施設整備事業資金貸付金
部局等の名称 環境本省(平成13年1月5日以前は厚生本省)
補助の根拠 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)等
補助事業者
(事業主体)
市4、町2、村1、一部事務組合9、広域連合1、計17事業主体
補助事業 廃棄物処理施設整備事業
補助事業の概要 生活環境の保全等のため、ごみ処理施設、ごみ燃料化施設、汚泥再生処理センター等の廃棄物処理施設を整備するもの
廃棄物処理施設建設工事請負契約の総額 494億0622万余円 (平成10年度から14年度までの間に契約を締結した分)
上記に対する国庫補助金相当額の合計(廃棄物処理施設整備事業資金貸付金相当額を含む。) 145億0485万余円  
過大となっていると認められる建設工事請負契約の額 39億2307万円 (平成10年度から14年度までの間に契約を締結した分)
上記に対する国庫補助金相当額(廃棄物処理施設整備事業資金貸付金相当額を含む。) 12億1423万円  

1 制度の概要

(廃棄物処理施設整備費国庫補助金等の概要)

 環境省(平成13年1月5日以前は厚生省)では、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)等に基づき、廃棄物の円滑かつ適正な処理を行うことにより生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的として、ごみ処理施設、ごみ燃料化施設、汚泥再生処理センター等の廃棄物処理施設の整備を行う市町村、一部事務組合等(以下「事業主体」という。)に対し、廃棄物処理施設整備費国庫補助金を交付している。
 この補助金は、「廃棄物処理施設整備費の国庫補助について」(昭和53年厚生省環第382号厚生事務次官通知)等に基づき、廃棄物処理施設の整備に要した工事費及び事務費を補助対象事業費として交付されるものである。そして、その交付額は、10年度1660億0859万余円、11年度1936億3718万余円、12年度2419億0370万余円、13年度2977億2442万余円、14年度1637億9866万余円と毎年度多額に上っている。
 また、13年度第2次補正予算には、産業投資特別会計に、この補助金と同じ目的で廃棄物処理施設整備事業資金貸付金が計上されている。この貸付金は、日本電信電話株式会社の株式の売払収入を貸付原資として、廃棄物処理法により国が補助金を交付することができる廃棄物処理施設の設置について、その補助金相当額を事業主体に無利子で貸し付けるもので、償還の際、事業主体に償還額に相当する額の補助金が交付されることとされている。そして、その貸付額は、13年度70億2664万余円、14年度729億8045万余円となっている。

(最低制限価格制度の概要)

 地方自治法(昭和22年法律第67号)及び地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)の規定によると、地方公共団体において契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設け、予定価格の制限の範囲内で最低制限価格以上の価格をもって入札をした者のうち、最低の価格をもって入札をした者を落札者とすることができるとされている(以下、この制度を「最低制限価格制度」という。)。
 そして、事業主体では、廃棄物処理施設の建設工事に係る請負契約(以下「廃棄物処理施設請負契約」という。)について、最低制限価格を設けている場合が少なくない。
 最低制限価格制度は、あらかじめ最低制限価格を設けておくことにより、競争入札において、契約の内容に適合した履行を確保することが困難と認められる低価格により落札されて粗漏工事が行われることなどを防止し、もって契約の内容に適合した履行を確保することを目的とするものである。
 最低制限価格を設けている場合には、これを下回る価格で入札した者は無条件に失格となり、競争入札から排除されることとなる。これは、地方自治法上、競争入札を行う場合には、原則として、予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって入札した者を契約の相手方とするとされていることの重要な例外であり、最低制限価格が合理的な根拠に基づいて設定されていない場合には、競争契約における競争の利益を阻害するおそれがある。

(廃棄物処理施設請負契約における最低制限価格制度の運用)

 廃棄物処理施設請負契約等における最低制限価格制度の運用については、昭和58年に厚生省から都道府県知事あてに次のとおり通知されている。すなわち、「環境衛生施設整備費(水道施設及び廃棄物処理施設)補助事業の適正執行について」(昭和58年環計第65号厚生省環境衛生局水道環境部長通知)によると、都道府県では、管下の市町村等に対し、最低制限価格制度を採用するに当たっては、慎重に検討するものとし、特別の事情によりやむを得ず採用する場合であっても、予定価格に対し高率な最低制限価格を設定し、競争の利益を失うことのないよう十分に指導することとされている。

(廃棄物処理施設請負契約の発注方式と予定価格)

 一般の工事請負契約では、事業主体において設計及び工事費の積算を行い、これを基礎として予定価格を設定した上、その施工を業者に委ねている。これに対し、廃棄物処理施設請負契約では、従来から、事業主体において発注する施設に必要な性能等を発注仕様書に示した上、業者から見積りを徴し、これを基礎とするなどして予定価格を設定し、施設の実施設計及び施工をいずれも同一の業者に委ねることとして入札を行い、落札業者に発注する方式(以下「性能発注方式」という。)が採用されている場合が少なくない。
 そして、厚生省が52年に都道府県あてに通知した「一般廃棄物処理施設建設工事に係る発注仕様書の標準様式等について」(昭和52年環整第57号環境衛生局水道環境部環境整備課長通知)によると、一般廃棄物処理施設の建設工事の発注に当たっては、同通知に示されている標準様式により発注仕様書を作成し、各工事施工業者から当該発注仕様書に基づく見積仕様書及び設備工事別見積書を提出させ、これらを十分審査のうえ契約するよう事業主体を指導することとされている。
 また、同省の52年の都道府県あて事務連絡によると、予定価格については、当該市町村等が作成した発注仕様書に基づいて3社以上の工事施工業者から見積仕様書及び設備工事別見積額を提出させ、各設備工事(例えば、炉本体設備工事、燃焼設備工事、通風設備工事等)の別に中位の見積額を出し、これを集計した額とするなどとされている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 本院では、平成10年度決算検査報告において、廃棄物処理施設整備事業による焼却処理施設等の建設に係る工事請負契約の状況等を「特定検査対象に関する検査状況」として掲記した。そして、最低制限価格制度の運用の次第によっては、契約の内容に適合した履行を期待できる入札業者を排除する結果となる場合があることに十分留意する必要があることなどから、このような点についても引き続き注視していくとした。
 そこで、廃棄物処理施設請負契約について、事業主体における最低制限価格制度の運用状況はどのようなものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか24都府県(注) 管内の334事業主体が平成10年度から14年度までに国庫補助金等の交付等(交付決定等を含む。)を受けて実施した廃棄物処理施設整備事業において、性能発注方式を採用し、かつ、同種工事の施工実績等に基づき入札参加業者に一定の資格制限を設けて行う一般競争入札又は指名競争入札(以下、これらを「指名競争入札等」という。)の方式により締結された次の廃棄物処理施設請負契約計397件(契約総額1兆1556億0067万余円、うち補助対象事業費9303億6234万余円(廃棄物処理施設整備事業資金貸付金の貸付対象事業費を含む。)、国庫補助金相当額3591億1977万余円(廃棄物処理施設整備事業資金貸付金相当額を含む。以下同じ。))について検査した。
(ア) ごみ処理施設、ごみ燃料化施設及び汚泥再生処理センターの新設事業に係る廃棄物処理施設請負契約計135件
(イ) ダイオキシン類濃度の規制強化に対応するための既存のごみ処理施設の改良事業に係る廃棄物処理施設請負契約計262件

(検査の結果)

 検査したところ、次のとおりとなっていた。

(1) 最低制限価格の設定理由

 上記の397件のうち、111事業主体が締結した131件(契約総額2938億9248万余円、補助対象事業費2456億6550万余円、国庫補助金相当額864億7752万余円)の廃棄物処理施設請負契約で最低制限価格が設定されていた。
 そこで、この111事業主体が最低制限価格を設定した理由について調査したところ、多くの事業主体では、一定額以上の工事契約についてはすべて最低制限価格を設定することが慣例となっていたり、ダンピングを防止するためといった漠然とした理由で最低制限価格を設定していたりしていた。そして、最低制限価格の設定が契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要であるか否かについて慎重に検討していた事業主体は、ほとんど見受けられなかった。

(2) 最低制限価格制度の必要性

 廃棄物処理施設請負契約の入札に参加するプラントメーカーは数十社に限られており、そのほとんどが優れた専門技術や資金力を有する上場企業及びその関連企業となっていた。そして、事業主体では、廃棄物処理施設請負契約について指名競争入札等を行うに当たり、これらのプラントメーカーについて過去の施工実績、資力、信用、施工能力等を審査し、契約の内容に適合した履行が十分期待できると認められた業者を入札に参加させていた。
 また、廃棄物処理施設請負契約上、施工された廃棄物処理施設を請負業者から正式に引渡しを受ける時期は、工事完了後一定期間の試運転を行って設備を実際に稼働させ、公的な第三者機関の計測に基づき施設が発注仕様書に示した性能を発揮していることが確認された時点とされていた。
 したがって、廃棄物処理施設請負契約については、その内容に適合した履行の確保は最低制限価格制度の運用以外の方途により十分に確保され得るものとなっており、最低制限価格制度によりその履行の確保を図るべき必要性は乏しいものと認められた。
 現に、最低制限価格を設定していなかった223事業主体のうち相当数の事業主体では、上記の事由から、最低制限価格を設定しなくても契約の内容に適合した履行を確保できるとしていた。また、この223事業主体が締結した廃棄物処理施設請負契約の中には、落札比率が3分の2を下回った契約が16件見受けられたが、これらはいずれも契約の内容に適合した履行が確保されていた。

(3) 最低制限価格制度による入札業者の排除の状況

 前記131件の契約のうち、17事業主体が締結した計20件の契約(契約総額494億0622万余円、これに対する国庫補助金相当額145億0485万余円)では、過去の施工実績、資力、信用、施工能力等から契約の内容に適合した履行を確保できるとして選定された業者のみを参加業者として入札を実施していたのに、最低制限価格が設定されていたため、これを下回る金額で入札した業者が失格となり、排除されていた。そして、これらの廃棄物処理施設請負契約では、競争の利益を阻害する結果となっていると認められた。
 上記について事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A事業主体では、平成12年9月に汚泥再生処理センター建設工事請負契約の入札に当たり、予定価格を3,112,695,600円(消費税相当額を含む。以下同じ。)としていた。そして、同事業主体を構成する町村のうち、過半数の町村で、すべての工事請負契約の入札に最低制限価格を設定することが慣例となっていたことから、最低制限価格を2,645,791,260円(予定価格の85.0%)と設定していた。
 そして、13社による指名競争入札の結果、予定価格の制限の範囲内で最低制限価格を上回る2,740,500,000円(予定価格の88.04%)で入札した業者を落札者とし、最低制限価格を下回る2,292,045,000円(同73.63%)から2,602,950,000円(同83.62%)までの金額で入札した他の12社を失格として排除していた。
 しかし、入札に参加した13社は、いずれも過去の施工実績、資力、信用、施工能力等を十分に審査の上、契約の内容に適合した履行を期待できるとして指名された業者であった。

(4) 最低制限価格制度による入札業者の排除の合理性

 廃棄物処理施設の建設工事は、多くの場合、特殊なノウハウに基づく複雑かつ大規模な技術システムであるプラント本体の機器類(特殊製品)を施工現場に有機的に配置し、必要に応じて土木建築工事を行うものであり、このような特殊製品の額が実施設計額中に占める割合は、平均で3分の2程度となっていて、高い割合を占めている。
 そして、このような特殊製品は、プラントメーカーにより、方式、形状、寸法等がそれぞれ異なっており、施工方法の標準化が困難であることから、これらの施設に係る工事費の標準積算体系は確立されていないのが現状である。
 このため、廃棄物処理施設請負契約では、入札に先立ち、事業主体においてその直接工事費等を積算することは行われておらず、複数の業者に全体工事費に係る見積りを依頼し、これらの業者から提出された見積りの平均値を基礎とするなどして予定価格を設定している状況にある。
 したがって、廃棄物処理施設請負契約において、入札価格が最低制限価格を下回っているとしても、事業主体において、当該入札業者により施工された場合には契約の内容に適合した履行を確保することが困難であるとして当該業者を競争入札から排除することは、前記のとおり、発注仕様書に示した性能を発揮していることが確認された時点で当該施設の正式な引渡しが行われることなども併せ考慮すれば、合理的な根拠に基づくものとは認められない。

(過大となっていると認められた補助金等)

 以上を踏まえ、最低制限価格を下回る価格で入札した業者を失格として排除していた前記の17事業主体における計20件の契約において、最低制限価格を設定せずに最低価格入札者と契約したとすると、契約総額は計454億8315万余円(これに対する国庫補助金相当額132億9061万余円)となり、国庫補助金相当額12億1423万余円が過大となっていると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 事業主体において
(ア) 性能発注方式を採用している廃棄物処理施設請負契約では、最低制限価格制度によりその契約内容に適合した履行を確保する必要性が乏しいのに、最低制限価格を設定する取扱いが慣例となっていたことなどから、その必要性について十分な検討を行わないまま最低制限価格を設定していたこと
(イ) 廃棄物処理施設請負契約では最低制限価格を合理的な根拠に基づいて設定することが困難であることについての認識が十分でなかったこと
イ 環境省及び都道府県において
 廃棄物処理施設請負契約に係る入札の際、最低制限価格を設定する必要性に乏しいことや、最低制限価格を合理的根拠に基づいて算定することが困難であることについての認識が十分でなく、事業主体に対し、十分な指導を行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、環境省では、15年10月に都道府県に対して通知を発し、市町村等において指名競争入札等における競争の利益を阻害することのないよう、廃棄物処理施設請負契約では原則として最低制限価格を設定しないこととし、やむを得ず設定する場合には、その必要性について十分検討した上、設定理由等を明確にするよう事業主体に周知させる処置を講じた。

北海道ほか24都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、宮城、秋田、福島、茨城、群馬、埼玉、新潟、石川、長野、岐阜、三重、和歌山、鳥取、広島、香川、愛媛、福岡、佐賀、熊本、大分、沖縄各県