科目 | (項)高速道路建設事業費 |
(項)社会資本整備事業費 | |
部局等の名称 | 東京建設局 |
工事名 | SJ62工区(1)トンネル工事ほか8工事 |
工事の概要 | 高速道路の建設工事の一環として、シールドマシン等により地中にトンネル構造の高速道路を築造するなどの工事 |
工事費 | 1292億5500万円 |
請負人 | 間・東洋・太平SJ62(1)トンネル特定建設工事共同企業体ほか8特定建設工事共同企業体 |
契約 | 平成12年9月〜14年3月 一般競争契約、随意契約 |
テールグリス及び泥水調整剤の材料費の積算額 | 6億5738万余円 |
低減できたテールグリス及び泥水調整剤の材料費の積算額 | 5880万円 |
1 工事の概要
首都高速道路公団(以下「公団」という。)東京建設局では、平成13、14両年度に、高速道路の建設工事の一環として、シールドマシンを使用してトンネルを掘削したり、地中連続壁掘削機を使用して山留壁を築造したりすることにより、地中にトンネル構造の高速道路を築造するなどの工事を9工事(工事費総額1292億5500万円)施行している。
上記各工事のうち、シールドマシンによるトンネル掘削工事(以下「シールドトンネル工事」という。)では、シールドマシンの掘進の都度、シールドマシンの後方の内側で鋼製又は鉄筋コンクリート製のセグメントを順次組み立てることとしている。そして、セグメントの組立作業を行う際に、シールドマシンとセグメントの間に生じる隙間(5cm程度)から地下水等がシールドマシン内部に浸水することを防止するため、この隙間に粘性の高いテール止水用グリス(以下「テールグリス」という。)を充てんすることとしている(参考図参照)
。
また、シールドトンネル工事及び山留壁工事では、シールドマシンによる掘削先端部や地中連続壁掘削機による地中掘削時の壁面の土が崩落しないよう、掘削した空間に比重の大きな粘性土を溶かした泥水を満たし、その圧力を利用して壁面を押さえながら掘削することとしているが、この泥水の粘性を向上させるために泥水調整剤を使用することとしている。
公団では、工事の材料費は、公団制定の「工事設計積算基準(土木編)」(以下「積算基準」という。)に基づいて積算することとされており、材料単価については、次のように決定することとされている。
〔1〕 公団が毎年度制定している「材料単価表」(以下「単価表」という。)を基準とする。
〔2〕 材料単価が単価表にない場合は、刊行物である積算参考資料に掲載された価格による。ただし、掲載されている価格が公表価格(メーカー希望販売価格)である場合は、この価格が市場における実際の取引価格(以下「市場価格」という。)を反映したものではないため、本社と協議のうえ単価を決定する。
〔3〕 材料単価が単価表や積算参考資料にあっても使用する量が大量の場合は、本社と協議のうえ単価を決定する。
〔4〕 単価表にも積算参考資料にも価格がない場合は見積りによるものとし、3社以上から見積りを徴した場合には最低見積価格に95%を、3社未満の場合には最低見積価格に90%を乗じて得た価格を採用する。
東京建設局では、本件各工事において使用するテールグリス及び泥水調整剤の材料費の積算を次のように行い、その積算額を計6億5738万余円と積算していた。
(ア) テールグリスの材料費について
テールグリスの材料単価については、上記の〔2〕により、単価表に記載されていないことから積算参考資料によることとしたところ、掲載されている価格が公表価格(18kg当たり12,000円)であったため、本社と協議した結果、3社未満の見積りの場合と同様に取扱うこととして、公表価格に90%を乗じて1kg当たり600円などと算定し、その材料費を1億9373万余円と積算していた。
(イ) 泥水調整剤の材料費について
泥水調整剤の材料単価については、単価表に1kg当たり740円の価格が記載されており、前記の〔3〕により、その使用量について大量かどうか本社と協議した結果、大量なものではないと判断してこの価格をそのまま採用し、その材料費を4億6364万余円と積算していた。
2 検査の結果
近年、公団における高速道路建設事業は、その主体が高架橋工事から地下トンネル工事へ移行しており、シールドマシン又は地中連続壁掘削機を使用する工事が増加している。そして、これらの工事において使用されるテールグリスや泥水調整剤の使用量は増大しており、その材料費も多額に上っている、このため、これらの材料費の積算が適切に行われているかに着眼して検査した。
検査したところ、テールグリス及び泥水調整剤の材料費の積算について、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。
(ア) テールグリスの材料費について
テールグリスの材料単価については、同局では、前記のとおり、積算参考資料掲載の公表価格に90%を乗じた額としていた。しかし、この額が市場価格を反映したものであるかどうかは検討しておらず、また、本件各シールドトンネル工事におけるシールドマシンの外径は12m程度と大きいためテールグリスの使用量は27tから74tと大量になることから、公表価格からは相当額の値引きがあり得るものと想定された。
そこで、同種のシールドトンネル工事を多数施行している他機関におけるテールグリスの材料単価の決定方法について調査したところ、これらの機関では、特別調査(注)
を行って市場価格を把握し、これに基づいて材料単価を決定しており、その単価は積算参考資料掲載の公表価格の78%程度となっていた。また、本院の指摘に基づいて公団が15年3月にテールグリスの市場価格について特別調査を実施した結果を見ても、その価格は、取引数量が20t以上の場合1kg当たり500円となっており、同時点での積算参考資料掲載の公表価格(1kg当たり666円)の75%程度となっていた。
(イ) 泥水調整剤の材料費について
泥水調整剤の材料単価については、同局では、前記のとおり、単価表に記載されている単価を適用していた。しかし、一方、積算参考資料には、単価表に記載されている泥水調整剤の材料単価と同一の価格が掲載されており、これによれば、掲載価格は、その取引数量が5tから10t程度の場合の価格であるとされていた。これに対し、本件各工事の泥水調整剤の使用量は71tから381tと10tを大幅に超えていて、取引数量が大量となることから、実際の取引においては単価表に記載されている価格から値引きされることが想定された。
そして、本院の指摘に基づいて公団が同年3月に泥水調整剤の市場価格について特別調査を実施した結果、その価格は、取引数量が30t以上の場合1kg当たり700円となっており、同時点での単価表記載の価格(1kg当たり740円)の95%程度となっていた。
したがって、公団において、テールグリス及び泥水調整剤の材料単価を決定するに当たり、上記(ア)(イ)のように、市場価格とかい離した材料単価で積算していることは適切とは認められず、特別調査を実施するなどして適切な積算を行う要があると認められた。
上記により、本件各工事におけるテールグリス及び泥水調整剤の材料費について、公団が実施した前記の特別調査に基づく市場価格により修正計算すると、テールグリスは1億5995万余円、泥水調整剤は4億3858万余円、計5億9854万余円となり、前記の積算額6億5738万余円を約5880万円低減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、積算基準において、材料単価を決める際に、積算参考資料に掲載されている価格が公表価格である場合及び材料単価が単価表や積算参考資料に掲載されていても使用量が大量な場合については、本社と協議すると定めているだけで具体的な取扱い方が定められていなかったため、テールグリス及び泥水調整剤の材料費の積算に当たり市場価格を適切に把握することなく積算していたことによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、公団では、15年10月に材料単価が積算参考資料掲載の公表価格である場合及び使用数量が一定の取引数量を超える大量の場合には、特別調査を行い材料単価を決定するよう積算基準を改正し、同月以降契約する工事から適用する処置を講じた。