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日本育英会から育英奨学事業を承継する独立行政法人日本学生支援機構の成立に際し、日本育英会の延滞債権について、適切な対策を講ずるよう改善の意見を表示したもの


日本育英会から育英奨学事業を承継する独立行政法人日本学生支援機構の成立に際し、日本育英会の延滞債権について、適切な対策を講ずるよう改善の意見を表示したもの

科目 貸付金
部局等の名称 日本育英会
事業の根拠 日本育英会法(昭和59年法律第64号)
事業の概要 優れた学生及び生徒であって経済的理由により修学に困難があるものに対し、学資の貸与等を行う事業
貸付金残高 2兆7133億円 (平成13年度末)
上記のうち延滞債権額 1562億円  

【改善の意見表示の全文】

育英奨学事業における延滞債権の評価及び回収施策の策定について

(平成15年11月6日付け 日本育英会理事長あて)

 標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の意見を表示する。

1 育英奨学事業の概要

(事業の概要)

 貴会は、日本育英会法(昭和59年法律第64号)に基づき、優れた学生及び生徒であって経済的理由により修学に困難があるものに対し、学資の貸与(以下、貸与する学資を「奨学金」という。)等を行うことにより、国家及び社会に有為な人材の育成に資するとともに、教育の機会均等に寄与することを目的として、育英奨学事業を実施している。
 上記の奨学金には、第一種奨学金と成績、経済的理由においてやや条件が緩和された第二種奨学金の二種類があり、その概要は次のとおりとなっている。
(ア)第一種奨学金は、高等学校、短期大学、大学、大学院、高等専門学校、専修学校に在学する学生及び生徒のうち、特に優れた学生及び生徒であって経済的理由により著しく修学に困難があるものと認定された者を対象に無利息で貸与される奨学金である。
(イ)第二種奨学金は、短期大学、大学、大学院、高等専門学校(第4学年及び第5学年に限る。)、専修学校(専門課程に限る。)に在学する優れた学生及び生徒であって経済的理由により修学に困難があるものと認定された者を対象に利息を付して貸与される奨学金である。
 そして、これらの奨学金の貸与を受けていた者は、卒業等により貸与が終了した月の翌月から起算して6月を経過した後、20年以内に奨学金を貴会に返還することとされており、その返還方法は年賦、半年賦、月賦及び半年賦・月賦の併用による割賦払とされている。また、死亡又は心身障害により奨学金を返還することができなくなった者や第一種奨学金の貸与を受けた者のうち教育又は研究の職に就いた者で所定の条件を満たす者は、奨学金の全部又は一部の返還の免除を受けることができるとされている。

(奨学金の原資)

 貴会の資金の調達状況をみると、第一種奨学金の原資は、奨学金の貸与を受けた者からの返還金及び国の一般会計からの無利子による借入金(35年後一括償還)である。
 また、第二種奨学金の原資は、奨学金の貸与を受けた者からの返還金、国の財政融資資金からの借入れ及び貴会が発行する財投機関債による借入金である。

(事業の規模)

 育英奨学事業が実施された昭和18年度から平成13年度までの間に、奨学金の貸与を受けた者の累計は647万余人、貸与金額の累計は5兆0212億余円に上っている。また、貸与した奨学金の回収額及び返還免除額並びに債権償却額の累計は、回収額1兆8941億余円、返還免除額4135億余円、債権償却額2億余円、計2兆3079億余円となっており、13年度末の貸与金の残高は第一種奨学金1兆8539億余円、第二種奨学金8593億余円、計2兆7133億余円となっている。
 そして、奨学金の毎年の貸与者数及び貸与額は、表1のとおり年々増加しており、これは第二種奨学金の貸与者数の増加に負うところが大きい。

表1
(単位:人、百万円)

区分 10年度 11年度 12年度 13年度



第一種奨学金 371,612 386,524 402,710 400,428
第二種奨学金 113,430 207,684 292,807 351,852
485,042 594,208 695,517 752,280


第一種奨学金 201,145 212,789 223,593 227,320
第二種奨学金 64,979 138,836 206,785 252,383
266,125 351,626 430,379 479,703

(返還金の回収及び延滞債権の状況)

 返還金の滞納は件数、金額とも増加しており、12、13両年度の回収状況及び返還期日が到来している割賦金の返還を滞納している要返還者に対して貴会が有するすべての貸付金債権(以下「延滞債権」という。)の状況は表2のとおりであり、13年度末現在の延滞債権額は1562億余円に達している。

表2
(単位:千件、百万円)

区分 12年度 13年度
件数 金額 件数 金額



要回収額
滞納分
当年度分
157,092
28,151
239,940
170,275
31,209
139,066
回収額(繰り上げ返還分を除く)
滞納分
当年度分
124,612
5,817
118,795
134,699
6,142
128,557
年度末滞納額 183 32,479 192 35,575
 年度末延滞債権額 183 142,395 192 156,213

(債権の回収方法)

 貴会は、「日本育英会が行う学資金回収業務の方法に関する省令」(昭和59年文部省令第42号。以下「省令」という。)の定めるところにより、割賦金の返還を滞納している要返還者に対しては、少なくとも6箇月ごとに当該要返還者が滞納している割賦金の額及びその支払方法等を示して返還を督促するものとするとされ、要返還者の住所を知ることができないときや督促を重ねても要返還者が割賦金を返還しないときなどは、当該要返還者の連帯保証人又は保証人に対して督促等を行うものとするとされている。さらに、割賦金の返還を滞納している要返還者又はその連帯保証人若しくは保証人が督促等を受けてもその滞納している割賦金を返還しないときなどは、民事訴訟法(平成8年法律第109号)、民事執行法(昭和54年法律第4号)等に定める手続により割賦金の返還を確保するものとするとされている。

(割賦金に係る延滞金)

 貴会では、割賦金の返還を滞納している要返還者に対し、省令の定めるところにより、滞納している割賦金(利息を除く。以下同じ。)の額につき年10%の割合で計算した金額を延滞金として賦課することとしている。そして、日本育英会業務方法書(昭和59年文部大臣認可。以下「業務方法書」という。)の定めるところにより、要返還者から入金された返還金については、督促費用、延滞金、利息、割賦金の順に充当することとなっている。

(貴会の独立行政法人化)

 貴会の業務は、独立行政法人日本学生支援機構法(平成15年法律第94号。以下「機構法」という。)の制定により、財団法人日本国際教育協会、財団法人内外学生センター、財団法人国際学友会、財団法人関西国際学友会が行ってきた業務の一部と併せ、学生支援業務を総合的に実施する新機関として16年4月に設置される独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)に承継されることとなった。そして、貴会は機構の成立と同時に解散することとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 貴会に対しては、8年12月に、奨学金の回収が適切に行われるよう改善の意見を表示したところである。その後、貴会では、7年度から導入した口座振替によって奨学金の回収を行う制度を、10年3月卒業の貸与終了者からは原則として全員加入の制度とするなど種々の施策を講じてきた。しかし、最近の奨学金の回収及び貸付金債権の状況をみると、滞納者数・滞納額とも増加してきており、上記の意見表示を行った当時(7年度末現在)には14万9千人、200億円であったものが、現在(13年度末現在)では17万9千人、355億円となっている。
 一方、第一種奨学金の場合、要返還者に対して返還を免除した金額については、一般会計への償還が免除されることとなっており、その額は13年度末までの累計で4135億余円と多額になっている。償還の免除は借入時期の古い順に行われ、既に昭和50年代半ばまでの借入金については償還が免除されている。そして、一般会計への償還は当初の借入れから35年後に一括償還することとなっているため、現時点ではまだ償還する必要は生じていない。さらに、第二種奨学金についても、奨学金の返還期間が第二種奨学金の原資の大半を占める財政融資資金の償還期間よりも短い場合が多いことや多額の繰上返還が行われていることから、償還財源に不足は生じていない。このような事情から、貴会の現行の業務運営において資金繰りに支障を来すまでには至らなかった。
 また、現行の特殊法人の会計制度では回収が危惧される債権に対して回収不能額を合理的に見積もって貸倒引当金を計上するなどの処理が定められていない。そのため、貴会では、延滞債権に対して明白な回収不能債権についてのみ整理し、また、国への償還免除制度のない第二種奨学金に対して、毎年度末一律に、その期末残高の1000分の3に相当する額の貸倒引当金を計上しているほかは特に措置を講じていない。
 しかし、前記のとおり、貴会の業務は、機構法により平成16年4月に新たに設置が予定されている機構へ移行されることとなっている。そして、同法の制定に先立って示された「特殊法人等の廃止・民営化等及び独立行政法人の設立等に当たっての基本方針」(平成14年10月特殊法人等改革推進本部決定)では、資産・負債の承継については時価評価とし、仮に欠損金が生じていても安易な国費投入を認めない一方で、業務を確実に実行するために必要な財産的基礎の確保を図る観点から、欠損金の具体的な処理方策の策定とその着実な実行が求められている。
 このような状況の下で、増加を続ける延滞債権に対する時価評価とそれに伴う会計処理や回収業務の見直しが不十分なまま機構の設立を迎えることは、円滑な移行の妨げになるとともに設立当初から財政基盤に欠陥を与えるおそれもあることから、貴会が抱えている延滞債権について、以下の点に着眼して検査した。
〔1〕 延滞債権の今後の回収見通しはどの程度か
〔2〕 延滞債権の会計処理は実態に照らして適切か
〔3〕 延滞債権の回収及び滞納防止のための措置は適切か

(検査の対象)

 貴会では、日本育英会の債権の管理に関する規程(平成12年達第1001号)に基づき、卒業等により貸与が終了した者に係る貸付金債権を、滞納期間、収入・資産の状況及び口座振替の有無等に応じて、第A分類(正常先に対する債権)、第B分類(要注意先に対する債権)、第C分類(破綻懸念先に対する債権)、第D分類(実質破綻先に対する債権)、第E分類(破綻先に対する債権)に分類して管理しており、その総額は1兆5486億余円となっている。そして、13年度末における各分類の件数、金額及び分類基準は表3のとおりである。

表3
(単位:件、百万円)

分類 件数 債権額 分類基準
第A分類 1,387,410 1,377,935 滞納3箇月未満、正常事由による猶予等
第B分類 56,029 56,189 滞納3箇月以上6箇月未満、生活困窮による猶予等
第C分類 138,204 113,404 滞納6箇月以上、返還誓約書未提出、口座振替未加入等
第D分類 2,629 1,037 自己破産、長期無応答、連帯保証人の無資力等
第E分類 151 65 回復見込みのない無資力、連帯保証人の死亡等
1,584,423 1,548,632

 一方、独立行政法人会計基準(平成15年3月改訂)においては、貸倒引当金は、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて、貸付金債権を一般債権(経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権)、貸倒懸念債権(経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権)、破産更生債権等(経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権)に区分し、それぞれの区分ごとの貸倒見積高をもって計上しなければならないとされている。そして、回収不能額は貸倒懸念債権及び破産更生債権等から大量に発生すると見込まれることから、延滞債権の回収見通しを検査するに当たっては、おおむねこれらに該当する前記の第II分類から第V分類までの債権を検査の対象とした。

(検査の結果)

(1)延滞債権の今後の回収見通し

ア 検査の方法

 第B分類から第E分類のうち、第B分類について14年度中の返還状況等をみると、大半が第A分類に復帰するか第B分類に留まって返還を維持していること、第D分類及び第E分類については破産更生債権等に該当するものでほとんどが回収不能と思われることから、将来の回収見通しは第C分類の延滞債権の帰すうに依ると認められた。そこで、第C分類13万8204件のうち6211件(4.4%)を無作為に抽出し、14年度中の債権分類の移動や滞納の状況及び13、14両年度の入金状況について検査した。
 上記の債権6211件のうち、正常に返還されていながら口座振替未加入等の理由により第C分類とされていた411件を除く5800件の14年度中の債権分類の移動や滞納の状況は表4のとおりである。返還を完了したり第A分類又は第B分類の滞納に復帰したりするなど6箇月以上の滞納を脱したものは併せて1066件、18.4%あったが、生活困窮等の理由により返還の猶予を受けた89件を除く4645件、80.1%は滞納が継続したままとなっていた。この滞納が継続している延滞債権からの回収見通しが将来の回収状況を大きく左右すると認められることから、この債権の将来の回収見通しを予測し、それに基づき延滞債権全体の回収見通しを把握することとした。

表4
(単位:件、%、千円)

区分 債権数 13年度末 14年度末
件数 割合 返還残額 返還残額


返還完了 386 6.7 110,843
正常債権化等 680 11.7 725,592 613,693
1,066 18.4 836,436 613,693
返還猶予適用となった債権 89 1.5 104,753 104,293
滞納
継続中
過去2年間に入金がある債権 2,263 39.0 1,685,614 1,619,913
2年以上入金がない債権 2,382 41.1 1,783,772 1,783,772
4,645 80.1 3,469,387 3,403,686
合計 5,800 100.0 4,410,576 4,121,673

イ 抽出債権に係る回収不能額の計算

 独立行政法人会計基準では、貸倒懸念債権に対する貸倒引当金の計上基準は次のいずれかによると定められている。
(ア)債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法
(イ)債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができる債権については、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法
 しかし、貴会の延滞債権については、債務者である要返還者の収入・資産の状況が不明であり、上記の規定に沿って回収不能額を合理的に見積もることは困難である。
 そこで、上記の(イ)を参考に各債権ごとの過去2年間の入金実績を将来の回収等に係るキャッシュ・フローとみなし、回収金は、業務方法書の定めるところに従い、延滞金、割賦金の順に充当することとして、表4の滞納継続中の債権4645件について、回収不能額の算出を試みた。
 その結果、回収不能額の合計は22億3946万余円と算出され、抽出した債権5800件の13年度末返還残額44億1057万余円に対する回収不能率は50.8%と算出された。

ウ 延滞債権全体に係る回収不能予測額

 上記の検査結果を基に、延滞債権全体について、予測される回収不能額(以下「回収不能予測額」という。)を試算した。
 延滞債権全体の回収不能予測額の計算に当たっては、6箇月超の延滞債権786億余円のうち、事実上回収不能と考えられる第D分類及び第E分類に相当する債権11億余円については全額が回収不能となるものとし、第C分類に相当する債権775億余円については上記回収不能率50.8%を適用し394億余円が回収不能となるものとした。また、第B分類に相当する債権377億余円については、第C分類へ移行する割合及び上記第C分類の延滞債権の回収不能率50.8%を乗じ39億余円が回収不能となるものとした。
 その結果、回収不能予測額は444億余円と見込まれる。

(2)延滞債権の会計処理

 上記のとおり、今回の検査の対象とした延滞債権全体については、444億余円の回収不能予測額が見込まれたが、これ以外にも在学中で返還が開始されていない債権を含め2兆数千億円の今後回収を必要とする債権が存在している。したがって、これからも一定程度の延滞債権の発生とそれによる回収不能額の発生を見込む必要があり、貴会の貸付金債権全体に係る回収不能予測額は444億余円を大幅に超える水準に達するものと認められる。
 また、貴会でも、行政コスト計算書作成の際に添付資料として作成した「民間企業仮定貸借対照表」においては、718億余円の貸倒引当金を計上しているところである。
 このように多額の回収不能額が発生する懸念があるにもかかわらず、現行の会計規程は、将来の回収不能額を予測し、これに対応する貸倒引当金を計上することとはなっていないため、貴会の13年度末の貸借対照表には、貸倒引当金が第二種奨学金の期末残高の1000分の3の額に相当する25億余円しか計上されていない。そして、この貸倒引当金に資本金37億余円、剰余金24億余円を加えても87億余円に過ぎず、貸付金債権の時価評価によって生じる可能性がある数百億円規模の欠損金に対応できるものとはなっていない。
 したがって、機構移行に当たり承継資産の時価評価が予定されていることから、その際予想される債務超過に対する対応策の策定は、必要かつ緊急な課題となっていると認められる。

(3)延滞債権の回収及び滞納防止のための措置

ア 回収施策

 貴会では、主として口座振替と払込通知書による請求方法により奨学金の回収を行っている。そして、13年度から、口座振替が不能になった者に対する電話による督促を、外部委託により振替不能1、2回目を対象に、夜間、休日を中心に実施している。また、同じく13年度から、従来は滞納8年以上を対象としていた法的措置の行使を滞納1年以上に改め、割賦金を滞納している要返還者に対する法的措置の行使に着手し、その結果、一部滞納解消をみているところである。
 しかし、電話や請求書の発送による督促は十分な強制力は期待できず、現行の請求方法には限界がある。また、今回抽出した第III分類6211件について、貴会が要返還者の貸与終了後の就労先をどの程度把握しているか検査したところ、貸与終了後の就労先を把握していたのは1576件、25.3%しかなかった。このように、貴会においては、要返還者の資産状況、経済状態を確実に把握できる体制にない。このため滞納の原因が生活の困窮によるものなのか怠慢によるものなのかの見極めが困難な状況にある。その結果、返還資力がありながら滞納している者を特定し難いため、資力を見極めて効果的に法的措置を行使することもできず大幅な滞納解消を望めない状態にあった。
 連帯保証人に対する請求についてみると、貴会では、原則として、滞納発生後3箇月の段階で連帯保証人に1回目の請求を行っているが、割賦金の返還が連帯保証人から行われているのにもかかわらず、その後の請求は再び、要返還者本人のみにしか行っていなかったり、連帯保証人に対する請求は、電話や請求書の発送による督促のみで法的措置を行使した事例は見受けられなかったりしており、連帯保証人制度が有効に機能しているとは認められなかった。

イ 返還条件について

 貴会では、割賦金の返還を滞納している要返還者に対して、当該延滞している割賦金の額につき年10%の割合で延滞金を賦課することとしている。
 そして、入金された返還金は督促費用、延滞金、利息、割賦金の順に充当されていくため、今回検査した2年以内に入金のある債権2263件についてみると、返還金が少額であるため元金充当に追いつかず、滞納額の減少に結びついていない例が956件、入金額にして4667万余円あったが、返還条件の変更を行った例は見受けられなかった。しかし、返還意欲を継続させる観点から、少額ながらも返還を継続している要返還者への対応策も検討の要があると認められる。

(改善を必要とする事態)

 育英奨学事業の資金調達は、返還金、一般会計からの借入金、財政融資資金及び財投機関債からなっており、返還金は借入金償還の原資であると同時に新規貸付けの重要な財源となっている。しかし、今日、延滞債権は1500億円を超え、その少なからぬ部分が回収不能となることが懸念されている。
 一方、貴会の業務は、16年度以降、機構に承継されることが予定されており、その際には、独立行政法人として、独立行政法人会計基準に基づき企業会計の手法による厳正な財務状況の開示が求められることとなる。さらに、14、15両年度も貴会による貸与事業が継続しており、この両年度の貸与額を加えると15年度末の貸与額の残高は3兆数千億円に達することが予測され、この回収業務も機構に引き継がれることとなっている。
 このような状況の下で、承継資産の時価評価に伴い多額の欠損金の発生が予測される事態や延滞債権が増加を続けている事態は、機構の財政基盤を危うくするものであり、改善の必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、一部の要返還者において返還を怠っていたのに加えて、貴会においで次のことによると認められる。

(ア)延滞債権の会計処理について

 貴会では、日常の回収業務や民間企業仮定貸借対照表の作成などを通じて、多額の回収不能額の発生のおそれは認識していたものの、現行の会計規程は特殊法人の会計制度に基づいており、独立行政法人会計基準とは異なって債権の状況に即した貸倒引当金を計上することは求めていないため、延滞債権の実態に対応した会計処理がなされていなかったこと

(イ)回収施策と返還条件について

〔1〕 現行の業務運営においては、要返還者の就労先、連帯保証人及び保証人の収入等の現状など、回収業務の遂行にとって重要な要件を把握する体制が十分でなかったこと
〔2〕 連帯保証人等に対して連帯保証人制度の趣旨に基づき、適時、的確な督促、請求を実施していなかったこと
〔3〕 少額ずつしか返還できない要返還者に対して返還意欲を継続させるよう弾力的に対応できる制度が整備されていなかったこと

3 本院が表示する改善の意見

 現在、機構の発足に当たり、新たな事業実施体制が検討されている。これまでの返還は要返還者や連帯保証人の自主性にかなりの部分を依存していた面が強いが、新体制の下では、機関保証制度を導入するなど適切な債権管理に向けての施策も検討されているところである。
 しかし、機構への移行が切迫している中で、予測される回収不能額に対する対応策と延滞債権の縮小並びに発生防止策は緊急の課題となっている。また、新体制移行後もまだ3兆数千億円に上る債権の回収業務が残っており、加えて、15年度からは第二種奨学金の返還業務が大幅に増大するのに伴い、滞納の更なる増加が懸念されるところでもある。機構移行に伴い、不良債権に対する処置が不可欠であると同時に回収率の向上を図ることは、貸倒引当金の負担を減らし、機構における財政基盤を安定化させる意味でも、これまで以上に重要である。
 ついては、機構への適切な資産の引継ぎと、機構における新たな不良資産の発生を抑制するため、次のような処置を講ずる要があると認められる。

(ア)欠損金の処理について

 機構移行に際し、回収可能性の視点から現在の延滞債権について再評価を行い、その結果生じた回収不能見込額については、関係機関とも協議しつつ、貸倒引当金の積み増しと貸倒損失計上の適切な基準を設定し、それに伴って生ずる欠損金については処理計画の具体化を検討すること

(イ)今後の回収施策と返還条件

〔1〕 回収業務をより効率的に遂行できるようにするため、返還誓約書提出等の機会を利用して、連帯保証人及び保証人の収入・資産の現状をも把握できるような方策を検討し、機構へ引き継ぐこと
〔2〕 今後、親の収入基準が緩和されている第二種奨学金の返還が急増し、これまでよりも連帯保証人に支払能力を期待できることも考えられるため、連帯保証人に対しても返還意識のかん養に努めるとともに督促・請求を滞納初期の段階から強化する方向で回収業務の在り方を検討し、機構へ引き継ぐこと
〔3〕 返還期間の延長など少額ずつしか返還できない要返還者に対する弾力的な対応策について検討し、機構へ引き継ぐこと