検査対象 | 内閣府(防衛庁) |
会計名及び科目 | 一般会計 (組織)防衛本庁 (項)武器車両等購入費ほか |
部局等の名称 | 防衛庁契約本部(平成13年1月5日以前は調達実施本部)、陸上自衛隊中央会計隊、海上幕僚監部、海上自衛隊補給本部(平成10年12月7日以前は需給統制隊)、航空幕僚監部、航空自衛隊補給本部 |
調達の概要 | アメリカ合衆国政府の有償援助による装備品等及び役務の調達 |
昭和58年度から平成14年度までの契約本部における前払金の総額 | 1兆3982億余円 |
平成7年度から14年度までの各自衛隊の部隊等における前払金の総額 | 288億余円 |
平成14年度末現在の前払金の精算が完了していない金額 | 2447億余円 |
上記のうち出荷予定時期を過ぎたものの金額 | 1596億円 |
1 有償援助による調達の概要
防衛庁では、我が国で開発されていない装備品等を調達するなどのため、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(昭和29年条約第6号)等に基づき、昭和31年度以降、アメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)から有償援助(Foreign Military Sales)により装備品等及び役務(以下「調達品等」という。)の調達(以下「FMS調達」という。)を実施している。
FMS調達による調達品等は、「有償援助による調達の実施に関する訓令」(昭和52年防衛庁訓令第18号。以下「訓令」という。)に基づき、「その調達源が合衆国政府に限られるもの又はその価格、取得時期等を考慮して有償援助による調達が妥当であると認められ、かつ、合衆国政府が有償援助による販売を認めるもの」とされている。
FMS調達は、国産品等の調達契約と異なり、51年に制定された武器輸出管理法等の合衆国政府の法令等に従って行われ、価格は合衆国政府の見積りによるもの、支払は原則として前払い、納期は予定となっているなど、合衆国政府から示された条件によるものとなっている。
FMS調達の手続は、おおむね次のとおりとなっている。
〔1〕 取引の成立
支出負担行為担当官は、物品管理官等の依頼を受け、合衆国政府に引合書(Letter of Offer, LO。取引の条件、価格等を記載した書類で、合衆国政府の代表者が署名したもの)を請求し、その発給を受ける。そして、物品管理官等から引合書の記載内容のとおり調達を要求する旨の通知を受けて、支出負担行為として当該引合書に署名し、引合受諾書(Letter of Offer and Acceptance, LOA)としたのち合衆国政府に送付する(以下、引合受諾書に基づく個々の取引を「ケース」という。)。
〔2〕 前払金の支払
支出官は、引合受諾書に定められた支払スケジュールに合わせて、合衆国政府国防財政会計サービス(Defense Finance and Accounting Service)が管理する連邦準備銀行内の信託基金に、日本銀行等を通じてドル建てで送金して前払金を支払う。
〔3〕 調達品等の給付
合衆国政府は、支払われた前払金を基に給付すべき調達品等を調達するなどした上で、引合受諾書に基づき、我が国に対して調達品等を給付する。
〔4〕 給付の確認
調達品等が納入されたときは、支出負担行為担当官は、受領検査官に受領検査を行わせたのち受領検査調書の送付を受ける。そして、同調書と合衆国政府から四半期ごとに発給される調達品等の価格を記した計算書とを照合して給付の確認を行い、給付が確認できた金額について精算の手続を執る(以下、この場合の精算を「部分精算」という。)。
〔5〕 余剰金の返済
支出負担行為担当官は、合衆国政府から発給される最終計算書によってケース全体の給付の完了を確認し、当該ケースについて余剰金が生じた場合には、債権発生通知書を作成して歳入徴収官等に送付する。歳入徴収官等は、合衆国政府に対し余剰金の返済を請求し、日本銀行等を通じて余剰金の返済を受け、当該金額について最終的な精算の手続を執る。
FMS調達は、主要装備品等については契約本部(平成13年1月5日以前は調達実施本部)が行っており(以下、この調達を「FMS中央調達」という。)、主要装備品等の維持・修理に用いる補用部品等については各自衛隊の部隊等(陸上自衛隊中央会計隊、海上幕僚監部、海上自衛隊補給本部(10年12月7日以前は需給統制隊)、航空幕僚監部、航空自衛隊補給本部)が行っている(以下、この調達を「FMS地方調達」という。)。
FMS中央調達とFMS地方調達の主な相違点を挙げると、表1のとおりとなっており、FMS中央調達は、調達品等の内容を引合受諾書に記載する「確定発注方式」により調達を行っているのに対して、FMS地方調達は、引合受諾書には調達品等の内容を具体的には記載せず、取引の成立後に前払金の範囲内で個々の調達品等の品名、数量等を指定して発注を行う「直接発注方式」により調達を行っている。
FMS中央調達 | FMS地方調達 | |
実施機関 | 契約本部 | 各自衛隊の部隊等 |
発注の方式 | 確定発注方式 | 直接発注方式 |
主な対象 | 主要装備品等 | 補用部品等 |
納期 | 引合受諾書に出荷予定時期を記載 | 個々の発注につき、合衆国軍から出荷予定時期を通知 |
平成14年度の調達実績 | 162ケース 1047億余円 | 27ケース 53億余円 |
2 検査の結果
本院は、平成9年度決算検査報告において、FMS中央調達において調達品等の未納入等により未精算額(注)
が多額に上っている事態及び前払金が高めに設定されるため多額の余剰金が生じている事態について「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記し問題を提起した。一方、合衆国政府においては、10年から有償援助の透明性やサービスの向上等に着眼した改革(以下「FMS改革」という。)に着手し、支払スケジュールの見直しや引合受諾書における情報の開示等の具体的方策を実行に移してきている。また、FMS地方調達は、FMS中央調達に比べ調達額は少ないものの、主要装備品等の運用に必要な補用部品等を毎年度調達するものであり、これが滞れば主要装備品等の運用に影響を及ぼすおそれもある。
そこで、FMS中央調達の未精算の事態は改善されているか、FMS改革において柱とされている価格等の透明性は確保されているか、FMS地方調達において補用部品等が適正かつ経済的・効率的に調達されているかなどに着眼して検査を実施した。
(注) 未精算額 次の式により算出した額
FMS中央調達については、未精算のケースが残存している昭和58年度から平成14年度までに支払った前払金の総額1兆3982億余円、FMS地方調達については、各自衛隊ごとに、未精算のケースが残存している年度(陸上自衛隊及び航空自衛隊は8年度、海上自衛隊は7年度)から14年度までに支払った前払金の総額計288億余円を対象として検査した。
検査したところ、FMS調達について、次のような事態となっていた。
(1) 未精算について
ア 未精算の状況
14年度末現在で、FMS調達による前払金が未精算となっているものは、1,168ケース、2447億余円あって、その内訳は表2のとおりである。
事項 | FMS調達合計 | FMS中央調達 | FMS地方調達 | ||||||
ケース数 | 金額 | ケース数 | 金額 | ケース数 | 金額 | ||||
前払金額 | 1,427,158 | 1,398,263 | 28,894 | ||||||
精算 | 1,182,426 | 1,166,284 | 16,142 | ||||||
未精算 | 1,168 | 241,731 | 1,062 | 231,979 | 106 | 12,752 | |||
出荷予定時期を過ぎたもの | 769 | 159,625 | 680 | 148,460 | 89 | 11,164 | |||
調達品等の納入が遅延しているもの | 129 | 51,197 | 60 | 41,090 | 69 | 10,107 | |||
調達品等が納入されたのに精算が遅延しているもの | 640 | 108,427 | 620 | 107,369 | 20 | 1,057 | |||
出荷予定時期を過ぎていないもの | 399 | 85,106 | 382 | 83,519 | 17 | 1,587 |
これらのうち、FMS中央調達について、出荷予定時期を過ぎたもののケース数及び金額を9年度末のものと比較すると、表3のとおり、9年度末が832ケース、1454億余円であったのに対し、14年度末は680ケース、1484億余円となっており、ケース数では152ケース(9年度比約18%)減少しているものの、金額ではほぼ同額となっている。
事項 | 9年度末 | 14年度末 | |||||
ケース数 | 金額 | ケース数 | 金額 | ||||
前払金額 | 1,465,111 | 1,398,263 | |||||
精算 | 1,130,527 | 1,166,284 | |||||
未精算 | 1,231 | 334,584 | 1,062 | 231,979 | |||
出荷予定時期を過ぎたもの | 832 | 145,414 | 680 | 148,460 | |||
調達品等の納入が遅延しているもの | 141 | 46,116 | 60 | 41,090 | |||
調達品等が納入されたのに精算が遅延しているもの | 691 | 99,298 | 620 | 107,369 | |||
出荷予定時期を過ぎていないもの | 399 | 189,169 | 382 | 83,519 |
なお、9年度末の出荷予定時期を過ぎたもののうち、172ケース(9年度末の約20%)、469億余円(同約32%)が14年度末においてもなお未精算のままとなっている。
イ 未精算額が多額となっているケースの状況
FMS中央調達で14年度末現在未精算となっているケースのうち、出荷予定時期を過ぎたもの680ケース、1484億余円についてみると、未精算額が10億円以上の未精算ケース(余剰金返済手続中のケースを除く。以下「大型未精算ケース」という。)は、25ケース、892億余円あって、ケース数では全体の約3%であるが、未精算額では約60%を占める状況となっている。これを9年度末の大型未精算ケース、22ケース、634億余円と比較すると、ケース数、未精算額ともに増加している。
また、9年度末の大型未精算ケースの約50%に当たる11ケース、322億余円が、14年度末においてもなお未精算のままとなっている。
これらの大型未精算ケースについて、「調達品等の納入が遅延しているもの」、「調達品等が納入されたのに精算が遅延しているもの」それぞれの未精算額の内容を検査したところ、以下のようになっていた。
(ア) 調達品等の一部の納入が遅延しているもの
14年度末の大型未精算ケースのうち、納入されている調達品等もあるが一部の調達品等の納入が遅延しているため精算が遅延しているものは6ケースで、未精算額は、前払金計911億余円に対して計318億余円となっていた。
このうち、未精算額137億余円(ドル建て額に基づいて試算したもの。以下同じ。)については、調達品等は納入され、これに係る計算書も発給されているものの、給付の確認が遅延しているため部分精算がなされていないものであった。また、残りの未精算額180億余円については、納入が遅延している調達品等は判明している範囲で7732万余円(ドル建て価額を14年度支出官レート122円により試算した額(以下「試算額」という。))であり、今後新たな調達品等が納入されることもあるが、ほとんどの額が余剰金として返済されることになると認められる。
平成6年度のケースD−SGH(E−767早期警戒管制機)の14年度末の未精算額は185億余円に上っているが、このうち既に納入された調達品等に相当する135億余円は、計算書は発給されているものの、納入された装備品等に付された証書が適切でなかったり、役務の給付完了の通知が到来していなかったりしていたため、給付の確認ができず部分精算がなされていないものであった。そして、計算書が発給されていない49億余円については、納入が遅延している装備品等は判明しているところでは3品目、366万余円(試算額)に過ぎなかった。
(イ) 調達品等の全部が納入されたのに精算が遅延しているもの
14年度末の大型未精算ケースのうち、すべての調達品等が納入されたのに精算が遅延しているものは19ケースで、未精算額は、前払金計3367億余円に対して計573億余円となっていた。
このうち、未精算額120億余円については、計算書は発給されているものの、給付の確認が遅延しているため部分精算がなされていないものであった。また、残りの未精算額452億余円については、納入に伴う付帯経費等が確定していないために計算書が発給されていないもので、計算書が今後発給される見込みのものは判明している範囲で29億余円(試算額)であり、ほとんどの額が余剰金として返済されることになると認められる。
ウ 新精算方式の導入
従来、合衆国政府は、複数の国に対して供給する装備品等を一つの契約により調達しているような場合には、ある国に対する給付が完了しても、すべての国に対する給付が完了し当該契約が精算されるまでは最終計算書を発給していなかったため、調達品等が納入されても長期にわたり多額の未精算額が生じる状況となっていた。
しかし、合衆国政府では、このような事態を改善するため、見積りにより最終計算書を発給することによって調達品等の給付の完了後2年以内にケースを精算することを目標とする新精算方式を4年に導入した。
そして、防衛庁でも、前払金の精算を促進するため、9年7月に新精算方式の枠組みに参加し、最終的な精算が終了していないすべてのケースについて適用を受けることとなった。
そこで、FMS中央調達で、14年度末において調達品等は納入されたのに精算が遅延している620ケース、1073億余円のうち、計算書が発給されていないため精算が遅延している470ケース、999億余円について検査したところ、表4のとおり、給付完了後2年以上経過しても精算が終了していないものが175ケース、400億余円あった。この中には、給付完了後10年以上(最長で16年)が経過しても精算が終了していないものが5ケース、4163万余円あった。
給付完了からの経過年数 | ケース数 | 未精算額(千円) |
1年未満 | 133 | 37,216,757 |
1年以上2年未満 | 72 | 11,654,341 |
2年以上3年未満 | 80 | 9,069,621 |
3年以上4年未満 | 32 | 6,818,883 |
4年以上5年未満 | 21 | 17,627,668 |
5年以上6年未満 | 12 | 1,589,430 |
6年以上7年未満 | 15 | 2,090,239 |
7年以上8年未満 | 7 | 2,517,636 |
8年以上9年未満 | 2 | 266,067 |
9年以上10年未満 | 1 | 17 |
10年以上 | 5 | 41,634 |
給付完了から2年以上経過しているもの | 175 | 40,021,199 |
給付完了の通知未到来 | 42 | 9,306,873 |
給付完了年月不明 | 48 | 1,723,908 |
合計 | 470 | 99,923,080 |
このように、出荷予定時期を過ぎたものに係る未精算額が多額に上っているのは、大型未精算ケースについて、一部の調達品等の納入が遅延していたり、調達品等は納入されたのに付帯経費等が確定していないなどのため最終計算書が発給されていなかったりなどしていることによると認められる。
(2) 価格等の透明性の確保について
FMS中央調達において、10年度から14年度までの5年間に前払金の精算により返済のあった余剰金は、1,061ケース、460億余円となっていた。このうち、20ケースについては、取引成立後の数量変更等によるものであるが、残りの1,041ケース、449億余円については、数量変更等によるものでなく、計算書による給付の確認の結果、前払金が過大となっていたものであった。
前払金を過大なものとしないためには見積価格が適正である必要があり、価格等の情報が明確であることが求められるが、合衆国政府において、FMS改革の中で有償援助に関する規則等を改正し、利用国の要望に応じて引合書における価格等について明確な情報を提供することなどを定めてきている。
そこで、価格の内訳が引合受諾書に明確に示されているかなど価格等の透明性について検査したところ、以下のとおりとなっていた。
ア 引合受諾書の記載内容
引合受諾書において、調達品等の単価等が明確に示されているか検査したところ、装備品等について単価が明確に示されていなかったり、合衆国政府が装備品等の開発に要した費用等を購入国に負担させるために課す開発分担金の額が明確に示されていなかったり、また、役務の内容が明確に示されていなかったりしているものが見受けられた。
イ 役務の給付確認
FMS調達のうち教育訓練や技術支援等の役務の給付の確認については、訓令第18条第5項の規定により、合衆国政府から提供された役務の給付内容を示すものなどと受領検査指令書を照合し、合格又は保留の判定を行って受領検査調書を作成するものとされている。
14年度に完了した役務に係るケースの受領検査調書について検査したところ、引合受諾書に記載されている役務の概要がそのまま記載されたものとなっているなどしていて、役務の給付内容について人数や日数等定量的な把握ができないものが見受けられた。
ウ 精算後のケースの状況
防衛庁では、14年に、既に精算が終了しているケースについて、10ケース、1億2036万余円(試算額)の追加の支払と、5ケース、9975万余円(試算額)の余剰金の返済の通知を受けている。これらのケースの中には精算終了後15年以上が経過しているものもあるが、これらのケースの再度の精算に係る詳細な資料は示されていなかった。
このように、引合受諾書の内容が明確なものとなっていなかったり、役務の給付内容が定量的に把握できない状態となっていたり、精算後相当年数が経過したケースについて十分な説明もないままに再度の精算が通知されたりするなど、FMS調達に係る価格等の透明性が十分となっていないのは、合衆国政府が契約企業の情報を開示することができないとしていることなどによると認められる。
(3) FMS地方調達について
FMS地方調達においては、前記のとおり、直接発注方式による調達を行っているが、この中でも、毎年所要が生じる補用部品等については、アメリカ合衆国軍隊(以下「合衆国軍」という。)において我が国の補用部品等の所要量に合わせた在庫をあらかじめ保有し、発注に応じて供給することで適時かつ安定的な供給を可能とする協同兵站補給支援協定(Cooperative Logistics Supply Support Arrangements。以下「CLSSA」という。)方式が用いられている。
直接発注方式における発注の手順は、航空自衛隊の例を挙げると次のとおりである。
〔1〕 補給本部は、各補給処からの請求を受け、コンピュータによる通信システムを通じて、合衆国軍に対して品名、数量等を指定し発注を行う。
〔2〕 合衆国軍は、発注に対する出荷等の状況を示す補給通知を、通信システムを通じて補給本部に対して送信する。
〔3〕 補給本部は、補給通知により発注がキャンセルされたことを示された場合は、請求元の補給処に対してその旨通知する。補給処は、必要があると認める場合は、アメリカ合衆国に派遣している連絡官を通じるなどしてキャンセルの理由を調査し、調達の手段を検討する。
ア FMS地方調達における前払金額と発注額のかい離
FMS地方調達においては、補用部品等の継続的な供給を図るため同種のケースを毎年締結していることが多く、中には前年度の同種ケースの引合受諾書に定めた価格とほぼ同額で引合受諾書を締結しているものもある。
14年度末において、出荷予定時期を過ぎて未精算となっているFMS地方調達のケースのうち、引合受諾書の価格が1000万円以下のものなどを除く69ケースについて、発注がなされた金額を検査したところ、前払金額を1億円以上下回っていたり、前払金額の半分以下になっていたりするなど、前払金額と発注額にかい離を生じているものが、表5のとおり、22ケース、38億余円あった。
件名 | 前払金額 | 発注額 | 差額 | |
陸上自衛隊 | ホーク維持用部品ほか1ケース | 1,055,747 | 806,778 | 248,969 |
海上自衛隊 | 艦船補用部品ほか13ケース | 8,580,953 | 6,159,444 | 2,421,509 |
航空自衛隊 | E-2C補用部品ほか5ケース | 5,344,379 | 4,163,993 | 1,180,386 |
計 | 22ケース | 14,981,079 | 11,130,215 | 3,850,864 |
このような事態が生じているのは、合衆国軍により発注がキャンセルされたことなどによると認められる。
そこで、FMS地方調達で14年度末に未精算となっているケースのうち、補用部品等の調達に係る46ケースについて、42,374件、219億8649万余円(試算額)の発注を検査したところ、表6のとおり、3,722件、25億1060万余円(試算額)が、発注のとおり供給できないため、合衆国軍によりキャンセルされていた。
これらのケースの中には、総発注額の約6割がキャンセルとなり、引合受諾書の価格に対する発注率が3割程度となっているものも見受けられた。
ケース数 | 件数 | 金額(ドル) | 試算額(千円) | |
陸上自衛隊 | 5 | 879 | 2,862,870 | 349,270 |
海上自衛隊 | 22 | 742 | 4,952,362 | 604,188 |
航空自衛隊 | 19 | 2,101 | 12,763,487 | 1,557,145 |
合計 | 46 | 3,722 | 20,578,720 | 2,510,603 |
そして、航空自衛隊の調達に係る19ケースのうちCLSSA方式による10ケースの293件、1億1205万余円(試算額)については、CLSSA方式は合衆国軍において保有する在庫から適時かつ安定約に供給を受ける制度であるのに、合衆国軍において調達不能であるなど、在庫を保有していないことが明らかな理由によりキャンセルされたものであった。
そこで、CLSSAの在庫品目のリストの取得状況についてみると、陸上自衛隊では在庫品目のリストを毎年取得し品目の見直しを行うこととしているが、海上自衛隊及び航空自衛隊では当該リストを取得していないなど、各自衛隊で対応が区々となっていた。
イ キャンセル又は未入荷による補用部品等の在庫に対する影響等
補用部品等の発注がキャンセルされたり、発注した補用部品等が未入荷となっていたりすると、装備品等の維持・修理に必要な補用部品等が入手できず、主要装備品等の運用に支障を生じるおそれもある。
そこで、航空自衛隊の各補給処において、キャンセル又は未入荷となっている補用部品等のうち、発注単価が1,000ドルを超えていた370品目を対象として在庫状況を検査したところ、86品目について使用可能な補用部品等の在庫がない状態となっていた。
同様に、陸上自衛隊では対象とした39品目のうち27品目について、海上自衛隊では対象とした214品目のうち147品目について、それぞれ使用可能な補用部品等の在庫がない状態となっていた。
これらの補用部品等については、現実の所要が生じていなかったり、上位の補用部品等の在庫があったりして、装備品等の可動に直ちに影響を及ぼすものではなかったが、出荷予定時期を過ぎて納入されていない補用部品等について、各自衛隊で出荷促進の措置を執る時期が異なるなど、対応が区々となっていた。
また、航空自衛隊のFMS地方調達ケースに係る補用部品等のうち、発注をキャンセルされたためFMS調達によらない輸入や国産品の調達に切り替えたものについて検査したところ、FMS調達による場合と比べて単価が著しく増大しているものがあった。
このように、前払金額と発注額にかい離が生じていて前払金が有効に活用されていない状況になっているのは、キャンセルが多く発生していることなどによるものであり、このため、装備品等の運用に必要な補用部品等の在庫がないなどの状態となっていると認められる。
(4) 防衛庁における事態改善の取組
防衛庁では、本院が平成9年度決算検査報告に掲記した事項を踏まえるなどして、未精算等の事態を改善するため、これまでに次のような対策を講じてきている。
ア 合衆国政府との折衝
契約本部では、昭和53年度以降、合衆国政府と、出荷促進を含む精算促進のための精算交渉会議を年2回程度開催している。また、防衛庁内部部局では、平成8年から毎年、合衆国政府とFMS調達全般について討議する会議を開催している。
そして、これらの会議において解決しない問題について解決を図るため、14年12月には、防衛参事官(装備・評価・監査担当)と国防安全保障協力庁(Defense Security Cooperation Agency。以下「DSCA」という。)次長との間で会合を行っている。この結果、引合受諾書の価格の明細等の開示の要望があった場合には、合衆国政府は可能な限り詳細に回答するものとする暫定的な合意がなされている。
イ 諸外国との連携
アメリカ合衆国では、有償援助を利用する各国政府の駐在武官及びDSCAの代表等が参加し、有償援助に関して各国が共有している問題を取り上げ、合衆国政府に提言等を行う外国調達グループ(Foreign Procurement Group)の会合が11年頃から定期的に開催されており、メンバーがFMS改革のプロジェクト・チームに参加して提言を行うなど一定の成果を上げてきている。この会合で最近取り上げられたテーマとしては、精算方法の改善や早期精算、手数料の適切な設定などがある。
防衛庁では、14年12月にDSCAから外国調達グループに関する説明を受け、参加について検討した結果、15年4月から同グループに参加している。
ウ 余剰金の低減に向けた取組
内部部局では、10年1月、各幕僚監部等に対し、過去の余剰金の発生状況を踏まえた上で、より正確な見積りで引合書の価格が算出されるよう引合書の請求の際に依頼文を添える旨を指示しているが、十分な効果は得られていない。
また、契約本部では、15年6月の精算交渉会議において、合衆国政府各軍省との間で、主要装備品等の調達に係るケースについて最終の支払までに引合受諾書の価格を見直し、引合受諾書を改定して支払額を低減する手続を執ることとするよう合意している。
3 本院の所見
本院はこれまでもFMS調達について重大な関心をもって検査に当たってきたところであり、平成9年度決算検査報告に「特に掲記を要すると認めた事項」として、FMS調達に係る調達品等の納入の遅延、精算の遅延及び余剰金の発生状況等について掲記したところである。
合衆国政府においては、利用国に対するサービスの提供という観点からFMS改革を推進してきており、防衛庁においても、合衆国政府との折衝を行うなど積極的に事態の改善を図ってきているところであるが、なお以下のような事態が見受けられる。
〔1〕 防衛庁では、9年度以降、新精算方式への加入等、事態改善のための種々の取組をしてきているが、未精算額がなお多額に上っていること
〔2〕 引合受諾書の記載内容や役務の履行確認等について、透明性の確保が十分でないこと
〔3〕 FMS地方調達において、キャンセルが多く発生しているなどの問題が生じており、これに対する各自衛隊の対応が区々となっていること
防衛庁においては、装備品等の取得等について、引き続きFMS調達を重要な調達方法として利用していくとしている。また、装備品等の運用に当たって必要となる補用部品等についても、適時かつ安定的な供給が不可欠である。
ついては、上記の事態は、基本的には合衆国政府の事情によるものであるが、防衛庁においても、次のような方策を講ずるなどして、可能な限り事態の改善を図るよう努めることが望まれる。
(ア) 未精算額が10億円を超えるような大型の未精算ケースについて、ケースごとに精算が遅延している理由を分析するなどした上で、合衆国政府の関係各機関に対し解決を要請するなど重点的な対応を図り、未精算額を減少させるよう努めること
(イ) 引合受諾書の記載内容が一層詳細なものとなるよう引き続き合衆国政府に働きかけるなど、価格等の透明性を確保するよう努めること
(ウ) FMS地方調達における次に掲げるような事項について、各自衛隊が相互に情報を交換するなどして、合衆国政府に対し統一した対応を執るよう図ること
〔1〕 引合受諾書の価格と発注額のかい離について、発注のキャンセルを低減させたり、引合受諾書の価格を見直したりなどして余剰金を低減させる。
〔2〕 出荷予定時期を過ぎた補用部品等について適切に出荷促進を行う。