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  • 平成14年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

地籍調査事業の実施について


第2 地籍調査事業の実施について

検査対象 国土交通省(平成13年1月5日以前は国土庁)
会計名及び科目 一般会計 (組織)国土交通本省 (項)国土調査費
平成11年度以前は、
(組織)国土庁 (項)国土調査費
 
部局等の名称 北海道ほか24都府県
事業の概要 一筆の土地について、その所有者、地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量等を行い、地籍調査の成果としての地籍図及び地籍簿を作成して地籍の明確化を図るもの
地籍調査事業に要した事業費 1201億円 (昭和63年度〜平成13年度)
上記に対する国庫負担金交付額 646億円  

1 地籍調査事業の概要

(地籍調査事業)

 国土交通省では、国土調査法(昭和26年法律第180号。以下「法」という。)に基づき、国土の開発及び保全並びにその利用の高度化に資するとともに、地籍の明確化を図るために国土の実態を科学的かつ総合的に調査することを目的として、地籍調査事業を実施する市町村等に対して毎年度多額の国庫負担金を交付している。昭和26年度から平成13年度までに地籍調査事業に要した総事業費は4457億0947万円、これに係る国費は2524億9159万余円と多額に上っている。
 地籍調査事業は、法により地方公共団体等が事業主体とされており、一般的には市町村が事業主体となって、調査対象面積における調査単位をおおむね字(あざ)単位として次のとおり実施されている。

〔1〕 調査準備

 関係機関との連絡調整、住民への説明会等を行い、地籍調査を始める体制を作る。

〔2〕 一筆地調査

 一筆ごとの土地について、公図等の資料により調査をした後、関係者立会いの下に、所有者、地番、地目及び境界の調査を実施する。

〔3〕 地籍測量

 国土地理院が設置する基準点から調査地区を測量するための基礎となる測点を設置し、段階を踏んで測量を行い、各筆ごとの面積を測定する。これにより各筆の位置が経緯度に基づいた正確な位置で表示されることとなる。

〔4〕 成果の閲覧、認証

 一筆地調査、地籍測量により作成した地籍簿と地籍図の案は、閲覧された上で、都道府県知事等の認証を受ける。
 そして、この成果は都道府県知事等の認証を受けた後、地籍簿及び地籍図の写しが登記所に送付され、これらに基づいて土地登記簿に変更の登記がなされて、地籍図がそのまま登記簿の附属地図になるとともに、市町村においてもその写しが一般の閲覧に供されて、土地の所有と利用の関係を明らかにする基礎資料として広く国土開発等に利活用されることとなる。
 地籍調査事業の調査対象面積は、全国土から国有林及び天然湖沼等を除く286,200km となっており、13年度末の事業の進ちょく率は全国平均で44.5%となっていて、特に都市部である人口集中地区(注1) (以下「DID」という。)での進ちょく率は17.9%にすぎないものになっている。

人口集中地区 densely inhabited district(DID) 市町村の境域内で人口密度が原則として4,000人/km 以上の国勢調査の基本単位区が隣接して、その人口が5,000人以上となる地域

(事業の経緯)

 地籍調査事業の進ちょく率が上記のようなことなどから、土地に関する記録の約半分は、明治時代の地租改正によって作られた公図などを基にしたもののままとなっており、土地の境界が不明確であったり、測量も不正確であったりする場合もあるのが実態である。
 地籍調査事業は、事業の促進を図るため、昭和32年度より、事業主体である市町村等の要望を基礎として実施する任意方式から国が速やかに地籍調査を行う必要があると認める地域について地籍事業に関する計画を策定することにより事業を促進する特定計画方式に移行した。しかし、なお特定計画方式によっても事業の進ちょくが十分でなかったことから、国土調査事業の緊急かつ計画的な実施とその促進を図るため、37年に国土調査促進特別措置法(昭和37年法律第143号)が制定され、これに基づき、表1のとおり、38年度以来、ほぼ10年ごとに10年間に実施すべき調査実施面積などを定めた国土調査事業十箇年計画が策定され、現在は平成12年度を初年度とする第五次国土調査事業十箇年計画(平成12年5月23日閣議決定)により事業が推進されている。

表1 国土調査事業十箇年計画の実績
(単位:km 、%)

調査対象地域(A) 昭和26〜
31年度
任意方式
昭和32〜
37年度
特定計画方式
国土調査事業十箇年計画 全体
第1次 第2次 第3次 第4次 平成13年度末現在実績 進ちょく率
地籍調査 286,200 1,840 5,562 計画(B) 42,000 85,000 60,000 49,200 127,444 44.5
(B)/(A) 14.6 29.6 20.9 17.1
実績 18,909 38,238 32,735 22,261
達成率 45.0 44.9 54.5 45.2

 この十箇年計画方式の下では、国は、十箇年計画について閣議決定がなされたときは、関係都道府県に通知し、都道府県は、地籍調査事業に関する都道府県計画を定めることとなっている。そして、都道府県は、この計画に基づき、関係市町村等と協議して、毎年度、事業計画を定め、市町村等は、当該事業計画に基づき地籍調査事業を行うこととなっている。
 また、昭和54年には、当時、地籍調査事業を所管していた国土庁(現国土交通省)が「地籍調査事業の推進について」(昭和54年国土庁54国土国第26号国土庁土地局長通知)等により地籍調査事業の推進のため関係機関の定期的な連絡会議の設置等所要の措置を講じるよう都道府県、建設省、農林水産省等に対し通知を発している。そして、63年には、「地籍調査事業の実施について」(昭和63年国土庁63国土国第64号国土庁土地局国土調査課長通知。以下「63年国土庁通知」という。)により地籍調査事業の円滑な実施のため関係市町村を指導するよう都道府県に対し通知を発している。

(事業の費用負担)

 地籍調査事業に要する経費のうち負担対象となっている経費は、法第9条の2及び同法施行令第5条の3により、一筆地調査、地籍細部測量、地籍図及び地籍簿の作成などに係るものとなっている。そして、市町村が事業主体となる場合においては、これらの経費のうち国が2分の1、都道府県が4分の1、市町村が4分の1ずつ負担することとなっている。なお、原則として、特別交付税に関する省令(昭和51年自治省令第35号)により、市町村が事業の実施により負担する経費に0.8を乗じて算出された額の特別交付税が交付されることとなっているため、補助事業に対する市町村の実際の負担は更に少ないものとなる。

(地籍調査の効果)

 地籍調査の成果は、土地に関するあらゆる施策の基礎資料として利活用でき、成果が適切に維持管理されれば、公共事業、土地取引、災害復旧事業、市町村等の整備計画立案業務の円滑化や土地に係るトラブルの未然防止、課税の適正化等その効果は将来にわたってもたらされるものである。

(国土調査法第19条第5項に基づく指定)

 地籍調査のほかにも、これと同等以上の精度又は正確さをもって一筆ごとの土地について調査測量を実施するものがあることから、類似した調査測量を同じ地区で重複して行うことを防止し、地籍調査と一体となって総合的に地籍の明確化を推進するなどのため、これらの成果を活用する制度が設けられている。すなわち、土地区画整理事業、土地改良事業、民間開発事業等の施行者が、一筆の土地ごとの地形及び面積を確定するため国土地理院が設置した基準点等に基づいて確定測量を実施し、これにより作成した地図及び簿冊(以下「確定測量の成果」という。)について、法第19条第5項の規定に基づき地籍調査の成果としての認証を申請し、国土交通大臣又は農林水産大臣が、この確定測量の成果が地籍調査の成果と同等以上の精度又は正確さを有すると認めたときは、これと同一の効果があるものとして指定(以下「19条5項指定」という。)できる制度が設けられている。
 土地区画整理事業を所管している国土交通省(平成13年1月5日以前は建設省)では、19条5項指定に関し、国土庁からの協力要請を受けて、19条5項指定の促進を図るため、昭和55年以降、数次にわたり通知を発し、62年4月には、土地区画整理事業の確定測量の成果は、換地処分に伴う登記手続と並行し、原則として19条5項指定を受けるものとする旨の「土地区画整理事業の測量成果の国土調査法第19条第5項の指定等について」(昭和62年建設省都区発第24号建設省都市区画整理課長通知。以下「62年建設省通知」という。)を都道府県等に発している。また、平成13年には、土地区画整理事業の測量の成果は19条5項指定を受けるべきであるとする旨の事業運用指針、15年には、19条5項指定の手続などを定めた通知を都道府県等に発し、19条5項指定の促進に努めている。
 また、土地改良事業を所管している農林水産省では、国土庁からの協力要請を受けて、昭和56年に、事業地区の面積が100ha以上の場合又は100ha未満の場合であっても事業地区の全部若しくは一部について既に地籍調査が実施された場合若しくは事業地区の存する市町村について地籍調査の計画が策定されている場合(以下、これらを「面積要件」という。)、換地を伴う土地改良事業の確定測量の成果は、原則として換地処分公告までに極力認証申請を行うこととする旨の「国土調査法第19条第5項の成果の認証に準ずる指定の申請に係る事務取扱い等について」(昭和56年農林水産省55構改B第1847号農林水産省構造改善局長通知。以下「56年農林水産省通知」という。)を都道府県等に発している。また当該通知の一部改正を数次行い、平成15年には、極力認証申請を行うとするもののうちから面積要件を廃止することとする通知を発し、19条5項指定の促進に努めている。
 そして、国土庁では、63年国土庁通知において、都道府県は、確定測量の成果の19条5項指定を推進するため、土地区画整理事業、土地改良事業等の関係部局との連絡調整を一層緊密にするよう努めるものとしている。
 さらに、6年3月には、「民間事業に関する国土調査法第19条第5項指定について」(平成6年国土庁6国土国第56号国土庁土地局国土調査課長通知。以下「民間開発通知」という。)等を都道府県等に発し、lha以上の優良な民間開発事業等(以下「民間開発事業」という。)を指定対象とし、民間開発事業の19条5項指定の推進に努めている。
 13年度までの全国における土地区画整理事業、土地改阜事業及び民間開発事業の確定測量の成果に係る19条5項指定の実績は、土地区画整理事業が1,556件、462km 、土地改良事業が16,887件、7,960km 、民間開発事業が69件、12km となっている。

2 検査の結果

(検査の背景)

 地籍調査事業については、前記のように昭和26年より多額の費用をかけて実施されている。しかし、各十箇年計画における達成率は50%程度となっているため調査対象面積に対する進ちょく率も全国平均で44.5%となっており、その遅れが目立っている状況となっている。また、本院では、53年及び62年に、市町村における補助事業の実施が適切を欠いていたり、その効果が上がっていなかったりしていると認められる事態、士地区画整理事業及び土地改良事業において実施した確定測量の成果について19条5項指定ができる制度が設けられているのに、必要な手続を執っていないと認められる事態等に対して、それぞれ改善の処置を要求するなどしており、地籍調査事業の進ちょく状況については以前から注視してきたところである。
 今日、土地の有効利用に向けた土地取引の円滑化を促進する上で、地籍調査の成果による土地に関する基礎的情報は、円滑かつ安全な土地取引のための最も重要な情報の一つとされている。また、都市再生本部(本部長内閣総理大臣)においても、特に都市部における地籍調査事業の進ちょくを強力に推進するよう検討がなされている。さらに、都市部での大規模地震や大雨等による災害の発生などを契機として市街地及びその周辺部における災害への関心が高まっている中、このような災害の際の円滑な復旧のためには、一筆ごとの士地境界の正確な位置について現地復元能力のある地図が必要であり、この面からも地籍調査の重要性、必要性が増大しているところである。

(検査の着眼点及び対象)

 上記のような経緯を踏まえ、地籍調査事業の進ちょく状況を分析し、事業の進ちょくが図られていない箇所についてはその原因、特に都市部において進ちょく率が上がっていない原因は何か、また、進ちょく率を上げるために適切な方策が執られているかなどについて、北海道ほか24都府県(注2) (以下「25都道府県」という。)管内の1,784市町村等において63年度から平成13年度までに実施した地籍調査事業(事業費1201億7811万余円、国庫負担金646億5363万余円)等を対象として、また、19条5項指定の活用状況等については、25都道府県管内における次の各事業ごとに確定測量の成果に係る同指定の申請状況を対象にして検査を実施した。

〔1〕 土地区画整理事業

 527市町村管内において昭和63年度から平成13年度までに実施された確定測量1,884工区(面積574km 、測量費361億8725万余円)

〔2〕 土地改良事業

 1,223市町村管内において昭和63年度から平成13年度までに実施された換地を伴うもののうち、56年農林水産省通知の面積要件を満たしている確定測量7,771工区(面積2,858km 、測量費399億4828万余円)

〔3〕 民間開発事業

 481市町村管内において民間開発通知が発せられた直後の6年4月以降に行われた都市計画法(昭和43年法律第100号)第29条に規定する開発行為のうち、民間開発通知等の面積要件等を満たしている2,387件

(検査の結果)

(1)事業の進ちょく状況

ア 都道府県別、用途地域別進ちょく状況

 都道府県別の13年度末の地籍調査事業の実施状況についてみると、表2のとおり、九州などの5県では進ちょく率が平均77.8%と比較的高くなっているものの、首都圏、中部圏、近畿圏などの14都府県では進ちょく率が平均11.9%となっているなど、大都市圏の地域で事業が進ちょくしていない状況が見受けられた。
 また、これを用途地域別でみても、表3のとおり、都市部であるDIDでは14.1%となっていて、DID以外の宅地、農用地など他の地域に比べて事業が進ちょくしておらず、特に進ちょく率が30%未満の14都府県のDIDでは、7.9%と非常に低い状況になっていた。
 さらに、都市部において事業が進ちょくしない理由について大都市圏の区市にアンケート調査をしたところ、その主なものは、筆数が多く土地に関する権利関係が輻輳(ふくそう)していて時間、経費の割に進ちょくしないためなどとなっていた。
イ 市町村の事業実施状況
 25都道府県管内の1,784市町村等のうち、13年度末現在、事業を完了しているのが471市町村(26.4%、以下「完了市町村」という。)、継続中が464市町村等(26.0%、以下「継続市町村」という。)、休止中が315市町村(17.7%、以下「休止市町村」という。)、未着手が534市町村等(29.9%、以下「未着手市町村」という。)となっている。
 これを進ちょく率が70%以上の5県、30%以上70%未満の6道県、30%未満の14都府県に分類してみると、以下のとおりとなっていた(表2参照)。
〔1〕 進ちょく率が70%以上の県については完了市町村の割合が65.9%、継続中24.1%、休止6.3%、未着手3.7%と未着手市町村の割合が著しく低い。
〔2〕 進ちょく率が30%以上70%未満の道県については完了市町村の割合が34.3%、継続中30.4%、休止26.0%、未着手9.3%と未着手市町村は比較的少ないものの休止市町村がかなり見られる。
〔3〕 進ちょく率が30%未満の都府県については完了市町村の割合が5.3%、継続中23.9%、休止16.9%、未着手53.9%と未着手市町村の割合が半数以上を占めている。

表2 地籍調査事業の実施状況
(単位:千円、%)

都道府県名 事業費 国庫負
担金額
市町村
等数
13年度末進ちょく率
完了
市町村
継続
市町村
休止
市町村
未着手
市町村
青森 3,265,972 1,675,996 67 61 6 0 0 91.2
香川 2,790,692 1,395,346 43 26 8 5 4 76.1
福岡 4,377,348 2,242,675 97 60 20 9 8 70.0
佐賀 5,701,362 2,924,707 49 34 12 2 1 89.9
鹿児島 14,878,553 9,008,654 96 51 39 6 0 70.0
進ちょく率70%以上 計 
(市町村数比率)
31,013,927 17,247,378 352
(100.0)
232
(65.9)
85
(24.1)
22
(6.3)
13
(3.7)
77.8
北海道 12,564,568 7,455,750 212 52 29 103 28 61.9
山形 7,071,690 3,618,833 44 10 24 7 3 44.8
福島 9,454,976 4,908,137 90 26 35 28 1 59.1
茨城 9,394,006 4,851,483 84 47 30 2 5 60.0
高知 9,986,137 5,099,695 53 11 29 4 9 35.1
長崎 8,480,927 5,131,752 79 47 24 2 6 52.8
進ちょく率30%以上70%未満 計 
(市町村数比率)
56,952,304 31,065,650 562
(100.0)
193
(34.3)
171
(30.4)
146
(26.0)
52
(9.3)
58.3
埼玉 2,700,610 1,410,765 90 13 15 20 42 27.9
千葉 1,584,911 785,299 80 8 9 4 59 10.8
東京 2,368,359 1,184,179 62 6 14 4 38 17.1
神奈川 1,927,968 969,478 37 1 6 10 20 11.6
石川 962,933 488,182 41 2 9 13 17 11.6
岐阜 5,578,260 2,843,235 99 0 39 7 53 7.9
愛知 276,098 147,927 88 2 5 28 53 10.9
滋賀 340,617 173,495 50 0 8 9 33 9.8
京都 257,699 131,723 44 1 2 9 32 6.1
大阪 114,283 58,547 44 0 1 5 38 1.6
兵庫 2,325,626 1,204,140 88 1 19 23 45 13.9
奈良 2,044,784 1,039,379 47 3 12 8 24 8.7
和歌山 8,071,518 4,075,146 50 2 45 1 2 10.7
徳島 3,658,220 1,829,110 50 7 24 6 13 19.5
進ちょく率30%未満 計 
(市町村数比率)
32,211,886 16,340,605 870
(100.0)
46
(5.3)
208
(23.9)
147
(16.9)
469
(53.9)
11.9
合計     
(市町村数比率)
120,178,117 64,653,633 1,784
(100.0)
471
(26.4)
464
(26.0)
315
(17.7)
534
(29.9)
43.3

 

表3 調査対象面積に対する調査済面積の用途地域別内訳
(単位:%)

進ちょく率 都道府県名 DID DID以外
の宅地
農用地 林地 その他
70%以上 青森 28.1 88.5 93.4 90.1
香川 37.7 70.1 77.6 78.0 48.8
福岡 23.1 65.8 78.8 74.2 11.0
佐賀 80.3 80.4 77.8 87.3 96.0
鹿児島 31.0 67.9 69.5 67.0 23.0
小計 29.5 71.9 80.2 76.8 25.5
30%以上
70%未満
北海道 24.9 47.7 82.2 49.1 21.4
山形 14.2 55.1 50.0 31.0  0.0
福島 64.9 85.2 73.0 47.7 75.8
茨城 54.5 65.8 80.9 71.4
高知 1.8 21.7 29.0 36.5 88.8
長崎 18.9 43.8 65.1 46.2 71.6
小計 30.6 55.4 76.7 46.7 29.3
30%未満 埼玉 14.0 40.2 40.3 13.5 21.8
千葉 4.4 8.5 10.5 10.4 5.0
東京 3.7 28.6 24.1 30.6 3.5
神奈川 15.8 10.9 11.7 5.8 1.9
石川 49.3 35.7 28.9 2.2 21.9
岐阜 0.0 9.3 8.3 7.0 0.0
愛知 1.7 8.1 12.5 1.2 0.9
滋賀 0.0 10.2 3.7 0.7 0.0
京都 4.0 18.2 19.0 1.1
大阪 0.8 0.5 0.7 0.4 1.2
兵庫 15.9 17.1 35.4 3.4
奈良 12.1 18.5 23.1 4.9 16.1
和歌山 1.5 21.2 28.7 6.7 65.7
徳島 18.2 26.2 64.6 12.8 0.0
小計 7.9 17.2 21.4 6.0 9.0
合計 14.1 41.7 63.8 34.1 19.6

ウ 未着手市町村の状況

 上記のとおり、都道府県単位の進ちょく率が、未着手市町村の割合に大きな関連が見られることから、事業に着手しない理由について534未着手市町村にアンケートをとるなどして調査したところ、表4のとおり、必要性は感じているが多大な経費、時間を費やすほどの利点を認識していないためが一番多く、次に、主に都市部において地権者の利害関係が複雑に絡み、境界確認が難しいと予想されるためとなっており、認識不足や都市部での問題点がうかがえる。

表4 未着手市町村に対するアンケート結果
 

進ちょく率 都道府県名 未着手
市町村数
未着手の理由
地籍調査事業を行わなくても特に弊害がない 地権者の利害関係が複雑に絡み、境界確認が難しいと予想されるため 必要は感じているが多大な経費、時間を費やすほどの利点を認識していないため 他の事業を優先させているため 地箱調査事業に対する認識が簿いため
70%以上 青森 0          
香川 4   2 4    
福岡 8     3 1 1
佐賀 1       1  
鹿児島 0          
30%以上
70%未満
北海道 28 4 10 14 5  
山形 3   1 3    
福島 1     1 1  
茨城 5     5    
高知 9   2 2 6  
長崎 6   3 2    
30%未満 埼玉 42 11 9 19 10 6
千葉 59 7 24 34    
東京 38 3 14 16 17 7
神奈川 20 6 8 11 10 4
石川 17 2 11 8 5 3
岐阜 53 6 11 15 17 10
愛知 53 14 21 23 20 8
滋賀 33 2 11 9 9 2
京都 32 10 10 17 9 6
大阪 38 7 17 20 4 1
兵庫 45 6 21 18 17 4
奈良 24   16 16 1  
和歌山 2   2      
徳島 13 1 3 9    
534 79 196 249 133 52
割合(%) 14.7 36.7 46.6 24.9 9.7
(注)
 未着手の理由は複数回答可のため市町村数の計と合わない。

エ 国土調査事業十箇年計画の計画面積に対する事業実施状況

 今回検査の対象とした1,784市町村等についてみると現在は12年度を初年度とする第五次国土調査事業十箇年計画により地籍調査事業が推進されているが、直近に終了した第四次国土調査事業十箇年計画の実績についてみたところ、計画面積に対する達成率は36.5%となっており、第一次から第三次国土調査事業十箇年計画までと同様に依然として進ちょくが遅れている状況となっていた。また、第四次国土調査事業十箇年計画において期間中に事業実施の計画があり、地籍調査事業に着手するとした542市町村のうち計画期間中に着手したものは、表5のとおり192市町村にすぎず、市町村の未着手率は64.5%であり、進ちょく率の低い都府県においては、未着手率が高い傾向となっていた(表5参照)。

表5 第4次国土調査事業十箇年計画の実績
(単位:km 、%)

進ちょく率 都道府県名 第4次国土調査事業十箇年計画 第4次国土調査事業十箇年計画から着手予定の市町村
(C)
左のうち
着手市町村数
(D)
未着手率
((C)-(D))/(C)
計画面積
(A)
実績
(B)
達成率
(B)/(A)
70%以上 青森 400 298 74.6 0 0
香川 400 166 41.6 6 2 66.6
福岡 500 216 43.3 12 4 66.6
佐賀 500 288 57.6 7 6 14.2
鹿児島 2,600 1,045 40.1 16 16 0.0
小計 4,400 2,014 45.7 41 28 31.7
30%以上70%未満 北海道 6,000 3,020 50.3 34 12 64.7
山形 900 490 54.5 4 1 75.0
福島 1,600 700 43.7 11 10 9.0
茨城 1,200 565 47.0 19 13 31.5
高知 1,300 558 42.9 18 10 44.4
長崎 1,200 361 30.1 15 9 40.0
小計 12,200 5,696 46.6 101 55 45.5
30%未満 埼玉 800 100 12.5 45 5 88.8
千葉 900 88 9.8 22 8 63.6
東京 200 16 8.0 13 8 38.4
神奈川 300 23 7.9 22 2 90.9
石川 500 38 7.5 21 2 90.4
岐阜 1,200 302 25.2 31 19 38.7
愛知 300 11 3.8 29 1 96.5
滋賀 600 13 2.2 36 3 91.6
京都 500 10 1.9 32 1 96.8
大阪 300 3 1.0 42 2 95.2
兵庫 700 110 15.7 49 10 79.5
奈良 400 82 20.6 5 3 40.0
和歌山 700 258 36.9 35 34 2.8
徳島 500 172 34.5 18 11 38.8
小計 7,900 1,231 15.5 400 109 72.7
合計 24,500 8,942 36.5 542 192 64.5

(2)事業推進のための取組状況

ア 啓発、普及活動の状況

 地籍調査事業を推進するため、国土庁では、従来から国の機関及び都道府県との密接な連絡調整及び相互協力に遺漏のないよう、関係機関の定期的な連絡会議を設けるなど所要の措置を講じるよう関係機関に通知を発するなどしている。また、63年国土庁通知により、都道府県は管内の市町村等に対して研修会等を開催し、事業の円滑な実施を図ることとされている。今回、これらの研修会等のうち、未着手市町村や休止市町村のうち事業再開の目途がなく実質的に中止状態である市町村(以下「中止市町村」という。)も対象としている研修会等への市町村の出席状況を調査したところ、未着手市町村、中止市町村の出席率は、3%から100%と都道府県単位の進ちょく率とは関連なく区々となっていた。これは、未着手市町村等の中に事業に対する認識の低いものがあることを反映しているとともに、出席率は高くても、都道府県単位の進ちょく率は低いものも見受けられることから、都道府県の研修会等による啓発の効果が十分ではないものと思料される。

イ 一筆地調査への外部の専門家の活用状況

 一筆地調査については、土地登記簿や公図等を基にして、一筆ごとの土地について関係者立会いの下に地番、地目、所有者及び境界の調査確認を行う作業で、地籍調査事業全体に占める負担の割合も高いものとなっている。この一筆地調査は、土地の権利関係を確認することなどから市町村等職員が自ら実施することを原則としているが、一筆地調査担当の職員不足が事業の遅れの一因といわれている。
 このため、12年度より地籍調査の促進を図ることを目的として、外注型地籍調査事業が創設され、一筆地調査に外部の専門家を活用できる制度が設けられた。すなわち、国土庁が12年に都道府県に発した「地籍調査事業(外注型)の実施について」(平成12年国土庁12国土国第173号国土庁土地局国土調査課長通知)により、新規に事業に着手した市町村にあっては全地域、当該年度の事業量が全市町村の平均的事業量を現に超える市町村にあっては平均的な事業量を超える事業量に相当する地域などについては、一筆地調査を外注した際には負担対象となることとされた。その後毎年通知の改正が行われ、14年には、外注できる地域の要件を拡大するなどして事業の推進が図られている。そして、実際にこの制度を活用して事業を実施しているのは、464継続市町村のうち126市町村(27.1%)となっている。

(3)地籍調査事業の効果

ア 事業未実施のため支障があった事例

 再開発事業等を行う際に、境界が不明確であると用地調査に多大な時間が費やされるだけでなく、事前に問題発生を予測できず、事業実施者、特に民間企業にとっては大きなリスクを抱えることになり、都市再生の円滑な推進の妨げになる。
 地籍調査事業が実施されていなかったため、当該地区における事業の実施に当たり支障があった事例としては次のようなものがあった。

<事例>

 東京都 A地区第一種市街地再開発事業

 上記の事業は民間ビル会社が中心となって昭和61年より平成15年にかけ11haの再開発を進めてきたが、地籍調査が未了であったため境界調査に4年が費やされている。
 法に基づく地籍調査と比べて、民間企業が独自に境界の調査を行う場合には、立会いを求めることや土地への立入りについて法的権限を有しておらず、官民境界確認作業も行政との間で時間がかかる等種々の障害があった。仮にこの地域で事前に地籍調査が実施されていれば、この調査期間は大幅に短縮できた。

イ 事業実施前後における地目別面積の是正

 登記図のなかには明治時代に実施された地租改正の頃の図面が公図として使用されている場合があるなど、一筆ごとの形状、地積が不正確なものがあり、地籍調査事業はこうした事態を改善するものである。そこで、今回調査した都道府県における昭和45年度から平成12年度までに認証された地籍図により、地目別の面積が事業実施前と実施後においてどのように是正されているかについてみたところ、表6のとおり、実施前と実施後の面積では、宅地については1,315km 増の1.34倍、山林については25,489km 増の1.56倍などとなっており、全体では21,276km 増の1.18倍と、いわゆる縄のび(注3) が是正される状況となっている。

表6 地籍調査事業実施前後における地目別面積の是正の状況
(単位:km 、%)

区分
地目
調査前面積
(A)
調査後面積
(B)
変動面積
(B)-(A)
変動率
(B)/(A)
13,619 15,295 1,676 112.3
22,271 22,973 702 103.1
宅地 3,784 5,099 1,315 134.7
山林 45,455 70,944 25,489 156.0
原野 20,205 8,773 △11,432 43.4
その他 6,885 10,411 3,526 151.2
112,219 133,495 21,276 118.9
 縄のび 土地登記簿に記載された土地面積よりも、実際の土地の面積が大きいことをいう。

(4)19条5項指定の活用状況等

ア 土地区画整理事業及び土地改良事業

 前記の土地区画整理事業の確定測量1,884工区及び土地改良事業の確定測量7,771工区における確定測量の成果について19条5項指定の申請状況を検査したところ、国土地理院が設置した基準点等に基づき確定測量を実施しているのに、換地処分公告後においても19条5項指定の申請を国土交通大臣(13年1月5日以前は建設大臣)又は農林水産大臣に行っていないものが、それぞれ675工区(確定測量面積130km 、確定測量費41億1701万余円)、2,613工区(確定測量面積790km 、確定測量費117億0862万余円)見受けられた。
 上記の確定測量は、両事業の実施に当たって不可欠なものであって、事業の目的を達成しているものであるが、地籍調査の成果と同等以上の精度を有するものと思料されるのに、19条5項指定の申請を行っていないため、地籍調査と同一の効果が発現していない状況となっていた。
 また、土地区画整理事業及び土地改良事業に係る19条5項指定の申請率についてみると、昭和58年度から平成13年度までの平均でそれぞれ55.1%及び60.0%となっているものの、都道府県別にみると両事業とも0%から100%と取組状況が区々になっており、申請率が低い都道府県においては、56年農林水産省通知、62年建設省通知及び63年国土庁通知の趣旨を受けた取組が十分でない状況となっていた(表7、8参照)。

表7 土地区画整理事業による確定測量面積等
(単位:km 、千円、%)

項目
都道府県
工区数 確定測量面積 確定測量費 19条5項指
定の申請率
北海道 191 52 1,514,193 22.5
青森県 21 13 580,022 76.0
山形県 49 10 1,043,778 100.0
福島県 72 15 1,508,128 56.7
茨城県 86 32 4,481,367 64.6
埼玉県 122 38 3,687,147 81.3
千葉県 158 64 5,165,042 64.9
東京都 115 37 541,397 20.9
神奈川県 124 32 262,133 40.6
石川県 107 18 640,396 4.7
岐阜県 55 13 1,579,712 89.0
愛知県 220 72 2,785,520 72.7
滋賀県 68 9 1,444,823 66.1
京都府 56 15 2,132,538 50.0
大阪府 101 35 1,142,844 70.1
兵庫県 135 37 5,052,732 52.3
奈良県 23 3 不明 54.1
和歌山県 20 6 94,245 100.0
徳島県 4 2 21,437 0.0
香川県 5 3 158,618 50.0
高知県 8 2 79,108 85.7
福岡県 78 24 1,407,252 81.4
佐賀県 16 3 152,066 92.8
長崎県 21 3 175,899 38.0
鹿児島県 29 22 536,846 72.7
1,884 574 36,187,253 55.1
(注)
 申請率については、昭和58年度以降に基準点測量に基づき実施した事業の工区数に対して申請した工区数の割合である。

 

表8 56年農林水産省通知の面積要件を満たしている土地改良事業による確定測量面積等
  (単位:km 、千円、%)
項目
都道府県
工区数 確定測量面積 確定測量費 19条5項指
定の申請率
北海道 172 223 1,524,406 94.5
青森県 182 103 1,542,875 91.4
山形県 264 246 2,627,856 99.0
福島県 466 338 3,598,877 39.4
茨城県 173 106 1,699,577 2.6
埼玉県 79 53 545,918 16.2
千葉県 214 108 769,122 100.0
東京都 7 0 91,210 0.0
神奈川県 20 4 258,441 11.1
石川県 124 56 645,039 23.3
岐阜県 560 165 2,721,466 30.8
愛知県 225 133 2,394,467 87.5
滋賀県 280 118 1,110,745 61.5
京都府 274 61 1,021,030 70.0
大阪府
兵庫県 935 238 4,865,147 88.5
奈良県 106 17 403,043 78.1
和歌山県 73 6 203,148 95.9
徳島県 216 25 493,713 66.2
香川県 425 50 592,789 30.9
高知県 297 28 571,883 14.4
福岡県 534 259 3,598,313 80.9
佐賀県 597 208 2,784,168 97.4
長崎県 587 67 1,033,219 8.5
鹿児島県 961 236 4,851,826 53.0
7,771 2,858 39,948,288 60.0
(注)
 申請率については、昭和58年度以降に基準点測量に基づき実施した事業の工区数に対して申請した工区数の割合である。

イ 民間開発事業

 前記の2,387件の開発行為について、19条5項指定の申請状況を検査したところ、19条5項指定を受けているものはわずか10件となっていた。都道府県等において19条5項指定の制度に対する認識が低いため、民間開発業者等に周知されていなかったなど民間開発通知の趣旨が徹底していない状況となっていた。

3 本院の所見

 国土交通省においては、地籍調査事業について、従来より事業主体である市町村等や関係機関である農林水産省、都道府県等に対して、地籍調査の推進について協力要請の通知を発するなどして国土調査の実施体制及び管理体制の強化に努めてきたところである。
 しかし、未着手市町村においては、地籍調査事業に未着手の理由として認識不足や都市部での問題を挙げているものが多いことから計画どおり事業の進ちょくを図る上では少なからず困難が予想されるところである。また、19条5項指定の申請についても、土地区画整理事業、土地改良事業及び民間開発事業等の事業主体の判断によるところが大きいものである。
 このため、事業の進ちょくは十分なものとなっておらず、特に都市部において進ちょくが立ち遅れている状況にあり、また、19条5項指定の制度も十分に活用されていない状況にある。
 このような状況で事業が推移すると、国土の開発及び保全並びに利用の高度化に資するとともに地籍の明確化を図るという事業の目的を計画に基づき達成するにはなお相当の期間を要することが予想される。
 したがって、国土交通省においては、次のような方策を執るなどして、地籍調査事業の推進を図る要があると認められる。
ア 地籍調査の目的及びその重要性について研修会等を通じて未着手市町村等の意識向上に努めるとともに、関係省庁との連携を強め、他の事業の成果を活用するなどして地籍調査の一層の推進が図られるよう努めること
イ 都道府県計画が策定された場合には、事業主体である市町村が計画に従って事業を推進するよう、都道府県に対しなお一層働きかけること
ウ 一筆地調査について、必要に応じ外部の専門家を活用した調査を積極的に推し進めるなどして調査の促進に一層努めるよう、都道府県に対し働きかけること
エ 都道府県において地籍調査担当部局が土地区画整理事業担当部局及び土地改良事業担当部局など関係部局との連携を引き続き図るなどして、民間開発事業を含めた19条5項指定の一層の促進に努めるよう働きかけること

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