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  • 平成14年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

公共工事の品質を確保するための監督・検査体制等の整備状況について


第6 公共工事の品質を確保するための監督・検査体制等の整備状況について

検査対象 国の機関 内閣府(沖縄総合事率局)、農林水産省、国土交通省
  都道府県 34都道府県 (国土交通省所管分)
    26道県 (農林水産省所管分)
  市町村 724市町村 (国土交通省所管分)
    366市町村 (農林水産省所管分)
監督・検査の概要 会計法(昭和22年法律第35号)等に基づき、契約の適正な履行を確保するために監督すること及び給付の完了の確認をするために検査すること
検査の対象とした公共工事(直轄及び補助工事)の工事件数 直轄工事 国土交通省所管 13年度施行分 3,419件
    14年度施行分 3,344件
  農林水産省所管 13年度施行分 532件
    14年度施行分 580件
補助工事 国土交通省所管 13年度施行分 37,737件
    14年度施行分 37,359件
  農林水産省所管 13年度施行分 9,076件
    14年度施行分 7,706件
上記の工事の支払金額 直轄工事 国土交通省所管 13年度支払分 3360億円
    14年度支払分 3429億円
  農林水産省所管 13年度支払分 834億円
    14年度支払分 801億円
補助工事 国土交通省所管 13年度支払分 1兆4294億円
    14年度支払分 1兆2312億円
  農林水産省所管 13年度支払分 2379億円
    14年度支払分 2042億円

1 公共工事の監督・検査等の概要

(1)公共工事の監督・検査の概要

(公共工事の実施状況等)

 国及び地方公共団体等により実施される公共工事は、請負契約により毎年多数施行されており、平成14年度における建設投資額は国4兆7284億余円、都道府県7兆7333億余円、市区町村6兆9294億余円に上っている。
 公共工事の請負契約は、契約目的物である公共施設の規模が大きく品質に問題が発見されてもその取替えが容易でないものも多いこと、主として屋外の現場で建設するものであるため現場条件などの影響を受けやすく、工事内容の見直しを迫られることも少なくないことなど他の契約とは異なる特質を有する。そのため、公共工事の請負契約の発注者は、より一層、工事の施工期間中において現場条件や工事内容等の確認を行い、その状況に即して適切な指示を行うなどの監督を行うとともに、工事が完成した際などに契約目的物が契約図書のとおり出来上がっているかを検査する必要がある。

(公共工事の監督・検査の規程)

 公共工事の請負契約を締結した場合は、国においては、会計法(昭和22年法律第35号)により、契約の適正な履行を確保するため必要な監督をするとともに、給付の完了の確認(給付の完了前に代価の一部を支払う必要がある場合において行う工事の既済部分の確認を含む。)をするため必要な検査をしなければならないとされている。そして、監督・検査の方法については、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)及び契約事務取扱規則(昭和37年大蔵省令第52号)において以下のように定められている。

ア 監督の方法

 監督職員は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理、履行途中における工事製造等に使用する材料の試験又は検査等の方法により監督をし、契約の相手方に必要な指示をするものとするなどとされている。

イ 検査の方法

 検査職員は、給付の完了の確認につき、契約書、仕様書及び設計書その他の書類に基づき、かつ、必要に応じ当該契約にかかわる監督職員の立会いを求め、当該給付の内容について検査を行わなければならないなどとされている。
 なお、会計法、予算決算及び会計令等において、監督又は検査を行う者については、契約担当官等あるいは契約担当官等から監督又は検査を命ぜられた補助者又は各省各庁の長若しくはその委任を受けた職員から監督又は検査を命ぜられた職員とされている。
 一方、地方公共団体では、監督・検査の方法について、地方自治法(昭和22年法律第67号)及び地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)等において、国と同様の内容の規定が整備されている。また、監督又は検査を行う者については、各発注者が条例等で定めるなどしている。

(公共工事の監督・検査等の推移)

 公共工事の監督・検査については、近年その施工段階における監督・検査業務の在り方が見直されるとともに、新たに工事の施工体制について確認することにも重点が置かれるようになった。

ア 工事の施工状況の確認

 公共工事の請負契約については、建設市場の国際化の進展等による公共工事を取り巻く環境の変化を背景に、発注者と請負者の契約関係の明確化を図ることなどを目的として、7年5月に、中央建設業審議会により公共工事標準請負契約約款の改正が行われた。
 また、8年1月には、公共工事の主要な発注官庁である農林水産省、旧運輸省、旧建設省(以下、これらを総称して「三省」という。)が共同事務局となり、学識経験者などからなる「公共工事の品質に関する委員会」の報告書がとりまとめられた。この報告書では、上記公共工事標準請負契約約款の改正なども踏まえ、公共工事における発注者の品質確認は検査職員による検査で行うことを基本とすることとされた。また、完成検査の段階で問題が発見されても修復が困難であるという公共工事の特徴を踏まえ、施工段階における監督職員による監督の充実も必要であるとし、さらに、完成検査を補完するため、工事完成時点で目視できなくなる箇所等を施工途中においても検査職員が自ら検査して確認することが重要であるとされた。

イ 工事の施工体制の確認

 公共工事の施工については、従来から建設業法(昭和24年法律第100号)で禁止されている次のような事態が見受けられるとされ、これらの事態は工事の品質の低下などを招くおそれがあるとして問題視されてきた。

〔1〕 発注者の承諾を得ずに一括下請負(注1) させる事態

〔2〕 一定金額以上の工事については、工事現場ごとに専任で配置することが義務付けられた工事の施工の技術上の管理をつかさどる者(以下「施工技術者」という。)を複数の工事現場に重複配置させるなどの事態

 上記のような事態を排除するため、元請負、下請負関係の明確化を図り、元請負人の責任を強化するなどの目的で、6年6月に、建設業法が改正され、7年6月より一定金額以上の工事を下請負させる元請負人は、下請負人の名称、工事内容などを記載した施工体制台帳を作成し、工事現場に備えることが義務付けられた。また、8年には、請負者から登録される施工技術者の専任状況を確認し、重複配置が判明した場合に発注者に通知するデータベースシステム(以下「発注者支援データベース」という。)が旧建設省の要請により公益法人によって構築され、各発注者は利用料金(注2) を支払い、このシステムを利用できるようになった。
 これらの制度の整備に伴い、三省では、施工体制台帳や発注者支援データベースを用いて施工体制の点検を行うこととし、不適切な事態が確認された場合には、請負者に改善の措置を求めることとした。

(注1) 一括下請負 請け負った工事のすべてを一括するなどして他の者に下請負させること
(注2) 利用料金 14年度末時点の年間利用料は、国、都道府県が350万円、市町村が80万円などとなっていた。

(2)入札契約適正化法等の概要

 公共工事の入札及び契約について、受注者の選定や工事の施工に関して不正行為が多発したことを契機として、国、特殊法人等及び地方公共団体が行う公共工事の入札及び契約の適正化を促進し、公共工事に対する国民の信頼の確保と建設業の健全な発達を図ることを目的として、12年11月、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成12年法律第127号。以下「入札契約適正化法」という。)が公布され、13年2月から段階的に施行された。
 この法律では、国、特殊法人等及び地方公共団体の発注者全体を通じて義務付ける事項を定めているほか、各発注者の自主性にも配慮して努力義務とする指針を国が定めることとしている。そして、総務大臣、財務大臣及び国土交通大臣は、この法律に基づき策定された「公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針」(平成13年3月閣議決定。以下「適正化指針」という。)に従って講じられた措置の状況報告を取りまとめ、その概要を公表することとされ、適正化指針に照らして特に必要があると認められる措置を講じるべきことを各発注者に要請することができることとされている。
 公共工事の適正な施工の確保という視点から入札契約適正化法及び適正化指針に盛り込まれた主な事項は、以下のとおりとなっている。

ア 入札契約適正化法で義務付けられた事項

〔1〕 建設業法において、従来発注者の承諾を得られた場合には例外として認められていた一括下請負は、国、特殊法人等及び地方公共団体が行う公共工事においては全面禁止とすること
〔2〕 請負者は、施工体制台帳の写しを発注者へ提出しなければならないこと
〔3〕 発注者は、当該工事現場の施工体制が施工体制台帳の記載に合致しているかどうかの点検その他の必要な措置を講じなければならないこと

イ 適正化指針で努力義務として定められた事項

〔1〕 発注者は、監督・検査についての基準を策定し、公表するとともに、施工体制の点検を行うための要領の策定等により統一的な監督の実施に努めること
〔2〕 発注者は、施工技術者などを記載した工事データが発注者支援データベースヘ登録されていることの確認を行うとともに、このデータベースの活用等により、配置予定の施工技術者が現場で専任できるかどうかを確認すること
〔3〕 発注者は、受注者の適正な選定の確保を図るため、工事の施工状況の評価(以下、これを「工事成績評定」という。)を行うこと。また、工事成績評定が評価を行う者によって大きな差を生じることがないよう工事成績評定について要領を定めること
 なお、適正化指針においては、その具体化に当たって次の事項に留意することとされている。

(ア)適正化指針の内容は、地方公共団体等の自主性に配慮したものであり、各発注者の状況に応じた取組が当然に許容されるものであるが、発注者ごとに取組の差違はあっても、全体としては着実に適正化指針に従った措置が講じられる必要があること
(イ)公共工事の入札及び契約の適正化を促進するため、特に、小規模な市町村等における技術者の不足の補完・支援の体制の整備のため、外部機関の活用等を積極的に進めることなどが必要であること

2 検査の背景、着眼点及び対象

(検査の背景及び着眼点)

 公共工事の請負契約については、6年度の一般競争入札の本格的な導入を始めとしてより透明性・客観性及び競争性の高い入札制度へと改革が行われてきている。そして厳しい財政事情の下、効率的な公共事業の執行を通じて社会資本整備を着実に進めるため、政府により、9年4月には「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」が、また、12年9月には「公共工事コスト縮減対策に関する新行動指針」がそれぞれ策定され、公共工事を担当する省庁等はこれらの指針に基づき工事コストの縮減に向けての各種方策の検討・実施を図っているところである。これらの指針においても、社会資本が本来備えるべき基本機能・品質を満足させた上で、総合的なコスト縮減を目指すこととされているように、競争性の増大、コストの縮減は、いずれも工事の品質が確保されていることが前提であり、これらの施策を今後も推進していく上で、公共工事の品質の確保は従来にも増して重要な課題となっている。
 一方、14年度の建設投資額はピーク時(平成4年度)の70%にまで減少し、建設業者間での受注競争等により、国及び地方公共団体いずれの公共工事においても、極端な低価格による入札が見受けられていて、これらの入札価格による契約履行の可否の判定や契約後の監督・検査などを的確に行うことによる工事の品質の確保が求められている。
 このような状況の下、公共工事については、前記のとおり入札契約適正化法が施行されるなど各種対応が図られたところであるが、一方では最近でもトンネル工事においてコンクリートの厚さが不足している事態が見受けられたり、橋りょうの落橋を防止するために新たに設置する装置を橋台等と一体化させるために使用するアンカーボルトが所定の位置まで埋め込まれていない事態が全国的な規模で見受けられたりするなど、設計と異なる施工が行われたいわゆる粗雑工事の存在が社会的な注目を集めたところである。
 本院では、従来から公共工事の検査に当たっては、工事の品質の確保が図られているかなどに着目して検査を実施しており、その結果、国土交通省及び農林水産省所管の公共工事について、施工が設計と著しく相違していたり、施工が著しく粗雑となっていたりしていて、工事の目的を達していないなどとして本院が過去5箇年(9年度から13年度)の決算検査報告に掲記した事項に係る工事件数は、表1のとおり26件である。これらの内容は、完成後に目視できなくなる構造物内の鉄筋や法面に打ち込むロックボルトの施工が設計どおり行われていないなどの事態であり、その発生原因は、請負者の施工管理体制が不適切だったことによるが、それに対する発注者の監督・検査が十分に行われていなかったことにもよるものである。

表1 過去5箇年における決算検査報告掲記事項
(単位:千円)

  事業主体 工事件数 工事費 指摘金額 国庫補助金相当額
国土交通
省所管分
都道府県 11 961,070 425,927 211,460
市町村 4 165,819 33,535 17,461
農林水産
省所管分
都道府県 6 529,176 51,013 25,506
市町村 5 733,073 80,932 41,824
合計 26 2,389,140 591,409 296,253

 このように、公共工事は、仮に施工に瑕疵があったとしても工事の完成後にその事実を発見することは一般的に困難なものであり、これら事態を防止するためにも工事の着工から完了に至る過程の中で、発注者による適切な監督・検査等が行われることは極めて重要である。
 上記のようなことから、公共工事の各発注者が工事の品質を確保するために監督・検査をどのような体制の下でどのように実施しているか、また、入札契約適正化法施行後の各種施策の導入状況などについて着目して検査した。

(検査の対象)

 検査に当たっては、国土交通省所管の公共工事を担当する部門と農林水産省所管の公共工事を担当する部門の公共工事について、表2のとおり、直轄事業の実施事務所(以下「直轄事務所」という。)、都道府県の出先事務所(以下「都道府県事務所」という。)、市町村を対象として検査した。

表2 検査の対象とした公共工事
(単位:億円)

  発注機関 工事件数 支払金額 国庫補助金相当額







27直轄事務所(注3) 13年度 3,419 3,360
14年度 3,344 3,429
34都道府県(注4)
111都道府県事務所
13年度 20,227 7,422 3,824
14年度 19,695 7,075 3,681
191市 13年度 10,295 5,141 2,398
14年度 11,011 3,706 1,821
428町 13年度 6,172 1,488 754
14年度 5,709 1,329 677
105村 13年度 1,043 241 136
14年度 944 201 116
27直轄事務所758地方公共団体 81,859 33,396 13,411







18直轄事務所(注5) 13年度 532 834
14年度 580 801
26道県(注6) 51都道府県事務所 13年度 5,304 1,799 919
14年度 4,684 1,586 826
78市 13年度 1,380 241 126
14年度 1,262 202 104
220町 13年度 1,961 251 135
14年度 1,361 187 101
68村 13年度 431 87 46
14年度 399 66 35
18直轄事務所392地方公共団体 17,894 6,058 2,295
注(1)  地方公共団体の工事件数、支払金額等は、国庫補助対象工事のものである。
注(2)  「工事件数」欄は、13、14両年度にまたがる工事がある場合、各年度にそれぞれ1件ずつ計上している。
注(3)  工事件数の「計」欄は、工事件数をそのまま合計したものであり、純計ではない。
 
(注3)  27直轄事務所 小樽港湾建設事務所、岩手、郡山国道、荒川下流、江戸川、利根川下流、束京空港、鹿島港湾空港、信濃川、長岡国道、富山、名古屋国道、岐阜国道、名古屋港湾空港、大和川、淀川、大阪港湾空港、和歌山港湾、福山、倉吉、中村、高知、海の中道海浜公園、長崎、熊本、博多港湾空港、北九州港湾空港各工事事務所(いずれも平成14年度末時点の名称)
(注4)  34都道府県 東京都、北海道、大阪府、青森、岩手、宮城、秋田、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、愛知、三重、兵庫、島根、広島、山口、香川、愛媛、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島各県
(注5)  18直轄事務所 津軽、会津、大崎、新安積、宮崎、曽於各農業水利事務所、いさわ南部、豊北各農地整備事業所、那珂川沿岸、利根中央、佐渡、日野川用水、羽地大川各農業水利事業所、野洲川沿岸、香川各農地防災事業所、山陽東部土地改良建設事務所、札幌北、函館各農業事務所
(注6)  26道県 北海道、青森、岩手、秋田、山形、福島、茨城、群馬、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡、三重、兵庫、島根、岡山、山口、高知、福岡、長崎、大分、宮崎、鹿児島各県

 表2から算出した発注機関別の単年度当たりの工事の実施規模を示すと、表3のとおりである。

表3 発注機関別の公共工事の年間実施規模
(単位:百万円)

  発注機関種類 工事件数 支払金額 補助金額
国土交通省所管分 直轄事務所 125.2件 12,573
都道府県事務所 179.8件 6,530 3,381
55.8件 2,316 1,104
13.9件 329 167
9.5件 210 120
農林水産省所管分 直轄事務所 31.0件 4,544
都道府県事務所 97.9件 3,317 1,710
16.9件 283 146
7.5件 99 53
6.1件 111 58

3 検査の状況

(1)監督の制度、体制等

 監督を確実に行うためには、監督職員が個々の工事に対して裁量により判断する余地は残しながらも、監督に関する事務処理要領や技術基準(以下、これらを「監督要領等」という。)に基づき、統一した体制や業務手続によって監督が行われることが必要である。また、監督を行う上で技術的な判断を要求される個々の場面で適切な対応ができるように、組織としての技術力や業務環境を確保することは各発注者共通の課題である。
 これらの点を踏まえ、以下のとおり、各発注者の監督の制度、体制や監督職員の配置状況などについて検査した。

ア 監督要領等の整備状況

 両省においては、会計法等に基づいて監督を実施するに当たり、契約事務取扱規則等に基づき監督要領等を定めている。また、今回検査した地方公共団体のうち、14年度末時点で監督要領等が定められている団体は、表4に示すとおりであり、市町村においては自らの監督要領等を定めていない割合が高い。これらの市町村では都道府県の監督要領等を準用するなどしているが、制度として定められたものはなくその位置付けは明確なものとなっていない。

表4 監督要領等の整備状況
 

  国土交通省所管分 農林水産省所管分
  検査数 整備数 整備率(%) 検査数 整備数 整備率(%)
都道府県 34 33 97 26 22 85
191 69 36 78 27 35
428 40 9 220 15 7
105 5 5 68 2 3
758 147 19 392 66 17

イ 各発注機関における監督職員の配置状況等

 各発注機関の監督職員の配置状況や各種業務との兼務状況などについて現場確認等の業務を主体的に行っている職員等(おおむね各組織の係長相当職以下の職員)について検査した。

〔1〕 監督職員の配置状況

 両省においては、直轄事務所内に配置された監督を主たる業務とする職員やその出先機関として設置されている出張所の職員などにより監督が行われている。また、地方公共団体のうち、都道府県では、管内に設置された複数の都道府県事務所及びその出先機関として設置されている出張所などの職員により監督が行われており、さらに、市町村では、出先機関を有する規模の大きな市などを除き、本庁内に配置された各事業実施課の職員により監督が行われている。
 これを両省の所管ごとにみると、以下のとおりである。

(a)国土交通省所管分

 各発注機関の監督職員の配置状況を示すと、図1のとおり、直轄事務所、都道府県事務所では、11人以上配置されている機関の割合がそれぞれ70%、98%を占めているのに対し、市では、5人以下から50人以上までと、ばらつきがあり、町、村においては5人以下の割合がそれぞれ59%、88%を占めている。

図1 発注機関別監督職員数(国土交通省所管分)

図1発注機関別監督職員数(国土交通省所管分)

(b)農林水産省所管分

 各発注機関の監督職員の配置状況を示すと、図2のとおり、直轄事務所、都道府県事務所では、11人以上の割合がそれぞれ67%、72%を占めているのに対し、市、町、村では、5人以下の割合がそれぞれ74%、94%、91%を占めている。

図2 発注機関別監督職員数(農林水産省所管分)

図2発注機関別監督職員数(農林水産省所管分)

〔2〕 技術職員の監督業務への配置状況

 技術業務を担当する者として採用した職員(以下「技術職員」という。)の監督業務への配置状況について検査したところ、次のような状況となっていた。

(a)国土交通省所管分

 各発注機関の技術職員の監督業務への配置状況を示すと、図3のとおり、直轄事務所、都道府県事務所では、全員が技術職員である機関の割合がそれぞれ100%、87%となっているのに対し、町、村では、技術職員が1人もいない機関の割合がそれぞれ45%、71%となっている。

図3 技術職員の監督業務への配置状況(国土交通省所管分)

図3技術職員の監督業務への配置状況(国土交通省所管分)

(b)農林水産省所管分

 各発注機関の技術職員の監督業務への配置状況を示すと、図4のとおり、直轄事務所、都道府県事務所では、全員が技術職員である機関の割合がともに100%となっているのに対し、町、村では、技術職員が1人もいない機関の割合がそれぞれ53%、76%となっている。

図4 技術職員の監督業務への配置状況(農林水産省所管分)

図4技術職員の監督業務への配置状況(農林水産省所管分)

〔3〕 監督職員の業務内容

 公共工事の実施に当たっては、一般に、計画段階から、調査・設計、用地買収、入札・契約、監督・検査、維持管理などの広範囲の業務を順次実施していく必要があり、その事業の種別も、国土交通省所管事業では、河川、道路、港湾、下水道、公園など、農林水産省所管事業では、かんがい排水、ほ場整備、農道整備、集落排水、農地防災など多様なものとなっている。
 そして、監督職員が担当する業務内容は、次のとおりである。

(a)監督職員が担当する業務の種別

 監督職員が担当する業務の兼務状況についてみると、図5、図6に示すとおり、国土交通省所管の直轄事務所においては、技術業務である設計、積算との分業化が比較的図られているとともに、用地買収業務を兼務している者は全く見受けられなかった。また、農林水産省所管の直轄事務所においては、技術業務である設計、積算との兼務割合が高くなっているものの、用地買収業務を兼務している者は全く見受けられなかった。これに対し、地方公共団体においては、設計、積算と兼務しているのが通常であり、また、市、町、村とその規模が小さくなるに従って用地買収業務との兼務割合が高くなる傾向にある。

図5 発注機関別の業務兼務状況(国土交通省所管分)

図5発注機関別の業務兼務状況(国土交通省所管分)

図6 発注機関別の業務兼務状況(農林水産省所管分)

図6発注機関別の業務兼務状況(農林水産省所管分)

(注)
 図5及び図6は各発注機関の監督職員の業務兼務状況を各発注機関ごとの人数の割合で示したものである。

(b)監督職員が担当する公共事業の種別

 監督職員1人が担当する公共事業の種別数についてみると、図7、図8に示すとおり、両省の直轄事務所においては、事業種別ごとに事務所が設置されていたり、複数の事業種別を扱う事務所であっても、担当課等が事業種別ごとに分担されていたりしていて、複数の事業種別を担当している者は少ない状況となっている。これに対し、地方公共団体においては、国に比べて担当する公共事業の種別数が多くなる傾向にある。

図7 1人当たり担当事業種別数(国土交通省所管分)

図71人当たり担当事業種別数(国土交通省所管分)

図8 1人当たり担当事業種別数(農林水産省所管分)

図81人当たり担当事業種別数(農林水産省所管分)

(注)
 図7及び図8は各発注機関の監督職員の担当事業種別数の状況を各発注機関、担当事業種別数ごとの人数の割合で示したものである。

ウ 監督職員の各工事ごとの配置状況

 両省の直轄事務所においては、表5、表6に示す体制で、各工事ごとに複数の監督職員が配置されてそれぞれの業務を分担して行っており、監督職員相互の補完体制が執られている。

表5 直轄事業における監督職員の配置例(国土交通省所管分)
 

監督業務の分類 監督総括業務 現場監督総括業務 一般監督業務
主な業務内容(主に現場の施工状況の確認に関するものの抜粋) 現場監督総括業務及び一般監督業務を担当する監督職員の指揮監督並びに監督業務の掌理 契約図書に基づく工程の管理、立会い、工事の実施状況の検査及び工事材料の試験又は検査の実施(他の者に実施させ、当該実施を確認することを含む。)で重要なものの処理 契約図書に基づく工程の管理、立会い、工事の実施状況の検査及び工事材料の試験又は検査の実施(重要なものを除く。)
業務を行っている者 直轄事務所の所長 出張所長又は建設監督官 当該出張所の係長又は主任

 

表6 直轄事業における監督職員の配置例(農林水産省所管分)
 

監督業務の分類 主任監督業務 監督業務
主な業務内容(主に現場の施工状況の確認に関するものの抜粋) 監督職員の事務の総括 契約図書に基づく工程の管理、立会い、工事の施工状況の検査及び工事材料の試験又は検査の実施
業務を行っている者 直轄事務所の工務官等 当該事務所の係長等

 また、地方公共団体においては、表7に示すとおり、1工事当たりの監督体制はそれぞれ異なったものとなっており、複数の監督職員が配置されている団体もあるものの、業務分担が明確でなかったり、監督職員が1人しか配置されていなかったりする団体が相当数見受けられた。

表7 地方公共団体の監督職員の配置状況
 

  発注機関 検査数 監督職員を複数名配置し、業務を分担 特に業務分担はなされていないが、監督職員を複数名配置 監督職員を1名のみ配置
国土交通省所管分 都道府県 34 74% 3% 23%
191 20% 8% 72%
428 19% 10% 71%
105 16% 15% 69%
農林水産省所管分 都道府県 26 61% 8% 31%
78 23% 4% 73%
220 17% 8% 75%
68 9% 6% 85%
(注)
 金額の大小により、異なる監督体制を執っている場合は、金額の大きな場合の体制で区分した。

 以上ア、イ、ウから、特に、町村においては、監督職員の配置人数は少なく、かつ、技術職員の割合も少ない状況であり、その業務内容は、多くの事業種別を並行して行わなければならないうえに、他の業務(設計、積算、用地買収)も兼ねる割合が高く、監督に専念することが難しい状況となっている。一方、監督要領等の制度が定められておらず、監督職員相互の業務分担や補完体制も執られていないなど、他の発注機関と比べても、監督業務の執行体制としては脆弱なものになっていると思料される。

(2)監督職員の行う段階確認の実施状況等

 監督職員は、施工の各段階において、完成後に目視できなくなる箇所など必要な箇所を選定して原則として立会いにより施工状況を確認する行為(以下「段階確認」という。)を実施している。

ア 段階確認項目の設定

 国土交通省所管の直轄事業においては、主要な工種について、監督要領等において、各工種別に監督職員が最低限確認すべき施工の時期、項目、確認の程度を示した一覧表(以下「段階確認一覧表」という。)を定めており、例えば、橋台く体工については、表8のとおりとされている。

表8 段階確認一覧表の例
 

種別 確認時期 確認項目 確認の程度
橋台く体工の例 土(岩)質の変化したとき 土(岩)質、変化位置 1回/土(岩)質の変化毎
床堀掘削完了時 支持地盤(直接基礎) 1回/1構造物
鉄筋組立て完了時 使用材料、設計図書との対比 一般:30%程度/1構造物
重点:60%程度/1構造物
埋戻し前 設計図書との対比 1回/1構造物
沓座の位置決定時 沓座の位置 1回/1構造物

 そして、各工事の共通的な事項を定めた共通仕様書に段階確認一覧表を記載することなどにより、請負者に対して、同表に定められた各確認時期を迎えるに当たっては、あらかじめ監督職員に通知して段階確認を要請するように指示している。
 農林水産省所管の直轄事業においては、工事監督必携(工事の施工過程における監督の項目、時期等を各工種別に整理した監督職員のための手引書)を参考に段階確認の項目等を、発注者の判断により、個別の工事契約の特別仕様書(共通仕様書に定めがない当該工事に固有の施工条件、現場条件などの内容を具体的に記載するもの)に明記している。
 そして、請負者に対して、特別仕様書に明記された各施工段階を迎えるに当たって、あらかじめ監督職員に立会願を提出して段階確認を要請するように指示している。
 また、両省所管の補助事業においては、次のとおりとなっている。
 地方公共団体においては、段階確認の項目等について、共通仕様書、監督要領等において段階確認一覧表により定めていたり、個別の工事契約の特別仕様書において明記していたりなどしている。
 今回検査した地方公共団体のうち、14年度末時点で共通仕様書、監督要領等において段階確認一覧表を定めている団体は、表9のとおりであり、都道府県以外ではほとんど定めがなく、この定めのない団体では、都道府県のものを準用するなどしているが、制度として定められたものはなくその位置付けは明確なものとなっていない。

表9 段階確認一覧表の整備状況
 

  国土交通省所管分 農林水産省所管分
検査数 整備数 整備率(%) 検査数 整備数 整備率(%)
都道府県 34 32 94 26 16 62
191 12 6 78 6 8
428 1 0 220 2 1
105 68
758 45 6 392 24 6

イ 段階確認の実施

 各発注機関の段階確認が実際にどのように行われているかに着目してその記録により詳細な検査を実施するため、前記検査の対象とした工事から更に対象を抽出し、その実施状況について検査した。その内訳は表10のとおりである。

表10 検査対象とした工事件数
 

  国土交通省所管分 農林水産省所管分
  発注機関数 工事件数 発注機関数 工事件数
直轄事務所 15 44 17 56
都道府県 23 54 26 116
39 40 29 30
34 35 55 56
12 12 16 16
123 185 143 274

 国土交通省所管の直轄事業における監督職員による段階確認の実施状況について詳細に検査したところ、図9のとおり、15直轄事務所の工事契約44件については、すべての工事で所定の段階確認が実施されていた。
 農林水産省所管の直轄事業における監督職員による段階確認の実施状況について詳細に検査したところ、図9のとおり、17直轄事務所の工事契約56件のうち49件(88%)については、特別仕様書に明記したり、契約締結後、監督職員が追加指示したりした項目等の段階確認がすべて実施されていた。そして、残り7件(12%)については、発注者の判断により段階確認の項目等を選定しているものの、その確認の項目等は必ずしも統一されたものとなっていないため、一部の項目等の段階確認が実施されていなかったものである。
 また、両省所管の補助事業においては、次のとおりとなっている。
 国土交通省所管の補助事業における監督職員による段階確認の実施状況について詳細に検査したところ、図9のとおり、108地方公共団体(23都府県、39市、34町、12村)の工事契約141件のうち段階確認をすべて実施していた工事の割合は、都府県、市、町、村でそれぞれ74%、68%、66%、58%となっていた。
 農林水産省所管の補助事業における監督職員による段階確認の実施状況について詳細に検査したところ、図9のとおり、126地方公共団体(26道県、29市、55町、16村)の工事契約218件のうち段階確認をすべて実施していた工事の割合は、道県、市、町、村でそれぞれ57%、57%、55%、38%となっていた。

図9 監督職員による段階確認の実施状況

図9監督職員による段階確認の実施状況

 以上ア、イから、監督職員が行う段階確認の実施状況等については次のとおりとなっていた。
 段階確認項目については、国土交通省では、各工種別に必要な確認項目を段階確認一覧表として定めているのに対し、農林水産省では、各工種別に必要な確認項目を発注者の判断により個別の工事契約の特別仕様書に明記している。
 また、都道府県においては、国土交通省所管の補助事業を担当する部門では、おおむね段階確認一覧表を整備しているのに対し、農林水産省所管の補勘事業を担当する部門では、その割合は6割程度となっている。
 段階確認の実施については、農林水産省所管の直轄事業及び補助事業における各工事の段階確認を実施していた工事の割合は、発注者の判断により段階確認の項目等を選定していることが多いため、結果として、国土交通省所管の直轄事業及び補助事業と比べて低い傾向にある。また、地方公共団体における各工事の段階確認を実施していた工事の割合は、両省と比べて低い傾向にある。特に、都道府県、市、町、村とその規模が小さくなるに従って両省との開きは顕著になっている。

(3)監督業務についての外部機関からの技術支援の状況について

 事業規模が大幅に異なる状況の中で、各発注者の監督職員の配置状況等は異なったものとなっており、特に町村においては、技術職員の絶対数が少ない一方で広範囲な業務に精通することが要求されている。このような状況において、各発注者が13、14両年度に外部機関から受けている監督業務についての技術支援(以下「外部支援」という。)の状況について検査した。
 両省所管の直轄事業における外部支援の状況は、図10、図11のとおり、それぞれ93%、67%となっている。
 また、両省所管の補助事業における外部支援の状況は、都道府県事務所は6割程度となっているが、市町村は20%から32%にとどまり、特に、前記の技術職員が1人も監督業務に従事していない町村についてみても、18%から37%と低いものとなっていた。
 委託先についてみると、都道府県により管内の建設行政の内滑で適切な執行を支援するなどのため設立された財団法人等の公益法人等と、民間の建設コンサルタントなどに大別される。このうち公益法人等は、現在ほとんどの都道府県に設立されていて、監督業務の技術支援を行っているほか、各市町村等への研修業務も実施している。

図10 外部支援の状況(国土交通省所管分)

図10外部支援の状況(国土交通省所管分)

図11 外部支援の状況(農林水産省所管分)

図11外部支援の状況(農林水産省所管分)

注(1)  図10及び図11は事業そのものを委託して、自ら工事の請負契約を行っていないものは除いている。また、委託している発注機関の割合は、委託数に関わらず、実績のあったものの割合としている。
注(2)  棒グラフは監督業務を委託している発注機関の割合の委託先別の内訳を示したものである。

 そこで、検査の対象とした発注機関のうち、監督業務に対する外部支援が実施されていないものに対して外部支援の必要性等についてアンケート調査を実施したところ、現状において外部支援の必要性を感じているとした発注機関の割合は、表11のとおり、市町村においては、その規模が小さくなるほど高くなっている。そして、この外部支援の必要性を感じながら実施されていない理由として、委託に伴う財政上の負担が困難なことをあげている市町村が圧倒的に多い。

表11 外部支援の必要性を感じている発注機関の割合
 

  国土交通省所管分 農林水産省所管分
外部支援が実施されていない発注機関数 外部支援の必要性を感じている発注機関の割合(%) 外部支援が実施されていない発注機関数 外部支援の必要性を感じている発注機関の割合(%)
都道府県事務所 45 29 20 20
145 15(73) 62 13(88)
341 30(90) 169 27(76)
83 43(94) 46 52(79)
614   297  
(注)
 ( )内の数字は、外部支援の必要性を感じながら実施されていない理由のうち、財政上委託に伴う追加負担が困難なことをあげている割合である。

(4)検査の制度、体制

 検査についても、監督と同様に、検査に関する事務処理要領や技術基準(以下「検査要領等」という。)に基づき、統一した体制や業務手続によって行われることが必要である。また、限られた時間の中で的確な検査を行うためには、監督と比較してより高度な技術力が要求されるため、ある程度検査に専任するなどして、業務に精通した者が実施することが望ましい。さらに、完成時に目視できなくなる箇所などの品質確認においては、検査職員が監督職員の段階確認の記録などにより間接的に検査する方法もあるが、検査職員が直接的に検査することがより有効となる。
 これらの点を踏まえ、各発注者の検査の制度、体制や検査職員の任命状況などについて検査した。

ア 検査要領等の整備状況

 両省においては、会計法等に基づいて検査を実施するに当たり、契約事務取扱規則等に基づき検査要領等を定めている。また、今回検査した地方公共団体のうち、14年度末時点で検査要領等が定められている団体は、表12に示すとおりであり、特に、町村においては自らの検査要領等を定めていない割合が高く、これらの町村では、都道府県の検査要領等を準用するなどしているが、制度として定められたものはなくその位置付けは明確なものとなっていない。

表12 検査要領等の整備状況
 

  国土交通省所管分 農林水産省所管分
  検査数 整備数 整備率(%) 検査数 整備数 整備率(%)
都道府県 34 34 100 26 26 100
191 136 71 78 54 69
428 93 22 220 56 25
105 10 10 68 9 13
758 273 392 145

イ 各工事に対する検査職員の任命状況

 両省所管の直轄事業においては、大規模な工事について、各地方支分部局(国土交通省では各地方整備局等、農林水産省では各地方農政局等)で契約することとなっており、これらの工事は、局内に配置された主として検査業務を行っている工事検査官が検査している。それ以外の直轄事務所で契約した工事については、事務所内で任命された検査職員が検査している。
 両省所管の補助事業において、都道府県では、工事の金額的な規模により検査体制が本庁と都道府県事務所とで分担されている場合が一般的であり、国と同様に大規模な工事は本庁に配置された職員が任命されて、検査している。市町村においては、一般に、いずれの工事も本庁内に配置された職員が検査している。
 各発注者の検査職員の業務状況について検査したところ、表13のとおり、特に町村の場合には、検査を主な業務とする者がおらず、公共事業担当課の課長など、他の業務と兼務する者のみで検査している場合が一般的な状況であった。

表13 地方公共団体の検査職員の兼務状況
 

  発注者の種別 検査数 検査職員の専任制
検査を主な業務とする者が実施 他の行政業務と兼務の者が実施 左記の両者が混合して実施
国土交通省所管分 都道府県 34 79% 6% 15%
191 57% 35% 8%
428 5% 91% 4%
105 3% 89% 8%
農林水産省所管分 都道府県 26 88% 8% 4%
78 47% 41% 12%
220 3% 94% 3%
68 0% 99% 1%
(注)
 金額の大小により異なる検査体制を執っている場合は、金額の大きな場合の体制で区分した。

(5)検査職員が工事の施工途中で行う検査の実施状況

 会計法又は地方自治法等で必要とされている検査には、給付の完了の確認を行う完成検査とともに、給付の完了前に代価の一部を支払う必要がある場合の既済部分の確認の検査(以下「既済部分検査」という。)が定められている。このような施工途中における検査を、代価の支払の必要がない場合でも完成検査を補完するために行うことは、公共工事の品質を確保する上でより有効であることから、検査職員による施工途中における検査の制度の有無や実施状況に着目して検査を実施した。
 国土交通省所管の直轄事業のうち、河川、道路事業等においては、検査職員が完成時に目視できなくなる箇所等を施工途中において検査する中間技術検査(当初契約金額1億円以上で工期が6箇月以上の工事などを対象)が制度化されており、既済部分検査(中間技術検査を兼ねることができる。)や完成検査の時期等を考慮して実施することとしている。そして、中間技術検査が制度化されている20直轄事務所について、13、14両年度中に実際に中間技術検査が実施されたか否かを検査したところ、19直轄事務所で実施されていた。
 農林水産省所管の直轄事業においては、次のような理由により、中間技術検査の制度自体はなく、この検査を実施していない。

〔1〕 施工期間が非かんがい期(6箇月未満)となっている工事が多いこと

〔2〕 比較的大規模な工事(ダム、頭首工など)は、ほとんど国庫債務負担行為により施工され、検査職員による既済部分検査が毎年行われていること

 しかし、上記〔1〕、〔2〕の理由によりすべての工事に対して中間技術検査を実施していないことは、完成時に目視できなくなる箇所等の検査が十分とはいえず、検査業務における完成検査を補完するため、今後、更に当該検査を強化することが望まれる。
 また、両省所管の補助事業においては、会計規程や検査要領等で中間技術検査が制度化されている地方公共団体もあるものの、14年度末時点の状況についてみると、次のとおりとなっている。
 国土交通省所管の補助事業における中間技術検査の実施状況についてみると、会計規程や検査要領等で中間技術検査が制度化されている割合が都道府県、市、町、村でそれぞれ100%、75%、46%、25%となっていた。そして、中間技術検査が制度化されている地方公共団体のうち、13、14両年度中に実際に中間技術検査が実施されていた割合は、都道府県事務所、市、町、村でそれぞれ93%、62%、24%、12%となっていた。
 農林水産省所管の補助事業における中間技術検査の実施状況についてみると、会計規程や検査要領等で中間技術検査が制度化されている割合が都道府県、市、町、村でそれぞれ100%、69%、45%、25%となっていた。そして、中間技術検査が制度化されている地方公共団体のうち、13、14両年度中に実際に中間技術検査が実施されていた割合は、都道府県事務所、市、町、村でそれぞれ80%、46%、29%、35%となっていた。

(6)公共工事の適正な施工の確保を図るための各種施策の実施状況

 基本的に請負者の自主的施工の下に品質確保が行われている我が国の公共工事の請負契約については、その品質の良否は請負者の配置する施工技術者の管理能力と下請を含めた管理体制に負うところも大きいことから、公共工事の適正な施工の確保のためには、請負者が実際の施工において適切な体制で工事を行っていることを確認することなどの入札契約適正化法等で示された各種施策を実施することにより総合的な対応を図ることが重要である。そこで、14年度末時点における各発注者のこれらの施策の実施状況などについて検査した。

(施工体制の点検等)

ア 施工体制が適切でないとされた工事

 施工体制の点検等の実施状況の検査をするに当たり、一括下請負が行われていたり、施工技術者が適正に配置されていなかったりするなど、施工体制が適切でない工事について国土交通大臣及び今回の検査の対象とした39都道府県知事における建設業法に基づく監督処分(注7) を下した記録等から検査した。これによれば、表14に示すように、13年より処分件数が増加している要因としては、入札契約適正化法の施行などを契機に、国、特殊法人等及び地方公共団体が行う公共事業においては全面的に一括下請負が禁止されたこと、発注者において施工体制の点検内容の充実が図られるとともに、国土交通省において建設業法上の監督業務が本省から各地方整備局等に委譲され、より地域に密着したものとされるなど、その監督体制が強化されたことなどがあげられる。
 従来から一般にその存在が指摘されていた適切でない施工体制がこれらの監督体制の強化により急激に顕在化したことは、施工段階における施工体制の点検等の重要性を示すものである。

表14 施工体制が適切でないとされた工事件数
 

分類
処分年
 
10 11 12 13 14
処分者別 国土交通大臣 0 3 3 21 25 52
都道府県知事 20 27 38 73 59 217
発注者別 0 1 4 13 10 28
(うち国土交通省) (0) (1) (4) (10) (7) (22)
(うち農林水産省) (0) (0) (0) (1) (2) (3)
地方公共団体 20 29 37 81 74 241
  20 30 41 94 84 269
注(1)  対象は国、地方公共団体発注のものに限る。
注(2)  処分者別については、監督処分を実施した国土交通大臣又は都道府県知事別に分類したもので、同一の工事で複数の建設業者が処分されたことにより双方の処分がなされている場合には、国土交通大臣の処分した工事件数に計上している。
注(3)  国庫補助の対象外の公共工事、両省所管以外の公共工事を含む。

 

(注7) 建設業法に基づく監督処分 建設業を営もうとする者は、その営業区域の大きさにより、国土交通大臣又は都道府県知事の許可を受けなければならず、その許可を受けた建設業者が建設業法に違反するなどした場合に、許可をした国土交通大臣又は都道府県知事が建設業法に基づき当該建設業者に対して下す営業停止命令などの処分

イ 施工体制の点検等の実施状況

 入札契約適正化法により各発注者に義務付けられた施工体制の点検などの実施の有無、また、適正化指針で各発注者の努力義務とされた点検内容を定めた要領の整備状況や、点検の手段となる発注者支援データベースの活用状況についても併せて検査した。

〔1〕 入札契約適正化法で義務付けられた事項

 両省では、請負者に対して発注者への提出が義務付けられている施工体制台帳の提出を求めるとともに、発注者に義務付けられた施工体制の点検を実施している。
 また、地方公共団体については、図12、図13に示すとおり、都道府県では、両省所管の補助事業とも施工体制台帳の提出を求めるとともに、施工体制の点検を実施しているが、市町村では、次のとおりとなっている。
 施工体制台帳の発注者への提出を求めている割合は、市、町、村それぞれ国土交通省所管の補助事業では85%、60%、47%、農林水産省所管の補助事業では71%、49%、41%となっている。これに対し、施工体制の点検を実施している割合は、市、町、村それぞれ国土交通省所管の補助事業では62%、41%、30%、農林水産省所管の補助事業では49%、28%、21%となっており、いずれも施工体制台帳の提出を求めている割合より低率となっている。これは、市町村において、施工体制台帳を提出させても、必ずしもその活用が十分図られていないことを示すものと認められる。

〔2〕 適正化指針で努力義務として定められた事項

 両省では、発注者の努力義務とされた施工体制の点検要領の作成、施工技術者などを記載した工事データが発注者支援データベースヘ登録されていることの確認、このデータベースの活用等による施工技術者の専任制の確認などの点検を実施している。
 また、地方公共団体については、図12、図13に示すとおり、都道府県では、施工体制の点検要領の作成、発注者支援データベースヘの登録の確認、発注者支援データベースによる点検を実施している割合は、国土交通省所管の補助事業ではすべての項目を実施し、農林水産省所管の補助事業ではそれぞれ92%、100%、88%となっているが、市町村では、次のとおりとなっている。
 施工体制の点検要領を作成している割合は、市、町、村それぞれ国土交通省所管の補助事業では36%、17%、9%、農林水産省所管の補助事業では26%、12%、4%となっており、両省所管の補助事業とも40%以下と低率なものとなっている。また、発注者支援データベースヘの登録の確認を実施している割合は、市、町、村それぞれ国土交通省所管の補助事業では72%、54%、49%、農林水産省所管の補助事業では67%、46%、47%となっているが、発注者支援データベースによる点検を実施している割合は、国土交通省所管の補助事業では18%、4%、2%、農林水産省所管の補助事業では22%、7%、7%といずれも著しく低いものとなっている。

図12 施工体制の点検等の実施状況(国土交通省所管分)

図12施工体制の点検等の実施状況(国土交通省所管分)

図13 施工体制の点検等の実施状況(農林水産省所管分)

図13施工体制の点検等の実施状況(農林水産省所管分)

(工事成績評定の実施等)

 両省では、工事成績の評定方法などを定めた要領(以下「成績評定要領」という。)に基づき、各工事の工事成績評定を実施し、競争入札への参加資格の認定を行う際に、国土交通省では過去4年分、農林水産省では過去2年分の工事成績評定の結果を考慮するなどして、工事の施工状況の良否が入札参加に反映されるようにしている。
 一方、地方公共団体についてみると、都道府県については両省所管の補助事業とも工事成績評定が行われているが、市、町、村について行われている割合は、それぞれ国土交通省所管の補助事業では87%、40%、25%、農林水産省所管の補助事業では91%、40%、22%であり、町村の半数以上で工事成績評定そのものが実施されていない状況となっていた。
 また、成績評定要領の整備状況についてみると、都道府県では両省所管の補助事業とも整備されているが、市町村ではこれらの要領が整備されている割合は、市、町、村それぞれについて国土交通省所管の補助事業では79%、30%、17%、農林水産省所管の補助事業では79%、32%、19%であった。要領が整備されていない市町村においては、都道府県等の要領を準用して工事成績評定を実施しているものもあるが、特に明確な評定根拠もないままに実施しているものも見受けられた。
 そして、工事成績評定を実施している地方公共団体における評定結果の活用状況についてみると、入札参加資格の決定や指名業者の選定の際にその結果を反映させている割合は、都道府県、市、町、村それぞれについて、国土交通省所管の補助事業では、94%、64%、56%、44%、農林水産省所管の補助事業では92%、70%、49%、40%であり、市町村については両省所管の補助事業ともおおむね30%から60%となっていて、評定結果の活用が図られていなかった。

(各種施策の導入が進まない理由)

 各種施策が導入されていない地方公共団体について、それぞれの施策ごとに導入の必要性についてアンケート調査をしたところ、両省所管の補助事業ともほぼ同様の傾向となり、各種施策の導入が進まない理由としては、各施策に共通のものとして、内容について十分に把握しておらず認識が不足していたことがあげられている一方、おおむねいずれの施策についてもその導入の必要性は感じているとしている。また、施策別にみると、発注者支援データベースの導入については、加入料金の負担が必要となること、また、工事成績評定の実施及びその結果を次期入札等へ反映させる制度の導入については、技術的な判断を要する成績評定を実施するための人員が不足していることが導入が進まない理由として比較的多くあげられている。
 なお、発注者支援データベースについては、15年4月より市町村に対して利用料金の値下げ(市町村の年間利用料80万円から65万円)が行われている。

4 本院の所見

 近年、厳しい財政事情の下、各公共事業の執行に当たっては、より一層のコスト縮減などが求められており、これらを推進していく上で公共工事の品質の確保は従来にも増して重要な課題となっている。一方、最近においても、設計と異なる施工が行われるなどの粗雑工事が少なからず判明し、問題となっている。
 公共工事によって整備される公共施設は、国の経済活動を支えるとともに多くの国民の安全や財産を守る重要なものであり、その品質の確保は最も基本的な課題のひとつであるから、公共工事の各発注者においては、監督・検査体制を整備するなどして監督・検査を着実に遂行することが必要である。
 また、請負契約により行われる公共工事の品質の確保は、請負者の配置する施工技術者等の管理能力と、下請負人を含めた管理体制に負うところも大きく、そのため、公共工事を発注する際には、その入札に参加しようとする業者の当該工事の施工能力の有無を、発注者が工事成績評定の結果等の過去の工事実績により確認することも必要である。また、施工中においても、請負者が適正に施工技術者を配置していることや一括下請負などが行われていないことを確認するなどの総合的な対応を図っていくことが必要である。
 しかし、各発注機関の中には、監督・検査の制度や体制が十分でなく、公共工事の適正な施工の確保を図る上での各種施策への取組が十分でないものも見受けられたところであり、特に町村においては、技術職員が不足しているなどその執行体制が脆弱なものとなっている状況である。
 したがって、両省始め関係各機関において、次のような点に配慮して請負契約により行われる公共工事の品質の確保を図っていくことが望まれる。

ア 国においては、

〔1〕 工事の品質を確保する上で、より的確な完成検査の実施に努めるとともに、完成検査とともに重要となる工事の施工段階における監督・検査についても、国土交通省においては、段階確認や中間技術検査などの制度を更に有効に活用することとし、農林水産省においては、監督職員による工事途中段階における統一的な確認項目等を検討・整備するとともに、検査職員による完成検査を補完するための目視できなくなる箇所等の検査の方策を検討するなどして、工事の監督・検査を更に充実させること
〔2〕 公共工事の監督・検査の制度や適正な施工の確保を図るための各種施策を引き続き検討し、実行していくとともに、特に体制の不十分な地方公共団体に対する支援措置を一層拡充していくこと。特に、国土交通省においては、入札契約適正化法等に基づき、各発注者の対応状況の調査報告のとりまとめ等を行い、必要に応じて措置を要請していくとともに、公共工事の適正な施工についての啓発活動や、そのための各種施策の普及の方策の検討、実行に努めること

イ 都道府県においては、

〔1〕 監督・検査体制等は比較的整備されているものの、その業務の実施状況についてみると、監督における段階確認が十分に行われていないなどの事態も見受けられたところであり、今後こうした事態の改善を図るべく徹底していくこと
〔2〕 都道府県の監督・検査制度等は、管内の市町村がこれに準じている場合も多いことから、都道府県はその制度の趣旨等について市町村に対しても十分に啓発を図っていくとともに、監督・検査体制が不十分な市町村に対しては、公益法人等による技術支援体制や研修制度などの支援措置の充実を図るべく働きかけていくこと

ウ 市町村においては、

〔1〕 監督要領等及び検査要領等を定めておらず、都道府県の要領等を準用するなどしている市町村についても要領等の整備を図ることが望ましいが、早急に整備することが体制的に難しい場合は、当面、都道府県の要領等を準用することを制度的に明確にするなどして、より的確な監督・検査を実施すべく改善を図っていくこと
〔2〕 公共工事の品質の確保のためには、総合的な対応を図っていくことが必要であることから、入札契約適正化法により義務付けがなされた施工体制台帳の写しの提出や工事の施工体制の点検の実施については早急にその実施の徹底に努めるとともに、努力義務とされている各種施策についても、工事データの登録の確認など比較的容易に実施が可能なものから順次導入していくこと
〔3〕 上記各事項の実施に当たっては、監督・検査の執行体制が脆弱な団体も見受けられることから、今後、自らの技術力などの評価を的確に行い、外部支援の活用なども検討して、適切な監督・検査体制等を確保していくこと