情報システム調達契約のうち、機材の調達に係る契約については比較的競争性が高く、また、技術の進歩等に伴い機材の仕様の一般化が進むものと予想される。
一方、ソフトウェアの開発に係る契約並びに改良、変更及び追加に係る契約(以下「ソフトウェアの開発・改良契約」という。)並びに情報システムの保守、運用及び管理に係る契約(以下「情報システムの保守・運用契約」という。)については、情報システムの品質にかかわる重要な要素であり、また、その内容も多種多様である。情報システムの調達に特有の事情は、主としてこれらの契約にあると考えられることから、その契約の状況について更に詳しく分析すると、次のとおりである。
調査対象7,892件のうち、ソフトウェアの開発に係るもの650件、改良、変更及び追加に係るもの2,818件、計3,468件、契約金額3686億余円について、その競争性の状況をみると、次のとおりである。
(ア)競争性の状況
ソフトウェアの開発を競争契約によっているものは、前記図1のとおり、件数で32.7%、金額で13.6%となっている。一方、ソフトウェアの改良、変更及び追加(以下「ソフトウェアの改良」という。)を競争契約によっているものは、件数で4.6%、金額で2.6%となっている。
このようにソフトウェアの改良契約が開発契約より競争性が低くなっているのは、当初開発を競争契約で実施した場合でも、後続の契約を別の業者に発注するとソフトウェアの連接性が確保できないとして開発業者と随意契約をしているものが多いことなどによるものである。
ただし、ソフトウェアの開発契約について、競争契約において応札者が1者の場合を随意契約に加えた割合をみると、図4のとおり、件数で75.8%、金額で97.2%となっていて、金額ではソフトウェアの改良の随意契約の割合と同程度の高い比率となる。
図4 ソフトウェアの開発・改良契約の競争性の状況
(イ)落札比率等の状況
ソフトウェアの開発契約における平均落札比率は、表10のとおり、競争契約のうち応札者が1者の場合93.3%、応札者が2者以上の場合60.4%、随意契約の場合94.7%となっている。また、ソフトウェアの改良契約における平均落札比率は、競争契約のうち応札者が1者の場合93.5%、応札者が2者以上の場合79.0%、随意契約の場合94.8%となっている。
このように、前記(1)ウの全体の状況と同様に、競争契約のうち応札者が2者以上の場合には、随意契約の場合と比べて平均落札比率が低くなっているが、応札者が1者の場合には、随意契約の場合とほぼ同じ平均落札比率になっている。
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競争契約 | 随意契約 | ||||
応札者が1者 | 応札者が2者以上 | |||||
ソフトウェアの開発契約 | 93.3 | 60.4 | 94.7 | |||
ソフトウェアの改良契約 | 93.5 | 79.0 | 94.8 |
イ ソフトウェアの開発・改良契約における仕様書等の作成の状況
ソフトウェアの開発・改良契約の仕様書及び予定価格について、これらを発注者である国がどのように作成しているかを調査した。
(ア)仕様書の作成
仕様書の作成については、図5のとおり、国が、業者の関与なしに独自に作成しているもの535件、15.4%、開発した業者以外の業者に外注しているもの8件、0.2%、開発した業者に外注しているもの83件、2.3%、業者の協力を得て作成しているもの2,579件、74.3%などとなっている。
そして、国が仕様書を独自に作成している535件のうち、ソフトウェアの開発に係るものは83件、15.5%、ソフトウェアの改良に係るものは452件、84.4%となっている。後者のほとんどはソフトウェアの軽微な変更となっている。
図5 仕様書の作成の状況
(イ)予定価格の作成
予定価格の作成については、図6のとおり、国が、業者の見積りによらず独自に作成しているもの195件、5.6%、業者の見積りにより作成しているものの一部は国が作成した単価、諸経費等により積算しているもの1,743件、50.2%、業者の見積りにより作成しているもの1,030件、29.7%などとなっている。
図6 予定価格の作成の状況
情報システムの開発・改良に当たっては、発注者は、受注者との連携を十分に図りつつ、一方で、契約の当事者として受注者との緊張関係を失わないようにすることが必要と考えられる。
そして、国が契約締結後、業者から管理関係書類を入手したり、情報システムの開発体制及び開発工程を常時把握したりするなどの開発工程の管理は、業者との緊張関係を保持するとともに、管理の過程で国の意向を的確に業者に伝えて情報システムの完成度を高める上で重要である。また、開発工程に参加することは、国の技術レベルを向上させ、当該システムに不具合が発生した場合及び以後の情報システムの調達における国の主体的な関与の向上にもつながると考えられる。
そこで、ソフトウェアの開発・改良契約のうち省庁が共通して保有するシステムに係るもの355件について、開発工程の管理の状況を分析した。
図7 開発工程の管理の状況
(ア)開発体制の把握については、図7のとおり、〔1〕業者の情報システム開発統括者の氏名を把握している割合は71.5%、〔2〕開発統括者が過去どのような情報システムの開発に従事してきたかを把握している割合は20.5%、〔3〕下請又は再委託を行っている場合に下請等業者名を把握している割合は54.9%となっている。
(イ)開発工程の把握については、図7のとおり、〔1〕開発工程の進ちょく状況報告書を業者から定期的に入手している割合は46.7%、〔2〕作業報告書を業者から入手している割合は41.4%、〔3〕業者がどのように情報システムを検査していくかのプログラムテスト計画書を入手している割合は22.8%、〔4〕業者が実施したプログラムテスト報告書を入手している割合は46.4%、〔5〕業者から提出されたプログラムテスト報告書を国が検査等して承認している割合は30.4%、〔6〕業者との間で定期的に会議を開催しその会議の内容を議事録として作成している割合は53.5%となっている。
次に、開発工程の管理の状況を競争契約と随意契約の別にみると、図8のとおりとなっている。随意契約の場合にも、開発工程の管理を的確に実施することは重要であるが、調査した結果、すべての項目において競争契約の場合の実施率を下回っている。
図8 開発工程の管理の契約方式による比較
ソフトウェアの開発・改良に伴い生じる著作権等の権利帰属の取扱いについては、次のとおりとなっている。
(ア)ソフトウェアの著作権の帰属
契約書及び仕様書に著作権に関する定めがないものは図9のとおり、20.4%となっている。
また、著作権の帰属先については、国に帰属するとしているものは59.1%、業者に帰属するとしているものは7.3%、国と業者の双方に帰属しているものは12.9%となっている。
著作権が国に帰属しない場合、開発されたソフトウェアについて国が独自に改良や変更を加えることができなくなるおそれがある。
図9 著作権の帰属の状況
(イ)著作権の帰属の契約方式による比較
著作権に関する定めの有無及び著作権の帰属の状況を競争契約と随意契約の別にみると、図10のとおりとなっている。著作権を国に帰属させることについて契約書等で明確にしておくことは、後続する契約についての国の権利を確保するために重要であるが、調査した結果、随意契約の場合はいずれも競争契約の割合を下回っている。
図10 著作権の帰属の契約方式による比較
(ウ)ソースコードの入手
著作権を国に帰属させることに加え、成果品としてソフトウェア本体のほかソフトウェアのソースコード(プログラム言語を用いて記述したソフトウェアのコード)が国に提出されている場合には、ソフトウェアの改良の際に、開発した業者と別の業者に発注することも可能になる。そして、これにより業者との間で緊張関係が形成されることから、ソフトウェアの品質の確保にもつながる。
しかし、前記ソフトウェアの開発・改良契約355件についてみると、契約書等においてソフトウェアのソースコードを成果品として提出させることとしているものの割合は35.4%となっている。
情報システムの保守・運用契約924件、527億余円について競争性等の状況をみると、次のとおりである。
(ア)競争性の状況
情報システムの保守・運用契約における競争契約の割合は、図11のとおり、件数で12.6%、金額で8.5%となっており、随意契約の割合が高くなっている。
これは、情報システムの保守・運用は、当該システムを開発し内容を熟知している業者以外には難しくシステムの動作保証のためには開発と同一の業者と契約する必要があるなどしていることによるものである。
図11 保守・運用契約における競争性の状況
(イ)サービスレベル協定の締結状況
情報システムの保守・運用に関してサービスレベル協定(注4)
を締結すれば、情報システムの品質を保証する項目が数量的に管理され、開発から保守、運用、管理までを通じて、業者との緊張関係を形成できることになる。
そこで、サービスレベル協定の締結状況を省庁が共通に保有するシステムに係る保守・運用契約120件についてみると、締結していたのは1省庁の1契約で、同協定の導入は積極的に行われている状況にはなかった。