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  • 平成14年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況|
  • 第17 国の情報システムの調達に関する契約と行政の情報化の推進体制について|
  • 3 検査の状況

情報システムの調達の競争性に関連する諸事項


(3)情報システムの調達の競争性に関連する諸事項

 国の情報システムの調達については、以上のような状況の下で、当初のソフトウェアの開発業者との間で、当該情報システムに関する契約が継続されている事態や、後続の契約においても契約の相手方となることを前提にしていると思料される極端な安値落札の事態などが各方面から指摘されている。
 そこで、情報システムに関する技術、情報、権利等が受注者側に偏在していることなどから競争性が発揮されにくいとされているメインフレーム型システム及びデータ通信役務契約に係る契約の状況を分析するとともに、過度の安値落札の抑止など適正な競争契約のための制度の実施状況について検証したところ、次のような状況となっていた。

ア メインフレーム型システムに係る契約の状況

(ア)メインフレーム型システムとクライアントサーバ型システム

 メインフレーム型システムは、事務処理・科学技術計算など広い範囲のサービスを提供できるように設計されているコンピュータ(メインフレーム)が集中的に処理を行い、〔1〕大量のデータ等をあらかじめ決められた手順で自動的に処理するバッチ処理、〔2〕ユーザが主に専用端末を利用してシステムを操作するオンライン処理を行うシステムである。
 これに対してクライアントサーバ型システムは、一般に、ファイル管理、通信、印刷等の様々なサービスを提供するコンピュータ(サーバ)とサービスの提供を受けるパソコンなど(クライアント)から構成され、クライアントのソフトウェア等を使用してサーバを利用するシステムである。
 そして、近年、各省庁では、パソコンの普及や入力作業の分散化の必要性などから、メインフレーム型システムをクライアントサーバ型システムに変更する例が多くなっている。
(イ)メインフレーム型システムとクライアントサーバ型システムの調達における競争性
 ソフトウェアの開発・改良契約3,468件、3686億余円のうち、メインフレーム型システムに係るもの812件、2398億余円とクライアントサーバ型システムに係るもの2,271件、1061億余円との競争性を比較してみると、図12のとおりとなっている。

図12 メインフレーム型システムとクライアントサーバ型システムの競争性の状況

図12メインフレーム型システムとクライアントサーバ型システムの競争性の状況

 メインフレーム型システムにおける競争契約の割合は、図12のとおり、件数で2.4%、金額で4.0%となっていて極端に低くなっている。
 これは、メインフレームのオペレーティングシステム(OS)がハードウェア製造者独自の仕様で開発されており、その上で動作するソフトウェアを他者が開発・改良することが困難であるため、契約の相手方が特定されることなどによるものである。
 また、クライアントサーバ型システムにおいても競争契約の割合は、件数で11.1%、金額で12.2%にとどまっている。

(ウ)メインフレーム型システムをクライアントサーバ型システムに変更する場合の状況

 メインフレーム型システムからクライアントサーバ型システムに情報システムの形式を変更する場合の契約92件、116億余円について、その競争性の状況は、図13のとおり、競争契約の割合は件数で15.2%、金額で4.6%となっている。
 これは情報システムの形式を変更する場合においても、従来の情報システム又は関連する情報システムとの連接性やデータ互換の確実性、当該省庁の業務に対する理解度等を重視して、従来の情報システムを開発した業者と随意契約をしていることなどによるものである。

図13 メインフレーム型システムをクライアントサーバ型システムに変更する場合の競争性の状況

図13メインフレーム型システムをクライアントサーバ型システムに変更する場合の競争性の状況

 なお、情報システムのハードウェアを更新する際に、従来の情報システムのソフトウェアを改良して移植することが多い。この場合、移植が重なるとソフトウェアが複雑になるため、新規にソフトウェアを開発することとの比較を行うことにより、経済的、効率的な調達を行うことも検討する必要がある。

イ データ通信役務契約の状況

(ア)長期継続契約とデータ通信役務契約

 情報システムの調達においては、前記(1)のとおり、一部の契約が電気通信役務の提供を受ける長期継続契約として行われている。この「電気通信役務」については、予決令第102条の2第4項の規定により、「電気通信事業法(昭和59年法律86号)第2条第5号に規定する電気通信事業者が提供する電気通信役務」とされている。この電気通信役務の提供についての長期継続契約のうちには、電気通信事業者(以下「事業者」という。)が定める約款に基づき、事業者が提供する電子計算機及びこれに接続する電気通信回線からなる電気通信設備を用いて当該事業者が行う電気通信役務の提供を内容とするもの(以下「データ通信役務契約」という。)がある。そして、電気通信役務を提供するソフトウェアに関しては、事業者が開発することとしてデータ通信役務契約に含めている場合と、利用者が別途契約により開発する場合がある。

(イ)データ通信役務契約の競争性

 今回調査対象とした情報システムの調達のうち長期継続契約に係るものは、前記表2のとおり27件、1兆1438億余円であるが、このうち、単年度の利用料金が1億円以上のデータ通信役務契約15件、1兆1431億余円について、各省庁別の契約状況をみると表11のとおりである。

表11 国のデータ通信役務契約の状況(単年度の利用料金が1億円以上のもの)
 

省庁名 情報システム名 契約開始年月 平成10年度から14年度までに支払った料金の総額(円) ソフトウェア更新年月 料金の算定の基礎としている期間(年) 業務ソフトウェアの開発
 注(1)
業務ソフトウェアの著作権
注(2)
ハードウェア ソフトウェア
総務本省 恩給事務総合システム 平成4年4月 2,243,087,264 平成10年4月 6 5
郵政事業庁 ゆうちょ総合情報3次システム 平成4年5月 515,496,070,456 平成9年12月 10年12月 11年12月 6 5
郵政事業庁 ゆうちょ総合情報4次システム 平成11年10月 17,694,375,447 平成11年10月 12月4月 13年1月 14年1月 15年1月 4、6 5
郵政事業庁 ゆうちょ総合情報4次システム 平成11年10月 85,944,639,329 平成11年10月 12年4月 13年1月 14年1月 14年7月 15年1月 4、6 5
財務本省 官庁会計事務データ通信システム 昭和52年4月 18,061,574,757 昭和62年4月 平成7年4月 3〜6 8
財務本省 証券取引法に基づく有価証券報告書等開示書類の電子開示システム 平成12年5月 711,845,043
注(3)
国税庁 税務相談自動応答データ通信システム 昭和62年1月 1,024,309,097 平成3年10月 5年12月 11年12月
厚生労働本省 労働保険ネットワークシステム 昭和56年7月 69,251,461,425 平成2年10月 10年10月 8 8
厚生労働本省 労働基準行政情報システム 平成9年12月 21,191,270,609 5
社会保険庁 記録管理システム基礎年金番号管理システム 昭和55年1月 317,117,974,313 平成13年1月 注(4) 10
農林水産本省 生鮮食料品流通情報システム 昭和51年11月 2,658,088,047 昭和59年11月 平成2年10月 9年4月 6 6
経済産業本省 貿易管理オープンネットワークシステム 平成12年4月 447,518,726 平成14年11月 4 5
特許庁 特許庁電子出願・包袋事務処理データ通信システム 平成2年7月 68,149,028,644 4 6 国/民
国土交通本省 自動車登録検査業務電子情報処理システム 昭和45年2月 20,813,741,074 昭和54年1月 63年1月 平成8年1月 8 8
気象庁 地域気象観測データ通信システム 昭和49年11月 2,352,250,883 昭和58年4月 平成5年4月 13年2月 8 8
合計 1,143,157,235,714          
注(1)  業務ソフトウェアの開発がデータ通信役務契約の内容に含まれるものは「含」、含まれない場合は「別」
注(2)  業務ソフトウェアの著作権が国に帰属している場合は「国」、業者に帰属している場合は「民」、開発費用分の支払完了又は未払分の支払を前提に国に帰属させることができる場合は「国/民」
注(3)  業務ソフトウェアの管理は金融庁で行っている。
注(4)  レンタル料金により算定している。

 データ通信役務契約においては、情報システムの対象となる業務及び契約の内容に含まれている業務ソフトウェアの機能、取扱データ量等の規模が大きい場合が多く、サービスを提供できる事業者が大規模なソフトウェアの開発・改良を手掛けてきた事業者に限定される傾向にある。また、業務ソフトウェアに係る著作権等の権利が事業者に帰属していることが多く、当該事業者以外の事業者は業務ソフトウェアを別途開発する必要があり、新規参入が困難な状況になっている。

(ウ)利用料金の算定

 表11記載のデータ通信役務契約では、利用料金はすべて事業者が提出した見積金額を基に算定している。この場合、特段の査定をしていないものから、ソフトウェアについてはその規模と内容、技術者の習熟度等を考慮した生産性により工数を査定し、電子計算機等の機材については事業者の提供価格を査定しているものまであり、各省庁で区々となっている状況である。

(エ)データ通信役務契約の内容

 データ通信役務契約の内容についてみると次のとおりである。

〔1〕 業務ソフトウェア等の権利帰属

 データ通信役務契約の目的は役務の提供を受けることであるため、業務ソフトウェアの開発を事業者が行っている場合には、成果品としてソフトウェアやそのソースコードの提出を受けておらず、業務ソフトウェアの著作権についても契約において事業者に帰属するとされている。このため、ソフトウェアの改良契約を開発を行った事業者以外の者と締結することは非常に困難となっている。

〔2〕 契約の解除

 国が契約の解除等を行った場合には、約款により、事業者が提供するソフトウェア及び機材等について、国は事業者が別に定める方法により計算した金額を支払うことなどとされている。
 表11記載のデータ通信役務契約の多くは、高額の料金の支払を伴う情報システムであり、また、その利用料金は長期間の利用を前提に算定されたものとなっている。そして、予定された利用期間内において国が契約を解除しようとする場合には、事業者に支払う金額とソフトウェアの権利等の取扱いが課題となり、著作権等の取得の状況いかんによっては、国は情報システムを新たに開発しなければならないことにもなる。

ウ 低入札契約の状況と適切な契約に向けた諸制度の活用の状況

(ア)低入札契約とその後の契約の状況

 情報システムの調達契約に関して、競争契約に応札者が多数参加し、競争原理に基づく調達ができることは重要なことである。しかし、極端な安値による入札で当初の情報システムの開発を受注した業者が、後続のソフトウェアの改良契約、情報システムの保守・運用契約又は関連する他の情報システムに関する契約を有利に受注するような事態は、公正、公平な調達とはいえない。また、これにより後続の契約から他の業者の参入が阻害されることになれば、国と受注者との緊張関係が確保されず、品質の高い情報システムや経済的、効率的な情報システムの構築が困難となるおそれもある。
 そこで、ソフトウェアの開発・改良を競争契約により行った345件のうち、落札比率が50%未満となっている契約(以下「低入札契約」という。)96件を対象にして、同一の情報システムについて、その後のソフトウェアの改良契約、機材の調達契約又は情報システムの保守・運用契約を同一業者が随意契約により受注している状況を調査した。
 その結果、表12のとおり、10年度から14年度までの各年度において、低入札契約を締結した年度以後に同一業者が後続の契約を随意契約により受注しているものは計57件となっている。
 そして、低入札契約57件の平均落札比率が25.5%となっているのに対し、低入札契約以後の随意契約の平均落札比率は93.9%となっていた。

表12 ソフトウェアの開発・改良に係る低入札契約とその後の契約状況
(単位:件、%)

状況
年度
低入札契約の件数 左のうち同一業者が後続の契約を随意契約により受注しているもの
低入札契約の件数 低入札契約に係る平均落札比率 後続の随意契約の平均落札比率
10 12 9 26.1 96.4
11 24 18 26.9 93.4
12 21 14 22.9 95.5
13 15 11 22.5 88.4
14 24 5 33.9 98.3
合計 96 57 25.5 93.9

(イ)適切な競争契約のための諸制度の活用状況

〔1〕 低入札価格調査制度

 国の支払の原因となる契約を競争契約により行う場合は、原則として、予定価格の制限の範囲内で最低の価格で入札した者を契約の相手方とすることとされている。ただし、契約の履行の確実性や公正性の観点から、会計法第29条の6第1項ただし書の規定に基づき、予定価格が1千万円を超える工事又は製造その他の請負契約については、(a)相手方となるべき者の申込みに係る価格によっては、その者により当該契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められるとき、(b)その者と契約を締結することが公正な取引の秩序を乱すこととなるおそれがあって著しく不適当であると認められるときは、予定価格の制限の範囲内の価格をもって申込みをした他の者のうち最低の価格をもって申込みをした者を当該契約の相手方とすることができるとされている(以下、これを「低入札価格調査制度」という。)。そして、(a)の場合の適用に当たっては、契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められる場合の基準(以下「実施基準」という。)が作成されていることが前提になっている。
 今回検査した36省庁のうち、低入札価格調査制度の適用により最低入札価格者以外の者を落札者として決定している例は1省庁1件である。

〔2〕 総合評価落札方式

(総合評価落札方式の実施状況)

 総合評価落札方式は、会計法第29条の6第2項の規定に基づく落札者の決定方法の一つであり、価格だけでなく、性能、機能等も併せて総合的に評価し、国にとって最も有利な入札をした者を落札者とする方式である。
 そして、「コンピューター製品及びサービス、電気通信機器及びサービス並びに医療技術製品及びサービスの調達に関する入札に係る落札方式について」(平成7年3月蔵計第621号)等において、コンピュータ製品又はサービスの調達のうち予定価格が80万SDR(注5) を超えるものの落札方式については、総合評価落札方式によることとされている。
 10年度から14年度までの情報システム調達に係る競争契約は、1,458件(保守、運用及び管理に係る競争契約を除く。前記図1参照)となっている。このうち総合評価落札方式によった387件の契約内容別の状況をみると、図14のとおり、その多くは機材の調達契約(271件、70.0%)であってソフトウェアの開発・改良契約における実施例が少ない状況となっている。

 SDR 国際通貨基金の特別引出権(Special Drawing Rights)。なお、80万SDRは邦貨換算で平成10年4月から14年3月までは1億3000万円、14年4月から16年3月までは1億2000万円である。

(徐算方式と加算方式)

 従来、総合評価落札方式は、評価項目により算定した技術点を入札価格で除する除算方式(評価点=技術点/入札価格)により行なわれていた。しかし、この方式では極端な安値入札に対応できないとして、14年度に技術点に価格点を加算して総合評価とする加算方式(評価点=技術点+価格点)への見直しが行われている。加算方式によりソフトウェアの開発・改良契約が締結されたものは、図14のとおり、14年度において10件となっている。

図14 総合評価落札方式の実施状況

図14総合評価落札方式の実施状況

〔3〕 ライフサイクルコストに基づく調達

 ライフサイクルコストは、同一の情報システムについて、そのソフトウェアの開発・保守費用、機材の導入・保守費用等の当該情報システムに係る複数年度にわたる全費用のことであり、情報システムの調達をライフサイクルコストを考慮して実施することにより、システムによって提供されるサービスの総コスト及び年度当たりコストを比較することが可能となる。
 14年度に行われた総合評価落札方式の加算方式への見直しに際して、「情報システムの調達に係る総合評価落札方式の標準ガイド」(平成14年7月調達関係省庁申合せ)が作成されており、この中で、技術点の評価においてライフサイクルコストに関する項目が設定されている。
 予算の単年度主義の原則の下で、複数年度にわたる情報システムの開発についても、「基本設計」、「詳細設計」、「ソフトウェア開発」などの開発段階に区分して、単年度の契約として発注している事例が多く見受けられる。しかし、このような調達においては、ライフサイクルコストを考慮した価格評価を行い、財政法(昭和22年法律第34号)第15条において予算の単年度主義の例外の一つとして認められている国庫債務負担行為の制度を活用し、一括契約することなども考えられる。