前項までにみたように、国の情報システムの調達は、発注者における主体的な関与の確保、契約における競争性、契約後における受注者との緊張関係の保持及び権利関係の明確化が十分でない状況になっており、また、情報システムの調達の適正化のための各種施策の実施についても十分であるとはいえない状況である。
府省等には、情報システムについて各部局等を総合調整し、府省等全体の行政の情報化を強力に推進するため、情報化統括責任者(官房長・局長相当職の者が充てられる。以下「CIO」という。)が設置されている。そして、CIOの決定事項を府省等内に周知等する情報化推進委員会等及びCIOを補佐し、情報システムの開発・運用等を実施又は支援する情報システム担当部門(行政の情報化に関する事務を担当している課室等)も各府省等に設置されている。これらCIOを頂点とする組織上の体制は各府省等において特に差異は見受けられないものの、このうち情報システム担当部門については、「行政情報化基本計画」等により、各省庁でその業務範囲の拡大、人的基盤の充実など個々に機能等の充実を図ってきている。
そこで、各省庁における行政の情報化の推進体制について、情報システム担当部門が行政の情報化のどの範囲を担当することになっているかに着目して分類するとともに、各分類における情報システム担当部門が情報システムの調達にどのような影響を与えているかを分析した。
情報システム担当部門が設置されている32省庁(注6) の内部部局における行政の情報化の推進体制は、情報システム担当部門の担当する範囲により、次の3形態に分類することができる。
(ア)一部型 [単独の情報システム担当部門が情報化の一部を担当]
一部型は、単独の情報システム担当部門が、内部部局全体で利用する共通基盤の情報システム(LAN、電子文書交換システムなど)など一部の情報システムの整備等を担当している形態であり、その他の情報システムの整備は、当該情報システムを利用する課室等(以下「原課」という。)が担当している。
図15 一部型の例示
一部型には、次の19省庁が該当する。
内閣官房、内閣本府、宮内庁、防衛施設庁、金融庁、公正取引委員会、消防庁、外務省、文部科学本省、文化庁、厚生労働本省、特許庁、国土交通本省、気象庁、海上保安庁、環境省、衆議院、国立国会図書館、裁判所
(イ)分担型[複数の情報システム担当部門がそれぞれ情報化を担当]
分担型は、部局等の単位で設置されている複数の情報システム担当部門が、内部部局全体で利用する共通基盤の情報システムや当該部局等で利用する情報システムの整備等をそれぞれ担当している形態である。なお、この形態においても、一部の部局等にのみ情報システム担当部門が設置されている場合は、原課が整備を担当している情報システムがある。
図16 分担型の例示
分担型には、次の7省庁が該当する。
人事院、防衛本庁、総務本省、法務本省、財務本省、国税庁、農林水産本省
(ウ)集中型[単独の情報システム担当部門が情報化のすべてを担当]
集中型は、単独の情報システム担当部門が、内部部局のすべての情報システムの整備等を担当している形態である。
図17 集中型の例示
集中型には、次の6省庁が該当する。
警察庁、公安調査庁、林野庁、経済産業本省、参議院、会計検査院
各省庁の行政の情報化の推進体制の状況については、表13のとおりとなっている。
表13 各省庁の行政の情報化と推進体制の状況
注(1) | 警察庁及び海上保安庁については、複数の情報システム担当部門が存在するが、同一の情報システムの開発を分担しているため、単一の情報システム担当部門として扱って形態を分類した。 |
注(2) | 人員については、平成14年度末現在のものである。 |
注(3) | 情報システムのうち、内部部局の利用に係る情報システムで、契約内容に開発が含まれている契約について分析した。 |
注(4) | 「情報システム担当部門の関与」欄の記号は次のものを示している。 |
● 常に関与している | |
▲ 必要に応じて関与している | |
注(5) | 「情報システム担当部門の関与」欄の「○」は、情報システム担当部門の開発への関与に関し規定等があることを示している。 |
注(6) | 契約書等において下請業者を国に届け出、報告するなどの記述があるものを集計した。 |
注(7) | 「外部委託の活用」欄の記号は、平成10年度から14年度の間に、次の外部委託を活用したことがあるものである。 |
○ 仕様書の作成等を外部委託しているもの | |
● 開発工程等の管理を外部委託しているもの | |
注(8) | システム台帳とは、省庁内のすべての情報システムについて、開発年度、内容、規模、運用部署等を記載した台帳のことをいう。 |
イ 情報システムの企画から完了検査までの各段階における開発の体制
情報システムの企画・仕様の決定は、業務効率を向上させる最適な情報システムを経済的、効率的に開発するための基本的で重要な行為である。また、国の情報システムの開発には、高い品質と安全性が要求されるものが多く、開発工程の管理における業者との緊張関係の保持及び最終段階で行われる完了検査は、適正な契約の履行を確保する上で重要である。また、その過程で得られる情報は他の情報システムを開発するなどの際に活用すべき貴重な情報であり、情報化推進のための重要な財産となる。
そこで、一部型、分担型及び集中型の3形態における情報システム担当部門が、内部部局で利用する情報システム開発の各段階でどのように関与し、情報を集約しているかについて分析した。
(ア)企画・仕様の決定
前記の3形態において、情報システム担当部門が企画・仕様の決定についてどのように関与しているか調査したところ、表14のとおり、一部型及び分担型においては、原課が担当する情報システムについて、情報システム担当部門が全く関与していないものなどが見受けられた。
|
情報システム担当部門が担当する情報システム | 原課が担当する情報システム | |||||||||
常に関与 | 必要に応じて関与 | 関与なし | 計 | 常に関与 | 必要に応じて関与 | 関与なし | 計 | ||||
一部型 | 18 | 1 | − | 19 | 3 | 13 | 3 | 19 | |||
分担型 | 5 | 2 | − | 7 | 1 | 3 | 2 | 6(1) | |||
集中型 | 6 | − | − | 6 | \ | ||||||
合計 | 29 | 3 | − | 32 | 4 | 16 | 5 | 25(1) |
(イ)開発工程の管理
前記の3形態において、情報システム担当部門が開発工程の管理にどのように関与しているか調査したところ、表15のとおり、一部型においては、情報システム担当部門が担当する情報システム及び原課が担当する情報システムの両方について、また、分担型においては、原課が担当する情報システムについて、情報システム担当部門が全く関与していないものなどが見受けられた。
|
情報システム担当部門が担当する情報システム | 原課が担当する情報システム | |||||||||
常に関与 | 必要に応じて関与 | 関与なし | 計 | 常に関与 | 必要に応じて関与 | 関与なし | 計 | ||||
一部型 | 16 | 2 | 1 | 19 | − | 10 | 9 | 19 | |||
分担型 | 4 | 3 | − | 7 | − | 2 | 4 | 6(1) | |||
集中型 | 6 | − | − | 6 | \ | ||||||
合計 | 26 | 5 | 1 | 32 | − | 12 | 13 | 25(1) |
また、開発工程の管理のうち下請業者の把握の状況を情報システムの開発に係る契約607件についてみると、図18のとおりであり、一部型では把握されている割合が低く、分担型では一部型より高く、集中型ではほとんど把握されている状況となっていた。
図18 下請業者の把握の状況
(ウ)完了検査
前記の3形態において、情報システム担当部門が完了検査にどのように関与しているか調査したところ、表16のとおり、一部型においては、情報システム担当部門が担当する情報システム及び原課が担当する情報システムの両方について、また、分担型においては、原課が担当する情報システムについて、情報システム担当部門が全く関与していないものなどが見受けられた。
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情報システム担当部門が担当する情報システム | 原課が担当する情報システム | |||||||||
常に関与 | 必要に応じて関与 | 関与なし | 計 | 常に関与 | 必要に応じて関与 | 関与なし | 計 | ||||
一部型 | 12 | 2 | 5 | 19 | − | 7 | 12 | 19 | |||
分担型 | 3 | 4 | − | 7 | − | 3 | 3 | 6(1) | |||
集中型 | 6 | − | − | 6 | \ | ||||||
合計 | 21 | 6 | 5 | 32 | − | 10 | 15 | 25(1) |
表14から表16までの分析結果は、情報が活用及び集約されることにおいては集中型に利点があることを示しているが、各省庁は組織の規模、業務内容等が異なっており、すべての省庁が形態としての集中型を採用することは必ずしも合理的とはいえない。むしろ情報システム担当部門において実質的に情報の集約及び活用を図ることが重要であり、情報システムの開発を行うためには、次のような各形態の有する特徴を考慮した上で、各省庁の実情に応じた行政の情報化の推進体制を整備することが望まれる。
〔1〕 一部型
この形態においては、共通基盤等に関する情報システム以外のシステムについて、業務内容に精通している原課が企画・仕様の決定に携わっており、業務に適合した使いやすい情報システムの開発が可能になるが、一方で、省庁内の情報システムに関する技術・情報が分散することも考えられることから、情報システム担当部門において最新の情報を集約し、その活用が十分に図られるよう配慮することが必要である。
〔2〕 分担型
この形態においては、情報システム担当部門の担当範囲で、ある程度原課の意向を反映した情報システムの開発が可能になるが、一方で、情報システムに関する技術・情報は、部局等単位では集約されるものの内部部局全体では分散しており、情報システム担当部門相互間における情報の収集や活用を十分に行うための配慮が必要である。
〔3〕 集中型
この形態においては、情報システムに関する技術・情報が一部門に集約され、最新の情報の収集や活用を十分に行うことが可能であり、また、情報システムの一元管理により二重投資を防止するなどして効率的に情報システムを整備することが容易になるが、一方で、業務に適合した使いやすい情報システムの開発を行うための配慮が必要である。
情報システムの開発に係る契約607件に占める競争契約の割合を情報化の推進体制の3形態ごとにみると、次のとおりとなっている。
〔1〕 一部型では、競争契約割合は契約285件のうち86件で30.1%となっている。
〔2〕 分担型では、競争契約割合は契約255件のうち84件で32.9%となっている。
〔3〕 集中型では、競争契約割合は契約67件のうち30件で44.7%となっている。
そして、契約方式の決定に影響があると考えられる企画・仕様の決定に情報システム担当部門が必ず関与する体制となっている4省庁(一部型で3省庁(公正取引委員会、文部科学本省、裁判所)、分担型で1省庁(国税庁))を除き、一部型及び分担型における競争契約割合をみると、次のとおりとなっている。
〔1〕 一部型では、競争契約割合は契約215件のうち44件で20.4%となっている。
〔2〕 分担型では、競争契約割合は契約240件のうち76件で31.6%となっている。
このように、企画・仕様の決定に情報システム担当部門が必ず関与する場合には、そうでない場合に比べて競争契約の割合が高くなっている。
また、3形態全体について競争契約の割合をみると、企画・仕様の決定に情報システム担当部門が必ず関与する場合は契約件数152件のうち80件で52.6%、それ以外の場合は455件のうち120件で26.3%となっている。
以上のような状況から、情報システムの開発契約における競争性を向上させるためには、情報システム担当部門による情報システムの開発支援体制の整備などが有用と考えられる。
行政の情報化の推進体制の基盤となる人的資源の育成や専門知識等の向上、情報システムに関するデータベースの作成等は、情報システム担当部門の機能を効率的、効果的に発揮させるために有効と考えられる。これらについては、形態別にみて顕著な差異はなく、次のとおり概して積極的であるとはいえない状況となっている。
〔1〕 外部研修について
情報システムの開発等に関する民間業者等の研修に情報システム担当部門の職員を派遣しているのは、32省庁のうち18省庁である。
〔2〕 外部委託について
仕様書の作成や開発工程の管理等をコンサルタント会社等に委託しているのは、32省庁のうち14省庁である。
〔3〕 外部専門家の活用について
情報システム開発の経験のある者を任期付きで職員として採用するなどして情報システム開発全般に関与させているのは、32省庁のうち4省庁である。
〔4〕 情報システム台帳の整備について
省庁内すべての情報システムについて、開発年度、内容、運用部署等を記載項目とした台帳を整備し、効率的、効果的な開発・運用やセキュリティの確保に役立てているのは、32省庁のうち2省庁である。
行政の情報化の推進体制の整備は、情報システムの調達を改善するための施策の推進にも大きくかかわるものである。しかし、これらの施策には専門的な技術や知識の裏付けが必要なものも少なくない。したがって、国の情報システムの迅速かつ重点的な整備のためには、各省庁において、情報システムに関する技術と情報を集約して活用できる体制を整備し、情報システム担当部門の機能及び担当範囲を明確にすること、有効な支援体制を確立するための研修等による人材育成、積極的な外部委託の活用等を継続的に行うことによって技術や知識を集積することなどが必要である。また、情報システムの調達に関する施策の中には予算措置等を伴うものもあることから、省庁全体での対応も必要となる。
政府は、15年7月に、全府省を対象とする「電子政府構築計画」(平成15年7月各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)を策定し、15年度から17年度までの3箇年計画で、国民の利便性の向上と行政運営の簡素化、効率化、信頼性及び透明性の向上を図ることとしている。そして、このためには業務・システムの最適化を強力に推進する体制を各府省において、また、府省全体として整備し、最適な情報システムの調達、その効率的な運用管理等を実施する必要があるとしている。
政府は、電子政府構築計画に基づき、各府省の業務・システムの最適化を推進するため、15年7月に、行政情報化推進委員会等の役割について、これまでの情報化に関する方針の策定・推進に加え、情報化に対応した業務の見直し、情報システムの整合性の確保等も担う組織とし、今後、同組織において、業務分析、情報化推進に必要な予算・執行の調整、これらの業務を担う人材の育成等を実施することとした。
そして、同年12月までに、府省内の業務・システムの分析・評価、最適化計画の策定に当たり、CIO及び各所管部門(業務改革関係部門、情報システム統括部門)の長に対する支援・助言等を行うCIO補佐官を配置するとともに、その行政情報化推進委員会等における位置付けを明確化することとしている。このCIO補佐官には、原則として、業務分析手法、情報システム技術及び情報セキュリティに関する専門的な知識・経験を有し、独立性・中立性を有する外部専門家を充てることとしている。
各府省のCIOを構成員とし、府省横断的な取組の企画・調整機能を担うものとしてCIO連絡会議が設置されている。同連絡会議においても、15年12月までに、専門的知見を有し、独立性・中立性を有する外部の専門家を登用することとしている。
また、政府全体の業務・システムの最適化を推進するため、その統一的な実施手順の維持・管理や各府省共通の課題の分析・解決方法の検討を行うものとして、各府省のCIO補佐官等を構成員とする連絡会議を同年12月までに設置することとしている。
このように、行政の情報化に関する各府省及び府省横断的な推進体制が充実、強化される中で、情報システムの開発・運用において中心的な役割を担う情報システム担当部門の明確な位置付けが望まれる。