各省庁で必要とされる情報システムの規模、内容等は様々であり、それぞれの情報システム担当部門の人員、体制等も一様ではない。しかし、情報システムの調達に係る契約の状況や行政の情報化の推進体制については、これまでみたとおり、全体として発注者側において必ずしも十分なものとはなっていない。
したがって、今後、以下のような点に留意して、より効率的、効果的な情報システムの調達を図り、もってIT社会の形成のための施策の着実な推進に資することが重要と考えられる。
経済的、効率的な調達を行うためには、公正な競争が行われるよう明確な仕様を提示することが必要であり、仕様書、予定価格の作成等に当たって、発注者の主体的な関与が重要である。
このためには、情報システム担当部門の担当官の情報システムに係る能力をより高めることが重要であるとともに、急速な技術の進展への即応が困難な場合もあることなどから、仕様書等の作成を情報システムの開発契約とは別の業者に委託したり、作業実績値等を利用して予定価格を作成したりするなどの方策も考えられる。
<参考例>
a 仕様書の作成等を情報システムの開発契約とは別の業者に委託している例 b 作業報告書等の作業実績値等を利用して予定価格の作成を行っている例 |
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(注) | ファンクションポイント法 情報システムが提供する機能(ファンクション)を一定の方法で定量化し、見積り尺度とする積算方法で、基本設計、詳細設計が作成されていることが前提となっている。 |
情報システムの調達については、技術革新が急速に進展している分野であるばかりでなく、情報システムの内容が多種多様で、価格の比較による妥当性の検証が困難であることから、価格の適正性を担保するため、契約における競争性の確保、透明性の向上が特に重要である。
このためには、契約の締結については競争に付すことが原則となっている会計法令を厳格に適用するとともに、従来、ソフトウェア等の内容を熟知している開発業者以外には難しいとされていた保守・運用契約についても、保守、運用及び管理に必要な開発関係書類等を適切に整備するなどして競争契約に付すことが考えられる。また、データ通信役務契約についても、契約の内容や規模を限定することなどにより競争の範囲を広げていく工夫等が考えられる。
<参考例>
c 情報システムの保守、運用業務を競争契約としている例
農林水産本省では、行政情報システム及びインターネットシステムほか6システムに係る開発関係書類(システム設計書、仕様書、一部のソースコード、設定情報、マニュアルなど)を整備していることから、14年度に上記システムの障害復旧(重大な障害の場合は構築業者が対応)、運用支援、予防管理の各業務を一括して、競争契約により発注している。この入札には3者が応札して開発業者とは別の業者が受注し、落札比率も低く、競争性が発揮された調達になっていた。なお、15年度分についても競争契約(総合評価落札方式)により同種の業務を発注している。
d データ通信役務契約自体を競争契約としている例
郵政事業庁では、ゆうちょ総合情報システムについてデータ通信役務契約を締結している。そして、同システムの11年度の更新に当たり、競争性を確保するために、システムを業務関連と経営情報関連の二つに分割してその規模を調整し、それぞれを競争契約により発注して異なる業者と契約している。
e 機材の一部をデータ通信役務契約に含めていない例
郵政事業庁では、ゆうちょ総合情報システムの機材の調達に関して、計算センター、事務センターの機材はデータ通信役務契約の内容とするものの、郵便局の端末機械、ATM等の調達をデータ通信役務契約の内容に含めず、別途競争契約により調達している。
f 業務ソフトウェアの開発をデータ通信役務契約に含めていない例
郵政事業庁では、ゆうちょ総合情報システムの業務ソフトウェアの開発をデータ通信役務契約の内容に含めず、ソフトウェア開発契約を別途発注している。そして、開発したソフトウェアの著作権は、契約により国に帰属することと定めており、また、ソフトウェアのソースコードなどの成果品も国に提出させている。
契約の適切な履行を促して品質の確保を図るためには、発注者において受注者の契約の履行状況を常時把握し、受注者との緊張関係を保持することが重要である。また、これにより発注者側に情報と経験を蓄積して、その専門的な能力を高めることもできる。
このためには、発注者において、開発工程の管理を適切に行ったり、契約によってはサービスレベル協定を盛り込んだりするなどの方策も考えられる。
<参考例>
g 各種報告書等を入手して開発工程を管理している例
財務省会計センターでは、歳入金電子納付システムの開発において、開発期間を通じ、作業報告書、進ちょく状況報告書等を毎週開発業者から提出させて作業内容、進ちょく状況、作業上の問題点とその解決方法等に関する質疑を行っている。また、システム開発過程でのテストについては、テスト開始前にテスト方法、項目等を精査した上、テスト中には項目ごとの結果報告書等を毎週業者から提出させて内容を精査し、不備のあるものについては修正の指示を行っている。そして、財務省会計センターが主体となって総合的なテストを実施している。
また、ソースコードがプログラム設計書どおりに作成されているかについても、一部を抽出して確認している。
なお、これら業者から入手した管理書類等は、システムの不具合が発生した場合に備えるなどのため整理し保存している。
h ソフトウェア等の開発担当課とは異なる課が完了検査を実施している例
警察庁では、本庁が調達する情報システムに係る物品、ソフトウェア等の完了検査を、その開発担当課(情報通信局情報管理課)とは異なる課(情報通信局情報通信企画課)において実施することとしている。これは、ソフトウェアの開発工程の管理と完了検査とを別の課が実施することにより業者に対する牽制効果を向上させるためである。また、完了検査を実施する際には検査実施要綱を定め、検査内容等の統一化を図っている。そして、ソフトウェアの検査項目は、仕様書に基づき必要な事項を業者から提出させ、その検査を実施する課で審査して最終的な検査項目を確定することとしている。
i サービスレベル協定を締結している例
経済産業本省では、工業標準策定システムの運用管理契約に、サービスレベル協定を含めている。この契約では、同システムを稼働するために必要な機器の管理、運用、監視、保守及び機器を稼働させるために必要な環境の提供を契約の内容としており、環境の提供に関する仕様として、電源・空調設備の可用性を99.99%、インターネット接続の可用性を99.9%としている。そして、この条件を天災その他の不可抗力の原因によらずに履行できない場合には、国は契約相手方に対して契約金額の1000分の1に相当する金額の支払を請求することができると定められている。
各省庁が調達した情報システムは、多額の予算が使用された貴重な資産であることから、取得の対価を支払ったものは国の資産として適切に管理することが重要であり、これによりソフトウェアの改良が国において独自にできるとともに、開発した業者とは別の業者に発注することが可能になる。
このためには、情報システムの資産としての管理の重要性を認識するとともに、契約書等において、著作権等の権利関係を明確に規定したり、ソフトウェアのソースコードを提出させたりすることなどが必要と考えられる。
<参考例>
j 契約書に著作権等の権利関係が詳細に規定されている例
特許庁では、ソフトウェアの開発、改良等のすべての契約書において、著作権法(昭和45年法律第48号)第27条(翻訳権、翻案権など)及び第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)の権利を含む著作権が、業者から契約の成果物の引渡しを受けた場合などに特許庁に移転すること、その際には特許庁に著作権譲渡証書を提出しなければならないことを明記している。また、業者が業務の一部を第三者に再委託する場合には、再委託された業務の履行により作成された成果物等に対する著作権が特許庁に帰属する旨を第三者に明示しなければならないことも定めている。
各省庁が調達する情報システムのうち大規模なものの開発等は複数年度にわたって行われるが、契約は年度ごとに締結されている。このような場合、初年度の極端な安値落札者と後年度に随意契約を継続するなど、契約が全体として透明性の低いものとならないようにすることが重要である。
このためには、低入札価格調査制度を機能させたり、総合評価落札方式においてライフサイクルコストを考慮したりするなどの方策が考えられる。
<参考例>
k 低入札価格調査制度を機能させている例
総務本省では、14年11月、低入札価格調査制度に関する実施基準を作成している。そして、15年1月に実施したLANシステムの統合の入札において、契約の内容に適合した履行がなされないおそれがあるとして、同実施基準により低入札価格者に対する調査を行い、最低入札価格者と契約を締結しなかった。
情報システムの調達には、技術的な専門知識と最新の情報が必要である。各省庁が限られた人員をもってこれらに効果的に対応するためには、基盤となる人的資源の育成を図るとともに、情報システム調達に関する情報を情報システム担当部門に集約・蓄積して、原課との緊密な連携を図りつつ情報システム担当部門の知識を有効に活用できる情報システムの開発支援体制を整備することが重要である。
このためには、情報システム担当部門の開発への関与を規定したり、管理の対象となる情報システムを台帳により明確にしたり、外部の専門家を活用して専門知識や情報を補ったりすること(参考例「b」参照)などが考えられる。
<参考例>
1 情報システム担当部門の開発への関与を規定し、管理の対象となる情報システムを台帳により明確にしている例
国税庁では、「OAに係るシステム開発等の手続について(事務運営指針)」を定め、新たに情報システムの開発をしようとする場合には、その円滑な実施及び重複開発の防止等の観点から、企画等の段階において情報システム担当部門である長官官房事務管理課及び長官官房企画課が関与する体制をとっている。
また、「OAに係るシステム登録簿の作成について(事務運営指針)」を定め、内部部局及び国税局等の情報システムの開発年度、内容、運用課等の詳細な項目を記載した台帳を整備して情報の集約化を図ることにより、以後の情報システムの開発と管理に役立てている。