会計名及び科目 | 一般会計 (部)雑収入(款)諸収入(項)弁償及返納金 |
部局等の名称 | 契約本部 (有償援助調達制度の所掌部局 内部部局) |
残余資金の概要 | 我が国に係る未精算債務額の精算の結果残存することとなった資金で、アメリカ合衆国政府が管理する勘定に一時的に保管されているもの |
我が国に返還されていない残余資金の額 | 5億4686万円(平成16年9月末) (4,971,498.11米ドルを16年9月末の出納官吏レートにより試算した額) |
1 有償援助による調達の概要
防衛庁では、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(昭和29年条約第6号)等に基づき、アメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」という。)から有償援助(Foreign Military Sales)により装備品等及び役務(以下「調達品等」という。)の調達(以下「FMS調達」という。)を実施している。
FMS調達は、「有償援助による調達の実施に関する訓令」(昭和52年防衛庁訓令第18号。以下「訓令」という。)に基づき、「その調達源が合衆国政府に限られるもの又はその価格、取得時期等を考慮して有償援助による調達が妥当であると認められ、かつ、合衆国政府が有償援助による販売を認めるもの」について行うこととされている。そして、国産品等の調達契約と異なり、武器輸出管理法等の合衆国政府の法令等に従って行われ、価格は合衆国政府の見積りによるもの、支払は原則として前払い、納期は予定となっているなど、合衆国政府から示された条件によるものとなっている。
FMS調達のうち、主要装備品等については契約本部(平成13年1月5日以前は調達実施本部)が行っており(以下、この調達を「FMS中央調達」という。)、主要装備品等の維持・修理に用いる補用部品等については各自衛隊の部隊等(陸上自衛隊中央会計隊、海上幕僚監部、海上自衛隊補給本部(10年12月7日以前は需給統制隊)、航空幕僚監部、航空自衛隊補給本部)が行っている(以下、この調達を「FMS地方調達」という。)。
FMS調達においては、支出負担行為担当官(FMS中央調達においては契約本部長等、FMS地方調達においては各自衛隊ごとに官職指定された者。以下同じ。)が、合衆国政府から発給された引合書に署名して引合受諾書とした後にこれを合衆国政府に送付して取引が開始される(以下、引合受諾書に基づく個々の取引を「ケース」という。)。支払については、支出官(FMS中央調達においては契約本部会計課長、FMS地方調達においては各自衛隊ごとに官職指定された者)が引合受諾書に定められた条件に従い前払金を支払う。
合衆国政府では、国防財政会計サービス(Defense Finance and Accounting Service)が管理する連邦準備銀行内の信託基金において前払金を管理し、この前払金を基に給付すべき調達品等を購入するなどした上で、我が国に対して調達品等を給付する。
防衛庁では、訓令等に基づき、支出負担行為担当官が、合衆国政府から四半期ごとに発給される給付済みの調達品等の価格を記した計算書等により、給付が確認できた金額について前払金の精算の手続を執る。そして、支出負担行為担当官は、合衆国政府から発給される最終計算書等によりケース全体の給付の完了を確認し、当該ケースについて余剰金が生じた場合には、速やかに債権発生通知書を作成して歳入徴収官(FMS中央調達においては契約本部会計課長、FMS地方調達においては各自衛隊ごとに官職指定された者。以下同じ。)等に送付する。歳入徴収官等は、債権発生通知書の送付を受けたときは、速やかに、合衆国政府に対し余剰金の返済を請求して返済を受け、前払金の最終的な精算の手続を執る。
合衆国政府は、有償援助により給付すべき調達品等を調達するため、調達品等を購入する契約を業者と締結している(以下、この契約を「購入契約」という。)。
従来、合衆国政府は、購入契約について業者との間で精算が完了するまでは、当該契約により購入した調達品等の給付に係るケースについて最終計算書を発給していなかった。このため、合衆国政府が有償援助による調達を行う複数の国に対して給付する装備品等を一つの購入契約により購入しているような場合には、有償援助の利用国では、調達品等の給付を受けても合衆国政府との間でケースを精算することができず、長期にわたり多額の未精算額が生じる状況となっていた。
そこで、合衆国政府では、このような状況を改善するため、見積りに基づき最終計算書を発給することによって給付の完了後2年以内にケースを精算することを目標とする新精算方式(Accelerated Case Closure Procedures)を4年に導入した。
防衛庁でも、前払金の精算の促進のため、9年7月に新精算方式の枠組みに参加し、その時点で前払金の最終的な精算が終了していないすべてのケースについて同方式が適用されることとなった。
新精算方式においては、合衆国政府は、国防総省規則等に基づき、調達品等の給付が完了したケースについて、原則として給付完了から2年以内に、購入契約の契約金額のうち業者との間で精算が完了していない金額の見積額(Unliquidated Obligation。以下「未精算債務額」という。)に基づき最終計算書を発給し、各ケースの前払金から業者への支払済額と未精算債務額を差し引いた余剰金を返済することとしている。そして、当該ケースに係る未精算債務額については、その精算が完了するまで、未精算債務額の管理のために信託基金内に設置された仮勘定(Case Closure Suspense Account。以下「ケース終結仮勘定」という。)において管理することとしている。
我が国に係る未精算債務額でケース終結仮勘定内に管理されているものは、15年度末において、計378ケース、48,129,294.66米ドル(15年度出納官吏レート122円による試算額58億7177万余円)となっている。
2 検査の結果
本院は、これまでもFMS調達について重大な関心をもって検査に当たってきたところであり、平成14年度決算検査報告において、防衛庁では新精算方式に参加しFMS調達に係る未精算の状況の改善に努めているが、なお未精算額が多額に上っている事態などについて「特に掲記を要すると認めた事項」として掲記している。
そこで、新精算方式においてケースの精算が適切に行われているかなどに着眼して引き続き検査するとともに、合衆国政府において有償援助等の安全保障協力の政策をつかさどる国防安全保障協力庁(Defense Security Cooperation Agency)に赴いて調査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
防衛庁は、新精算方式の枠組みに参加した際、合衆国政府から、最終計算書は見積価格算出後に価格変動が発生し得ないと判断したときに発給されてケースが精算され、余剰金が返済されるため、その後は原則として我が国に帰属すべき資金は発生しないとの説明を受けたとしている。
しかし、本院が国防安全保障協力庁において調査したところ、合衆国政府では、国防総省規則等に手続の定めはなかったものの、ケース終結仮勘定において管理している未精算債務額で精算が完了したものについて、年1回、未精算債務額が実際の精算額を上回ったことにより残存することとなった資金を、信託基金内で一時的に保管する勘定(Holding Account 7QQ。以下「保管勘定7QQ」という。)に移すこととしていた(以下、保管勘定7QQに移された資金を「残余資金」という。)。
そして、我が国についても、FMS中央調達及びFMS地方調達に係る計114ケース、4,971,498.11米ドルの残余資金が、次表のとおり発生していることが判明した。
残余資金が発生した日付 | ケース数 | 残余資金の額(米ドル) |
13年1月8日 | 16 | 22,965.71 |
14年1月9日 | 23 | 583,721.06 |
14年12月31日 | 43 | 814,998.97 |
16年3月30日 | 32 | 3,549,812.37 |
計 | 114 | 4,971,498.11 |
そこで、本院が防衛庁において検査したところ、同庁では、合衆国政府から、上表のとおり残余資金が発生しており、その返還等の取扱いについて指示を求める旨の通知をそれぞれ13年1月、14年1月、15年1月及び16年4月に受領していたが、最終計算書の発給後は原則として我が国に帰属すべき資金は発生しないと認識しており、残余資金に係る制度についての理解が十分でなかったことなどから、これらの通知を看過し、処理しないままとなっていた。
このため、16年9月末において、計114ケース、5億4686万余円(4,971,498.11米ドルを16年9月末の出納官吏レート110円により試算した額)の残余資金が、我が国に返還されていない。
残余資金は、合衆国政府において、新精算方式に基づく未精算債務額の精算の結果として発生し、我が国の請求に応じて返還することとしているものであるから、合衆国政府からその発生の通知を受けた場合には速やかに返還を請求し、歳入として国庫に収納すべきものと認められた。
したがって、防衛庁において、残余資金について合衆国政府に対して返還を請求せず、その結果、歳入として国庫に収納していない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められた。
なお、合衆国政府では、16年8月に、ケース終結仮勘定内で管理している未精算債務額の精算が完了した際に資金が残存した場合には、年1回、保管勘定7QQを通して利用国に返還するなどの手続を明文化した。
このような事態が生じていたのは、防衛庁において、新精算方式に基づく未精算債務額の精算の結果として発生する資金についての認識が十分でなく、残余資金の返還についての処理方針が欠如しており、訓令等の内部規程において返還についての定めがなかったり、返還のための手続を行う部局も定まっていなかったりしていて、返還を受ける体制が整備されていなかったことによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、防衛庁では、16年10月に訓令の運用についての通達を改正するなどし、残余資金については、訓令における余剰金の返済請求と同様の方法により契約本部において返還の手続を行うこととするなど、返還のための手続及び部局を定め、既に発生している残余資金及び今後発生する残余資金について、速やかに返還を請求し歳入として国庫に収納するための体制を整備する処置を講じた。