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  • 平成15年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第3 総務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

地上デジタルテレビジョン放送の開始に伴うアナログ周波数変更対策業務について、放送機の転活用を図ることなどにより経済的に実施するとともに、受信アンテナ等の材料費の積算を適切なものとするよう改善させたもの


(1)地上デジタルテレビジョン放送の開始に伴うアナログ周波数変更対策業務について、放送機の転活用を図ることなどにより経済的に実施するとともに、受信アンテナ等の材料費の積算を適切なものとするよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計
(組織)総務本省 (項)電波利用料財源電波監視等実施費
部局等の名称 総務本省
補助の根拠 電波法(昭和25年法律第131号)
補助事業者 社団法人電波産業会
間接補助事業者 放送事業者、一般受信者等
補助事業 特定周波数変更対策
アナログ周波数変更対策給付金の概要 特定周波数変更対策交付金を財源として、下記の工事等を行った者に支払われる給付金
(1) 送信対策
周波数の変更等が必要となる中継放送局において、放送事業者等が、放送機設備等について送信周波数の変更等を行う工事等
(2) 受信対策
一般受信者が、対象チャンネルを受信するために、テレビ、ビデオデッキ等のチャンネルプリセットを変更したり、アンテナ及びブースターを交換したりするなどの工事
アナログ周波数変更対策給付金の支給総額 (1) 68億8698万余円(平成14、15両年度)
(2) 150億2780万余円(平成14、15両年度)
上記のうち放送機の改修等を行っているものに係る工事費及びアンテナ等材料費の積算額 (1) 55億9250万余円(平成14、15両年度)
(2) 9億5968万余円(平成14、15両年度)
転活用を図るなどの検討の対象となる放送機器費 (1) 31億2064万円(平成14、15両年度)
低減できたアンテナ等の材料費積算額 (2) 2億1770万円(平成14、15両年度)

1 制度の概要

(アナログ周波数変更対策業務の概要)

 総務省では、平成15年12月より、関東・中京・近畿の三大都市圏から段階的に進められている地上デジタルテレビジョン放送(以下「地上デジタル放送」という。)の開始に当たり、電波法(昭和25年法律第131号)に基づき、13年8月に社団法人電波産業会(以下「電波産業会」という。)を指定周波数変更対策機関に指定し、アナログ周波数変更対策業務を行わせている。
 このアナログ周波数変更対策業務は、地上デジタル放送に使用する周波数(チャンネル)を確保するため、既にアナログテレビジョン放送に割り当てられている送信周波数を変更するものであり、放送事業者等が行う送信周波数の変更等の対策(以下「送信対策」という。)と、周波数(チャンネル)が変更される地域において一般受信者等が行うテレビ、ビデオデッキ等のチャンネルプリセットの変更やアンテナの交換等の対策(以下「受信対策」という。)とがある。

(国の費用負担とその方法)

 アナログ周波数変更対策業務に要する費用は、電波法等の規定により次のとおり負担することとなっている。

ア 送信対策については、関東・近畿の各広域圏を対象地域とする放送事業者が実施する放送用機器の改修等の工事に要する費用は各事業者の負担とし、それ以外の放送事業者等(日本放送協会を含む。)が実施する工事に要する費用は国が負担する。

イ 受信対策については、原則として、事業所、ホテル等を除いた一般住宅等における工事に要する費用は国が負担する。

 総務省では、上記の国が負担する送信対策や受信対策に要する費用は総額約1800億円と見込んでおり、電波利用料をこれらの費用に充てることとしている。
 そして、総務省では、電波産業会に対し、アナログ周波数変更対策業務の実施に要する費用として特定周波数変更対策交付金を交付しており、電波産業会では、この交付金を財源として、送信対策にあっては放送機設備の改修等の工事が必要な放送事業者等に対し、また、受信対策にあってはチャンネルプリセットの変更やアンテナの交換等が必要な一般受信者等に対し、アナログ周波数変更対策給付金(以下「給付金」という。)を支給することとしている。
 また、電波産業会では上記の給付金の支給に当たっては、アナログ周波数変更対策給付金支給要領を定め、給付金の支給を受けようとする個々の放送事業者等や一般受信者等からアナログ周波数変更工事給付金支給申請書等(以下「申請書」という。)の提出を受け、その内容を審査して交付決定することとしている。

(送信対策)

 送信対策は、全国各地の約3,500箇所に設置されているテレビジョン放送局のうち、放送電波を中継する放送局(以下「中継局」という。)において、周波数の変更や混信の除去等が必要となる場合があることから、放送事業者等が事業主体となって、送受信アンテナ、放送機、電源等の各設備を対象にして送信周波数及び受信周波数の変更等の工事を行うものである。
 そして、送信対策による周波数(チャンネル)の変更に対応してチャンネルプリセットの変更等の受信対策が行われる場合は、受信対策が完了するまでの間、旧周波数と新周波数とで並行して同じ番組を放送することとしており、この並行放送期間は、おおむね1箇月から2箇月程度となっている。
 上記の送信対策に要する給付金は14年度から支給されており、14、15両年度に工事を行った364箇所に係る支給総額は、14年度21億8191万余円、15年度47億0507万余円、計68億8698万余円となっている。

(受信対策)

 受信対策は、送信対策の実施により、周波数(チャンネル)が変更される地域内の一般住宅等において、テレビ、ビデオデッキ等のチャンネルプリセットの変更やアンテナ及びブースター(以下「アンテナ等」という。)の交換等を行うものである。
 受信対策の実施に当たっては、電波産業会では、おおむね各県単位に地域受信対策センターを設置し、各センターごとに調査等を行う現地業務受託者と実際の工事に当たる工事統括者とを選定し、以下のように各業務を委託している。
〔1〕 現地業務受託者は対策地域内の住宅等について受信対策が必要かどうかの確認調査等を行う。
〔2〕 工事統括者が〔1〕のデータに基づき、各受信者に対し、実施する工事の内容を案内するとともに申請書の配布及び取りまとめを行う。
〔3〕工事統括者の契約した電気工事会社が、各受信者の住宅等を訪問し、チャンネルプリセットの変更やアンテナ等の交換等の工事を行う。
 そして、アンテナ等の交換は、チャンネルプリセットを変更しても対象チャンネルが良好に受信できない場合に行うこととなっており、既設のアンテナをUHF帯でも電波の受信帯域が異なるアンテナや高性能のアンテナに交換したり、信号を増幅するためのブースターを設置したりするものである。
 また、給付金の支給手続については、次のとおりとなっている。すなわち、工事完了後、電気工事会社が各受信者から「アナログ周波数工事完了届兼実績報告書」を受領し、これを工事統括者及び現地業務受託者を通じて電波産業会に提出する。そして、給付金はこれらの金額を集計し、電波産業会から工事統括者に支給することとなっている。
 上記の受信対策に要する給付金は14年度から支給されており、14、15両年度の給付金の支給総額は、14年度7288万余円、15年度149億5492万余円、計150億2780万余円となっている。

<アナログ周波数変更対策の流れ図>

<アナログ周波数変更対策の流れ図>

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 アナログ周波数変更対策は、地上デジタル放送の全国への展開に合わせて14年度から18年度までの短期間に集中的に実施しなければならず、また、その事業費も多額に上ることが見込まれている。
 このため、アナログ周波数変更対策の実施状況について早急に検査を行い、その結果を事業の実施に反映させる必要があることから、16年次の検査において、送信対策及び受信対策に係る工事が経済的かつ効率的に実施されているかについて、集中的に検査を実施した。検査に当たっては、特に、中継局の主要設備の一つである放送機の設置等が経済的に行われているか、また、使用するアンテナ等の材料費の積算が適切に行われているかに着眼して検査した。

(検査の対象)

 送信対策については、給付金の支給対象工事のうち放送機の改修等が行われている計564件、給付金支給額計55億9250万余円を対象として検査した。
 受信対策については、既に業務を開始している13地域受信対策センター(注1) (15年度末現在)のうち、茨城地域受信対策センターほか9地域受信対策センター(注2) において実施した受信対策に係る工事261,313件(チャンネルプリセットの変更のみ実施していたもの121,380件、チャンネルプリセットの変更に加えてアンテナ交換等を実施していたもの139,933件)、給付金支給額計128億3945万余円を対象として検査した。

(検査の結果)

(1)送信対策について

 送信対策の実施に当たっては、放送機を構成する各機器の交換等を行うこととなるが、このうち、並行放送を行う場合は、放送事業者等は同一局舎内に放送機を増設するなどして、並行放送期間中、一時的に新旧周波数の2台の放送機を使用し、同期間の終了後、旧周波数の放送機を撤去するなどしている。そして、改修等を行う放送機の多くは、ユニット化された受信部、送信部及び付帯機器の各部分で構成されていて、原則としてユニットごとに交換ができる構造となっている。
 送信対策におけるこれらの放送機の改修等の状況を調査したところ、大別して次の3方式により実施されていた(参考図参照)

ア 放送機全体を新設しているもの

 この方式は、受信部等を含めた放送機全体を新設して、新周波数の放送機とし、並行放送期間の終了後に旧周波数の放送機を撤去するなどしているものであり、この方式を採っているものは108箇所で157件(給付金支給額29億3767万余円、このうち設置工事費等を除いた放送機器費18億2853万余円)あった。

イ 放送機の一部を交換しているもの

 この方式は、放送機全体を新設することなく、放送機のうち送信部のみを新設したり交換したりするなどしているものであり、この方式を採っているものは281箇所で376件(給付金支給額21億4343万余円、放送機器費10億4687万余円)あった。

ウ 放送機を仮設し、並行放送期間終了後、他の中継局に転活用しているもの

 この方式は、並行放送に必要な放送機を購入し、複数の中継局の間で転活用しているものであり、この方式を採っているものは、30箇所で31件(給付金支給額5億1139万余円、放送機器費2億4523万余円)あった。
 そして、上記の3方式についてみると、アの放送機全体を新設しているものについては、受信部と送信部が一体となっていて部分的な改修ができないなど技術的な理由から放送機全体を新設したものもあるが、申請書に放送機全体を新設する必要性が明記されていないため、放送事業者等において十分な検討が行われているかどうかが明らかでなかった。また、このため電波産業会においても十分な審査を行うことができない状況となっていた。
 また、イの放送機の一部を交換しているものについては、旧送受信部の局部発振器(注3) 等のみを交換しているもの(95件)や混信対策用の付帯機器のみを追加しているもの(98件)など限定的な対策にとどめて経済的に実施しているものがある一方で、新周波数の受信部や送信部の全体を新設しているもの(139件)が見受けられ、その対応方法は区々となっていた。しかし、アと同様に申請書にこのような方式を採る理由が明記されていないため、電波産業会において十分な審査を行うことができない状況となっていた。
 そして、ウの放送機を仮設して転活用しているものについては、並行放送期間の終了後、仮設の送信部を取り外し他の中継局に転用することとしていたものが25件(給付金支給額4億5676万余円、放送機器費2億2633万余円)あった。一方、これらの仮設の送信部を受け入れ活用していたものが6件(給付金支給額5463万円、放送機器費1889万余円)あり、この場合放送機に係る費用は相当低廉なものとなっていた。
 送信対策の実施状況は、上記のとおりとなっていたが、いずれの場合も放送事業者等がそれぞれの方式を採る理由を申請書に明記しておらず、他の中継局への転活用の検討がされているかどうかも明らかでなかったため、検査の対象となった564件(放送機器費31億2064万余円)について個々の中継局の改修方法の当否を確定するまでには至らなかった。
 しかし、放送機が一体となっていて部分的な改修ができないなどの特段の理由がない場合にアの放送機全体を新設する方式を採ることは、イの放送機の一部を交換する方式やウの放送機を仮設して転活用する方式と比べて、費用面で割高となるだけでなく、引き続き使用可能な放送機を廃棄するなど資源の有効利活用の観点からも適切ではないと認められた。また、イの放送機の一部を交換する方式においては、交換する部分が必要最小限の範囲を超えないようにしたり、ウの放送機を仮設して転活用する方式の採用を検討したりする必要があると認められた。

(2)受信対策について

 受信対策の実施に当たり、電波産業会では、アンテナ等の材料単価については、全国地上デジタル放送推進協議会(注4) が各メーカーの希望小売価格を調査して定めたとする受信対策単価(以下「協議会単価」という。)を基に、次のように算定していた。
 すなわち、標準アンテナ(UHF用14〜20素子程度)については、協議会単価の5,000円(税込価格)から消費税額を控除した額に90%を乗じて得た価格4,290円と算定し、また、同様にして高性能アンテナ(同26〜30素子程度)については12,000円、ブースターについては10,290円と算定していた。
 しかし、受信対策に使用するアンテナ等は一般に市販されている製品であり、工事統括者が購入し下請けの電気工事会社に支給しているものであったことから、市場における実際の取引価格について、家電量販店等におけるアンテナ等の実際の販売価格(以下「実勢販売価格」という。)を調査した。
 その結果、アンテナ等は、メーカー希望小売価格に比べ相当割り引かれて販売されており、その実勢販売価格の割引率は30%程度となっていた。これに対し、電波産業会が採用している前記の材料単価をメーカー希望小売価格と比べた場合の割引率は機種により5.1%〜15.5%となっていた。したがって、電波産業会が採用しているアンテナ等の材料単価は、実勢販売価格と比べて相当割高なものとなっており、早急に、実態に見合った単価に改定する要があると認められた。
 検査を実施した10地域受信対策センターにおけるアンテナ等(アンテナ89,689本、ブースター51,927台)の積算額9億5968万余円について、実勢販売価格の割引率を適用して算定した材料単価を用いて修正計算すると計7億4197万余円となり、積算額を約2億1770万円低減できたと認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、地上デジタル放送への早期転換を図るため本件対策において短期間に多数の工事を円滑に実施しなければならないなどの事情にもよるが、総務省からアナログ周波数変更対策に係る事務移管を受けている電波産業会において、次のようなことによるものと認められた。
(ア)送信対策について、申請内容の審査を行う際に、工事の内容及び費用が必要最小限のものとなっているかの審査が十分に行われていなかったこと、また、各放送事業者等における放送機の転活用への取組が十分でないこともあり、事業者間の転活用のための情報提供が図られていなかったこと
(イ)受信対策について、アンテナ等の材料単価の算定に当たり、実勢販売価格を適切に反映させるなどの経済性に対する配慮が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、総務省では、16年9月に電波産業会に対し通知文書を発し、工事内容を精査できる審査体制の充実、放送機の転活用及び材料単価の見直しを指示するなどして、アナログ周波数変更対策を経済的に実施する処置を講じた。

(注1) 13地域受信対策センター 茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京・神奈川、岐阜、愛知・三重、滋賀・京都、大阪・奈良、兵庫、和歌山、香川各地域受信対策センター
(注2) 茨城地域受信対策センターほか9地域受信対策センター 茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京・神奈川、愛知・三重、大阪・奈良、兵庫、香川各地域受信対策センター
(注3) 局部発振器 放送機の主要な構成部品で水晶発振子等を用いてテレビジョン放送に必要な周波数の信号を発生させる機器
(注4) 全国地上デジタル放送推進協議会 アナログ周波数変更対策の円滑な実施、デジタル放送への円滑な移行と普及・発展を図るため、13年7月に総務省、放送事業者が設立した任意団体

(参考図)

<送信対策模式図>

<送信対策模式図>