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在外公館における会計経理が適正を欠くと認められるもの


(5)(6)在外公館における会計経理が適正を欠くと認められるもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)在外公館 (項)在外公館
部局等の名称 (1) 在ラオス日本国大使館
(2) 在エドモントン日本国総領事館
在外公館における経費の概要 在外公館の運営に必要となる庁費、在外公館連絡庁費等
適正を欠いていた金額 (1) 現金の領得
    6,718,099円(平成13年度〜15年度)
    (51,824.83米ドル)
    (38,439,588キップ)
  現金預金残高と帳簿残高の不一致
    3,230,082円(平成16年4月4日現在)
    (28,858.15米ドル)
    (16,666.09バーツ)
    (952,102キップ)
(2)   1,167,800円(平成13年度〜15年度)
    (15,058.70カナダドル)
  11,115,981円

1 会計経理の概要

 外務省では、外国において相手国政府等との交渉、邦人の保護、情報収集等の事務を行うため、大使館、総領事館等の在外公館を設置している。
 在外公館における会計機関は、在外公館会計規程(昭和27年決定)等に基づいて、原則として、在外公館の長(以下「館長」という。)が歳入徴収官等となり、館長代理(総領事館では館長)が収入官吏及び資金前渡官吏(以下「出納官吏」という。)等となっている。また、館長は、報償費の取扱責任者となるとともに、在外公館における会計経理を指導監督する責務を負っている。
 在外公館において、公金は〔1〕 歳入金、〔2〕 前渡資金、〔3〕 報償費の別に銀行口座を設けて出納管理し、その支払は原則として小切手で行い、所定の帳簿に登記することとなっている。小切手の署名は原則として出納官吏が自ら行うこととなっているが、緊急時に対処するため会計担当者の署名も銀行に登録することにより、会計担当者も署名できることとなっている。
 予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)によると、毎年3月31日又は出納官吏が交替するときは、各省各庁の長から命じられた検査員は出納官吏等の立会いのもと、帳簿金庫を検査しなければならないこととなっている。また、出納官吏事務規程(昭和22年大蔵省令第95号)によると、出納官吏が交替するときは現金出納簿の締切をして現金現在高調書等を作成し、後任の出納官吏の立会いのうえ現物と対照するなど、所定の事務引継手続を執らなければならないこととなっている。

2 検査の結果

 検査したところ、在ラオス日本国大使館及び在エドモントン日本国総領事館において次のような事態が見受けられた。

(1)在ラオス日本国大使館

ア 現金の領得について

 在ラオス日本国大使館(以下「大使館」という。)では、ラオス人民民主共和国内に米ドル建銀行口座を安全上の理由から設けておらず、現金による支払を平素から行っていた。また、支払に当たり、業者のもとへ赴いて支払を行っていた。
 そして、大使館が現地で採用した職員A(以下「現地職員A」という。)が、平成14年4月から16年1月までの間、通信専用回線使用料、電力料金、公邸用食材購入代金等の業者への支払に当たって、大使館から現金を預かりこれを支払わずに領得したり、大使館から「CASH」と記載した持参人が現金化できる小切手を預かり、これを支払わずに現金化して領得したりしていた。
 また、同国内における商慣習として、業者への支払の際、請求書に領収印を受けることにより領収書の受領に代える場合が多く、現地職員Aは、業者からの請求書等に市販の領収印を押印するなどして大使館に提出し、業者に支払ったこととして領得の事実を隠ぺいしていた。そして、業者に対しては、通信専用回線使用料の支払の遅延による督促に対し、大使館に無断で支払期限の延長を申し入れるなどしていた。
 このようにして、現地職員Aが大使館から預かった現金等については、業者への支払は行われておらず、13年度から15年度計51,824.83米ドル及びラオス通貨38,439,588キップ(これらに係る邦貨換算額計6,718,099円)が領得されていた。
 なお、現金領得の事態に係る支払関係については、大使館と取引関係のある業者の一部が帳簿等を整備していないなどのため、事実関係の確認を十分行えないものがあった。

イ 現金預金残高と帳簿残高の不一致について

 大使館では、16年4月4日現在の現金預金残高が帳簿残高より28,858.15米ドル、16,666.09バーツ、952,102キップ(これらに係る邦貨換算額計3,230,082円)それぞれ多くなっており、開差が生じていた。このため、大使館において、歳入金の収納状況、前渡資金、報償費等の支払状況等を調査したが、上記の開差が生じている原因は不明であった。

ウ 大使館の出納事務処理等について

 上記の現金領得及び現金預金残高と帳簿残高の不一致の事態に係る出納事務処理等を検査したところ、次のとおり適正を欠いている事態が見受けられた。

(ア)現金の領得に係る出納事務処理等について

 「公金移動時の留意事項について」(平成6年在合第1722号外務大臣通達)によれば、公金の取扱いに当たり、「公金の移動時、特に銀行の往復に際しては、会計担当者が自ら行くか会計担当者が現地採用職員に同道する」こととなっている。しかし、大使館では、現地職員Aに平素から現金を預けて単独で業者への支払に行かせ、1件の支払が5,000米ドルを超える多額な現金による支払についても単独で行わせていた。
 また、出納官吏事務規程では、小切手には正当債権者を記名すること、支払に当たっては、請求が正当であるか調査し、領収証書を徴さなければならないこととなっている。しかし、大使館では、15年10月分の電力料金の支払に当たり、債権者あてでなく、「CASH」と記載した持参人が現金化できる小切手を振り出して、現地職員Aにこれを預けて支払に行かせていたり、15年11月分及び12月分の電力料金の請求書に前月分の未納額が記載されていたのに、これを看過したりしていた。また、公邸用食材購入代金の支払については、領収書等を徴取していなかった。

(イ)現金預金残高と帳簿残高の不一致に係る出納事務処理等について

〔1〕 現金預金の管理方法
 前渡資金と報償費は明確に区分して管理すべきであるにもかかわらず、大使館では、銀行において前渡資金と報償費とを同一口座で管理していたり、前渡資金と報償費を銀行口座から引き出して現金を手許保管する際、金庫内で前渡資金と報償費とを区分して管理していなかったりしていた。また、現金出納簿において、外務省が定めた現金出納簿の書式では、現金と預金に区分して登記することとなっていなかったため、大使館では、現金と預金を区分して登記していなかった。このため、現金預金残高と帳簿残高との開差が生じている原因は不明となっていた。
〔2〕 現金預金残高と帳簿残高との確認状況
 前記のように毎年3月31日又は出納官吏の交替時に現金預金残高と帳簿残高の確認を行うことなどとなっているが、検査員及び出納官吏はこの確認を行っておらず、会計担当者が帳簿残高を基に検査書等を作成していた。
 また、外務省が大使館に対し13年9月に査察を実施した際、会計担当者は事前に現金預金残高と帳簿残高を照合していた。その際、現金預金残高が帳簿残高より多くなっていて開差が生じていたが、会計担当者は開差分を別に保管するなどし、その原因を調査するなどしておらず、館長及び出納官吏への報告もしていなかった。
 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
(ア)現金領得の事態については、現地職員の公金に対する認識が著しく乏しかったり、これに対して出納官吏及び会計担当者の現地職員に対する指導監督が十分ではないなど内部統制機能が働いていなかったり、館長の指導監督が十分でなかったりしたこと
(イ)現金預金残高と帳簿残高の不一致の事態については、館長、出納官吏及び会計担当者等の会計法令及び公金の取扱いに対する認識が十分でなかったこと
 以上のように、51,824.83米ドル、38,439,588キップ(これらに係る邦貨換算額計6,718,099円)が現地職員Aに領得されていたり、28,858.15米ドル、16,666.09バーツ、952,102キップ(同計3,230,082円)について現金預金残高と帳簿残高が一致していなかったりしていて、会計経理が適正を欠くと認められる。

(2)在エドモントン日本国総領事館

ア 現金の領得について

(ア)現金領得の事実

 在エドモントン日本国総領事館(以下「総領事館」という。)では、13年2月から16年2月まで会計担当者であったB副領事が、前任者から引き継いだ歳出金の手許保管現金のうち1,117.81カナダドル(邦貨換算額80,482円)を13年11月から14年8月までの間に領得していた。さらに、その後、自ら小切手に署名できる立場を利用して、14年8月から12月までの間に計6回にわたり、前渡資金口座から、自らを受取人とする額面計11,601.00カナダドル(同916,479円)の小切手を自ら署名して振出し、自己名義の銀行口座に振り込んで領得していた。

(イ)発見の経緯

 総領事館では、15年度に、総領事公邸用物品として、冷蔵庫等の電化製品3点を計3,766.05カナダドルで購入したとしていた。
 本院が16年2月に実地に検査したところ、納入業者等にあてて振り出された小切手がないなど、これに係る支払が行われた事実は一切確認できなかった。そして、実際はこれらの物品を購入しておらず、B副領事は虚偽の請求書及び領収書を作成したり、代金を支払ったこととして現金出納簿に記載したり、存在しない物品を物品管理簿に記載したりしていたことが判明した。
 また、14年5月及び6月分の総領事公邸警備謝金として2,512.90カナダドルを同年12月に警備会社に支払ったとしていた。しかし、実際は、両月には警備を実施しておらず、B副領事が警備会社に依頼し、両月分の虚偽の請求書及び領収書を作成させていた。
 B副領事が、虚偽の請求書及び領収書を作成して、上記のような会計処理を行っていたのは、公金を領得しておりこれにより生じた現金出納簿上の残高と実際の現金預金残高の不一致を隠ぺいするためであった。

イ 不適正な会計処理について

(ア)帳簿残高と実際の残高の不一致

 B副領事在任期間中の総領事館の会計経理についてみると、支払は行っているが、現金出納簿への記帳が行われていないものが、計13件2,013.94カナダドル、支払金額が記帳された金額より過大になっていたもの3件301.22カナダドル、過小になっていたもの1件2.12カナダドル、計4件303.34カナダドルあった。また、原因は不明であるが、現金出納簿上の残高と実際の現金預金残高が一致しないものが、22.61カナダドルあった。(これらの邦貨換算額の合計170,839円)

(イ)現金預金残高の確認状況

 総領事館では、毎年3月31日の帳簿金庫の検査のほか、出納官吏の交替時にも現金預金残高の確認を実施したとしている。そして、15年7月の出納官吏交替時も現金現在高調書等を作成し、出納官吏が残高の確認を行ったとしていた。しかし、この調書は、B副領事が領得した金額を手許保管しているかのように虚偽の記載をしたものであり、調書の手持ち現金の欄には実際の手許保管現金の額より多い金額が表示されるなどしていたのに、出納官吏はこれを十分確認していなかったため、本件事態は発見されなかった。
 このような事態が生じていたのは、B副領事の公金に対する認識が著しく乏しかったり、出納官吏の公金の取扱いに対する認識が乏しく現金預金残高の確認を十分行っていないなど内部統制機能が働いていなかったり、総領事の指導監督が十分でなかったりしたことによると認められる。
 以上のように、計15,058.70カナダドル(邦貨換算額計1,167,800円)がB副領事に領得されるなどしていて会計経理が適正を欠くと認められる。