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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

在外公館における出納事務について、内部統制等を十分機能させることなどにより、その適切及び適正な執行を図るよう是正改善の処置を要求したもの


在外公館における出納事務について、内部統制等を十分機能させることなどにより、その適切及び適正な執行を図るよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 一般会計 (部)雑収入 (款) 国有財産利用収入
  (項)国有財産貸付収入
  (項)利子収入
(款) 諸収入
  (項)許可及手数料
  (項)弁償及返納金
  (項)物品売払収入
  (項)雑入
(組織)外務本省  (項)外務本省
  (項)経済協力費
(組織)在外公館  (項)在外公館
  (項)在外公館施設費
部局等の名称 在カンボジア日本国大使館ほか20公館
在外公館における出納事務の概要 在外公館における査証発行などに係る手数料等の収納及び相手国政府等との交渉、邦人の保護、情報収集等の業務を行うための支払に関する出納事務
検査の対象とした歳入金及び前渡資金の額 収納済歳入額 7億6344万円 (平成14、15両年度)
前渡資金支払済額  114億5395万円 (平成14、15両年度)

【是正改善の処置要求の全文】

 在外公館における出納事務の執行について

(平成16年10月28日付け 外務大臣あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 在外公館における出納事務の概要

(国の出納事務)

 国の現金の出納事務は、財政法(昭和22年法律第34号)、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等の会計法令及び予算に基づき執行される。
 すなわち、歳入については、歳入徴収官が徴収決定に関する事務を行い、収入金の収納に伴う現金の出納事務は収入官吏が行うこととなっている。そして、歳入徴収官が歳入の徴収決定をしたときは、納入の告知を行うとともに徴収簿に徴収決定済額として登記することとなっている。また、収入官吏は、収入金を収納したときは、歳入徴収官に報告し、歳入徴収官は徴収簿に収納済歳入額として登記することとなっている。
 また、歳出については、支出官が支出決定に関する事務を行い、現金の交付に代えて、日本銀行を支払人とする小切手を振り出し、日本銀行がこれを支払うことを原則としている。しかし、外国で支払う経費、交通通信の不便な地方で支払う経費、庁中常用の雑費など経費の性質上現金払をしなければ事務の取扱いに支障を及ぼすような特定の経費については、支出官が資金前渡官吏に前渡資金を交付して、債権者に対する支払などの出納事務を行わせることができることとなっている。そして、資金前渡官吏は、交付を受けた前渡資金を日本銀行に預託したり、現金で手許保管したり、市中銀行等に預け入れたりなどして、必要な支払を行うこととなっている。
 収入官吏及び資金前渡官吏(以下「出納官吏」という。)は、現金及び預金の出納を帳簿に登記することとなっている。
 また、各省各庁の長は、出納員を命じて、その者に出納官吏が行う現金の出納事務の一部を分掌させることができ、出納員は、現金を収納したときは所属の収入官吏に払い込まなければならないこととなっている。
 そして、出納官吏及び出納員は、会計法に基づき、善良な管理者の注意を怠ったことにより、その保管に係る現金を亡失したときは、弁償の責を免れることができないこととなっている。さらに、資金前渡官吏は、予算執行職員等の責任に関する法律(昭和25年法律第172号)に基づき、故意又は重大な過失により法令又は予算に違反して支払等の行為を行ったことにより国に損害を与えたときは、弁償の責に任じなければならないこととなっている。
 また、各省各庁の長は、予算決算及び会計令により、毎年3月31日又は出納官吏が交替するときは、職員の中から検査員を任命して、出納官吏の帳簿金庫を検査させることとなっている。

(在外公館における出納事務)

 貴省では、外務省設置法(平成11年法律第94号)等により、諸外国に、大使館、政府代表部及び総領事館(以下「在外公館」という。)を計189公館設置して、相手国政府等との交渉、邦人保護等を行っている。
 この在外公館における会計機関については、在外公館会計規程(昭和27年決定)等により、原則として、歳入徴収官には在外公館の長(以下「館長」という。)がなり、また、出納官吏には、大使館及び政府代表部においては館長の代理となる者が、総領事館においては館長が、それぞれなっている。
 また、館長は、同規程に基づき歳入徴収官や出納官吏等の事務を分掌又は補助させるため、会計担当者を1人又は複数定めることとなっている。この会計担当者の1人は、査証発行などに係る手数料(以下「領事手数料」という。)に係る現金の出納事務について、収入官吏所属の出納員となっている。そして、会計担当者は、歳入徴収官及び出納官吏の事務について、収納及び支払に係る関係書類の調査、現金及び預金の出納保管、帳簿への登記、証拠書類の整理並びに各種報告書の作成などの事務を担当している。また、在外公館には、会計事務等を担当する官房班があり、官房班に属する現地採用職員等もこれらの会計事務を補助している(以下、この会計事務を補助する職員を「補助職員」という。)。
 そして、在外公館の出納官吏は、会計担当者に出納員として行わせている領事手数料に係るものを除き、現金の出納保管について会計法上の弁償責任、及び予算執行職員等の責任に関する法律上の弁償責任を課されている。
 また、毎年3月31日に出納官吏の帳簿金庫の検査を行う検査員には、在外公館会計規程により、原則として出納官吏の次席の者が任命されている。
 さらに、館長は、報償費の取扱責任者となるとともに、在外公館における会計経理を指導監督する責務を負っている。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 在外公館において、収入官吏は、領事手数料の収入金をほぼ毎日収納しており、また、資金前渡官吏は、外国で支払う経費すべての前渡資金の出納保管をしており、収納済歳入額及び前渡資金支払済額は多額に上っている。そして、在外公館で扱う経費については、外交政策上高度な判断が必要とされることも多い。一方、在外公館における会計事務の執行体制についてみると、平成16年1月現在189公館中、歳入徴収官及び出納官吏のほか、会計担当者が1人しかいない在外公館が138公館、2人が34公館、3人以上が17公館となっているなど少人数の会計担当者等で会計事務を執行している公館が多数となっている。また、外国においては、国庫金の出納機関である日本銀行が所在しないなどのため、前渡資金を現金で手許保管したり、市中銀行に預入れ(以下「特別保管」という。)をしたりしている。さらに、商慣習が日本と異なるなどしていて、会計法令の特例の取扱いを要する場合や、本省と在外公館の通信連絡手段が限られるなどしていて、指導監督が徹底し難い場合もある。
 出納官吏は、このような在外公館及び在外公館を取り巻く現地の状況の下、出納事務を執行することとなる。一方、出納官吏は、その出納事務を適切に執行することを求められ、その事務の執行に対しては、会計法等により、弁償責任を課されており、単に自ら事務を執らないことを理由として責を免れることができない。
 このような在外公館における会計経理に関し、本院は、平成12年度決算検査報告及び平成14年度決算検査報告において在パラオ日本国大使館ほか4公館(注1) の会計経理について不当事項を掲記し、平成13年度決算検査報告においては国有財産・物品の管理等について特定検査対象に関する検査状況を掲記するなどしている。これらの掲記事項のうちには、館員が現金を領得するなどした事態とともに、資金前渡官吏が本来自ら行うべき小切手の署名を行っていなかったり、帳簿上の残高に対し保管中の現金及び預金の残高が不足していたり、帳簿に虚偽の金額が記入されていたりするなどの出納事務に適正を欠く事態がある。そして、このような適正を欠く出納事務が、上記の現金領得などの事態を生む一因であったと認められる。
 そこで、次の点などに着眼して在外公館における出納事務等が適切に執行されているか検査した。
ア 出納官吏自らは、出納事務としてどのような事務を行っているか
イ 会計担当者及び補助職員による会計事務の補助は、どのように行われているか
ウ 現金及び預金の出納保管、支払、帳簿金庫の検査等は、会計法令等に従って行われているか
エ 在外公館の出納事務に係る規定は、会計法令に沿って整備されているか
オ 本省による在外公館の出納事務に関する指導監督は、適切か

(検査の対象)

 全189公館のうち21公館(注2) における14、15両年度の出納事務の執行状況(これらに係る収納済歳入額14年度3億6219万余円、15年度4億0124万余円、前渡資金支払済額14年度56億1710万余円、15年度58億3684万余円)について検査するとともに、本省による在外公館の出納事務に関する指導監督の状況について検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、21公館における出納事務について、適切又は適正とは認められない事態が、次のとおり見受けられた。
(1)歳入徴収官、資金前渡官吏及び検査員が自ら行うべき重要な事務が当該者により行われていないなどの事態
(2)補助職員の範囲及びその事務の範囲が明確でないまま公金が取り扱われている事態
(3)会計事務処理が適正に行われていない事態
(4)現金が領得されている事態
 これらの具体的な状況は、次のとおりである。

(1)歳入徴収官、資金前渡官吏及び検査員が自ら行うべき重要な事務が当該者により行われていないなどのもの

 歳入徴収官や資金前渡官吏等は、徴収決定の意思決定や支払の決定などの重要な事務については、他の職員に命じて行わせることはできず、自ら行わなければならない。特に、在外公館では、前記のとおり、前渡資金として外交政策等の観点から高度な判断を必要とする経費を取り扱うため、館長又は館長代理の幹部職員が資金前渡官吏として官職指定されており、必要に応じ館長等に代えて特別任命を行う場合も、館長等に次ぐ幹部職員を任命していることからして、資金前渡官吏が直接支払の決定を行う必要性は高いと認められる。
 しかし、次のとおり、在外公館において、歳入徴収官、資金前渡官吏等が自ら直接行う事務の範囲が明確になっていなかったこともあり、徴収決定の意思決定や支払の決定などの重要な事務を行っていないなどの事態が見受けられた。

ア 歳入徴収官の事務について

(ア)徴収の意思決定が書面により確認できる体制となっていないもの
21公館

 国が収入金を徴収する際には、歳入徴収官事務規程(昭和27年大蔵省令第141号)により、歳入徴収官が、その内容を調査し、関係書類に基づいて徴収決定して徴収簿に登記することとなっている。この徴収決定に当たり、歳入徴収官は、徴収決議書において意思決定を明らかにしなければならないこととなっている。しかし、貴省において、領事手数料に係る徴収決議書の書式を定めていないなどのため、在外公館において、領事手数料を収納する際、徴収決議書を作成しておらず、歳入徴収官が自ら行うべき徴収の意思決定を書面において確認できる体制が整備されていない。

(イ)歳入徴収官が不在で収納の報告を受けられないのに、報告を受けたこととして会計処理していたもの
21公館

 出納官吏事務規程(昭和22年大蔵省令第95号)に基づき、収入官吏は、領事手数料を収納したときは、歳入徴収官に報告することとなっている。そして、歳入徴収官は、この報告をもって徴収簿に収納済歳入額として登記することとなっている。しかし、在外公館において会計担当者が歳入徴収官及び収入官吏の両会計機関の事務の補助者となっていることもあって、歳入徴収官が出張等により不在で、収入官吏から収納の報告を受けることができない場合であっても、歳入徴収官が収入官吏から報告を受けたこととして、会計担当者が徴収簿に登記していた。このような事態が、14年度188件、927万余円(邦貨換算額。以下、外国通貨の場合、同じ。)、15年度215件、708万余円、計403件、1636万余円見受けられた。
 また、外務省所管会計事務取扱規程(平成2年外務省訓令第4号)により、在外公館においては、歳入徴収官代理として館長代理が官職指定されていて、歳入徴収官が出張等で不在の場合には歳入徴収官代理が上記の徴収決議や徴収簿への登記等を行うことができることとなっている。しかし、貴省において、歳入徴収官代理の代理期間や引継ぎなどの運用細則を定めておらず、在外公館において歳入徴収官の代理官制度は運用されていない。

イ 資金前渡官吏の事務について

(ア)資金前渡官吏が不在等で自ら支払の決定を行っていないもの
21公館

 在外公館においては、前渡資金の支払に当たり、資金前渡官吏が請求書等の関係書類により必要事項を調査して支払証拠書類添付台紙に支払の決定の年月日を表示し、押印することとなっている。しかし、資金前渡官吏が出張等により不在で支払の決定ができない場合、会計担当者が資金前渡官吏の印鑑を預かり、それを用いて押印するなどして、支払の決定に関する書類を作成して処理していた。このような事態が、14年度1,221件、1億9496万余円、15年度1,814件、3億8518万余円、計3,035件、5億8015万余円見受けられた。また、一部の在外公館では、資金前渡官吏が在勤している場合にも同様の事態が見受けられた。
 また、外務省所管会計事務取扱規程により、在外公館のうち総領事館においては、資金前渡官吏代理として館長代理が官職指定されていて、資金前渡官吏が出張等で不在の場合には資金前渡官吏代理が上記の支払の決定等を行うことができることとなっている。しかし、貴省において資金前渡官吏代理の代理期間や引継ぎなどの運用細則を定めておらず、総領事館において資金前渡官吏の代理官制度は運用されていない。
 一方、大使館及び政府代表部においては、資金前渡官吏代理は官職指定されておらず、代理官制度が運用されていない。

(イ)資金前渡官吏が自ら小切手に署名していないもの
20公館

 資金前渡官吏は、小切手振出等事務取扱規程(昭和26年大蔵省令第20号)により、特別保管した前渡資金に係る小切手を振り出す際には、自ら小切手に押印しなければならないこととなっているが、外国において、商慣習として小切手に署名をすることとなっている場合は、同規程を踏まえて、資金前渡官吏は押印に代えて署名を自らして、小切手を振り出す要がある。
 貴省では、「公館長及び出納官吏の会計事務監督等について」(平成5年在合第23886号)により、資金前渡官吏が自ら小切手に署名することとしているが、資金前渡官吏が不在で、かつ、急を要するなど真にやむを得ない場合には、例外的に会計担当者が署名することも認めていて、通常、資金前渡官吏のほか会計担当者の署名も銀行に登録している。そして、同通達において、真にやむを得ない場合が具体的に示されていないことなどから、緊急時などの特段の事情が認められないにもかかわらず、会計担当者が小切手に署名して振り出して支払に充てたり、現金化したりしている事態が見受けられた。
<事例1>
 A大使館では、米ドルによる支払と現地通貨による支払を行っている。このうち、米ドルの小切手については、原則として資金前渡官吏が署名して振り出していたが、特段の事情が認められないにもかかわらず、会計担当者が小切手に署名して振り出しているものが、14年度68件、21,313,042円、15年度(第2四半期まで)16件、1,164,687円、計84件、22,477,729円見受けられた。また、現地通貨の小切手については、専ら会計担当者が署名して振り出していて、その件数及び金額は、14年度480件、16,646,964円、15年度(第2四半期まで)162件、6,222,297円、計642件、22,869,261円となっていた。

ウ 検査員が出納官吏の帳簿金庫の検査を実施していないもの
16公館

 予算決算及び会計令によると、毎年3月31日に、任命を受けた検査員が出納官吏の帳簿金庫の検査を実施することとなっている。しかし、在外公館においては、在外公館会計規程により検査員が官職指定されているものの、その職にある者に検査員であることを知らせていなかった。そして、本人が検査員であることを知らないなどしたため、帳簿金庫の検査を実施していなかった。さらに、検査員が検査を実施したこととして会計担当者が検査書を作成するなどして処理していた。

(2)補助職員の範囲及びその事務の範囲が明確でないまま公金が取り扱われているもの

 現金及び小切手は、資金前渡官吏が、又は会計担当者及び補助職員が資金前渡官吏の指揮命令の下、会計法令等に基づき、適切に取り扱わなければならない。しかし、補助職員の範囲や補助職員の事務の範囲が明確でないため、次のとおり、適切とは認められない事態が見受けられた。

ア 補助職員としての明確な定めのない者により前渡資金の支払が行われているもの
20公館

 貴省において資金前渡官吏の補助職員の範囲及び事務分掌が明確に定められていないまま、資金前渡官吏の指揮命令下にない書記官、現地採用職員等が、前渡資金の支払に際して、日頃から現金を預かり、消耗品の代金等を支払っている事態が見受けられた。
<事例2>
 B大使館では、広報文化センターにおいて、資金前渡官吏の指揮命令下にない書記官が、資金前渡官吏の支払決定を受けることなく常時、前渡資金を保有し、文具等消耗品の購入代金などの支払に充てている事態が14年度271件、6,525,739円、15年度359件、1,467,976円、計630件、7,993,715円見受けられた。
<事例3>
 C大使館では、事務分掌を明確に定めないまま、前渡資金の執行に際し、支払の都度、現地採用運転手に現金を預け、消耗品を購入させたり、一回当たりの支払額が多額な電力料金や電話料金の支払をさせたりしている事態が14年度300件、7,699,861円、15年度316件、7,287,514円、計616件、14,987,375円見受けられた。

イ 銀行からの預金の引出し等に際して公金の取扱いが適切でないもの
10公館

 貴省通達「公金移動時の留意事項について」(平成6年在合第1722号)によれば、出納官吏は、公金の取扱いに当たり、会計法上求められている善良なる管理者の注意を払い、公金の持ち運び、特に銀行との往復に際しては、会計担当者に行かせるか、又は補助職員に会計担当者を同行させることとなっている。しかし、平素から補助職員のみで、銀行に赴かせ口座から現金を引き出させている事態が見受けられた。

(3)会計事務処理が適正に行われていないもの

 収入官吏は、会計法令により、収入金を国庫に納めなければならず、直ちに使用することはできない。また、資金前渡官吏は、支払決定に当たり、出納官吏事務規程等により、資金交付を受けた目的と相違しないか、資金前渡を受けた経費の科目に該当するか、前渡資金の交付を受けた範囲内であるかなどを請求書等の関係書類により調査するなどして、適正に事務を執行しなければならない。しかし、以下のとおり、会計法令等に従った会計事務処理が行われていない事態が見受けられた。

ア 歳入金を一時業者等への支払に充てているもの
2公館

 会計法の規定により、国の収入は、国庫に納めなければならず、また、歳出は必ず歳出予算から支出しなければならず、収入を直ちに支払に充てることはできない。そして、在外公館においては、出納官吏等が公金を特別保管する場合、在外公館会計規程等により、資金前渡官吏が前渡資金口座を、収入官吏が歳入金口座を、また、館長が報償費口座をそれぞれ市中銀行に設けて管理することとなっている。しかし、領事手数料として収入官吏が収納し保管していた収入金を業者等への支払に充てて、後に前渡資金等の現金を歳入金口座に入金し補てんしている事態が見受けられた。
<事例4>
 D大使館では、14年11月に前渡資金口座の残高が僅少となった。そこで、収入官吏が収納した領事手数料に係る現金を本省に送金するまでの間保管している歳入金口座から2,014,830円を前渡資金口座に移して、現金を引き出し、現地採用職員への給与や警備員の謝金等の支払に充てていた。そして、前渡資金口座に入金が確認された時点で同額を引き出し、これを歳入金口座に入金していた。

イ 前渡資金と報償費の経費区分が徹底されていないもの
3公館

 前渡資金と報償費は、性質が異なるとともに、その責任者が前者は資金前渡官吏、後者は館長と異なることから、区分して出納保管する要がある。
 しかし、前渡資金と報償費の経費区分が徹底されていないため、本来前渡資金で支払うべきであった旅費等を一時報償費で支払って、後に前渡資金口座から報償費口座へ振り替え補てんするなどしている事態が見受けられた。

ウ 在外公館の公金以外の資金の出納保管をしているもの
18公館

 出納官吏は、出納官吏事務規程等により、その取扱いに係る収入金又は前渡資金を私金と混同してはならないことなどとなっている。
 しかし、前渡資金口座等に、他省庁からの資金、独立行政法人国際交流基金(以下「交流基金」という。)の事業費、共済組合の経費等在外公館の公金以外の資金が入金されている事態が見受けられた。また、歳入金口座、前渡資金口座及び報償費口座(以下「3口座」という。)のいずれにも属さない銀行口座を開設していて、その銀行口座に上記のような他省庁等からの資金や共済組合の経費等が入金されている事態が見受けられた。
 上記のうち交流基金の事業費についてみると、交流基金の海外事務所が所在しない地域の17公館において、交流基金本部から送金された事業費を前渡資金口座等又は3口座のいずれにも属さない口座に入金していて、その取扱額は14年度1676万余円、15年度1799万余円、計3475万余円となっていた。
<事例5>
 E総領事館では、前渡資金口座に、14、15両年度に、交流基金からの日本人形展開催などのための事業資金4件1,662,860円、14年7月に、当地開催の国際会議に際し記者が支払を行うべき記者室の借料、電話代等に係る資金1件692,541円の入金を受け、業者等にそれぞれ支払っていた。

エ 前渡資金の経費科目以外の経費を支払い、又は科目残高を超えて支払っているもの
17公館

 資金前渡官吏は、支払の決定に当たっては前渡資金の交付を受けた経費の科目であるか、また、資金の交付を受けた額の範囲内であるかを調査確認することとなっている。
 しかし、資金前渡を受けた経費でなく共済組合が負担すべきレクリエーション経費等を前渡資金で一時立て替えて支払っている事態が7公館において見受けられた。このうちには、交流基金からの事業費の送金前に、前渡資金等から交流基金の文化事業に要した経費を一時立て替えて支払っていた事態が、6公館において14年度46万余円、15年度99万余円、計146万余円ある。
 また、科目残高を十分管理していないため、資金前渡を受けた科目の一部について一時的に交付額を超えて支払を行っている事態が17公館において見受けられた。

オ 実際の現金の出納と現金出納簿への登記とが相違しているもの
16公館

 出納官吏は、会計法令に基づき、現金出納簿を備え、現金の出納を登記原因の発生の都度、登記することとなっている。しかし、次のとおり、実際の現金の出納と異なる現金出納簿への登記をしている事態が見受けられ、中には、開差を生じている原因が不明となっているものもあった。
 旅費の支給に当たり、資金前渡官吏の支払の決定を受けることなく出張前に公金により航空券を購入して本人に手渡し、出張後に航空賃を除いた日当、宿泊料を支給しているにもかかわらず、航空賃、日当、宿泊料すべてを出張後に精算払したこととして現金出納簿への登記をしている事態が11公館において見受けられた。
 また、前渡資金により公邸会食のための食材や消耗品を購入するなどしているにもかかわらず、館長や職員が私金で立替払をしたこととして、後日、立替払請求書及び領収書を作成し、現金出納簿に登記しているなどの事態が14公館において見受けられた。
<事例6>
 F大使館では、職員が航空機を利用して出張したとき、帰庁後に、本人から航空賃、日当及び宿泊料の精算額を記載した旅費請求書の提出を受け、そのすべてを本人に精算払したこととして、現金出納簿に登記していた。しかし、実際には、出張前に資金前渡官吏の支払の決定を受けずに公金で航空券を旅行会社から購入して本人に手渡し、帰庁後には日当、宿泊料だけを本人に支払っていた。これにより、現金出納簿への登記が事実と異なっていた航空券代の件数及び金額は、14年度24件、旅費総額8,144,079円のうち6,602,736円、15年度22件、5,023,659円のうち3,636,826円、計10,239,562円となっていた。
<事例7>
 G大使館では、16年4月4日現在で現金及び預金の残高が現金出納簿の残高より3,230,082円多くなっていて、開差が生じていた。同大使館の現金等の保管状況についてみると、前渡資金と報償費とを同一の銀行口座で管理していたり、前渡資金と報償費を口座から引き出して現金を手許保管する際、金庫内で前渡資金と報償費とを区分して管理していなかったりしていた。また、国の会計帳簿及び書類の様式等に関する省令(大正11年大蔵省令第20号)により、現金出納簿において、日本銀行への預託金や特別保管した預金は預金とし、現金と区分して登記することとなっている。しかし、貴省が定めた現金出納簿の書式では、現金と預金に区分して登記することとなっていないため、同大使館では、現金と預金を区分して登記しておらず、開差が生じている原因が不明となっていた。

カ 小切手振出しの帳簿が整理されていないもの
11公館

 資金前渡官吏は、小切手振出等事務取扱規程により、小切手の振出しに関する帳簿を備え小切手帳の振出枚数、廃き枚数等を登記することとなっている。しかし、貴省において、在外公館で用いる小切手振出しに関する帳簿の様式を定めていないなどのため、小切手の振出しに関する帳簿を備えていなかったり、適宜の様式の記録文書を作成しているものの、振出枚数や廃き枚数等を記録していなかったり、記録が正確でなかったりしていた。

(4)現金が領得されているもの
2公館

 以上の事態のほか、在ラオス日本国大使館及び在エドモントン日本国総領事館においては、職員が現金を領得していた。

ア 在ラオス日本国大使館

 在ラオス日本国大使館では、特定の補助職員に、日頃から単独で業者への現金及び小切手での支払を行わせていた。そして、通信回線使用料及び新聞購読料等の支払に際し、同補助職員に現金等と請求書を預け業者へ支払に行かせていた。その中で、同補助職員は、14年4月から16年1月までの間に、請求書に偽の領収印を押印して領収書とし、これを会計担当者に提出して現金等を業者に支払ったように見せかけるなどの方法により、6,718,099円を領得していた。

イ 在エドモントン日本国総領事館

 在エドモントン日本国総領事館において、会計担当者が前任者から引き継いだ手許保管現金80,482円を13年11月から14年8月までの間に領得したり、その後14年8月から12月までの間に計6回にわたり、前渡資金口座の小切手帳を使用して自己宛の小切手計916,479円を自ら署名して、振り出し、自己名義の銀行口座に振り込んだりして、計996,961円を領得していた。
 また、貴省では、外務公務員法(昭和27年法律第41号)により、在外公館の事務が適正に行われているか査察を実施することとなっている。そして、外務省改革の一環として、在外公館に対する査察を強化することとし、特別集中査察を13年度から15年度末までに130公館に対して実施しており、本院が今回16年次に実地検査を行った21公館のうち17公館については、既に特別集中査察が実施されていた。
 貴省では、この特別集中査察の際、会計経理に関しては、在外公館会計規程等に則って出納事務を遂行しているかという観点から調査しており、改善を要する事項について提言や勧告を行うとともに、その履行状況の確認を行っている。しかし、出納事務の執行状況の把握が十分でなかったり、改善すべき事項に関する事後の確認が十分でなかったりしたこともあり、会計経理上適切又は適正でない事項が必ずしも十分に改善されるには至っていない状況となっている。

(是正改善を必要とする事態)

 上記のように、在外公館において、歳入徴収官、資金前渡官吏及び検査員が自ら行うべき事務が当該者により行われていなかったり、補助職員の範囲及びその事務の範囲が明確でないまま公金が取り扱われていたりしている事態は適切でなく、また、会計法令等に従った会計事務の処理が行われていない事態は適正とは認められない。そして、これらの事態は、出納事務の執行において必要不可欠な内部統制や相互牽制が十分機能していない状況となっているもので、是正改善を図る必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、外国において我が国と商慣習が異なることなどの事情はあるものの、貴省において、在外公館の出納事務に関する規定を十分整備していないこと、在外公館において、指揮命令系統としての内部統制及び出納官吏と検査員との相互牽制が十分機能するよう出納事務の執行体制を整備していないこと、また、貴省において、出納事務の執行に当たり、会計法令等の理解及び遵守に対する認識が十分でなく、在外公館に対する指導監督が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正改善の処置

 本院は、前記のとおり、これまで貴省における会計経理上の適正を欠く事態等を指摘し改善を促してきているところである。貴省では、これらを踏まえるなどして、13年度から出納官吏会議の実施などによる研修・指導の強化、官房班体制の導入による事務の改善などを行ってきているところであるが、検査の結果、出納事務において、なお、会計法令に基づいた適切又は適正な事務が十分行われていない事態が見受けられた。
 ついては、貴省において、内部統制、相互牽制を十分機能させ、会計法令等に従って適切及び適正に出納事務を執行するよう、次のような処置を講ずる要があると認められる。
(1)在外公館における歳入徴収官、資金前渡官吏及び検査員が自ら行うべき事務の範囲を明確にして徹底を図ること、及び、代理官制度の運用を図るため、代理官の任命に関する運用細則等を定め、その徹底を図ること
(2)補助職員の範囲及びその事務の範囲を明確にして、この徹底を図り、館長及び出納官吏が会計事務について適時、適切に指揮、監督を行うよう体制を整備すること
(3)貴省において、在外公館の出納事務に関する規定の見直しをするなどの整備を行うなどして、在外公館において適正に会計法令に従って出納事務を行えるよう適切に指導監督すること
(4)歳入徴収官、弁償責任を負っている出納官吏、及び会計担当者等における会計法令等の理解及び遵守に対する認識の向上を図るため、貴省の指導、出納官吏及び会計担当者等への研修の実施等の措置を更に充実させ、会計法令等を遵守して、出納事務を適切及び適正に執行するよう周知徹底させること、また、査察時に、出納事務の執行状況をより詳細に把握して、改善を要する事項について提言、勧告するとともに、改善状況の事後確認を十分行い、その徹底をより一層図ること

(注1) 在パラオ日本国大使館ほか4公館 在パラオ、在ケニア、在ソロモン各日本国大使館、及び在デンバー、在アトランタ両日本国総領事館
(注2) 21公館 在カンボジア、在モンゴル、在ラオス、在アルゼンチン、在エクアドル、在コスタリカ、在パナマ、在ホンジュラス、在オランダ、在ブルガリア、在ルーマニア、在トルコ、在チュニジア、在リビア各日本国大使館、及び在シアトル、在シカゴ、在デトロイト、在エドモントン、在トロント、在バンクーバー、在モントリオール各日本国総領事館