ページトップ
  • 平成15年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 文部科学省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

奨学を目的とする寄附金のうち教員等個人あての寄附金を適切に経理するため、学内規程等の整備等を図るよう改善の処置を要求したもの


(1)−(9)奨学を目的とする寄附金のうち教員等個人あての寄附金を適切に経理するため、学内規程等の整備等を図るよう改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 国立学校特別会計(款)雑収入 (項)雑収入
部局等の名称 北海道大学(平成16年4月1日以降は国立大学法人北海道大学)
  群馬大学(同 国立大学法人群馬大学)
  東京大学(同 国立大学法人東京大学)
  東京工業大学(同 国立大学法人東京工業大学)
  新潟大学(同 国立大学法人新潟大学)
  浜松医科大学(同 国立大学法人浜松医科大学)
  京都大学(同 国立大学法人京都大学)
  大阪大学(同 国立大学法人大阪大学)
  熊本大学(同 国立大学法人熊本大学)
寄附金の概要 国立大学が受け入れる教育・研究の奨励等を目的とする寄附金
歳入に計上されていなかった寄附金 計 3億5112万円(平成14年4月〜15年12月)

 本院では、奨学を目的とする寄附金の取扱いについて、平成16年10月27日に、国立大学法人北海道大学ほか8国立大学法人(注1) の学長に対し、「教員等個人あて寄附金の経理について」として、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。

国立大学法人北海道大学ほか8国立大学法人 北海道大学、群馬大学、東京大学、東京工業大学、新潟大学、浜松医科大学、京都大学、大阪大学、熊本大学の各国立大学法人

 これらの処置要求の内容は、それぞれの国立大学法人の検査の結果に応じたものとなっているが、これを総括的に示すと以下のとおりである。

1 制度の概要

(国立大学の法人化)

 国立大学は、国立学校設置法(昭和24年法律第150号)で定めるところにより文部科学省に置かれる施設等機関として設置されていたが、平成16年4月1日、「国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成15年法律第117号。以下「整備法」という。)第2条の規定により国立学校設置法が廃止され、同日、国立大学法人法(平成15年法律第112号)附則第3条第1項の規定により成立した国立大学法人が設置する大学とされた。

(法人化前の国立大学における奨学寄附金の取扱い)

 法人化前の国立大学において、教育・研究の奨励等を目的とする寄附金(以下「奨学寄附金」という。)を受けた場合は、国立学校特別会計法(昭和39年法律第55号)、奨学寄附金委任経理事務取扱規則(昭和39年文部省令第14号)及び奨学寄附金受入事務取扱規程(昭和38年文部省訓令)に基づき、これを国立学校特別会計の歳入に計上し、文部科学大臣は、当該奨学寄附金に相当する額を教育・研究に要する経費等に充てるため国立大学の長に交付してその経理を委任するものとされていた。そして、委任された国立大学の長は出納官吏を命じ、交付を受けた現金(以下「委任経理金」という。)の出納保管をさせなければならないとされていた。この委任経理金については、歳出予算に比べ、予算科目や会計年度に拘束されることなく教育・研究上の必要に応じて弾力的に使用することが可能となっていた。
 そして、国立大学に所属する教員等が職務上行う教育・研究については国立大学にその遂行に関する事務上の管理責任があること、寄附金の会計経理の適正性を確保しつつ寄附目的に沿って使用する要があることなどから、文部科学省(13年1月5日以前は文部省)では、「奨学寄附金の取扱いについて」(昭和42年文会総第341号文部省大学学術局長・会計課長通知)等を発して、国立大学の教員等の職務上の教育・研究に対するもので寄附者の意向によって教員等個人に対して寄附された寄附金(以下「教員等個人あて寄附金」という。)についても、あらためて当該教員等から国に寄附させることとしていた。

(法人化後の国立大学における教員等個人あて寄附金の取扱い)

 整備法の施行により国立学校特別会計法が廃止され、これに伴って国立大学の法人化前に定められていた奨学寄附金に係る規程等がすべて廃止されたことにより、教員等から教員等個人あて寄附金を国立大学法人にあらためて寄附させる根拠も失われることとなった。
 このため、国立大学法人においては、所属する教員等が教員等個人あて寄附金を受けた場合には、教員等が職務上行う教育・研究について当該国立大学法人にその遂行に関する事務上の管理責任があること、寄附金の会計経理の適正性を確保しつつ寄附目的に沿って使用する要があることなどから、あらためてこれを国立大学法人に寄附しなければならない旨を定める学内規程等を自ら整備する必要が生じることとなった。

(国立大学法人会計基準における寄附金の取扱い)

 国立大学法人が受け入れた寄附金については、国立大学法人に適用される国立大学法人会計基準(平成16年文部科学省告示第37号)及び国立大学法人会計基準注解(平成15年3月5日国立大学法人会計基準等検討会議報告)により、寄附者がその使途を特定した場合等は、国立大学法人は寄附金をその使途に充てなければならないという責務を負っているものと考えられることから、寄附金を受領した時点では寄附金債務として負債に計上することとされている。
 また、法人化前の国立大学で経理されていた委任経理金の残額は、国立大学法人法附則第10条の規定により法人化後の国立大学を設置した国立大学法人に奨学を目的として寄附されたものとするとされている。この寄附金については、「国立大学法人会計基準及び国立大学法人会計基準注解に関する実務指針」(平成15年7月10日国立大学法人会計基準等検討会議報告)において、上記の国立大学法人が受け入れる寄附金と同様に負債に計上することとされている。

(中期計画における外部資金の受入れ等)

 国立大学法人法の定めによれば、文部科学大臣は国立大学法人が6年間で達成すべき業務運営に関する中期目標を定めることとなっており、中期目標を示された各国立大学法人は、これを達成するための中期計画を作成し、文部科学大臣の認可を受けることとなっている。そして、上記の中期目標においては国立大学法人の財務内容の改善に関する事項が定められており、その中に外部資金その他の自己収入の増加に関する目標が掲げられている。
 このため、各国立大学法人が作成した中期計画においては、民間企業等との共同研究、受託研究、寄附金の受入れなどによる外部資金の受入れの増加を図ることとしている。
 また、中期目標においては業務運営の改善及び効率化に関する事項が定められており、その中に人事の適正化に関する目標が掲げられていることから、各国立大学法人の中期計画において、教員等の非公務員化を活かして教員採用方法に任期制や公募制を導入するなどして教員等の人事の流動性を高めることとしている。

2 本院の検査結果

(検査の着眼点及び対象)

 国立大学法人は中期計画の中で、国立大学における教育・研究の質の向上、業務運営の改善及び効率化、財務内容の改善等を行うための措置を定めている。そして、財務内容の改善に当たっては寄附金の受入れが重要な課題のひとつであり、また、所属する教員等が職務上行う教育・研究については国立大学法人にその遂行に関する事務上の管理責任があることなどから、教員等個人あて寄附金についても、これを適切に国立大学法人に受け入れて経理することが必要であると認められる。また、上記のとおり、弾力的な人事制度の導入に伴い、教員等の任期付き採用や外部からの登用の機会も増えることなどが予想され、学内規程等の周知についてはより一層の配慮が必要となると認められる。
 そこで、法人化前の北海道大学ほか8国立大学(注2) における14、15両年度の教員等個人あて寄附金(注3) を含む奨学寄附金の受入状況は適切か、また、国立大学法人北海道大学ほか8国立大学法人において、法人化後においては寄附金の受入れが財務内容の改善にとって重要であることを十分認識し、教員等個人あて寄附金を受け入れることができるよう学内規程等を整備しているか、整備している場合はその周知を図っているかなどに着眼して、14、15両年度における奨学寄附金の受入状況及び学内規程等の整備状況等について検査した。

(注2) 北海道大学ほか8国立大学 北海道、群馬、東京、東京工業、新潟、浜松医科、京都、大阪、熊本の各国立大学
(注3) 平成15年度分については、教員等が15年12月31日までに受け入れたものを対象とした。

(検査の方法)

 14、15両年度における奨学寄附金の受入状況の検査においては、教員等個人あて寄附金の受入状況を検証する際、次のような方法によることとした。
 すなわち、近年、財団法人等では奨学を目的とした寄附金の交付情報を開示しているものがあり、それらの交付情報の中には教員等個人あて寄附金に係るもの(以下「寄附金開示情報」という。)が含まれていることから、この寄附金開示情報を、法人化前の各国立大学で作成していた奨学寄附金受入報告書等と対照するためのデータとして利用した。また、教員等が寄附金を受ける際に教員等が所属する学部等の部局長推薦等を必要とする場合があり、その実績(以下「推薦等実績」という。)が大学に保存されているので、これについても対照データとした。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
(1)法人化前の北海道大学ほか8国立大学では、寄附者から大学に直接寄附された奨学寄附金と教員等個人あて寄附金で当該教員等からあらためて大学に寄附された奨学寄附金とを合わせて、14、15両年度にそれぞれ表1のとおり計16,297件、229億1136万余円、計16,100件、197億3468万余円が歳入として計上されていた。

表1 歳入に計上された奨学寄附金
年度
大学名
14 15
件数 金額 件数 金額 件数 金額
北海道大学 2,165
1,973,862,955
2,056
2,095,682,630
4,221
4,069,545,585
群馬大学 829 691,692,158 922 703,707,574 1,751 1,395,399,732
東京大学 4,499 7,352,600,363 4,581 6,575,539,180 9,080 13,928,139,543
東京工業大学 1,009 1,065,075,797 939 1,005,580,832 1,948 2,070,656,629
新潟大学 960 794,577,653 928 760,262,328 1,888 1,554,839,981
浜松医科大学 625 454,783,302 640 585,370,405 1,265 1,040,153,707
京都大学 2,543 4,902,485,915 2,537 3,537,884,492 5,080 8,440,370,407
大阪大学 2,705 4,805,012,045 2,551 3,370,730,098 5,256 8,175,742,143
熊本大学 962 871,273,457 946 1,099,927,280 1,908 1,971,200,737
16,297 22,911,363,645 16,100 19,734,684,819 32,397 42,646,048,464

 しかし、上記のほか、北海道大学ほか8国立大学では教員等個人あて寄附金を教員等が受け入れているかどうか把握する方策を執っていなかったことから、本院において奨学寄附金受入報告書等と前記の寄附金開示情報及び推薦等実績とを対照したところ、教員等個人あて寄附金のうち、あらためて大学に寄附する手続が執られていないものが14、15両年度にそれぞれ表2のとおり計209件、2億3348万余円、計108件、1億1763万余円あった。

表2 歳入に計上されていなかった教員等個人あて寄附金
年度
大学名
14 15
件数 金額 件数 金額 件数 金額
北海道大学 26
19,460,000
16
14,880,000
42
34,340,000
群馬大学 8 8,200,000 3 2,800,000 11 11,000,000
東京大学 78 96,901,000 35 37,971,000 113 134,872,000
東京工業大学 8 4,410,000 12 17,100,000 20 21,510,000
新潟大学 8 5,818,000 9 15,600,000 17 21,418,000
浜松医科大学 10 15,150,000 8 2,575,000 18 17,725,000
京都大学 28 29,520,000 15 13,930,000 43 43,450,000
大阪大学 29 39,460,000 6 7,280,000 35 46,740,000
熊本大学 14 14,570,000 4 5,500,000 18 20,070,000
209 233,489,000 108 117,636,000 317 351,125,000

(2)国立大学法人北海道大学ほか8国立大学法人では、会計実地検査時において、新たに寄附金の取扱いを定めた学内規程等を整備するなどしていたものの、その内容についてみると、教員等が教員等個人あて寄附金を受けたときは、あらためてこれを所属する国立大学法人に寄附しなければならない旨を定めていなかった。このため、前記のように国立大学法人が受け入れて経理する必要がある教員等個人あて寄附金が存在しているにもかかわらず、教員等にとっては教員等個人あて寄附金をあらためて国立大学法人に寄附する義務がないこととなり、また、各国立大学法人にとっては当該寄附金を受け入れて適切に経理することができない事態が生じることになると認められた。

(改善を必要とする事態)

 各国立大学法人では、寄附金の受入れが重要な課題となっており、また、今後教員等の人事の流動性を高めるなどとしていることから、所属する教員等が教員等個人あて寄附金を受けたときは、これを適切に受け入れて経理することが必要であるが、当該寄附金を受け入れて適切に経理するための学内規程等が整備されていないなどの事態は、適切ではなく改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 法人化前の各国立大学において、前記の国立大学の法人化前に定められていた奨学寄附金に係る規程等により教員等個人あて寄附金についてはあらためて大学に寄附する必要があったのに、これについての教員等の認識が十分でなかったこと
イ 各国立大学法人において、国立大学の法人化に当たり、教員等個人あて寄附金を適切に受け入れて経理するための学内規程等を整備してその周知徹底を図ることの必要性に対する認識が十分でなかったこと

3 本院が要求する改善の処置

 国立大学における教育・研究の質の向上を図るとともに、業務運営の改善及び効率化、財務内容の改善等を行うこととしている各国立大学法人においては、自主財源の獲得は今後の大学運営の上で重要な課題であり、自主財源のうち重要な位置を占める寄附金については、適切に受け入れた上その経理の適正性を確保する要がある。
 また、教員等の人事については、法人化前の国立大学に比して流動性を高めることとしており、学内規程等の周知についてはより一層の配慮が必要になると認められる。
 ついては、国立大学法人北海道大学ほか8国立大学法人において、教員等個人あて寄附金について適切に把握しこれを受け入れて経理を行うために、次のような処置を講ずる要があると認められる。
(ア)教員等が教員等個人あて寄附金を受けたときは、これをあらためて国立大学法人に寄附しなければならない旨を明確にして学内規程等の整備を図ること
(イ)教員等個人あて寄附金の個人経理を防止するため、広く教員等向けの研修会や説明会を実施するなどして上記の学内規程等に基づく当該寄附金の取扱いについて一層の周知徹底を図ること
(ウ)寄附金開示情報や推薦等実績を活用するなどして、教員等個人あて寄附金の調査・把握に努めること
(エ)個人で経理している教員等個人あて寄附金について速やかに現状を把握して、未使用の寄附金がある場合にはこれを国立大学法人に受け入れて経理すること

【当局が講じた改善の処置】

 前記の改善を必要とする事態のうち(ア)については、本院の検査における指摘により、平成16年10月1日までに、国立大学法人東京大学ほか2国立大学法人において本院指摘の趣旨に沿い次のような処置を講じた。
 国立大学法人東京大学では、16年9月に「研究助成金に係る寄附金の取扱いについて」(平成16年9月30日東大研研発第94号総長通知)等を発し、国立大学法人京都大学では、16年9月に「助成金の寄附受入の取扱いについて」(16年9月22日研研4第119号研究・国際部長通知)を発し、また、国立大学法人熊本大学では、16年9月に国立大学法人熊本大学寄附金事務取扱規則(16年4月1日制定)を改正し、それぞれ、教員等個人あて寄附金については当該国立大学法人に寄附するものとする旨を明確にして学内規程等の整備を図った。