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  • 平成15年度|
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国民年金事業に使用する金銭登録機の購入契約が会計法令の趣旨に反し適切でなかったもの


(13)国民年金事業に使用する金銭登録機の購入契約が会計法令の趣旨に反し適切でなかったもの

会計名及び科目 国民年金特別会計(業務勘定)  (項)業務取扱費
     (項)福祉施設費
部局等の名称 北海道社会保険事務局ほか338社会保険事務局等
契約の概要 国民年金推進員が国民年金保険料の収納業務等に使用する金銭登録機を購入するもの
契約の相手方 株式会社カワグチ技研
契約 平成15年1月〜9月随意契約
金銭登録機の購入台数の合計 2,574台 (平成14、15両年度)
金銭登録機の購入金額の合計 446,486,040円 (平成14、15両年度)
適切とは認められない契約金額 446,486,040円 (平成14、15両年度)

1 契約の概要

(金銭登録機の概要)

 社会保険庁では、平成14年度から、社会保険事務所等に、国民年金保険料の納付督励、収納等の事務に従事する国民年金推進員を配置している。
 そして、事務の効率化を図り、また、国民年金保険料の未納金額等が記載されている「未納者カード」の携行を不要とし、同カードの盗難等による個人情報の漏えい等を防止するため、国民年金推進員に携行させる携帯用端末機(以下「金銭登録機」という。)を導入している。
 この金銭登録機は、国民年金推進員が国民年金保険料の未納者を戸別訪問する際に、その者の氏名、住所、納付状況等の情報を登録することができるほか、領収証書の作成、戸別訪問による督励結果の登録なども行うことができるものとなっている。

(契約の方法)

 国では、物品の購入等の契約を締結する場合、公正性、透明性、競争性、経済性等を確保するため、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)(以下「会計法令」という。)等により、原則として競争に付することとされている。
 ただし、契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合などには随意契約によるものとされ、また、契約に係る予定価格が少額である場合(物品購入の場合は160万円を超えない場合)などは随意契約によることができるとされている。このうち、予定価格が100万円を超えない随意契約の場合は予定価格調書の作成等を省略できることとされている。
 また、同庁における物品の調達においては、原則として、規格が限定されるものや本庁で在庫管理を行うことが効率的なものなどは、本庁で一括して調達することとし、事業の実施時期や地域の実情等に応じて調達する必要があるものは、地方社会保険事務局、社会保険事務所等(以下、これらを「社会保険事務局等」という。)で調達することとしている。

(金銭登録機の購入の概要)

 同庁では、15年3月に「国民年金保険料の収納事務における金銭登録機の導入について」(平成15年3月11日社会保険庁年金保険課国民年金事業室室長補佐ほか事務連絡。以下「事務連絡」という。)により社会保険事務局等に金銭登録機を導入することを通知している。
 この通知において、金銭登録機のハードウェアの仕様書、金銭登録機操作要領等を示し、また、導入台数は、社会保険事務局ごとに、国民年金推進員の人数に1社会保険事務所等当たり2台の予備機を加えた台数とし、導入実施時期は事前に機器の操作を習得するための研修期間が必要であることなどから同年5月1日としている。
 そして、北海道社会保険事務局ほか338社会保険事務局等では、15年1月から9月までの間に、それぞれ金銭登録機の購入契約を株式会社カワグチ技研(以下「カワグチ技研」という。)と締結し、計2,574台(14年度2,506台、15年度68台)を購入し、計446,486,040円(同434,690,760円、同11,795,280円)を支払っている。

2 検査の結果

(金銭登録機の購入契約状況)

 社会保険庁では、金銭登録機の購入契約に当たり、国民年金推進員の確保・配置の状況が社会保険事務局等ごとに異なり、導入台数・時期の確定が難しいなどとして、本庁で一括して調達しないで、それぞれの社会保険事務局等で調達させていた。
 そこで、金銭登録機の購入契約状況等について、北海道社会保険事務局ほか71社会保険事務局等を検査したところ、〔1〕金銭登録機を取り扱う業者がほかにいないこと、又は〔2〕予定価格が160万円を超えない少額であることを理由に、競争契約ではなくすべて随意契約によりカワグチ技研から金銭登録機を購入しており、購入単価はいずれも173,460円となっていた。また、上記の72社会保険事務局等以外の267社会保険事務局等における購入契約状況について、本庁において検査したところ、いずれも随意契約によりカワグチ技研から上記と同一の単価で購入していた。

(随意契約に至った経緯等)

 上記のように、すべての社会保険事務局等において、随意契約により同一業者から同一単価で金銭登録機を購入していたのは、16年7月の会計実地検査において社会保険庁から聴取したところ、以下の経緯によるとのことであった。
 同庁では、金銭登録機の導入に当たり、14年夏頃から携帯用端末機を取り扱っている複数の会社の製品を調査していたが、同年11月下旬、カワグチ技研ほか1社から金銭登録機導入の詳細を聞きたいとの要望があり、同庁では、これら2社に対して導入予定台数、仕様、納入期限(15年3月末)等について説明した。
 その後、同庁では、同年12月下旬に2社から金銭登録機の見積書の提示を受けたが、2社のうち1社は14年度内の納入が難しく、カワグチ技研は可能であるとのことであったため、金銭登録機を取り扱っていて、年度内に納入できる業者はカワグチ技研1社のみであると判断した。
 そして、前記15年3月の事務連絡で示されたハードウェアの仕様書及び金銭登録機操作要領は、カワグチ技研が取り扱っている機種のものであったことなどから、社会保険事務局等では、カワグチ技研と随意契約を締結せざるを得ない状況となっていた。

(随意契約の締結状況)

 前記の72社会保険事務局等における金銭登録機の購入契約の締結状況についてみると、15年1月から3月までの間に、2回の購入契約を締結しているものが23社会保険事務局等、2回の購入契約を締結しているものが13社会保険事務局等、計36社会保険事務局等となっていた。
 この36社会保険事務局等の契約状況を詳細にみると、いずれの社会保険事務局等においても1契約当たりの購入台数は9台以下となっていた。これによって、1契約当たりの予定価格は会計法令により少額のため随意契約とすることができることとされている160万円を超えないものとなっていた。
 さらに、このうち大半の33社会保険事務局等については、1契約当たりの購入台数は5台以下で、予定価格調書の作成等を省略できる100万円を超えないものとなっていた。
 これらの中には、同一日に3回に分けて購入契約を締結する一方、納入は一括して行わせていたり、3日間連続して購入契約を締結し、納入は一括して行わせていたりしているものがあった。

(適切でない契約の方法)

 上記のような事態は、次のとおり、契約の公正性、透明性、競争性、経済性等を図るため、一般競争契約を原則としている会計法令の趣旨に反し適切とは認められない。
(ア)同庁において、カワグチ技研から購入した金銭登録機のハードウェアは大手電機メーカーが製造しており、カワグチ技研以外にも2社から同一機種が販売され、また、本件金銭登録機と類似した携帯用端末機も複数の会社により販売されていた。したがって、事前に特定の業者だけに金銭登録機の仕様、導入台数等の説明を行い、14年度内に納入できるとする1社の取り扱っている仕様によることとし、随意契約を締結していたのは、契約における公正性、透明性、競争性等が確保されておらず、適切とは認められない。
(イ)同庁において、金銭登録機の調達に当たり、本庁が一律に導入台数の算出基準、納入期限(15年3月末)、必要な機能を定めており、しかも数千台と大量に調達するのであるから、本庁で一括して調達することを考慮すべきであったと思料される。また、同庁において、事務連絡により導入実施時期を15年5月からと決めていることや14年11月頃には導入予定台数をおおむね把握できていることから、本庁で一括して調達することができたと思料される。したがって、社会保険事務局等で個々に契約することとし、社会保険事務局等では合理的理由もなく購入単位を9台以下の小口に分割するなどして随意契約を締結しているのは、契約における競争性、経済性等が確保されておらず、適切とは認められない。
 そして、16年度には、本庁で同一機能の金銭登録機を一般競争により、カワグチ技研以外の業者からより低額で調達を行っている状況である。
 したがって、本件金銭登録機の調達を随意契約により実施していたのは、契約の公正性、透明性、競争性、経済性等が確保されておらず適切でなく、これに係る14、15両年度の購入額446,486,040円は不当と認められる。
 このような事態が生じていたのは、本庁及び社会保険事務局等において、金銭登録機の調達に際し、会計法令等を遵守して適正に執行すべきことの認識が十分でなかったことなどによると認められる。