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医療費に係る国の負担が不当と認められるもの


(20)医療費に係る国の負担が不当と認められるもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)精神保健費
    (項)生活保護費
    (項)身体障害者保護費
    (項)老人医療・介護保険給付諸費
    (項)児童保護費
    (項)国民健康保険助成費
  厚生保険特別会計(健康勘定) (項)保険給付費
    (項)老人保健拠出金
    (項)退職者給付拠出金
  船員保険特別会計 (項)保険給付費
    (項)老人保健拠出金
    (項)退職者給付拠出金
部局等の名称 社会保険庁、北海道ほか27都府県
国の負担の根拠 健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)、老人保健法(昭和57年法律第80号)、生活保護法(昭和25年法律第144号)、知的障害者福祉法(昭和35年法律第37号)、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)等
医療給付の種類 健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、老人保健法、生活保護法、知的障害者福祉法、身体障害者福祉法等に基づく医療
実施主体 国、都道府県30、市543、特別区23、町922、村153、国民健康保険組合97、計1,769実施主体
医療機関及び薬局 医療機関260、薬局84
不適切に支払われた医療費に係る診療報酬等 入院基本料、入院基本料等加算(平成14年3月までは入院基本料加算)、調剤報酬等
不適切に支払われた医療費の件数 594,270件(平成12年度〜15年度)
不適切に支払われた医療費の額 1,892,606,489円(平成12年度〜15年度)
不当と認める国の負担額 1,011,233,575円(平成12年度〜15年度)

1 医療給付の概要

(医療給付の種類)

 厚生労働省(平成13年1月5日以前は厚生省)の医療保障制度には、老人保健制度、医療保険制度及び公費負担医療制度があり、これらの制度により次の医療給付が行われている。
(ア)老人保健制度の一環として、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が老人保健法に基づき、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法等(以下「医療保険各法」という。)による被保険者(被扶養者を含む。以下同じ。)のうち、当該市町村の区域内に居住する老人(75歳以上の者(注1) 又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して行う医療
(イ)医療保険制度の一環として、医療保険各法に規定する保険者が、医療保険各法に基づき被保険者(老人を除く。)に対して行う医療
(ウ)公費負担医療制度の一環として、都道府県、市町村が、生活保護法に基づき要保護者に対して行う医療、知的障害者福祉法に基づき知的障害者に対して行う医療、身体障害者福祉法に基づき身体障害者に対して行う医療等

75歳以上の者 老人保健制度の対象年齢は、平成14年10月の老人保健法の改正により、原則として70歳以上から75歳以上に引き上げられたが、14年9月30日の時点において70歳以上である者については、その者が75歳以上の者に該当するに至った日の属する月の末日までの間は、その者を75歳以上の者とみなすこととされている。

(診療報酬又は調剤報酬)

 これらの医療給付においては、被保険者(上記(ウ)の要保護者、知的障害者、身体障害者等を含む。以下同じ。)が医療機関で診察、治療等の診療を受け又は薬局で薬剤の支給等を受けた場合、市町村、保険者又は都道府県(以下「保険者等」という。)及び患者がこれらの費用を医療機関又は薬局(以下「医療機関等」という。)に診療報酬又は調剤報酬(以下「診療報酬等」という。)として支払う。
 診療報酬の支払の手続は、図1のとおりとなっている。

図1 診療報酬の支払の手続

図1診療報酬の支払の手続

(注)
調剤報酬の支払の手続についても同様となっている。

(ア)診療等を担当した医療機関等は、診療報酬等として医療に要する費用を所定の診療点数に単価(10円)を乗じるなどして算定する。
(イ)医療機関等は、上記診療報酬等のうち、患者負担分を患者に請求し、残りの診療報酬等(以下「医療費」という。)については、老人保健に係るものは市町村に、医療保険各法に係るものは各保険者に、また、公費負担医療制度に係るものは都道府県又は市町村に請求する。
 このうち、保険者等に対する医療費の請求は、次のように行われている。
〔1〕 医療機関等は、診療報酬請求書又は調剤報酬請求書(以下「請求書」という。)に診療報酬等の明細を明らかにした診療報酬明細書又は調剤報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、これらを、国民健康保険団体連合会又は社会保険診療報酬支払基金(以下「審査支払機関」と総称する。)に毎月1回送付する。
〔2〕 審査支払機関は、請求書及びレセプトに基づき請求内容を審査点検した後、医療機関等ごと、保険者等ごとの請求額を算定し、その後、請求額を記載した書類と請求書及びレセプトを各保険者等に送付する。
(ウ)請求を受けた保険者等は、それぞれの立場から医療費についての審査点検を行って金額等を確認の上、審査支払機関を通じて医療機関等に医療費を支払う。

(国の負担)

 保険者等が支払う医療費の負担は次のようになっている。
(ア)老人保健法に係る医療費(以下「老人医療費」という。)については、老人の居住する市町村が審査支払機関を通じて支払うものであるが、この費用は国、都道府県、市町村及び保険者が以下のように負担している(図2参照)
〔1〕 老人保健法により、老人医療費については、原則として、国は12分の4を、都道府県及び市町村は、それぞれ12分の1ずつを負担(注2) することになっており、残りの12分の6については各保険者が拠出する老人医療費拠出金が財源となっている。
〔2〕 国民健康保険法により国は市町村等が保険者として拠出する老人医療費拠出金の納付に要する費用の額の一部を負担している。
〔3〕 健康保険法等により国は政府管掌健康保険等の保険者として老人医療費拠出金を納付している。

平成14年10月の老人保健法の改正に伴う経過措置として、老人医療費について国、都道府県及び市町村が負担する割合の合計が3割から5割へ段階的に引き上げられることとなっており、それぞれの負担割合となるのは18年10月1日からとなっている。

図2 老人医療費の負担

図2老人医療費の負担

(イ)医療保険各法に係る医療費については、国は、患者が、〔1〕政府管掌健康保険等の被保険者である場合の医療費は保険者としてその全額を、〔2〕市町村が行う国民健康保険の被保険者である場合の医療費は市町村が支払った額の50%を、〔3〕国民健康保険組合が行う国民健康保険の被保険者である場合の医療費は国民健康保険組合が支払った額の47%を、それぞれ負担している。
(ウ)生活保護法、知的障害者福祉法、身体障害者福祉法等に係る医療費については、国は都道府県又は市町村が支払った医療費の4分の3又は2分の1を負担している。

2 検査結果の概要

(検査の着眼点)

 国民医療費は11年度以降毎年30兆円を超えており、このうち老人医療費は14年度では約38%を占め、高齢化が急速に進展する中でその占める割合は高くなっている。このような状況の中で医療費に対する国の負担も多額なものとなっていることから、本院では従来から老人医療費を中心に診療報酬の請求が適正に行われているかに着眼して検査を行っている。
 そして、近年では医療機関において、医師、看護師等の医療従事者が不足していて算定要件を満たしていなかったり、必要な各種届出を行っていなかったりしているのにこれらを満たすことが要件とされている診療報酬を請求したり、診療報酬を画一的に算定して請求したりしている不適正と認められる事態が多く見受けられる。また、昨今の医薬分業の進展に伴い増加傾向にある調剤報酬についても、画一的に算定して請求しているなど不適正と認められる事態が多く見受けられる。そこで、本年の検査に当たっても、これらの点を中心に検査した。

(不適切な支払の事態)

 社会保険庁の28社会保険事務局(注3) 及び28都道府県(注4) において検査したところ、1,769実施主体が260医療機関及び84薬局に対して行った12年度から15年度までの間における医療費の支払について、594,270件、1,892,606,489円が適切でなく、これに対する国の負担額1,011,233,575円が不当と認められる。

(注3) 28社会保険事務局 北海道、青森、岩手、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、富山、山梨、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、和歌山、鳥取、島根、広島、福岡、熊本、宮崎、鹿児島各社会保険事務局
(注4) 28都道府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、富山、山梨、静岡、愛知、三重、滋賀、和歌山、鳥取、島根、広島、福岡、熊本、宮崎、鹿児島各県

 これを診療報酬等の別に整理して示すと、次のとおりである。

診療報酬等 実施主体
(医療機関等数)
不適切に支払われた医療費の件数 不適切に支払われた医療費 不当と認める国の負担額
    千円 千円
〔1〕 入院基本料 枝幸郡浜頓別町ほか445市区町村等(46) 21,903 356,307 188,559
〔2〕 入院基本料等加算 北見市ほか721市区町村等(67) 38,705 578,757 305,980
〔3〕 初診料・再診料 北上市ほか210市区町村等(26) 47,331 202,225 99,720
〔4〕 在宅医療料 小樽市ほか69市区町村等(38) 8,329 125,648 72,953
〔5〕 指導管理料 亀田郡七飯町ほか135市区町村等(19) 15,141 93,813 49,343
〔6〕 検査料 札幌市ほか474市区町村等(8) 169,591 49,716 29,923
〔7〕 処置料 桑名市ほか130市町村等(14) 8,538 50,725 29,351
〔8〕 手術料 旭川市ほか111市区町村等(14) 587 41,670 23,214
〔9〕 麻酔料 さいたま市ほか366市区町村等(13) 9,509 32,936 17,271
〔10〕 特定入院料等 焼津市ほか186市区町村等(15) 9,639 100,967 58,004
〔1〕−〔10〕の計 1,573実施主体(260) 329,273 1,632,768 874,323
〔11〕 調剤報酬 小樽市ほか765市区町村等(84) 264,997 259,837 136,910
〔1〕−〔11〕の計 1,769実施主体(344) 594,270 1,892,606 1,011,233
注(1) 複数の診療報酬について不適正と認められる請求があった医療機関については、最も多い診療報酬で整理した。
注(2) 計欄の実施主体数は、各診療報酬等の間で実施主体が重複することがあるため、各診療報酬等の実施主体数を合計したものとは符合しない。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
(ア)医療機関等から不適正と認められる診療報酬等の請求があったのに、これに対する実施主体及び審査支払機関の審査点検が十分でなかったこと
 特に、診療報酬請求上の各種届出についての確認が必ずしも十分でなかったこと
(イ)地方社会保険事務局及び都道府県において、医療機関の医療従事者が不足していることを把握する資料があるにもかかわらずその活用が必ずしも十分でなかったこと
(ウ)地方社会保険事務局及び都道府県における医療機関等に対する指導が十分でなかったこと

3 検査結果の詳細

 上記医療費の支払が適切でない事態について、診療報酬等の別に、その算定方法及び検査の結果の詳細を示すと次のとおりである。

〔1〕 入院基本料

(入院基本料の算定方法)

 入院基本料は、患者が入院した場合に1日につき所定の点数が定められている。この入院基本料は、看護師及び准看護師(以下「看護職員」という。)の数が入院患者数に対して所定の割合以上であること、看護職員の数に占める看護師の数が所定の割合以上であることなどの厚生労働大臣(13年1月5日以前は厚生大臣)が定める基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長(12年3月31日以前は都道府県知事)に届け出た医療機関において、その基準に掲げる区分に従い所定の点数を算定することとされている。
 そして、医療機関において、医師の数が医療法(昭和23年法律第205号)に定める標準となる数(以下「標準人員」という。)に100分の60を乗じて得た数以下である場合(以下「著しい医師不足」という。)の入院基本料については、所定の減額をして算定することとされている。
 また、療養病棟に入院している患者の身体障害の状態等が厚生労働大臣の定める基準に適合している場合に算定する日常生活障害加算等は、患者の身体障害の状態等を評価し、これを定期的に見直すことが算定要件とされている。

(検査の結果)

 検査の結果、枝幸郡浜頓別町ほか39市町に所在する46医療機関において、入院基本料等の請求が不適正と認められるものが21,903件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア)入院患者数に対する看護職員の数又は看護職員の数に占める看護師の数が所定の割合以上であることの要件を満たしていないのに、高い点数の区分の入院基本料の点数を算定していた。
(イ)患者の身体障害の状態等の評価について定期的に見直し等を行っていないのに、日常生活障害加算等を算定していた。
(ウ)著しい医師不足等であるのに、入院基本料について所定の減額をしないで算定していた。
(エ)地方社会保険事務局長への届出を行っていないのに、届け出た場合に用いる高い点数の区分の入院基本料等を算定していた。
(オ)入院基本料の所定の点数によることなく、これより高い点数を用いて算定していた。
 このため、上記21,903件の請求に対し枝幸郡浜頓別町ほか445市区町村等が支払った医療費について356,307,423円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額188,559,338円は負担の要がなかったものである。

〔2〕 入院基本料等加算

(入院基本料等加算の算定方法)

 入院基本料等加算には、療養病棟療養環境加算、入院時医学管理加算、超重症児(者)入院診療加算等がありそれぞれ所定の点数が定められている。
 そして、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た医療機関において、それぞれの届出に係る所定の点数を算定することとされている。ただし、これらの加算の多くは、医師等の数が標準人員を満たしていないなどの場合には算定できないこととされている。
 また、超重症児(者)入院診療加算等は、厚生労働大臣が定める超重症等の状態にある患者に対して算定することとされている。ただし、この加算は、一般病棟等に入院している老人の患者に対しては、算定できないこととされている。
 さらに、一般病棟に入院している老人の患者であって、90日を超える期間入院していて症状が安定している患者(以下「特定患者」という。)に対しては、老人特定入院基本料を算定することとされており、看護補助加算は算定できないこととされている。
 このほか、療養病棟療養環境加算は、患者の選定に係る特別の病室に入院していて、特別の料金を徴収している患者に対しては算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、北見市ほか53市区町村に所在する67医療機関において、入院基本料等加算等の請求が不適正と認められるものが38,705件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア)医師等の数が標準人員を満たしていないのに、療養病棟療養環境加算等を算定していた。
(イ)一般病棟等に入院している老人の患者に対して、超重症児(者)入院診療加算等を算定していた。
(ウ)地方社会保険事務局長への届出を行っていないのに、入院時医学管理加算等を算定していた。
(エ)特定患者に対して、看護補助加算を算定していた。
(オ)患者の選定に係る特別の病室に入院していて、特別の料金を徴収している患者に対して、療養病棟療養環境加算を算定していた。
 このため、上記38,705件の請求に対し北見市ほか721市区町村等が支払った医療費について578,757,413円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額305,980,472円は負担の要がなかったものである。

〔3〕 初診料・再診料

(初診料・再診料の算定方法)

 初診料は、患者の傷病について医学的に初診といわれる医師の診療行為があった場合に、再診料はその後の診療行為の都度それぞれ算定することとされている。
 ただし、特別養護老人ホームほか9施設(注5) (以下「老人ホーム等」という。)に配置されている医師(以下「配置医師」という。)がこれら施設の入所者に対して行っている診療については、その診療が別途介護保険制度の介護給付等として行われているものであることから、初診料、再診料は算定できないこととされている。
 また、医療機関に老人ホーム等が併設されている場合、当該医療機関の医師が当該老人ホーム等の入所者に対して行っている診療についても、初診料、再診料は算定できないこととされている。

特別養護老人ホームほか9施設 特別養護老人ホーム、養護老人ホーム(定員111名以上の場合)、指定短期入所生活介護事業所、身体障害者療護施設、重度身体障害者更生援護施設、救護施設(定員111名以上の場合)、知的障害者更生施設(定員150名以上の場合)、知的障害者授産施設(定員150名以上の場合)、乳児院(定員100名以上の場合)及び情緒障害児短期治療施設

(検査の結果)

 検査の結果、北上市ほか19市区町に所在する26医療機関において、初診料、再診料等の請求が不適正と認められるものが47,331件あった。その態様は次のとおりである。
(ア)医療機関の医師が当該医療機関に併設されている特別養護老人ホーム等の入所者に対して行った診療について、初診料、再診料を算定していた。
(イ)配置医師が特別養護老人ホーム等の入所者に対して行った診療について、初診料、再診料を算定していた。
 このため、上記47,331件の請求に対し北上市ほか210市区町村等が支払った医療費について202,225,707円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額99,720,450円は負担の要がなかったものである。

〔4〕 在宅医療料

(在宅医療料の算定方法)

 在宅医療料のうち在宅患者訪問看護・指導料等は、医療機関が、居宅において療養を行っている患者であって通院が困難なものに対して、看護師等を訪問させて看護又は療養上必要な指導を行った場合等に算定することとされている。また、歯科診療の訪問歯科衛生指導料は、訪問歯科診療を行った患者等に対して、歯科衛生士等が療養上必要な実地指導を行った場合に算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては、これらは算定できないこととされている。
 また、寝たきり老人在宅総合診療料の24時間連携体制加算は、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして都道府県知事に届け出た医療機関において所定の点数を算定することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、小樽市ほか25市区に所在する38医療機関において、在宅医療料等の請求が不適正と認められるものが8,329件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア)介護保険の要介護被保険者等である患者に対して在宅患者訪問看護・指導料及び訪問歯科衛生指導料等を算定していた。
(イ)都道府県知事への届出を行っていないのに、24時間連携体制加算を算定していた。
 このため、上記8,329件の請求に対し小樽市ほか69市区町村等が支払った医療費について125,648,468円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額72,953,277円は負担の要がなかったものである。

〔5〕 指導管理料

(指導管理料の算定方法)

 指導管理料のうち老人慢性疾患生活指導料等は、配置医師が老人ホーム等の入所者に対して行っている診療の場合、前記〔3〕 のとおり、その診療が別途介護保険制度の介護給付等として行われているものであることから算定できないこととされている。
 また、歯科診療の老人訪問口腔指導管理料は、居宅等において療養を行っている患者であって通院が困難なものに対して訪問歯科診療を行い、かつ、当該訪問歯科診療に際して、療養上必要な指導を行った場合に算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては算定できないこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、函館市ほか17市区町村に所在する19医療機関において、指導管理料等の請求が不適正と認められるものが15,141件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア)配置医師が特別養護老人ホームの入所者に対して行った診療について、老人慢性疾患生活指導料等を算定していた。
(イ)介護保険の要介護被保険者等である患者に対して老人訪問口腔指導管理料を算定していた。
(ウ)配置医師でない医師が、定期的に特別養護老人ホームの入所者の診療に当たっている場合、その医師は実質的には配置医師と認められるのに、老人慢性疾患生活指導料等を算定していた。
 このため、上記15,141件の請求に対し亀田郡七飯町ほか135市区町村等が支払った医療費について93,813,301円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額49,343,262円は負担の要がなかったものである。

〔6〕 検査料

(検査料の算定方法)

 検査料のうち検体検査料には、検体検査実施料及び検体検査判断料があり、それぞれの検査の種類ごとに所定の点数が定められている。そして、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た医療機関において、患者に対して検体検査を実施し検体検査判断料を算定した場合、検体検査管理加算を算定することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、札幌市ほか7市町に所在する8医療機関において、検査料等の請求が不適正と認められるものが169,591件あった。その主な態様は、地方社会保険事務局長への届出を行っていないのに、検体検査管理加算を算定していたものである。
 このため、上記169,591件の請求に対し札幌市ほか474市区町村等が支払った医療費について49,716,816円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額29,923,976円は負担の要がなかったものである。

〔7〕 処置料

(処置料の算定方法)

 処置料には、一般処置料、皮膚科処置料等があり、それぞれの処置ごとに所定の点数が定められている。そして、老人ホーム等の職員が入所者に対して行った処置は、処置料として算定できないこととされている。
 また、処置に当たって薬剤を使用した場合は、その購入価格を10円で除するなどした薬剤料の点数を合算して算定することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、桑名市ほか11市町に所在する14医療機関において、処置料等の請求が不適正と認められるものが8,538件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア)特別養護老人ホーム等の職員が入所者に対して行った創傷処置等を処置料として算定していた。
(イ)人工腎臓の処置に使用される薬剤について、実際よりも多い使用量により薬剤料を算定していた。
 このため、上記8,538件の請求に対し桑名市ほか130市町村等が支払った医療費について50,725,257円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額29,351,925円は負担の要がなかったものである。

〔8〕 手術料

(手術料の算定方法)

 手術料のうち体外循環を要する手術等は、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た医療機関以外の医療機関において行った場合、所定の減額をして算定することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、旭川市ほか13市区町村に所在する14医療機関において、手術料等の請求が不適正と認められるものが587件あった。その主な態様は、地方社会保険事務局長への届出を行っていないのに、体外循環を要する手術等について所定の減額をしないで算定していたものである。
 このため、上記587件の請求に対し旭川市ほか111市区町村等が支払った医療費について41,670,602円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額23,214,532円は負担の要がなかったものである。

〔9〕 麻酔料

(麻酔料の算定方法)

 麻酔料のうち麻酔管理料は、地方社会保険事務局長に届け出た麻酔科を標榜する医療機関において、麻酔に従事する医師がマスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔等を行った場合に所定の点数を算定することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、さいたま市ほか9市区町に所在する13医療機関において、麻酔管理料の請求が不適正と認められるものが9,509件あった。その態様は、地方社会保険事務局長への届出を行っていないのに、麻酔管理料を算定していたものである。
 このため、上記9,509件の請求に対しさいたま市ほか366市区町村等が支払った医療費について32,936,044円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額17,271,559円は負担の要がなかったものである。

〔10〕 特定入院料等

(特定入院料等の算定方法)

 特定入院料には、精神療養病棟入院料等があり、厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方社会保険事務局長に届け出た医療機関において、その基準に定める区分に従い所定の点数を算定することとされている。そして、精神療養病棟入院料等は、医師等の数が標準人員を満たしていない場合には、算定できないこととされている。
 リハビリテーション料は、理学療法、作業療法等の種類ごとに1日につき所定の点数が定められており、このうち、理学療法は基本的動作能力の回復を図るために、個々の症例に応じて行うこととなっている。
 注射料は、点滴注射、皮下筋肉内注射等の注射の種類ごとに所定の点数が定められている。そして、老人ホーム等の職員が入所者に対して行った注射は、注射料として算定できないこととされている。
 投薬料のうち処方せん料は、薬局において調剤を受けさせるために患者に処方せんを交付した場合、処方した剤数、投与量等にかかわらず、1回につき所定の点数を算定することとされている。
 画像診断料には、エックス線診断料、コンピューター断層撮影診断料等があり、それぞれの種類ごとに所定の点数が定められている。そして、診療の一般的方針として、医師の診療は、その必要性があると認められる疾病に対して妥当適切に行うこととされている。

(検査の結果)

 検査の結果、焼津市ほか13市町に所在する15医療機関において、特定入院料等の請求が不適正と認められるものが9,639件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア)医師の数が標準人員を満たしていないのに、精神療養病棟入院料を算定していた。
(イ)多くの入院患者等に対して理学療法を毎月画一的に実施して理学療法の点数を算定していた。
(ウ)特別養護老人ホームの職員が入所者に対して行った点滴注射等を注射料として算定していた。
(エ)症状が安定している慢性疾患の患者に対して、1回の処方で長期間分を投与することができる慢性疾患の薬剤を短期間分に分けて投与するなどして、その都度処方せん料を算定していた。
(オ)多くの入院患者等に対してエックス線撮影等を毎月画一的に実施して画像診断料を算定していた。
 このため、上記9,639件の請求に対し焼津市ほか186市区町村等が支払った医療費について100,967,915円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額58,004,460円は負担の要がなかったものである。

〔11〕 調剤報酬

(調剤報酬の算定方法)

 調剤報酬のうち在宅患者訪問薬剤管理指導料は、薬局において、居宅で療養を行っている患者に対して、医師の指示に基づき、薬剤師が患家を訪問して薬学的管理指導を行った場合に算定することとされている。ただし、介護保険の要介護被保険者等である患者に対しては算定できないこととされている。
 また、患者が老人ホーム等に入所している場合、在宅患者訪問薬剤管理指導料は算定できないこととされている。
 このほか、薬剤服用歴管理・指導料の特別指導加算は、処方された薬剤について、直接患者又はその家族等から服薬状況等の情報を収集して薬剤服用歴に記録し、これに基づき薬剤の服用等に関し必要な指導を行った場合に算定することとされている。

(検査の結果)

 検査の結果、小樽市ほか54市区町に所在する84薬局において、調剤報酬の請求が不適正と認められるものが264,997件あった。その主な態様は次のとおりである。
(ア)介護保険の要介護被保険者等である患者に対して在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定していた。
(イ)薬剤服用歴の記録に基づき薬剤の服用等に関し必要な指導を行うことなどの要件を満たしていないのに、特別指導加算を算定していた。
(ウ)特別養護老人ホームに入所している患者に対して在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定していた。
(エ)医師の指示がないのに在宅患者訪問薬剤管理指導料を算定していた。
 このため、上記264,997件の請求に対し小樽市ほか765市区町村等が支払った医療費について259,837,543円の支払が適切でなく、これに対する国の負担額136,910,324円は負担の要がなかったものである。
 以上を医療機関等の所在する都道府県別に示すと次のとおりである。

都道府県名 実施主体
(医療機関等数)
不適切に支払われた医療費の件数 不適切に支払われた医療費 不当と認める国の負担額 摘要
    千円 千円  
北海道 北見市ほか247市区町村等(33) 83,607 192,967 114,090 〔1〕〔2〕〔4〕〔5〕〔6〕
〔8〕〔10〕〔11〕
青森県 弘前市ほか233市区町村等(33) 131,751 32,682 19,768 〔5〕〔6〕
岩手県 盛岡市ほか22市町村等(7) 4,343 15,393 9,730 〔2〕〔3〕〔5〕〔11〕
山形県 米沢市ほか9市町等(3) 625 9,216 6,086 〔2〕〔11〕
福島県 福島市ほか57市区町村等(7) 2,132 53,522 29,980 〔2〕〔4〕〔8〕
茨城県 水戸市ほか98市区町村等(9) 14,161 26,289 14,042 〔1〕〔3〕〔8〕〔11〕
栃木県 小山市ほか46市区町村等(1) 1,200 13,775 7,982 〔1〕
群馬県 桐生市ほか136市区町村等(9) 14,894 86,409 49,249 〔1〕〔2〕〔8〕〔11〕
埼玉県 加須市ほか200市区町村等(19) 33,671 185,198 96,707 〔1〕〔2〕〔3〕〔8〕〔9〕
〔11〕
千葉県 夷隅郡岬町ほか160市区町村等(25) 75,039 171,422 73,104 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕
〔10〕〔11〕
東京都 中央区ほか253市区町村等(35) 59,056 126,069 63,477 〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕〔8〕
〔9〕〔10〕〔11〕
神奈川県 川崎市ほか224市区町村等(26) 15,715 123,894 57,540 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔9〕
〔11〕
富山県 富山市ほか32市町村等(5) 1,636 22,764 11,779 〔2〕〔8〕
山梨県 北巨摩郡須玉町ほか69市区町村等(6) 2,323 17,091 8,887 〔1〕〔2〕〔3〕
静岡県 焼津市ほか111市区町村等(14) 10,819 136,973 72,984 〔1〕〔2〕〔5〕〔6〕〔8〕
〔10〕〔11〕
愛知県 名古屋市ほか94市区町村等(13) 15,703 82,534 40,230 〔1〕〔2〕〔3〕〔9〕〔10〕
三重県 桑名市ほか36市町村等(12) 2,950 34,938 19,484 〔3〕〔4〕〔7〕〔8〕〔11〕
滋賀県 大津市(1) 50 2,576 1,846 〔2〕
京都府 八幡市ほか137市区町村等(11) 29,577 24,644 14,465 〔7〕〔10〕〔11〕
大阪府 富田林市ほか155市区町村等(26) 38,320 221,244 114,111 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔7〕
〔8〕〔11〕
和歌山県 西牟婁郡上富田町ほか72市町村等(21) 16,320 67,174 36,583 〔1〕〔3〕〔4〕〔5〕〔6〕
〔7〕〔8〕〔9〕〔11〕
鳥取県 米子市ほか52市町村等(7) 6,684 15,158 9,163 〔7〕〔11〕
島根県 江津市ほか23市町等(6) 1,118 15,630 9,408 〔1〕〔2〕〔4〕
広島県 三次市ほか69市町村等(3) 2,028 6,358 3,356 〔2〕〔6〕〔10〕
福岡県 福岡市ほか174市区町村等(20) 13,937 142,266 87,836 〔1〕〔2〕〔4〕〔10〕〔11〕
熊本県 熊本市ほか112市区町村等(8) 10,516 17,116 8,810 〔2〕〔4〕〔5〕〔10〕〔11〕
宮崎県 えびの市ほか29市町村等(11) 4,107 42,023 24,647 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔7〕
〔10〕〔11〕
鹿児島県 揖宿郡頴娃町ほか1市(2) 1,988 7,272 5,875 〔10〕
1,769市区町村等(344) 594,270 1,892,606 1,011,233  
注(1) 計欄の実施主体数は、都道府県の間で実施主体が重複することがあるため、各都道府県の実施主体数を合計したものとは符合しない。
注(2) 摘要欄の〔1〕〜〔11〕は、本文 の不適切な支払の事態の診療報酬等の別に対応している。