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国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの


(91)−(128)国民健康保険の財政調整交付金の交付が不当と認められるもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)国民健康保険助成費
部局等の名称 厚生労働本省(交付決定庁)(平成13年1月5日以前は厚生本省)
北海道ほか15都府県(支出庁)
交付の根拠 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
交付先 市23、特別区1、町13、村1、計38市区町村(保険者)
財政調整交付金の概要 市町村等の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付するもので、一定の基準により財政力を測定してその程度に応じて交付する普通調整交付金と、特別の事情を考慮して交付する特別調整交付金がある。
上記に対する交付金交付額の合計 34,513,523,000円 (平成11年度〜15年度)
不当と認める交付金交付額 245,074,000円 (平成11年度〜15年度)

1 交付金の概要

(国民健康保険の財政調整交付金)

 国民健康保険(「国民健康保険の療養給付費負担金の交付が不当と認められるもの」参照) については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づいて交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。

(普通調整交付金)

 普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(調整対象収入額)が、医療費、保健事業費等から一定の基準により算定される支出額(調整対象需要額)に満たない市町村に対し、その不足を公平に補うことを目途として交付するものである。そして、平成12年度からは、介護保険制度の導入に伴い、医療給付費等に係るもの(医療分)に介護納付金に係るもの(介護分)を加えて交付されている。
 普通調整交付金の交付額は、当該市町村の調整対象需要額から当該市町村の調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっており、保険料又は保険税(以下「保険料」という。)の収納割合が低い場合には交付金を減額することとなっている。
そして、調整対象需要額及び調整対象収入額の算定並びに保険料の収納割合が低い場合の交付金の減額は、次により行うこととなっている。

(1)調整対象需要額

 調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、医療分と介護分に係る需要額は次のとおりとなっている。
(ア)医療分に係る需要額は、一般被保険者(退職被保険者及びその被扶養者以外の被保険者をいう。以下同じ。)に係る医療給付費(注1) 、老人保健医療費拠出金及び保健事業費の合計額から療養給付費等負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。
 このうち、保健事業費は、健康相談、健康診査、保健施設の運営等被保険者の健康の保持増進のために必要な事業(以下「保健事業」という。)に係る費用である。そして、その額は、〔1〕市町村の職員の人件費等の額を除いた年間の保健事業費支出額から保健事業に係る国庫補助金、保健施設に係る利用料等の収入額を控除した額(以下「保健事業費対象額」という。)と、〔2〕当該市町村の年間平均被保険者数に700円を乗じて得た額(以下「保健事業費基準額」という。)のうちいずれか少ない方の額とすることとなっている。また、14年度からは、上記の保健事業のうち健康診査事業に係る経費は保健事業費支出額から除くこととなっている。
(イ)介護分に係る需要額は、介護納付金賦課被保険者(当該市町村の国民健康保険の被保険者のうち40歳以上65歳未満の被保険者をいう。以下同じ。)に係る介護納付金から介護納付金負担金等の国庫補助金等を控除した額となっている。

医療給付費 療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る一部負担金に相当する額を控除した額及び入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額の合算額

(2)調整対象収入額

 調整対象収入額は、医療分及び介護分それぞれについて、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の数を基に算定される応益保険料額と、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の所得を基に算定される応能保険料額とを合計した額となっており、本来徴収すべきとされている保険料の額である。
 このうち、医療分の応能保険料額は、一般被保険者の所得(以下「算定基礎所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算定される。
 そして、算定基礎所得金額は、保険料の賦課期日現在一般被保険者である者の前年における所得金額の合計額とすることとなっているが、これには土地等に係る譲渡所得のうち譲渡の理由等に応じて定められた金額を超えるもの(以下「特別控除額を超える譲渡所得」という。)を含めることとなっている。
 また、同一世帯に属する被保険者の所得金額の合計額が別に計算される金額(以下「所得限度額」という。)を超えて高額である世帯(以下「所得限度額超過世帯」という。)がある場合には、当該世帯の所得金額のうち所得限度額を超える部分の額に一定の方法により計算した率を乗じて得た額を、上記一般被保険者の所得金額の合計額から控除して、算定基礎所得金額を算定することとなっている。
 そして、介護分の応能保険料額は、介護納付金賦課被保険者について、医療分と同様の方法で算定することとなっている。

(3)保険料の収納割合が低い場合の交付金の減額

 市町村における保険料の収納努力を交付額に反映させるため、保険料の収納割合が所定の率を下回る場合に交付金の交付額を減額するものである。
 すなわち、交付金の交付額は、調整対象需要額が調整対象収入額を超える額に別に定める率を乗じて得た額となっているが、徴収の決定を行って納付義務者たる世帯主に賦課した保険料の額(以下「保険料の調定額」という。)に対する収納した額の割合が所定の率を下回る市町村については、その下回る程度に応じて段階的に交付額を減額することとなっている。
 そして、この減額の基準となる保険料の収納割合は、一般被保険者に係る前年度分の保険料の調定額に対する前年度の収納額の割合等とすることとなっている。

(特別調整交付金)

 特別調整交付金は、市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付するものであり、次のような種類の交付金がある。

(1)保健事業費多額特別交付金

 この交付金は、保健事業費対象額が保健事業費基準額を超える場合に交付するものである。
 そして、この交付額は、保健事業費対象額から保健事業費基準額を控除して得た額の4分の1の額となっている。

(2)保健事業特別交付金

 この交付金は、総合データバンク事業、総合健康指導事業等の保健事業を行った市町村に交付するものである。
 このうち総合データバンク事業は、健康診査情報、受診者の傷病歴、検査データ等をコンピュータにより総合的に管理する事業で、当該市町村における保健福祉施策の基礎資料に資するための事業である。
 そして、この事業に係る保健事業特別交付金の交付額は、市町村の被保険者数等に応じて定められた助成限度額の範囲内で、事業に要した費用の額に所定の助成割合を乗じて得た額(以下「保健事業対象事業費」という。)とすることとなっている。

(交付手続)

 財政調整交付金の交付手続は、交付を受けようとする市町村は都道府県に交付申請書及び実績報告書を提出し、これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査の上、これを厚生労働省に提出し、厚生労働省はこれに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点及び対象)

 財政調整交付金の制度は、前記のように複雑であり、同交付金の交付申請額等の計算に当たってはその正確な事務処理が不可欠である。
 そこで、普通調整交付金については調整対象需要額の医療給付費、保健事業費及び調整対象収入額の算定基礎所得金額の計算は適正か、また、特別調整交付金については補助の対象とならないものを含めていないかなどに着眼して、北海道ほか22都府県の271市区町村における財政調整交付金の交付の適否を検査した。

(検査の結果)

 検査の結果、北海道ほか15都府県の38市区町村において、交付金交付額計34,513,523,000円のうち計245,074,000円が過大に交付されていて不当と認められる。
 これを態様別に示すと次のとおりである。

(1)調整対象需要額を過大に算定しているもの
(注2)
18市区町
131,051,000円
(2)調整対象収入額を過小に算定しているもの
13市町村 56,704,000円
(3)保険料の収納割合を事実と相違した高い割合としているもの
1町 7,548,000円
(4)保健事業費対象額を過大に算定しているもの
(注2)
7市町
46,314,000円
(5)保健事業対象事業費を過大に算定しているもの
1市 3,457,000円
(1)のうちの2市と(4)のうちの2市は重複している。

 このような事態が生じていたのは、上記の38市区町村において制度の理解が十分でなかったり、事務処理が適切でなかったりなどしたため適正な交付申請等を行っていなかったこと、また、これに対する北海道ほか15都府県の審査が十分でなかったことによると認められる。
 前記の事態を都道府県別・交付先(保険者)別に示すと次のとおりである。

  都道府県名 交付先
(保険者)
年度 交付金交付額 左のうち不当と認める額 摘要
        千円 千円  

(1)調整対象需要額を過大に算定しているもの

(91) 山形県 東村山郡
山辺町
14 94,517 1,142 保健事業費を過大にしていたもの
(92) 茨城県 土浦市 14 590,884 2,647
(93) 岩井市 14 138,148 1,640
(94) 猿島郡
三和町
14 173,436 1,557
(95) 東京都 江東区 14 1,078,211 13,751
(96) 町田市 12〜14 296,817 43,538 医療給付費を過大にしていたもの
(97) 長野県 長野市 11〜14 3,403,238 28,719 保健事業費を過大にしていたもの
(98) 上田市 14 528,223 2,933
(99) 愛知県 丹羽郡
大口町
14 37,735 1,260
(100) 大阪府 箕面市 14 192,287 2,609
(101) 四条畷市 15 354,972 1,948
(102) 兵庫県 尼崎市 14 3,526,495 1,423
(103) 岡山県 倉敷市 14 2,259,556 2,774 医療給付費を過大にしていたもの
(104) 福岡県 田川市 14 746,858 2,379 保健事業費を過大にしていたもの
(105) 前原市 14、15 1,035,236 4,076
(106) 糟屋郡
志免町
14 263,973 1,172
(107) 山門郡
瀬高町
15 307,373 1,949
(108) 長崎県 長崎市 13〜15 8,691,914 15,534 医療給付費を過大にしていたもの
  (1)の計     23,719,873 131,051  

 上記の18市区町では、普通調整交付金の交付申請等に当たり、保健事業費を過大に算定したり、医療給付費を過大に算定したりしていたため、調整対象需要額が過大に算定されていた。
 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
<事例>  保健事業費を過大にしていたもの
 江東区では、普通調整交付金の交付申請等に当たり、保健事業費対象額が保健事業費基準額より少ないことから、保健事業費対象額を保健事業費として調整対象需要額に算入していた。
 しかし、同区では、保健事業費対象額の算定に当たり、平成14年度からは、保健事業費支出額から除くこととなっている健康診査事業に係る経費を含めていたため、保健事業費対象額を過大に算定していた。
 したがって、適正な保健事業費及びこれを基に算出した調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると、1,064,460,000円となり、13,751,000円が過大に交付されていた。

(2)調整対象収入額を過小に算定しているもの

(109) 北海道 江別市 14 716,210 1,149 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
(110) 北広島市 14 312,240 4,903 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたものなど
(111) 福島県 福島市 11〜14 4,850,156 17,233 所得金額を過小にしていたものなど
(112) 茨城県 取手市 12〜14 564,669 3,729 所得金額を過小にしていたもの
(113) 千葉県 東金市 14 263,689 1,123 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたものなど
(114) 袖ヶ浦市 13、14 306,787 2,088 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
(115) 大阪府 南河内郡
河南町
14 70,782 5,811 所得金額を過小にしていたものなど
(116) 兵庫県 津名郡
一宮町
13、14 148,488 3,383
(117) 奈良県 生駒郡
三郷町
14 127,815 1,538 所得金額を過小にしていたもの
(118) 岡山県 玉野市 12、13 15 1,368,726 5,826 所得金額を過小にしていたものなど
(119) 徳島県 阿南市 11、12 14 1,559,072 4,209 所得金額の計算上控除される金額を過大にしていたもの
(120) 名東郡
佐那河内村
14 33,382 4,704
(121) 福岡県 八女郡
黒木町
15 232,004 1,008
  (2)の計     10,554,020 56,704  

 上記の13市町村では、普通調整交付金の交付申請等に当たり、保険料の賦課期日現在一般被保険者である者の前年における所得金額等を過小に計算したり、所得限度額超過世帯がある場合に算定基礎所得金額の計算上控除される金額を過大にしたりなどしていた。このため、算定基礎所得金額が過小に計算されるなどし、その結果、調整対象収入額が過小に算定されていた。
 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
<事例>  所得金額を過小にしていたものなど
 福島市では、一般被保険者等の所得金額の算定に当たり、特別控除額を超える譲渡所得の金額を含めていなかったなどのため、算定基礎所得金額が過小に算定されるなどしていた。
 したがって、適正な算定基礎所得金額及びこれを基に算出した調整対象収入額に基づいて普通調整交付金の交付額を算定すると、計4,832,923,000円となり、計17,233,000円が過大に交付されていた。

(3)保険料の収納割合を事実と相違した高い割合としているもの

(122) 福島県 石川郡
石川町
14 166,761 7,548 保険料の収納額を過大にしていたもの

 石川町では、普通調整交付金の交付申請等に当たり、前年度収納額から除くこととなっている還付未済金を誤って含めていて収納額を過大にしていたため、保険料の収納割合が事実と相違して高くなっていた。そして、適正な収納割合は、所定の率を下回ることから、普通調整交付金の減額の対象となる。
 したがって、適正な収納割合に基づき普通調整交付金の交付額を算定すると、159,213,000円となり、7,548,000円が過大に交付されていた。

(4)保健事業費対象額を過大に算定しているもの

(97) 長野県 長野市 11〜14 32,958 32,958 保健事業費支出額を過大にしていたもの
(98) 上田市 14 2,505 2,505
(123) 下伊那郡
高森町
14 1,698 1,280
(124) 京都府 宮津市 11〜15 11,211 4,165
(125) 京田辺市 14 1,985 1,605
(126) 中郡峰山町 13〜15 7,433 2,734
(127) 兵庫県 津名郡
五色町
15 1,067 1,067
  (4)の計     58,857 46,314  

 上記の7市町では、保健事業費多額特別交付金の交付申請等に当たり、保健事業費支出額から除くこととされている市の職員の人件費を含めていたり、健康診査事業に係る経費を含めていたりなどしていたため、保健事業費対象額が過大に算定されていた。
 上記の事態について一例を示すと次のとおりである。
<事例>  市の職員の人件費を含めていたもの
 長野市では、保健事業費対象額の算定に当たり、市の職員の人件費を保健事業費支出額に含めていたなどのため、保健事業費対象額を過大に算定していた。
 したがって、適正な保健事業費対象額を算定すると保健事業費基準額を超えないこととなり、保健事業費多額特別交付金計32,958,000円は交付の要がなかった。

(5)保健事業対象事業費を過大に算定しているもの

(128) 大阪府 高石市 12〜14 14,012 3,457 保健事業対象事業費を過大にしていたもの

 高石市では、総合データバンク事業に係る保健事業特別交付金の交付申請等に当たり、実際には購入しなかったソフトウェアの費用を含めるなどしたため、保健事業対象事業費が過大に算定されていた。
 したがって、適正な保健事業対象事業費に基づいて保健事業特別交付金の交付額を算定すると、計10,555,000円となり、計3,457,000円が過大に交付されていた。

  (1)〜(5)の合計   34,513,523 245,074