会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)国民健康保険助成費 |
部局等の名称 | 厚生労働本省(交付決定庁)(平成13年1月5日以前は厚生本省) |
北海道ほか26都府県(支出庁) | |
交付の根拠 | 国民健康保険法(昭和33年法律第192号) |
交付先 | 市143、特別区21、町67、村8、計239市区町村(保険者) |
収納特別対策事業に係る特別調整交付金の概要 | 市町村等の国民健康保険に係る財政力の不均衡を調整するために交付する財政調整交付金のうち、通例の収納事業に加えて、収納特別対策事業を実施している場合に交付するもの |
収納特別対策事業が効果的なものとなっていない市町村等の対象経費 | 126億7638万余円 | (平成12年度〜14年度) |
上記に対する交付金交付額 | 44億0433万余円 |
1 事業の概要
国民健康保険は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)等が保険者となって、被用者保険の被保険者及びその被扶養者等を除き、当該市町村の区域内に住所を有する者等を被保険者として、その疾病、負傷、出産又は死亡に関し、療養の給付、出産育児一時金の支給、葬祭費の支給等の給付を行う保険である。これらの給付は、被保険者の属する世帯の世帯主に賦課される保険料又は保険税(以下「保険料」という。)、国からの助成金等の収入によって賄われており、保険料は、国民健康保険事業における主たる財源となっている。
保険料の納付は、市町村が保険者である場合、原則として、世帯主あてに送付された納付書により金融機関等の窓口で納付する自主納付又は口座振替等による納付(以下、これらを総称して「自主納付」という。)によって行われるが、保険料が納期内に納付されない場合には、市町村は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号。以下「法」という。)、地方税法(昭和25年法律第226号)等の定めにより、延滞金の徴収、被保険者証の返還及び被保険者資格証明書の交付(注1) 、滞納処分などの措置(以下、これらを総称して「法令等に定める滞納者対策」という。)を執ることとなっている。
近年の国民健康保険の厳しい財政状況等を踏まえ、厚生労働省では、保険料の賦課及び保険料収入の確保について、「国民健康保険の保険者及び国民健康保険団体連合会の指導監査について」(平成11年保険発第22号厚生省保険局国民健康保険課長通知)等により、都道府県を通じて、市町村に対し、おおむね、次のことに留意するよう指導を行っている。
ア 保険料の賦課
(ア)国民健康保険の未適用者を早期かつ的確に把握し、早期適用を推進すること
(イ)所得を申告しない未申告世帯については、関係機関と連携を密にし、積極的に実地調査を行うなどして的確に所得を把握のうえ保険料の額を算定すること
イ 保険料収入の確保
(ア)保険料の納期内納付の促進を図るため、口座振替の促進、納付回数の増加等の納付しやすい方策を推進すること
(イ)通常に比べ更新又は検認の期間が短い被保険者証(以下「短期被保険者証」という。)を交付するなど、被保険者証の交付方法を工夫して納付相談の機会の確保を図り、滞納を解消すること
(ウ)滞納者に対する被保険者証の返還及び被保険者資格証明書の交付等の措置を適正に行うこと
(エ)再三の催告にもかかわらず納付に応じない場合には、積極的に差押えを行うこと
(オ)保険料を納期限までに完納しない場合は、やむを得ない事情がある場合を除き、必ず延滞金を徴収すること
(カ)関係部局との協力体制の確立や嘱託徴収員の採用など、徴収体制の整備を図り、滞納保険料について積極的な徴収活動等を行うこと
厚生労働省では、国民健康保険について各種の助成を行っており、その一つとして市町村に対して財政調整交付金を交付している。
財政調整交付金は、市町村間の国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため、法に基づいて交付するもので、一定の基準により財政力を測定してその程度に応じて交付する普通調整交付金と、特別の事情を考慮して交付する特別調整交付金がある。
そして、特別調整交付金の一つとして、保険料収納体制の整備及び国民健康保険財政の安定化を図る観点から、国民健康保険制度運営のために実施する通例の収納事業に加えて、より一層の収納事業(保険料(税)適正賦課及び収納率向上特別対策事業。以下「収納特別対策事業」という。)に取り組んだ市町村に対して交付する特別調整交付金(以下「収納特別対策特別交付金」という。)がある。
収納特別対策特別交付金は、「平成14年度特別調整交付金(その他特別の事情がある場合)の交付基準について」(平成14年保国発第0808001号厚生労働省保険局国民健康保険課長通知)及び別添「平成14年度保険料(税)適正賦課及び収納率向上特別対策事業の実施に係る特別調整交付金の交付方針」(以下「交付方針」という。なお、従前から同様の内容の通知がある。)等により、次の(ア)の交付対象市町村が、(イ)の交付対象事業を行った場合に、事業実施に必要な報酬、需用費等を対象経費として、被保険者規模(前年の被保険者数。以下同じ。)の区分に応じて定められた金額を限度に交付することとなっている。
(ア)交付対象市町村
次のいずれかに該当する市町村
〔1〕 前年度から新規に収納特別対策特別交付金の交付決定を受けている市町村であって継続して事業を行う必要があると認められる市町村
〔2〕 被保険者規模に応じて、前々年度の保険料収納率が所定の率(90%〜93%)未満の市町村
〔3〕 その他積極的に収納特別対策事業に取り組み、都道府県が推薦する市町村
(イ)交付対象事業
通例の収納事業に加えて、実施要領を定めて実施する「資格取得届遅延者に係る適用及び保険料賦課の適正化に関する事業」、「収納体制の充実・強化に関する事業」、「口座振替の促進等、収納率向上に資する事業」、「保険料賦課事務の適正化に関する事業」等、保険料賦課事務の適正化及び収納率向上に資する事業(法令等に定める滞納者対策は、交付対象事業に含まれない。)
2 検査の結果
近年、国民健康保険における保険料収入の確保は、ますます困難なものとなっており、収納率は年々低下してきているが、国民健康保険事業の適正かつ安定的な運営を図るため、また、負担の公平を確保するため、保険料の収納率の維持・向上が不可欠である。
保険料の収納率の維持・向上を図るためには、保険料の収納は、本来、被保険者による自主納付・納期内納付が原則であることから、口座振替の促進など自主納付・納期内納付を促進し、滞納を未然に防止する対策(以下「滞納未然防止対策」という。)をまず、実施する必要がある。
滞納未然防止対策が十分行われず、納期内に納付されない保険料が増加すれば、市町村では、個々の滞納者に対する督促状の発送、文書・電話等による催告、嘱託徴収員による戸別徴収等(以下、これらを総称して「滞納整理」という。)の事務量が増え、市町村の人的・物的負担が増加することとなる。
そして、滞納未然防止対策は、滞納整理と比較して、事務経費等の面でみても経済的・効率的であり、滞納の発生する前に対策を執ることにより、収納事業を効果的なものとすることが期待できる。
また、滞納未然防止対策を十分に実施しても、なお発生する保険料の滞納については、前記のとおり、市町村は法令等に定める滞納者対策を行うこととされており、これを的確に実施することは市町村の責務となっている。
そこで、収納特別対策特別交付金の交付が効果的なものとなっているかという観点から、交付金の交付を受けた市町村において、滞納未然防止対策や法令等に定める滞納者対策が十分又は的確に実施されているかなどに着眼して検査した。
北海道ほか26都府県(注2) において、12年度から14年度までの間に2箇年度以上にわたり収納特別対策特別交付金の交付を受けた300市区町村(対象経費計154億1641万余円、これに係る交付金交付額計55億5721万余円)を対象として検査した。
検査したところ、上記の300市区町村のうち、北海道ほか26都府県の239市区町村(対象経費計126億7638万余円、これに係る交付金交付額計44億0433万余円)において、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
(1)収納事業の実施状況
上記の300市区町村における保険料の収納事業(収納特別対策事業を含む。)についてみると、次のとおり、滞納未然防止対策、法令等に定める滞納者対策が十分又は的確に行われているとは認められない市区町村が多数ある状況となっていた。
ア 滞納未然防止対策が進んでいなかったもの
口座振替による納入を推進することにより、納期内納付を促進することができるが、これらの122市区町村では、口座振替等による保険料の収納率が、12年度から14年度までの間、いずれも低率(50%未満)となっていて、口座振替の促進が十分図られていなかった。
保険料の納付回数の増加を図れば、1回当たりの納付額が少なくなるため納付がしやすくなるとされているが、毎月(12回)納付としているものが61市区町ある一方で、これらの32市町村では、年間の納付回数を、12年度から14年度までの間、いずれも6回以下としていて、納付回数の増加が図られていなかった。
被保険者資格取得の届出が遅延すると、遡及して賦課される保険料が多額となることから、滞納の大きな要因となっているが、これらの42市区町村では、届出を6箇月以上遅延している者の届出者全体に対する割合が12年度から14年度までの間、いずれも5%以上となっていて、未適用者の把握及び早期適用が十分でなかった。
所得未申告世帯については、積極的に実地調査を行うなどして的確に所得を把握のうえ保険料の額を算定することとなっているのに、これらの74市区町村では、国民健康保険全世帯に占める所得を把握していない世帯の割合が12年度から14年度までの間、いずれも5%以上となっていて、所得未申告世帯に係る所得の把握が十分でなかった。
イ 法令等に定める滞納者対策が的確に行われていなかったもの
保険料を納期限までに納付しない場合には、原則として、延滞金を徴収することとなっているが、これらの144市区町村では、12年度から14年度までの間、これを全く行っていなかったり、延滞金徴収額が著しく少なかったりしていた。
滞納者に対して再三の催告を行ったにもかかわらず、連絡、納付がない場合には滞納処分(差押え)を行うこととなっているのに、これらの65市区町村では、12年度から14年度までの間、これを全く行っていなかった。
納期限から1年以上滞納している世帯主に対しては、原則として、被保険者証を返還させ被保険者資格証明書を交付することとなっているのに、これらの76市区町村では、12年度から14年度までの間、これを全く行っていなかった。
滞納者に対しては、通常の被保険者証に代えて短期被保険者証を交付することができることとなっているが、これらの15市区町村では、12年度から14年度までの間、これを全く活用していなかった。
(2)交付対象事業別の事業の実施状況等
前記のとおり、滞納未然防止対策は、滞納整理と比較して、事務経費等の面でみても経済的・効率的であり、滞納の発生する前に対策を執ることにより、収納事業を効果的なものとすることが期待できることから、収納事業においては、まず、これを十分に実施することが重要である。
そこで、上記の300市区町村における収納特別対策事業の交付対象事業別の実施状況を、滞納未然防止対策に係る事業と滞納整理に係る事業とに分けてみると、滞納整理に係る事業である前記の「収納体制の充実・強化に関する事業」(主として嘱託徴収員を活用した戸別徴収等)を実施している市区町村が275市区町村と全体の約90%を占めていた。
これに対して、滞納未然防止対策に係る事業である「資格取得届遅延者に係る適用及び保険料賦課の適正化に関する事業」、「口座振替の促進等、収納率の向上に資する事業」及び「保険料賦課事務の適正化に関する事業」(所得未申告者への申告勧奨等)を実施している市区町村は、それぞれ18%、64%及び25%と少ない状況となっていた。
そして、「収納体制の充実・強化に関する事業」に係る経費が各年度とも全体の対象経費の70%を超えていた。
また、近年、保険料収納率は全国的に低下傾向にあり、その全国平均値は、12年度91.35%、14年度90.39%でこの間に0.96ポイント低下しているが、収納特別対策特別交付金の交付を受けた前記の300市区町村の収納率の平均値は、12年度89.48%、14年度88.50%で、この間に0.98ポイント低下しており、全国平均値との開差が広がっていた。
上記のように、収納特別対策特別交付金の交付を受けた市区町村において、滞納未然防止対策が進んでいなかったり、法令等に定める滞納者対策を的確に行っていなかったり、収納特別対策事業の実施が滞納未然防止対策よりも滞納が発生した後の滞納整理に偏っている状況となったりしている事態は、収納特別対策特別交付金の交付が効果的なものとなっているとは認められず、改善を図る必要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、収納特別対策特別交付金の交付を受けた市区町村において、効果的かつ適正に収納事業を実施することについて認識、理解が不足していたことにもよるが、主として、厚生労働省において、次のことによると認められた。
(ア)滞納未然防止対策が進んでいない市町村や法令等に定める滞納者対策を的確に実施していない市町村についてはその実施を交付要件とするなど、収納事業を適正かつ効果的に実施するための収納特別対策特別交付金の交付方法について十分検討していなかったこと
(イ)各交付対象事業ごとに交付上限額を設定するなど、収納特別対策事業が嘱託徴収員による戸別徴収等の滞納整理事業に偏ることとならないようにするための方策について十分検討していなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、16年8月に、都道府県に対して通知を発し、収納特別対策特別交付金の交付が効果的なものとなるよう、次のような処置を講じた。
(ア)被保険者資格証明書の交付や、口座振替の進んでいない市町村については口座振替の促進事業の実施を交付金の交付要件とするなど交付方針を改正するとともに、これらの実施を促進するよう都道府県を通じて市町村を指導した。
(イ)各交付対象事業ごとに交付上限額を定めるなどにより、収納特別対策事業の総合的な実施が図られるよう、交付方針を改正した。