会計名及び科目 | 労働保険特別会計(労災勘定) (項)労働福祉事業費 |
部局等の名称 | 厚生労働本省 |
委託先 | 中央労働災害防止協会 |
委託契約名 | 平成14年度中小規模事業場健康づくり事業委託契約 |
中小規模事業場健康づくり事業の概要 | 労働者の「心とからだの健康づくり」の普及及びその定着を図るため、健康測定、健康指導等を実施する中小企業者を支援するもの |
上記に係る委託費の総額 | 14億8905万余円 | (平成14年度) |
上記のうち健康測定に係る委託費の額 | 4億6104万余円 | |
健康測定の対象者数 | 33,368人 | (平成14年度) |
節減できた委託費の額 | 5472万円 | (平成14年度) |
1 事業の概要
厚生労働省では、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づき、事業者が労働者に対して毎年行わなければならない定期健康診断に加え、労働者の健康保持増進のために行う健康教育、健康相談等の「心とからだの健康づくりの活動(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)」(以下「THP」という。)を支援している。
そして、同省では、このTHPの導入及び定着を図るため、中小規模事業場健康づくり事業実施要綱(平成12年基発第187号)に基づき、平成12年度から、THPの導入が進んでおらず、THPの実施に必要な医師等の要員を確保することが困難な中小企業を対象に、中小規模事業場健康づくり事業(以下「健康づくり事業」という。)を中央労働災害防止協会(以下「協会」という。)に委託して実施している。
健康づくり事業には、中小規模事業場THP導入指導事業(以下「導入指導事業」という。)、小規模事業主THP体験研修事業等があり、このうち導入指導事業は、中小規模の事業場ごとに、4年を1事業期間とし、健康測定、健康指導等を行うものである。
協会では、導入指導事業の実施に協力する医療機関と契約を締結し、この医療機関が健康測定等を実施し、協会がこれに要する費用を支払っている。
この導入指導事業として行う健康測定(以下「健康測定」という。)は、定期健康診断が疾病等の早期発見などを目的として胸部エックス線、肝機能、血中脂質等の検査などを行うのに対し、健康の保持増進を目的として健常者を対象とする循環機能、血液、呼吸機能等の医学的検査などを行うものである。
定期健康診断に係る経費は、原則として事業者が負担することとなっている。そして、健康測定の医学的検査と定期健康診断の検査には、中性脂肪等の血中脂質に係る血液検査など共通する検査項目が多くあり、両者に共通する検査項目は、定期健康診断でその検査を行い、健康測定においてこれを利用することとなっていて、当該検査に要する経費は健康測定では負担しないこととなっている。
健康測定では、定期健康診断と共通する検査とは別に、次のような医学的検査を実施している。
〔1〕 バイシクルエルゴメーター(注1)
を用いて運動負荷試験を行い、運動中の心電図をモニターするなどして心肺機能について検査する循環機能検査
〔2〕 血液検査のうち、痛風や腎機能障害等の指標となる血液中の尿酸、クレアチニン等についての検査
〔3〕 スパイログラフィー(注2)
により肺活量を測定し、呼吸の状態について検査する呼吸機能検査
そして、これらの独自に実施する医学的検査については、健康測定においてその経費を負担することとなっている。
(注1) | バイシクルエルゴメーター 自転車型の機具を漕ぐことにより運動負荷をかけて心肺機能を測定する装置 |
(注2) | スパイログラフィー 呼吸運動を記録する方法 |
協会では、健康測定で独自に実施している医学的検査に係る経費の各検査項目ごとの単価について、健康保険法(大正11年法律第70号)に基づいて定められた医科診療報酬点数表の点数(以下「健保点数」という。)を参考にしてその上限額を定め、医療機関は上限額の範囲内で定めた単価表を協会に提出し、これを協会が審査、承認している。
そして、この健保点数によれば、医学的検査に係る血液判断料は、同じ区分に属する血液検査の場合、その種類及び回数にかかわらず月1回に限り算定することとなっており、また、バイシクルエルゴメーターによる循環機能検査の点数には、同一人につき、この検査と同一日に行われたスパイログラフィーによる呼吸機能検査に係る費用を含むこととなっている。
2 検査の結果
導入指導事業の健康測定における医学的検査は、定期健康診断で行われる検査と共通する項目があることなどから、これらの検査の実施時期、実施内容等からみて、健康測定の医学的検査に係る経費の支払が適切かなどに着眼して検査を実施した。
14年度における健康づくり事業に係る委託費14億8905万余円のうち、導入指導事業で医療機関により医学的検査が行われる健康測定を実施した33,368人に係る委託費4億6104万余円を対象として検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
(ア)血液判断料を別途に支払っていたもの
協会では、医療機関に対し、血液検査に係る血液判断料として27,469人分、3294万余円を支払っていた。
このうち、26,056人分(支払額3124万余円)については、同一医療機関が健康測定と定期健康診断の血液検査を同一日に実施し、その結果を両方で利用していた。
しかし、健保点数によれば、上記26,056人に係る健康測定で独自に実施した尿酸、クレアチニン等の血液検査の項目は、定期健康診断で実施した、健康測定と共通の血液検査の項目と同じ区分に含まれている。そして、同じ区分の血液検査が同一医療機関で、同一月に実施される場合には、それに係る血液判断料は月1回に限り算定することとなっているのに、健康測定における血液判断料を定期健康診断における血液判断料とは別途に支払っていた。
(イ)呼吸機能検査経費を別途に支払っていたもの
協会では、医療機関に対し、呼吸機能検査に係る経費として31,368人分、2509万余円を支払っていた。
このうち、29,350人分(支払額2347万余円)については、同一医療機関がスパイログラフィーによる呼吸機能検査とバイシクルエルゴメーターによる循環機能検査を同一日に実施していた。
しかし、健保点数によれば、バイシクルエルゴメーターによる循環機能検査は、同一人につき、この検査と同一日に行われたスパイログラフィーによる呼吸機能検査の費用を含むこととなっているのに、上記29,350人について循環機能検査に係る経費とは別途に、呼吸機能検査に係る経費を支払っていた。
したがって、上記のように、健康測定の医学的検査において、同一医療機関が同一月に、健康測定と定期健康診断の血液検査を実施している場合、健康測定の血液検査に係る血液判断料は、定期健康診断の血液判断料に含まれるとすべきであるのに、別途血液判断料を支払ったり、同一日に呼吸機能検査と循環機能検査を実施している場合、呼吸機能検査に係る経費は循環機能検査に係る経費に含まれるとすべきであるのに、別途呼吸機能検査に係る経費を支払ったりしていたのは適切ではなく、改善の要があると認められた。
別途に支払った健康測定独自の血液判断料3124万余円及び呼吸機能検査に係る経費2347万余円、計5472万余円が節減できたと認められた。
このような事態が生じていたのは、健康づくり事業の実施に当たり、協会において、健康測定と定期健康診断のそれぞれの実施時期、実施内容に応じた経費の支払についての認識が十分でなかったことなどにもよるが、厚生労働省において、医療機関が健康測定において医学的検査を実施する際の経費について、その負担する内容を明確にさせていないなど、協会に対する指導が十分でなかったことによると認められた。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、16年9月に、協会に対して通達を発し、健康づくり事業の実施に当たり、医療機関が健康測定において実施する医学的検査に係る経費の負担内容を明確にさせるとともに、健康測定と定期健康診断の実施時期、実施内容等について的確に把握させ、その経費の支払が適切なものとなるよう処置を講じた。