会計名及び科目 | 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)総合食料対策費 |
〔平成11年度以前は、(項)農林水産本省〕 | |
部局等の名称 | 農林水産本省 |
補助の根拠 | 予算補助 |
補助事業者 (事業主体) |
社団法人国際農業交流・食糧支援基金 (平成16年4月以降は社団法人国際農林業協力・交流協会) |
補助事業 | 緊急食糧支援 |
補助事業の概要 | 大規模かつ国際的な緊急食糧支援を着実かつ円滑に実施するための基金の造成、緊急食糧支援の実施に伴う米穀の日本国内における運送、貸し付けた米穀が金銭償還された場合に生ずる財政負担を平準化するための資金の造成、緊急食糧支援に係る米穀の備蓄等の業務を行うもの |
国庫補助金交付額 | 378億4768万余円 | (平成10年度〜14年度) |
不適正に経理された国庫補助金 | 64億5055万円 | (平成10年度〜12年度、14年度) |
国に返還させた国庫補助金に係る資金 | 6億4447万円 |
1 事業の概要
緊急食糧支援は、国が行う食糧援助の一つであり、被援助国等に食糧管理特別会計(以下「特別会計」という。)に属する政府米を貸し付け、これを米穀で返還又は金銭で償還させるものである。そして、農林水産省では、社団法人国際農業交流・食糧支援基金(平成16年4月以降は社団法人国際農林業協力・交流協会。以下「社団」という。)に政府米を貸し付けることにより、社団を通じて被援助国等への貸付けを実施させている。
社団では、緊急食糧支援として、10年度にインドネシア共和国に対して70万t、12、13両年度に朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)向けとして国際連合の食糧援助機関である世界食糧計画(以下「WFP」という。)に対して計50万tの米穀を貸し付けており、それぞれ貸付期間は30年間(据置期間10年間)としている。
農林水産省では、大規模かつ国際的な緊急食糧支援の着実かつ円滑な実施を図ることを目的として、社団が、緊急食糧支援事業実施要綱(平成10年10食糧業第586号(貿易)農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)に基づき行う次の各事業(以下、これらの各事業を「個別事業」、またこれらを総称して「緊急食糧支援事業」という。)の実施に必要な経費について、一般会計から緊急食糧支援事業費補助金(以下「補助金」という。)を社団に交付している。
ア 基金造成事業
この事業は、緊急食糧支援を実施するために必要な信用力を強化するための基本財産として、社団において基金を造成するものである。
イ 運送等事業
この事業は、緊急食糧支援の実施に伴い、米穀を保管する倉庫から輸出港所在の倉庫(以下「港頭倉庫」という。)までの間の米穀の運送、港頭倉庫での一時保管、船積荷役等を行うものである。
ウ 差額補填資金造成事業
被援助国等へ貸し付けた米穀が金銭で償還される場合、償還金額は国際価格を基準として算出されることとなっており、通常その金額は特別会計における貸付け時の米穀の評価額を下回ることが想定される。そのため、償還を受ける際に特別会計に損失を発生させないためには、この差額を補てんする措置が必要となる。
この事業は、緊急食糧支援の実施に伴い米穀の貸付けを受けた被援助国等から将来金銭による償還が行われた場合発生すると見込まれる損失を貸付期間内で平準化するための資金(以下「差額補填資金」という。)を社団において造成するものである。
エ 備蓄事業
この事業は、政府米を借り受け、将来緊急食糧支援を行うための米穀を備蓄するものである。
オ 管理運営事業
この事業は、米穀の主要輸出国における価格・需給状況調査等の各種調査及び緊急食糧支援事業の管理運営に必要な業務を行うものである。
そして、10年度から14年度までの間の補助金の交付額は、計378億4768万余円となっており、個別事業ごとの内訳は次表のとおりとなっている。
年度
\ 個別事業
|
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 計 |
基金造成事業 | 1,300,000 | − | − | − | − | 1,300,000 |
運送等事業 | 5,000,000 | − | 7,966,318 | − | 793,177 | 13,759,495 |
差額補填資金造成事業 | − | 2,913,333 | 2,913,333 | 5,908,168 | 5,908,168 | 17,643,002 |
備蓄事業 | − | 668,713 | 1,754,551 | − | 2,518,196 | 4,941,461 |
管理運営事業 | 197,747 | 5,984 | − | − | − | 203,731 |
合計 | 6,497,747 | 3,588,030 | 12,634,202 | 5,908,168 | 9,219,541 | 37,847,689 |
補助金の交付の申請、交付の決定、実績報告、額の確定、補助金の返還についての手続は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)のほか、実施要綱、緊急食糧支援事業費補助金交付要綱(平成10年食糧業第587号(貿易)農林水産事務次官依命通知)等の定めるところにより、次のように行うこととされている。
〔1〕 社団は、緊急食糧支援事業として実施する事業の内容、個別事業ごとに要する経費の額、事業完了予定年月日等を記載した交付申請書を農林水産省に提出する。
〔2〕 農林水産省は、〔1〕の内容を審査の上、必要な条件を附して交付決定を行う。
〔3〕 社団は、補助事業が完了したときは、実施した事業の内容、個別事業ごとに要した経費の額等を記載した実績報告書を農林水産省に提出する。
〔4〕 農林水産省は、〔3〕により実績報告書が提出されたときは、内容等を審査の上、交付すべき補助金の額を確定する。
〔5〕 農林水産省は、社団に対して既に〔4〕により確定された補助金の額を超える額の補助金が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じて精算する。
そして、上記のうち、〔4〕により確定される補助金の額は、交付決定時に個別事業ごとに決定された額を上限として個別事業ごとに算定された額の合計額とすることとされている。
また、社団は、上記のほか、事業を実施した年度の翌年度の4月10日までに、個別事業ごとに要した経費の額等を記載した事業の実績報告書及び個別事業ごとの財源と支出額等を記載した収支決算書(以下、これらを「事業報告書等」という。)を農林水産省に提出することとされている。
基金造成事業により造成された基金及び差額補填資金造成事業により造成された差額補填資金は、実施要綱及び緊急食糧支援事業費補助金の管理等について(平成11年11食糧業第211号(貿易)農林水産省経済局長、食糧庁長官通知。以下「管理等通知」という。)に基づき、社団において、銀行等への預金、国債、地方債、政府短期証券等の有価証券の取得等の方法により管理することとされている。
11年4月の改正前における実施要綱においては、10年度に交付された補助金のうち運送等事業に充てるものとして交付されるもの(以下「運送費補助金」という。)及び管理運営事業に充てるものとして交付されるもの(以下「運営費補助金」という。)に余剰が生じた場合には、これを翌年度に繰り越すこととする旨規定されている。
そして、管理等通知において、上記のうち、運送費補助金について生じた繰越金については、食糧支援関係事業資金(以下「事業資金」という。)として、前記の基金等と同様の方法により適正に管理することとされている。
また、11年度以降に交付された運送費補助金については、余剰が生じた場合の取扱いについて特に規定はされていないが、管理等通知において、これについて生じた繰越金についても事業資金として、前記の基金等と同様の方法により適正に管理することとされている。
そして、事業資金は、管理等通知において、備蓄事業及び運送等事業に要する経費の支払に充てることができ、その結果余剰を生じた場合は更に翌年度に繰り越すこととされている。
2 検査の結果
前記のとおり、社団に対する補助金の交付額は、10年度から14年度までの間で計378億4768万余円と多額に上っている。そして、14年度末における基金又は差額補填資金として積み立てられた資金の合計が189億4300万余円となっているなど多額の資金が社団に管理されている。そこで、補助金の交付等の手続は適正に行われているか、また、資金の管理は適正かつ効率的に行われているかなどについて検査した。
検査したところ、次のとおり、適切とは認められない事態(国庫補助金64億5055万余円)が見受けられた。
(1)運送費補助金及び運営費補助金の経理が適正を欠いているもの
ア 10年度の運送費補助金及び運営費補助金について
農林水産省では、インドネシア共和国に対する緊急食糧支援の実施に当たり、10年度に、社団より補助金の交付申請を受け、運送費補助金を50億円、運営費補助金を1億9774万余円などとする補助金の交付決定を行い、その全額を社団に対して概算払で交付していた。
そして、社団では、同年度に運送等事業を26億2162万余円、管理運営事業を1億0692万余円で完了したにもかかわらず、補助金の実績報告に当たり、それぞれ交付決定額と同額の50億円、1億9774万余円で事業を実施したとして農林水産省に報告し、農林水産省では、交付決定額と同額で額の確定を行っていた。
一方、社団では、運送等事業及び管理運営事業を上記の実際に要した経費で実施したとする内容の事業報告書等を農林水産省に提出していた。そして、農林水産省では、この実際に要した経費により額の確定を行うべきであるのに、実施要綱において、運送費補助金及び運営費補助金に余剰が生じた場合には社団の会計の中でこれを翌年度に繰り越すこととする旨規定されていたことから、上記のとおり、交付決定額と同額で補助金の額の確定を行い、既に交付した補助金の額と実際に要した経費との差額23億7837万余円、9081万余円について精算する手続を執っていなかった。
なお、社団では、管理等通知に基づき、上記の運送費補助金の残額23億7837万余円については、これを事業資金として積み立て、このうち13年度の備蓄事業に要する経費に充当した17億1148万余円を除いた6億6689万余円を、14年度末において、事業資金として保有していた。また、運営費補助金の残額9081万余円については、11、12両年度の管理運営事業に要する経費にその全額を充当していた。
イ 12年度の運送費補助金について
農林水産省では、WFPを通じた北朝鮮に対する緊急食糧支援の実施に当たり、12年度に、社団より補助金の交付申請を受け、運送費補助金を79億6631万余円などとする補助金の交付決定を行い、その全額を社団に対して概算払で交付していた。
そして、社団では、予定していた運送等事業が終了したのは13年度であり、その実施に要した経費は12年度11億6562万余円、13年度43億5251万余円、計55億1813万余円であったにもかかわらず、補助金の実績報告に当たり、交付決定額と同額の79億6631万余円で12年度中に事業を完了したとして農林水産省に報告し、農林水産省では、交付決定額と同額で額の確定を行っていた。
一方、社団では、運送等事業を上記の実際に要した経費で実施したとする内容の12年度分及び13年度分の事業報告書等を農林水産省に提出していた。そして、農林水産省では、この実際に要した経費により額の確定を行うべきであるのに、管理等通知において、運送費補助金について生じた繰越金は事業資金として社団が管理する旨規定されていたことから、上記のとおり、交付決定額と同額で補助金の額の確定を行い、既に交付した補助金の額と実際に要した経費との差額24億4817万余円について精算する手続を執っていなかった。
なお、社団では、管理等通知に基づき、上記の運送費補助金の残額24億4817万余円については、これを事業資金として積み立て、その全額を、14年度末において、事業資金として保有していた。
ウ 14年度の運送費補助金について
農林水産省では、14年度に緊急食糧支援の実施が見込まれたため、社団より補助金の交付申請を受け、運送費補助金を7億9317万余円などとする補助金の交付決定を行い、その全額を社団に対して概算払で交付していた。
その後、14年度の緊急食糧支援は実施されず、社団における運送等事業も実施されなかったことから、補助金の実績報告に当たり、運送等事業に要した経費はないとして農林水産省に報告していた。
一方、農林水産省では、上記の社団の報告にもかかわらず、管理等通知において、運送費補助金について生じた繰越金は事業資金として社団が管理する旨規定されていたことから、運送費補助金の額を交付決定額と同額の7億9317万余円とする補助金の額の確定を行い、既に交付した補助金を精算する手続を執っていなかった。
なお、社団では、管理等通知に基づき、上記の運送費補助金の残額7億9317万余円については、これを事業資金として積み立て、その全額を、14年度末において、事業資金として保有していた。
以上のことから、14年度末現在において、社団では計39億0824万余円を事業資金として保有していた。
(2)差額補填資金造成事業に係る補助金の一部が事業の目的に沿っていないもの
農林水産省では、11年度から14年度までの間に、差額補填資金造成事業に要する経費として、社団に対して、計176億4300万余円の補助金を交付し、社団では、同金額の差額補填資金を造成している。
そして、この内訳についてみると、インドネシア共和国への米穀の貸付けに係るものが計101億7333万余円、WFPへの米穀の貸付けに係るものが計67億2967万円造成されているほか、対象国を特定せずに、実施されていない緊急食糧支援に備えて補助金が交付され、差額補填資金が造成されているものが、11、12両年度の補助金について各3億7000万円、計7億4000万円あった。
しかし、差額補填資金造成事業は、緊急食糧支援の実施に伴い発生すると見込まれる損失を平準化するために行われるもので、実施されていない緊急食糧支援について差額補填資金を造成することは、同事業の目的に沿っていないものと認められた。
上記(1)、(2)の事態は、補助金の経理が著しく適正を欠いており、多額の不要な資金が社団に滞留し、国の予算の効率的な使用を図る上で適切でないことから、補助金の経理を適正に行うこととするとともに、これらの滞留している資金等を国に返還させるなどの処置を講じる要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、社団において適正な補助事業の実施に対する認識が不足していたことにもよるが、次のようなことによると認められた。
(1)補助金の経理を適正に行えば補助金に余剰は生じないのに、実施要綱において、運送費補助金及び運営費補助金に余剰が生じた場合には社団の会計の中でこれを翌年度に繰り越すこととする旨規定されていたり、管理等通知において、運送費補助金について生じた繰越金は事業資金として社団が管理する旨規定されていたりしていたこと
(2)農林水産省において、適正な補助事業の実施に対する認識が不足していたこと及び国の予算の効率的な使用に対する配慮が十分でなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、今後このような事態が発生しないよう補助金の経理を適切に行うこととするとともに、15年11月に社団に対して補助金の適正な経理についての通知を発し指導の徹底を行った。また、不適切な事態を改めるため管理等通知について事業資金に係る規定を削除するなどの改正を行い、16年3月及び6月に、14年度末現在社団に管理されていた事業資金39億0824万余円及び差額補填資金のうち7億4000万円から、15年度の備蓄事業に要した経費41億6944万余円を除いた4億7880万余円及び事業資金の運用により11年度から15年度までの間に生じた果実1億6567万余円、計6億4447万余円を国に返還させる処置を講じた。