会計名及び科目 | 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業振興費 |
〔平成6年度以前は、(項)農業生産基盤整備事業等諸費〕 | |
部局等の名称 | 農林水産本省、東北、関東、北陸、東海、近畿、中国四国、九州各農政局、内閣府沖縄総合事務局 |
補助の根拠 | 予算補助 |
補助事業者 (事業主体) |
北海道ほか23県 |
補助事業 | 中山間ふるさと・水と土保全対策 |
補助事業の概要 | 中山間地域等における土地改良施設及び農地の機能の良好な発揮と地域住民活動の活性化を図ることを目的として、平成5年度から9年度までに基金を造成し、調査研究、研修、活性化を図る推進事業等を行うもの |
上記の道県における基金残高 | 181億6561万余円 | (平成15年度末) |
上記の基金に対する国庫補助金交付額 | 60億6976万円 | (平成5年度〜9年度) |
1 事業の概要
農村地域は、単に食料供給の生産基盤としてだけではなく、水源かん養機能、洪水防止機能、国民の保養機能等の多様な公益的機能を有しているが、農業人口の減少及び高齢化が進行しており、特に平野の外縁部から山間地に至るいわゆる中山間地域では、急速な過疎化及び高齢化により、集落機能が衰退し、耕作放棄地が増大するなどしている。
このような状況に対して、農林水産省では、中山間地域の多様な公益的機能を維持し発揮させるためには、農地や、農業用用排水施設、農業用道路等の施設(以下「土地改良施設」という。)の利活用を基本とする地域住民活動の多様な展開を促進することにより地域の活性化を図ることが重要であるとの観点から、中山間ふるさと・水と土保全対策事業(以下「保全対策事業」という。)を実施することとした。そして、この保全対策事業は、中山間ふるさと・水と土保全対策事業実施要綱(平成5年5構改D第213号農林水産事務次官依命通達)等(以下「実施要綱」という。)に基づき、中山間地域(注1)
及びこれらの地域と一体として事業を推進することが効果的と認められる地域(以下「中山間地域等」という。)における土地改良施設及びこれと一体的に保全することが必要と認められる農地の機能の良好な発揮と地域住民活動の活性化を図ることを目的として、平成5年度から実施されている。
保全対策事業の事業主体は道府県となっており、道府県は保全対策事業の実施に係る経費(以下「事業費」という。)に充てるため、5年度から9年度までの間に、自己資金と国からの補助金によって基金を造成している。この基金の造成に当たり、国は造成額の3分の1以内の額を補助している。
保全対策事業の内容は、次のとおりとされている。
ア 調査研究事業
これは、中山間地域等において、地域住民活動の活性化を通じた土地改良施設や農地の機能の強化・保全に関する基本的対策等の作成及びこれに要する調査等を行う事業とされている。
この具体的な内容としては、例えば、土地改良施設、農地、地域住民活動等の現況の調査、地域住民の意識調査等を行って現状等を把握するとともに、その調査結果や、耕作放棄地の発生防止・解消の方針などを盛り込んだ地域の概要書等を作成することが想定されている。
イ 研修事業
これは、各種の研修等を通じて、上記アの調査や、下記ウの推進事業において地域住民活動の活性化に関する推進指導等を行う人材(以下「指導員」という。)の育成を行う事業とされている。
なお、この指導員は、通例、土地改良施設や農地等に関する専門的知識を有する人物等の選任を市町村に依頼し、その推薦等に基づき認定され、中山間地域等を抱える市町村(以下「中山間市町村」という。)に配置される。
ウ 推進事業
これは、〔1〕保全対策事業を効果的に推進するために事業内容等について審議する学識経験者等から構成される道府県委員会(以下「運営委員会」という。)の設置・運営、〔2〕指導員による地域住民活動の活性化に関する推進指導、〔3〕地域住民の意識の向上及び保全対策事業の必要性等の啓発・普及等を行う事業とされている。
このうち、〔2〕の推進指導の具体的な内容としては、例えば、耕作放棄地等の農地を利用した体験学習、農業用用水路を利用した水生動植物の観察等のイベント、及びこれらを通じた都市住民との交流、並びにこれらの地域住民活動の中核となる住民グループの組織化に関する企画・指導が想定されている。また、〔3〕の啓発・普及には、最近ではインターネットを利用して情報を発信するホームページの作成もある。
そして、道府県は、保全対策事業の適正かつ円滑な推進のために、中山間市町村等に技術的な助言、指導その他の所要の援助措置等を行うこととされている。
農林水産省では、保全対策事業の実施に当たり、基金造成額の概算額を算定している。それによると、1都道府県当たりの基金造成額は、年間の標準的な事業費を約3610万円と見込んだ上で、この事業費を年間5%の運用益で賄うこととして約7億2300万円としている。また、9年4月、低金利で運用益が少ない状況にあっても必要な事業が行えるよう、運用益として見込まれる額が前年度末の基金元本額の3%の額(以下「平準化運用基準額」という。)を下回る場合には、基金元本の一部を取り崩し平準化運用基準額まで事業費に充てることができることなどとした。
そして、基金は、44道府県に設置されており、これら44道府県における9年度末までの造成額は総額329億9788万円(国庫補助金109億9200万円)、15年度末の基金残高は328億0174万余円となっている。また、1道府県当たりの基金造成額は、各道府県がそれぞれ農林水産省同様に事業費等を見込んで決定しており、一部の道県を除き、7億円程度で同規模となっている。
保全対策事業を実施する道府県は、毎年度、その年度の基金元本の増減計画、運用益の収支計画及び事業費の支出計画等からなる事業計画を作成し、農林水産省に提出すること、及び翌年度にその各計画額に対する実績額を示した実績報告書を作成し、同省に提出することとされている。
そして、農林水産省は、保全対策事業の実施に関し、道府県を指導監督することとなっている。
2 検査の結果
保全対策事業は、前記のとおり、いわゆるソフト事業であり、地域活性化のための具体的内容や方法等の細部については道府県に委ねている。また、事業費についても、財源は手当されている一方、実施すべき事業量が決められておらず、事業量が減少した場合などに基金を減額又は廃止するシステムも採られていない。したがって、事業の適切かつ効果的な実施や基金の有効活用を図る上で、事業主体の取組姿勢が極めて重要となっている。そして、保全対策事業は、事業開始後11年を経過しており、また、その基金残高は15年度末において328億余円と多額なものとなっている。
そこで、保全対策事業が適切に実施され事業目的に資するものとなっているか、造成した基金は有効に活用されているかなどに着眼して、道府県の実施状況を検査した。
保全対策事業を実施している44道府県のうち、北海道ほか23県(注2) (15年度末基金残高181億6561万余円、これに係る国庫補助金60億6976万円)が、13年度から15年度までの3箇年に実施した事業を対象として検査した。
検査したところ、道県(以下単に「県」という。)における保全対策事業の実施状況は次のようになっていた(別表参照) 。
(1)事業実施計画について
各県では、前記のとおり、実施要綱に基づき事業計画を作成しているが、この事業計画は、事業費の計画額等金額で示すもので、具体的な事業内容や実施地域等を記載するようになっていない。
しかし、県が事業を効果的に実施していくためには、具体的な事業内容等を明らかにした実施計画(以下「事業実施計画」という。)を策定するとともに、実施後に事業効果の評価を行うなどして、事業の進ちょく状況等を適切に把握することが必要となる。また、事業実施計画をより実効あるものとするためには、中山間地域等に密着し実情にも通じている中山間市町村等の意向や取組等の現状を的確に把握することが重要である。
そこで、各県における中山間市町村等の現状の把握状況、事業実施計画の策定状況等についてみたところ、次のようになっていた。
すなわち、24県のうち、3県においては、県内の中山間市町村における取組事例等の調査、地域住民の意識調査等を行うことを通じて、中山間市町村等の現状の把握に努めていたが、21県においては、これらをほとんど実施していない状況であった。
なお、本院が12県内の中山間市町村について実地に調査したところでは、中山間市町村の多くは、県による地域住民活動の活性化を図る事業の推進や指導員の育成・増員をより強く期待していた。また、保全対策事業が実施されていない中山間市町村の中には、事業内容の説明を要望するものもあった。
そして、中山間市町村等の現状の把握に努めていた3県では、それを反映し具体的な事業内容等を明らかにした事業実施計画を策定していた。一方、現状をほとんど把握していなかった21県のうち18県は事業実施計画も策定しておらず、残る3県は現状を把握しないままに事業実施計画を策定していた。
また、事業効果の評価を通じた事業の進ちょく状況等の把握については、1県を除き行っていない。
(2)事業内容について
24県が実施した保全対策事業の内容のうち、基本的対策等の作成、指導員の配置及び運営委員会の設置・運営の状況についてみると、次のようになっていた。
(ア)基本的対策等の作成
調査研究事業では、中山間地域等について基本的対策等を作成することが示されているが、基本的対策等を作成しているのは10県に過ぎず、また、作成された基本的対策等についてみると、中山間市町村の中の一部の地域を対象としたものもあって、その作成状況は十分でなく、効果的な事業の実施になっていなかった。
(イ)指導員の配置
研修事業で育成する指導員は、前記のように推進事業等を実施する上で有用であるが、17県では半数以上の中山間市町村に指導員が配置されておらず、また、半数以上の中山間市町村に指導員が配置されている7県のうち2県では、県が指導員の活動状況を把握していない状況で、事業を効果的に実施する体制が十分整備されていなかった。
(ウ)運営委員会の設置・運営
推進事業では、保全対策事業を効果的に実施するために事業内容等について審議する学識経験者等からなる運営委員会を設置・運営することとされているが、3県においては運営委員会が設置されておらず、8県においては運営委員会が設置されているものの、開催されていなかった。このため、これらの11県においては、事業内容が前年度のものを踏襲したものとなる傾向にあり、前記の保全対策事業の趣旨である地域住民活動の多様な展開による地域の活性化に資する体制が十分整備されていなかった。
(3)事業費と基金の使用について
農林水産省では、9年4月、低金利で運用益が少ない状況にあっても必要な事業が行えるよう、基金元本の取崩しができることとし、これに基づき7県が基金元本を取り崩して事業費に充てていた。
しかし、前記(1)、(2)のとおり、取崩しを行った県を含む多くの県において事業実施に対する取組が十分でないことから、同省が低金利の場合であっても必要となる事業費の目安とした平準化運用基準額に対する各県の13年度から15年度までの事業費の実績額の割合(平均)をみると、60%以上の県はなく、50%台が1県、40%台が2県、30%台が3県で、30%に満たないものが18県もあり、中には10%にも満たず、事業の実施が極めて低調となっている県が6県もあった。そして、10%未満の県の中には、ほとんど事業を行っておらず、年間の事業費がわずか10万円前後となっている県もあった。
県 | 事業実施計画の策定 | 事業内容 | 事業費の実績額
平準化運用基準額 H13〜15年度
平均(%) |
基金元本の取崩し | 中山間市町村数 | ||
基本的対策等の作成 | 指導員の配置 | 運営委員会の設置・運営 | |||||
ア | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 46.4 | 〇 | 17 |
イ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 47.9 | × | 87 |
ウ | 〇 | 〇 | × | 〇 | 14.3 | × | 174 |
エ | 〇 | × | 〇 | 〇 | 2.2 | × | 66 |
オ | × | 〇 | △ | 〇 | 21.3 | 〇 | 17 |
カ | 〇 | 〇 | × | × | 27.8 | × | 22 |
キ | × | 〇 | × | 〇 | 31.8 | × | 22 |
ク | × | 〇 | × | 〇 | 27.7 | × | 43 |
ケ | × | × | 〇 | 〇 | 15.1 | 〇 | 19 |
コ | × | × | 〇 | 〇 | 27.2 | × | 32 |
サ | 〇 | × | × | △ | 11.7 | × | 52 |
シ | × | 〇 | × | △ | 59.9 | × | 50 |
ス | × | 〇 | × | × | 13.5 | 〇 | 14 |
セ | × | 〇 | × | × | 11.9 | 〇 | 75 |
ソ | × | × | × | 〇 | 32.0 | 〇 | 24 |
タ | × | × | × | 〇 | 10.0 | × | 23 |
チ | × | × | × | 〇 | 5.9 | × | 73 |
ツ | × | × | × | 〇 | 9.7 | × | 29 |
テ | × | × | △ | △ | 1.3 | × | 21 |
ト | × | × | × | △ | 10.9 | 〇 | 50 |
ナ | × | × | × | △ | 30.0 | × | 50 |
ニ | × | × | × | △ | 2.4 | × | 52 |
ヌ | × | × | × | △ | 4.3 | × | 49 |
ネ | × | × | × | △ | 14.1 | × | 37 |
検査した県の中から、保全対策事業が比較的積極的に実施されている県と、ほとんど実施されていない県の事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
保全対策事業が比較的積極的に実施されている県
A県では、基金6億7200万円(国庫補助金2億2400万円)を造成している。そして、次のように保全対策事業を展開している。
・中山間市町村の長等で構成する中山間地域活性化推進協議会を設立(平成8年5月)。同協議会では意見交換、広報誌の発行等を実施。
・毎年度、具体的な事業内容等を盛り込んだ事業実施計画を策定。
・土地改良施設等と周辺の自然環境、歴史的遺産などを一体的に維持管理して地域の活性化を図る方策を検討するなどした基本的対策等を作成。
・指導員等を全国研修会に派遣するほか、県内においても研修会を主催して指導員を育成。農地面積が2haと少ない1町を除くすべての中山間市町村に指導員を配置。指導員は、ふれあい体験農園のイベント、生態系保全に係る取組、農産物直営所の設置等を企画・指導。地域の景観に対する地域住民の意識が向上するとともに、都市住民との交流が活発化。
・運営委員会を6年12月に設置し、毎年定期的に開催。事業実施計画を審議。
・15年10月以降ホームページに、保全対策事業の制度の概要、県が実施した事業の内容やその成果などを掲載。
・事業費の実績額は、13年度958万余円、14年度788万余円、15年度1002万余円。
<事例2>
保全対策事業がほとんど実施されていない県
B県では、基金6億6000万円(国庫補助金2億2000万円)を造成しているが、事業実施計画の策定や基本的対策等の作成をしておらず、運営委員会は設置したものの当初から開催していなかった。また、指導員を中山間市町村の半数に配置しているが、県はその活動状況を把握していなかった。
このように、B県は、事業をほとんど実施しておらず、このため、事業費の実績額も、平成13年度59万余円、14年度14万余円、15年度6万余円と極めて低額となっていた。
以上のように、各県における保全対策事業の実施状況は、一部の県を除き十分でなく、造成した基金が有効に活用されていないと認められた。
したがって、適切に事業実施計画を策定し、事業の進ちょく状況を評価・把握したり、調査研究事業、研修事業及び推進事業の実施体制を整備したりするなどして、保全対策事業を適切かつ効果的に実施することにより、中山間地域等における土地改良施設及び農地の機能の良好な発揮と地域住民活動の活性化を図っていく要があると認められた。
また、一方においては、各道府県の中山間市町村数には大きな差があったり、中山間地域等の過疎化、高齢化等の状況も異なったりしていることなどから、道府県によっては、保全対策事業の必要性や優先度が低くなって事業量が減少することも想定される。
しかし、前記のとおり、道府県における基金造成額は一部を除き同規模となっており、上記のような状況となった場合の基金の取扱いについて、適切な処置が執れるようにする要があると認められた。
このような事態が生じていたのは、主として、次のことによると認められた。
(ア)県において、保全対策事業の趣旨に対する理解が十分でなく、中山間市町村等の現状を把握し事業実施計画を策定して事業に取り組むこととしていないこと及び実施要綱に基づき保全対策事業を適切かつ効果的に実施するという認識が欠けていたこと
(イ)農林水産省において、県における事業の実施状況等を的確に把握した上で適時適切な指導監督を行う要があるのに、これを十分行っていなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省では、16年9月に、各地方農政局等に対して通知を発し、保全対策事業が適切かつ効果的に実施され、また、事業量等に応じた基金の適切な取扱いを行うよう次のような処置を講じた。
(ア)道府県に対し、保全対策事業の趣旨を周知徹底するとともに、具体的な事業内容等や成果目標・必要事業量等を明らかにした事業実施計画を策定させ、この事業実施計画に基づき事業を適切かつ効果的に実施させるとともに、目標年次における成果目標に対する事業実績の評価を行わせることとした。
(イ)道府県が策定した事業実施計画に対して事業量が減少するなどにより事業実績が大きくかい離する場合、道府県と基金の取扱いについて協議を行うこととし、また、保全対策事業の必要性が認められなくなった場合には、道府県と協議を行い、基金を廃止し基金残額における国庫補助金相当額を国庫に納付することができることとした。
(注1) | 中山間地域 「過疎地域自立促進特別措置法」(平成12年法律第15号)、「山村振興法」(昭和40年法律第64号)、「離島振興法」(昭和28年法律第72号)、「半島振興法」(昭和60年法律第63号)及び「特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律」(平成5年法律第72号)に基づき指定されている区域の全部又は一部を含む市町村の区域 |
(注2) | 北海道ほか23県 北海道、岩手、宮城、秋田、茨城、栃木、埼玉、千葉、富山、山梨、愛知、滋賀、和歌山、島根、広島、徳島、香川、愛媛、福岡、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島、沖縄各県 |