会計名及び科目 | 漁船再保険及漁業共済保険特別会計(漁業共済保険勘定) | |
(項)漁業共済保険費 | ||
(項)漁業共済組合連合会交付金 |
部局等の名称 | 水産庁 |
事業の根拠 | 漁業災害補償法(昭和39年法律第158号) |
事業名 | 漁業共済 |
事業の概要 | 中小漁業者がその営む漁業につき異常の事象又は不慮の事故によって受けることのある損失を補てんするため、国が共済掛金の一部を負担し、保険を引き受けるなどして、漁業共済組合が行う共済事業で、同組合は、漁業者への共済金の交付等の事務を漁業協同組合に委託して行わせているもの |
制度の趣旨に沿わない手数料の徴収が行われていた共済金支払件数 | 1,595件(平成14、15両年度) |
上記に係る共済金支払額 | 14億1000万円 |
(うち国庫補助金相当額6億3983万円) |
1 事業の概要
水産庁では、漁業災害補償法(昭和39年法律第158号。以下「漁災法」という。)に基づき、中小漁業者(以下「漁業者」という。)が営む漁業につき異常の事象又は不慮の事故によって受けることのある損失を補てんすることにより、漁業者の漁業再生産の阻害の防止及び漁業経営の安定に資することを目的として、漁業災害補償制度を運営している。
この制度は、沿海の39都道府県に設立されている漁業共済組合(以下「組合」という。)が行う漁業共済事業(以下「共済事業」という。)、全国漁業共済組合連合会(以下「連合会」という。)が行う漁業再共済事業、国が行う漁業共済保険事業の3事業により構成されており、漁業者の相互救済の精神を基調として、保険の仕組みによりその危険負担を分散することとして運営されている。すなわち、組合は、漁業者が払い込む共済掛金を財源として、漁獲金額の減少による減収、養殖物の死亡による損害等が生じた場合に、その程度に応じて漁業者に共済金を支払うこととなっている。そして、組合は、漁業者に対して支払う共済金の支払責任の一部を連合会の再共済に付し、さらに、連合会は、その再共済における支払責任の一部を国の保険に付することとなっている。
また、この制度は前記のとおり漁業者の漁業再生産の阻害の防止及び漁業経営の安定に資する制度であり、共済事業は漁業者で組織する漁業協同組合(以下「漁協」という。)がその本来の事業として取り組むべき性格の事業であることから、共済事業の実施主体となる組合は、漁協を組合員とし、その出資により設立運営されるものとなっている。そして、組合は、共済事業に係る事務の一部を漁協に委託することができることとなっている。
組合は、共済事業を運営するため、共済契約の申込みの受理・承認、共済掛金の徴収、共済金の支払等の事務を行っている。
そして、これらの共済事業に係る事務のうち、漁業者からの共済契約の申込書の受理及び共済掛金の受理、漁業者の漁獲物の販売金額の調査、漁業者への共済金の交付等の事務については、漁災法等に基づき漁協に委託して行い、事務委託手数料を支払っている。
共済事業の財源となる共済掛金は、純共済掛金と附加共済掛金から構成されており、純共済掛金は共済金の原資となり、附加共済掛金は組合の共済事業に係る事務の執行に必要な経費に充てられる。
そして、国は、漁業共済保険を引き受けるほか、漁業者の負担軽減を図るなどのため、一般会計からの繰入金により純共済掛金の100分の10から100分の65に相当する額を補助しており、平成14年度及び15年度の補助額は、それぞれ71億4777万余円、71億3800万余円となっている。
また、国は、組合に対し、共済事業の健全かつ円滑な運営を図るため、一般会計から、その事務執行に要する経費として、組合の人件費、旅費、事務所費、漁協への事務委託手数料等を対象として漁業共済事業実施費等補助金を交付しており、14年度及び15年度の交付額は、それぞれ4億4768万余円、4億4792万余円となっている。
漁災法等により、共済事業の運営に関して、水産庁は、組合及び連合会の業務又は会計の状況を検査し、また、都道府県は、組合及び漁協の業務、財産又は会計の状況について報告を徴するなどして、それぞれ組合等を指導・監督することとなっている。
2 検査の結果
本院では、9年に、共済事業の運営状況を検査し、その結果、漁協が共済掛金を負担するとともに共済金を他の用途に使用したり、共済金の交付の際にその一部の額を事務手数料等として差し引き徴収したりしていて、共済金が漁業者に適正に支払われていないなどの事態が見受けられたことから、水産庁長官に対し、会計検査院法第36条の規定により、改善の処置を要求した。これに対し、水産庁では、共済事業が制度の趣旨に沿って適切に運営されるよう、契約引受けの基準の明確化、制度の趣旨の周知徹底、事務の体制の整備等の処置を講じている。一方、その後の水産業をめぐる環境は、資源の減少や厳しい経済環境等による水産物価格の低迷など、依然として厳しい状況にあり、共済事業に係る事務を受託している漁協では、効率的な事業運営や組織・経営基盤の強化等を図るため、合併が推進されるなど、著しい変化が生じている。
このような状況の中で、一部の漁協において、なお、共済金の一部を事務手数料として差し引き徴収している事態が見受けられた。そこで、今回改めて共済金の支払等に係る事務の執行が漁業災害補償制度の趣旨に沿ったものとなっているかに着眼して検査した。
北海道漁業共済組合ほか25漁業共済組合(注1) の14年度892漁協及び15年度837漁協における共済金の支払それぞれ8,117件、128億8878万余円及び10,937件、172億2261万余円、計19,054件、301億1140万余円を対象として検査した。
検査したところ、共済事業に係る支払事務において、次のように適切でないと認められる事態が見受けられた。
すなわち、北海道漁業共済組合ほか10漁業共済組合(注2)
の14年度においては40漁協、15年度においては28漁協が、共済金の支払それぞれ1,002件及び593件、計1,595件において、漁業者に共済金を交付する一方で、当該漁業者から共済金の額に一定の率を乗ずるなどして得た額を手数料として一律に徴収していた。
この手数料の趣旨について、各漁協では、〔1〕漁協が行う共済事業に係る事務に要する費用として徴収しているもの、〔2〕漁協が漁業者から受託している漁獲物の販売に係る手数料収入の減収を補うために徴収しているものなどとしており、その徴収額等は次表のとおりであり、14、15両年度で41漁協において計3278万余円の手数料を徴収していた。
年度 | 組合数 | 漁協数 | 共済金 支払件数 |
共済金支払額 〔うち国庫補助金相当額〕 |
左の支払に係る手数料徴収額 |
件 | 千円 | 千円 | |||
〔1〕 漁協が行う共済事業に係る事務に要する費用として徴収しているもの | |||||
14 | 9 | 26 | 340 | 466,713 (211,421) |
8,381 |
15 | 7 | 18 | 233 | 403,598 (183,637) |
4,915 |
〔2〕 漁協が漁業者から受託している漁獲物の販売に係る手数料収入の減収を補うために徴収しているものなど | |||||
14 | 5 | 14 | 662 | 392,130 (177,635) |
14,374 |
15 | 5 | 10 | 360 | 147,566 (67,142) |
5,117 |
計 | 11 | 41 | 1,595 | 1,410,009 (639,836) |
32,788 |
これらのうち、〔2〕の一例を示すと次のとおりである。
<事例>
A漁協では、平成15年度に、漁船漁業を営んでいる漁業者33人が、それぞれB県漁業共済組合と漁獲金額が共済限度額(付保額)に満たない場合に共済金が支払われることとなる共済契約を締結し、漁協を通じて共済掛金を支払っていた。そして、同共済組合では、上記の漁業者全員について、漁獲金額が共済限度額に満たなかったことに対する共済金として計10,867,633円を漁協に送金し、漁協は、これを各漁業者に交付していたが、その一方で、漁獲量の減少に伴い、漁獲物の販売に係る受託手数料収入が減少したことから、これを補うために、共済金を交付した漁業者から一律に、共済金額に5%を乗じて得た額、計543,367円を手数料として徴収していた。
しかし、これらのうち、〔1〕漁協が行う共済事業に係る事務に要する費用として手数料を徴収することについては、同事務は基本的に組合からの受託事務であり、その受託事務には漁業者からの附加共済掛金及び国からの漁業共済事業実施費等補助金から事務委託手数料が支払われているので、漁業者から改めて手数料を徴収する必要があるとは認められない。そして、漁業者は既に附加共済掛金を納付しているので、費用を二重に負担することになる。また、〔2〕漁協における販売手数料の減収を補うために手数料を徴収することについては、共済事業の目的の範囲を超え、同事業に直接関係のない負担を漁業者にさせるものであり、また、本来、漁協の構成員全体で負うべき負担を不慮の事故等により損害を被った漁業者の負担に帰させることになるものである。
したがって、共済金に係る上記のような手数料の徴収は、漁業者の漁業再生産の阻害の防止及び漁業経営の安定に資するという漁業災害補償制度の趣旨に沿わないもので、適切とは認められない。
このような事態が生じていたのは、次のようなことによると認められた。
(ア)漁協及び組合において、制度の趣旨についての理解が十分でなかったこと
(イ)都道府県において、組合及び漁協に対して、制度の趣旨を周知徹底していなかったり、共済事業に係る事務について十分指導・監督を行っていなかったりしたこと
(ウ)水産庁において、組合及び漁協の共済事業に係る事務の執行について、実態を十分把握していなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、水産庁では、16年9月に通知を発するなどして、共済事業の運営が適切に行われるよう、次のような処置を講じた。
(ア)共済事業に係る事務の執行の実態を把握するため、組合及び連合会に対する検査を充実させるとともに、9年に構築した共済金の確実な支払などを確認するためのシステムの更なる充実を図る。
(イ)組合及び連合会に対し、制度の趣旨を周知徹底するとともに、漁協が行う共済事業に係る受託事務の執行が適切に行われるよう指導する。
(ウ)都道府県に対し、次のような措置を執るよう依頼する。
〔1〕 漁協に対し共済事業の趣旨を周知徹底する。特に、漁協の受託事務である共済金の交付において適切でない手数料の徴収があったことを踏まえ、共済事業に係る受託事務の執行が共済事業の趣旨に沿って適切に行われるよう周知徹底する。
〔2〕 都道府県が別途行う漁協の検査に際し、共済事業に係る事務に関する検査を充実す
る。
(注1) | 北海道漁業共済組合ほか25漁業共済組合 北海道、青森、岩手、福島、茨城、千葉、東京、新潟、石川、福井、愛知、京都、兵庫、和歌山、島根、広島、山口、香川、愛媛、高知、福岡、長崎、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄各都道府県の漁業共済組合 |
(注2) | 北海道漁業共済組合ほか10漁業共済組合 北海道、青森、茨城、新潟、兵庫、島根、広島、山口、高知、長崎、熊本各道県の漁業共済組合 |