会計名及び科目 | 一般会計 | (組織)環境省 | (項)自然公園等事業費 |
(項)改革推進公共投資自然公園等事業費 |
部局等の名称 | 環境本省(平成13年1月5日以前は総理府(環境庁))、北海道ほか10都県 |
事業の概要 | 国立公園の保護及び利用のために園地、休憩所、野営場等の施設を整備するもの |
施行委任による工事請負契約 | 263件 | |
上記の契約総額 | 153億8255万余円 | (平成10年度〜15年度) |
最低制限価格を下回る価格で入札した者を失格としていた契約 | 21件 | |
上記の契約総額 | 7億1392万余円 | (平成10年度〜15年度) |
割高となっていた契約額 | 6312万円 |
1 制度の概要
環境省(平成13年1月5日以前は総理府環境庁。以下同じ。)では、自然公園法(昭和32年法律第161号)等に基づき、我が国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地を区域を定めて国立公園に指定し、その保護又は利用のために園地、休憩所、野営場等の施設を整備する事業(以下「国立公園整備事業」という。)を実施している。
国立公園整備事業は、環境大臣(13年1月5日以前は環境庁長官)が定めた国立公園に関する公園計画により実施するもので、国立公園に指定した地域のうち環境省の所管する土地及び同省が契約等により借地している土地(15年度末現在で計5492ha)における国立公園整備事業は、環境省が直轄事業として実施し、これ以外の地域における同事業は、地方公共団体が、環境大臣の同意を得て、国庫補助事業等として実施している。
環境省が直轄事業として実施する国立公園整備事業については、同省が直接実施する場合と、同省が定める「国立公園整備事業実施要領(施行委任)」に基づき、事業の遂行に必要な支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為)等の会計事務を当該国立公園が所在する都道府県に委任すること(以下「施行委任」という。)により実施する場合がある。後者の場合、環境省は、事業の実施に必要な施設の設計、工事請負契約の締結、しゅん工検査等の事務を都道府県に委ねることとなる。そして、会計法(昭和22年法律第35号)によれば、このように国の会計事務を都道府県に委ねる場合については、会計法及びその他の会計に関する法令(以下「国の会計法令」という。)中、当該事務の取扱いに関する規定を準用することとされている。
国が施設の整備等を行う際に工事請負契約等を締結する場合においては、会計法等の規定により、競争に付して契約の相手方(以下「落札者」という。)を決定することが原則で、予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって入札した者(以下「最低価格入札者」という。)を落札者とすることとなっている。ただし、最低価格入札者の入札価格によっては、契約の内容に適合した履行がなされないおそれがあると認められるときなどには、最低価格入札者以外の者のうち、最低の価格をもって入札した者を落札者とすることができるとされている。この場合、契約の内容に適合した履行がなされないおそれがあるとする価格をあらかじめ定め、この価格を下回る価格をもって入札した者に対して、契約の内容に適合した履行が可能か否か調査を行った上で、落札者を決定するいわゆる低入札価格調査制度を、必要に応じ採用している。
一方、地方公共団体がその支出の原因となる工事請負契約等を締結する場合については、地方自治法(昭和22年法律第67号)等に上記の国の場合と同様の規定があるほか、さらに、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)の規定により、契約の内容に適合した履行を確保するために特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設定して、最低制限価格以上の価格をもって入札した者のうち最低の価格をもって入札した者を落札者とすることができるとされている。そして、最低制限価格を設定した場合には、これを下回る価格で入札した者は無条件に失格として当該入札から排除されることとなる。
2 検査の結果
工事請負契約等の入札における落札者の決定方法については、国と地方公共団体で上記のような相違点が見られる。そこで、環境省が国立公園整備事業の一部を直接実施するようになった10年度から15年度までの間に、利尻礼文サロベツ国立公園ほか19国立公園(注1) における施設整備を目的として、北海道ほか18都県(注2) への施行委任により実施された国立公園整備事業における工事請負契約380件(契約総額210億2704万余円)を対象として、指名競争入札等の際の落札者の決定が国の会計法令を準用した適切なものになっているかに着眼して検査した。
検査したところ、上記19都道県の308件の契約(契約総額137億8202万余円)において、指名競争入札等の際、最低制限価格が設定されていた。
そして、このうち北海道ほか10都県(注3)
が締結した263件の契約(契約総額153億8255万余円)では、21件の契約(契約総額7億1392万余円)において、最低制限価格を下回る価格で入札した者を失格として排除していた。
このように検査したすべての都道県で最低制限価格を設定していたが、環境省では、従来から各都道県に契約事務のすべてを委ねてきており、入札における落札者の決定について具体的な指導等は特に行っていない状況であった。また、各都道県では、入札を行う契約事務の取扱いに関する内部規程等において、設計金額が一定の範囲に属する工事については、すべて最低制限価格を設定する取扱いとなっていることなどから、本件各契約の入札の際も、その取扱いに従っている状況であった。
しかし、上記各契約の入札は、施行委任を受けた各都道県が行うものであるとはいえ、国の直轄事業として実施する国立公園整備事業の契約事務の一環であり、これらを行うに当たっては、国の会計法令中、契約事務の取扱いに関する規定を準用すべきものである。そして、これらの入札において、都道県が、国の会計法令に規定のない最低制限価格を設定し、これを下回る価格で入札した者を契約の内容に適合した履行が可能か否か調査することなく無条件に失格として排除することは、法令の根拠なしに競争契約における競争の利益を阻害するものである。
したがって、前記308件の契約について、入札の際最低制限価格を設定していたことは誤りであり、その結果、21件の契約において最低制限価格を下回る価格で入札した者を失格として排除し、割高な契約を締結することとなったことは適切ではなく、改善の要があると認められた。
上記の21件の契約について、最低制限価格を設定せず最低価格入札者と契約を締結したとすれば契約総額は計6億5079万余円となるので、当該21件の契約総額7億1392万余円は、これに比べて計6312万余円割高となっていると認められた。
その事態について一例を示すと次のとおりである。
<事例>
A県では、平成12年度においてB国立公園における休憩所の建築工事を施行委任による国立公園整備事業として契約額56,280,000円で実施していた。同県では、この工事の入札に当たり、設計金額が2億円未満の工事の入札についてはすべて最低制限価格を設定する同県の慣例に従って、予定価格61,730,550円に対して52,470,600円の最低制限価格を設定していた。そして、10業者による指名競争入札の結果、最低制限価格を下回る50,746,500円で入札した1業者を無条件に失格として排除していた。この契約について、最低制限価格を設定せず、最低価格入札者と契約を締結した場合と比べると契約額は5,533,500円割高となっていた。なお、この入札で排除された業者は、この前年度において同県が発注した同じ国立公園における類似の建築工事を特段の問題なく施工した実績があった。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 環境省において、国立公園整備事業を施行委任により実施する場合、都道県が行う入札には、国の会計法令の契約事務の取扱いに関する規定が準用され、最低制限価格は設定することができないものであることについて、都道県に対し適切な指導を行ってこなかったこと
イ 各都道県において、本件事業が施行委任によるものであり、国の会計法令を準用して契約事務を行う必要があるのに、その認識が十分でなく、各都道県の契約事務に関する内部規程等に基づき最低制限価格を設定していたこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、環境省では、15年10月に都道府県に対して通知を発し、施行委任により実施する国立公園整備事業においては、工事請負契約の入札の際、最低制限価格を設定できないものであることを明確にする処置を講じた。
(注1) | 利尻礼文サロベツ国立公園ほか19国立公園 利尻礼文サロベツ、知床、阿寒、釧路湿原、大雪山、支笏洞爺、十和田八幡平、陸中海岸、磐梯朝日、日光、上信越高原、秩父多摩甲斐、富士箱根伊豆、白山、山陰海岸、瀬戸内海、大山隠岐、雲仙天草、阿蘇くじゅう、霧島屋久各国立公園 |
(注2) | 北海道ほか18都県 東京都、北海道、青森、岩手、秋田、福島、栃木、群馬、神奈川、石川、静岡、兵庫、和歌山、岡山、香川、長崎、熊本、宮崎、鹿児島各県 |
(注3) | 北海道ほか10都県 東京都、北海道、岩手、秋田、福島、石川、和歌山、香川、長崎、熊本、宮崎各県 |