科目 | (農業技術研究業務勘定(平成15年10月1日以降)) |
有形固定資産 | |
建物、構築物、機械装置及び工具器具備品 | |
部局等の名称 | 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構(平成15年9月30日以前は独立行政法人農業技術研究機構)本部及び中央農業総合研究センターほか6研究所 |
施設整備費補助金により取得した有形固定資産 | 平成14事業年度 | 38億5479万余円 |
15事業年度 | 102億4800万余円 | |
上記のうち検査した研究用機器等及び建物附属設備等の資産計上額 | 平成14事業年度 | 10億6284万余円 |
15事業年度 | 14億4194万余円 | |
上記のうち適正に分類・計上すべき研究用機器等及び建物附属設備等 | 平成14事業年度 | 9億8074万円 |
15事業年度 | 8億3686万円 | |
計 | 18億1760万円 |
1 資産の計上の概要
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構(以下「研究機構」という。)は、平成15年10月1日に、独立行政法人農業技術研究機構から移行するとともに、認可法人生物系特定産業技術研究推進機構の資産及び債務を承継している。この移行前の独立行政法人農業技術研究機構は、13年4月に、国の研究機関が独立行政法人化されたもので、移行前の同機構及びその業務を引き継いだ研究機構の農業技術研究部門では、農業に関する技術上の試験及び研究等を行うことにより、農業に関する技術の向上に寄与することを目的として、農業技術研究業務を行っている。
そして、同業務においては、国の施設整備費補助金(以下「施設整備費」という。)により、試験研究等のための施設の新設、改修等を行う施設整備工事を行っており、同工事で取得した建物、研究用機器その他の有形固定資産の貸借対照表計上額は、14事業年度で計3,854,797,170円、15事業年度で計10,248,008,709円となっている。
独立行政法人は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)等により、毎事業年度、財務諸表として、貸借対照表、損益計算書、利益の処分又は損失の処理に関する書類、キャッシュフロー計算書、行政サービス実施コスト計算書及びこれらの附属明細書を作成し、当該事業年度の終了後3箇月以内に主務大臣に提出し、その承認を受けなければならないとされている。また、主務大臣の承認を受けたときは、財務諸表を官報に公告し、かつ、財務諸表並びに事業報告書、決算報告書及び監事等の意見を記載した書面を、各事務所に備えて置き、一般の閲覧に供しなければならないとされている。
そして、独立行政法人がその会計を処理するに当たっては、独立行政法人会計基準(平成15年3月改訂。独立行政法人会計基準研究会等。以下「会計基準」という。)に従わなければならないものとされ、そこに定められていない事項については一般に公正妥当な企業会計原則に従うものとされている。会計基準によれば、財務諸表のうち、貸借対照表は、「第43 貸借対照表の作成目的」により、独立行政法人の財政状態を明らかにするため、貸借対照表日におけるすべての資産、負債及び資本を記載し、国民その他の利害関係者にこれを正しく表示するものでなければならないとされている。
研究機構では、会計基準及び企業会計原則に従い、会計規程等において、有形固定資産は建物、構築物、機械装置、工具器具備品等にそれぞれ分類して貸借対照表に計上することとしている。また、このうち、建物は事務所・倉庫等の建物及び給排水設備等の附属設備、構築物は土地の上に固着した建物以外の建造物ないし工作物(門、上下水道、貯水池、舗装道路、屋外架線等)及びそれらの附属設備、機械装置は機械、装置及びそれらの附属設備、工具器具備品は研究用の諸工具・器具・備品並びに一般管理用の工具・器具・備品としている。そして、これらの減価償却額の算定に当たっては、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)を基に研究期間等を勘案して耐用年数を定め算定している。
会計基準「第81 施設費の会計処理」によれば、独立行政法人が施設整備費の交付を受けたときは、その額を流動負債の預り施設費として整理するものとするとされている。また、施設整備費によって固定資産を取得した場合、それぞれの資産科目に分類・計上するほか、当該資産が非償却資産であるとき又は当該資産の減価償却について会計基準「第86 特定の償却資産の減価に係る会計処理」に定める処理が行われることとされたときは、当該固定資産の取得費に相当する額を、預り施設費から資本剰余金に振り替えなければならないとされている。そして、会計基準「第86 特定の償却資産の減価に係る会計処理」では、独立行政法人が保有する償却資産のうち、その減価に対応すべき収益の獲得が予定されないものとして特定された資産(以下「特定償却資産」という。)の減価償却相当額は、損益計算上の費用には計上せず、資本剰余金を減額するものとすると定められている。
2 検査の結果
研究機構の農業技術研究業務は、独立行政法人化に伴い国の研究機関から引き継がれたもので、これによって、従わなければならない会計処理の準則も、国の会計法令から会計基準等に替わっている。そして、研究機構では、施設整備工事の積算、契約及び資産額の配賦等については、本部で一括して事務処理を行い、各資産の分類については現地の状況に詳しい各研究所に任せている。
そこで、農業技術研究業務を行っている各研究所における各資産の分類及びこれに伴う減価償却額の算定等が適切に行われ、財務諸表が適切に表示されたものとなっているかに着眼して検査した。
16年2月の会計実地検査において、上記の各研究所が14事業年度に施設整備費で取得した有形固定資産の貸借対照表計上額3,854,797,170円についてみたところ、研究用機器等を含めすべて建物又は構築物に分類・計上されていた。そこで、このうち研究用機器等及び建物附属設備等110件、取得額計1,062,845,311円について検査したところ、次のとおり適切でない事態が見受けられた。
(1)建物及び構築物に計上していた研究用機器等について
中央農業総合研究センターほか3研究所(注1)
において取得し、建物及び構築物に計上していた研究用機器等については、次のとおりとなっていた。
〔1〕 構築物に計上していた土壌滅菌器等5件(取得額計48,818,364円)は、土地に固着する建造物ないし工作物等に適用される構築物には該当しない。そして、これらの研究用機器等は、その設置に当たり建物に附属する設備との接続工事を要するものであり、研究機構では資産管理上、建物と一体的に管理される電気設備、給排水設備等の建物附属設備に準じて分類していることから、建物に分類・計上するのが企業会計原則に従った一般的な会計慣行であると認められる。
〔2〕 同じく構築物に計上していた共焦点レーザースキャン顕微鏡等22件(取得額計154,598,263円)は、上記と同様構築物に該当しない。そして、これらの研究用機器等は、その設置に当たり建物に附属する設備との接続工事を要せず単体で管理するものであるから、機械装置又は工具器具備品に分類・計上するのが企業会計原則に従った一般的な会計慣行であると認められる。
〔3〕 建物に計上していた高分解能液体クロマトグラフ飛行時間型質量分析装置等30件(取得額計116,480,259円)は、上記と同様単体で管理するものであるから、機械装置又は工具器具備品に分類・計上するのが企業会計原則に従った一般的な会計慣行であると認められる。
(2)構築物に計上していた建物附属設備について
中央農業総合研究センターにおいて取得し、構築物に計上していた電力設備、昇降機設備等25件(取得額計170,747,787円)は、建物と一体的に管理される電気設備、給排水設備等の建物附属設備と同様の設備であることから、建物に分類・計上するのが企業会計原則に従った一般的な会計慣行であると認められる。
(3)資産額の算出方法について
研究機構では、各有形固定資産の資産額の算出に当たり、建築工事、設備工事等の工事契約ごとに、共通にかかる費用(共通仮設費、現場管理費、一般管理費)を積算上の直接工事費の項目に、その額に応じて配賦している。そして、これを基に工事契約額、設計料、工事監理料及び工事雑費などを割り振る方法で資産額を算出している。しかし、果樹研究所において施設整備費で改修した新品種開発研究支援施設(建築工事、設備工事及び電気設備工事を実施)の資産額の算出に当たっては、建築工事契約額を割り振る際、必要のない設備工事の直接工事費の項目にまで割り振ったため、各資産の資産額が正確に表示されない事態が13件(建物8件取得額計480,037,344円、構築物5件取得額計26,470,473円、計506,507,817円)見受けられた。
なお、上記の建物8件中1件は、研究用機器等9件を含めて一括して建物1件としていたものであるが、この研究用機器等9件はいずれも機械装置又は工具器具備品に分類・計上するのが企業会計原則に従った一般的な会計慣行であることから、前記(1)〔3〕において取り上げている。
上記(1)、(2)、(3)の事態を整理して示すと、次表のとおりである。
区分 | 研究機構における資産への計上額 | 企業会計原則に従った一般的な会計慣行によった場合の計上額 | ||||
資産科目 | 件数 | 金額(円) | 資産科目 | 件数 | 金額(円) | |
研究用機器等及び建物附属設備等 |
建物 構築物 計 |
(注)
38 57 95 |
580,106,031 400,634,887 980,740,918 |
建物 構築物 機械装置 工具器具備品 計 |
38 5 4 48 95 |
642,462,233 32,103,793 10,277,335 295,897,557 980,740,918 |
そして、これにより、減価償却額の算定に当たり耐用年数を修正する必要が生じるものもあることから、14事業年度決算において建物及び構築物の減価償却累計額が3,210,558円及び1,793,520円過大に計上され、機械装置及び工具器具備品の減価償却累計額が192,697円及び6,843,225円過小に計上されることとなっている。また、資本剰余金の損益外減価償却累計額についても、2,031,844円過小に計上されることとなっている。
以上のように、施設整備費により取得した研究用機器等及び建物附属設備等について資産の分類・計上が一般的な会計慣行と異なっている事態は適切とは認められず、貸借対照表の有形固定資産の資産科目及び資本剰余金の損益外減価償却累計額が正しく表示されないこととなり、ひいては、損益外減価償却累計額の有する機能とされている「実質的な財産的基礎の減少の程度を表示し、当該資産の更新に係る情報提供の機能」(独立行政法人会計基準注解64「減価償却の会計処理について」)を損なう結果ともなる。また、行政サービス実施コスト計算書の損益外減価償却相当額が正しく表示されないこととなり、ひいては、行政サービス実施コスト計算書の有する機能とされている「独立行政法人の業務運営に関して、国民の負担に帰せられるコスト」(会計基準「第23 行政サービス実施コストの定義」)を表示する機能を損なう結果ともなる。
したがって、14事業年度に施設整備費により取得した研究用機器等及び建物附属設備等について資産の分類・計上が一般的な会計慣行と異なっている事態は、是正の要があると認められる。また、今後の分類・計上が適切に行われるよう是正改善の処置を講じる要があると認められる。
このような事態が生じていたのは、次のことによると認められた。
(ア)研究機構では、独立行政法人移行時に、国から出資された財産のうち建物及び研究用機器等を含む工作物について、特定償却資産とみなすこととされたことから、国有財産の区分である建物を有形固定資産の建物に、工作物を建物又は構築物に分類していた。そして、独立行政法人移行後、施設整備費により研究用機器等及び建物附属設備等の償却資産を取得した場合についても特定償却資産とされていたことから、研究機構では、独立行政法人移行時と同様に建物又は構築物に分類・計上していたこと。
(イ)研究機構において、施設整備費により取得した研究用機器等及び建物附属設備等の償却資産の分類・計上について、理解が十分でなかったこと。
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、研究機構では、16年3月に各研究所に対して事務連絡を発し、会計基準等に関する理解を深め、一般的な会計慣行に従い、資産の分類等を適切に行うよう指導するとともに、研究用機器等で、その設置に当たり建物に附属する設備との接続工事を要せず、単体で管理できるものについては、機械装置又は工具器具備品に分類し、減価償却に当たっては適正な耐用年数を適用して償却額を算定することなどとする処置を講じた。
そして、これに基づき、15事業年度決算の作成に当たっては、15事業年度に中央農業総合研究センターほか6研究所(注2)
において施設整備費で取得した研究用機器等304件取得額計1,441,948,800円のうち263件取得額計836,869,793円について、機械装置及び工具器具備品に分類・計上した。
また、14事業年度に取得したもので前記のとおり分類・計上が適切でなかった研究用機器等及び建物附属設備等95件取得額計980,740,918円については、前記(2)のうちの昇降機設備1件取得額5,542,027円を15事業年度決算において修正し、残りは16事業年度決算において修正することとした。
なお、上記のとおり、15事業年度決算においてもすべてが修正されていないことから、建物及び構築物の減価償却累計額が13,365,054円及び23,402,873円過大に計上され、機械装置及び工具器具備品の減価償却累計額が2,505,061円及び60,070,749円過小に計上されることとなっている。また、資本剰余金の損益外減価償却累計額についても、25,807,883円過小に計上されることとなっている。
(注1) | 中央農業総合研究センターほか3研究所 中央農業総合研究センター、果樹研究所、畜産草地研究所、東北農業研究センター |
(注2) | 中央農業総合研究センターほか6研究所 中央農業総合研究センター、果樹研究所、花き研究所、動物衛生研究所、北海道農業研究センター、近畿中国四国農業研究センター、九州沖縄農業研究センター |