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  • 第3節 特に掲記を要すると認めた事項

第2 国営かんがい排水事業及びこれに関連する附帯事業の実施について


第2 国営かんがい排水事業及びこれに関連する附帯事業の実施について

検査対象
内閣府(平成13年1月5日以前は総理府沖縄開発庁)、農林水産省、国土交通省(13年1月5日以前は総理府北海道開発庁)

会計名及び科目 国営土地改良事業特別会計 (項)土地改良事業費
    (項)北海道土地改良事業費
    (項)沖縄土地改良事業費
 
昭和60年度以前は、
 一般会計 (組織)農林水産本省 (項)土地改良事業費
  (項)北海道土地改良事業費
  (項)沖縄開発事業費
 特定土地改良工事特別会計 (項)土地改良事業費
部局等の名称 北海道開発局(13年1月5日以前は総理府北海道開発庁北海道開発局)、東北、関東、北陸、近畿、中国四国、九州各農政局、沖縄総合事務局(13年1月5日以前は総理府沖縄開発庁沖縄総合事務局)
事業の概要 ダム、頭首工、揚水機場、幹線用排水路等の基幹的な農業用用排水施設の整備を国営事業で行い、併せてこれに附帯する事業により末端用排水路や区画整理等の整備を行うことで、安定的な用水供給機能等の確保による農業生産性の向上等を図るもの
事業完了後5年以上経過しているのに附帯事業の未着手地区がある国営事業 国営事業南月形地区ほか35地区
上記国営事業に要した事業費 7112億円(昭和27年度〜平成10年度)

1 事業の概要

(かんがい排水事業の概要)

 農林水産省では、土地改良法(昭和24年法律第195号)に基づき、農業生産基盤の整備及び開発を図る土地改良事業の一環として、安定的な用水供給機能及び排水条件の確保により農業生産性の向上等を図ることを目的として、国営かんがい排水事業(以下「国営事業」という。)を実施している。
 国営事業は、ダム、頭首工、揚水機場、幹線用排水路等の基幹的な農業用用排水施設(以下「基幹的施設」という。)の整備を行うもので、昭和24年度から平成15年度までに195地区が完了し、15年度末現在81地区が継続中である。これら276地区に投下された15年度末までの事業費は総額5兆7583億余円に及んでいる。
 国営事業の実施に当たっては、受益農家の3分の2以上の同意を得たものについて申請を受けて、関係都道府県知事等との協議を経て施行を適当と決定したものについて、受益面積、総事業費、予定工期、主要工事等に関する土地改良事業計画(以下「事業計画」という。)を農林水産大臣が策定することとなっている。そして、この事業計画には、当該国営事業に関連して都道府県や市町村等が実施する土地改良事業(以下「附帯事業」という。)に係る事業の内容も記載することとなっている。
 この附帯事業は、国営事業の受益地域(以下「受益地」という。)において、国営事業によって整備された幹線用排水路に接続する用排水路等の整備や水田、畑の区画整理を行うもので、そのほとんどが国庫補助事業として実施されている。そして、その内容等は次のとおりである。

〔1〕 水田地域では、幹線用排水路等に接続する用排水路等を整備するとともに、不規則に存在する水田の区画整理を実施することにより水利用の安定と農業生産性の向上等を図る。

〔2〕 畑地域では、幹線用排水路等に接続して農業用水をほ場内に導水するために必要な管水路、給水栓、スプリンクラー等(以下、これらの施設を「畑地かんがい施設」という。)を整備するとともに、必要に応じて不規則に存在する畑の区画整理を実施することにより農業用水の確保と農業生産性の向上等を図る。

 附帯事業の実施に当たっては、前記国営事業と同様に、事業の着手に先立ち、都道府県知事等が事業計画を策定し、国営事業の進ちょくの度合いを勘案して、その事業内容、施行時期等を決定することが求められている。そして、国営事業と附帯事業とが連携して施行されることにより、農地・水利が整備され、作物生産効果(作物生産の量的増加に関する効果)、営農経費節減効果(機械導入、労働時間短縮など作物生産に要する費用が節減される効果)等の事業効果が発現することとされている。

(受益地及び予定工期の設定等)

 農林水産省では、受益地について、事業実施の計画地域及び周辺地域における農業振興計画等に基づく将来の開発計画に関する調査を行うとともに、関係機関等の意向を聴取して、事業が農業施策に沿った最適なものとなるよう設定し、これにより受益面積を確定する。
 国営事業は、受益面積がおおむね3,000ha(畑の場合1,000ha)以上のものについて、受益農家等からの申請を受けて施行されることとなっている。また、附帯事業は、国営事業の受益地内において、おおむね200ha(畑の場合100ha)以上の場合には都道府県営事業として、それ以外の場合には市町村等が行う団体営事業として、それぞれの地区の受益農家等からの申請等を受けて施行されることとなっている。
 また、予定工期は、営農や負担金の償還といった農家経営にとって大きなかかわりがある事項であるため、事業の規模・内容、自然条件等を総合的に勘案して、地区の実情に応じて適切に設定することとされている。

(事業の費用負担)

 かんがい排水事業をはじめとする土地改良事業に要する費用の負担については、土地改良法及び土地改良法施行令(昭和24年政令第295号)に定められている。
 国営事業に要する費用については、国は都道府県にその費用の一部を負担させることができるとされている。そして、都道府県は、その額の全部又は一部を地元(市町村、受益農家)から徴収することができるとされていて、地元負担額については都道府県の条例等により定められている。
 国営事業に要する費用の負担割合は、一般的に、国庫負担率は66.6%から70%、都道府県負担率は17%から25%、地元負担率は5%から16.4%となっている。
 また、附帯事業に要する費用のうち、都道府県営事業に要する費用については、国がその一部を補助することとされ、都道府県は国が補助する額を除いた額の全部又は一部を地元から徴収することができることとされている。
 附帯事業に要する費用の負担割合は、一般的に、都道府県営事業の場合、国庫負担率は50%、都道府県負担率は25%から27.5%、地元負担率は22.5%から25%となっている。

(本院の検査状況等)

 本院では、昭和58年度及び平成9年度決算検査報告において、国営事業が長期化している事態とともに、国営事業が完了しているのに、それに関連する附帯事業が進んでおらず、国営事業と附帯事業との間には行を生じている事態について指摘している。
 これらの指摘に対し、農林水産省では、重点的な予算の配分を行って国営事業の長期化の解消に努めるとともに、国営事業の進ちょくに見合う附帯事業を実施する体制を整備するなどし、さらに、国営事業の経済効果の算定を適切に行うために、附帯事業の予定実施時期を国営事業の事業計画の投資効率の算定に反映させるよう改善の処置を講じた。
 そして、附帯事業の事業管理の徹底に努めるため、各地方農政局においては、予定実施時期等について都道府県から報告を受けるとともに、定期的に連絡調整を図り、その進ちょく状況の把握に努め、附帯事業に重点的な予算配分を行うこととした。

2 検査の結果

(検査の背景及び着眼点)

 我が国の農業を取り巻く社会経済情勢は、米の生産調整政策の導入や農産物の輸入増加に加え、農業における若年労働者の減少、高齢化及び中山間地域における過疎化の進行に伴う耕作放棄地の増加等もあり、需要と生産の両面からの要因による食料自給率の低下など、一層厳しい状況となっている。
 そして、国及び地方公共団体の農業農村整備事業の予算規模は、4年度以降はバブル崩壊後の景気対策として補正予算が追加されたこと、6年度からのウルグアイ・ラウンド関連農業農村整備緊急特別対策(以下「UR対策」という。)が講じられたことなどにより増加傾向にあった。その後、財政の危機的状況を踏まえ、10年度予算において、公共事業費は対前年度比7%減額した額を上回らないこととするなどの水準の引き下げが図られた。さらに、13年6月に「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」が閣議決定され、これに基づき、予算編成の基本方針において、公共事業費は、14年度予算では対前年度比10%削減、15年度以降の予算では対前年度比3%以上削減されており、これらの厳しい財政状況を反映して、近年における農業農村整備事業費も減少傾向に転じている。
 また、上記のとおりの国及び地方公共団体の厳しい財政状況などを背景として、長期化した事業については、事業評価制度等が導入され、その実施の妥当性について改めて検討が行われている。
 以上のような経緯を踏まえ、国営事業及びこれに関連する附帯事業の実施状況等を分析し、事業が長期化している地区についてはその原因を調査し、また、附帯事業が着手されていない地区(以下「未着手地区」という。)については、その原因と今後の事業実施の見通しなどに重点をおいて検査した。そして、事業の長期化による影響やそれに対する事業主体における取組状況についても併せて検査した。

(検査の対象)

 前記の国営事業が完了した195地区のうち北海道ほか18県(注1) において、15年度末時点で一部又は全部の附帯事業が完了していない61地区の国営事業及びこれに関連する附帯事業1,746地区(平成15年度末までの支出済額は、国営事業1兆4462億余円、附帯事業1兆3678億余円)を対象として検査した(参考図参照)

北海道ほか18県北海道、岩手、宮城、秋田、茨城、栃木、千葉、富山、山梨、愛知、滋賀、和歌山、島根、愛媛、福岡、佐賀、宮崎、鹿児島、沖縄各県

(検査の結果)

 上記国営事業61地区における附帯事業1,746地区の実施状況は、完了地区1,063地区、継続地区162地区、未着手地区521地区となっており、これら附帯事業全体の進ちょく率は事業費ベースで66.0%となっている。
 15年度末における附帯事業の実施状況を国営事業完了後の経過年数別に整理すると、表1のとおりである。

表1 附帯事業の実施状況
国営事業
完了後の
経過年数
国営事業 附帯事業地区数 進ちょく率
(%)
完了
地区数
継続
地区数
未着手地区数
5年未満 厚沢部川地区
ほか12
441
(13)
151
(8)
58
(11)
232
(11)
 

42.8
5年以上
10年未満
女満別地区
ほか21
483
(22)
328
(22)
43
(14)
112
(18)
 

76.8
10年以上
20年未満
北檜山右岸地区
ほか20
653
(21)
463
(21)
51
(16)
139
(13)
289
(36)

70.0
20年以上 南月形地区
ほか4
169
(5)
121
(5)
10
(3)
38
(5)
 

62.2
61地区 1,746
(61)
1,063
(56)
162
(44)
521
(47)
 

66.0
注(1)  附帯事業の進ちょく率は、総事業費に対する支出ベースによる。
注(2)  ( )内の数値は、各地区数に係る国営事業数

 国営事業完了後の経過年数別の附帯事業の平均進ちょく率についてみると、5年未満の441地区で42.8%、5年以上10年未満の483地区で76.8%、10年以上20年未満の653地区で70.0%、20年以上の169地区で62.2%となっている。すなわち、通常事業の進ちょく率は年月の経過に伴い上昇していくものであるが、本件では国営事業が完了して間もない5年未満の附帯事業を除くと、国営事業完了後の経過年数が長期化するに従って進ちょく率が低下する状況となっている。
 また、附帯事業の未着手地区の状況についてみると、国営事業61地区のうち47地区において未着手地区が521地区存在している。このうち、国営事業が完了して5年以上経過している36地区においては、未着手地区は289地区となっている。
 そこで、国営事業61地区及びこれに関連する附帯事業1,746地区の実施状況等を、国営事業と附帯事業とに区分して検査した結果、以下のような事態が見受けられた。

(1)国営事業について

ア 予定工期と実績

 国営事業61地区における予定工期と実績について検査したところ、当初事業計画の予定工期は5年から15年で平均9.0年となっているのに対し、その実績は、表2のとおり予定工期を超えているものが50地区(81.9%)、その平均年数は18.7年となっている。

表2 61地区における実績工期等
工期 5〜9年 10〜14年 15〜19年 20年以上 平均年数
地区数 2
(0)
21
(12)
19
(19)
19
(19)
61
(50)
17.2年
(18.7年)
(注)
  ( )内の数値は、予定工期を超えた地区数

イ 長期化の原因

 昭和40年度以降における国営事業の実施地区数、事業予算、残事業費の推移についてみると、図1のとおり、40年度から60年度までの間に、多数の新規地区を採択したため、残事業費が著しく累増している。しかし、この残事業費は、次のような要因が影響して、平成7年度(1兆7271億余円)をピークに減少傾向に転じている。

〔1〕 4年度以降の補正予算、UR対策等による年度事業予算の増加

〔2〕 図2のとおり、過去の国営事業により整備された基幹的施設の一部又は全部を更新する事業(以下「基幹的施設の更新事業」という。)は、新規事業に比べ事業規模が小さく、また、その割合が増加することによる事業費の減少

図1 国営事業の実施地区数、事業予算、残事業費の推移

図1国営事業の実施地区数、事業予算、残事業費の推移 
注(1)  昭和50年度以前は当初予算と補正予算の内訳が不明のため、当初予算として一括計上している。
注(2)  実施地区数は年度当初のものである。

図2 国営事業の新規事業と更新事業の推移

図2国営事業の新規事業と更新事業の推移 
(注)
 平均採択事業規模は直近5箇年間の平均である。

 また、国営事業61地区の採択年度別の実績工期についてみると、図3のとおり、昭和40年度から50年代前半までの実績工期の平均は18.3年から20.8年となっている。このように実績工期が長期化している原因としては次のようなものが挙げられる。

〔1〕 二度のオイルショック(48年、54年)による資材労務費の高騰、農村部における都市化の進展等に伴う用地補償費の高騰といった社会現象が集中的に生じたこと

〔2〕 事業着手後における幹線用排水路等の整備量の見直しや工法等の変更に対する地元調整等に時間を要したこと

図3 採択年度別の実績工期

図3採択年度別の実績工期 
(注)
 実績工期は5年間の平均を示す。

 以上のとおり、補正予算やUR対策等による年度事業予算の増加、基幹的施設の更新事業の割合が増加したことによる事業費の減少により国営事業の長期化は解消されつつある。しかし、平成15年度末においても残事業費が1兆4643億余円と膨大な額となっていること、国営事業の予算規模が近年減少傾向にあることを考慮すると、現在継続中の81地区の国営事業が長期化するおそれもある。

(2)附帯事業の完了地区と継続地区について

 附帯事業は、幹線用排水路等に接続するための用水路等、畑地かんがい施設の整備(以下「線整備」という。)と不規則に存在する水田、畑の区画整理(以下「面整備」という。)に分かれていることから、国営事業61地区における附帯事業1,746地区を水田地域及び畑地域別に区分し、15年度末時点のそれぞれの整備状況を線整備及び面整備の実施割合により整理すると、図4のとおりである。

図4 水田地域及び畑地域別による線整備、面整備の実施状況(単位:ha)

図4水田地域及び畑地域別による線整備、面整備の実施状況(単位:ha) 
(注)
 線整備では、ほ場内まで水が供給される面積を、面整備では、ほ場が区画整理される面積をそれぞれ集計した。

 水田地域については、面整備に比べて線整備の実施率が高くなっているが、これは、農業生産条件の整備の根幹をなす農業用水の安定的な供給を求める受益者が多いことによるものである。また、面整備の実施率が低くなっているのは、既に1区画当たり10aから30aの規模で整備されている水田を30aから1haの規模に再整備するものがあり、この整備が遅れていることなどによる。
 一方、畑地域については、水田地域に比べて面整備、線整備ともその実施率が低くなっている。これは、水田地域と異なって用水路等の既設の施設が存在しないところに、畑地かんがい施設を新たに整備する必要があることなどから、受益農家の事業参加意欲に温度差が生じ、これらの調整に時間を要することによるものである。

ア 予定工期と実績

 事業が完了した1,063地区のうち予定工期が把握できた939地区における予定工期と実績について検査したところ、当初事業計画の予定工期は1年から15年で平均5.2年となっているのに対し、その実績は、表3のとおり予定工期を超えているものが518地区(55.1%)、その平均年数は10.3年となっている。

表3 939地区の実績工期
工期 1〜9年 10〜14年 15〜19年 20年以上 平均年数
地区数 678
(271)
172
(158)
56
(56)
33
(33)
939
(518)
8.0年
(10.3年)
(注)
 ( )内の数値は、予定工期を超えた地区数

 また、事業が継続中の162地区のうち予定工期が把握できた149地区における予定工期と15年度末現在までの経過年数について検査したところ、当初事業計画の予定工期は2年から13年で平均5.7年となっているのに対し、その経過年数は、表4のとおり平均7.0年となっている。

表4 149地区の経過年数
工期 1〜9年 10〜14年 15〜19年 20年以上 平均年数
地区数 126 5 6 12 149 7.0年

イ 長期化の原因

 附帯事業が完了した1,063地区のうち、予定工期を5年以上超過した193地区(水田地域159地区、畑地域34地区)の長期化の原因について調査したところ、その結果は表5のとおりである。

表5 長期化の原因
長期化の原因 水田地域
(159地区)
畑地域
(34地区)
地区数 割合(%) 地区数 割合(%)
〔1〕 用地買収等による地元調整が難航したため 104 39.4 22 34.9
〔2〕 公共事業の予算が抑制されていることが影響したため 64 24.2 11 17.5
〔3〕 埋蔵文化財の調査や河川協議等による他種事業との調整が難航したため 47 17.8 6 9.5
〔4〕 国営事業の進ちょくが当初計画よりも遅れたことが影響したため 28 10.7 3 4.8
〔5〕 当初予定の施工条件が悪化し、その対策工が追加されたため 13 4.9 12 19.0
〔6〕 その他 8 3.0 9 14.3
264 100 63 100
注(1)  原因については、複数回答のため検査対象地区数と一致しない。
注(2)  水田及び畑の地域区分は、受益面積のうち過半を占める地目で区分した。

 そして、長期化の原因の一つとして、公共事業の予算が抑制されていることが挙げられていることから、完了した1,063地区における採択年度別の実績工期についてみると、図5のとおり、昭和40年代後半から60年代前半までは平均工期が9年前後になっているのに対し、平成4年度以降は、バブル崩壊後の景気対策として補正予算が追加されたことなどから、附帯事業の平均工期がやや短縮しつつある。しかし、附帯事業の予算規模が近年減少傾向にあることを考慮すると、現在継続中の附帯事業が長期化するおそれもある。

図5 附帯事業の完了地区における採択年度別の実績工期

図5附帯事業の完了地区における採択年度別の実績工期 
(注)
 実績工期は5年間の平均を示す。

(3)附帯事業の未着手地区について

ア 国営事業完了後の経過年数等

 附帯事業の未着手地区は、前記のとおり国営事業47地区において521地区存在している。そして、国営事業47地区のうち国営事業完了後間もない5年未満のものを除いて、改めて附帯事業全体を国営事業完了後の経過年数別に整理すると、表6のとおり、国営事業36地区(注2) (10年度末までの支出済額は7112億余円)における附帯事業953地区の実施状況は、15年度末において完了地区590地区、継続地区74地区、未着手地区289地区(予定事業費3674億余円)となっている。

表6 国営事業36地区における附帯事業の実施状況
国営事業
完了後の
経過年数
国営事業 附帯事業地区数 進ちょく率
(%)
完了
地区数
継続
地区数
未着手
地区数
5年以上
10年未満
共栄近文地区
ほか17
374
(18)
230
(18)
32(
10)
112
(18)
68.9
10年以上
20年未満
温根別地区
ほか12
410
(13)
239
(13)
32
(8)
139
(13)
58.5
20年以上 南月形地区
ほか4
169
(5)
121
(5)
10
(3)
38
(5)
62.2
  953
(36)
590
(36)
74
(21)
289
(36)
 
注(1)  附帯事業の進ちょく率は、総事業費に対する支出ベースである。
注(2)  ( )内の数値は、各地区数に係る国営事業数

 そして、未着手地区289地区における国営事業完了後の経過年数は15年度末において平均12.4年となっており、国営事業が着手されてから平均28.5年となっている。
 また、平成9年度決算検査報告による本院の指摘もあって、地方公共団体では、10年度末において、附帯事業の未着手地区の予定実施時期等を明確にしたところである。
 そこで、上記の国営事業36地区における附帯事業の未着手地区の予定実施時期についてみると、受益農家の合意形成が進まないため、予定実施時期が設定されていない地区があったり、設定されている地区においても、予定実施時期が遵守されずに後年度以降に先送りされていたりしている地区が見受けられた。そして、国営事業36地区のうち南月形地区ほか16地区(注3) では、11年度に附帯事業の未着手地区であったものが、15年度までの5年間に全く事業実施されておらず、未着手のままとなっていた。

(注2) 国営事業36地区  南月形、幌加内、山部、温根別、幌向川、上磯、共栄近文、ぺーパン、音江山、高岡シップ、神居、共和、南美原、十勝川左岸、早来、大原、胆沢平野、盛岡南部、名取川、河南、中田、角田、仙北平野、田沢疏水、鹿島南部、石岡台地、氷見、愛知川、南紀用水、斐伊川下流、南予、耳納山麓、筑後川中流、一ツ瀬川、宮良川、名蔵川各国営土地改良事業(参考図参照)
(注3) 南月形地区ほか16地区  南月形、山部、温根別、幌向川、上磯、高岡シップ、神居、共和、十勝川左岸、盛岡南部、中田、角田、鹿島南部、石岡台地、愛知川、耳納山麓、一ツ瀬川各国営土地改良事業(参考図参照)

イ 合意形成が進まない原因等

 附帯事業は、事業を進めるに当たって受益農家等からの申請により実施され、国営事業の進ちょくに併せて施行していくことが前提となっている。
 しかし、上記のとおり、国営事業完了後相当の年数を経過しているにもかかわらず、事業実施に向けた受益農家の合意形成が進んでいないため、未だ受益農家等からの申請がない未着手地区が多数存在している。
 そこで、未着手地区289地区において受益農家の合意形成が進まない原因等について調査したところ、表7のとおり、農産物の価格低迷や、高齢者が多く農業後継者が不足していることなどにより、受益農家が事業参加に消極的となっていることによるものであった。

表7 合意形成が進まない原因等
合意形成が進まない原因等 水田地域
(172地区)
畑地域
(117地区)
地区数 割合(%) 地区数 割合(%)
〔1〕 農産物の価格低迷が加速し、受益農家の農業経営に対する意欲が減退していること 116 26.9 103 35.5
〔2〕 高齢者が多く、農業後継者も不足しているため、事業への参加意欲が減退していること 95 22.0 56 19.3
〔3〕 受益農家の負担が重いため、事業への参加意欲が減退していること 54 12.5 51 17.6
〔4〕 農業の急速な自由化の進展により、将来経営に対する不安が大きく、事業への参加意欲が減退していること 54 12.5 25 8.6
〔5〕 都道府県等における財政が厳しいため、新規採択を抑制していること 67 15.5 0
〔6〕 その他 46 10.6 55 19.0
432 100 290 100
(注)
 原因については複数回答のため、地区数の合計と一致しない。

ウ 事業実施の見通し

 附帯事業の未着手地区289地区における今後の事業実施の見通しを水田地域、畑地域に区分して調査したところ、表8のとおり、15年度末において受益農家の合意形成や関係機関との調整が整っておらず、事業実施の見通しが立っていない地区の割合は、水田地域で全体の55.2%、畑地域で全体の91.5%となっている。

表8 未着手地区における事業実施の見通し
未着手地区における事業実施の見通し 水田地域 畑地域 地区数計
地区数 割合(%) 地区数 割合(%)
〔1〕 事業実施の見通しが立っている地区 77 44.8 10 8.5 87
〔2〕 事業実施の見通しが立っていない地区 95 55.2 107 91.5 202
172 100 117 100 289

 そして、これらの地区における農地の現況についてみると、国営事業及び附帯事業が長期化することなどにより、受益農家が新たに農地整備を行おうとする意欲が薄れたり、離農等により国営事業の受益地内に不在地主の農地が増加してきたりなどして、附帯事業の整備が著しく困難となっている農地が、次のとおり見受けられた。

<事例1>

 国営幌加内土地改良事業(北海道)は、昭和40年度から53年度までの間に、水田1,932ha、畑209ha、計2,141haを受益地とし、幹線水路延長22.4km等の整備を総事業費41億9686万余円で実施している。
 上記受益地のうち、畑については、現況地目が山林原野の52haを開畑する計画とされていた。
 そして、附帯事業の実施状況について検査したところ、水田については計画の約80%に当たる1,555haが整備されているものの、畑については計画の約5%に当たる11haの整備にとどまり、特に、開畑として予定されていた山林原野52haについては、受益農家の高齢化、後継者不足等も影響し、国営事業完了後全く整備されていない状況である。

<事例2>

 国営鹿島南部土地改良事業(茨城県)は、昭和42年度から平成3年度までの間に、水田670ha、畑1,610ha、計2,280haを受益地とし、幹線水路延長14.6km等の整備を総事業費73億5380万余円で実施している。
 そして、附帯事業の実施状況について検査したところ、受益地575ha(水田143ha、畑432ha)は整備されているものの、残りの1,705haの整備については、隣接する鹿島臨海工業地帯の開発の影響により、受益地内の山林原野が投機等を目的とした不在地主に売却されるなどしたため、換地計画に合意が得られず、事業に着手できない状況となっていた。
 このため、国営事業で整備された幹線水路8.3kmは国営事業完了後13年を経過しているのに一度も通水されず、遊休している状況である。
 以上のとおり、国営事業36地区における未着手地区289地区は、国営事業完了後相当の年数を経過しているにもかかわらず、事業実施に向けた受益農家の合意形成が進んでいないため、未だ受益農家等からの申請がなく、その中には、事業実施の見通しが立っていない地区も多数含まれている。今後は、これら未着手地区については、事業実施の可能性の有無や諸課題に対する対策の検討が必要となっている。

(4)事業の長期化に伴う影響

 国営事業及び附帯事業は、前記のとおり社会経済情勢の変化等により当初計画に比べて長期化しており、このことは受益農家の営農意欲に大きな影響を与えている。したがって、事業の長期化は、かんがい排水事業全体としての効果の発現の妨げとなっており、次のような事態を生じさせている。

ア 投資効率の低下

 かんがい排水事業を含む土地改良事業の施行に当たっては、事業の経済性に関する要件として、土地改良法施行令により、「当該土地改良事業のすべての効用がそのすべての費用を償うこと」と定められている。
 農林水産省では、上記の経済性の要件を満たしているか否かの判断を行うため、経済効果を測定することとしており、投資効率は、「土地改良事業における経済効果の測定方法について」(昭和60年構造改善局長通達。平成6年一部改正。)及び「土地改良事業における経済効果の測定に必要な諸係数について」(昭和60年構造改善局長通達。平成10年一部改正。)等に基づき、総事業費、効果額、国営事業の着手から附帯事業の完了までの年数(以下「事業完了年数」という。)などの諸係数等を用いて算定することとしている。
 この投資効率は、国営事業の事業着手時において1.0以上であれば事業の要件を満たすこととされているが、その投資効率は、事業完了年数が長くなることにより低下する。
 そこで、国営事業36地区における事業完了年数についてみると、表9のとおり、附帯事業が完了した590地区で平均20年を要しているのに対し、継続中の74地区、未着手の289地区のうち予定実施時期が設定されている234地区では、15年度末時点の計画によると、それぞれ平均で31年、39年を要することとなっている。

表9 国営事業着手から附帯事業完了までの年数
区分 調査対象 1年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
30年未満
30年以上
40年未満
40年以上
50年未満
50年以上
60年未満
60年以上
70年未満
平均
年数
完了 590 88 190 213 86 9 4 0 20年
継続 74 0 5 25 35 5 4 0 31年
未着手 234 0 2 28 94 89 17 4 39年

<事例3>

 国営河南土地改良事業(宮城県)には、附帯事業が36地区あり、このうち完了した12地区においては、国営事業着手から完了までに平均20年を要していた。そして、継続中の5地区及び未着手の19地区では事業完了までにそれぞれ平均で38年、50年を要することとしている。
 そこで、仮に、諸係数のうち上記年数のみを反映させて投資効率を試算したところ、事業着手時には1.10であったものが0.92となっていた。

イ 国営事業により整備された基幹的施設の更新

 国営事業により整備された基幹的施設のうち、完了後相当の年数を経過し、部分的に機能が低下している施設については基幹的施設の更新事業が実施されており、その実施方式としては、国が事業主体として実施する国営造成土地改良施設整備事業と都道府県が事業主体として実施する基幹水利施設補修事業があり、これにより施設の機能維持及び安全性の確保を図ることとしている。
 そこで、国営事業36地区における基幹的施設の更新状況を検査したところ、表10のとおり、国営南月形地区ほか6地区の基幹的施設は、完了後10年から26年を経過し、老朽化が著しいなどの理由により、国営造成土地改良施設整備事業で4件、基幹水利施設補修事業で4件、計8件の基幹的施設の更新事業(総事業費71億0941万余円)が実施されていた。
 上記国営事業7地区の基幹的施設に関連する附帯事業の進ちょく率は13.6%から90.5%であって、国営事業で当初予定していた事業効果が十分発現していないのに、既に基幹的施設の更新事業が始まっている。

表10 基幹的施設の更新事業と附帯事業の進ちょく状況
  事業主体 国営事業地区名
(工事費相当額)
基幹的施設の更新事業 施設経過
年数
附帯事業
進ちょく率
(%)
国営造成
土地改良
施設整備
北海道開発局 南月形地区
(16億9000万円)
ダム、揚水機場等の老朽化に伴う施設改修 24年 90.5
幌加内地区
(2億8981万余円)
洪水吐、用水路等の老朽化に伴う施設改修 15〜26年 66.8
山部地区
(9億9821万余円)
用水路の老朽化に伴う改修 14年 90.5
東北農政局 仙北平野地区
(29億2700万円)
頭首工、幹線水路の老朽化に伴う施設改修 13〜22年 45.6
(59億0553万余円) 4件    
基幹水利
施設補修
宮城県 河南地区
(4億7500万円)
(2億9900万余円)
揚水機場、流量計等の老朽化に伴う更新 15〜22年 13.6
排水路の護岸改修等 14〜21年  
富山県 氷見地区
(1億6500万円)
排水機場、流量計等の老朽化に伴う更新 15年 59.2
福岡県 耳納山麓地区
(2億6488万円)
洪水吐補修、ダム管理施設の補修 10〜17年 26.2
(12億0388万余円) 4件    
(注)
 附帯事業の進ちょく率は、基幹的施設の更新事業を実施した前年度末のものである。

 以上のとおり、未着手地区の今後の事業実施の見通しを考慮すると、近年予算規模が減少傾向にあることなどから附帯事業の完了までに要する年数は更に延伸し、投資効率が低下することが予想され、国営事業で当初予定していた事業効果が十分発現していないのに、基幹的施設の更新事業が実施される事態は、今後更に増加することが予想される。

(5)事業評価制度等の導入及び実施状況

 農林水産省では、農業農村整備事業の効率的・効果的な推進及び透明性の確保を図る観点から、次のような事業評価制度等を導入し、自ら実施するとともに地方公共団体に対しても実施を要請している。
 そこで、国営事業36地区及びこれに関連する附帯事業を対象に、事業評価制度等の実施状況について検査した。

ア 再評価システム

 農林水産省では、事業採択後、一定期間(5年)ごとに当該事業を取り巻く諸情勢の変化を踏まえた事業の評価(以下「再評価」という。)を行い、必要に応じ事業の見直し等の検討を行うこととする再評価システムを10年度に導入している。
 そして、再評価に当たっては、事業の進ちょく状況、社会経済情勢の変化、投資効率の算定の基礎となった要因の変化等について点検し、事業実施の妥当性について総合的かつ客観的に評価して、事業の継続、中止等の対応方針を決定することとしている。
 そこで、再評価の実施状況についてみると、国営事業36地区については、再評価システムが導入される前に事業が完了しているため、再評価は実施されていない。そして、附帯事業については、10年度から15年度までの間に44地区で実施されており、その事業の実施方針としてはおおむね継続となっているものの、社会経済情勢の変化等により、1地区で事業を休止、5地区で事業を中止していた。

イ 事後評価システム

 農林水産省では、事業完了後、おおむね5年を経過した事業については当該事業の実施による効用及び利用状況の評価(以下「事後評価」という。)を行い、事業制度の点検と今後の事業のあり方等の検討を行うこととする事後評価システムを12年度に導入している。
 そして、事後評価に当たっては、社会経済情勢の変化、事業効果の発現状況、今後の課題等の視点から評価を行い、対象事業の受益地におけるより一層の効果発現のために、必要に応じ関係機関と連携を図りつつ対策を検討するとともに、今後の事業のあり方の検討、事業計画・事業評価制度の改善を進める上で活用することとしている。
 そこで、事後評価が実施された国営事業5地区についてみると、事業の長期化が影響し、表11のとおり、国営事業における附帯事業の進ちょく率は、7.4%から82.7%となっている。かんがい排水事業は、国営事業と附帯事業とが連携して施行されることにより、その事業効果が発現するものであるが、評価の内容が附帯事業の完了地区を対象とした調査にとどまっていて、かんがい排水事業全体としての効果の発現状況や施設の利活用状況等についての評価が十分実施されていない状況であった。

表11 国営事業の事後評価の実施状況及び附帯事業の進ちょく状況
(単位:ha)

部局名 国営事業
地区名
附帯事業
地区名
  進ちょく率
(%)
完了 継続 未着手
地区数
(面積)
地区数
(面積)
地区数
(面積)
地区数
(面積)
北海道開発局 南美原地区 南美原地区
ほか10
5
(307)
5
(959)
1
(110)
11
(1,376)
38.3
十勝川左岸
地区
熊牛中地区
ほか4
1
(34)
2
(5,333)
2
(913)
5
(6,280)
7.4
大原地区 洞爺地区
ほか5
3
(1,453)
1
(310)
2
(247)
6
(2,010)
60.3
東北農政局 角田地区 角田地区
ほか20
6
(1,302)
3
(84)
12
(876)
21
(2,262)
68.3
九州農政局 筑後川中流
地区
稲吉地区
ほか36
30
(6,321)
1
(26)
6
(468)
37
(6,815)
82.7
(注)
 附帯事業の進ちょく率は、事後評価を実施した前年度末のものである。

ウ 国営事業完了地区のフォローアップ調査等

 農林水産省では、国営土地改良事業の完了地区について、フォローアップ調査を12年度より実施している。
 上記のフォローアップ調査では、受益面積調査(受益面積の動向を調査)、水利状況調査(農業用水の利用状況を把握)、施設管理状況調査(基幹的施設の維持管理、補修等の状況を調査し、施設管理上の課題を把握)、地元意向調査(農業水利及び基幹的施設の利用管理に対する改善要望等を把握)などを実施している。
 そして、フォローアップ調査を通じて、国営事業の完了地区における諸課題を把握し、基幹的施設の更新事業の必要性、水管理方法の変更、用排水の再配分などの対策手法について検討することとしている。
 そこで、フォローアップ調査が実施された国営事業12地区についてみると、表12のとおり、受益面積調査、施設管理状況、地元意向調査等により国営事業の受益地内の現状把握等は実施しているものの、事業実施の見通しが立っていない未着手地区に対する対策手法については特に検討されていない状況である。

表12 国営事業完了地区のフォローアップ調査等の実施状況
部局名 国営事業地区名 国営完了地区フォローアップ調査実施項目 対策手法検討調査
〔1〕
受益
面積
〔2〕
水利
状況
〔3〕
排水
状況
〔4〕
施設管
理状況
〔5〕
施設機
能診断
〔6〕
農業
状況
〔7〕
地元
意向
対策手
法検討
地区数
検討内容
北海道開発局 山部地区 1 1 1 1 1 1 1 1 用水再編の検討
東北農政局 胆沢平野地区ほか3 1 3 1 2 1 3 2 2 用水再編、排水路改修の検討
関東農政局 石岡台地地区 0 0 0 0 1 0 0 0  
近畿農政局 南紀用水地区 1 1 0 1 1 1 1 1 水利用及び施設管理の検討
中国四国農政局 斐伊川下流地区ほか1 1 1 0 2 1 0 1 0  
九州農政局 筑後川中流地区 0 1 0 0 0 0 0 0  
沖縄総合事務局 宮良川地区 ほか1 2 2 0 2 2 2 0 1 管路の防食対策の検討

 以上のとおり、国営事業及び附帯事業について、継続地区では再評価が、完了地区では事後評価や完了地区フォローアップ調査等が行われている。
 しかし、附帯事業の未着手地区については、事業実施予定地区と位置づけられてはいるものの、受益農家からの申請がなく、事業が実施されていないことから、事業評価が実施できない状況にある。

(6)事業主体における取組状況

 農林水産省及び地方公共団体の事業主体においては、附帯事業が遅延している状況に対応するため、様々な取組がなされてきたところである。そして、国営事業61地区及びこれに関連する附帯事業について検査したところ、次のような取組を行っているところもあり、一定の効果が見受けられた。
ア 附帯事業の予算措置
 都道府県等では、近年、財政状況が厳しい中、農業農村整備事業に対する予算そのものが減少している状況にある。
 そこで、国営事業61地区の所在する北海道ほか18県における農業農村整備事業の予算配分状況についてみると、農業農村整備事業費全体は、厳しい財政状況を反映して大幅に減少しているが、附帯事業費はこれに比べて減少幅が小さいため、農業農村整備事業費全体に占める附帯事業費の割合は微増傾向にあり、他の農業農村整備事業に比べて重点的に配分されている。

イ 受益地の見直し

 国営事業では、社会経済情勢の変化や営農形態の変化により、次のような受益面積の増減があり、市町村、土地改良区等の関係機関との調整を行い、受益地の見直しが行われている。

〔1〕 意欲ある農家の新規参入(営農拡大希望や水源切り替え希望)に伴う受益面積の増加

〔2〕 道路、宅地等への転用、受益農家の営農意欲の減退や後継者の不足等による受益面積の減少

 そして、上記受益地の見直しを行う際、受益面積の増又は減が全体の5%以上のものは、国営事業の事業計画の変更を行うこととされている。
 そこで、国営事業の実施中に、事業計画の変更において受益地の見直しを行っている国営事業47地区の実施状況についてみると、表13のとおり、受益面積32,148haが除外されているものの、受益面積24,860haが新規編入されている。

表13 事業計画の変更に伴う受益面積の増減
(単位:ha)

区分 当初計画の
受益面積
編入面積 除外面積 変更後の
受益面積
国営事業47地区 188,158 24,860 32,148 180,870

 以上のように、国営事業の継続中は、事業計画の変更により受益地は大幅に見直され、これに伴い附帯事業の受益地が変更できるが、国営事業が完了した地区は、土地改良法に基づく工事の完了公告を行うことで事業が確定されるため、国営事業完了後に事業の長期化等に伴う受益地の変動が生じても、事業計画の変更ができない状況にある。
 一方、かんがい排水事業は、近年その重点が新規事業から基幹的施設の更新事業へと転換しつつある。そして、基幹的施設の更新事業の事業計画を策定するに当たっては、過去の国営事業の受益地を前提としつつ、改めて関係機関等の意向を踏まえて受益地を設定することとされている。すなわち、基幹的施設の更新事業を実施する際には、事業計画の策定の中で、過去の国営事業の受益地の見直しが可能となっている。

<事例4>

 国営南月形土地改良事業(北海道)は、昭和40年度から51年度までの間に、水田720ha、既畑205ha、開畑195ha(山林原野)計1,120haを受益地とし、幹線水路延長6.1km等の整備を総事業費22億8150万余円で実施している。
 上記受益地のうち、開畑計画の一部は進まず、山林原野133haは国営事業完了後24年を経過した平成11年度末においても整備されていない状況であった。
 そして、北海道開発局では、上記の事業により整備された基幹的施設が老朽化していることから、12年度に、この施設の更新事業を実施することとした。その際に、土地利用等の現況、関係機関等の意向を踏まえ、基幹的施設の更新事業の受益地を検討し、過去の国営事業で開畑計画としていた上記の山林原野133haを受益地から除外し、新たに受益地外にある既畑103haを受益地内に編入した。

ウ 水田地域の面整備の促進

 農林水産省では、土地改良法に基づき、広域にわたる農地等生産基盤の整備を行い、担い手への農地の利用集積による経営規模拡大や農業生産性の向上を推進するとともに、大規模な土地利用の再編整備を通じた優良農地の確保などを目的として、国営かんがい排水事業とは別に、7年度より国営農地再編整備事業を実施している。
 上記国営農地再編整備事業は、農地の区画整理等を事業内容としているため、事業の採択要件を備える場合には、国営かんがい排水事業の附帯事業の面整備を国営農地再編整備事業として実施することが可能とされている。

<事例5>

 国営胆沢平野土地改良事業(岩手県)は、昭和61年度から平成10年度までの間に、農業用水の確保等を目的として、水田9,830haを受益地とし、幹線水路延長約67.7km等の整備を総事業費272億3571万余円で実施している。
 そして、10年度には、上記国営事業における附帯事業の一部(水田1,083ha)を国営農地再編整備事業である国営いさわ南部土地改良事業により実施している。
 これにより、上記国営事業の水田の面整備は、事業実施に必要な費用を機動的・集中的に投資することにより、広域かつ総合的な整備を短期間に行うことが可能となり、県営事業により実施する場合と比較して工期が大幅に短縮され、結果的に、国営事業の附帯事業として実施するよりも、早期の効果発現が図られることになる。

エ 畑地かんがい施設の段階的な整備の推進

 畑地かんがい施設は、水田整備と異なり比較的歴史が浅く、水源から用水路、ほ場までの一連の施設を新たに整備するところが多い。畑地かんがい施設の導入以前は天水に依存しており、計画的に農業用水を利用できる営農形態が確立されていない状況であることから、事業参加意欲に温度差が生じ、受益農家の合意形成が進まない場合が多い。
 しかし、一部の国営事業における附帯事業では、畑地かんがい施設を段階的に整備して効果を発現させる手法への転換が図られている。この段階的整備は、干ばつ時の緊急用水や防除・育苗に必要な用水をかんがいするための給水スタンドの整備を一次整備として実施し、その後、農家の営農状況等を踏まえ末端施設(スプリンクラー、給水栓)までの二次整備を実施するものである。
 そして、附帯事業における段階的整備の実施状況についてみると、図6のとおり、段階的整備の導入地区(国営事業15地区)では、附帯事業が着手されてから15年度末までの経過年数は平均13.7年でその実施率は55.6%となっているのに対し、段階的整備の未導入地区(同24地区)では、その経過年数は平均16.3年でその実施率は52.2%となっており、段階的整備は一定の効果があることがうかがえる。

図6 畑地かんがい施設の段階的整備状況

図6畑地かんがい施設の段階的整備状況

<事例6>

 国営宮古土地改良事業(沖縄県)は、昭和62年度から平成12年度までの間に、畑8,400haを受益地とし、幹線水路延長135km等の整備を総事業費280億5000万余円で実施している。
 そして、附帯事業における畑地かんがい施設の段階的整備の実施状況についてみると、国営事業着手後4年を経過した2年度における線整備の実施率は、わずか0.9%(76ha)に過ぎない状況であったが、畑地かんがい施設の段階的な整備方法の推進により、畑地かんがい施設の実施率は、図7のとおり、10年度以降、給水スタンドまでの一次整備が急速に伸び、15年度末には、全体の約4割はスプリンクラーや給水栓までの二次整備が実施され、給水スタンドまでの整備を含めた実施率は95.2%(7,993ha)にまで進ちょくしている。

図7 段階的整備の推進状況

 図7段階的整備の推進状況
(注)
 I型は、ほ場内にスプリンクラーを、II型は、ほ場入り口に給水栓を、III型は、給水スタンドをそれぞれ設置するものである。

オ 限度工期の設定

 前記のとおり13年6月に「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」が閣議決定され、農林水産省では、この改革の方向に即して事業のより一層の効率的な執行及び透明性の確保を図る観点から、限度工期の設定や事業進ちょく状況の公表等について措置を講じたところである。
 これにより、14年度以降の新規採択に当たっては、国営事業は9年、附帯事業は6年を基本とする限度工期を設定し、限度工期を超える地区は採択しないこととするとともに、採択後3年が経過しても着工する見込みのない事業地区については、原則中止することとする「時間管理原則」を導入している。
 そこで、時間管理原則の導入前(11年度から13年度)に新規採択された附帯事業89地区及び時間管理原則の導入後(14年度から16年度)に新規採択された附帯事業52地区に係る事業規模を、受益面積、事業費別に比較してみると、受益面積と事業費の平均は、それぞれ134ha、9億3341万余円及び103ha、7億7692万余円となっていて、いずれにおいても附帯事業の事業規模は導入前に比べて小さくなっている。
 以上のことから、新規採択事業については、限度工期の設定による時間管理の徹底を図ることにより、事業の効率的・効果的な推進が図られているところである。

3 本院の所見

 農林水産省では、国営事業及び附帯事業の事業効果の早期発現を期するため、国営事業については、重点的な予算配分を行って国営事業の長期化の解消に努めるなどの措置を講じるとともに、都道府県等と附帯事業の推進について連絡調整を図り、その進ちょく状況の把握に努め、附帯事業に対しても重点的な予算措置を講じてきたところである。
 また、都道府県等では、かんがい排水事業の目的及びその重要性について地元説明会などを通じて受益農家の意識向上に努めてきたところである。
 しかし、前記のとおり、米の生産調整政策の導入や農産物の輸入増加に加え、農業における若年労働者の減少、高齢化及び中山間地域における過疎化の進行に伴う耕作放棄地の増加等社会経済情勢の変化等により、受益農家が事業参加に消極的になっていて、事業実施の見通しが立っていない未着手地区が多数存在している。そして、この未着手地区については、事業が実施されていないことから、事業評価が実施できない状況にある。
 このような状況で推移すると、国営事業と附帯事業とが連携して施行されることによる事業効果の発現までには、なお相当の期間を要するばかりではなく、今後は、基幹的施設の老朽化等により、国営事業で予定していた事業効果が発現される前に基幹的施設の更新事業が実施される地区が増加することも懸念される。
 したがって、農林水産省及び地方公共団体においては、厳しい財政状況により農業農村整備事業費が減少しつつある中で、附帯事業の継続地区及び未着手地区については、次のような方策を執るなどして、今後の附帯事業のより一層の推進を図り、事業効果の早期発現に努める要があると認められる。

ア 継続地区については、引き続き予算の重点的配分に努め、特に、事業の進ちょくが大幅に遅れている地区については、再評価システムをより一層活用し、事業実施の妥当性について総合的かつ客観的に評価して、事業の継続、中止等の方針を決定すること

イ 未着手地区のうち、水田地域の整備については、国営農地再編整備事業など他の事業を活用するなどして整備の促進に努めること。そして、畑地域の整備については、受益農家の意向を踏まえた段階的な整備をより一層推進するよう努めること

 また、農林水産省においては、附帯事業の未着手地区のうち今後の事業実施の見通しが立っていない地区については、地方公共団体と連携を図り、次のような方策を執るなどして、国営事業完了地区の弾力的な見直しを行い、農業用水及び基幹的施設の有効的な利活用を図ることが望まれる。

ア 国営事業完了地区のフォローアップ調査を実施する際に、未着手地区における諸課題を把握し、国営事業の受益地の見直しなど、その対策手法を検討すること

イ 基幹的施設の更新事業を実施する際に、地方公共団体や土地改良区等地元の意向を踏まえ、過去の国営事業の受益地の見直しを検討すること

(参考図)

(参考図)