(ア)足利銀行の15年9月中間決算の状況
金融庁では、足利銀行に対して、15年9月から11月にかけて、15年3月期末決算を対象とする金融検査を実施した。この金融検査の結果により、追加的に必要となる償却・引当額が950億円となることなどが判明した。この結果、15年3月期末決算における金融庁の検査結果に基づく同銀行の資本の部は△233億円となり、同銀行は債務超過の状態にあると見込まれた。
同銀行では、この検査結果を踏まえて15年9月中間決算を作成したところ、業務純益177億余円に対して、不良債権処理損失額747億余円、繰延税金資産の取崩しを含む法人税等調整額1387億余円などを計上したことから、中間純損失が1862億余円となり、1023億余円の債務超過となった。
(イ)足利銀行に対する3号措置の実施状況
足利銀行は、15年11月29日に、金融庁に対して、15年9月中間決算の結果債務超過になり、預金等の払戻しを停止するおそれがあると破綻の申し出を行った。このような状況を踏まえ、内閣総理大臣は、金融危機対応会議の議を経て、同日、同銀行に対して3号措置を講ずる必要がある旨の認定を行った。金融危機対応会議の答申等によると、同銀行に対して金融危機対応措置、特に3号措置を講ずる必要があると判断する根拠として、〔1〕 同銀行が栃木県を中心とする地域に多数の預金者と中小企業者等の取引先を抱えていること、〔2〕 同銀行の規模や、栃木県における融資比率が極めて高率であることなどから、地域において同銀行が果たしている金融機能の維持が必要不可欠であることが挙げられている。
この認定を受け、金融庁は、預金保険機構が同銀行の全株式を取得することを決定し、12月1日付けの官報において、上記認定及び決定の公告がなされた。これにより、預金保険機構は、同銀行の全株式を対価なしで取得した。
なお、金融庁が16年10月に公表した上記公告時点での同銀行の貸借対照表によると、資産の部は計4兆9263億余円(うち貸出金3兆7945億余円)、負債の部は計5兆0210億余円(うち預金4兆5579億余円)と、947億余円の債務超過となっている。
(ウ)3号措置実施後の足利銀行の状況
足利銀行は、15年3月に同銀行のグループ会社とともに持株会社であるあしぎんFGを設立した。これに伴い、同銀行は、あしぎんFGが全株式を保有する子会社となった。
このあしぎんFGの設立に伴い、同銀行の発行した全株式は、金融機能早期健全化法に基づいて整理回収機構が取得した優先株式1050億円を含め、あしぎんFGに株式移転され、同機構は、あしぎんFGの優先株式を保有することになった。
しかし、3号措置の実施に伴い預金保険機構が同銀行の全株式を取得したことにより、同銀行はあしぎんFGの子会社ではなくなり、また、あしぎんFGは、その資産の大部分を失うこととなった。
この結果、あしぎんFGでは、15年12月に、会社更生法(平成14年法律第154号)に基づく会社更生手続の申立てを行い、16年3月に東京地方裁判所から会社更生手続の開始決定を受けた。
16年3月期末決算におけるあしぎんFGの純資産の額は約30億7200万円となっており、整理回収機構が保有する同会社の優先株式1050億円を大幅に下回っている。このため、同機構が保有する優先株式の大部分がき損することは避けられない状況となっている。
足利銀行では、16年2月に、金融庁からの命令を受け、「経営に関する計画」を提出した。これによると、同銀行では、経営体質の抜本的な改善と企業価値の向上を図るために、〔1〕 地域金融の円滑化と中小企業再生等への取組、〔2〕 ガバナンスの強化と透明性の確保、〔3〕 業務運営の適切性と透明性の確保、〔4〕 抜本的な経営の合理化という4方針を掲げ、これらの実行により3号措置の早期終了と公的コストの極小化を図るとしている。
足利銀行の16年3月期末決算では、自己査定において厳格な債務者区分の判定や厳正な担保評価を行ったこと、また、貸倒引当金の計上においても厳正な引当てを行ったことなどから、15年3月期末決算に比べて不良債権処理損失額及び一般貸倒引当金繰入額が大幅に増加し、結果的に当期損失が7828億余円となり6790億余円の債務超過となった。
同銀行は、16年6月に、16年3月期末決算を踏まえた上で改めて「経営に関する計画」を提出し、同計画の着実な履行を通じて3号措置の早期終了と公的コストの極小化を図るとしている。また、債務超過額については19年3月期末決算には5819億円に減少するとされている。