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  • 平成15年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

第3 政府開発援助について


第3 政府開発援助について

〔無償資金協力、円借款、技術協力について〕
検査対象 (1) 外務省
(2) 国際協力銀行
(3) 独立行政法人国際協力機構(平成15年9月30日以前は国際協力事業団)
政府開発援助の内容 (1) 無償資金協力
(2) 円借款
(3) 技術協力
平成15年度実績 (1) 2663億8834万円
(2) 1兆3299億1489万円
(3) 698億8044万円
現地調査実施国数並びに事業数及び対象事業費 13箇国
(1)  69事業796億9213万円
(2)  11事業876億6068万円
(3)  22事業156億2467万円
援助の効果が十分発現していないなどと認めたもの 無償資金協力
 サバナケート農業総合開発計画事業
 ブワンジェバレー灌漑開発計画事業
技術協力プロジェクト
 鉱山公害防止対策研究センター事業
ノン・プロジェクト無償資金協力事業
(経済構造改善努力支援無償資金協力事業)
円借款の実施において留意すべき点があると認めたもの 農業セクター投資事業
〔国際開発協力関係民間公益団体開発協力について〕
検査対象 外務省、補助事業者
補助事業の内容 国際開発協力関係民間公益団体開発協力
平成15年度交付実績   2億5656万円
現地調査実施国数並びに事業数及び補助金交付額 2箇国  
4事業 2328万円
事業の効果が十分発現していないと認めたもの 小学校建設事業  

〔無償資金協力、円借款、技術協力について〕

1 政府開発援助の概要

 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その援助の状況は、地域別にみるとアジア、アフリカ、中南米、中東等の地域に対して供与されており、特にアジア地域に重点が置かれている。また、分野別にみると運輸・貯蔵、エネルギー、教育、農林水産、環境保護、水供給・衛生等の各分野となっている。
 そして、我が国の政府開発援助は毎年度多額に上っており、平成15年度の実績は、無償資金協力(注1) 2663億8834万余円、円借款(注2) 1兆3299億1489万余円(注3) 、技術協力(注4) 698億8044万余円などとなっている。

(注1) 無償資金協力  相手国の経済・社会の発展のための事業に必要な施設の建設、資機材の調達等のために必要な資金を返済の義務を課さないで供与するもので、外務省が実施している。
(注2) 円借款  相手国における経済・社会の開発のための基盤造りに貢献する事業等に係る費用を対象として、相手国に対し長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、国際協力銀行が実施している。
(注3) 債務繰延べを行った額7003億1659万余円を含む。
(注4) 技術協力  相手国の経済・社会の開発に役立つ技術・技能・知識を移転し、技術水準の向上に寄与することを目的として、研修員受入、専門家派遣、機材供与等を行うもので、独立行政法人国際協力機構が実施している。

2 検査の範囲及び着眼点

 本院は、無償資金協力、円借款、技術協力等(以下「援助」という。)の実施及び経理の適否を検査するとともに、援助が効果を発現し、援助の相手となる開発途上国(以下「相手国」という。)の経済開発及び福祉の向上などに寄与しているか、援助の制度や方法に改善すべき点はないかなどについて検査している。この検査の範囲及び着眼点について、我が国の援助実施機関に対する検査及び相手国において行う現地調査の別に具体的に示すと、次のとおりである。

(1)我が国援助実施機関に対する検査

 本院は、国内において、援助実施機関である外務省、国際協力銀行(以下「銀行」という。)及び独立行政法人国際協力機構(15年9月30日以前は国際協力事業団。以下「機構」という。)に対して検査を行うとともに、海外において、在外公館、銀行の駐在員事務所及び機構の在外事務所に対して検査を行っている。
 これら我が国援助実施機関に対する検査に当たっては、次のとおり、多角的な着眼点から検査を実施している。

(ア)我が国援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が相手国の実情に適応したものであることを十分検討しているか。

(イ)援助は交換公文、借款契約等に則したものになっているか、また、資金の供与などは法令、予算等に従って適正に行われているか。

(ウ)我が国援助実施機関は、援助対象事業を含む事業全体の進ちょく状況を的確に把握し、援助の効果が早期に発現するよう適切な措置を執っているか。

(エ)我が国援助実施機関は、援助実施後、事業全体の状況を的確に把握、評価し、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。

(2)現地調査

 相手国に対しては、我が国援助実施機関に対する検査の場合とは異なり本院の検査権限は及ばない。しかし、援助は相手国が主体となって実施する事業に必要な資金を供与するなど、相手国の自助努力を支援するものであり、その効果が十分発現しているか、事業が計画どおりに進ちょくしているかなどを確認するためには、我が国援助実施機関に対する検査のみでは必ずしも十分ではない。このため、本院では、相手国に赴いて、我が国援助実施機関の職員等の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、次の着眼点から、事業の実施状況を中心に現地調査を実施している。

(ア)事業は計画どおり順調に進ちょくしているか。

(イ)援助の対象となった施設、機材、移転された技術等は、当初計画したとおりに十分利用されているか。

(ウ)事業は所期の目的を達成し、効果を上げているか。

(エ)事業は援助実施後においても相手国によって順調に運営されているか。

 そして、毎年10箇国程度を選定して職員を派遣し、調査を要すると認めた事業について、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどし、また、相手国の保有している資料で調査上必要なものがある場合、相手国の同意が得られた範囲内で我が国援助実施機関を通じて入手している。

3 検査の状況及び本院の所見

(1)現地調査の対象

 本院は、16年中において上記の検査の範囲及び着眼点で検査を実施した。そして、その一環として、13箇国において次の102事業について現地調査を実施した。

〔1〕 無償資金協力の対象となっている事業のうち69事業(贈与額計796億9213万余円)

〔2〕 円借款の対象となっている事業のうち11事業(15年度末までの貸付実行累計額876億6068万余円)

〔3〕 技術協力事業のうち技術協力プロジェクト(注5) 22事業(15年度末までの経費累計額156億2467万余円)

技術協力プロジェクト  技術協力の中核をなすもので、研修員受入、専門家派遣、機材供与などの事業を柔軟に組み合わせたプロジェクトとして平成14年度から実施されている。13年度までは、上記の3形態を一つのプロジェクトとして有機的に統合し、その計画の立案から実施、評価までを一貫して行うプロジェクト方式技術協力として実施されていた。

 上記の102事業を、分野別にみると、運輸・貯蔵15事業、農林水産15事業、水供給・衛生12事業、教育11事業、保健9事業、エネルギー5事業などとなっており、その国別の現地調査実施状況は、次表のとおりである。

国別現地調査実施状況表
国名 調査
事業数
(事業)
援助形態別内訳
無償資金協力 円借款 技術協力プロジェクト
事業数
(事業)
援助額
(億円)
事業数
(事業)
援助額
(億円)
事業数
(事業)
援助額
(億円)
アルゼンチン 5 1 47 4 36
ブルガリア 6 4 17 2 9
カンボジア 11 10 280 1 4
コスタリカ 6 3 0 1 15 2 16
ジブチ 7 7 40
エクアドル 7 5 29 2 156
ホンジュラス 11 10 88 1 6
ラオス 9 6 157 1 39 2 9
モンゴル 8 7 142 1 5
パナマ 6 4 1 2 19
ルーマニア 6 5 15 1 2
チュニジア 9 5 23 3 143 1 1
トルコ 11 3 1 3 474 5 44
102 69 796 11 876 22 156

(2)現地調査対象事業に関する検査の概況

 現地調査を実施した事業のうち、次の事業については、援助の効果が十分発現していないなどと認められた。これらの事態を分類すると次のとおりである。なお、このうち無償資金協力1事業については、昨年次に現地調査を実施したものである。

〔1〕 無償資金協力の援助の効果が十分発現していないもの
  サバナケート農業総合開発計画事業
  ブワンジェバレー灌漑開発計画事業
〔2〕 技術協力プロジェクトの効果が十分発現していないもの
  鉱山公害防止対策研究センター事業
〔3〕 ノン・プロジェクト無償資金協力として供与された資金等の一部が相当期間使用されないまま残っているものなど
〔4〕 円借款の実施において留意すべき点があると認めたもの  
  農業セクター投資事業

(3)援助の効果が十分発現していないなどの事業

ア 無償資金協力の援助の効果が十分発現していないもの

<サバナケート農業総合開発計画>

 この事業は、「ラオス人民民主共和国サバナケート農業総合開発計画基本設計調査報告書」(5年9月。以下「基本設計書」という。)に基づき、ラオス人民民主共和国サバナケート県の県都サバナケートから35km〜40kmに所在するホワイ・バック、ホワイ・サイ両上流地区において、ダム1基、取水し送配水するための堰(以下「取水堰」という。)、用水路等、農村給水井戸10箇所等の建設等を行うもので、事業は8年2月に完了している。
 外務省では、これに必要な資金として、5年度から7年度までに計22億2328万円を贈与している。
 本件事業の目的は、〔1〕食糧生産、特に雨期作の安定と生産性の向上を図り、乾期水稲作付面積拡大と作付作物の多様化を図ること、〔2〕新しい方式の生産、営農技術の普及拡大と農民の農業生産活動の支援・促進を図ること、〔3〕周辺農村住民の生活基盤改良、保健衛生条件を改善することなどとされている。
 今回、ホワイ・バック上流地区におけるかんがい面積について調査したところ、次のような状況となっていた。
 ホワイ・バック上流地区における事業は、基本設計書に基づき、雨期稲作のかんがい用水を供給するとともに、可能な限り多くの面積への稲作、畑作に対して供給することを目的として、ダム1基(堤高24m、堤長912m)、用水路(幹線用水路延長計約10.6km)等を建設したものである。そして、同設計書によるとダムに貯留した1485.1万m の水資源のうち、416.1万m により雨期の稲作950ha、798.6万m により乾期の稲作550ha、270.4万m により乾期の畑作400haのかんがいを実施することとしていた。また、この事業により、当該地区の農民は、農業生産の安定・増大、畑作等で生産される商品作物の栽培等による所得の増大、生活水準の向上などのひ益があるとしていた。
 そして、雨期及び乾期の稲作面積については、計画をおおむね達成していたと認められたが、商品作物栽培等のための乾期の畑作については、計画面積400haに対し、16年5月の本院の現地調査時点においても実績は60haと計画を大幅に下回っていた。
 外務省では、乾期の畑作実績面積が計画面積に比べて低いのは、まず、稲作面積の拡大を達成し、その後に畑作面積の拡大に努めることとしたためであるとしている。
 しかし、事業完了後の7年間における畑作のかんがい面積拡大の進ちょく状況は、毎年10ha程度であることからみて、計画面積を達成するまで相当の期間を要すると認められた。また、かんがい面積拡大の目標年次等も定められておらず、事業効果の達成時期が不明となっていた。さらに、計画ではダムの貯水量に見合う所要総用水量1485.1万m のうち270.4万m を使用することとしているものの、ダム等は乾期畑作のために十分活用されておらず、これに係る援助の効果は十分発現していない状況となっている。
 なお、ホワイ・サイ上流地区においては、取水堰を建設して農業用水を確保することにより、雨期の稲作計画面積410ha、乾期の畑作計画面積50haについて、計画を達成していた。
 また、ホワイ・バック、ホワイ・サイ両上流地区における農村給水井戸10箇所については、供用開始後1〜2年は使用できたものの、その後水質の悪化のために9箇所の井戸は現在まで使用されておらず、援助の効果が十分発現していない状況となっている。

(本件事業に対する本院の所見)

 上記の事態が生じているのは、主として相手国の事情などによるものであるが、このように援助の効果が十分発現していない場合は、計画達成の目標年次等を定めたり、相手国事業実施機関に定期的に報告を求めたりするなどして、これを的確に把握し、援助の効果が早期に十分発現されるよう相手国に一層適時適切な指導又は助言を行う要があると認められる。

<ブワンジェバレー灌漑開発事業>

 この事業は、マラウィ共和国の中央州ブワンジェバレー地域のナミコクウェ川流域約800haを対象に、幹線水路、支線水路等のかんがい施設及び洪水防御堤兼管理道路(以下「防御堤」という。)、約48haのサンプルほ場等の関連施設の整備を図るものである。
 外務省では、これに必要な資金として、9年度から11年度までに計19億3502万円を贈与している。
 本件事業では、かんがい用水路等の施設を整備するとともに、その計画地が洪水はん濫原に広がっているため、計画地を洪水から防御する目的で、幹線水路を維持管理するための道路を兼ねた防御堤を設置することとした。
 これらの施設は11年12月に完成し供用を開始したが、13年12月から14年1月までの降雨による洪水のため、防御堤が3箇所で崩壊し、うち1箇所では防御堤に並行する幹線水路も崩壊して通水ができなかったり、残りの2箇所では管理道路が寸断され通行ができなかったりしている状況となった。
 この事態を受けた同国政府の支援要請に対し、機構は、14年9月から15年3月までの間、技術協力の一環として、崩壊箇所の修復等応急対策工事を内容とするブワンジェバレー灌漑開発計画フォローアップ協力(所要経費6868万余円)を実施した。
 しかし、上記フォローアップ協力実施期間中の15年1月のサイクロンや同年3月から4月にかけての降雨による洪水のため、前記の崩壊箇所とは別の5箇所で防御堤が崩壊し、そのうちの1箇所では幹線水路も崩壊した。
 そして、同年6月の本院の現地調査時には、機構と同国政府が簡易的な復旧工事を実施していたものの、崩壊した幹線水路の迂回路として、支線水路の一部を利用した通水を行っていて、水量が制限された状況で耕作せざるを得ない状況となっていた。
 前記のとおり、本件事業によって整備された施設は、完成当初の一時は効用を発揮したが、その後の3年余のうちに、防御堤や幹線水路といった主要構造物が数箇所、数回にわたって崩壊している。外務省では、この防御堤の崩壊原因を豪雨によるものであるとしているが、具体的な崩壊の過程やその要因については不明である。そして、本件施設は、現在その機能を十分に活用できず、援助の効果が十分発現するには至っていない状況となっている。
 また、同国では、本件事業に併せて、受益農民組織が政府の技術支援を受けながらほ場の整備を行い、農業生産性の向上や地域社会生活の活性化を図ることとしていたが、対象とした800haのほ場の半分程度が依然として整備が必要な状況になっており、作付面積や農家収入等のデータも明らかにはなっていない。

(本件事業に対する本院の所見)

 上記の事態が生じているのは、主として洪水被害をもたらした気象や相手国の事情によるが、このように援助の効果が十分発現していない事態にかんがみ、我が国としては、事態の改善、解決に向けて、的確な状況把握と適時適切な助言に一層努めるとともに、相手国政府に対し、次のようなことを促すことが求められる。

(ア)無償資金協力の対象とした施設が災害により被害を被ったものについては、被害状況の的確な把握に努めたり、設計図書等を活用するなどして速やかに発生原因の詳細な分析に努めたりするとともに、事業が早期に効果を発現するように努めること

(イ)相手国側で実施することになっているほ場の整備の状況や作付面積等の的確な把握に努めること、また、ほ場の整備や農業生産性の向上等もできる限り早期に図られるよう努めること

 本件については、同国政府が我が国に対して「ブワンジェバレー地域灌漑農業開発計画」に係る技術協力を要請し、機構が4年に開発調査を実施して以来、既に10年以上が経過し、また、様々な形で多額の資金が投入されており、事業効果の早期かつ適切な発現が求められているところであって、そのためには、速やかな対応が執られることが肝要である。

イ 技術協力プロジェクトの効果が十分発現していないもの

<鉱山公害防止対策研究センター事業>

(ア)事業の概要

 この事業は、アルゼンチン共和国(以下「アルゼンチン」という。)に対して、水質汚染に対する鉱山公害防止管理技術を移転するもので、同国サンファン州政府が設立した鉱山公害防止対策研究センター(以下「公害防止センター」という。)を事業実施受入機関として技術協力プロジェクトによる援助を実施したものである。
 機構では、10年5月から14年4月までの4年間にわたり、経費累計額8億7347万余円で、専門家計16名(長期専門家7名、短期専門家9名)の派遣による現地指導、研修員計11名の受入れ及び所要機材の供与等を実施している。
 本件事業は、アルゼンチンが鉱山の開発を進めていく一方で、事前に公害対策を講じるために実施したものであり、その内容は次のとおりである。
 公害防止センターの技師に対して、金属鉱山に係る水質汚染防止分野において水質汚染の計測、監視、防止等に係る技術移転を、また、鉱山公害防止行政分野において我が国等の情報を提供等することにより同分野に係る技術移転をそれぞれ実施する。
 そして、本件の事業目標は、技術移転を受けた公害防止センターの技師が、この移転された技術を活用して、事業終了時までに、水質汚染を計測、監視、防止、管理する鉱山公害防止業務を行う水質保全管理技術者(以下「水質技術者」という。)を育成できるようになることとされており、また、この事業目標の達成指標は、事業終了時までに、水質技術者が数名育成されることとされていた。
 また、本件事業目標の達成後に期待される上位目標については、公害防止センターにおいて水質技術者がサンファン州を含む最低6州で育成されることとしており、この上位目標の達成指標は、公害防止センターの人材育成事業により、最低6州において水質技術者が育成されること及びこれら州の鉱山・選鉱場において廃水の水質管理が実施されることとしていた。
 公害防止センターにおいて育成された水質技術者は、廃水処理、化学分析若しくは選鉱の分野において技術者として、又は鉱山保安行政の分野において指導監督等に従事する職員として、活躍することが想定されていた。
 また、公害防止センターでは、移転された技術を活用して水質調査等も実施することとされていた。

(イ)調査の状況

(a)公害防止センターの技師に対する技術移転の状況について

 機構では、本件事業終了の6箇月前に実施された終了時評価で水質汚染防止分野における技術移転の達成状況を評価するため、13年7、8月に地元コンサルタントに公害防止センターの技術レベル評価を委託していた。その評価報告によれば、技術レベルは、専門家の指導なしで被査定事項を実施できるとしているレベルに達しておらず、必ずしも高いものとはなっていなかった。しかし、機構では、終了時評価を実施した13年11月から14年4月の本件事業終了時までの残り6箇月間で更に技術移転を実施できるので、それまでには前記の事業目標は達成されると判断し、事業終了時に再度技術レベルの評価を実施することなく、本件事業を終了していた。
 このように、事業終了時に技術移転が十分達成されていたか確認できない状況となっていた。

(b)移転された技術の活用状況について

 水質汚染防止、鉱山公害防止行政の両分野において移転された技術を活用して行うこととされていた水質技術者の育成等については、次のとおりである。

〔1〕 水質技術者の育成

 公害防止センターでは、本件事業実施中の13年9月に、日本人専門家の指導の下でサンファン州政府の職員を対象として、水質技術者を育成するための研修コースを実施し、水質技術者6名を育成した。
 しかし、13年のアルゼンチンにおける経済の混乱等のため、水質技術者への需要が低迷していたり、公害防止センターの予算が十分確保できなかったりしたことなどから、公害防止センターでは、本件事業の終了以降、現在まで、水質技術者育成のための研修コースを一度も開催しておらず、事業終了後において、水質技術者として育成された者は1名もいない状況となっている。
 さらに、12年7月から9月に機構がアルゼンチン側と実施した本件事業の中間評価において、水質技術者への需要を喚起するため、アルゼンチン側が水質技術者の公的資格を認定する法令を制定するなど必要な措置を検討することとしていたが、現在に至るまでそれらの法令は制定等されていない。

〔2〕 水質調査等の実施

 公害防止センターは、本件事業終了後、14、15両年において水質調査6件、技術サービス等11件、計17件を受託していた。この17件のうち、鉱業に関連するものは11件あり、このうち鉱山公害防止に関連するものは3件となっていて、公害防止センターにおける水質調査、鉱山公害防止関連活動は必ずしも順調なものとはなっていない。
 以上のとおり、本件事業は、その終了時において技術移転が十分達成されていたか確認できない状況となっていた。また、事業終了後、公害防止センターにおいて水質技術者育成のための研修コースを実施していなかったり、水質調査、鉱山公害防止関連活動が必ずしも順調なものとはなっていなかったりなどしていて、技術協力により移転された技術が十分に活用されていない状況となっている。

(ウ)本件事業に対する本院の所見

 このような事態が生じているのは、主として相手国の事情などによるものであるが、機構においても、事業実施中に事業を取り巻く状況が急激に変化した場合には、公害防止センターや水質技術者に対する需要の予測等、本件事業の見直しを必要に応じて行うなどの要があったと認められる。
 また、事業終了6箇月前に実施される終了時評価において技術移転の達成が確認できない場合は、事業終了時において技術移転の再評価を行うなどし、技術移転の達成が十分でないことが判明した場合は所要の措置を講ずる必要があったと認められる。
 そして、事業終了後においても、公害防止センターや水質技術者への需要を更に喚起するよう働きかけるなど、移転された技術が十分活用され、援助の効果がより十分発現するよう、相手国政府等に対してより一層助言するなどの要があると認められる。

ウ ノン・プロジェクト無償資金協力(経済構造改善努力支援無償資金協力)として供与された資金等の一部が相当期間使用されないまま残っているものなど

(ア)事業の概要

(制度的枠組みと実績)

 外務省では、世界銀行又は国際通貨基金と連携、協調しながら経済構造改善努力を推進する開発途上国に対して、その努力を支援することを目的として、昭和62年度からノン・プロジェクト無償資金協力(経済構造改善努力支援無償資金協力)を実施している。この無償資金協力は、施設建設等事業(プロジェクト)実施のための資金の供与ではなく、相手国が上記の構造改善努力を推進するのに必要な資機材等を輸入するための代金を援助するものであることから、ノン・プロジェクト無償資金協力と称されている。
 そして、外務省では、62年度から平成15年度までの17年間で68箇国に対して4486億円を贈与している。
 また、ノン・プロジェクト無償資金協力においては、相手国政府が、無償資金により調達した資機材を国内市場で売却するなどして得た金額のうち一定額を積み立てた資金(以下「見返資金」という。)を、経済社会開発のために使用するという見返資金制度が設けられている。
 なお、10年度から、見返資金を特定分野の開発計画の実施のために集中的に活用するものを環境・社会開発セクター・プログラム無償資金協力(12年度にセクター・プログラム無償資金協力に改称)として実施している。

(事業の実施手順)

 外務省は、相手国政府と交換公文及び附属文書を取り交わした後、相手国政府が交換公文ごとに開設した日本国内の銀行口座(以下「政府口座」という。)に円貨で一括して資金を支払うこととなっている。
 そして、相手国政府は、この資金及びこの資金から発生した利息(以下、両者を併せて「資金等」という。)により必要な資機材等の調達を行うが、この調達に当たっては、相手国政府は調達代理機関を選定することとなっており、この機関が、相手国政府に代わって、資機材の調達に必要な業務を行うこととなっている。
 調達代理機関は、相手国政府から調達を希望する資機材等の品目の提示を受けた後、資機材等の代金の支払に必要な資金を政府口座から調達代理機関の口座(以下「調達口座」という。)に受け入れ、調達口座から、業者に代金を支払うこととなっている。そして、調達代理機関は調達口座における資金等の受入、支払及び残高について、四半期ごとに相手国政府及び外務省に報告することとなっている。なお、供与された資金等の使用期限については特に定められていない。
 相手国政府は、調達した資機材を自国内で民間企業等に売却するなどし、さらに、民間企業等がこの資機材を用いて生産を行うなどして経済活動を円滑に進めることにより、供与された資金等が経済構造改善に寄与することになる。

(見返資金制度)

 相手国政府は、交換公文の発効後、通常のノン・プロジェクト無償資金協力では原則として3年、セクター・プログラム無償資金協力では原則として2年を積立期限とし、調達された資機材のFOB価格(注6) の等価額を積立義務額として、相手国の通貨(内貨)で積み立てることとなっている。これは、外務省の説明によれば、供与された資金等で調達した資機材を相手国内ですべて売却した場合、おおむねFOB価格相当額の売却益が生ずるとの考えによるものである。
 見返資金は、通常のノン・プロジェクト無償資金協力では相手国における経済社会開発のために、また、セクター・プログラム無償資金協力では特定分野の開発のために、使用されることとなっているが、その使用期限については特に定められていない。
 そして、見返資金の使用に当たっては、相手国政府は日本国政府と使途協議を行うこととなっており、外務省は、その内容を調査検討し、承認することとなっている。
 また、調達代理機関は、交換公文発効後5年間は、見返資金の積立額、積立義務額及び積立義務額に対する積立額の割合(以下「積立率」という。また、以下、これらを「積立額等」という。)について毎月日本国政府に報告することとなっている。

FOB価格  輸出港停泊の本船に積み込むまでの一切の費用を含んだ価格。

(イ)調査の状況

 今回、ノン・プロジェクト無償資金協力で供与された資金等は速やかに適切に使用されているか、また、見返資金は積立期限以内に積立義務額に達するように積み立てられ、趣旨に沿って適切に使用されているかという点に着眼して、前記68箇国に対して実施されたノン・プロジェクト無償資金協力を対象に調査した。
 そして、上記68箇国のうちのブルガリア共和国ほか6箇国(注7) については現地調査をし、その他の国については外務省から関係資料の提出を受けて調査したところ、次のような状況となっていた。

ブルガリア共和国ほか6箇国  ブルガリア共和国、カンボジア王国、ジブチ、ホンジュラス、ラオス人民民主各共和国、モンゴル国、ルーマニア

(a)供与された資金等の一部が相当期間使用されないまま残っているもの

 前記のとおり、供与された資金等については、使用期限の定めはないが、援助の効果が早期に発現するためには速やかに使用され、資機材が調達されることが必要である。そして、見返資金の積立期限については交換公文発効後、通常のノン・プロジェクト無償資金協力では3年、セクター・プログラム無償資金協力では2年と定められていることから、供与された資金等は少なくともこれら積立期限までには使用されることが前提とされていると考えられる。
 そこで、交換公文発効後積立期限である3年又は2年以上が経過している、通常のノン・プロジェクト無償資金協力に係るもの60箇国3210億円、セクター・プログラム無償資金協力に係るもの20箇国496億5000万円を対象にして供与された資金等の使用状況について調査した。その結果、表1のとおり、供与された資金等が使用されず調達口座に残っているものが、ブルガリア共和国ほか15箇国で24億5297万余円あり、期待された援助の効果を発現していないと認められた。

表1 調達口座における残高状況
国名 年度
贈与額
(千円)
口座残高
(千円)
交換公文発
効後現在ま
での経過期間
(通常のノン・プロジェクト無償資金協力)
ブルガリア共和国 11 500,000 41,558 4年9箇月
ジブチ共和国 11 300,000 2,122 4年1箇月
ガンビア共和国 4 300,000 3,817 11年3箇月
ギニア共和国 12 800,000 2,634 3年
マダガスカル共和国 12 800,000 500,372 3年1箇月
モーリタニア・イスラム共和国 12 1,000,000 7,351 3年
ニジェール共和国 12 500,000 2,162 3年1箇月
マケドニア旧ユーゴスラビア共和国 12 300,000 40,626 3年2箇月
イエメン共和国 12 600,000 507,534 3年1箇月
9箇国計   5,100,000 1,108,180  
(セクター・プログラム無償資金協力)
エル・サルバドル共和国 10 1,000,000 6,212 5年
12 1,000,000 314,037 3年
エチオピア連邦民主共和国 12 1,000,000 46,085 3年
13 1,500,000 414,217 2年
パキスタン・イスラム共和国 13 5,000,000 510,748 2年1箇月
ペルー共和国 10 1,000,000 17,666 5年4箇月
セネガル共和国 13 1,000,000 881 2年1箇月
タジキスタン共和国 13 950,000 1,749 2年1箇月
ザンビア共和国 12 1,500,000 33,196 3年3箇月
7箇国計   13,950,000 1,344,795  
(注)
 16年3月現在の各国における状況について、16年度の出納官吏レートにより邦貨額に換算して表示したものである。

 このような事態となっているのは、外務省の説明によれば、相手国政府内部における調達代理契約の締結手続や資機材の選定等の調達手続に時間を要したこと、政情不安等により調達活動が一時停滞したことなどによるとしている。

(b)見返資金の積立額が積立義務額を下回っているもの

 本院は、見返資金の積立期限が経過しているものを対象にしてその積立状況を調査することにしたが、外務省では交換公文が発効して5年経過後は調達代理機関から積立額等を報告をさせることとしていない。このことなどにより、本院が調査の対象としたのは11年度から13年度までに交換公文を取り交わした31件である。
 調査した31件のノン・プロジェクト無償資金協力について見返資金の積立率をみると、100%以上のものは11件であり、残りの20件は100%を下回っている状況であった。そして、このうち75%未満のものの積立の状況は表2のとおりとなっている。

表2 積立の状況(積立率が75%未満のもの)
国名 年度
積立義務額A
(千円)
積立額B
(千円)
積立率B/A
(%)
(通常のノン・プロジェクト無償資金協力)
アルバニア共和国 11 483,915 120,428 24.9
ブルガリア共和国 11 439,370 302,141 68.8
中央アフリカ共和国 12 618,541 68,022 11.0
コートジボアール共和国 11 1,559,115 671,935 43.1
グアテマラ共和国 11 834,802 34,160 4.1
マケドニア旧ユーゴスラビア共和国 11 650,327 250,060 38.5
マダガスカル共和国 11 531,535 313,199 58.9
マラウィ共和国 12 459,095 127,142 27.7
マリ共和国 12 939,537 296,544 31.6
モンゴル国 11 1,529,857 512,396 33.5
ルーマニア共和国 11 238,835 131,306 55.0
11箇国計   8,284,935 2,827,338 34.1
(セクター・プログラム無償資金協力)
エル・サルバドル共和国 12 328,347 1,330 0.4
ヨルダン・ハシェミット王国 12 1,785,347 1,007,500 56.4
タンザニア連合共和国 12 749,280 301,847 40.3
ザンビア共和国 11 585,362 60,099 10.3
12 1,114,963 48,281 4.3
4箇国計   4,563,300 1,419,059 31.1
(注)
 16年1月現在の状況について、16年度の出納官吏レートにより邦貨に換算して表示したものである。

 外務省は、前記のとおり、調達代理機関から見返資金の積立額等の報告を毎月受けているが、積立額が積立義務額を下回っている場合でも、その理由の報告を受けることとしていないなどのため、このような事態となっている具体的理由は不明である。
 また、同省は、交換公文発効後5年を経過したものについては調達代理機関から積立額等の報告を受けることとしていないなどのため、上記5年の報告期間を経過した10年度以前のものの積立額等の具体的状況はほとんど不明である。
 15箇国のうち、ブルガリア共和国ほか2箇国については、本院が現地調査しており、相手国政府の説明によれば、資機材の引渡しを受けた民間企業等において財務状況が悪化したため代金の納付が困難となったことなどによるとしている。

(c)積み立てられた見返資金が相当額使用されないまま残っているもの

 前記のとおり、見返資金の積立期限は定められているものの、積み立てられた見返資金の使用期限は定められてはいない。しかし、ノン・プロジェクト無償資金協力の目的の一つとなっている経済社会開発目的等のために見返資金を使用するという観点からすると、見返資金を速やかに使用して効果が発現されることが必要である。そこで、見返資金の使用状況を調査するに当たって、現地調査した7箇国において、積立期限の3年又は2年経過後更に相当期間を経過しているものとして2年を経過しているものを対象にして、その使用状況を調査した。
 また、この他外務省に対して資料の提出を求めたところ、ヨルダン・ハシェミット王国に関する資料が提出されたため、これについても上記と同様に調査した。
 その結果、表3及び表4のとおり、積み立てられた見返資金が速やかに使用されず相当額残っているものが、ホンジュラス共和国ほか2箇国で51億5883万余円見受けられた。見返資金が速やかに使用されなければ、見返資金を使用してなされる経済社会開発が行われないことになり、期待された効果の発現が遅延することになる。

表3 見返資金の使用状況(通常のノン・プロジェクト無償資金協力)
  モンゴル国
年度
積立額
(千円)
使用額
(千円)
残額
(千円)
5 * * 95,863
6 * * 256,424
7
8 1,119,241 0 1,119,241
9 1,144,680 51,566 1,093,114
10 377,383 0 377,383
2,641,305 51,566 2,942,026
注(1) 16年4月現在の状況であり、16年度の出納官吏レートにより邦貨額に換算して表示したものである。
注(2) 5年度及び6年度中の*は外務省から実績額の提示がなかったものである。

表4 見返資金の使用状況(セクター・プログラム無償資金協力)
  ホンジュラス共和国 ヨルダン・ハシェミット王国
年度
積立額
(千円)
使用額
(千円)
残額
(千円)
立額
(千円)
使用額
(千円)
残額
(千円)
10 1,352,931 729,525 623,405
11 2,368,400 775,000 1,593,400
1,352,931 729,525 623,405 2,368,400 775,000 1,593,400
(注)
 ホンジュラス共和国は15年11月現在、ヨルダン・ハシェミット王国は16年4月現在の状況であり、いずれも16年度の出納官吏レートにより邦貨額に換算して表示したものである。

 このような事態となっているのは、現地調査した相手国政府の説明によれば、関係省庁での頻繁な人事異動等により担当者が交替し、具体的な使途を決めるための内部調整に時間を要したことなどによるとしている。
 また、外務省は、相手国政府における見返資金の使用状況について定期的に報告させることとしていないため、これら以外の国の見返資金の使用額及び残額は不明である。

(d)所定の使途協議がなされることなく見返資金が使用されたもの

 現地調査を実施した7箇国について使途協議の実施状況を調査したところ、表5のとおり、所定の使途協議がなされていなかったものが、ジブチ共和国及びラオス人民民主共和国で20億6632万余円見受けられた。

表5 使途協議の実施状況
  ジブチ共和国 ラオス人民民主共和国
年度
積立額
(千円)
使用額
(千円)
左のうち使途協議を経ていないもの
(千円)
積立額
(千円)
使用額
(千円)
左のうち使途協議を経ていないもの
(千円)
10 812,470 801,060 801,060
11 258,107 256,209 222,829
12 1,168,350 1,042,440 1,042,440
258,107 256,209 222,829 1,980,820 1,843,500 1,843,500
(注)
ジブチ共和国は16年1月、ラオス人民民主共和国は相手国政府から示された14年10月現在の状況であり、いずれも16年度の出納官吏レートにより邦貨額に換算して表示したものである。

 外務省の説明によれば、これら2箇国の見返資金の使用対象は学校施設建設等であり、使途協議があれば承認できるものではあったとしている。しかし、上記7箇国以外の状況については、前記(C)のとおり、もともと外務省において、見返資金の使用額及び残額について定期的に報告を受けることとしていないため、仮に使途協議が行われずに見返資金が使用されても把握できない状況となっている。

(ウ)本件事業に対する本院の所見

 ノン・プロジェクト無償資金協力制度は、相手国において実施される経済構造改善努力を支援するために必要な資金を供与するものであり、さらに、相手国の自助努力を促すことで援助の効果を高めるために見返資金制度を設け、積み立てた資金を相手国政府が経済社会開発又は特定分野開発のために活用するものである。
 ノン・プロジェクト無償資金協力は、我が国政府から供与された資金等及び相手国政府が積み立てた見返資金についての明確な使用期限は定められていないが、交換公文等によって相手国が合意したうえで資金が贈与されるものである。そして、上記の趣旨が生かされるように、相手国において見返資金が適切に積み立てられ、また、我が国政府から供与された資金等及び見返資金が速やかに適切に使用される要がある。
 したがって、前記のような事態にかんがみると、外務省においては、ノン・プロジェクト無償資金協力制度の趣旨を徹底させるように、次のとおり、より速やかで効果的な援助の実施になお一層努めていく要がある。

〔1〕 供与された資金等で相当期間経過しても使用されていないものについては、その理由を把握し、必要に応じて、速やかに使用されるように相手国政府に働きかけをすること

〔2〕 見返資金が積立義務額を下回っているものについては、積立義務額に達するまでは、相手国政府から報告させるなどして把握し、必要に応じて、積立てを促すため、同国政府に働きかけをすること

〔3〕 見返資金の使用状況を相手国政府から報告させるなどして把握し、速やかに使用されているとは認められない場合は、見返資金の使用により早期に効果が発現するよう同国政府に働きかけをすること

〔4〕 見返資金の使用に当たっては所定の使途協議が必要なことを相手国政府に一層周知すること

(4)円借款の実施において留意すべき点があると認めたもの

<農業セクター投資事業>

ア 本件借款の概要

 この事業は、チュニジア共和国(以下「チュニジア」という。)において、農業セクターの一層の成長を促すため、農業省が実施機関となって、小規模ダムの建設、地方飲料水施設の整備、地下水調査井戸の掘削を行うものである。
 銀行では、これに必要な資金として9年1月から13年6月までに43億7773万余円を貸し付けている。
 本件借款事業の実績は表6のとおり、かんがい、飲料水確保等のための小規模ダムの建設19箇所、地方飲料水施設の整備61箇所、地下水調査井戸の掘削96箇所、計176箇所となっており、1事業実施箇所(以下「サブプロジェクト」という。)当たりの平均事業費は、小規模ダムで1億8001万余円、地方飲料水施設で2371万余円、地下水調査井戸で954万余円となっている。

表6 本件借款事業の実績
対象事業 事業実施箇所数 
〔1〕
実績事業費
〔2〕
(万チュニジアディナール(DT))
邦貨換算額
〔2〕×106.9円=〔3〕
1事業実施箇所当たり平均事業費 
〔3〕/〔1〕
事業費割合
(%)
小規模ダムの建設 19 3199 34億2037万円 1億8001万円 59.1
地方飲料水施設の整備 61 1353 14億4678万円 2371万円 25.0
地下水調査井戸の掘削 96 857 9億1645万円 954万円 15.8
176 5410 57億8361万円 3286万円 100.0
換算レートの106.9円/DTは、貸付実行額総額(43億7773万余円)をチュニジアディナール(以下「DT」という。)建ての貸付実行額総額(4092万余DT)で割り算出した(以下同じ。)。

イ 調査の状況

(ア)本件借款事業に係る事業効果発現の状況について

(地方飲料水施設、地下水調査井戸の事業効果発現の状況)

 地方飲料水施設の整備については、給水量と受益者数のいずれも、実績値の合計が計画値を上回っており、個別のサブプロジェクトごとにみても著しく事業効果発現の遅れているサブプロジェクトが多く認められるという状況ではないことから、事業効果は全体として発現していると認められる。
 地下水調査井戸は、実績値が調査井戸数96本、深さ延べ2万7900mであり、計画値である調査井戸数96本、深さ延べ2万8000mと比較すると、目的は達成されていると認められる。

(小規模ダムの事業効果発現の状況)

 小規模ダム全19箇所の年間利用可能水量は、1619万m /年であるのに対し、その用途別分類は、かんがい1209万m /年、地下水かん養266万m /年及び飲料水利用41万m /年等となっており、年間利用可能水量の大半はかんがい目的となっていた。
 各小規模ダムでは、調査時点で貯水がされていると認められ、このことから地下水かん養、飲料水利用については事業効果が発現していると推測される。
 一方、水の用途別分類で年間利用可能水量の74.6%を占めているかんがいについてみると、17箇所(当初計画の数値がないなどの理由により比較できない2箇所を除く。)全体の計画かんがい面積は2654haであるのに対して、実績かんがい面積は2012haであり75.8%の達成率であった。このことから、全体数値をみると事業効果発現が著しく遅延している状況にあるとはいえない。
 しかし、この17箇所の小規模ダムごとの達成率の分布は、次図のとおりであり、個々の小規模ダムについてみると、計画かんがい面積に対する実績かんがい面積の割合が30%未満となっているものが、17箇所のうち5箇所に上っていて、事業効果の発現が遅延していると認められる。

図 小規模ダムの建設(実績かんがい面積/計画かんがい面積)

図小規模ダムの建設(実績かんがい面積/計画かんがい面積)

 この5箇所の詳細は表7のとおりであり、本件円借款対象事業費全体の邦貨換算額57億8361万余円のうち、当該5箇所の実績事業費の邦貨換算額は計9億6894万余円(うち、円借款供与相当額7億3251万余円(注8) )となっている。

 5箇所の実績事業費合計(円)に円借款供与割合(貸付実行額総額(円)/実績事業費総額邦貨換算額(円))を乗じたもの。


表7 小規模ダムのかんがいに係る達成率が30%未満となっている状況
ダム名 完成
年月
実績事業費
 〔1〕 
(DT)
邦貨換算額
 〔1〕×
106.9円
計画
かんがい
水量
(1,000m3
/年)
計画
かんがい
面積
〔2〕
 (ha)
実績か
んがい
面積
〔3〕 
(ha)
達成率
 〔3〕/〔2〕 
(%)
計画飲
料水量 
(1,000m3
/年)
計画地下
水かん養
水量
(1,000m3
/年)
a 11.5 3,302,000 3億5298万円 1,000 275 80 29.0 70
b 11.7 733,000 7835万円 250 73 20 27.3 30
c 11.7 806,000 8616万円 344 88 0 0 20
d 12.12 1,991,000 2億1283万円 197 50 6 12.0 23
e 13.6 2,232,000 2億3860万円 690 140 40 28.5 10 1,300
  9,064,000 9億6894万円 2,481 626 146 23.3 153 1,300

 上記5箇所の小規模ダムのかんがいに係る達成率が低調な理由は、受益者である地元農民が自己資金で設置することとなっているポンプ、配水管等のかんがい施設の設置が遅れていることによる。そして、銀行が実施機関に確認したところによれば、11年から14年末まで、チュニジアにおいてかんばつが4年間続いたため、かんばつが収まるまで地元農民がかんがい施設の設置を見送ったことが要因とのことである。

(イ)本件借款事業に係る事業効果発現の状況の把握について

 銀行では、実施機関から本件借款事業の完成に伴い事業完了報告書の提出を受けることとなっており、そのとおり報告書の提出を受けていた。しかし、本件借款事業はチュニジアの農業セクター全体としての発展及び実施機関の能力向上等を図るセクター・ローンであり、サブプロジェクト数が176箇所に上ることに加え、事業効果把握のための事後評価実施中であったため、本院の調査時点においては、銀行が個別のサブプロジェクトに関し事業効果が十分に発現しているか、事業効果発現を妨げている要因はないかなどについて把握していない状況であった。

ウ 本院の所見

 サブプロジェクトが多数に上る本件借款事業の効果発現の状況については全体としてみると遅延しているとは認められなかった。しかし、17箇所の小規模ダムのうち、5箇所においてはかんがいについて事業効果発現が遅延していると認められた。そして、小規模ダムについては地方飲料水施設等と比べ事業規模が大きく、また事業効果が発現するためにはかんがい施設の稼動状況に左右されるという特徴を有している。
 したがって、サブプロジェクトの事業規模、事業効果発現を阻害する要因等を検討し、必要と認めるものについてはモニタリングを効率的に行い、事業効果発現の状況に応じて相手国実施機関に適時適切な働きかけをすることが望まれる。

〔国際開発協力関係民間公益団体開発協力について〕

1 補助金の概要

 国際開発協力関係民間公益団体補助金(以下「NGO事業補助金」という。)は、政府開発援助の一環として、開発途上国に対し開発協力を積極的に推進する意欲を持ちながら、安定した財政基盤を持たない我が国の民間公益団体(NGO)に対して、経済開発・民生の安定に資するため、開発途上国において行う開発協力事業に要する経費の一部を補助するものである。これは、政府レベルの開発協力では十分に対応できない小規模案件についてNGOの活動を通じてきめ細かな援助を実施することで、開発途上国に対する開発協力を一層拡充することなどを目的とするものであり、15年度における交付実績は、2億5656万余円となっている。
 NGO事業補助金の交付手続は、外務省経済協力局制定の「国際開発協力関係民間公益団体補助金交付要綱」等に基づき行うこととなっており、これによれば、事業主体が事業計画明細書等を添付して交付申請を行い、外務省では、これを審査した上で適当と認めたものについて、補助金の交付決定を行うこととなっている。そして、事業主体は補助事業の完了後に補助事業完了報告書等を提出し、外務省は同報告書等を審査、確認の上、補助金を交付することとなっている。

2 検査の着眼点及び現地調査実績

 本院は、NGO事業補助金の補助事業の実施や経理の適否等について、外務省や事業主体に対して検査を実施するとともに、補助事業が効果を発現し、開発途上国の経済開発及び福祉の向上に寄与しているかなどについて、現地で調査を実施した。
 16年中における現地調査の実施国は、カンボジア王国及びジブチ共和国の2箇国であり、調査対象事業数及び補助金交付額は、4事業、2328万余円となっている。

3 検査の状況及び本院の所見

 事業の効果が十分発現していないと認めたもの

<小学校建設事業>

(1)事業の概要

 この事業は、民間公益団体が、ジブチ共和国のジブチ市において、同市郊外の市街化及び人口増加が見込まれる地域の未就学児童に教育機会を提供するなどのため、13年10月から16年10月までの3年間を事業期間として、6教室及び図書室等からなる小学校施設の建設を行うものである。
 本件事業は、事業主体である民間団体が補助金の交付申請に当たり提出した事業計画明細書等によると、児童に教育機会を提供するとともに、学校施設と技術者が不足する状態にある同国において、現地の資材を利用した建築工法による学校施設の建設活動を通じて経済的な学校施設の建築技術の移転、普及及び技術者の養成を図り、同国における学校施設の建設を容易にすることなどを目的としていた。
 外務省では、13、14両年度に、同団体から本件事業に係るNGO事業補助金の交付申請を受け、事業計画明細書等の審査を行った上、13年度においては、学校施設の建設のための基礎工事等に重点を置いた学校建設事業として、建設費などを補助対象経費とする交付決定を、また、14年度においては、学校の建設工事を通じた建築工法の技術移転に重点を置いた専門家等派遣事業として、技術移転のための専門家派遣費用等を補助対象経費とする交付決定をそれぞれ行っている。
 そして、外務省では、同団体から、14年3月及び15年4月に、各年度の補助事業完了報告書の提出を受け、13年度644万余円、14年度649万余円、両年度計1294万余円のNGO事業補助金を交付している。

(2)検査の状況

ア 学校施設の建設の状況

 同団体では本件事業の実施に当たり、学校施設全体の基本設計及び実施設計を行った後、13年度に補助対象である基礎工事及びく体工事(柱・梁)等を実施し、引き続き、14年度に外装工事(屋根・壁)等を通じて、補助対象である日乾し煉瓦の積み上げ作業等の建築工法の技術移転を実施して、補助事業は15年3月で終了している。一方、14年度に予定していた補助対象外である屋根等の建設工事は、契約手続が遅れたことなどにより、工期内では終了せず、15年4月以降も工事を継続し、同年6月末にほぼ完了した。しかし、同団体では残りの内装工事、電気工事、配管工事、家具の整備等については、資金が不足したため、同年7月以降工事を実施することができなくなった。
 その後、同年9月に、未完成のまま工事が中断していた学校施設の屋根構造が強風により破壊されるなどの被害が発生したため、同団体では、同年10月までに被害を受けた直後の応急処置として、自己資金により被害を受けていない屋根構造の補強を行うなどしているが、本院調査時(16年2月)においても学校施設の建設は中断したままとなっていた。
 同団体では、本件事業を継続するため、他国の援助機関等に資金の支援を要請するなどして、資金調達に努めているところであるが、必要な資金を確保できていない状況である。
 このように、本件事業については、建設資金の調達ができなかったことから、15年7月以降工事が中断し、強風による被害箇所の修繕費用も増加したため、工事再開の目途が立っておらず、同団体が13年度の補助申請時に事業を完了すると計画した16年10月時点において施設は完成していない。

イ 団体の資金手当ての状況

 外務省では、13年度の補助事業採択時における補助金交付申請書の審査の結果、同団体が本件事業の実施に当たり、14年度及び15年度についてもNGO事業補助金による支援を想定しているものと理解していた。
 同団体においても本件事業について、毎年度補助金が交付されることを期待していたが、同団体では、14年度に日本NGO支援無償資金協力等が創設されNGO支援制度の変更があったことから、本件事業が15年度からNGO事業補助金の対象ではなくなると誤解したため、補助金の交付申請を行わなかった。
 以上のとおり、13年度及び14年度に補助事業の対象となった建設工事や技術移転は実施されたと認められるものの、その後、建設工事が長期間中断していて、学校施設は完成しておらず、当該施設を使用することができない状況となっており、事業の効果が十分に発現しているとは認められない。

(3)本院の所見

 上記の事態が生じているのは、主として団体においてNGO事業補助金等に対する理解が十分でなかったことなどによるものと認められるが、外務省としては、本件事業が事業実施国に対する開発協力事業の性格を有することにかんがみ、補助事業のみならず、本件事業が完了するまで、事業の効果が十分発現するよう同団体に対し、適時適切な指導又は助言等を行う要があると認められる。