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  • 平成15年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

第5 国立大学病院及び国立病院における寝具の賃貸借等契約に係る入札談合について


第5 国立大学病院及び国立病院における寝具の賃貸借等契約に係る入札談合について

検査対象 (1) 千葉大学ほか3大学(平成16年4月1日以降は国立大学法人千葉大学ほか3国立大学法人)
(2) 国立大阪病院ほか2病院(平成16年4月1日以降は独立行政法人国立病院機構)及び国立がんセンター中央病院ほか2病院
契約の概要
入院患者の診療に必要な寝具等について、賃貸借等契約により整備、洗濯、消毒等を行わせているもの

上記に係る契約件数及び金額 (1) 16件  5億8375万円(平成9年度〜12年度)
(2) 23件  2億9407万円(平成9年度〜12年度)
上記のうち課徴金の納付対象となった年度の契約件数及び金額 (1) 13件  5億3836万円(平成9年度〜12年度)
(2) 18件  2億5756万円(平成9年度〜12年度)

1 寝具の賃貸借等契約に係る入札談合の概要

(寝具の賃貸借等契約の概要)

 国立大学の医学部等に附属する病院(以下「国立大学病院」という。)では、入院患者の診療に必要な寝具及び病衣について、毎年、一般競争入札を実施し、落札した業者と賃貸借等契約を締結(以下、契約の相手方を「受注者」という。)し、その整備、洗濯、消毒等を行わせている。また、国立病院、国立療養所及び国立高度専門医療センター(以下「国立病院」という。)では、入院患者の診療に必要な寝具について、原則として、3年に1度、一般競争入札を実施して、落札した業者を受注者として賃貸借等契約を締結し、他の年度については同受注者と随意契約により上記と同様の業務を行わせている。
 その業務の主な内容は、寝具等の各フロアーのリネン庫等への収納、使用済み寝具等の寝具処理室等への運搬、寝具のうち、シーツ、布団カバー等の週1回以上の洗濯、掛布団等の年1回以上の洗濯等となっている。

(公正取引委員会による勧告の概要)

 公正取引委員会は、東京都ほか7府県(注1) (以下「8都府県」という。)に所在する国立大学病院、国立病院、公立病院等(以下「国公立病院等」という。)における寝具及び病衣の賃貸借等契約(以下「寝具賃貸借等契約」という。)に係る入札参加業者40社に対し、平成13年8月10日に私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号。以下「独占禁止法」という。)第48条第2項の規定に基づき勧告を行った(以下「本件勧告」という。)。
 本件勧告で示された事実は、次のとおりである。
 国公立病院等が競争入札等の方法により発注する寝具賃貸借等契約について、40社が、4都県については遅くとも7年12月中旬ころ以降、残りの4府県については遅くとも8年4月1日以降、受注価格の低落防止を図るため、

(ア)当該国公立病院等と既に取引を行っている者を当該業務を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)とする

(イ)受注すべき価格は、受注予定者が定め、受注予定者以外の者は、受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する

旨の合意の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。これは、公共の利益に反して、8都府県所在の国公立病院等が競争入札等の方法により発注する寝具賃貸借等契約の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、不当な取引制限(入札談合)に該当し、独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
 40社が本件勧告を応諾したため、公正取引委員会は13年9月19日、40社に対して独占禁止法第48条第4項の規定に基づき、本件勧告と同趣旨の審決を行った。
 本件勧告では、千葉大学ほか3大学(注2) (以下「4国立大学」という。)における4国立大学病院及び国立埼玉病院ほか35国立病院(注3) (以下「36国立病院」という。)における寝具賃貸借等契約に係る入札において入札談合が行われていたとしている。

(文部科学省における取引停止措置の概要)

 上記の40社が公正取引委員会の勧告を応諾したことを受けて、文部科学省は、40社のうち4国立大学における7年度以降の寝具賃貸借等契約に係る入札に参加した実績を有する11社について、13年8月29日以降、新規に締結する契約を対象として1箇月間又は2箇月間若しくは4箇月間の取引停止の措置を執るよう国立大学等に対して通知している。そして、この通知を受けた4国立大学は、11社に対し1箇月間又は2箇月間若しくは4箇月間の取引停止の措置を執っている。

(厚生労働省における取引停止措置の概要)

 厚生労働省では、40社のうち36国立病院における7年度以降の寝具賃貸借等契約に係る入札に参加した実績を有する35社について、13年8月28日以降、新規に締結する契約を対象として2箇月間又は3箇月間の取引停止の措置を執るよう関東信越厚生局ほか2厚生局及び国立高度専門医療センターに対して通知している。そして、この通知を受けた関東信越厚生局等は、管内の各国立病院に、35社に対し2箇月間又は3箇月間の取引停止の措置を執らせたり、国立高度専門医療センターは自ら取引停止の措置を執ったりしている。

(公正取引委員会による課徴金の納付命令の概要)

 独占禁止法第48条の2第1項において、公正取引委員会は、入札談合の事実があると認められる場合には、事業者に対し、課徴金を国庫に納付することを命じなければならないとされている。そして、公正取引委員会は、本件勧告における40社のうち落札して契約を締結していた31社に対し、課徴金納付の対象となる契約を個別に特定した上で課徴金の納付を命じ、この納付命令に対して31社が同条第5項に定める審判手続の開始を請求しなかったため、本件納付命令は確定した。
 課徴金の額は、独占禁止法第7条の2第1項に基づいて、入札談合の終期から3年間遡った、9年10月19日から12年10月18日までの間における所定の方法で算定した売上額に、業種、資本の額等に応じて定められた所定の率を乗ずるなどして得た額に相当する額とされた。
 上記の課徴金算定の対象期間を含む4国立大学病院及び36国立病院における各年度の契約状況は、表1のとおりである。

表1 各年度の契約状況

(単位:円)

年度
区分
9年度 10年度 11年度 12年度 合計
4国立大学病院計 167,042,552 133,319,935 139,364,579 144,029,985 583,757,051
36国立病院計 281,912,177 359,349,579 366,252,193 320,334,223 1,327,848,172
注(1)  上記のうちには、課徴金の納付対象となっていない契約が含まれている。
注(2)  36国立病院のうちには、統廃合等の関係で契約金額が不明なものは含まれていない。

2 検査の背景、着眼点及び対象

 本院の検査は、検査対象の会計経理について、その適正を期し是正を図るために行うものであり、これまで、工事・役務の請負契約、物件の売買契約等について、予定価格の算定や契約方式の選定等が適正であるかについて検査を行ってきた。そして、検査の結果、入札、契約が適正に行われていない事態を指摘し、後にその事態が公正取引委員会の審査の結果、談合として勧告・審決に至った例もある。しかし、上記のとおり、本院の検査権限はあくまで検査対象の契約に係る会計経理に対するものであり、契約に至らない入札の前段階で入札業者間等で行われる談合の存在自体を究明することは検査の目的となっていない。
 一方、近年の入札談合に係る損害賠償請求訴訟の状況をみると、損害の存在について認容した上で裁判所の職権により損害額を認定した判例の蓄積が進んできている。
 また、本件勧告に関係する地方公共団体の過半では、受注者に対して損害の賠償請求を行っており、受注者はいずれも賠償金の支払に応じている。
 そこで、このような状況を踏まえ、入札・契約において公正な競争性を確保することは、予算の執行及び会計経理の適正を期する上で重要であることから、入札談合の事実が公の機関で確定された場合、それによって被った損害の回復を図る要はないか、入札談合に対する有効な対応策は執られているかなどに着眼して、9年度から12年度の4国立大学病院並びに国立大阪病院ほか2病院及び国立がんセンター中央病院ほか2病院(注4) (以下「6国立病院」という。)における、課徴金納付の対象となった寝具賃貸借等契約、それぞれ13件5億3836万余円及び18件2億5756万余円を含む、16件5億8375万余円及び23件2億9407万余円について検査した。

3 検査の状況

(1)落札の状況等

 4国立大学病院及び6国立病院では、入札に当たり、原則として寝具の減価償却費、洗濯費等を積み上げて1組1日当たりの積算単価を算定し、これと、業者からの参考見積りとを比較したり、前回の契約単価(1組1日当たり。以下同じ。)とを比較したりして、安価な方の単価を採用するなどして予定価格を作成していた。そして、各年度の落札価格の予定価格に対する割合(以下「落札比率」という。)をみると、入札談合がなかったとされる年度に本件勧告の対象となっていない業者が新規に参入してきている2国立大学病院及び1国立病院では、当該各年度の落札比率が大幅に下がる状況が認められた。

(2)談合による損害について

 元来、国等が工事・役務の請負、物件の売買等を競争契約に付するのは、入札等の方法によって、入札業者間の競争により、国等に最も有利な者と契約をすることを目的とするためであり、会計法(昭和22年法律第35号)においても、国の契約は一般競争契約が原則とされている。そして、業者間で入札談合を行い全入札者が高価に入札するときは、競争に付した意義を失うばかりでなく、ひいては国等の発注者に不利な結果となると認められる。
 本件勧告に事実として述べられたところによれば、寝具賃貸借等契約に係る入札談合は受注価格の低落防止を図るために行われたものとされている。したがって、本件入札談合によって形成された落札価格と純然たる競争状態で形成されたであろう価格との間に差が生じることは容易に推察することができる。
ア 入札談合事件に対する損害賠償請求訴訟における判例の状況
 談合によって形成された落札価格と純然たる競争状態で形成されたであろう価格との間に生じる差額は、本来発注者に帰すべきものであって、これを受注者の不法行為によって生じた損害あるいは受注者の不当利得として、これまでにも返還請求の対象として訴訟が提起された例はあるが、従来はこの損害額の算定が非常に困難であることなどが訴訟を提起する上での課題となっていた。
 しかし、8年の民事訴訟法(平成8年法律第109号)の全面改正(10年施行)に伴い「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」(民事訴訟法第248条)こととなった。そして、この規定に基づき裁判所が損害額を認定した判例の蓄積が進んできている。
 これらの判例において、談合による損害については、例えば「談合が行われなかった場合に形成されたであろう公正な競争を前提とする価格よりも高額な金額で請負金額を締結した蓋然性が高いものといわざるを得ず、その高額の契約金額の支払をすることによって両者の差額相当分の損害を被ったと認めるのが相当」として、損害の発生を認定している。そして、具体的な損害額については、「落札価格を形成する要因は多種多様であり、影響力についても公式化することができないことにかんがみると、入札談合の事例における損害は、その性質上、金額算定が極めて困難」であるとして、最終的には民事訴訟法第248条の規定に基づき、裁判所が損害額を認定している。
 これまで裁判所が認定した損害額は、契約金額の5%、7%、10%などとなっている。

イ 各地方公共団体の状況

 本件勧告の対象となった8都府県及び管内の49市等のうち7都府県及び25市では、地方公共団体が公立病院における寝具賃貸借等契約の受注者に対して損害の賠償請求を行い、いずれも受注者が賠償金の支払に応じている。支払われた賠償金については、上記の判例で示している契約額の5%を用いて算定している例が多いが、中には8%、10%などの例もある。
 また、表2のとおり、4国立大学病院及び6国立病院における寝具賃貸借等契約の受注者で課徴金納付の対象となった10社のうち8社は、上記の公立病院においても寝具賃貸借等契約の受注者となっており、地方公共団体から請求があった場合には、いずれも賠償金の支払に応じている。

表2 10社の都府県における損害賠償の請求に対する応諾状況等
受注者

発注者


















































































A社                      
B社                        
C社                              
D社                            
E社                            
F社                            
G社                            
H社                              
I社                            
J社                            
計10社                                
注(1)  都府県からの損害賠償に応じている受注者に◎を、4国立大学病院及び6国立病院における、課徴金納付対象となった契約の受注者に〇を付した。
注(2)  上表のほか神奈川県でも、上記10社以外の受注者より賠償金の支払を受けている。

 しかし、4国立大学では、損害が発生しているという認識がないことなどから、損害賠償請求を行っていない。
 また、36国立病院では、9年度及び12年度に一部を除き一般競争入札を実施しているが、契約単価が低下してきていること、本件勧告の対象地域に所在し、本件勧告の対象外の業者と契約している国立病院における契約単価の低下率もほぼ同様であったことから、実際の損害を被っていないとして損害賠償請求を行っていない。

(3)入札談合に対する対応策について

 近年、国土交通省、地方公共団体等においては、入札談合等の不法行為と認められる事実があったと公の機関により確定された場合に一定の賠償金を支払うよう受注者に義務付ける旨の違約金に関する特約を契約書等に明記する機関等が増えてきており、入札談合に対する対応策が進んできている。その賠償金の額についてみると、国土交通省では契約金額の10%に相当する額としており、地方公共団体でも契約金額の10%に相当する額としている団体が多いが、中には契約金額の20%に相当する額としている団体もある。
 これに対して、国立病院では、15年4月以降締結する契約から、賠償金額を契約金額の10%に相当する額とする条項を契約書に明記しているが、4国立大学では、こうした取組がなされていない。

4 本院の所見

 16年4月、国立大学は国立大学法人が設置する大学となり、国立病院は、国の機関として存続することとなった国立高度専門医療センターを除いて、独立行政法人国立病院機構が設置する病院となった。法人化された各法人においても、また、国立高度専門医療センターにおいても、経営の効率化は重要な課題の一つであり、経費削減のため、各種契約締結における競争性の確保等が強く求められる。
 そして、これまで述べたとおり、本件においては、〔1〕入札談合がなかったとされる年度に本件勧告の対象となっていない業者が新規に参入した場合には、落札比率が大幅に下がる状況が認められること、〔2〕近年の入札談合に係る損害賠償請求訴訟では、裁判所が損害額を認定する判例の蓄積が進んでいること、〔3〕本件勧告に関係する地方公共団体の過半で受注者に損害賠償請求を行い、受注者がこれに応じていることを勘案すると、これらの動向を十分に把握した上で損害賠償請求について検討することは重要である。
 また、入札談合をめぐる国の機関や地方公共団体の取組状況の進展について把握するなどして、今後の同種事態の再発に備えて、被った損害の回復を円滑に行うとともにその抑止を図るための取組を進めることも重要である。
 したがって、国立大学法人、独立行政法人国立病院機構及び国立高度専門医療センターにおいては、近年の判例や地方公共団体における状況等を十分に把握・認識し、本件入札談合において被ったと認められる損害額について、その回復を図ることの必要性を検討すること、また、国立大学法人においては、入札談合があったと確定された場合は賠償金を支払うよう受注者に義務付ける旨の契約条項を設けるなどの措置を講ずることが望まれる。

(注1) 東京都ほか7府県 東京都、大阪府、埼玉、千葉、神奈川、富山、石川、兵庫各県
(注2) 千葉大学ほか3大学 千葉、富山医科薬科、大阪、神戸各大学
(注3) 国立埼玉病院ほか35国立病院  国立埼玉病院、国立千葉病院、国立習志野病院(13年6月廃止)、国立佐倉病院(16年3月廃止)、国立小児病院(14年3月廃止)、国立横須賀病院(14年7月廃止)、国立横浜病院、国立横浜東病院(15年3月廃止)、国立金沢病院、国立山中病院(15年3月廃止)、国立大阪病院、国立大阪南病院、国立姫路病院、国立明石病院(13年3月廃止)、国立療養所東埼玉病院、国立療養所千葉東病院、国立療養所下志津病院、国立療養所東京病院、国立療養所村山病院、国立療養所神奈川病院、国立療養所久里浜病院、国立療養所南横浜病院、国立療養所箱根病院、国立療養所北陸病院、国立療養所富山病院、国立療養所石川病院、国立療養所金沢若松病院、国立療養所七尾病院、国立療養所医王病院、国立療養所近畿中央病院、国立療養所兵庫中央病院、国立療養所青野原病院、国立がんセンター中央病院、国立がんセンター東病院、国立循環器病センター、国立国際医療センター
(注4) 国立大阪病院ほか2病院及び国立がんセンター中央病院ほか2病院 国立大阪病院、国立療養所近畿中央病院、国立療養所青野原病院、国立がんセンター中央病院、国立がんセンター東病院、国立循環器病センター