検査対象 | 厚生労働省、社会保険庁 |
会計名 | 国民年金特別会計 |
事業の根拠 | 国民年金法(昭和34年法律第141号) |
事業の概要 | 老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的に、保険料、国庫負担金等を財源として国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な年金給付等を行うもの |
収納済歳入額 | 基礎年金勘定 | 16兆7459億円 | (平成15年度) |
国民年金勘定 | 5兆7676億円 | (平成15年度) | |
業務勘定 | 1502億円 | (平成15年度) | |
支出済歳出額 | 基礎年金勘定 | 15兆2174億円 | (平成15年度) |
国民年金勘定 | 5兆8176億円 | (平成15年度) | |
業務勘定 | 1455億円 | (平成15年度) | |
国民年金勘定積立金の額 | 9兆8611億円 | (平成16年7月末現在) |
1 制度の概要
(1)国民年金制度の概要
社会保険庁では、国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づき、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的として、国民年金事業を運営している。そして、この目的を達成するため、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な年金給付等を行っている。
国民年金事業の運営により実施される国民年金制度の概要は次のとおりである。
ア 基礎年金制度の導入
国民年金制度は、厚生年金保険及び共済年金の被用者年金制度に加入できない自営業者や農林漁業従事者等にも広く年金制度による保障を行うため、昭和36年に創設された。これにより、誰もが公的年金制度による保障を受けられる体制となり、「国民皆年金」が実現し、その後、年金給付水準の充実が図られてきた。しかし、我が国の公的年金制度が分立した制度体系であったことなどから、財政構造、就業構造の変化等によって財政基盤が不安定となる問題が生じた。このため、国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)等の施行(61年4月)により、自営業者等を対象としていた国民年金の被保険者を、被用者年金の被保険者等やその被扶養配偶者等にも拡大して、全国民共通の基礎的な年金を給付する制度が創設された。これにより、公的年金制度は、この基礎年金を1階部分とし、厚生年金保険等の被用者年金を基礎年金に上乗せする2階部分の報酬比例年金とする制度に再編成された(図1参照)
。
また、事務処理の面では、従来、各年金制度ごとに被保険者等の記録の管理を行っていたが、平成9年から、各制度で共通に使用する「基礎年金番号」が導入されたことにより、各制度を通じた記録管理ができることとなった。
イ 被保険者
国民年金の適用の対象となる被保険者については、一定の要件に該当する者はすべて強制加入とされ、加入形態及び費用負担の違いにより次のような種別に区分されている。
(ア)第1号被保険者
日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって、第2号被保険者及び第3号被保険者以外の者(自営業者等)
(イ)第2号被保険者
被用者年金制度の被保険者、組合員又は加入者(民間サラリーマン、公務員等)
(ウ)第3号被保険者
第2号被保険者の被扶養配偶者で20歳以上60歳未満の者(専業主婦等)
また、強制加入の被保険者とされない者で一定の要件に該当する者は、本人の申出により、国民年金の被保険者(任意加入被保険者)となることができるとされている。
ウ 保険料の納付
第1号被保険者及び任意加入被保険者は、定額の保険料(16年度月額13,300円)を納付することとされている。保険料額(月額)の推移は、図2のとおりとなっている。
また、保険料を徴収する権利は、納付期限の翌日から起算して2年を経過したときに時効によって消滅することとされている。
図2 保険料額(月額)の推移
第2号被保険者及び第3号被保険者の保険料については、被用者年金制度がその被保険者等の数に応じた拠出金を国民年金特別会計に拠出することとなっている。
エ 保険料の免除等
第1号被保険者については、支払能力に関係なく定額の保険料となっていることから、一定の要件のもとに保険料の納付の免除等を行うことが認められている。
また、保険料の免除等を受けた期間については、年金額を計算する際に、保険料を納付した期間に比して3分の1などしか反映されないことから、将来、資力が回復した場合などに、10年以内に限り、保険料の全部又は一部の追納が認められている。
免除等には、次のような、法定免除、申請免除及び学生等の保険料納付特例の三つがある。
(ア)法定免除
法定免除は、障害基礎年金等の受給権者であるときや生活保護法(昭和25年法律第144号)による生活扶助を受けるときなど、法令で定められた要件に該当していることにより当然に保険料の納付が免除されるものである。
(イ)申請免除
申請免除は、法令で定められた要件に該当している第1号被保険者の申請を受けて社会保険庁長官が承認することにより、保険料の納付を要しないこととされるものであり、全額免除及び半額免除がある。
なお、半額免除期間については、納付すべき半額の保険料を納付しなければ年金の給付額に反映されないこととなっている。
(ウ)学生等の保険料納付特例は、第1号被保険者である学生等の前年の所得が一定の額以下である場合に、保険料の納付を要しないこととされているものである。
オ 保険料の納付対象者
以上のことから、保険料の納付の対象となる者(以下「納付対象者」という。)は、14年度の場合、図3のとおり、第1号被保険者(任意加入被保険者を含む。)2236万人のうち1836万人(82%)となっている。
図3 保険料の納付の対象
カ 給付の概要
国民年金の給付には、全国民に共通の老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金(以下、これらを「基礎年金」という。)、第1号被保険者に支給される独自給付(付加年金、寡婦年金等)並びに国民年金制度の発足当時すでに高齢で受給要件を満たせない者等に支給される福祉年金があり、主な給付の概要は、次のとおりである。
(ア)老齢基礎年金
老齢基礎年金は、被保険者が老齢となったことにより、所得が減少又は喪失した場合に、生活の安定が損なわれることを防止するために支給されるものであり、保険料納付済期間、全額免除期間、半額免除期間、学生等の納付特例期間及び合算対象期間(注1)
を合わせて25年以上等の受給資格期間を満たす者が65歳に達したときに受給権者となる。
そして、老齢基礎年金の額は、受給権者の加入可能年数(20歳から60歳に達するまでの40年等)のすべてが保険料納付済期間である場合に、満額の年額794,500円(平成16年度)が支給されることとなっている。なお、保険料の免除等を受けたことにより、保険料納付済期間が、加入可能年数に満たない場合には次の式等により算定した額となっている。
なお、40年加入の場合の満額の年金額等の推移は図4のとおりとなっている。
図4 老齢基礎年金受給権者、平均年金額及び満額の年金額の推移
(イ)付加年金
付加年金は、老齢基礎年金に上乗せされる給付であり、第1号被保険者が、国民年金の保険料のほか付加保険料(月額400円)を納付した場合に、付加保険料の納付済の月数により算定した額が老齢基礎年金に加算されて支給される。
なお、老齢基礎年金に上乗せされる給付として国民年金基金(注2)
による給付があるが、国民年金基金は付加年金を代行しているものと位置付けられているため、国民年金基金の加入者は付加年金の対象とはされていない。
(2)地方分権の推進による国民年金事業の事務区分の見直し
地方分権を推進する施策は、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号。以下「地方分権一括法」という。)の施行(平成12年4月等)により、地方自治法(昭和22年法律第67号)等の改正を行い、機関委任事務(注3)
の廃止及びこれに伴う地方公共団体の事務区分の再構成、国の関与等の縮減等を行うものである。
このうち、従来、機関委任事務とされていた事務については、その廃止に伴い、地方公共団体の事務である自治事務又は法定受託事務(注4)
のほか、国が直接執行する事務、廃止される事務に再構成されることとなった。
また、地方事務官(注5)
の担っていた機関委任事務は、国が直接執行する事務とされ、地方事務官制度も廃止されることとなった。
(注3) | 機関委任事務 国の事務等であって法律又はこれに基づく政令により地方公共団体の長等に委任された事務 |
(注4) | 法定受託事務 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市区町村が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令で定めるもの |
(注5) | 地方事務官 都道府県の事務に従事する職員は、原則的には地方公務員であるが、知事への機関委任事務のうち社会保険関係事務等の特別の事務に従事する職員については、当分の間、国家公務員とすることとされていた。 |
国民年金事業の事務については、自営業者等の地域の住民を対象とするものであることから、その多くが都道府県及び市区町村に対する機関委任事務として実施されていた。そして、都道府県においては、地方事務官によって事務が行われていた。
しかし、地方分権一括法の施行に伴い、12年度以降、次のように変更された。
ア 国民年金事業の実施機関の変更
国民年金事業の事務については、国が保険者として経営責任を負い、財政収支の均衡確保のために不断の経営努力を行うことが不可欠であること、また、全国規模の事業体として効率的な事業運営を確保するためには一体的な事務処理による運営が要請されていることなどから、国が直接執行することとされた。
これにより、都道府県の機関としての国民年金主務課、社会保険事務所等において地方事務官が事務を行う体制を廃止し、12年4月から、社会保険庁の地方支分部局として、都道府県単位で地方社会保険事務局が、各地方社会保険事務局の下に社会保険事務所等がそれぞれ設置され、国が直接事務を行う体制が整備された。
また、市区町村の行っていた機関委任事務については、市区町村の事務負担(職員数約12,000人、専任徴収員約2,000人)を軽減するなどのため、原則として国が直接執行する事務とするものの、その一部を法定受託事務として市区町村が引き続き行うこととされた。
イ 事務の区分の変更
事務の区分の変更は、12年4月及び14年4月に行われ、その概要は次のとおりである(表1参照) 。
(ア)被保険者の適用に関する事務
〔1〕 被保険者資格の取得、喪失、被保険者の種別の変更等、被保険者の適用に関する事務のうち、市区町村が行っていた被保険者から提出された届出の受理及びその事実審査等については、12年4月からそのまま市区町村の法定受託事務とされた。ただし、第3号被保険者資格の取得に関する届書の受理等については、14年4月から国が直接執行する事務とされた。
〔2〕 被保険者の適用の促進に関する事務については、主として市区町村において行われていたが、12年4月以降、国における20歳到達者を把握するための仕組みの検討を踏まえ廃止することとし、14年4月から、実施体制が整ったことにより国において行うこととなった。
(イ)保険料に関する事務
〔1〕 保険料の収納に関する事務については、従来、機関委任事務又は法定受託事務として市区町村が当該年度分(現年度分)の保険料の収納を国民年金印紙の検認により行い、社会保険事務所等が、当該年度以前分(過年度分)の未納保険料等の収納を行っていた。しかし、14年4月から保険料の収納に関する事務は原則としてすべて国が直接執行することとされ、社会保険事務所等がこれを行うこととされた。
〔2〕 保険料の免除等に関する事務のうち、被保険者から提出された免除等の申請書の受理、事実審査等については、12年4月以降においても、そのまま市区町村の法定受託事務とされた。
(ウ)年金給付に関する事務
老齢基礎年金等の受給権の裁定に関する事務のうち、市区町村で行われていた裁定請求書の受理、事実審査等については、14年4月から市区町村の事務の対象範囲が表1のとおり変更された。
区分 | 適用に関する事務 | 保険料収納に関する事務 | 年金給付に関する事務 | 記録管理 | |||||||
第1号被保険者の届書の受理 | 第3号被保険者の届書の受理 | 年金手帳の交付 | 現年度保険料 | 過年度保険料 | 裁定事務 | 年金証書の交付 | 年金の支給 | ||||
第1号被保険者期間のみを有する者の裁定請求 | 第1号・第3号被保険者期間又は第3号被保険者期間のみを有する者の裁定請求 | ||||||||||
平成12年3月以前 | 市区町村 | 市区町村 | 市区町村 | 市区町村 | 社会保険事務所 | 市区町村 | 市区町村 | 市区町村 | 社会保険庁 | 市区町村(被保険者名簿) | 社会保険庁(国民年金原簿) |
12年4月〜14年3月 | 市区町村 | 市区町村 | 社会保険事務所等 | 市区町村 | 社会保険事務所等 | 市区町 | 市区町村 | 社会保険事務所等 | 社会保険庁 | 市区町村(被保険者名簿) | 社会保険庁(国民年金原簿) |
14年4月以降 | 市区町村 | 社会保険事務所等 | 社会保険事務所等 | 社会保険事務所等 | 市区町村 | 社会保険事務所等 | 社会保険事務所等 | 社会保険庁 | 社会保険庁(国民年金原簿) |
上記のように、保険料の収納に関する事務を主な対象とする国への事務移管が14年4月に行われたのは、移管のためのシステム開発等の準備期間を確保するなどの必要があったためであり、その際の事務移管は、事務の体制の変更等も含む大規模なものであった。
(3)国民年金事業に係る費用の負担
国が国民年金事業を運営するための経理については、国民年金特別会計法(昭和36年法律第63号)により、特別会計を設置し、国の一般会計と区分して行うこととされている。
そして、国民年金事業に係る費用には、年金給付等に要する費用と事務の執行に要する費用とがあり、被保険者が納付する保険料、一般会計からの国庫負担金、厚生保険特別会計や共済組合等からの拠出金等により賄うこととされている。
ア 年金給付等に要する費用
国民年金の年金給付には、前記のとおり、基礎年金、国民年金の独自給付及び福祉年金があり、それぞれ、国民年金特別会計の基礎年金勘定、国民年金勘定及び福祉年金勘定において経理が行われている。
このうち、福祉年金については、保険料の拠出が無く、給付に要する費用の全額を国が負担することとされている。
基礎年金の給付に要する費用は、基礎年金給付費(注6)
及び基礎年金相当給付費(注7)
であり、これを国民年金の被保険者全体で公平に負担することとされている。
この負担については、基礎年金給付費及び基礎年金相当給付費の総額から、一般会計からの特別国庫負担(注8)
額を控除した額(以下、この額を「保険料・拠出金算定対象額」という。)を、基礎年金拠出金として公的年金各制度から国民年金特別会計の基礎年金勘定に納付又は繰り入れることで行われる(図5参照)
。
公的年金各制度が納付又は繰り入れる基礎年金拠出金の額の算定については、算定対象者(保険料納付済期間又は保険料半額免除期間を有する第1号被保険者、第2号被保険者で20歳以上60歳未満の者及び第3号被保険者)の人数比率によりあん分して行うこととされている。
そして、受給権者への年金の給付は、基礎年金給付費に係るものは国民年金特別会計の基礎年金勘定から、基礎年金相当給付費に係るものは、同勘定から国民年金勘定に繰り入れられ又は被用者年金各制度に交付された基礎年金交付金をもとに、国民年金勘定及び被用者年金各制度から行われる。
また、国は、特別国庫負担のほか、国民年金(国民年金勘定)が負担すべき額の3分の1、厚生年金保険の管掌者たる政府、年金保険者たる共済組合等が負担すべき基礎年金拠出金等の3分の1を負担することとされている。
(注6) | 基礎年金給付費 昭和60年改正後の国民年金法(新法)に基づく国民年金の老齢基礎年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金の給付に要する費用 |
(注7) | 基礎年金相当給付費 昭和60年改正前の国民年金法(旧法)に基づく年金の給付に要する費用のうち、基礎年金に相当する給付に要する費用 |
(注8) | 特別国庫負担 国民年金の保険料免除期間に係る給付費に関する国庫負担等の基礎年金給付費及び基礎年金相当給付費に含まれる費用に関する国庫負担 |
(国民年金の独自給付に要する費用の負担)
国民年金の独自給付に要する費用の負担は、前記の保険料のほか国庫負担等によって賄われ、国民年金特別会計の国民年金勘定において経理されている。
国民年金の独自給付のうち付加年金の給付に要する費用については、納付された付加保険料のほか、年金の給付時において、付加年金給付費の4分の1を国が負担することとされている。
なお、国民年金基金加入者については、付加年金等給付費相当分の4分の1を国が負担することとされている。
イ 事務の執行に要する費用
国民年金事業の事務の執行に要する費用は、国民年金法により、毎年度、予算の範囲内で全額を国が負担することとされている。このため、国の一般会計から国民年金特別会計の業務勘定に国庫負担分が繰り入れられ、同勘定において、事務の執行に係る経理を行うこととなっている。
財政構造改革の推進に関する特別措置法(平成9年法律第109号。以下「財革法」という。)により、10年度から15年度までの間、国民年金事業の事務の執行に要する費用の一部に国の負担以外の財源を充てることとされ、また、平成16年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律(平成16年法律第22号)により、16年度に限り、同じく国の負担以外の財源を充てることとされた。
従来、国民年金特別会計の国民年金勘定から業務勘定への繰入れの対象となる経費は、国民年金事業の福祉施設に要する経費(注9)
等であったのが、これらの法令により、国民年金事業の業務取扱いに関する諸費についても繰入れの対象となった。
市区町村が行う法定受託事務の処理に必要な費用については、国民年金特別会計の業務勘定から市区町村に対して基礎年金等事務費交付金(以下「事務費交付金」という。)を交付(決算額13年度792億余円、14年度449億余円)することとされている。
2 検査の着眼点及び対象
国民年金事業については、前記のとおり、12年度及び14年度に事務区分が大きく変更された。特に、従来、市区町村が行っていた被保険者の適用の促進に関する事務、保険料の収納事務等を、14年度から国が行うこととされ、事務の執行体制が大きく変わることとなった。
また、国民年金制度を取り巻く状況については、少子高齢化が一層進行することが予想されており、国民年金法等の一部を改正する法律(平成16年法律第104号)により、年金給付と負担の見直しが図られ、年金額の自動調整の仕組みの導入、保険料額及び国庫負担の引き上げを行うこととされている。
一方、国民年金の財政状況も厳しいものとなっており、13年度から14年度にかけて現年度保険料の納付率(注10)
が70.9%から62.8%に8.1ポイントの減と大幅に低下し、15年度においても63.4%と低水準のままであったことや、強制加入である国民年金への未加入者が十分に把握されていない事態などが大きな社会問題として取り上げられている。
このような国民年金事業を取り巻く状況にかんがみると、近年における国民年金事業の実施状況や未加入者及び未納者などの状況について分析・整理して広く国民の理解に資するとともに、問題点として考えられるところを提示することが重要であると考えられる。
そこで、国民年金事業について、市区町村等から国民年金事務の移管が適切に行われているか、事業運営が適切に実施されているか、その結果としての国民年金制度の現状はどのようになっているかなどに着眼して検査することとした。
検査に当たっては、社会保険庁、社会保険業務センター、北海道社会保険事務局ほか26社会保険事務局(注11)
、国民年金の法定受託事務を行っている札幌市ほか26市区(注12)
及び国民年金基金連合会において、13年度から15年度までの国民年金事業の実施状況等を検査した。
なお、調査項目によっては、各地方社会保険事務局において把握している情報の違いなどから、調査の対象とした地方社会保険事務局数が上記の27局を下回るものがある。
(注10) | 納付率 納付率は以下の算式から計算される。 |
なお、「納付対象月数」とは、当該年度分の保険料として納付すべき月数(全額免除月数及び学生納付特例月数を含まない。)であり、「納付月数」とはそのうち当該年度中(翌年度4月末まで)に実際に納付された月数である。 | |
(注11) | 北海道社会保険事務局ほか26社会保険事務局 北海道、青森、宮城、福島、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、石川、福井、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、和歌山、鳥取、岡山、山口、徳島、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島各社会保険事務局 |
(注12) | 札幌市ほか26市区 札幌、小樽、多賀城、福島、会津若松、宇都宮、佐野、川口、上尾、船橋、市原、川崎、長岡、春日井、豊田、堺、東大阪、鳥取、米子、岡山、北九州、久留米、佐賀、長崎、大村、鹿児島各市、葛飾区 |
3 検査の状況
(1)国民年金事業の事務の移管の実施状況
14年4月に、保険料の収納に関する事務等の事務が国に移管されたことから、特に市区町村で行われていた収納方法である口座振替と納付組織による保険料の収納について、移管に際しての取扱状況を調査し、あわせて、事務移管後の人員体制等についても調査した結果、次のような状況であった。
ア 口座振替による保険料納付者の取扱いについて
事務移管前において市区町村に保険料相当額を口座振替で納付していた被保険者については、14年4月から国が保険料の収納を円滑に実施するために、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う国民年金の保険料の納付に関する経過措置に関する政令」(平成13年政令第2号)等により、口座振替の方法による納付をしない旨の申し出がない限り、引き続き国において口座振替による保険料の納付が受けられるよう措置するとともに、市区町村長に対し、被保険者の口座振替等に係る情報の提供を求めることができることとされた。
社会保険庁では、これを受け、13年度に、市区町村から口座振替に必要な被保険者の口座番号等の情報の提供を求めるとともに、国における保険料の収納を円滑に行うために必要な電話番号情報も併せて求めることとした。
そして、提供を受けた情報については、社会保険業務センターのシステムに収録するなどして、保険料の収納に関する事務を実施する際に利用することとした。
口座振替情報については、14年3月末までに社会保険業務センターにおいて取得処理した件数609万人分、口座振替の辞退等の件数9万人分であり、その結果、600万人分の口座振替情報を取得した状況となっていた。
また、13、14両年度の年度末現在の納付対象者に占める口座振替者の割合については、13年度の37.1%から、14年度の35.2%へと減少している。これは、13年度から14年度にかけての納付対象者の増加(152万人、9%増)に比べて口座振替者の増加(21万人、3%増)が少なかったことによるものである。
イ 納付組織を利用した保険料収納の取扱いについて
事務移管前の市区町村においては、自治組織、婦人組織、協同組合、納税組合等の組織が当該組織の加入者から集金して、保険料相当額の納付等を行っており、これに対して市区町村から当該組織に報奨金等の支払がなされていた(以下、このような組織を「納付組織」という。)。そこで、25社会保険事務局管内市区町村の納付組織についてみると、13年度末現在の組織数、加入被保険者数等の状況は表2のとおりであった。
区分 | 組織数 | 加入被保険者数 | 報奨金等支出額 | ||||||
非集金組織数 | 集金組織数 | 非集金組織 | 集金組織 | 非集金組織 | 集金組織 | ||||
自治組織 |
10,875 |
689 |
10,186 |
人 106,841 |
人 4,892 |
人 101,949 |
億 万円 2 2042 |
万円 219 |
億 万円 2 1822 |
婦人組織 | 10,783 | 344 | 10,439 | 127,418 | 6,417 | 121,001 | 2 8078 | 399 | 2 7678 |
協同組合 | 297 | 58 | 239 | 42,174 | 16,397 | 25,777 | 2494 | 813 | 1681 |
納税組合 | 19,505 | 254 | 19,251 | 175,056 | 2,965 | 172,091 | 2 1913 | 178 | 2 1734 |
納税貯蓄組合 | 16,015 | 1,485 | 14,530 | 136,934 | 16,884 | 120,050 | 2 1557 | 1471 | 2 0085 |
国民年金独自の組織 | 8,642 | 1,139 | 7,503 | 100,527 | 17,321 | 83,206 | 1 6360 | 1821 | 1 4538 |
その他 | 10,782 | 4,862 | 5,920 | 109,370 | 43,718 | 65,652 | 4 6152 | 5083 | 4 1069 |
計 | 76,899 | 8,831 | 68,068 | 798,320 | 108,594 | 689,726 | 15 8598 | 9989 | 14 8609 |
76,899の納付組織に798,320人(納付対象者の7.4%)が加入しており、このうち、集金による保険料の収納を行っているのは、68,068の納付組織(加入被保険者689,726人)、581,211人分(同5.3%)であり、これらの納付組織に対しては報奨金等として、計15億8598万余円が市町村から支出されていた。
地方分権の推進に当たり、総務省及び地方分権推進委員会は、国と地方との役割分担の明確化などの見地から、保険料収納のために納付組織を活用する場合は、法的位置付けを明確にした上で、国が直接管理すべきとの見解であった。
そこで、社会保険庁では、この点について検討した結果、国民年金事業の事務移管の際、法的根拠を持たない納付組織に国庫歳入金である保険料を取り扱わせることは適当ではないとの判断から、納付組織を活用しないこととした。
このため、14年度の事務移管の際、納付組織に加入している被保険者については個別に納付させることとされ、口座振替への勧奨・移行を図った。
25社会保険事務局管内の市区町村において13年度に納付組織に加入していた被保険者に係る口座振替の移行状況を集計したところ、761市町村の41,293の納付組織の加入被保険者426,326人のうち、667市町村の36,655の納付組織の217,837人から口座振替申出書を受理している状況で、納付組織に加入していた被保険者の約半分強しか口座振替に移行しておらず、残りの被保険者は自主納付になったものと推測される。
ウ 事務移管後の人員等の体制について
社会保険事務所等においては、保険料の収納に関する事務等の大部分が市区町村から移管された際、常勤職員の定員はわずかしか増加していないが、新たに創設された非常勤の国家公務員である国民年金推進員を未納保険料の収納等のために雇用したり、他部署から配置転換したりなどして、国民年金事業に従事する職員等を確保している状況である。
26社会保険事務局管内の13年度及び14年度の国民年金事業に従事する職員等数を比較したところ、表3のとおりであり、このうち、216社会保険事務所等の国民年金事業に従事する職員等数は、13年度の1,803人から、14年度の3,473人と1,670人増加(うち常勤職員の定員増は約30人)している状況であった。
区分 | 13年度 | 14年度 | 増減 | ||
第1号被保険者数(任意加入被保険者を含む) |
(人) 16,758,512 |
(人) 16,958,146 |
(人) 199,634 |
||
職員等数 | 市区町村の国民年金事業従事職員等数 | 8,777 | 5,450 | △3,327 | |
(再掲)専任徴収員等 | (1,182) | (−) | (△1,182) | ||
社会保険事務所等の国民年金事業従事職員等数 | 1,803 | 3,473 | 1,670 | ||
(再掲)国民年金推進員 | (−) | (1,366) | (1,366) | ||
計 | 10,580 | 8,923 | △1,657 |
そして、第1号被保険者(任意加入被保険者を含む。以下この項において同じ。)は、13年度の1675万人から14年度の1695万人と約20万人増加しているのに対し、管内の市区町村を含む国民年金事業に従事する職員等は、全体で1,657人減少していた。
また、上記の216社会保険事務所等ごとに、14年度に配置されている国民年金事業に従事する職員等1人当たりの第1号被保険者数を集計したところ、管内全体の職員等1人当たりの同被保険者数の平均は4,882人、社会保険事務所等ごとの最高は8,207人、最低は831人となっており、216社会保険事務所等ごとの分布状況は、図6のとおりとなっていた。
図6 216社会保険事務所等ごとの従事人員1人当たりの第1号被保険者(任意加入含む)
これによると、例えば、管内の第1号被保険者数が10万人程度の社会保険事務所等の間では、職員等1人当たりの第1号被保険者数が2千数百人から8千人(約3倍)となっているなど、社会保険事務所等間のばらつきが大きくなっている。
(2)法定受託事務の実施状況
従来、被保険者の資格に関する届書の受理等から適用、保険料の収納まで一体的に事務が行われていたのが、事務の移管により、市区町村が法定受託事務である届書等の受理までを行い、国が保険料の収納等多くの事務を行うこととなった。そこで、市区町村における法定受託事務により受理された保険料の納付督励等を行う上で必要な情報が国に送付されているかという観点から調査した。
市区町村が行う法定受託事務は、社会保険庁制定の「国民年金市町村事務処理基準」(平成12年庁保発第3号、平成14年庁保発第8号)により行われている。
そして、被保険者の適用に関する事務のうち、被保険者から提出された届書の受理及びその事実審査、社会保険事務所等への送付は、同事務処理基準によると、届書ごとの違いはあるものの、おおむね次のように処理することとなっている。
〔1〕 届書に記載された事項(被保険者の氏名、性別、生年月日等)について、戸籍簿又は住民票等により確認する。
〔2〕 市区町村において備えることとされている受付処理簿に受理又は却下通知等の年月日等を記入する。
〔3〕 〔2〕の処理をしたもののうち、受理したものについては、当該届書を社会保険事務所等に送付する。
国民年金法施行規則(昭和35年厚生省令第12号。以下「施行規則」という。)には、届出の種類ごとに氏名等が届書に記載する事項として定められているが、届書の書式については、標準的な書式を社会保険庁で作成しているものの、施行規則等には定められていない。これは、市区町村の事務等の負担を考慮するなどしたことによるものである。
27市区において、届書の記載事項等について調査したところ、書式等はすべて市区独自のものとなっているものの、記載事項については、施行規則に定められている記載事項がすべて含まれていた。さらに、施行規則に基づく記載事項ではない被保険者の電話番号情報についても届書に記載欄を設けるなどして記載事項としているものが、27市区のうち25市区に見受けられた。これは、問い合わせをする場合に利用するなどの実務上の理由によるものである。
受理された届書の取扱いについて27市区で調査したところ、9市では届書の複写を社会保険事務所等に送付しており、そのすべての届書において被保険者の電話番号情報が記載事項とされていた。
そのほかの18市区においては、受理した届書に記載されていた情報を改めて電算処理して作成した帳票を社会保険事務所等に送付していた。そして、この18市区についてみると被保険者の電話番号情報を届書の記載事項としていた16市区のうち9市区が電話番号情報を帳票に出力していたが、他の7市は出力していなかった。
上記のとおり、被保険者の電話番号情報が市区から社会保険事務所等に送付されていたのは、27市区のうち18市区(67%)にとどまっている状況であり、市区町村に資格取得届等を提出した被保険者について国が電話番号情報を把握できていないものは、相当数に上ると推測された。このように、被保険者の電話番号情報が届書の記載事項として施行規則に定められていないため、市区町村間で統一的な取扱いとされていない状況であり、このことは、後述する保険料収納対策の一つである電話納付督励の実施に大きく影響している。
(3)国が直接執行する事務の実施状況
ア 被保険者の適用に関する事務について
(ア)被保険者の適用の促進に関する事務の概要
被保険者の適用に関する事務のうち、適用の促進に関する事務は、20歳到達者、未届者(基礎年金番号の管理により把握された第2号被保険者資格喪失者等で第1号被保険者の資格取得届等の届出が行われていない者のことをいう。)及び未加入者(20歳到達者又は未届者以外の第1号被保険者であって基礎年金番号の管理により把握されていない者のことをいう。)に対する届出の勧奨及び職権による被保険者資格の適用(以下「職権適用」という。)を行うものである。
このうち職権適用は、届出の勧奨を行っても届出がなされない場合に、職権により、当該被保険者から届出がなされた時と同様に、国民年金第1号被保険者の資格取得年月日等を国民年金原簿に記録し、国民年金手帳を交付するなどして被保険者資格があることを被保険者に認知させるものである。
(イ)市区町村における被保険者の適用の促進に関する事務の実施状況
13年度まで、20歳到達者、未届者及び未加入者に対する職権適用は、市区町村で行われていた。すなわち、20歳到達者については市区町村が保有する住民基本台帳から、未届者については社会保険事務所等から送付されたリストから、また、未加入者については住民基本台帳、国民健康保険被保険者台帳等と国民年金被保険者名簿とを突合することにより、それぞれ対象者を把握して届出の勧奨及び職権適用を行っていた。
これらの適用の促進に関する事務については、社会保険庁においても、13年度まで市区町村に対して指導してきたところであり、これらの事務に係る経費等については、事務費交付金の交付額を算定の際、職権適用の状況を加味するなどして、事務費交付金の交付額に反映させることとしていた。
13年度に市区町村が行った職権適用者の人数については不明であるが、事務費交付金の中には特別事情分として、制度周知を行った職権適用者数等を対象として交付されるものがあり、この分の算定状況を把握することで、職権適用の実施状況がある程度推測できる。
そこで、27社会保険事務局管内市区町村の13年度の事務費交付金の算定基礎資料を基に、制度の周知を行った職権適用者数を調査したところ、1,962市区町村のうち、特別事情分として事務費交付金が算定されていたのは、75%の1,488市区町村(559,701人)で、20歳到達者に係るものは68%の1,348市区町村(357,024人)、未届者及び未加入者に係るものは59%の1,160市区町村(202,677人)となっていた。このことから、市区町村が適用の促進に関する事務を行っていたときには、20歳到達者に係るものだけでなく、未届者及び未加入者についても、職権適用が広範囲に行われ、人数も相当数に上っていたものと推測される。
(ウ)国における被保険者の適用の促進に関する事務の実施状況
国が行う被保険者の適用の促進に関する事務は、13年度までは、未届者に対する届出の勧奨事務だけであったが、14年度からは、実施体制が整ったことから、新たに20歳到達者に対する勧奨及び職権適用も行うこととなった。
〔1〕 20歳到達者に対する届出の勧奨及び適用の状況
20歳到達者の適用については、14年度は、市区町村から住民基本台帳に基づく20歳到達者のリストを当該20歳誕生月の前月までに提出してもらい(15年度以降は、住民基本台帳ネットワークシステムから社会保険業務センターにおいて取得し、各社会保険事務所等に配信)、リストに掲載された者に届出の勧奨を行い、それでもなお未届である者について、誕生月の翌月等までに職権適用を行うこととしていた。
調査したところ、27社会保険事務局管内の全社会保険事務所等において、20歳到達者に対する職権適用を行っていた。このうち、職権適用者の数を把握していた24社会保険事務局管内の196社会保険事務所等においては、届出の勧奨をしても届出がなかった者のうち474,411人について、職権適用を行っていた。
〔2〕 未届者及び未加入者に対する届出の勧奨及び適用の状況
9年に基礎年金番号が導入され、各公的年金制度で別々になっていた年金手帳の記号番号が統一されたため、第2号被保険者の資格を喪失した者など第1号又は第3号被保険者資格取得等の届出をすべき事由が発生した者の把握が容易となった。これにより、10年度から、届出すべき事由の発生から一定期間を経過しても未届となっている者のリストを社会保険業務センターから各社会保険事務所等に配信し、これをもとに届出の勧奨(事象発生年月から2箇月後(初回勧奨)及び初回勧奨から4箇月後(最終勧奨))を行うこととされた。また、このほか、適用事務の参考資料として、未適用者一覧表が最終勧奨状の配信から2箇月経過後、及び事象発生年月日から17箇月経過後初めて到来する2月又は8月に配信されている。
そして、14年4月から9月に届出すべき事由の発生した者について調査したところ、社会保険業務センターから配信された16年2月配信分までの上記各リストに掲載された未届者数の推移は表4のとおりとなっており、勧奨を行ってもその3分の1程度は届出がなされていない状況であった。
区分 | 勧奨対象者一覧表(初回) | 勧奨対象者一覧表(最終) | 未適用者一覧表(初回) | 未適用者一覧表(最終) |
事象発生年月から2箇月後 | 左の初回勧奨から4箇月後 | 左の最終勧奨から2箇月後 | 事象発生年月から17箇月経過後初めて到来する2月又は8月 | |
14年6月〜11月配信分 | 14年10月〜15年3月配信分 | 14年12月〜15年5月配信分 | 16年2月配信分 | |
第1号・第3号被保険者資格取得 | (人) 872,704 |
(人) 370,981 |
(人) 289,389 |
(人) 155,155 |
第1号被保険者該当 | 129,729 | 40,687 | 29,709 | 14,618 |
未加入期間国民年金適用 | 478,887 | 338,062 | 309,884 | 283,521 |
20歳国民年金適用 | 13,219 | 1,861 | 1,381 | 1,007 |
第3号被保険者該当等 | 46,233 | 17,343 | 13,850 | 9,930 |
合計 | 1,540,772 | 768,934 | 644,213 | 464,231 |
注(1) | 「未加入期間国民年金適用」とは、第2号被保険者の資格を喪失した後、第1号被保険者として又は第3号被保険者として加入すべき期間が未加入期間となったまま、再び第2号被保険者の資格を取得した者である。 |
注(2) | 「20歳国民年金適用」とは、20歳到達月から2箇月を経過しても、公的年金制度未加入の者である。 |
勧奨しても届出をしない者については、地方社会保険事務局又は社会保険事務所等の判断により、職権適用を行っているところがある。
この職権適用の実施状況について調査したところ、14年度は、27社会保険事務局のうち10社会保険事務局管内の一部の社会保険事務所等でしか行われていなかった。このうち、集計できた6社会保険事務局の39社会保険事務所等においても、職権適用者は85,052人にとどまっていた。
国において、未届者に対する職権適用が低調であるのは、20歳到達者に対する届出の勧奨及び職権適用を優先することとし、未届者については届出の勧奨までを実施することとしているためである。
そして、職権適用を行っていない社会保険事務所等によれば、未届者のリストに掲載された住所が住民基本台帳上の住所と異なっている場合があり、住所確認ができないこと、都市部では未届者が多く事務的に困難であることなどを職権適用が困難な理由として上げている。
また、14年度後半から、職権適用をやめていた地方社会保険事務局も見受けられた。
未届者のうち、資格取得等の届出をすべき事由の発生から17箇月経過した時点でも未届であった者の状況について、社会保険業務センターから各社会保険事務所等に配信している未適用者一覧表の人数を集計したところ、表5のとおり、どの時点においても45万人以上となっていた。
区分 | 13年8月配信 | 14年2月配信 | 14年8月配信 | 15年2月配信 | 15年8月配信 | 16年2月配信 |
第1号・第3号被保険者資格取得 |
(人) 133,086 |
(人) 149,344 |
(人) 136,019 |
(人) 159,987 |
(人) 148,151 |
(人) 155,155 |
第1号被保険者該当 | 16,909 | 16,965 | 14,744 | 14,750 | 12,876 | 14,618 |
未加入期間国民年金適用 | 272,277 | 280,645 | 277,009 | 278,160 | 274,699 | 283,521 |
20歳国民年金適用 | 2,518 | 1,145 | 1,058 | 839 | 955 | 1,007 |
第3号被保険者該当等 | 29,022 | 33,568 | 29,749 | 33,064 | 28,692 | 9,930 |
合計 | 453,812 | 481,667 | 458,579 | 486,800 | 465,373 | 464,231 |
注(1) | 「未加入期間国民年金適用」とは、第2号被保険者の資格を喪失した後、第1号被保険者として又は第3号被保険者として加入すべき期間が未加入期間となったまま、再び第2号被保険者の資格を取得した者である。 |
注(2) | 「20歳国民年金適用」とは、20歳到達月から2箇月を経過しても、公的年金制度未加入の者である。 |
(未加入者に対する届出の勧奨等)
未加入者については、市区町村においてもすべてが届出の勧奨等を行っていたものではないが、14年度以降は、国において住民基本台帳及び国民健康保険被保険者台帳と国民年金原簿との突合を行うことができないため、届出をすべき事由が発生した者の把握ができず、届出の勧奨及び職権適用を行っていない。
このように、20歳到達者以外の者に対する職権適用については、13年度以前の事務移管前においても、市区町村により取扱いが異なっていたが、事務移管後においては、社会保険事務所等間で一層取扱いが異なっている上に、件数が大幅に減少している状況となっている。
イ 保険料に関する事務について
保険料の収納に関する事務については、14年4月から現年度分及び過年度分のすべての保険料の収納が原則として国が直接執行する事務とされたことに伴い、14年4月以降国において、未納者対策として様々な納付督励を行っている。
この納付督励は、すべての未納者に面談して行うことは困難であることから、催告状の発行による催告を定期的に行い、未納者のうち比較的対応が容易な新規未納者(初めて未納が発生した者等)や短期未納者(3箇月から12箇月未満の未納月数を有する者等)に対しては、電話納付督励を行う。それでも保険料を納めない者や電話納付督励が実施できない者に対しては、国民年金推進員等による戸別訪問や集合徴収で面談による納付督励を行うことにしている(図7参照)
。
主な納付督励の実施状況は以下のとおりとなっている。
(ア)電話納付督励
電話納付督励は、保険料の未納期間の長期化を防止し、収納の確保を図る観点から、納付期限を経過しても納付しない者のうち、比較的対応が容易であり、早期に対応することにより納付に結びつく可能性が高いと思われる新規未納者及び短期未納者を対象として、地方社会保険事務局がその業務を委託等することにより実施されている。そして、電話納付督励の対象者は、各地方社会保険事務局等が設定した条件にしたがって抽出され、社会保険業務センターから各地方社会保険事務局に配信される国民年金電話納付督励調査票(以下「調査票」という。)をもとに毎月、委託業者等が電話による納付督励を行っている。なお、調査票に電話番号情報が記載されていない被保険者については、地方社会保険事務局等において、電話番号調査を実施し、電話番号情報が判明した未納者を電話納付督励の対象としている。
そして、社会保険事務所等では、電話納付督励の実施結果を納付督励の事蹟(せき)として社会保険オンラインシステムの端末(以下「窓口装置」という。)から入力し、各種の納付督励を実施する際の参考情報としている。
14年7月からすべての社会保険事務局において電話納付督励が実施されており、その委託経費等は8億7908万余円であった。
17社会保険事務局において、14年度に配信された調査票は、5,783,434件であったが、このうち、委託業者等により電話納付督励が行われたのは1,532,106件(配信された調査票の26.5%)のみであった。配信された調査票に基づく委託業者等による電話納付督励の実施状況は図8のとおりであった。
図8 17社会保険事務局の調査票に基づく電話納付督励の実施状況
すなわち、電話番号調査を行っても電話番号情報が判明しなかったものが2,096,965件(36.3%)に上っており、判明した3,686,469件(63.7%)のうちにも、保険料の納付が確認されたなどの理由により対象から除外されたものが、2,088,983件(36.1%)と多数に上ったほか、委託契約の予定件数を超えるなどの理由により実施されなかったものもあったため、実施率が26.5%にとどまっていた。
被保険者の電話番号情報の把握率が高くないのは、法定受託事務の届書における電話番号情報の取扱いが区々であることの影響もあると考えられる。また、事務の移管の際に、被保険者の電話番号情報が十分に国に引き継げなかったのではないかと推測される。
この結果、電話番号情報を把握することができなかった2,096,965件については、納付督励の方法が、郵便物を通信手段等に使うもの(催告状、集合徴収)及び戸別訪問(国民年金推進員、職員)に限られることになる。
23社会保険事務局において、14年度に委託業者等により実施された電話納付督励は1,798,860件であり、その結果、未納者と接触できたのは1,098,329件(61%)、接触できなかったのは700,531件(39%)となっていて、接触できた1,098,329件に対する納付督励の事蹟(せき)内訳は、図9のとおりであった。
図9 電話納付督励において接触した1,098,329件の督励事蹟(せき)内訳
納付督励の事蹟(せき)区分のうち、「納付約束」(433,524件、接触できたものの39%)及び「態度保留」(216,987件、同20%)については、それぞれ明確な定義がない。そのため、納付期限を明らかにしないまま「支払う」とした回答の場合、地方社会保険事務局や電話納付督励を行った者の判断によりどちらの区分とするか異なっていて、地方社会保険事務局によっては、単に電話納付督励を行ったという情報でしかないものも見受けられた。
また、「納付済」(197,953件、接触できたものの18%)については、被保険者が既に納付した旨を回答したものである。しかし、地方社会保険事務局ごとにばらつきがあり、「納付済」の割合が最も高い地方社会保険事務局では36%、最も低い地方社会保険事務局では2%、全体では18%となっており、これに係る委託費は約4200万円に上っていた。
このような状況となっているのは、保険料が納付済であるか否かについてあらかじめ確認を行わずに電話納付督励を実施していたためであると考えられる。
一方、社会保険事務所等においても、電話納付督励を行っている。この場合の督励の対象は、必ずしも地方社会保険事務局の行う電話納付督励と同じではないが、事前に窓口装置で納付状況を確認するなどしているため、19社会保険事務局の115社会保険事務所等における接触できた件数に占める「納付済」の割合は5%となっていて、地方社会保険事務局が行う電話納付督励の場合よりも低くなっていた。
このように、電話納付督励については、14年度から実施されていて開始後間もないという事情はあるが、未納者の電話番号情報の把握が十分でないなどのため、配信された調査票の件数に比べて実施件数が少なく、納付督励の事蹟(せき)も「納付済」の件数が相対的に多くなっており、効率的なものとはなっていないと認められる。
(イ)国民年金推進員の活動
市区町村が保険料の収納に関する事務を行っていた13年度までは、非常勤の専任徴収員等により納付督励等が行われており、26社会保険事務局管内における13年度の専任徴収員等は計1,182人であった。国への事務の移管後は、保険料の収納対策の一環として、国民年金推進員が設置された。
国民年金推進員は、非常勤の一般職の国家公務員であり、任用期間は6箇月(再任は妨げない)で、その職務は、国民年金制度の周知、口座振替の促進、各種届出の指導及び相談、保険料の納付督励及び収納等を行うこととされている。
国民年金推進員(全体で14年度1,858人、15年度1,948人)は各社会保険事務所等に配置され、主に未納者に対する納付督励及び未納保険料の収納を行っている。
14年度は国民年金推進員による活動の初年度で、研修が実施されたことなどから1年間を通した活動を行うことはできなかったが、18社会保険事務局の140社会保険事務所等においては、870人の国民年金推進員により2,914,029件の戸別訪問が行われ、このうち未納者と接触できたのは1,217,781件(41%)で、そのうちの86,127件から計22億5479万余円の保険料の収納を行っていた。接触できた1,217,781件に対する納付督励の事蹟(せき)内訳は、図10のとおりであった。
図10 国民年金推進員の戸別訪問において接触した1,217,781件の督励事蹟(せき)内訳
また、19社会保険事務局の126社会保険事務所等の国民年金推進員のうち、14年4月1日から1年間を通して任用していた531人の人件費(旅費、物件費等を除く。)及び戸別訪問時の保険料収納額等について調査したところ、計11億3454万余円の人件費に対し、保険料収納額は計20億5643万余円(152,538月分)であった。国民年金推進員1人当たりでみると、平均387万円の収納額で、173万円程度人件費を上回っていた。
個人別の収納額をみると、最高が1735万余円、最低が0円(3人)となっており、個人別の収納額から人件費を差し引いた額の分布状況を集計したところ、図11のとおりであった。
図11 国民年金推進員の収納額から人件費を差し引いた額の分布状況
これによると、前記のとおり全体としては人件費より収納額が上回っていたが、個人別に見ると、国民年金推進員531人のうち194人(36%)については、人件費に満たない収納状況となっており、また、国民年金推進員間の保険料収納額の差も大きいことから、未納者からの保険料収納については、研修を充実させるなどして一層効率的な活動となるよう工夫する必要があると認められる。
地方社会保険事務局で行われる電話納付督励の対象となる未納者のうち、社会保険事務所等に配置される国民年金推進員による納付督励との連携が必要となる未納者は、戸別訪問でないと納付督励が行えない電話番号情報不明者、納付約束者のうちの約束不履行者及び態度保留者であると思われる。
12社会保険事務局の108社会保険事務所等の電話納付督励の実績に基づいて、連携が必要であると思われる未納者を集計したところ、電話番号情報不明者が156万件、納付約束者が27万件、態度保留者が12万件、計197万件となっていた。
一方、上記108社会保険事務所等における国民年金推進員の実績は、戸別訪問241万件のうち面談することができたのが98万件という状況であり、戸別訪問においてすべての電話番号情報不明者と面談することは困難な状況となっている。
実際の社会保険事務所等における国民年金推進員の戸別訪問対象者の選定状況を見ると、電話番号情報が分からない者及び納付を約束した者等を優先しているところはあるものの、大半の社会保険事務所等では、電話納付督励の実施の有無と実施時期、事蹟(せき)区分は、選定後等の参照事項とするにとどめていた。
納付を約束した者については、電話納付督励の実施の有無と実施時期、事蹟(せき)区分の情報が共有されているものの、保険料の納付が確認されておらず、さらに、約束した内容の詳細が分からないことなどから、納付督励の事蹟(せき)を国民年金推進員の戸別訪問に利用できないものも見受けられた。
このように、被保険者の電話番号情報の把握率が高くないと戸別訪問の対象とすべき者が多すぎて十分な対応が困難となるため、被保険者の電話番号情報の把握について工夫する必要があると認められる。また、納付督励の事蹟(せき)については、保険料の納付状況を確認し、より詳細な情報を担当者間で引き継ぐなどして、納付督励を効率的に行う必要があると考えられる。
(ウ)集合徴収
集合徴収は、一定の条件で抽出した未納者に案内状等を送付し、当該実施日に市区町村の公共施設に来訪してもらうことにより納付相談等を行い、未納保険料の収納等を行うものである。市区町村が保険料の収納に関する事務を行っていた13年度までは、市区町村が他の公金の収納と併せて実施したり、社会保険事務所とともに過年度分の未納保険料の収納と併せて実施したり、更に年金相談も行ったりしていた。
14年度以降、国に事務が移管された後においても、集合徴収は、市区町村との協力・連携を図りつつ、地域の実情に応じて効率的かつ効果的に実施することとされている。
23社会保険事務局管内においては、14年度に4,747,239人の未納者に対し案内状を送付し、3,078回集合徴収を行っていた。その結果、69,699人(対象者の1.4%)が来訪し、このうち、28,633人(対象者の0.6%)から計16億8119万余円の保険料を収納していた。
また、納付対象者規模別の社会保険事務所等における集合徴収の状況は、表6のとおり、管内の納付対象者数が多い社会保険事務所等ほど、収納額が高い傾向がある。これは、未納者の所得等の違いもあるが、納付対象者数が多いほど納付督励が速やかかつ十分には行われていないことが背景にあると考えられる。
集合徴収を実施する社会保険事務所等管内の納付対象者数別の区分 | 案内状送付件数 | 来訪者数 | 納付者数 | 収納金額 | 1社会保険事務所等当たり収納額 |
10万人以上(30)注 | 件 1,714,560 |
人 18,807 |
人 10,082 |
億 万円 6 5525 |
万円 2184 |
5万人以上10万人未満(74) | 1,863,677 | 28,194 | 10,583 | 5 7858 | 781 |
5万人未満(89) | 1,169,002 | 22,698 | 7,968 | 4 4735 | 502 |
合計(193) | 4,747,239 | 69,699 | 28,633 | 16 8119 | (平均)871 |
なお、14年度においては、市区町村との連携・協力については、市区町村の他の公金の収納と併せて実施していた例はなく、市区町村による場所の提供にとどまっていた。
(エ)強制徴収
滞納処分については、過去、市区町村が保険料の収納に関する事務を行っていた昭和63年から平成2年にかけて、3世帯5人の被保険者について行われたのみで、それ以降は、行われていなかった。
社会保険庁では、納付状況が極めて厳しい状況であることにかんがみ、15年度は、特に必要と認められる者に対して、国民年金法に規定する督促及び滞納処分を実施することとした。
その際の強制徴収の対象者については、14年度分の保険料が全期間未納となっている者で、かつ、相当程度の所得や資産があり、度重なる納付督励によっても年金制度に対する理解が得られない者等から、戸別訪問による納付督励の事蹟(せき)などをもとに総合的に勘案し、選定することとしている。
強制徴収は、社会保険事務所等において、選定した対象者に対し、最終催告状及び未納期間に係る納付書を発行し、納付督励を行っても保険料を納付しない者に対して指定期限を定めた督促状を発行する。そして、督促状の指定期限までに保険料を納付しない者のうち、滞納処分の着手が適当であると認められる者に対して、差押予告通知書を発行し、国税滞納処分の例により処分を行うこととされている。
16年6月末日までに最終催告状が発行された者は、全体で9,654人にとどまっていた。27社会保険事務局においては、6,788件発行されていて、未納者数の多寡にかかわらず1社会保険事務所等当たり30件を目途に発行されていた。
対象者の選定方法は、主に、戸別訪問などの納付督励の事蹟(せき)によっており、地方社会保険事務局等内において把握できる情報(診療報酬の支払に関する情報、国民年金基金連合会から毎年送付される国民年金基金加入者の国民年金保険料未納者一覧表、公開されている公職者の情報等)の活用については、各地方社会保険事務局で区々となっていた。また、市区町村等への所得照会については、回答を拒否されていた。
最終催告状を発行した9,654人のうち、督促状が発行された者は全体で394人であり、他の9,260人については督促状は発行されなかった。
この督促状が発行されなかった9,260人の内訳は、表7のとおり、納付及び納付の意思を示した者が5,666人(58.7%)となっていたほか、被保険者等の所得が事前に把握できなかったこともあって、戸別訪問の結果、免除該当者等であることが判明した者が2,559人(26.5%)の多数に上っている状況であった。
区分 | 最終催告状発送者数 | 左の内訳 | 差押予告実施者数 | 差押執行者数 | |||||||
納付及び納付の意思有り | 免除該当等 | 喪失等 | 不在等(未接触) | 督促状発送者数 | |||||||
完納者数 | 一部納付者数 | 納付誓約者数 | 小計 | ||||||||
実施対象者数 |
人 9,654 |
人 991 |
人 4,003 |
人 672 |
人 5,666 |
人 2,559 |
人 195 |
人 840 |
人 394 |
人 70 |
人 29 |
上記集計の社会保険事務局数 | 47 | 47 | 47 | 37 | 47 | 46 | 31 | 37 | 38 | 15 | 12 |
最終催告状発送者に占める割合 | % 100.0 |
% 10.3 |
% 41.5 |
% 7.0 |
% 58.7 |
% 26.5 |
% 2.0 |
% 8.7 |
% 4.1 |
% 0.7 |
% 0.3 |
16年6月末現在において、督促状が発行された394人のうち、差押予告を行った者が70人、このうち差押えにまで至ったのが29人であった。そして、督促状が発行された394人に対する督促金額1億2066万余円に対して保険料3351万余円(督促金額の27.7%)が納付されていた。なお、差押えまで行われた29人に係る督促金額は、892万余円であった。
(4)保険料の収納等及び受給資格の状況
ア 保険料の収納状況
(ア)未納保険料等の状況
15年度の保険料の収納額は1兆9626億余円であり、その内訳は、現年度保険料1兆7975億余円、過年度保険料1384億余円、免除者等からの追納保険料266億余円であった。
一方、保険料の納付義務が発生してから時効消滅により請求できなくなるまでの保険料債権に対する未納保険料の状況をみると、14年度末の2兆1273億余円に対し15年度末は2兆2926億余円となっていて、1652億余円(7.7%)増加していた。
そして、15年度における保険料債権に対する収納等の状況は、14年度末の2兆1273億余円、15年度に発生等した保険料債権2兆9755億余円、計5兆1029億余円の保険料債権に対し、保険料収納済額1兆9626億余円、時効による不納欠損額8475億余円、未納保険料2兆2926億余円となっている。特に保険料債権に対する保険料収納済額の占める割合(以下「保険料収納額割合」という。)が38%と低くなっていた。保険料収納額等の昭和61年度から平成15年度までの推移は、図12のとおりである。
図12 保険料収納額、未納保険料額、不納欠損額及びその割合の推移
15年度に保険料収納額の減少が下げとどまったものの、保険料収納額割合は10年度から50%を下回ったまま下がり続けている。そして、未納保険料額は3年度から、不納欠損額は5年度から増加し、14年度においては未納保険料額が急増して保険料収納額を上回るに至り、15年度はその差が更に拡大している状況となっている。
また、昭和61年度と比較すると、保険料債権の規模は2.4倍に拡大しているなか、保険料収納額は1.6倍にとどまっており、未納保険料額は3倍、不納欠損額は3.8倍と大幅に拡大している。
(イ)1箇月分以上の保険料の未納者の状況
時効までの2年間に係る保険料のうち1箇月分以上の保険料が未納となっている被保険者について調査したところ、表8のとおり、平成13年度9,272,129人、14年度10,966,099人、15年度11,296,002人であり、15年度と13年度を比較すると、2,023,873人と21.8%増加している状況である。
区分 | 第1号被保険者数 | 1箇月分以上の保険料の未納者 | ||||
未納月数別内訳 | ||||||
1〜6箇月 | 7〜12箇月 | 13〜18箇月 | 19〜24箇月 | |||
13年度 |
人 22,073,886 |
人 9,272,129 |
人 2,663,766 |
人 2,033,171 |
人 744,668 |
人 3,830,524 |
14年度 | 22,367,916 | 10,966,099 | 2,952,627 | 2,787,301 | 936,020 | 4,290,151 |
15年度 | 22,399,900 | 11,296,002 | 2,888,319 | 1,869,017 | 1,232,505 | 5,306,161 |
13年度からの増減(増減率) | 326,014 (1.5%) |
2,023,873 (21.8%) |
224,553 (8.4%) |
△164,154 (△8.1%) |
487,837 (65.5%) |
1,475,637 (38.5%) |
(ウ)不在被保険者の状況
被保険者のうち、転出しても住所変更届が提出されなかったりなどして、居所が不明であることが判明した者については、不在被保険者として扱い、居所が判明するまでの間は、納付書等の発送、納付督励等を行うことができない。
この不在被保険者の状況は、13年度696,077人(納付対象者の4.1%)、14年度694,430人(同3.7%)及び15年度719,863人(同3.9%)となっていた。
(エ)国民年金基金加入者の保険料の納付状況
国民年金基金の加入者は、14年度から、加入している国民年金基金に国民年金の保険料の納付を委託することができるようになったが、国民年金基金に納付の委託を希望しない者は、国民年金基金の掛金の納付とは別に国へ保険料を納付する必要がある。国民年金基金においては、保険料が未納であった期間に係る国民年金基金の掛金については、国民年金基金からの給付には反映することができないこととされているため、時効により国民年金の保険料債権が消滅した場合、消滅した保険料債権に係る期間に納付された国民年金基金の掛金は返還することとされている。
国民年金基金加入者の国民年金基金への保険料の納付委託状況は、16年2月現在、掛金を納付している752,050人の加入者のうち、5.4%の41,245人のみであった。
保険料の時効による消滅等の状況は、表9のとおり、15年度において、16,530人の83,032月分の保険料が2年間納付されず、時効により消滅していた。
また、15年度において、国民年金基金への掛金を納付したにもかかわらず、保険料が未納である者が34,502人の219,312月分見受けられた。
区分 | 現存加入員数(15年12月末) | 掛金納付者のうち保険料の未納人数 | 左の者に係る保険料の未納月数 | 掛金納付者のうち保険料の時効消滅分がある人数 | 左の者に係る保険料の時効消滅月数 |
地域型国民年金基金(47基金)計 現存加入員に対する比率
|
人 634,215 |
人 29,501 (4.6%) |
月 184,360 |
人 14,290 (2.2%) |
月 70,271 |
職能型国民年金基金(25基金)計 現存加入員に対する比率
|
122,045 | 5,001 (4.0%) |
34,952 | 2,240 (1.8%) |
12,761 |
合計 現存加入員に対する比率
|
756,260 | 34,502 (4.5%) |
219,312 | 16,530 (2.1%) |
83,032 |
なお、国民年金基金連合会では、掛金の返還を防止するため、保険料の納付督励に資するよう、毎年7月に、国民年金基金加入者の国民年金保険料未納者一覧表を各社会保険事務所等に送付している。
イ 保険料の免除等の実施状況
(ア)免除の実施状況
保険料の免除等のうち、申請免除については、14年度から、比較的低所得の被保険者の負担能力への配慮がきめ細かく行えるよう、半額免除制度が導入された。これに伴い、全額免除の基準については、全額免除対象者と半額免除対象者を明確に区分する必要があることや申請手続の簡素化等の観点から、原則として前年の所得に基づいて免除の判定を行うこととし、それ以外は失業、天災等を事由とする場合に限定し、その要件も政令等で明確にされた。これにより、13年度までは、所得等で免除に該当しない場合でも、当該世帯の事情を考慮して当該被保険者の保険料を免除することができるとされた特例(以下、これを「特例免除」という。)は、14年度から廃止された。
免除は、市区町村において、被保険者から提出された免除等の申請書の受理やその所得確認等を行った後、社会保険事務所等において、審査等を行い、免除の承認を行うこととされている。
14年度以降、免除申請の際、被保険者は全額免除か半額免除を申請することとなるが、全額免除申請に当たっては、全額免除のみの申請を行うか、全額免除に該当しない場合には半額免除の申請を行うかなどを選択することとなった。
13年度から15年度の免除者等数の推移は図13のとおりである。
図13 13年度から15年度の免除者等数の推移
14年度は、特例免除が廃止されたことにより全額免除数が13年度より133万人減少したが、新設された半額免除も34万人にとどまったことから、免除者等数は、全体として88万人減少した。15年度の免除者等数は、14年度より42万人増加しており、免除申請等の勧奨が重点的に行われたことが推測される。
(イ)半額免除者の納付状況
半額免除は、前記のとおり、14年4月から導入されたものであるが、納付すべき半額の保険料を納付しなければ年金の受給額に反映されないこととなっている。
半額免除者の納付率については、14、15両年度それぞれ36.4%及び39.2%であり、全体の納付率よりそれぞれ26.4ポイント、24.2ポイント低い状況であった。
これは、免除を申請する被保険者の多くが「全額免除を申請するが、全額免除に該当しない場合には、半額免除を申請する」という内容の免除の申請を行っているが、そのような被保険者において、保険料の半額を納付しないと未納と同じ扱いとなることが十分に認識されていないことによると思われる。
このような保険料の未納等により、当該半額免除者については、老齢基礎年金の受給要件である25年以上等の受給資格期間を満たさなくなり、公的年金の受給権を得られない者や低額な年金しか受給できなくなる者が増加することが予想される。
ウ 第1号被保険者及び第3号被保険者の老齢基礎年金の受給資格状況
未届、未加入及び保険料の未納は、保険料納付済期間の算定に影響する。そこで、社会保険庁が納付督励等の業務の際、その対象者の抽出に利用している受給資格判別区分のデータから、60歳未満の者である第1号被保険者及び第3号被保険者の老齢基礎年金受給資格の有無等について調査したところ、表10のとおりとなっていた。
区分 | 未納保険料及び現年度以降の保険料を納付した場合等に受給資格有り | 任意加入した場合等に受給資格有り | 老齢基礎年金の受給資格がない件数 | 合計 |
13年度 |
件 105,564 |
件 789,005 |
件 390,558 |
件 1,285,127 |
14年度 | 105,319 | 793,519 | 391,284 | 1,290,122 |
15年度 | 122,682 | 792,731 | 392,831 | 1,308,244 |
なお、表10の数値には他の被用者年金制度の加入期間等が反映されていないが、それを考慮してもなお、老齢基礎年金の受給資格がないと認定される件数及び老齢基礎年金の受給資格を満たさなくなることが見込まれる件数が、相当数存在していると推測される。
(5)国民年金事業の収支状況について
ア 国民年金事業について
(ア)基礎年金勘定について
基礎年金の給付に係る収入及び費用については、国民年金特別会計の基礎年金勘定において経理されており、15年度の拠出金等の収入総額は16兆7459億余円、基礎年金給付費等の支出総額は15兆2174億余円となっていて、収支残1兆5285億余円は翌年度に繰り入れている。
基礎年金の給付に要する費用、基礎年金拠出金及び基礎年金拠出金の算定対象者の状況は、図14のとおりであり、基礎年金の給付に要する費用が増加しているため、基礎年金拠出金も年々増加しているが、同算定対象者は7年度をピークに9年度以降減少している。
図14 基礎年金の給付に要する費用、基礎年金拠出金及び基礎年金拠出金の算定対象者の推移
そして、図15のとおり、基礎年金拠出金算定対象者1人当たりの保険料・拠出金算定対象額である基礎年金拠出金単価(月額)は、同算定対象者の増加(9年度以降は減少)よりも、基礎年金の給付に要する費用の増加による保険料・拠出金算定対象額の増加の方が上回ったため、制度発足当初から一貫して増加しており、14年度で21,450円となっている。
図15 基礎年金拠出金単価(月額)の推移
国民年金分の基礎年金拠出金の算定対象者数については、第1号被保険者数のうち保険料の納付を要しない保険料の免除者等及び未納者は同算定対象者数に算定されないが、過年度保険料の納付者及び追納保険料の納付者(第1号被保険者に限らない)は算定することとされている。第1号被保険者数と、同算定対象者のうち国民年金分の人数の推移を示すと図16のとおりであり、2年度から両者の人数の差が年々大きくなっており、近年においては、第1号被保険者数は増加しているが、同算定対象者数は減少するという正反対の傾向を示している。これは、保険料の免除者等及び未納者の増加によるものと考えられる。
図16 第1号被保険者数と基礎年金拠出金の算定対象者数(国民年金)の推移
(イ)国民年金勘定について
国民年金勘定においては、保険料収納、国民年金の独自給付、基礎年金相当給付等の経理が行われている。
国民年金勘定に係る収入及び支出については、15年度の保険料等の収入総額は5兆7676億余円、支出総額のうち給付費に係るものなどは5兆7407億余円、福祉施設費及び国民年金事業の事務の執行に要する経費の負担分は769億余円であった。
保険料等の収入総額の推移は図17のとおりであり、収入総額は8年度をピークに減少している。基礎年金給付費が増加しているため、国庫負担が増加して一般会計からの受入れが増加しているが、運用収入は9年度から半減している。そして、被保険者数は増加しているのに保険料収入は12年度をピークに1兆9500億円前後で推移している。
図17 国民年金勘定の収入総額と第1号被保険者数の推移
給付費等の支出総額の推移は図18のとおりであり、6年度以降は5兆9000億円前後で推移しているが、国民年金受給権者の増加により基礎年金給付費に充てるための基礎年金勘定への繰入れが増加している。また、財革法等による影響により、福祉施設費及び国民年金事業の事務の執行に要する経費の負担分が年々増加しているため、業務勘定への繰入れが増加している。
図18 国民年金勘定の支出総額と国民年金受給権者数の推移
国民年金勘定では、14年度484億余円、15年度500億余円の収支不足が生じ、2年続けて積立金から補足せざるを得ない状況となっている。その結果、業務勘定の剰余金の積立金への組入れを加味しても、15年度381億余円、16年度496億余円、計878億余円を積立金から補足する結果となり、14年度末における9兆9490億余円の国民年金勘定の積立金は、16年7月末において9兆8611億余円となっていた。
イ 国民年金事業の事務の執行に要する費用等について
国民年金事業の事務の執行に要する費用、福祉施設費等については、業務勘定において経理されている。
業務勘定の収支状況についてみると、15年度の収入は1502億余円、支出は1455億余円となっており、収支差から事故繰越分を控除した44億余円の剰余金のうち、翌年度への繰入れが41億余円、国民年金積立金への組入れが3億余円であった。
市区町村から収納した国民年金印紙の検認額は、同額を国民年金勘定に繰り入れることから、これを除いた収入の推移を示すと図19のとおりであり、9年度をピークとして減少傾向にあるが、9年度以降国庫負担分が減少する一方、国民年金勘定より繰入れが増加し、国民年金勘定の負担が増加している。
図19 業務勘定の収入の推移
支出の推移は図20のとおりであり、全体としては収入と同じ傾向を示している。業務取扱費については13年度まで増加していたが、14年度以降は、市区町村から事務が移管されたことから、経費の増加額よりも事務費交付金等が大きく減少したことにより減少している。
図20 業務勘定の支出の推移
国民年金事業の事務の執行に要する費用に対する国庫負担と国民年金勘定による保険料等の負担の状況は、図21のとおりであり、財革法等による特例措置のため10年度から一般会計の国庫負担の割合が低くなり、14年度からは5割程度にまで低下している状況である。
図21 国民年金事業の事務の執行に要する費用における負担割合(当初予算ベース)
したがって、国民年金事業においては、積立金の運用益が減少していることから、その減少以上に保険料収入の総額が増加する必要がある。
(6)国民年金事業の現状による今後への影響
前記のような国民年金事業の実施状況について、同様な状況が続くと国民年金制度等に次のような影響があると思われる。
(ア)国民年金の未届、未加入及び保険料の未納等により、当該被保険者等については、老齢基礎年金の受給要件である25年以上等の受給資格期間を満たさなくなり、公的年金の受給権を得られない者や低額な年金しか受給できなくなる者が増加することになると考えられる。
(イ)前記のとおり基礎年金の給付に要する費用は、被保険者の総数をもとに各公的年金の保険者であん分されることとなる。そして、国民年金特別会計の国民年金勘定の負担分の算定基礎とされるのが、第1号被保険者のうち保険料納付済期間又は保険料半額免除期間を有する者の数であるため、この保険料納付者が減少すれば、被保険者の総数の減少につながることとなり、相対的に他の被用者年金の保険者の負担が増大し、ひいては、保険料納付者自身の負担も大きくなる結果となる。
また、保険料納付済期間又は保険料半額免除期間を有する者が減少し、個々の被保険者の老齢基礎年金の受給要件である受給資格期間、老齢基礎年金の給付額に影響を与えて無年金者の増加等をもたらすと、長期的には、無年金者等の増により社会保険費が減少する一方、生活保護費の増加、年金から源泉徴収等されている所得税や介護保険料の収納にも影響があると思われる。
4 本院の所見
16年の国民年金法等の一部を改正する法律の成立により、年金給付と負担の見直しについては、年金額の自動調整の仕組みの導入、17年度からの保険料の引上げ、基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げ(21年度までに実施)などが実施されることとなった。
しかし、前記のとおり、適用に関する事務については、20歳到達者に対しては届出の勧奨及び職権適用が行われているものの、未届者に対しては届出の勧奨は行われているが職権適用については一部の社会保険事務所等でしか行っておらず、未加入者については必要な突合作業ができる体制となっていないため届出の勧奨すらできない状況となっている。このため、現在、相当数の未届者及び未加入者が存在していると考えられる。
また、保険料に関する事務については、電話番号情報の不明者が多いことなどから、電話納付督励の実施率が低く、督励対象者が多数に上るため戸別訪問を行うことが困難となっていて、納付督励を未納者全員に速やかに行えない状況であり、また、保険料収納額が人件費に満たない収納状況となっている国民年金推進員が相当数いるなど、納付督励事務は効率的とはいえない状況となっている。
このように、未納者が増加したことなどから、国民年金事業の収支状況は、第1号被保険者が増加しているのに保険料収納額は増加しておらず、国民年金勘定では、14年度から収支不足を生じていて積立金から補足せざるを得ない状況となっている。さらに、未納者の増加等は、国民年金の保険料納付者の負担だけでなく、各被用者年金の保険者の負担の増大をも招く結果となっている。
上記のような状況を踏まえると、厚生労働省及び社会保険庁において、今後、多数の無年金者が生ずることのないようにするとともに、保険料収納額及び保険料収納額割合の増大を図るため、国民年金事業の実施について次のような点を検討するなどして適切な事業運営を図ることが望まれる。
ア 被保険者の適用に関する事務
20歳到達者以外の未加入者を把握できるような体制の整備を図るとともに、届出の勧奨を行っても届出がない場合には、職権適用を行うようにすること
イ 保険料に関する事務
(ア)納付督励、強制徴収等を行うに際して、必要な情報が取得できるようにするなどして、状況に応じた納付督励が行えるよう体制の整備を図ること
(イ)電話納付督励及び国民年金推進員の活動、各種納付督励の間の連携、保険料の納付の委託などにおいて、保険料徴収の効率化を図ること
本院としては、国民年金事業の実施状況について、今後も引き続き注視していくこととする。