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  • 平成15年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

第10 産業再配置促進費補助金について


第10 産業再配置促進費補助金について

検査対象 経済産業省(平成13年1月5日以前は通商産業省)
補助事業の概要 工場等の移転・新増設を工場等と地域社会との融和等に配慮しつつ促進するもの
国庫補助金交付額 1266億円(昭和48年度〜平成14年度)

1 制度の概要

(工業再配置促進法の制定)

 我が国の経済、社会は、昭和40年代当時、工業化と都市化に支えられて急速な発展を遂げたが、一方で、公害の発生など生活環境の破壊をもたらす都市の過密及び就業機会の乏しさなど種々の弊害を生じさせる地方の過疎を解消することが必要であるとされていた。
 このような社会情勢を受け、44年に策定された新全国総合開発計画では、新幹線、高速道路等のネットワークを整備し、大規模プロジェクトを推進することにより、国土利用の偏在を是正し、過密過疎、地域格差を解消するとされていた。
 工業再配置促進法(昭和47年法律第73号。以下「工配法」という。)は、このような状況を踏まえて、過度に工業が集積している地域(移転促進地域)から工業の集積の程度が低い地域(誘導地域)への工場の移転と誘導地域における工場の新増設とを、環境の整備その他環境の保全に配意しながら推進する措置を講ずることにより、工業の再配置を促進し、もって国民経済の健全な発展を図り、併せて国土の均衡ある発展と国民の福祉の向上に資することを目的として47年に制定されたものである。

(工業再配置制度の概要)

 経済産業省では、工配法に基づく工業の再配置を促進するため、これまでに各種の施策を講じてきた。そして、これらの諸施策を実施するために整備された制度の概要は以下のとおりとなっている。

(1)地域の指定

 国が全国的な工業の再配置を推進するに当たって、当該地域内にある工場の移転を図ることが必要な地域及び工業の誘導を図ることが望ましい地域がそれぞれ工配法に基づき指定されている。すなわち、大都市及びその周辺の地域のうち、工業の集積の程度が著しく高く、当該地域内にある工場の移転を図ることが必要な地域が「移転促進地域」とされ、また、工業の集積の程度が低くかつ人口の増加割合が低い道県の区域、及びその区域と連接した区域でかつ工業の集積の程度及び人口の増加割合が類似する市町村の区域が「誘導地域」として指定されている。これらの移転促進地域と誘導地域は、図1のとおりである。

図1 地域指定

図1地域指定

(2)工業再配置計画

 経済産業大臣(平成13年1月5日以前は通商産業大臣)は、工配法に基づき、関係行政機関の長に協議するなどして、工業再配置計画を策定しなければならないこととされている。この工業再配置計画は、工業再配置を計画的に推進するに当たって、その長期的な方向付けを明確にするため、目標年次における工業の業種別及び地域別の配置の目標等について定めることとされており、全国総合開発計画その他法律の規定による地域の振興又は整備に関する国の計画との調和が保たれたものでなければならないこととされている。

(3)移転企業への支援策

 誘導地域は、移転促進地域に比べて、産業が一定の地域に集積することにより得られる取引上の利便等のいわゆる集積のメリットが低く、誘導地域に工場を立地するに当たっては、従業員の問題、下請企業の問題など種々の障害が生じると考えられることから、移転促進地域内にある工場等の誘導地域への移転(以下「移転促進地域からの工場移転」という。)を促進するための制度が表1のとおり整備された。

表1 移転企業に対する支援策
区分 支援制度の内容
固定資産税の減免補てん 移転促進地域からの工場移転の計画(以下「移転計画」という。)につき経済産業大臣及び事業所管大臣の認定(以下、単に「認定」という。)を受けた者が、認定後5年の間に、移転先の工場において取得した土地、建物、設備等について、地方公共団体が条例により固定資産税の減免を行った場合、減免を行った地方公共団体の減収分については、3年に限り地方交付税により国が補てんする。
加速償却 移転計画の認定を受けた者が、移転前の旧工場の建物、設備等を廃棄又は売却する場合、租税特別措置法の定めるところにより、これらの建物、設備等について移転時までに償却を済ませることができる。
跡地融資・買上げ 工場跡地評価額の80%又は移転資金需要額の50%のいずれか低い額の範囲内で、移転に必要な資金の融資を、独立行政法人中小企業基盤整備機構(昭和47年10月から49年7月までは「工業再配置・産炭地域振興公団」。49年7月から平成16年6月までは地域振興整備公団。以下これらを「旧公団」という。)から受けることができる。また、跡地について環境の改善に資する用途に売却できない時には、融資を受けた企業の申し出により旧公団が買い上げ、旧公団が公共用地用に優先して売却する。
移転運転資金融資 移転に伴う運搬費、撤去費等の運転資金の50%以内の範囲で旧公団の融資を受けられる。

(4)立地基盤の整備策

 太平洋ベルト地帯への工業の集積をもたらした要因の一つとして、それ以外の地域における工場立地の基盤整備が全般的に立ち遅れていたことがあるとして、誘導地域における工場立地の基盤を早急に整備するため、表2のような制度が整備された。

表2 立地基盤の整備制度
区分 支援制度の内容
工業団地造成利子補給金 誘導地域における工業団地の造成を促進するため、地方公共団体、開発公社等の地方債借入金について国が利子補給を行い、金利負担の軽減を図る。
中核的工業団地の造成 地域開発の中心となり、魅力ある地方都市が形成されるような地点において、地方公共団体の要請に基づき、旧公団が中核的な工業団地を造成する。

(5)工業と地域社会との融和策

 誘導地域において工場立地が進められるに際しては、単に当該地域の雇用機会が拡大し所得水準が向上するだけでなく、併せて環境の整備・保全が十分に確保され、また、住民福祉の向上に寄与することなどにより、工場と地域社会の融和が図られる必要があるとされていた。このため、移転促進地域からの工場移転あるいは誘導地域における工場の新増設が行われた場合には、国は工業再配置促進費補助金(2年度に産業再配置促進費補助金に改称。以下「本件補助金」という。)を地元市町村及び企業に対して交付し、環境保全施設及び福祉施設の整備を促進することとした。
 なお、工場と地域社会との融和等に関しては、本件補助金のほかに、昭和49年に「工場立地に関する調査等に関する法律」を改正した工場立地法(昭和34年法律第24号)が施行され、新増設工場等に対し、一定面積以上の緑地面積の確保等、工場立地の段階から将来にわたって工場自らに環境制御の機能を持ちうる基盤を整備させるための制度も創設された。

(補助制度の概要)

 上記のとおり、本件補助金は、工業と地域社会との融和を図るための施策として、47年度に創設され、翌48年度に、工業再配置促進費補助金交付規則(昭和48年通商産業省告示第303号。平成2年度に産業再配置促進費補助金交付規則に改称。以下「交付規則」という。)が定められた。
 本件補助金の交付対象者等は、交付規則により表3のとおりとされている。

表3 産業再配置促進費補助金の概要
区分 補助制度の内容
補助金の交付対象者 市町村、道府県及び企業。
工場の設置場所及び要件 誘導地域のうち工場設置の望ましい場所は、国や地方公共団体等により造成された工業団地の区域等に限定されている。また、工場移転及び新増設の場合に共通の設置要件として、工場の設置が環境の整備その他環境の保全に配意されたものであることとされている。
補助金交付の対象施設 工場の移転又は新増設と密接な関係を有する次のもの。
〔1〕 環境保全施設…空き地確保に寄与するもの、その他環境保全のための施設
例)緑地、排水路、防災保安施設等
〔2〕 福祉施設……地域住民と工場の従業員の心の交流の場となりうるような施設
例)教育文化施設、スポーツ施設
〔3〕 その他施設……工場の移転、新増設の促進を主眼とした立地企業向けの利便施設等
例)出えん、物流施設、エネルギー有効利用施設、情報処理・通信施設、販売促進・展示施設、賃貸工場・事業所、受電施設、廃棄物処理施設
補助金の額 工場移転の場合は、旧工場の床面積に、工場新増設の場合は新増設工場の床面積に、それぞれ1平方メートル当たり5,000円〜12,000円の範囲内の単価を乗じて得た額とされている。

 なお、上記の補助金の交付対象者のうち「道府県」については、昭和62年に、ハイテク産業を一定の地域に集積させようとしたテクノポリス施策を受け、一定の要件を具備した財団法人への出えん等を行う道府県が追加された。
 また、補助金交付の対象施設のうち、〔3〕その他施設については、制度発足後の経済社会情勢の変化や、施策推進を加速させるために追加され、以後適宜充実されていったものである。

2 検査の背景及び着眼点

 本件補助制度は、発足以来30年が経過し、その間に様々な制度改正が行われてきた。そして、発足当初の目的であった工場と地域社会の融和を図るための施設の整備に加え、工場等の移転及び新増設の促進を主眼とした立地企業向けの利便施設等も補助対象として追加されるなどの措置が執られてきた。また、工業再配置政策で当初の課題とされていた地域間の工業集積度(注1) の格差については、経済産業省の調査では、45年当時に22.6倍であった移転促進地域と誘導地域の工業集積度の格差が、30年後の平成12年には5.8倍に縮小している。
 一方、新しい国土計画として10年に閣議決定された「21世紀の国土のグランドデザイン」(以下「グランドデザイン」という。)では、我が国が直面する課題として、経済のグローバル化の進展により国際的な立地競争力を確保する必要性が増し、地域開発についても、地域自らの選択と責任で地域づくりを行うため、地方分権を積極的に進めるとされていることなどにみられるように、国土開発や工場立地を取り巻く環境は30年を経て大きく変化している。
 このような近年の社会経済状況の変化を踏まえ、本件補助金がこれまで果たしてきた役割や成果を検証するとともに、工場立地等に対する企業や地方公共団体等の動向、工業再配置に係る各種施策のその後の状況等について検査した。

工業集積度 工業の分散あるいは導入を行うことが適当であるかどうかを判断する指標のひとつで、土地、人口等の資源に対する工業生産活動の割合とされている。

3 検査の状況

(1)工場の移転及び新増設の状況

 本件補助制度の前提となる工業の再配置には、移転促進地域からの工場等の移転に係るものと、誘導地域における工場等の新増設に係るものとがある。10年度から14年度までの最近5年間に実施された上記の再配置に係る事業において、本件補助金算定の対象となった工場等のうち134工場等について、本院が実地に調査したところ、134工場等のうち、移転促進地域からの工場移転であるとして本件補助金の算定対象となったものはなく、新設が69件で51%、増設が65件で49%となっていた。
 このように、最近の傾向としては、本件補助金の算定対象となった工場等のうち、移転促進地域における工場の床面積の減少と誘導地域における工場の床面積の増加とが同時に起こるといったような例はほとんどない状況となっている。

(2)補助金の交付状況

(補助金の交付実績の年度別推移)

 本件補助金は、前記のとおり、移転促進地域からの工場移転あるいは誘導地域における工場の新増設が行われる場合に、地元市町村等に対して交付されるものである。
 昭和48年度から平成14年度までの間における本件補助金の交付実績は、約4,200事業1266億余円となっていて、各年度ごとの推移については図2のとおりである。

図2 補助金の交付実績の推移

図2補助金の交付実績の推移

 これによると、本件補助金の交付実績は、バブル崩壊後に大型の経済対策が行われた一時期を除けばおおむね減少傾向が続いており、14年度の交付実績は8億余円で、ピーク時の昭和50年度の72億余円に比べると1割程度の水準となっている。
 なお、近年国際間競争の激化による国内地域産業の空洞化に対応するなどのためには、これまでのような誘導地域の立地を促進する施策よりも、産業クラスター(注2) のような、産学官連携による人的ネットワークの形成を核とした地域経済の競争力の確保に向けた施策に多額の予算が計上されている。

産業クラスター 「クラスター」とは「(ぶどうなどの)房」「(魚などの)群れ」といった意味であり、地域の比較優位性のある産業を核とし、その核から派生する関連産業間の技術や人材、ノウハウなどの結びつきを強め、集積させ、そこから新たな産業を創出し力強い産業群を育成していこうとするもの

(全国の工場立地状況の推移)

 本件補助金の交付が開始されて以降の、全国の工場立地状況は、図3のとおりとなっている。

図3 全国の工場立地状況の推移

図3全国の工場立地状況の推移

出典:経済産業省「工場立地動向調査」

 これによると、バブル崩壊後、工場の立地件数は長引く不況の影響下、減少傾向が続いている。しかし、減少しているとはいえ、平成10年から14年までの5年間の全国の用地取得ベースでの立地面積は6,370万m に上っており、これに対し、補助金の算定対象となった工場の床面積の合計は、わずか174万m にとどまっている。

(補助金の交付対象施設の推移)

 本件補助制度は、工業と地域社会の融和を図るため、緑地等の環境保全施設及び地域住民と工場従業員の交流の場となる教育文化施設等の福祉施設を整備することとして創設されたが、その後の政策展開を受け、事業の内容は変化している。そこで、昭和48年度から平成14年度までの間における交付対象施設別の補助金の交付実績の推移についてみると、図4のとおりとなっている。

図4 交付対象施設別の補助金交付実績の推移

図4交付対象施設別の補助金交付実績の推移

 これによると、当初は60億円を超えた福祉施設はほぼ一貫して減少し、環境保全施設はおおむね10億円以下で推移している。一方、図2のグラフでみられたいくつかの山の部分については、移転・新増設の促進を主眼とした立地企業向けの利便施設等を対象とするその他施設の増加によるものとなっていた。
 上記について、昭和48年度から平成14年度までの30年間の交付実績(約4200事業、1266億余円)に占める事業内容別の内訳は図5のとおりである。

図5 事業内容別の累計実績

図5事業内容別の累計実績

 これによると、累計実績では、地域住民と工場の従業員との心の交流の場となることを主眼とした福祉施設が件数ベースで64%、金額ベースでは75%と大宗を占めており、また、その内訳をみると、図6のとおり、スポーツ施設が半数近くを占めている。

図6 福祉施設の累計件数の内訳

図6福祉施設の累計件数の内訳

(事業主体別の実施状況)

 本件補助金の事業主体についてみると、前記の昭和48年度から平成14年度までに本件補助金の交付対象となった約4,200事業のうち約3,000事業は市町村が事業主体となって実施したものであり、全体の72%を占めている。
 上記の約3,000事業を実施している市町村は、実数ベースで約1,100市町村となっているが、これは誘導地域の全市町村数約2,600市町村の半数以下となっている。また、これらの約1,100市町村の事業実施回数をみると、本件補助金の交付を受けた回数が1回の市町村は43%であるのに対し、2回以上の交付を受けている市町村が57%と半数以上を占めている。そして、5回以上の市町村は2割程度、最も回数が多い市では19回となっている(図7参照)

図7 事業主体となった市町村の事業実施回数別内訳

図7事業主体となった市町村の事業実施回数別内訳

 このように、国土の均衡ある発展を目的とする本制度であるが、実際の交付状況は、誘導地域の全市町村数の半分以下であり、また、同一市町村が繰り返し利用している例が多数を占めている状況となっていた。

(3)工場を取り巻く周辺環境の状況

 前記のとおり、工場等の地方への移転又は新増設に対して、受入側の地方公共団体にとっては、雇用機会の増大等を促す効果がある反面、公害、工場災害等の拡大に対するおそれもあると考えられる。そこで、製造業に係る公害苦情件数の推移についてみると、図8のとおり、前記工場立地法による効果などもありピーク時の昭和49年度には29,161件もあった件数は、平成14年度には12,462件に減少している。

図8 製造業に係る公害苦情件数の推移

図8製造業に係る公害苦情件数の推移

出典:公害等調整委員会事務局「公害苦情調査結果報告書」

(4)地方公共団体の工場誘致に対する姿勢の変化

 近年、地方公共団体においては、地域活性化等の観点から企業誘致施策を推進している。本院が、東京都ほか29道府県を対象に企業誘致を推進するため企業等に対して直接実施している助成金の交付や低利貸付金の貸付けなど財政支援を伴った独自の施策の状況について調査したところ、図9のとおりである。
 これによると、地方公共団体独自の企業誘致制度の件数は、昭和47年には3件でしかなかったが、平成14年には97件に増加しており、図2でみた本件補助金の交付実績の推移とは対照的に、地方公共団体が積極的に企業を誘致しようとしていることがうかがえる。

図9 地方公共団体の企業誘致施策の推移

図9地方公共団体の企業誘致施策の推移

 また、上記の積極的に企業誘致を行っている地方公共団体の中には、図1における大阪府等の移転促進地域の所在府県も含まれている。これらの産業集積地域については、グランドデザインにおいても、これまで我が国経済を支えてきた産業集積地域が、国際的な分業関係の一層の深化等に柔軟に対応し、新たな展開を図っていくためには、長年にわたって培われてきた技術・技能や人材の集積を活用して、新製品の開発や新しい技術の開拓を進めていくことが必要であるとされている。

(5)その他の工業再配置施策の現状

 制度創設当初に整備された工業再配置関連の諸施策のうち、本件補助金以外の施策の現状についてみると、次のとおりとなっている。

表4 その他の工業再配置施策の現状
区分 現状
工業再配置計画の策定 最新の計画の計画終了年である平成12年末から3年以上を経過している現時点においても、未だ新たな計画は策定されていない。
移転企業への支援策
〔1〕 固定資産税の減免補てん
〔2〕 加速償却
〔3〕 跡地融資・買上げ

〔4〕 移転運転資金融資

近年は移転計画の認定自体がなく実績なし。
昭和59年に廃止
融資事業については、平成11年に日本政策投資銀行に事業移管。地域産業立地促進事業として他の地域振興制度をも含めた幅広い枠組みで実施し、工業再配置業務に係るものに限定したものではない。融資実績は年間数件、20億円程度となっている。 買上げ業務については現在は全く実績がない。
上記の地域産業立地促進事業と統合された。
立地基盤の整備策
〔1〕 工業団地造成利子補給金
〔2〕 中核的工業団地造成事業

工業団地の需給状況及び昨今の低金利状況にかんがみ、14年度以降新規造成事業については対象としないこととしている。
特殊法人等整理合理化計画を受け、14年度以降新規事業の採択はしないこととしている。

(6)政策評価の状況

 経済産業省では「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号)に基づき政策評価基本計画を定め、事前評価書を作成している。
 この事前評価書においては、「産業再配置施策」として、本件補助金を含めて15の事業が掲げられており、そのほとんどの施策の達成時期及び中間評価は16年度、事後評価が17年度とされている。そして、本件補助金については、同評価書によると、誘導地域における工場の移転・新増設を促進し、生産・雇用の拡大を図ることを目標(「目指す結果」、「効果」)としていて、誘導企業数、誘致企業による雇用者数、補助金の交付件数などを指標として、今後、評価が行われることとなっている。

4 本院の所見

 国土の均衡ある発展を図るための工業再配置に関する諸施策は、制度発足以来30年以上を経過し、経済のグローバル化に対応した企業の競争力強化の必要性、地方分権の進展に伴う地方の自主性の高まりや地域住民の意識の変化など、工場立地等を取り巻く環境は大きく変化している。
 このような状況の中で、本件補助制度は、工業と地域社会との融和を図る上で一定の役割を果たしてきたと考えられる。
 しかし、本件補助金の交付実績は昭和50年をピークとして減少傾向が続き、また、全国の工場立地の状況についても近年では減少傾向が続いている。そして、本件補助金以外の工業再配置関連施策のうち、移転計画の認定は近年実績がなく、また、立地基盤を整備する工業団地の造成施策は既に終了しているなどの状況となっている。また、これらの諸施策を含めて今後の工業再配置の長期的な方向付けを示す新たな工業再配置計画は、前計画の終了後未だに策定されていない状況である。さらに、制度発足当初に懸念された製造業に係る地域社会の公害等に関して、苦情件数については減少ないし横ばい傾向にある中で、制度発足当初に比べ工場誘致に力を入れる地方公共団体が増加するなど、工業再配置に対する住民、企業、地方公共団体それぞれの意識や対応には変化がみられる状況となっており、現在では「過密」と「過疎」という二つの観点のみで、地域が抱える問題が解決できない状況となっていることもうかがえる。
 一方、経済産業省の地域経済施策については、地域の産業クラスターの強化といった地域経済の競争力強化に向けた施策に多額の予算が計上されている。そして、本件補助金を含めた産業再配置等の諸施策の実施については、政策評価基本計画に従い、成果の検証を行って、今後の予算に反映させるとしている。
 したがって、過密と過疎の弊害を背景に創設された本件補助金について、関係各方面の意見等も踏まえつつ、本件補助金の有効性について十分検討するとともに、各種の施策・事業をより効率化・重点化する観点から、適切な評価を行い、今後の経済産業省における地域経済施策に反映させていくことが肝要である。