検査対象 | 中小企業庁 |
対策の概要 | TMO構想等の策定、TMOの運営及びTMOが中心となって行う中心市街地の商業等の活性化を目的とした対策 |
検査対象としたTMO数 | 167TMO |
TMO等に対する国庫補助金等交付額 | 94億円(平成10年度〜14年度) |
1 事業の概要
近年のモータリゼーションの進展と中心市街地での地価の高騰等を背景として、居住、商業等の都市機能が郊外に分散し、いわゆる中心市街地の空洞化の現象が顕著となる中、政府は、平成9年度に策定した「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)の中で、中心市街地の活性化に関し、関係省庁が連携して、都市機能を再構築し、商業の活性化と産業業務機能の集積を促進する視点から総合的な対策を推進すべく、速やかに所要の措置を講ずることとした。
この閣議決定等を受け、10年には、新たな法的枠組として、「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」(平成10年法律第92号。以下「中心市街地活性化法」という。)が成立し、同年7月から施行された。
この中心市街地活性化法は、都市の中心の市街地が地域の経済及び社会の発展に果たす役割の重要性にかんがみ、都市機能の増進及び経済活力の向上を図ることが必要であると認められる中心市街地について、地域における創意工夫を生かしつつ、市街地の整備改善及び商業等の活性化を一体的に推進するための措置を講ずることにより、地域の振興及び秩序ある整備を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている。
そして、この中心市街地活性化法に基づく事業は、総務省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省(13年1月5日以前は農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、建設省及び自治省)が所管することとされており、国が示す「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する基本的な方針」(平成10年農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、建設省、自治省告示第1号。以下「基本方針」という。)に基づき、市町村が独自に当該市町村内の中心市街地について作成する「市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する基本的な計画」(以下「基本計画」という。)に沿って実施されることとなっている。
基本方針では、中心市街地の担う主な役割が次のような点にあるとして、特に中心市街地における商業等の機能を重視している。
(1) 小売商業者や様々な都市機能が集積しており、住民や事業者へのまとまったサービスを提供できること
(2)商業、公共サービス等の機能が身近に備わっていることから、高齢者等にも暮らしやすい生活環境を提供できること
(3)商工業者その他の事業者や各層の消費者が近接して立地し相互に交流することによって、効率的な経済活動を支える基盤と新規産業の誕生を促す苗床の役割を果たすこと
中小企業庁では、中心市街地活性化法に基づく事業のうち、中小小売商業等の活性化に係る中小小売商業高度化事業(以下「中小小売商業等活性化事業」という。)を所掌しており、10年度から事業を実施している。そして、その実施に当たっては、中心市街地における商業集積の活性化のための従来の取組が、〔1〕 個々の商店街ごとの活性化努力にとどまり、中心市街地に展開する商業集積間の連携が必ずしも十分でなかったこと、〔2〕 専ら基盤整備等の周辺事業にとどまり、商業集積としての競争力の根幹である業種揃え・店揃えの最適化に関する取組が不十分であったことなどを踏まえるとともに、欧米の中心市街地において多くの成功事例を出している商業活性化の手法を参考にしている。
すなわち、中心市街地における商業集積を一つのショッピングモールのように面として捉え、業種構成・店舗配置等のテナント配置(以下「テナントミックス」という。)等のソフト事業及びアーケード・駐車場整備等のハード事業を総合的にマネージメントするという手法を採り入れており、これにより中心市街地における商業集積の一体的かつ計画的な整備を図ることとしている。そして、こうした事業の推進主体として、新たに認定構想推進事業者、いわゆるタウンマネージメント機関(以下「TMO」(タウンマネージメントオーガニゼーション)という。)を設立することが中心市街地活性化法において定められている。
TMOが推進主体となる中小小売商業等活性化事業の実施手順は、次のとおりである。
(1)市町村は、基本計画において、中心市街地の位置及び区域のほか、中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進の目標や商業の活性化のための事業に関する事項を定めるとともに、中小小売商業等活性化事業について定める場合は、事業の対象とすべき商業の集積及び事業の目標を定める。
(2)TMOとなる資格を有する商工会・商工会議所、特定会社(注1) 又は公益法人(注2) のいずれかの法人が、中小小売商業等活性化事業に関する総合的かつ基本的な構想(以下「TMO構想」という。)を作成し、これを市町村に提出してTMO構想が適当である旨の認定を申請する。
(注1) | 特定会社 中小企業者が出資している会社であって、大企業の出資割合が2分の1未満であり、かつ、地方公共団体が発行済株式の総数又は出資金額の3%以上を所有又は出資している特定会社に限る。 |
(注2) | 公益法人 基本財産の額の3%以上を地方公共団体が拠出している財団法人に限る。 |
(3)市町村は、申請されたTMO構想が基本計画の内容に照らして適切なものであり、かつ、TMO構想に係る事業が実現可能であると認めるときは、これを認定する。そして、この認定を受けた者が事業の推進主体としてのTMOとなる。
(4)TMO構想に記載された中小小売商業等活性化事業に係るハード事業又はソフト事業のうちのテナントミックス事業について、商店街振興組合等がTMOと共同で実施しようとする場合はTMOと共同で、TMOが単独で実施しようとする場合は単独で、中小小売商業等活性化事業に関する計画(以下「TMO計画」という。)を作成し、市町村を経由して経済産業大臣にその認定を申請する。
(5)経済産業大臣は、TMO計画が中小小売商業等活性化事業の実施についての指針となるべき事項に照らして適切なものであり、TMO計画に係る中小小売商業等活性化事業が確実に実施される見込みがあると認めるときはこれを認定する。
(6)TMO及び共同実施者である商店街振興組合等(以下「TMO等」という。)は、認定を受けたTMO計画に基づき、中小小売商業等活性化事業を実施するが、その際補助率等において有利な扱いを受けることとされている。
TMOが行う中心的な業務は、中心市街地における商業集積を一つのショッピングモールとして再構築することとされており、TMOには次のような役割が期待されている。
(1)中心市街地の商業の活性化を推進する際、最大の障害となるのは、地元住民、商業者等の意見聴取、合意形成の困難性であるとされている。このため、中心市街地の商業の活性化に取り組むに当たっては、いかにして地元住民、商業者等の意見を集約し、合意形成を図るかが重要となる。したがって、TMOは、地元関係者を集めた協議会等を開催することなどにより、中心市街地の商業の活性化に向けた事業の実施に関する関係者の合意形成に向け、積極的な取組を行う。
(2)中心市街地の商店街において深刻化している空き店舗問題に対応するため、空き店舗を利活用する取組を行ったり、魅力的なテナントミックスの管理等を行ったりするなど、中心市街地の商業集積の面的な展開を図る。
(3)単に商業分野にとどまらず、道路整備、市街地再開発等の市街地の整備改善や大型店の誘致等に向けて市町村に働きかけを行ったり、地域の住民運動と連携して文化活動を行ったりするなど、中心市街地の活性化に関して幅広く活動する。
経済産業省は、前記の中心市街地活性化法に基づく施策の一部を含めて広く商業等の活性化を図る施策全般を所掌しており、これらの施策のために同省及び中小企業総合事業団(16年7月1日以降は独立行政法人中小企業基盤整備機構。以下「事業団」という。)が交付した国庫補助金等は、10年度から14年度までの5年間の総額で481億5792万円となっている。そして、これらの施策のうち、中心市街地活性化法に基づく同省所管の商業等の活性化に係る事業に対して、同期間に323億9500万円の国庫補助金等が交付されている。
このうち、経済産業本省においては、市町村等が実施する事業に対する支援を行っており、同期間の交付額は168億1057万円である。これに対し、中小企業庁等においては、TMO構想等の策定、TMOの運営及びTMOが中心となって行う事業等、中心市街地の商店街等の活性化を直接の目的とした事業に対する支援を行っており、同期間の交付額は155億8443万円となっている。なお、16年2月末現在の全国のTMO構想認定数は、北海道ほか45都府県で316となっている。
(1)TMO構想等の策定に対する支援
基本計画、TMO構想及びTMO計画の策定のための調査研究事業並びに地元商工会・商工会議所及び商業者の合意形成を図る事業等に必要な経費に対して、国庫補助金を交付している。
(2)TMOの運営に対する支援
TMOの財政基盤の確立を図り、TMOの自立を支援するため、TMOが収益事業として実施する中心市街地の商業等の活性化に資する駐車場経営、特産物販売等の事業に必要な経費に対して、国庫補助金を交付している。
(3)TMOが中心となって行う事業に対する支援
〔1〕TMO計画に基づくハード事業に対して、〔2〕ソフト事業に対しては、TMO構想に基づかないものも含めて、国庫補助金等を交付している。さらに、〔3〕都道府県の公益法人に造成されたTMO基金(事業団の負担に係る基金315億5000万円、都道府県の負担に係る基金98億5000万円)からテナントミックス事業等のソフト事業に対して助成金が交付されている。
これらに係る国庫補助金等の交付額の年度別内訳は、表1のとおりとなっている。
表1 中小小売商業等活性化事業に対する中小企業庁等の国庫補助金等の年度別内訳
(単位:千円)
|
10年度 | 11年度 | 12年度 | 13年度 | 14年度 | 合計 | ||||
(1)TMO構想等の策定に対する支援 | 932,867 | 1,096,783 | 849,890 | 406,587 | 273,329 | 3,559,458 | ||||
(2)TMOの運営に対する支援 | / | / | / | 5,320 | 11,983 | 17,304 | ||||
(3)TMOが中心となって行う事業に対する支援 | ハード事業 | 1,683,360 | 316,868 | 614,998 | 3,782,729 | 2,752,956 | 9,150,912 | |||
ソフト事業 (注) |
585,641 | 421,831 | 500,374 | 375,177 | 230,074 | 2,113,100 | ||||
TMO基金 | / | 82,375 | 200,414 | 225,093 | 235,776 | 743,660 | ||||
合計 | 3,201,869 | 1,917,858 | 2,165,678 | 4,794,908 | 3,504,120 | 15,584,436 |
2 検査の着眼点
中心市街地活性化法が10年7月に施行されてから6年が経過し、これまでにこのTMO等に対する支援策として投じられた国庫補助金等の額も多額に上っている一方、この間も、モータリゼーションを背景とした郊外店の出店等が進行した結果、これまで商業活動の中心であった中心市街地において、空き店舗等が増加するなど商業集積の空洞化にますます拍車がかかる状況となっている。こうした社会経済情勢の中で、TMOによる中心市街地の商業の活性化を達成するには相当の困難が予測され、TMOは十分な体制で事業を推進していく必要があると考えられている。
中小企業庁では、TMO活動の現状と課題を整理することを目的として、15年4月にTMOのあり方に関する懇談会を設置しているが、同懇談会が同年9月に公表した「今後のTMOのあり方について」の中では、TMO活動推進のためには事業の推進を担うリーダー・専門人材の確保が最も大きな課題であるとしている。
また、TMO等が行うハード事業について、その効果を中心市街地全体に波及させるためには、活性化対象の商業集積に関するマーケティング調査や事業の費用対効果の分析、空き店舗対策事業やテナントミックス事業等の各種ソフト事業との有機的連携が必要であると考えられている。
今回、こうした状況を踏まえ、〔1〕TMOが本来の趣旨に沿って機能し、個々の事業主体の連携強化、活性化関連事業の一体的推進に係る合意形成などのコーディネーター的役割を適切に果たし、総合的なマネージメント機能を十分発揮できているか、〔2〕従来型のハード事業にとどまらず、商業集積としての競争力の根幹であるテナントミックス事業等のソフト事業に積極的に取り組んでいるかなどに着眼して検査した。
3 検査の対象
14年度末までに認定されたTMOのうち、表2及び3のとおり、北海道ほか42都府県の167TMO、同期間の国庫補助金等の交付額94億1547万円を対象として検査した。
TMOの分類 | TMO数 | 構成比(%) | |
商工会等 TMO |
商工会・商工会議所又は公益法人がTMOであるもの | 116(1) | 69 |
特定会社 TMO |
特定会社がTMOであるもの | 51 | 31 |
計 | 167(1) | 100 |
表3 検査対象TMO等に対して交付された国庫補助金等(10年度〜14年度)
(単位:千円)
支援対象 | 国庫補助金等交付額 | |
(1)TMO構想等の策定に対する支援 | 825,437 | |
(2)TMOの運営に対する支援 | 11,057 | |
(3)TMOが中心となって行う事業に対する支援 | ハード事業 | 7,916,654 |
ソフト事業 | 222,409 | |
TMO基金 | 439,920 | |
合計 | 9,415,478 |
4 検査の状況
TMOの事業実施体制及び事業実施状況等について検査したところ、次のような状況となっていた。
(1)TMOの事業実施体制について
ア TMO運営のための人材確保の状況について
基本方針によれば、TMOの組織については、市町村、商店街関係者その他の関係事業者、商工会・商工会議所等の経済団体、住民等幅広い関係者の代表が運営・事業推進の基本的方針の決定等に当たるとともに、具体的な事業の企画、運営等については、高度の専門性を有する者を事務局として招へいし、又は内部に育成して、作業に当たらせることが望ましいとされている。
中心市街地においては、複雑な権利関係といった商業立地上の障害が存在するため、TMOの事業実施に当たっては、幅広い関係者間の利害調整を要するなど相当の困難が予測されることから、高度の専門知識を有したより多くの専任の従事者が確保されることが重要である。
こうした観点から、まず、TMO従事者の配置状況についてみると、1TMO当たりの配置人員数については、図1のとおりとなっており、平均配置人員数は3.2人となっていたが、従事者が1人しかいないTMOが23(全体の14%)あった。
図1 1TMO当たりの配置人員数
街づくり、商業集積作りを実施していくためには、タウンマネージメントをはじめ様々なノウハウを持った専門家の活用・育成が不可欠である。そこで、次に専任従事者の配置状況についてみると、専任従事者を1人も置いていないTMOが図2のとおり101(同61%)もあった。専任従事者の不足は、特に商工会等TMOにおいて顕著となっていた。
図2 1TMO当たりの専任従事者数
さらに、人材の過不足の状況についてみると、図3のとおり、今後TMOとしての活動を更に推進していく上で、現状の人員体制で十分可能であるとしているものは29TMO(同17%)にすぎず、残りの138TMO(同83%)は、リーダーシップを持って事業全体をコーディネートできる者や商業等に関する専門的な知識を有する人材等が不足しているとしていた。
図3 高度な専門知識等を有する人材が不足しているとするTMOの状況
イ TMO運営のための財源確保の状況について
TMOが事業を円滑に実施するためには財政基盤を確立することが必要であり、補助金等の収入のほかに安定的な自主財源の確保が重要となる。このための収益事業としては、物販事業、駐車場の賃貸又は管理事業、店舗等の賃貸事業等があり、その実施状況をみると図4のとおり、商工会等TMOのほとんどは収益事業を実施していないのに対し、特定会社TMOではほとんどの会社が実施していた。
図4 収益事業の実施状況
そして、収益事業を実施していないTMOでは、道県及び市町からの補助や商工会議所等の一般会計からの繰入れ等によって経費を賄っていて、事業資金が少ないことから企画調整を中心とした活動にとどまっていた。
一方、TMOの活動に係る収支を明確に区分しているのは167TMOのうち119TMOである。そして、その財源の状況についてみると、TMOの活動に係る支出の半分以上を自主財源で賄っているTMOは、図5のとおり、38TMO(全体の32%)にすぎず、残りの81TMOは、自主財源だけでは経費の半分も賄えない状況となっていた。
図5 自主財源で支出の半分以上を賄っているTMOの割合
TMOのうち特定会社TMOは、新たにTMO活動のための組織を立ち上げたものであり、一般的にTMOの活動に積極的なものが多いとされている。こうしたことから、図4のとおり、51の特定会社TMOのうち8割もの41TMOが自主財源を確保するための収益事業を実施している。
これら特定会社TMOの財務状況をみると、図6のとおり、収益事業を実施していても商店街等の活性化のための事業を積極的に展開したことにより、結果的に大幅な赤字となっているTMOが多く見受けられた。反対に、収益事業を実施していないTMOは、前記のとおり、財源規模に合わせて企画調整を中心とした活動にとどめているためにおおむね収支が均衡した財務状況となっていた。なお、51の特定会社TMOの平均損益幅は1590万円程度の赤字となっていた。
図6 特定会社TMOの財務状況
一方、TMOの運営支援を目的とする中小企業庁の補助金として、TMOの財政基盤の確立を図るため、TMOが行う中心市街地の商業等の活性化に資する駐車場経営等の事業に対するものとして、13年度にTMO自立支援事業費補助事業が創設されている。しかし、この補助事業については、表4のとおり、予算額に比べて決算額が極めて少額となっており、ほとんど利用されていない状況であった。
ほとんどのTMOにおいて自主財源が必ずしも十分ではないにもかかわらず、TMOにおいて、この補助事業がほとんど利用されていない理由としては、〔1〕TMOの活動が企画調整中心であること、〔2〕収益事業を行っていても、一過性のものであり補助の対象には該当しないため利用していないこと、〔3〕補助金の交付条件である自己負担金の調達が困難であることなどの事情を挙げている。
\ | 予算額(円) | 決算額(円) | 執行割合 |
13年度 | 749,833,000 | 5,320,621 | 0.7% |
14年度 | 300,000,000 | 11,983,973 | 4.0% |
合計 | 1,049,833,000 | 17,304,594 | 1.6% |
(2)TMO等によるソフト事業の実施状況について
TMO等がTMO構想に基づき実施するソフト事業は、商業者等の合意形成を図る事業をはじめとして、空き店舗の解消を目的とした事業(以下「空き店舗対策事業」という。)、イベント事業、ポイントカード等の情報化事業、商業集積の魅力を高めるテナントミックス事業等多岐にわたっている。このうち、特に空き店舗対策事業とテナントミックス事業については、単なる空き店舗の解消にとどまらず、集客力に直結する魅力あるテナントの誘致につながり、タウンマネージメントの中核をなす事業である一方、その実施には、店舗を所有する家主等との交渉に時間を要するなどの困難もある。
ア 空き店舗対策事業について
中心市街地の商店街・商業集積における空き店舗の増加により、来街者数の減少、商業施設の連たん性の欠如等の現象が生じていることなどから、167TMOのうち160TMOでは、TMO構想において空き店舗対策事業を計画的かつ継続的に実施することとしていて、このうち107TMOが15年度までに空き店舗対策事業を実施していた。その内容についてみると、チャレンジショップの実施が67TMO、情報文化交流施設の設置が50TMOなどとなっていた。ただし、実施店舗数でみると、図7のとおり、65TMOは3店舗以内を対象とした小規模なものにとどまっていた。
図7 空き店舗対策事業の対象となった空き店舗数
空き店舗対策事業のうちチャレンジショップは、TMOが空き店舗を賃借するなどして、無料又は低賃料で短期の貸店舗を提供することにより新規創業者を育成するものである。そして、新規創業者がいずれはチャレンジショップを卒業して中心市街地内で本格開業することにより空き店舗数の恒常的減少につながることが期待されており、中小企業庁は同事業に対してその費用の一部を補助している。また、地方公共団体等の多くも同様の補助金制度を通じて支援している。
しかし、13TMOが実施したチャレンジショップでは、国庫補助期間終了後は新たな財源が確保できないなどの理由で事業継続を断念していた。なお、チャレンジショップに出店した890の新規創業者のうち、中心市街地内で本格開業したのは308テナントとなっている。
一方、TMO構想において、空き店舗対策事業を計画的かつ継続的に実施することとしている160TMOのうち、53TMOは空き店舗対策事業を全く実施していなかった。その理由としては、〔1〕 事業実施に必要な財源が不足していること、〔2〕 既存テナントが競合する新規テナントの出店に対して合意しないこと、〔3〕 テナントが廃業した後も店舗を住居としてそのまま使用し続けていることなどの事情を挙げている。さらに、このうちの17TMOについては、効果的な空き店舗対策を実施するための空き店舗の数や場所などの空き店舗状況の調査さえも、調査に必要な人手や財源の不足等を理由に実施していなかった。
イ テナントミックス事業について
中心市街地の賑わいを再び取り戻すためには商業集積の魅力を高めるほかに手立てはなく、このためTMOによる中小小売商業等活性化事業においては、前記のとおり、全体を一つのショッピングモールとして面的に捉え、これをTMOが総合的かつ計画的にマネージメントする手法が採り入れられている。このテナントミックス事業は、TMOによる中心市街地活性化施策の中核をなすものであり、TMO等がテナントミックスに資する店舗を取得し整備する費用の一部を中小企業庁が補助するほか、事業団もTMOが空き店舗を賃借する費用の一部を補助するなどしている。また、地方公共団体等の多くも同様の補助金制度を通じて支援している。
このテナントミックス事業については、図8のとおり、167TMOのうち125TMOがTMO構想において計画的に実施するとしている。
しかし、計画的に実施することとしていた125TMOのうち、テナントミックス事業に必要な不足業種等の調査を15年度までに実施するなどしていたのは58TMOにすぎず、残りの67TMOは調査を実施していなかった。その主な理由としては、人員及び自主財源の不足を挙げているほか、他に優先するソフト事業があるなどとしており、中核となるべき事業を後回しにしている状況となっていた。また、不足業種等の調査を実施した58TMOについても、実際に、テナントミックス事業を実施できたのは22TMOにすぎなかった。
図8 テナントミックス事業の実施状況等
22TMOが実施したテナントミックス事業の内容についてみると、9TMOでは、複合商業施設の一画を利用して商店街にとって必要不可欠なテナントを誘致していたが、このうち6TMOは特定会社TMOであった。この方法は、多種多様なテナントを多数誘致することが可能であり、賃貸料収入などTMOにとって必要な収益事業にもつながる一方、関係者の合意形成が難しく多額の費用も必要とすることなどから、事業実施に消極的になる傾向も見受けられた。
上記以外の13TMOが実施したテナントミックス事業は、空き店舗等を活用する方法を用いていた。この方法は、比較的費用を抑えられ空き店舗の解消にもなるが、誘致できるテナントは空き店舗等の規模や立地条件に左右されやすく、出店するテナントにとっても空洞化が進みつつある中心市街地に独立店舗を構えることはリスクが大きいことなどから、誘致交渉が難航するなどして事業が進展していない傾向が見受けられた。
一方、167TMOのうち、TMO構想においてテナントミックス事業を実施することとしていなかった42TMOについては、その主な理由として、地元の合意が得にくいことなどから、他のソフト事業で集客を図るなどとしており、中核となるべき事業をその困難性を理由に忌避している傾向がうかがえた。
(3)TMOによる事業の効果について
ア TMO構想における事業の効果の設定について
TMO構想においては、事業を実施することにより期待される効果を記載しなければならないこととされているが、168件のTMO構想(注3) に記載された効果についてみると、期待される効果を定量的に記載しているものは5件とわずかな件数にとどまっていた。その他のTMO構想では、定性的な効果のみを記載していて具体的な数値がなく、期待される効果の達成度を数値により検証することができない状況となっていた。
イ TMOによる事業の効果測定について
TMOによる事業の効果として、中心市街地における商店数、年間小売販売額、空き店舗率等のなんらかの定量的な指標についてTMO構想認定後に測定しているTMOは、表5のとおり、70TMO(全体の42%)にとどまっていた。
区分 | 効果測定を実施しているもの |
商工会等TMO | 55 (116TMOの47%) |
特定会社TMO | 15 (51TMOの29%) |
合計 | 70 (167TMOの42%) |
また、効果測定の指標ごとの内訳は、表6のとおりとなっており、各指標ごとの数値でみて状況が好転しているTMOも1割から3割程度はあるものの、販売額の指標が好転しているものはわずか4TMOにとどまっていた。
指標 | 商店数 | 販売額 | 空き店舗率等 | 売場面積 | 従業員数 |
効果を測定しているTMO | 51 | 39 | 41 | 37 | 34 |
好転しているTMO | 8 | 4 | 15 | 9 | 7 |
なお、TMO構想認定後の効果測定を実施していない97TMO(全体の58%、うち商工会等TMOが61(商工会等TMOの53%)、特定会社TMOが36(特定会社TMOの71%))については、効果測定を実施していない理由として、調査に必要な人員及び財源が不足していること、事業実施に至っておらず効果測定の実益がないこと、年間販売額の秘匿性を理由に販売額データの収集に関して個店の協力が得られないことなどを挙げている。
(4)個別具体事例
今回検査対象とした167TMOのうち、従事者の人材不足等の理由から、取組が進んでいないと認められる2事例(事例1及び2)並びに比較的TMO事業への取組が前向きであり、事業効果も発現しつつあると認められる2事例(事例3及び4)を選定し、事業実施体制等の状況を個別具体的にみると、以下のとおりとなっていた。
<事例1>取組が進んでいないと認められる商工会等TMOの代表事例
A商工会議所は、平成13年にB市よりTMOの認定を受けた。同商工会議所では、設立当初から現在まで3人の兼任従事者をTMOの担当としているが、このうち2人は同商工会議所の事務局長及び経営指導員としての業務を主な業務としており、TMOの業務は実質1人で行っている。このため、同商工会議所では、中心市街地のマネージメント能力や都市計画に関する能力を有した人材、店舗運営に関する助言を行える人材が不足しているとしているが、こうした人材を専任従事者として確保することは難しいとしている。
TMO設立以降14年度までの事業の実施状況をみると、人材・ノウハウの不足等から、実施すべき事業の選定及び事業の実施方法を具体化できないまま、TMO構想において14年度までに実施することとしている事業のすべてを実施していない状況となっており、15年度になって初めて商店街ホームページ作成事業等を実施した。なお、空き店舗対策事業及びテナントミックス事業もTMO構想に含まれているが、人材の不足等から実施されていない。
この間、9年に141あった中心市街地の商店数は14年には108に、9年に約165億円あった年間小売販売額は14年には約153億円にそれぞれ減少しており、中心市街地の商業の衰退に歯止めがかかっていない状況となっている。
<事例2> 取組が進んでいないと認められる特定会社TMOの代表事例
C会社は、平成13年にD市が50%を出資するなどして設立され、それまでTMO構想の認定を受けていたE商工会議所に代わって同年にTMO構想の認定を受けた。同社の専任従事者である専務取締役は商店街振興組合の理事長から就任した者であり、同社では商店街振興組合でも手掛けることが可能な街路灯等の整備といった従来型の業務しか行っておらず、TMOに本来期待されている役割をほとんど果たしていない状況となっている。
同社の財務状況をみると、収益の全額は市から受託した公共施設の管理運営等の収入で賄っており、これから受託に係る経費を差し引いた純益の大部分が専務取締役1人分の人件費に充てられており、現状の財務状況で事業を積極的に展開していくことは望めない状況となっている。
<事例3> 取組が前向きであると認められる商工会等TMOの代表事例
F商工会議所は、平成11年にG市よりTMOの認定を受けた。同商工会議所では専任従事者1人と兼任従事者2人の計3人がTMO業務を担当しており、同市も専任従事者1人の人件費を一部補助するなど支援している。TMO構想では、まずG市中心市街地が抱える課題をSWOT分析(組織が直面する環境を強み、弱み、機会、脅威の観点から分析して、対応策を導き出すマーケティング手法)した上で、ソフト事業については5年以内に実現可能性の高いものに厳選して目標化している。特に、空き店舗対策事業は最重要施策として11年度から同市の財政支援も受けて実施しており、空き店舗に出店しようとするテナントに対して月額家賃の2分の1を助成(最長1年間)するなどしている。これにより、15年度までに審査して選んだ15テナントを出店させて空き店舗を解消している。
また、TMO自立支援事業費補助事業等により、同商工会議所が空き店舗を賃借して工芸品等の展示販売スペースと会議スペースが一体となった一般向けの有料施設を整備して、収益基盤の確立を図っている。さらに、週ごとの地元特産品等販売イベント開催、インターネット上におけるバーチャルモールの構築等、集客のための積極的な取組も実施している。
これらの結果、11年度に11.0%だった空き店舗率は15年度に8.6%に低下し、事業所数は11年度に500店だったが15年度には556店に増加した。
<事例4> 取組が前向きであると認められる特定会社TMOの代表事例
TMO構想認定前のH町では、そば店や土産物店など主として観光客を対象とした業種への転業が進んだことなどから、地元住民が町内での買い物を敬遠するようになるなど、中心市街地の商店街を取り巻く環境は厳しくなっていた。こうしたことから、平成10年にH町、商工会をはじめ、多くの地域住民からの出資により、I会社が設立された。同社は、11年にH町よりTMOの認定を受けた。同社は、役員8人のほか、8人の専任従事者、6人の臨時職員及び3人の派遣職員により運営されている。このうち支配人(専任従事者)には、街づくりへの情熱を持ち、かつ、地元商業等の事情に精通しているとして公募により選ばれた者が就任している。
同社では、上記支配人を中心に、行政・地域住民・TMOが一体となった取組を実施している。例えば、11年度に中心市街地商店街の業種構成の偏りを是正するため、集合貸店舗を城跡の隣地に整備する事業を行った。テナントの選定は、TMOが町内全世帯を対象として出店者を募り、選んだ7者を集合貸店舗に出店させている。また、同社の収益事業として、地元農家が生産加工した商品の販売を行う店を運営したり、空き店舗を活用して主に地元消費者向けに農産物の産直販売店を運営したりしている。
同社の種々の活動により、中心市街地における商店が115店から124店に増加しているほか、観光客の増加に寄与するなどの効果をもたらしている。
(5)TMOに求められる重要な要素について
上記167TMOの状況及びその分析から、TMOによる中心市街地の商業活性化が効果を上げるためには、次のような点が重要な要素であると思料された。
〔1〕 TMO事業に熱意を持って取り組む専任従事者等、いわゆるリーダーがいたり、専門的知識・知見を有する者がいたりすること
〔2〕 単なる企画調整にとどまらない活動・事業を行うに足るだけの自主財源を確保していること
〔3〕 空き店舗対策事業、テナントミックス事業等の中心市街地活性化のための中核となる事業を実施して、集客力につながる魅力あるテナントの誘致に向けて努力していること
5 本院の所見
中小企業庁が中心市街地活性化法に基づくTMOによる中心市街地の商業等の活性化に係る事業として10年から実施している対策は、商業集積全体を一定のコンセプトの下に統一的にマネージメントする機関としてTMOを新たに設立し、これにより集客力を持った魅力ある街づくりを行っていくこととしているものであり、魅力的な商業集積作りのためのタウンマネージメントの導入により、これまでの中心市街地の衰退傾向を打開するための従来にない施策としてその効果が強く期待されている。また、TMO等が行うハード事業については、空き店舗対策事業やテナントミックス事業等の各種ソフト事業と有機的に連携させることが必要であると考えられている。
しかし、本件施策の実施からおよそ6年を経過した現在、一部では本件施策の実施等により中心市街地の衰退に歯止めがかかり好転の兆しが見えてきたものも見受けられるが、全般的にはこれまでの衰退傾向が反転するまでには至っていない状況である。
その原因として、TMOによる街づくりの手法そのものは、諸外国における成功事例や前記事例3及び4などからも有効と認められるものの、中心市街地活性化施策の中核となるテナントミックス事業等を実施する上で十分な人的体制と財政的な基盤が備わっていないことや、TMOの理念そのものが十分浸透していないこともあり、TMOに期待される本来の機能がいまだ十分発揮されていないのが現状である。
本件施策は、各地域が自ら作成した計画に基づき自発的に実施する事業を国が支援するものであり、事業の成否は各地域の自助努力に負うところが大きい。そして、現在の社会経済情勢を考慮すると、TMOによる中心市街地活性化には今後とも相当な困難が予測されることから、TMOには十分な体制で事業を推進していくことが求められる。
したがって、今後は、中心市街地活性化の困難性にかんがみ、本件施策におけるTMOの趣旨を十分理解するとともに、ハード事業と各種ソフト事業の有機的連携を図りつつ、地域の特性に十分配慮した街づくりのコンセプトを確立し、更に意欲を持った有能な人材を配するなどTMOによる街づくりのポテンシャルの高い地域をモデル地区として選定し、優先的に支援していく必要があり、これにより確実に成功事例を増やしていくなど限られた予算の効果的な執行が望まれる。