調査研究事業の結果を取りまとめた成果物については、これを各府省等が行う施策に活用することにより一層精度の高い施策を実行することができ、また、その内容を公表することは、他の府省等の事業との重複を避けることはもとより施策に対する国民の信頼を確保することにつながるとともに、国民にとっても有用な情報が利用可能となる。
そこで、成果物がどのような方法でどの程度公表されているか、また、その管理はどのように行われているのかなどについて調査した。
調査研究事業は、契約によっては複数の成果物を求めているものがあるため、調査対象契約3,400件に係る成果物の総数は4,325件となっており、これらについて、その公表状況等をみると、次のとおりである。
(ア)成果物の公表の状況
成果物4,325件の公表状況をみると、図19のとおり、公表しているものは、概要のみの公表も含めて2,517件、58.1%で、全く公表していないものは1,808件、41.8%となっている。これを契約内容別にみると、「調査」、「研究」共に、公表されているものの割合は60%弱となっている。また、「統計調査」において、237件のうち公表されているものの割合が84.3%と高くなっているのは、法令に基づき公表を原則とするものなどを多く含んでいることによる。
図19 契約内容別の公表率の状況
(イ)公表の時期及び方法
公表している成果物2,517件について、その公表時期をみると、図20のとおり、半数以上が受領後3箇月以内に公表されているが、中には公表までに1年以上経過しているものも5.4%となっていた。
これを契約内容別にみると、「調査」、「統計調査」及び「検討」においては、それぞれ半数以上が1箇月以内に公表されているのに対し、「研究」においては、1箇月以内の公表の割合が半数以下にとどまっている。
図20 契約内容別の公表時期
公表している成果物2,517件の公表方法別の割合をみると、図21のとおり、印刷物の作成配布をしているものが59.9%と最も高くなっているが、これは、成果物を関係機関等に印刷物で配布しているものが多いためである。また、国立国会図書館に納本をしているものが32.6%、インターネットで公表をしているものが28.9%、府省等外での会議・講演会等で報告をしているものが17.6%などとなっている。
図21 成果物の公表方法の状況
(ウ)インターネットによる公表
公表している成果物2,517件のうちインターネットで公表をしているものの割合は、前記(イ)のとおり28.9%(成果物全体に対しては16.8%)にとどまっている。
各府省等で実施されている調査研究事業のうち、複数の府省等で共通に実施されている分野であるため、成果物の内容が他の契約の参考になる可能性のあるダイオキシン、リサイクル、PFIなどの契約における成果物281件について、府省等間におけるインターネットの活用状況をみると、表19のとおりとなっていた。すなわち、契約を発注するに当たりインターネットによる事前検索を行ったものが78件、27.7%、また、契約履行後の成果物をインターネットにより公表したものが28件、9.9%と共に低くなっており、各府省等で共通する事項の調査研究事業においてもインターネットの活用が低調となっている。
表19 府省等間におけるインターネットの活用状況
(単位:件、%)
共通分野 | 対象省庁数 | 成果物件数 | 既存データのインターネットでの事前検索の有無 | インターネットでの公表の有無 | ||
有 | 無 | 有 | 無 | |||
ダイオキシン | 5 | 36 | 13 | 23 | 7 | 29 |
公害 | 3 | 9 | 1 | 8 | − | 9 |
リサイクル | 6 | 16 | 2 | 14 | 1 | 15 |
遺伝子 | 3 | 18 | − | 18 | 3 | 15 |
インターネット | 5 | 17 | 3 | 14 | − | 17 |
PFI | 6 | 17 | 6 | 11 | 2 | 15 |
地震災害 | 7 | 27 | 10 | 17 | 2 | 25 |
政府開発援助 | 11 | 141 | 43 | 98 | 13 | 128 |
合計 | 46 | 281 | 78 | 203 | 28 | 253 |
成果物件数に対する割合 | / | / | 27.7 | 72.2 | 9.9 | 90.0 |
さらに、前記成果物4,325件について、当初想定の利用範囲とインターネットによる公表状況の関係をみると、図22のとおり、広く一般的な利用を想定している成果物1,805件のうち、インターネットで公表している成果物は574件、31.8%にとどまっている。
一方、インターネットの普及率は急速に伸びており、広く一般的な利用を想定していた成果物はもとより、公表が可能なものについては、他の府省等だけではなく、広く国民が容易に利用できるよう可能な限りインターネットで公表することが有効であると考えられ、迅速な公表が行えるような成果物の納入形態の検討も含め、インターネットによる公表の推進を図ることが望まれる。
図22 利用の想定とインターネットでの公表の関係
(エ)公表していない成果物の状況
公表していない成果物1,808件について、公表していない理由をみると、図23のとおり、府省等内の特定の用途に利用としているものが1,224件、67.6%と最も高く、機密保持としているものが228件、12.6%、安全性の確保としているものが86件、4.7%となっている。
図23 公表していない理由
そして、上記の府省等内の特定の用途に利用としているもの1,224件のうち、機密保持、個人情報の保護等の理由と重複しているものを除いた1,057件の内訳についてみると、表20のとおり、府省等独自の施策の推進に利用しているものが809件、76.5%と最も多くなっている。しかし、このような成果物の中には、その内容に関係する民間会社の経営に役立つものなど、外部の関係者にも知らせることが公益に沿うと思料される契約が見受けられた。
また、機密保持、個人情報の保護を理由として公表していないものも含め、成果物の内容を十分精査した上で、支障のない範囲内での公表の可能性を検討する必要があると思料される。
表20 府省等内の特定の用途の内容
(単位:件、%)
特定の用途 | 件数 | 割合 |
府省等独自の施策の推進 | 809 | 76.5 |
政府全体の施策の推進 | 96 | 9.0 |
法令の制定、改正 | 53 | 5.0 |
研究開発 | 163 | 15.4 |
職員の研修 | 11 | 1.0 |
その他 | 79 | 7.4 |
合計 | 1,057 | / |
(ア)成果物の管理部署及び管理形態
成果物の管理部署の状況をみると、図24のとおり、担当部局課で管理を行っているものが95.5%と最も高くなっている。
府省等内での調査研究事業については、他部署において作成された情報が有効に活用される可能性も大きく、過去の調査研究事業の蓄積により、今後の調査研究事業の質の向上が期待できるため、成果物の一元的な管理をしたりして、府省等内で情報を共有できる体制を作ることが望ましいと考えられるが、一元的に管理を行っているものは1.1%と低くなっている。しかし、中には、局内の部署がどのような調査研究事業を行っているかの情報を提供するため、成果物をデータベース化することにより情報を共有しているものも見受けられた。
また、府省等の図書館は国立国会図書館の支部図書館であり、府省等の各部署の職員も閲覧することが可能となっていることから、図書館での管理を積極的に推進することは重要であると考えられるが、図書館で管理されているものは7.2%にとどまっている。
図24 成果物の管理部署の状況
成果物の管理形態をみると、表21のとおり、データベースなどの電子媒体によるものが1,712件、39.5%、書類が3,941件、91.1%などとなっている。
表21 成果物の管理形態
(単位:件、%)
管理形態 | 件数 | 割合 |
電子媒体 | 1,712 | 39.5 |
書類 | 3,941 | 91.1 |
その他 | 180 | 4.1 |
合計 | 4,325 | / |
(イ)成果物の著作権の帰属先
著作権の帰属の状況をみると、図25のとおり、契約条項に著作権の帰属に関する規定のない契約の成果物が1,565件、36.1%となっている。
著作権は、契約条項において国への帰属の規定がないと、著作権法(昭和45年法律第48号)により、成果物を作成した契約相手方に帰属することとなる。このため、契約条項において国への帰属を明確にしていない場合は、国に著作権を帰属させるべき成果物についても、国が自由に利用することはできず、著作権を有する契約相手方の同意が必要となる。
図25 著作権の帰属の状況