会計検査院は、平成17年次の検査に当たって、会計検査の基本方針を次のとおり定めた。
平成17年次会計検査の基本方針
(平成16年9月16日策定)
会計検査院には、内閣から独立した憲法上の機関として、国の収入支出の決算の検査を行うほか、法律に定める会計の検査を行い、これを常時実施することにより、会計経理を監督し、その適正を期し、かつ、是正を図るとともに、検査の結果により、国の収入支出の決算を確認し、検査報告を作成して内閣を通じて国会に報告するという使命が課されている。
(1)我が国の社会経済の動向と財政の現状
近年、我が国の社会経済は、少子・高齢化の急速な進展、グローバル化、情報通信技術の革新とその普及、環境問題による制約などにより大きく変容してきている。そして、今まで我が国の社会経済を支えてきた行政等のシステムにもこうした変化への対応が求められている。
我が国の財政をみると、連年の公債発行により公債残高は年々増加の一途をたどり、平成16年度末には約482兆円に達すると見込まれており、公債償還等に要する国債費は16年度予算で約17兆5千億円と、一般会計歳出の約2割を占めていて、財政の健全化が課題となっている。
また、政府は、経済・財政、行政等の各分野における構造改革を推進することとしている。
(2)会計検査院をめぐる状況
14年4月に「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が施行され、国の行政機関は同法に基づく政策評価を実施しており、また独立行政法人についても独立行政法人通則法に基づく業務の実績の評価が実施されている。さらに、近年、国の財政状況などをより明らかにするため、財政制度等審議会等において企業会計の考え方を導入した財務書類の作成等種々の検討が行われるなど、行政の説明責任が一層重視されている。
そして、行政の説明責任に関連して、上記の各評価の導入の発端となった行政改革会議の報告において、評価は政府部内のそれとともに政府の部外からもなされることが重要であるとして、会計検査院による評価に対して期待が表明されている。
一方、会計検査院の検査結果は、従来から国会における決算審査等に活用されているところであるが、15年6月の参議院決算委員会の決議において、内閣に対し、決算を予算に反映させることの意義を踏まえ決算の国会への早期提出を図ること、会計検査院の検査機能の強化のため所要の措置を講ずることなどが要請された。こうした状況を受けて、会計検査院では16年次の検査から検査報告の一段の早期提出を図ることとしており、これにより国会における決算審査の早期化に資することとなった。
このように会計検査院の役割及び機能は重要であり、国民の期待も大きくなっている。
会計検査院は、従来から社会経済の動向などを踏まえて国民の期待に応える検査に努めてきたところであるが、以上のような状況の下で今後ともその使命を的確に果たすため、国民の関心の所在や国会における審議の状況に常に注意を払い、厳正かつ公正な職務の執行に努めるとともに、次に掲げる方針で検査に取り組む。
ア 我が国の社会経済の動向や財政の現状を十分踏まえ、主として次に掲げる施策の分野に重点を置いて検査を行う。
(ア)社会保障
(イ)公共事業
(ウ)教育及び科学技術
(エ)防衛
(オ)農林水産業
(カ)経済協力
(キ)中小企業
(ク)環境保全
(ケ)情報通信(IT)
イ 不正不当な事態に対する検査を行うことはもとより、業績の評価を指向した検査を行っていく。そして、必要な場合には、制度そのものの要否も視野に入れて検査を行っていく。
すなわち、これまで会計検査院は、主として次のような観点から検査を行ってきた。
(ア)検査対象機関の決算の表示が予算執行の状況を正確に表現しているかという正確性の観点
(イ)検査対象機関の会計経理が予算や法律、政令等に従って適正に処理されているかという合規性の観点
(ウ)検査対象機関における事務・事業の遂行及び予算の執行が、より少ない費用で実施できないか、あるいは同じ費用でより大きな成果が得られないかという経済性・効率性の観点
(エ)検査対象機関における事務・事業の遂行及び予算の執行の結果が、所期の目的を達成しているか、また、効果を上げているかという有効性の観点
今後も、正確性や合規性の観点からの検査を十分行い、その際には、近年一部の府省において不正不当な事態が相次いだことも踏まえて、特に基本的な会計経理について重点的に検査を行う。さらに、近年の厳しい経済財政状況にもかんがみ、経済性・効率性及び有効性の観点からの検査を重視し、特に有効性の観点から、事務・事業及び予算執行の効果について積極的に取り上げるよう努める。そして、事務・事業の遂行及び予算の執行に問題がある場合には、原因の究明を徹底して行い、その改善の方策について検討する。
検査に当たっては、検査対象機関の内部牽制や内部監査の状況に留意するとともに、必要に応じてこれらが十分機能し実効あるものとなっているかについても検査する。
複数の府省等により横断的に実施されている施策、あるいは複数の府省等に共通又は関連する事項に対して、横断的な検査の充実を図る。また、国会からの検査要請や社会的関心の高い事項については必要に応じて機動的な検査を行うなど、適時適切に対応する。
また、行政の透明性、説明責任の向上や事業運営の改善に資するなどのため、国等の検査対象機関に係る決算の分析やその評価を指向した検査を行っていくとともに、特別会計、独立行政法人等についてはその財務状況の検査の充実を図る。さらに、検査対象機関が自ら行う政策評価などの状況についても留意して検査を行う。
そして、検査の成果が、予算の編成・執行や事業運営等に的確に反映され、実効あるものとなるよう、その後の対応状況等を適時適切に検査するなどしてフォローアップを行う。
ウ 社会経済の複雑化とそれに対応した行政活動の変化に伴い、新しい検査手法の開拓を行うなどして検査を行っていく。
すなわち、検査手法や検査領域を多様化するための調査研究、専門分野の検査に対応できる人材の育成や拡充、コンピュータ等の情報機器や検査用機器の活用などを行い、会計経理はもとよりそれに関連するあらゆる事務・事業について検査を行う。
本基本方針に基づき、会計検査院に課された使命を効率的、効果的に達成するため、的確な検査計画を策定し、これにより計画的に検査を行う。
検査計画には、検査対象機関並びに施策及び事務・事業の予算等の規模や内容、内部牽制や内部監査の状況、過去の検査の状況や結果などを十分勘案して、検査に当たって重点的に取り組むべき事項を検査上の重要項目として設定する。