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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

公務災害補償に係る治癒の認定手続を適切に行うことにより、療養補償が適正なものとなるよう改善させたもの


(1)公務災害補償に係る治癒の認定手続を適切に行うことにより、療養補償が適正なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)防衛本庁 (項)防衛本庁
部局等の名称 航空幕僚監部
公務災害補償の概要 職員が公務上の又は通勤による災害を受けた場合に、その補償等を行うもの
療養補償に係る支出額 2億2169万余円 (平成15、16両年度)
上記のうち治癒の認定手続を開始する必要があるものに係る支出額 5085万円  

1 公務災害補償について

(公務災害補償制度の概要)

 防衛庁の職員が公務上の災害又は通勤による災害(以下「公務災害」という。)を受けた場合の補償等については、「防衛庁の職員の給与等に関する法律」(昭和27年法律第266号)に基づき、国家公務員災害補償法(昭和26年法律第191号。以下「補償法」という。)の規定を準用することとされている。
 そして、補償法は、職員が公務災害を受けた場合に、国は療養補償として必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を支給することとしており、この療養補償は公務上の傷病が治癒するまで行われることとなっている。
 すなわち、療養補償は、公務上の傷病が完全に治って治癒の認定が行われるまで、又は、症状が残っていても、医学上一般に承認された治療方法によっては傷病に対する医療効果はもはや期待できず、残存する症状が固定したとして治癒の認定が行われるまで、実施されることとなっている。

(療養補償の治癒の認定手続)

 航空自衛隊では、療養補償における治癒の認定手続について、航空自衛隊災害補償実施細則(昭和42年航空自衛隊達第12号。以下「実施細則」という。)により次のように定めている。
 被災隊員の所属する部隊等の長は、当該被災隊員が治癒したと認められる場合には基地業務担当部隊等の長に通知し、基地業務担当部隊等の長は、被災隊員の傷病の症状が次のような状態にあると認められるときは、災害補償治癒報告書に診断書を添付して航空方面隊司令官等に治癒の報告等を行う。
〔1〕 切創等の場合は、創面が癒着し薬剤を使用しなくなったとき
〔2〕 打撲症の場合は、発赤腫張等の急性症状が消退し湿布等の処置を必要としなくなったとき
〔3〕 骨折の場合は、骨が癒合し外科的な処置を必要としなくなったとき
〔4〕 疾病の場合は、急性症状が消退し、慢性症状が持続していてもそれ以上の医療効果を期待し得なくなったとき
 そして、航空方面隊司令官等は、速やかにこれを審査し、治癒したときは治癒の認定を行い、治癒認定通知書により、基地業務担当部隊等の長及び部隊等の長を経て、被災隊員に通知する。
 なお、治癒の認定を行った後においても、当該被災隊員に一定の程度以上の障害が残った場合には障害補償や介護補償を行うほか、被災隊員の円滑な社会復帰を促進するために外科後処置やリハビリテーションを実施したり、療養生活や介護等の援護を図るために必要な資金等を支給したり、また、治癒した傷病が再発した場合には再発認定を行うなどの制度が設けられている。

(現状報告)

 航空自衛隊では、療養補償を受けている被災隊員の療養の現状を把握するため、実施細則に基づき、負傷又は疾病に係る公務災害の発生日から1年6月を経過した日後1月以内に、また、毎年2月1日現在において2年以上経過している場合には毎年2月末日までに、療養の現状報告書(以下「現状報告書」という。)を、被災隊員から所属する部隊等の長及び基地業務担当部隊等の長を経て、航空方面隊司令官等に提出させている。この現状報告書には、傷病の経過及び治療方法の概要、傷病の現状、今後の見込みなどについて医師の証明を記載することになっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点及び対象)

 航空自衛隊では、訓練中等に隊員が負傷することが相当数に上り、また、数年間にわたり継続して療養補償を受けている者も多くなっていて、療養補償に係る支出額は、平成15年度1億1635万余円、16年度1億0533万余円、計2億2169万余円となっている。
 そこで、療養補償に係る治癒の認定手続が適切に行われているかなどに着眼して検査を実施した。

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。
 航空自衛隊が16年度末において療養補償を実施していて、引き続き17年度へ継続しているもの計324件について、療養補償の実施期間別にみると、表1のとおりとなっている。

表1 平成16年度末の療養補償継続者に係る補償実施期間
療養補償の実施期間 1年
未満
1年〜
2年
2年〜
3年
3年〜
5年
5年〜
10年
10年〜20年 20年
以上
件数(件) 75 44 16 15 42 68 64

 このうち、療養補償を2年以上の長期間にわたり継続して行っているものは205件であり、このうち64件は20年以上のものとなっている。
 これら205件について、現状報告書により傷病の現状等を確認したところ、公務災害に係る傷病について、既にその症状が固定し、もはや医療効果が期待できない状態になっていることを示唆する医師の証明が記載されるなどしていて、治癒の認定手続を開始する必要があると認められるものが184件見受けられた。
 上記の184件について、現状報告書の傷病の現状別に分類し、これらに係る療養補償の支出額を示すと、表2のとおり、15年度2614万余円、16年度2470万余円、計5085万余円となっている。

表2 現状報告書の傷病の現状別分類
傷病の現状 件数
(件)
15年度支出額
(円)
16年度支出額
(円)
1 傷病の症状が固定している状態等にあるもの(他に分類されるものを除く。) 29 16,055,019 17,201,269
2 リハビリテーション又は予防的な医療を行っているなどの記載があるもの 34 8,466,747 6,109,140
3 改善が見られないなどの記載があるもの 18 1,223,506 1,055,277
4 経過観察や定期的な検査等の記載があるもの 29 386,290 305,216
5 治癒の認定事務に携わる者が行う治癒の説明に応じないもの 2 18,090 36,228
6 現状報告書の提出がないもの 72 0 0
184 26,149,652 24,707,130

その具体的事例を示すと、次のとおりである。

<事例>

 航空自衛隊では、昭和43年7月に内務指導の教育中に発生した災害により受傷した航空自衛官(当時33歳)に対し、同年9月に傷病名「腰部打撲症」を公務災害として認定し、以後療養補償を実施していた。
 同人の平成9年2月の現状報告書によると、今後の見込みについて、「国家公務員災害補償法における症状固定に該当するが、腰部、両下肢の愁訴を強く訴えられるので、継続加療を必要とします。」との担当医師の証明がなされている。そして、航空自衛隊では、継続加療を必要とする旨の担当医師の証明があることなどから療養の継続が必要であるとして、災害発生から30年以上経過した会計実地検査時においても療養補償を継続していた。
 しかし、上記のとおり、現状報告書には症状固定との医師の証明が記載されていることから、治癒の認定手続を開始する必要があると認められる。
 なお、現状報告書に症状固定との記載のあった9年2月以降17年4月までの療養補償に係る支出額は3,266千円となっている。
 上記のように、現状報告書に記載されている医師の証明の中に傷病の状態が既に治癒に該当していることを示唆する記述のあるものが多数見受けられるのに、これに対する調査確認が十分行われず、実施細則に基づく治癒の認定手続が開始されないまま、長期にわたりこれらに係る診療費等を対象として公務災害補償費を支出しているのは適切とは認められず、是正改善の要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。
ア 被災隊員の所属する部隊等の長、基地業務担当部隊等の長及び航空方面隊司令官等において、治癒の認定手続についての認識が十分でなく、また、現状報告書の内容の確認や被災隊員の治癒の状況等に係る調査が十分でないこと
イ 航空幕僚監部において、基地業務担当部隊等の公務災害業務担当者等に対する公務災害補償制度の適正な運用についての指導監督が十分でないこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、航空幕僚監部では、17年9月に各航空方面隊司令官等に対して通知を発し、治癒の認定手続を行う被災隊員の所属する部隊等の長、基地業務担当部隊等の長及び航空方面隊司令官等に対し、治癒の認定手続について周知徹底するとともに、現状報告書の内容の確認や被災隊員の治癒の状況に係る調査等を十分に行い、治癒の認定手続を開始する必要があるものについては早急に認定手続を開始することとした。また、基地業務担当部隊等の公務災害業務担当者等に対し、公務災害補償制度の適正な運用を図るための教育を行うとともに、毎年度末、療養補償を2年以上継続して行っているものの状況を把握するなどの処置を講じた。
 そして、航空自衛隊では、本院の指摘に基づき、前記の184件について、現状報告書の内容の確認や被災隊員の治癒の状況に係る調査等を開始しており、このうち、17年9月20日現在で、31件については治癒の認定を完了し、51件については治癒の認定手続中である。