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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第6 財務省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

給与所得に係る源泉徴収義務者に対する納付指導を効率的に行うことなどにより、源泉徴収制度が適切に実施されるよう改善させたもの


(2)給与所得に係る源泉徴収義務者に対する納付指導を効率的に行うことなどにより、源泉徴収制度が適切に実施されるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 国税収納金整理資金 (款) 歳入組入資金受入
    (項)各税受入金
部局等の名称 国税庁  
検査した税務署 札幌北税務署ほか95税務署  
96税務署の未納者リストに記載された源泉徴収義務者 113,184人
上記の源泉徴収義務者のうち抽出して検査した源泉徴収義務者 685人
上記の検査した源泉徴収義務者に係る推計未納税額
10億0496万円

1 事態の概要

(給与所得に係る源泉徴収制度)

 国税庁では、給与所得、配当所得等に係る源泉所得税など国税の賦課及び徴収等の事務を行っている。そして、源泉所得税のうち、給与所得に係るものは、毎月給与等を支払う者が、その支払の際、給与等の支払を受ける者(以下「受給者」という。)から支給金額等を基に計算した所得税額を徴収し、国に納付することとなっている。この所得税額を徴収し国に納付しなければならない源泉徴収義務者(以下「徴収義務者」という。)は、平成17年6月末現在で約386万人となっている。

(徴収義務者の事務)

 徴収義務者は徴収して納付すべき所得税額がある場合、給与等の支払年月、人員、支給額、税額等を記載した「納付書兼給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」(以下「納付書」という。)を添えて、徴収した所得税額を法定納期限までに国に納付することとなっている。また、徴収して納付すべき所得税額がない場合、徴収義務者は税額欄にゼロである旨を記載した納付書(以下「税額零納付書」という。)を法定納期限までに税務署へ提出することとなっている。
 そして、徴収義務者は、一定の金額を超える受給者がいる場合には、その受給者に係る源泉徴収票と受給者全員の支払金額の合計額などを記載した「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」(以下「合計表」という。)を翌年1月31日までに税務署に提出することとなっている。

(源泉所得税の納期の特例)

 徴収義務者が徴収した所得税額は、原則として、徴収した日の属する月の翌月10日までに国に納付することとなっている。ただし、受給者が常時10人未満である徴収義務者については、事務手続を簡素化するため「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署長に提出し、承認を受けた場合には徴収した所得税額を年2回(1月から6月までの分は7月、7月から12月までの分は翌年1月)にまとめて納付することができる(以下「納期の特例」という。)こととなっていて、17年6月末現在、徴収義務者約386万人のうち約288万人が承認を受けている。
 そして、上記の承認を受けた徴収義務者は、受給者が常時10人未満でなくなった場合には、遅滞なく「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」(以下「特例非該当届出書」という。)を税務署長に提出しなければならないこととなっている。
 また、税務署長は、納期の特例の承認を受けた徴収義務者において次のいずれかに該当する事実が生じたと認められるときは、その承認を取り消すことができることとなっている。
〔1〕 受給者が常時10人未満であると認められないこと
〔2〕 徴収義務者につき現に国税の滞納があり、かつ、その滞納税額の徴収が著しく困難であること、その他所得税の納付に支障が生ずるおそれがあると認められる相当の理由があること

(納付指導)

 税務署の源泉所得税担当は、徴収義務者ごとに源泉所得税額の納付の有無を管理している。そして、納付すべき源泉所得税額があるのに法定納期限内に納付がない場合(以下「未納」という。)や税額零納付書の提出がないため納付税額がゼロであることが確認できない場合(以下「形式的な未納」という。)には、次のような納付指導を行うこととなっている。
〔1〕 国税総合管理システム(注1) (以下「KSKシステム」という。)により、納付指導を行う対象となる徴収義務者の名簿(以下「未納者リスト」という。)を作成する。
〔2〕 未納者リストに記載されている徴収義務者に対し、電話による照会をしたり、納付照会はがき(以下「照会はがき」という。)を送付したりして自主納付や税額零納付書の提出を求める。
〔3〕 自主納付しない徴収義務者の未納となっている源泉所得税額を把握した場合には、税務署長が徴収義務者に対して納付を命ずる納税の告知を行う。


国税総合管理システム 全国の国税局及び税務署等を一元的なコンピュータのネットワークで結んで、各種事務を総合的に処理するシステム

(徴収義務者の未納状況)

 徴収義務者の未納状況についてみると、17年6月末現在、徴収義務者約386万人のうち、未納がある徴収義務者は約10万人となっていて、さらに、そのうち前年以前分についても未納がある徴収義務者は、約4万人に上っている。

(未納と滞納)

 前記のとおり、徴収義務者が納付すべき源泉所得税額を法定納期限までに国に納付していない場合、源泉所得税担当は未納となっている源泉所得税額を把握し、徴収義務者に対し納期限を指定した納税の告知を行うこととなっている。そして、指定した納期限までに徴収した所得税額を徴収義務者が納付しない場合には滞納となり、督促状を発した後、徴収担当は滞納処分の手続を開始することとなっている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 給与所得に係る源泉徴収制度は、給与等を支払う者が、受給者から徴収した所得税額を国に納付する制度であるから、未納となっている源泉所得税額を早期に納付させるよう、適正で効率的な事務処理が強く求められている。
 そこで、税務署において、未納のある徴収義務者に対する納付指導が効率的に行われているか、また、源泉所得税の納期の特例の運用は適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 札幌北税務署ほか95税務署(注2) (管内の徴収義務者971,646人)が、16年5月から17年5月までの間に作成した未納者リストに記載された113,184人のうち、15年分以前の給与所得に係る源泉所得税について未納があり、しかも、未納となる直前の年間の源泉所得税額が10万円以上で、法人税等の確定申告書が提出されていて事業を行っていると認められる685人を抽出するなどして検査した。
 そして、これら685人について、未納となる直前に納付した1箇月分の税額又は納税の告知を受けた1箇月分の税額に未納となっている期間の月数を乗じて算出した推計未納税額は10億0496万余円(16年12月10日現在)となる。

札幌北税務署ほか95税務署 札幌北、札幌南、旭川東、青森、十和田、一関、二戸、能代、横手、米沢、鶴岡、福島、郡山、下館、太田、栃木、桐生、浦和、大宮、本庄、長野、松本、飯田、千葉東、千葉西、麹町、神田、日本橋、京橋、芝、麻布、四谷、新宿、小石川、東京上野、浅草、本所、向島、目黒、蒲田、玉川、渋谷、王子、武蔵府中、町田、横浜中、横浜南、戸塚、横須賀、平塚、藤沢、小田原、相模原、厚木、大和、高岡、武生、岐阜北、岐阜南、静岡、清水、浜松西、沼津、三島、島田、藤枝、大津、福知山、旭、灘、明石、加古川、三木、粉河、倉吉、広島東、竹原、山口、阿南、高松、観音寺、松山、高知、飯塚、佐賀、伊万里、武雄、平戸、熊本西、熊本東、菊池、都城、小林、指宿、大隈、平良の各税務署

(検査の結果)

(1)未納者リストに記載された徴収義務者に対する納付指導の状況

ア 照会はがきによる納付指導の状況

 前記96税務署のうち、照会はがきの発送枚数が確認できた82税務署における照会はがきによる納付指導の状況について検査した。
 その結果、徴収義務者に郵送した照会はがき95,776枚のうち、税額の有無等について回答があったのは27,280枚にとどまっていた。そして、未回答の65,429枚や所在不明等のため返戻された3,067枚に係る徴収義務者に対して、源泉所得税担当は改めて電話による照会を行ったり、所在地を再確認したりするなどして日時を要している状況であった。

イ 税額零納付書の提出状況

 前記のとおり、徴収義務者は、徴収して納付すべき源泉所得税額がない場合、税額零納付書を税務署へ提出することとなっている。
 そこで、未納者リストに記載された113,184人のうちの20,377人を抽出して、過去の税額零納付書の提出状況について検査した。
 その結果、過去の納付指導において、納付すべき源泉所得税額がないため税額零納付書を税務署に提出させるなどしていた徴収義務者が4,630人見受けられ、このうちには、今回も納付すべき源泉所得税額がないものの、税額零納付書を提出していない徴収義務者が含まれていると思料された。
 このように、納付指導の対象となる未納者リストのなかには形式的な未納である徴収義務者が含まれていて、その確認等に手間取っていることは、効率的な事務処理の支障になっていると認められた。

ウ 納税の告知の状況

 前記のとおり、税務署では、源泉所得税額を法定納期限までに納付しない徴収義務者に対して納税の告知を行っている。
 そこで、未納者リストに記載された113,184人のうち、未納となる直前の年間税額が原則として10万円以上であるなどの932人を抽出して、これら徴収義務者に係る納税の告知6,654件について、法定納期限経過後、納税の告知までに要した期間を検査した。
 その結果、6箇月以内に納税の告知を行ったものは3,149件(47.3%)であったが、1年を超え2年以内のものが1,356件(20.4%)あり、さらには2年を超えていたものも219件(3.2%)ある状況となっていた。
 このように納税の告知までに長期間を要しているのは、源泉所得税担当者からの聞き取り調査によると、未納となっている源泉所得税額や形式的な未納を把握するためには電話や照会はがきによる照会を繰り返し行わなければならないからであるとのことであった。

(2)納付指導における合計表のデータの活用状況

 前記のとおり、徴収義務者は、一定の金額を超える受給者がいる場合には合計表を税務署に提出することとなっている。
 合計表には、年間の給与等の支払金額、源泉所得税額などが記載されていることから、源泉所得税担当が納付指導を行う場合に有効な資料となるものである。そのため、徴収義務者から提出された合計表のデータは、活用が図られるようKSKシステムに入力することとなっている。
 しかし、源泉所得税担当においては、入力されたデータを自己の端末機で直接確認できるシステムとなっていないため、納付指導に合計表のデータを十分に活用できない状況となっていた。

(3)納期の特例の運用状況

 前記のとおり、納期の特例の承認を受けた徴収義務者は、受給者が常時10人未満でなくなった場合に、特例非該当届出書を税務署長に提出しなければならないこととなっている。また、税務署長は、承認を受けた徴収義務者について、受給者が常時10人未満でなくなったり、国税の滞納税額がありその徴収が著しく困難であったりなどするときには、承認を取り消して毎月納付とさせることができることとなっている。そこで、源泉所得税額の未納がある前記685人のうち、納期の特例の承認を受けている498人について受給者の数などを検査した。
 その結果、徴収義務者ごとに源泉所得税額の納付の有無を管理している資料に受給者の数が10人以上と記載されている徴収義務者が59人見受けられた。また、国税の滞納税額がある徴収義務者が373人見受けられた。
 そして、前記の96税務署における、13年から15年までの3年間の納期の特例の承認の見直し状況についてみると、徴収義務者から特例非該当届出書が提出されていたものが90税務署において14,824人あった。一方、受給者が常時10人以上になったことなどにより、税務署長が承認を取り消したものは5税務署、22人にすぎない状況となっていた。
 以上のとおり、源泉所得税額が長期にわたって未納となっているのに、未納の源泉所得税額の把握に長期間を要するなど効率的な納付指導を行っていなかったり、合計表のデータが納付指導に十分活用されていなかったり、納期の特例の承認の見直しが十分行われていなかったりする事態が見受けられた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、徴収義務者において、源泉徴収制度に関する理解が十分でないことにもよるが、次のことなどによると認められた。
ア 照会はがきの回答状況が低調であったり、税額零納付書が提出されないため形式的な未納となっている徴収義務者の確認等に手間取ったりしていて、長期にわたって未納となっている徴収義務者に対する納付指導が効率的に行われていなかったこと
イ KSKシステムに入力された合計表のデータについて、源泉所得税担当が自己の端末機で確認できるシステムになっていないため、納付指導に十分活用されていなかったこと
ウ 納期の特例の承認を受けている徴収義務者について、受給者が10人以上となっていたり、国税の滞納税額があったりしているのに、滞納等の状況を把握している徴収担当から情報を得るなどして納期の特例の承認の見直しを十分行っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、国税庁では、17年9月、各国税局等に通知を発するなどし、源泉所得税の納付指導の効率化等を図ることにより、源泉所得税の未納の早期処理に努めるよう、次のような処置を講じた。
ア 照会はがきの未回答者への回答確認や税額零納付書を提出する要のある徴収義務者への提出確認等の反復的な事務処理について、事務の集中化や外部委託化等を通じて納付指導の効率化等を図ることにより、長期にわたって未納となっている徴収義務者に優先的に接触するなどして、未納が長期間滞留することのないよう、未納の早期処理に努めることとした。
イ KSKシステムに入力された合計表のデータを有効に活用することにより納付指導の効率化を図るため、17年8月、源泉所得税担当の端末機で合計表のデータを確認できるシステムとした。
ウ 納期の特例の承認を受けている徴収義務者のうち、前年以前分から未納があり、かつ、国税の滞納税額のある者については、徴収担当から滞納等に関する情報を得るなどして、定期的に納期の特例の承認の見直しをすることとした。