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データ通信サービス契約に係るソフトウェア使用料のうちの利子相当額の算出が適正なものとなるよう是正改善の処置を要求したもの


(1)データ通信サービス契約に係るソフトウェア使用料のうちの利子相当額の算出が適正なものとなるよう是正改善の処置を要求したもの

会計名及び科目 厚生保険特別会計(業務勘定) (項)業務取扱費
    (項)保健事業費
    (項)福祉施設事業費
  国民年金特別会計(業務勘定) (項)業務取扱費
    (項)福祉施設費
部局等の名称 社会保険庁
契約名 データ通信サービス契約
契約の概要 社会保険オンラインシステムにおけるハードウェア、ソフトウェア、通信回線等の各種システムサービスの提供を受けるもの
契約の相手方 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
上記契約に係るソフトウェア使用料のうちの利子相当額
86億2392万余円
(平成15、16両年度)
低減できた利子相当額
33億9594万円
(平成15、16両年度)

【是正改善の処置要求の全文】

データ通信サービス契約に係るソフトウェア使用料のうちの利子相当額について

(平成17年10月26日付け 社会保険庁長官あて)

 標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を要求する。

1 データ通信サービス契約の概要

(社会保険オンラインシステムの概要)

 貴庁では、国民年金、厚生年金保険、政府管掌健康保険及び船員保険の適用、保険料の徴収、年金の裁定及び給付、年金相談等の業務を行っている。
 そして、上記の業務を迅速かつ正確に処理し、膨大な記録を長期にわたり管理するため、貴庁の社会保険業務センターに設置されたホストコンピュータ等と各社会保険事務所等に設置された専用端末機を専用の通信回線で接続したシステム(以下、このシステムを「社会保険オンラインシステム」という。)を運用している。
 社会保険オンラインシステムは、被保険者の資格や保険料の納付状況等の履歴を管理する「記録管理システム」、受給権者の年金の裁定と給付等を行う「年金給付システム」及び基礎年金番号の付番・管理、適用勧奨のための情報管理を行う「基礎年金番号管理システム」の3つのシステムから構成されている。
 このうち、「記録管理システム」及び「基礎年金番号管理システム」については、貴庁と株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下「NTTデータ」という。)との間で締結されたデータ通信サービス契約に基づき運用されている。

(データ通信サービス契約の概要)

 データ通信サービス契約は、NTTデータが定めた「データ通信サービス契約約款」に基づき、貴庁が、ハードウェア、ソフトウェア、通信回線、端末設備等の各種システムサービスを利用し、その対価として使用料をNTTデータに支払うことを内容とするものであり、当該契約は会計法(昭和22年法律第35号)第29条の12等の規定により、翌年度以降にわたり役務の提供を受ける長期継続契約としている。

(使用料の決定)

 各種システムサービスの使用料は前記の契約約款に基づき毎月支払うこととされており、その内訳は、〔1〕センター設備使用料(ハードウェア使用料、ソフトウェア使用料、電力設備使用料、建物使用料)、〔2〕事務処理機器使用料、〔3〕通信関係設備使用料、及び〔4〕通信回線使用料となっている。
 貴庁では、前記の両システムに係る契約について、毎年度、NTTデータと協議の上、使用料算定の基礎となる人件費単価などの基本的な事項(以下「基本的事項」という。)を定めている。そして、ハードウェアの変更や新たなソフトウェアの開発などがある場合には、その都度、データ通信サービス契約における使用料の変更を行っており、使用料の契約変更に当たっては、NTTデータから提出させた見積書の金額について、基本的事項及び見積額の根拠資料に基づき確認した上、妥当と判断した場合には、見積額と同額をもって使用料の増減を行っている。

(ソフトウェア使用料の算出方法)

 使用料のうち、前記〔1〕のソフトウェア使用料の平成15、16両年度における支払額の総額は582億5148万余円となっている。そして、ソフトウェア使用料の毎月の支払額(月額使用料)は、ソフトウェア(その費用を1回で支払うこととしたものを除く。)の開発に係る人件費などの費用(以下「ソフトウェア開発費」という。)に年経費率を乗じて得た額を12で除して算出される額となっている。
 上記の年経費率は、ソフトウェア開発費を10年間の分割払で支払うこととなるよう、NTTデータと協議の上、基本的事項として毎年度決定されており、減価償却費率、維持運営費率、公正報酬率、及び利子相当額率から構成されている。このうち、利子相当額率については、ソフトウェア使用料の額を算定する際にソフトウェア開発費を10年間の分割払で支払うことに伴って生じる利子負担に相当する額を算出するためのものとして設定されており、長期プライムレートの直近2年分の加重平均値(以下「長期プライムレート平均値」という。)が用いられている。そして、年経費率及びこれを構成する利子相当額率の12年度から16年度までの推移は、表1のとおりとなっている。

表1 年経費率及び利子相当額率の推移
区分
12年度
13年度
14年度
15年度
16年度
年経費率 0.1414 0.1404 0.1383 0.1363 0.1352
うち利子相当額率 0.023 0.022 0.0199 0.0179 0.0168

2 本院の検査結果

(検査の着眼点)

 データ通信サービス契約に係るソフトウェア使用料は、前記のように支払総額が15、16両年度で約582億円と巨額になっており、このうちの利子相当額も多額に上っている。そこで、ソフトウェア使用料における利子相当額が適正に算出されているかに着眼して検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、ソフトウェア使用料の算出における利子相当額率の設定について、次のような事態が見受けられた。
 貴庁では、ソフトウェア使用料の算出に当たって、その月額使用料を一定額とするため、月額使用料における元金と利子がそれぞれ一定の額になるアドオン方式を採用しているとし、また、ソフトウェア使用料中の利子相当額を算出するための利子相当額率については、前記のとおり長期プライムレート平均値を採用していた。そして、長期プライムレート平均値を採用したのは、長期プライムレートが長期貸出金利の基準となるもので、借入者にとって一般的に最も優遇された金利であることから、NTTデータを契約相手方とした契約の場合、当該率を適用するのが妥当であるとしたことなどによるとしている。
 上記のアドオン方式は、月々の返済額を簡便に示すために借入元金に一定の率を乗じて利子を算出する方法であるが、この方式は、返済回数が進み借入元金が減少しても、当初借り入れた元金を基準にして利子が計算されるため、元利均等返済や元金均等返済で用いる借入利子率と同一の率を用いて計算した場合、それらの方式に比べて利子負担が割高になることとなる。このため、アドオン方式を採用しつつ、元利均等方式と利子負担額が等しくなるようにするには、借入利子率を以下の算式により変換して算出した率(以下「アドオン率」という。)を用いる必要がある。

(アドオン率の算出式)

(アドオン率の算出式)

 しかし、貴庁では、アドオン方式を採用しているにもかかわらず、アドオン率を用いることなく、貴庁がNTTデータの借入利子率として妥当と判断して採用した長期プライムレート平均値をそのまま利子相当額率として用いていて、その結果、本来負担すべき額を超える利子相当額が算出されていると認められる。
 すなわち、貴庁の方法によりソフトウェア使用料中の利子相当額を算出した場合には、毎月ソフトウェア使用料を支払うことにより元金相当額が減少していくにもかかわらず、ソフトウェア開発費に相当する金額を長期プライムレート平均値を借入利子率として借り入れたとした場合における返済1回目の利子相当額を10年間支払い続ける計算となり、本来10年間に支払うべき利子相当額を上回る額が利子相当額として算出されることとなる。
 したがって、貴庁において、利子相当額の算出に当たりアドオン方式を採用する場合に、長期プライムレート平均値をそのまま利子相当額率として用いるのは適切でなく、アドオン率を用いるべきであったと認められる。

(低減できた利子相当額)

 長期プライムレートは期間5年の利付金融債の利率を基に設定されているが、ソフトウェア開発費の支払期間は10年間と長期にわたっていることから、これに見合った利率として長期プライムレート平均値(表2参照) に代えて、仮に、期間10年前後の貸付の基準金利として公表されている10年貸付基準金利(注) を用いて前記の算定方式により利子相当額率を修正計算すると、表3のとおりとなる。

表2 当局が採用した利子相当額率等
区分
12年度
13年度
14年度
15年度
16年度
長期プライムレート平均値 (利子相当額率) 0.023 0.022 0.0199 0.0179 0.0168
実質利子率 0.0426 0.0409 0.0372 0.0336 0.0317
実質利子率は、長期プライムレート平均値をそのまま利子相当額率としてアドオン方式で用いた場合に実質的に負担することとなる利子率

 

表3 アドオン率の算出式により算出した修正利子相当額率等
区分
12年度
13年度
14年度
15年度
16年度
10年貸付基準金利 0.0271 0.0245 0.0212 0.0190 0.0177
修正利子相当額率 0.0143 0.0129 0.0111 0.0099 0.0092

 したがって、表3の修正利子相当額率により15、16両年度のソフトウェア使用料に含まれる利子相当額を計算すると、52億2797万余円となり、15、16両年度に係る利子相当額86億2392万余円は33億9594万余円が低減できたと認められる。

(是正改善を必要とする事態)

 ソフトウェア使用料の算出において、長期プライムレート平均値をそのまま利子相当額率としてアドオン方式により利子相当額を算出している事態は、本来負担すべき額を超えて利子相当額が算出されることとなっていて適切とは認められず、是正改善を図る必要があると認められる。

(発生原因)

 このような事態が生じているのは、貴庁においてソフトウェア使用料を算出するに当たり、利子相当額の計算方法についての検討が十分でなかったことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正改善の処置

 貴庁では、今後も引き続き社会保険オンラインシステムを運用していくことから、今後も多額のソフトウェア使用料を毎年度支払っていくことになると見込まれる。
 ついては、貴庁において、基本的事項として決定される年経費率のうちの利子相当額率の協議に当たっては、借入利子率として適切な率を設定した上で、アドオン方式による場合の利子相当額率を適切に設定するなどして、ソフトウェア使用料における利子相当額を適正に算出する処置を講ずる要があると認められる。

10年貸付基準金利 大手生命保険会社において、残存期間10年前後の国債等公社債の流通利回りなど期間10年前後の市場金利水準を総合的に勘案して決定された金利。長期プライムレートが期間5年の利付金融債の利率に0.9%上乗せされた水準で設定されていて、10年あるいはそれ以上の期間の超長期の貸付にそぐわないものであるとして、期間10年前後の貸付に対する基準金利が策定・公表されている。