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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

国庫負担金等の交付の趣旨に沿った保育士の配置によって、保育が適切に行われるよう改善させたもの


(2)国庫負担金等の交付の趣旨に沿った保育士の配置によって、保育が適切に行われるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)児童保護費
  厚生保険特別会計 児童手当勘定  (項)児童育成事業費
部局等の名称 厚生労働本省
国庫負担金等の根拠 児童福祉法(昭和22年法律第164号)予算補助
事業主体 市80、町13、村1、計94市町村
国庫負担等対象事業 保育所運営事業、特別保育事業
国庫負担等対象事業の概要 保護者の労働や疾病等により保育に欠ける児童を保育所において保育するもの、保護者の多様な保育ニーズに対応するため延長保育等の特別保育を実施するもの
検査対象保育所 1,121箇所
上記の保育所に係る国庫負担金等相当額 760億8287万余円
(平成14年度382億6614万余円、15年度378億1672万余円)
必要となる保育士数を満たしていない保育所に係る事業主体数 市63、町6、村1、計70市町村
必要となる保育士数を満たしていない保育所数 316箇所(平成14年度264箇所、15年度191箇所)
上記に対する国庫負担金等相当額 11億2638万円(平成14年度7億4450万円、15年度3億8188万円)

1 制度の概要

(保育所運営費国庫負担金等の概要)

 厚生労働省では、児童福祉法(昭和22年法律第164号。以下「法」という。)に基づき、保護者の労働又は疾病等の事由により保育に欠ける児童を保育所に入所させ保育する市町村(特別区を含む。以下同じ。)に対し、その保育に要する費用の一部を負担するため、児童保護費等負担金(保育所運営費国庫負担金に係る分。以下「国庫負担金」という。)を交付している。
 また、厚生労働省では、上記の通常保育以外に、保護者の多様な保育ニーズに対応するため、「特別保育事業費等補助金交付要綱」(平成7年児発第133号厚生事務次官通知。以下「特別保育交付要綱」という。)等に基づき、保育時間の延長需要に対応する延長保育促進事業、乳児を担当する保育士を年間を通じて安定的に確保する乳児保育促進事業等の特別保育事業を実施する市町村に補助を行う都道府県等に対して、その事業に要する費用の一部を補助するため、児童保護費等補助金及び児童育成事業費補助金(以下、両者を併せて「国庫補助金」という。)を交付している。

(国庫負担金及び国庫補助金の交付額の算定方法)

(1)国庫負担金について

 国庫負担金の交付額は、「児童福祉法による保育所運営費国庫負担金について」(昭和51年厚生省発児第59号の2厚生事務次官通知。以下「保育所運営費交付要綱」という。)等に基づき、次のとおり算定することとなっている。

国庫負担金の交付額は、「児童福祉法による保育所運営費国庫負担金について」(昭和51年厚生省発児第59号の2厚生事務次官通知。以下「保育所運営費交付要綱」という。)等に基づき、次のとおり算定することとなっている。

 このうち費用の額は、保育士等の人件費などを基に児童1人当たりの月額で定められている保育単価に、各月の入所児童数を乗じて算出した年間の額などにより算定することとなっている。
 そして、保育所が、延長保育促進事業、乳児保育促進事業等の特別保育事業等のうち、複数の事業を実施し都道府県等がその必要性を認定した場合には、当該保育所の保育単価に、所定の「主任保育士の専任加算」の額を加算することとなっている。

(2)国庫補助金について

 国庫補助金の交付額は、特別保育交付要綱等に基づき、主に事業に必要となる保育士の人件費を基に設定されている基準額(年額、又は月額に実施月数を乗じた額)に一定の補助率を乗ずるなどして算定することとなっている。

(保育士の配置必要数)

(1)通常保育における基準数

 保育所運営費交付要綱等では、法第45条の規定に基づき定められた「児童福祉施設最低基準」(昭和23年厚生省令第63号)を維持するため、国庫負担金の算定の対象となっている保育所において、乳児3人につき1人、1〜2歳児6人につき1人、3歳児20人につき1人、4歳以上児30人につき1人(ただし、定員90人以下の施設においては、この定数のほか1人を加算)の保育士を配置することとなっている(以下、保育所運営費交付要綱上の基準を「配置基準」という。)。

(2)特別保育事業を行う場合の必要数

 「特別保育事業実施要綱」(平成12年児発第247号厚生省児童家庭局長通知。以下「特別保育実施要綱」という。)等では、特別保育事業のうち、保育所の開所時間(11時間)の始期及び終期前後の保育需要への対応の推進分に係る延長保育促進事業については、実施する保育所において「保育士配置の充実を図ること」と記述されている。そして、厚生労働省では、これは配置基準上の保育士数のほかに保育士1人を別途配置する必要があることを意味しているとしている。また、乳児保育促進事業等を実施する場合についても、特別保育実施要綱等にこれと同様の記述があり、厚生労働省では、配置基準上の保育士数のほかに所定の保育士数を別途配置する必要があるとしている。

(3)主任保育士の専任加算を行う場合の必要数

 厚生労働省では、主任保育士の専任加算は、特別保育事業等を複数実施している保育所における主任保育士の業務の増大、多様化に対応し、主任保育士の主任業務への専任化を図るため、別途保育士1人を配置する経費を計上するものであり、当該加算が適用される保育所においては、配置基準上の保育士数及び特別保育事業で必要となる保育士数を満たした上で、さらに別途、保育士1人を配置する必要があるとしている。

(4)非常勤保育士の取扱い

 上記の配置基準等において必要とされている保育士の配置については、常勤の保育士をもって充てることが原則であるが、保育時間や保育児童数の変化に対し保育士の多様な勤務形態で柔軟に対応できるよう、常勤の保育士に代えて非常勤の保育士を充てることが認められている。そして、厚生労働省が平成10年に発した通知によると、非常勤の保育士を充てる場合は、その勤務時間数の合計が、常勤の保育士を充てる場合の勤務時間数を上回ることなどの条件を満たしていることが必要であるとされている。厚生労働省では、このことから、例えば、1日6時間未満などの非常勤の保育士については、その勤務時間数と他の非常勤の保育士の勤務時間数を合算し、それが常勤の保育士の勤務時間数以上となった場合に、その複数の非常勤保育士を常勤の保育士1人として換算することとしている。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 市町村は、前記の通常保育及び特別保育事業を自ら設置する保育所で実施したり、社会福祉法人等が設置する保育所(以下「民間保育所」という。)で実施したりしている。そして、民間保育所に入所する児童の数は近年増加傾向にあり、15年において、保育所に入所している児童のうち半数を占めるに至っている。
 そして、厚生労働省では、近年、待機児童が依然として多い状況にあることから、必要な保育士数が確保できるなどの場合には定員を超えて児童を入所可能とする措置を執るとともに、非常勤保育士でも一定の条件を満たせば必要な保育士数に充てることを可能とするなど必要な保育士の確保にも配慮する措置を執っており、特に民間保育所では定員を超えて保育を実施している場合が多くなっている。
 また、多様な保育ニーズに対応するため、通常保育に加え、前記のように様々な特別保育事業を実施していることから、必要な保育士数については、配置基準上の保育士数に加え、特別保育事業で必要となる保育士数を考慮しなければならないなど、制度が複雑化してきている。
 これらのことから、民間保育所における保育士の配置が保育所運営費交付要綱等及び特別保育実施要綱等に基づいて適正に行われているかなどに着眼して検査した。

(検査の対象)

 北海道ほか19府県(注1) の94市町村において、14、15両年度に国庫負担金及び国庫補助金(以下、これらを「国庫負担金等」という。)の対象となった1,121箇所の民間保育所(14年度国庫負担金等相当額382億6614万余円、15年度国庫負担金等相当額378億1672万余円)における保育士の配置状況について検査した。

(検査の結果)

 検査したところ、北海道ほか17府県(注2) の70市町村において、民間保育所における保育士の配置状況を確認していなかったり、非常勤保育士が配置されている場合の常勤保育士数への換算方法や、特別保育事業を実施する場合及び主任保育士の専任加算を行う場合に必要な保育士の配置について十分に理解していなかったりしていたことから、次表のとおり、必要となる保育士数が確保されていなかった事態が316保育所において見受けられ、これらに係る国庫負担金等相当額が14年度7億4450万余円、15年度3億8188万余円、計11億2638万余円となっていた。

年度
市町村数
保育所数
月数
国庫負担金等相当額
配置基準上の保育士数を配置していないもの
14
26
45
151
419,373千円
15
17
29
84
212,170千円
30
61
235
631,543千円
特別保育事業で必要となる保育士数を配置していないもの
14
49
134
624
100,607千円
15
37
76
284
40,891千円
54
158
908
141,499千円
主任保育士専任加算で必要となる保育士数を配置していないもの
14
66
261
1,447
224,523千円
15
57
190
855
128,820千円
70
312
2,302
353,344千円
合計
14
66
264
1,473
744,504千円
15
57
191
871
381,882千円
70
316
2,334
1,126,386千円

上記の事態について事例を示すと次のとおりである。

<事例>

 A市では、平成15年度に、B社会福祉法人が設置したC保育園(定員60名)において児童58人〜71人に対して保育を実施し、15年6月より主任保育士の専任加算の要件を満たすとして加算を行い、同園に係る国庫負担金相当額20,998,985円の交付を受けていた。また、同園では延長保育促進事業等を実施し、国庫補助金相当額2,729,133円の交付を受けていた。
 そして、15年4月から16年3月までの間において必要な保育士数は、次表のとおり、配置基準上の保育士6人〜9人、延長保育促進事業で必要となる保育士1人及び主任保育士の専任加算で必要となる保育士1人(6月から3月までの間)の計7人〜11人であった。
 しかし、実際に同園に配置されている保育士は常勤保育士6人と非常勤保育士0人〜2人であり、非常勤保育士数を常勤保育士数に換算した後の保育士数と必要な保育士数を対比すると、次表のとおり、6月を除くすべての月において、配置基準上の必要保育士数、延長保育促進事業の必要保育士数及び主任保育士の専任加算時の必要保育士数のうち、すべて又はいずれかを満たしていない状況となっていた。

国庫負担金等の交付の趣旨に沿った保育士の配置によって、保育が適切に行われるよう改善させたものの図1

 そして、A市では、同園において必要な保育士数と実際に配置されていた保育士数を十分に把握しておらず、同園に対して十分な指導も行っていなかった。
 上記の結果、配置基準上の必要保育士数を満たしていない6箇月分に係る国庫負担金相当額が10,833,495円、特別保育事業を行う場合の必要保育士数を満たしていない11箇月分に係る国庫補助金相当額が2,058,650円、主任保育士の専任加算時の必要保育士数を満たしていない9箇月分の国庫負担金相当額が1,286,455円、計14,178,600円となっていた。
 以上のように、市町村において、国庫負担金等の交付を受けているのに、保育所運営費交付要綱等及び特別保育実施要綱等に基づく必要保育士数を満たすことなく保育を実施している事態は、入所児童への保育サービスの水準が確保できなくなることなどから適切でなく、改善の要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

ア 厚生労働省において、

(ア)延長保育促進事業等の特別保育事業を実施する場合や主任保育士の専任加算を行う場合に必要な保育士数及び非常勤保育士を配置した場合の常勤保育士数への換算方法について、保育所運営費交付要綱等及び特別保育実施要綱等で明確に規定していなかったこと
(イ)必要な保育士数を確保することについて、各道府県及び各市町村に対する指導が徹底していなかったこと

イ 各道府県及び各市町村において、保育士が適正に配置されているかを確認する必要性についての認識が十分でなく、また、保育士の配置状況を確認する方法が整っていなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、17年9月に、都道府県等に対し通知を発し、保育所において、保育所運営費交付要綱等及び特別保育実施要綱等に基づく必要保育士数を確保することにより、保育が適切に行われるよう、次の処置を講じた。

ア 延長保育促進事業等の特別保育事業を実施する場合や主任保育士の専任加算を行う場合に必要な保育士数及び非常勤保育士を配置した場合の常勤保育士数への換算方法を明確にした。

イ 必要な保育士数を確保するよう周知徹底した。

ウ 市町村において、それぞれの保育所における保育士の配置状況を確認させることにした。

(注1) 北海道ほか19府県 北海道、京都、大阪両府、宮城、山形、茨城、群馬、埼玉、山梨、長野、愛知、三重、奈良、鳥取、広島、香川、愛媛、福岡、宮崎、沖縄各県
(注2) 北海道ほか17府県 北海道、京都、大阪両府、宮城、山形、茨城、群馬、埼玉、山梨、長野、三重、鳥取、広島、香川、愛媛、福岡、宮崎、沖縄各県