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  • 平成16年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

生活保護費に係る返還金等の調定額の算出を適切に行わせることなどにより、生活保護費国庫負担金の算定が適正なものとなるよう改善させたもの


(3)生活保護費に係る返還金等の調定額の算出を適切に行わせることなどにより、生活保護費国庫負担金の算定が適正なものとなるよう改善させたもの

会計名及び科目 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)生活保護費
部局等の名称 厚生労働本省、北海道ほか25都府県
国庫負担の根拠 生活保護法(昭和25年法律第144号)
補助事業者
(事業主体)
道、県18、市114、特別区6、町1、計140事業主体
国庫負担対象事業 生活保護事業
国庫負担対象事業の概要 生活に困窮する者に対し最低限度の生活を保障するため、その困窮の程度に応じて必要な保護を行うもの
上記に対する国庫負担金交付額
1兆3542億6223万余円
(平成14、15両年度)
国庫負担金の算定が適正でない事業主体数 市8、特別区1、計9事業主体
交付の要がなかった国庫負担金相当額
9億7107万円
(平成16年度末現在)
返還金等の管理が十分でない事業主体数 道、県9、市38、特別区5、計53事業主体
上記における不納欠損額に係る国庫負担金相当額
6億3019万円
(平成14、15両年度)

1 事業の概要

(生活保護制度と生活保護費負担金の概要)

 厚生労働省では、生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づき、生活に困窮する者に対する最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下「事業主体」という。)が、保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護費及び事業主体の事務経費(以下、これらを「費用の額」という。)の一部について生活保護費負担金(以下「負担金」という。)を交付している。また、事業主体は、被保護者が急迫の場合などにおいて資力があるにもかかわらず保護を受けたとき、また、被保護者が不実の申請により保護を受けたときなどにおいては、その保護費の全部又は一部について返還金等を徴収することができることとなっている。
 そして、各事業主体に対する負担金の交付額は、次により算定することとなっている。
  すなわち、事業主体において、当該年度に納入されると否とにかかわりなく調査、決定(以下「調定」という。)した返還金等の額(以下「返還金等の調定額」という。)を費用の額から控除し、これに過年度の返還金等の調定額に係る不納欠損額を加え国庫負担対象事業費を算出する。そして、これに国庫負担率を乗じ負担金の交付額を算定する。

生活保護費に係る返還金等の調定額の算出を適切に行わせることなどにより、生活保護費国庫負担金の算定が適正なものとなるよう改善させたものの図1

国庫負担率は、平成元年度から4分の3となっている。

 全国の事業主体における返還金等の調定額及び不納欠損額は、それぞれ平成14年度は170億8822万余円、9億7872万余円、15年度は187億7697万余円、10億4348万余円と多額に上っている。

(返還金等の管理)

 事業主体又は事業主体から生活保護に関する事務の委任を受けた福祉事務所では、地方自治法(昭和22年法律第67号)等に基づいて上記の返還金等を自らの債権として管理することとなっている。
 そして、返還金等の管理に当たっては、保護担当が、返還金等に係る返還金等決定事項及び調定依頼書を作成し、これを出納担当に送付している。出納担当は、返還金等について調定し、返還金等の調定額及び納入期限等を債権管理簿に記載している。その後、納入期限を経過しても収納未済となっている場合は、督促状又は催告書を被保護者に送付するなどしている。

(返還金等の消滅時効)

 返還金等については、被保護者に資力が発生した時点や不正な手段で保護を受け始めたなどの時点に請求権が発生し、その翌日から時効が進行することとされている。
  そして、返還金等は公法上の債権であるため、その消滅時効は5年とされているが、被保護者に督促状を送付した場合や分割納入計画を提出し履行延期の特約を行った場合などは時効が中断することとなる。

2 検査の結果

(検査の着眼点)

 返還金等は、本来保護費として支弁されるべきではなかったものであること、生活保護制度に対する国民の信頼を保ち、適正に収入申告を行っている被保護者よりも不誠実な被保護者が有利にならないよう被保護者間の公平性を確保する必要があることなどから、返還金等の調定及び管理を確実に行うことが重要である。そして、全国の事業主体においては、被保護者の不実な申告などもあって、前記のとおり、返還金等の調定額及び不納欠損額が多額に上っている。
 そこで、返還金等についての事業主体及び福祉事務所における管理の状況について調査するとともに、返還金等の調定額及び不納欠損額が負担金の算定に正しく反映されているかに着眼して検査を行った。

(検査の対象)

 北海道ほか25都府県(注1) の140事業主体における14、15両年度の費用の額、返還金等の調定額、不納欠損額及び負担金交付額について検査した(次表参照)

表 事業主体の費用の額と国の負担金交付額等

(単位:千円)

年度
費用の額
返還金等の調定額
不納欠損額
負担金交付額
14
877,929,694
7,153,413
640,746
653,562,770
15
941,517,377
7,944,974
693,552
700,699,466
1,819,447,072
15,098,388
1,334,298
1,354,262,237

(検査の結果)

 検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)負担金の算定に当たり、返還金等のうち当該年度に納入が可能な額についてのみ調定し、これを返還金等の調定額として費用の額から控除していたため、負担金が過大に算定されていたもの

 東京都ほか2県の板橋区ほか8事業主体(注2) の11福祉事務所では、被保護者に保護費の返還等の事由が発生したときには、当該年度に納入されると否とにかかわりなく当該返還金等について調定することとなっているのに、当該年度に納入が可能な額についてのみ調定し、これを納入させていた。
 そして、上記の9事業主体では、負担金の算定に当たり、返還金等のうち当該年度に納入が可能な額として調定した額のみを費用の額から控除していた。
 この結果、16年度末において、本来調定すべきであったのに調定されなかった返還金等17億7848万余円が費用の額から控除されずに、負担金が算定されていた。
 したがって、既に時効が完成しているのに不納欠損処理が行われていないため費用の額に加算すべき4億8371万余円を考慮しても、国庫負担対象事業費12億9476万余円が過大に算定されており、これに係る負担金相当額9億7107万余円は交付の要がなかったことになる。

(2)不納欠損処理を行うまでの返還金等の管理が十分に行われていないため負担金の算定が適正でなかったもの

 検査の対象とした140事業主体のうち、負担金の算定に当たって不納欠損額を計上しているものが53事業主体、142福祉事務所で8,050件(不納欠損額9億3131万余円、負担金相当額6億9848万余円)あった。そして、このうち、141福祉事務所の7,400件(不納欠損額8億4026万余円、負担金相当額6億3019万余円)において、返還金等の管理が十分に行われておらず、負担金が適正に算定されていない事態が見受けられた。
 上記の事態について態様別に示すと、次のとおりとなっている(事態については重複しているものがある)。

年度
福祉事務所数
件数
不納欠損額
負担金相当額

〔1〕 生活保護受給期間中は返還金等の納入を行っていた被保護者に対し、生活保護廃止後、納入についての指導や督促を十分に行っていなかったもの

14
68
790件
80,270千円
60,202千円
15
88
841件
66,549千円
49,912千円

〔2〕 被保護者が生活保護廃止後に転出した際に、住民票の移転状況の調査や扶養義務者への照会などを十分に行わなかったことなどから、その所在が不明なままとなっていて、指導や督促を行うことができなかったもの

14
66
919件
153,021千円
114,766千円
15
80
947件
103,627千円
77,720千円

〔3〕 保護を継続している被保護者に対し、保護担当と出納担当との間の連携が十分でないことなどから、返還金等について督促を行っていなかったり、分割納入が可能な額に変更していなかったりなど十分な納入指導を行っていなかったもの

14
57
589件
61,337千円
46,002千円
15
70
902件
82,640千円
61,980千円

〔4〕 分割納入を行っているにもかかわらず返還金等の納入が延滞している場合に、分割納入計画を提出させ履行延期の特約を行うなど時効中断の措置を執っていなかったもの

14
86
1,654件
204,321千円
153,241千円
15
96
1,805件
177,815千円
133,361千円

〔5〕 被保護者の相続人等の関係書類を整理保存しておらず、被保護者の死亡後も相続人等の調査を十分に行わないまま、5年の消滅時効が完成していたもの

14
96
810件
100,828千円
75,621千円
15
114
905件
115,748千円
86,811千円

 また、これらの事態のほか、大阪市及び京都市では、返還金等の管理が十分に行われていないことから、既に時効が完成しているのに不納欠損処理を全く行っていない事態が見受けられた。
 以上のように、負担金の算定に当たり、返還金等のうち当該年度に納入が可能な額についてのみ調定して費用の額から控除していたり、不納欠損処理を行うまでの返還金等の管理を十分に行っていなかったりなどしていることにより負担金の算定が適正に行われていない事態は適切とは認められず、改善の要があると認められた。

(発生原因)

 このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。

ア 事業主体において、返還金等の調定額の算出方法等の理解が十分でなく、また、返還金等の管理の事務処理体制が十分に整っていなかったこと

イ 都道府県において、負担金に係る実績報告書の審査、確認が十分でなかったこと

ウ 厚生労働省において、返還金等の管理、収納及び不納欠損の状況について十分に把握しておらず、返還金等の調定額の算出を的確に行わせるための指導が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

 上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、17年9月に通知を発するなどして、生活保護費に係る負担金の算定を適正に行うよう、次のような処置を講じた。

ア 事業主体に対して、返還金等の調定及び管理を適切に行った上で、負担金の算定を適正に行うよう周知徹底を図るとともに、都道府県に対して負担金に係る実績報告書の審査、確認を十分に行うよう指導した。

イ 事業主体に対して、実績報告書に記載した返還金等の債権額の内容について報告を求め、返還金等の債権の的確な把握に努めるとともに、指導監査の際に債権管理状況や納入状況等の確認を行い、債権の回収促進、不納欠損の防止に努めることとした。

北海道ほか25都府県 東京都、北海道、京都、大阪両府、岩手、宮城、山形、茨城、群馬、埼玉、神奈川、富山、山梨、長野、愛知、三重、兵庫、奈良、鳥取、広島、香川、愛媛、福岡、長崎、宮崎、沖縄各県

東京都ほか2県の板橋区ほか8事業主体 東京都板橋区、立川市、調布市、国立市、神奈川県横須賀市、厚木市、海老名市、綾瀬市、愛媛県松山市