会計名及び科目 | 一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)国民健康保険助成費 |
部局等の名称 | 厚生労働本省(交付決定庁) |
北海道ほか15都府県(支出庁) | |
交付の根拠 | 国民健康保険法(昭和33年法律第192号) |
交付先 | 86市(保険者) |
療養給付費負担金の概要 | 市町村の国民健康保険事業運営の安定化を図るために交付するもの |
退職被保険者資格未適用者に対する医療給付費 | 37億5629万余円
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(平成12年度〜16年度) |
過大に交付される結果となっていた国庫負担金交付額 | 15億0251万円
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(平成12年度〜16年度) |
1 制度の概要
厚生労働省では、国民健康保険について各種の国庫助成を行っており、その一つとして、療養給付費負担金(「国民健康保険の療養給付費負担金の交付が不当と認められるもの」参照。 以下「国庫負担金」という。)を交付している。
市町村の国民健康保険の被保険者は、一般被保険者と退職被保険者及びその被扶養者(以下「退職被保険者等」という。)とに区分されている。
そして、国庫負担金の交付の対象となるのは、一般被保険者に係る医療費(老人保健法(昭和57年法律第80号)による医療を受けることができる者に係る医療費を除く。以下同じ。)となっており、退職被保険者等に係る医療費については、被用者保険の保険者が拠出する療養給付費等拠出金をもって充てられる療養給付費等交付金等で負担すること(以下、この退職被保険者等の医療費を被用者保険の保険者が負担する制度を「退職者医療制度」という。)となっていて、国庫負担金の交付の対象とはなっていない。
毎年度の国庫負担金の交付額は、一般被保険者に係る医療給付費から保険基盤安定繰入金の2分の1に相当する額を控除した額に100分の40を乗じて算定することとなっている。
ただし、被用者保険の被保険者が退職して国民健康保険の一般被保険者となった者について、退職被保険者等の資格が遡って確認された場合は、一般被保険者の医療給付費から、その者が退職被保険者等となった日(以下「退職者該当年月日」という。)以降に一般被保険者に係るものとして支払った医療給付費を控除することとなっている。
退職被保険者の資格要件は、国民健康保険の被保険者のうち、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)等の法令に基づく老齢又は退職を支給事由とする年金の給付を受けることができる者であって、被用者年金保険の被保険者であった期間が20年以上、又は40歳に達した月以後の被用者年金保険の被保険者であった期間が10年以上である者等となっている。また、退職被保険者が、老人保健法による医療を受けることができるようになった場合には、国民健康保険の被保険者資格は退職被保険者から一般被保険者に異動することとなっている。
国民健康保険の被保険者の資格を取得している者の退職者該当年月日は、当該被保険者が年金受給権を取得した日(ただし、年金受給権の取得年月日が国民健康保険の資格取得年月日以前の場合は国民健康保険の資格取得年月日)とされている。そして、退職被保険者に該当したときは、年金証書等が到達した日の翌日から起算して14日以内(年金受給権を有している者が当該市町村の国民健康保険の被保険者資格を取得したときは、その日から14日以内)に、市町村に退職被保険者の資格取得の届出をすることとなっている。
保険者である市町村は、国民健康保険の一般被保険者のうち退職被保険者の資格要件に該当する者(以下「退職該当者」という。)を把握し、退職被保険者への資格異動(以下「退職被保険者の適用」という。)を行うために、各被用者年金保険の保険者が作成する年金受給権者一覧表を、各都道府県の国民健康保険団体連合会を経由して毎年度定期的に(平成14年度以前は年2回、15年度以降は年4回)送付を受けている。
この年金受給権者一覧表は、年金受給権者に係る氏名、生年月日、住所、受給権発生年月(支給開始年月)、被用者年金保険の被保険者であった期間(被保険者であった期間が20年以上又は40歳以降10年以上の要件を満たしているか)などを記載内容として、市町村別に作成されている。
退職者医療制度は、被用者保険と国民健康保険との給付割合に格差があったため、退職者は医療に対する必要性が高まる高齢期になって給付水準が低下すること、また、退職者を多く抱える国民健康保険は医療費負担が増大していることなどの給付面と負担面双方の不合理を是正するため、昭和59年に創設されたものである。
そして、退職被保険者の適用は、前記のとおり、本来、退職該当者本人の届出を前提に行われるものであり、当該届出のない退職該当者については、従来より、年金受給権者一覧表等を活用して加入期間等を確認することにより、届出を勧奨するなどして、適用の適正化が図られてきた。
しかし、国民健康保険における退職被保険者と一般被保険者それぞれに対する給付割合が平成15年度以降同一の7割(14年度以前は、一般被保険者が7割であったのに対し、退職被保険者については8割)となって格差がなくなり、退職該当者本人からの退職被保険者に係る届出が適正に行われなくなることが懸念されたことなどから、退職被保険者の適用の適正化と被保険者の利便の向上を図る観点から、退職該当者であることを市町村が公簿等により確認することができるときは、本人からの届出がない場合であっても、当該届出を省略しての適用(以下「届出を省略した適用」という。)が可能となるよう、国民健康保険法施行規則(昭和33年厚生省令第53号)の改正が行われた。
また、これを受けて、15年3月、厚生労働省では、各都道府県に通知「国民健康保険の退職被保険者等に係る適用について」(平成15年3月31日保国発第0331003号)を発し、年金受給権者一覧表等により被用者年金加入期間等退職被保険者に該当する事実を市町村が確認することができる場合には、届出を省略した適用ができる旨を通知した。
2 検査の結果
退職被保険者の適用に関しては、上記のとおり、15年度から退職被保険者の給付割合が一般被保険者の場合と同じになったことに伴い、届出を省略した適用ができるよう制度改正が行われたところである。
また、老人保健制度の対象年齢が14年10月以降70歳以上から75歳以上に段階的に引き上げられることとなったことで、退職者医療制度の対象年齢が拡大し退職被保険者数も今後年々増加していくことから、退職被保険者の適用を適正に行うなどその的確な運営が求められている。
このような状況において、国民健康保険の保険者である各市町村において、届出を省略した適用を含めて退職被保険者の適用が適正に行われ、その結果、国庫負担金の交付額の算定が適切に行われているかどうかに着眼して検査した。
検査に当たっては、北海道ほか17都府県(注1) における比較的被保険者数等の規模の大きい358市23特別区を対象とし、当該市区が15年中に送付を受けた年金受給権者一覧表記載の者について、退職被保険者の適用状況等を検査した。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
上記の計381市区のうち、北海道ほか15都府県(注2)
の86市では、15年中に送付を受けた年金受給権者一覧表等の活用による届出を省略した適用を16年度末まで全く行っていない状況であった。
すなわち、これらの市では、退職被保険者に係る届出があった者については適用を行っていたものの、それ以外の者については、上記の年金受給権者一覧表において退職該当者であることが確認できるのに資格異動を行っていなかった。そして、年金受給権者一覧表の送付を受けてから1年以上を経過した16年度末においても、退職被保険者の適用が行われていない被保険者(以下「未適用者」という。)は計8,376人に上っていた。
一方、検査した他の市区においては、年金受給権者一覧表等を活用して退職該当者であることが確認できた者について、特段の支障なく、届出を省略した適用を行っていた。
このような事態は、国民健康保険と被用者保険との間の費用負担の不合理を是正し、国民健康保険の健全な財政運営を図るために設けられている退職者医療制度の趣旨にそぐわないものであり、また、届出を省略した適用を適正に実施している保険者と実施していない保険者との間で国庫負担金の交付が公平を欠く結果にもなっていることなどから、改善を図る要があると認められた。
前記の16年度末における未適用者8,376人に係る退職者該当年月日から16年度末までの医療給付費は計37億5629万余円であり、前記の86市においては、届出を省略した適用が全く行われなかったため、これに係る国庫負担金計15億0251万余円が過大に交付される結果となっていると認められた。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
ア 保険者である市において、年金受給権者一覧表等を活用した退職被保険者に係る届出を省略した適用をできるようにした制度改正等の趣旨について、十分理解していなかったこと
イ 都道府県において、市における退職被保険者に係る適用状況について十分把握しておらず、上記の制度改正についての管内保険者に対する周知及び助言が十分でなかったこと
ウ 厚生労働省において、届出を省略した適用の具体的な方法などについて明確に示していなかったこと、また、制度改正等の趣旨について周知が十分でなかったこと
3 当局が講じた改善の処置
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省では、17年9月に、都道府県に対して通知を発し、国民健康保険における退職被保険者の適用の適正化を図るよう、次のような処置を講じた。
ア 保険者である市町村に対して、制度改正の趣旨を再度より明確に都道府県を通じて周知するとともに、年金受給権者一覧表等の活用など届出を省略した適用を行う場合の具体的な基準を定めた。
イ 市町村における退職被保険者に係る適用状況について、各都道府県において把握させることとし、退職被保険者に係る適用について取組が不十分な市町村に対しては、適用の適正化を図るよう助言させるとともに、過年度における未適用者についても届出を省略した適用等により適用の適正化を図るよう周知させることとした。